説明

退色が抑制された着色カプセル

【課題】ポリビニルアルコール共重合体、ゲル化剤および有彩色の色素を配合して形成される、内容物充填カプセルとして非常に有用な、退色が抑制された着色カプセルを提供すること。
【解決手段】有彩色の色素およびゲル化剤をカプセル剤皮中に配合したカプセルにおいて、カプセル剤皮の主体がポリビニルアルコール共重合体であることを特徴とするカプセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール共重合体、ゲル化剤および有彩色の色素から成ることを特徴とする退色を抑制した着色カプセルに関する。本発明によれば、医薬、動物薬、農薬、化粧品、健康補助食品等の充填に有用なカプセルが提供される。
【背景技術】
【0002】
カプセルは医薬品の味やにおいの不快性,刺激性を防ぎ、投与が容易でかつ生産性の高い剤形として、1833年にフランスで開発されて以来、今日でも非常に多くのカプセル製剤が上市されている。その特徴の一つとして、日本薬局方の製剤総則の項にも記載されている様に、着色する事により、識別が容易であることが挙げられる。このことは、医療過誤防止の観点からも極めて重要であり、あらゆる色で着色ができ、識別性を高められる事が重要である。しかし、現在使われているカプセル素材には種々の問題があり、必ずしも満足すべきものではない。
【0003】
最も古くから用いられているカプセル素材はゼラチンである。これは多くの着色剤による着色が可能であり、優れた光沢と光に対する十分な着色剤の安定性を示す。しかし、ゼラチンカプセルは、(1)一部着色剤との不溶化を起こす相互作用が知られている、(2)ゼラチンの含有水分は10〜16%であり、ほぼこの水分の状態でカプセルの物理的強度を保持しているため、水分に対して敏感な薬物への適用は古くから避けられている、(3)比較的多くの薬物との相互作用およびゼラチン自身のリジン残基によるアルデヒド化による経時的不溶化など種々の問題が指摘されている、(4)近年になって牛海綿状脳症いわゆるBSEの問題が発生して,ゼラチンに変わるカプセル素材の開発が急速に求められている、などの問題点を有していた。
【0004】
現在では、これらの問題がない、ポリビニルアルコール共重合体がカプセル素材として多く使用され始めてきた。ポリビニルアルコール共重合体カプセルは、低水分でも十分な強度を持っており、薬物との相互作用が小さく、BSEなどの問題も生じない。
【0005】
次に、カプセル剤皮あるいはフィルムコーティング剤としてポリビニルアルコールあるいはその共重合体を使用する技術としては、以下の方法が知られている。
特開昭61−100519には、HPMCとポリビニルアルコール(PVA)を剤皮とする硬カプセルが開示されており、カプセル剤皮中に着色剤を配合することが一行記載で記載されている(特許文献1)。
【0006】
また、WO02/17848には、ポリビニルアルコールおよび/またはその誘導体の存在下で、少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合または共重合した重合体または共重合体を主体とする硬カプセルが開示されている。その実施例には、平均重合度500のポリビニルアルコール(10%)、平均重合度1700のポリビニルアルコール(90%)、アクリル酸、メチルメタクリレートの共重合体(PVAコポリマー)を原料とした硬カプセル剤が開示されている(特許文献2)。
【0007】
さらに、WO02/18494には、ポリビニルアルコールおよび/またはその誘導体の存在下で、重合性ビニル基を有する有機酸またはその塩およびその他の重合性ビニル単量体からなる群から選択される少なくとも1種を重合または共重合して得られる樹脂を含む樹脂組成物が開示されている。その実施例には、平均重合度500のポリビニルアルコール(10%)、平均重合度1700のポリビニルアルコール(90%)、アクリル酸、メチルメタクリレートの共重合体(PVAコポリマー)の樹脂皮膜が開示されており、皮膜の溶解性(酸性、中性水溶液に対する溶解性)について開示されている(特許文献3)。
【0008】
さらに、WO2005/19286には、ポリビニルアルコール共重合体を錠剤・顆粒剤のフィルムコーティング剤に使用することが記載されている(特許文献4)。
【0009】
一方、カプセルの識別性を高めるために着色する際、カプセル剤皮中に着色剤を配合する。しかしながら、着色剤の中でも有彩色の着色剤は、光安定性、特に紫外線を多く含む太陽光線類似の光に対し、安定性が劣ることが知られている。すなわち、酸化鉄などの一部の着色剤を除いて厚生労働省令で定められた医薬品に使用できるタール色素や医薬品添加物事典に収載されている有彩色の色素、たとえば、レーキ化したタール色素、水溶性のタール色素や天然色素で着色した製剤の多くは、光照射によって著しく退色する。このことは外観変化のみならず、ある種の薬物に対しては安定性を損なう結果になる。例えば、ニフェジピンを安定化するために赤色に着色したカプセルの使用例がある。
【0010】
また、カプセルの着色剤に対する光安定性を確保するためには、退色を生じない限られた着色剤、すなわち酸化チタンを添加した白色カプセルや、酸化鉄による赤色や黄色に着色するなど色調が限られており、いずれのメーカーの製剤も似た色調となり、医療現場では取り違えなどの医療過誤を生じやすい。
【0011】
さらに、カプセルを包装する包装資材で光安定化をはかる方法もあり、例えば、包装資材に紫外線吸収剤などを配合したり、問題となる特定波長を吸収するために着色して、光に対する安定性を確保するための研究が行われている。しかしながら、これらの方法は必ずしも効果的ではなく、光を通さないアルミピロー包装や遮光瓶による過剰な包装形態が必要になってくる。また、ゼラチンを原料とする旧来のカプセルでは、多くの着色剤で着色しても光安定性は比較的良好であるが、ある種の着色剤と相互作用を起こし、不溶化することが問題である。
【0012】
これらの現状から、カプセルに高い識別性を与えるために、あらゆる着色剤での着色が可能で、かつ光安定性に優れ、生物由来原料や水分の問題がない、カプセル素材を鋭意検討した結果、PVAコポリマーをカプセル素材としてゲル化剤および有彩色の色素を配合して成型したカプセルはこれらをすべて満足する事が明らかになった。なお、前記特許文献1〜4には、カプセル剤皮における退色の抑制防止、特に有彩色色素の退色抑制防止については具体的に何も記載されていない。
【0013】
【特許文献1】特開昭61−100519
【特許文献2】WO02/17848
【特許文献3】WO02/18494
【特許文献4】WO2005/19286
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
水溶性のタール色素などの厚生労働省令で定められた色素、あるいは医薬品添加物事典に着色剤としての用途が収載されたレーキ化したタール色素などが、その使用を認められている。しかし、これらの色素をカプセル剤皮に配合し、昼光色の光を照射した場合には、著しくカプセル製剤が退色する例が見られる。特に、今回発明者らは、ゼラチンカプセルに替わるヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセルの剤皮に上記色素を配合した場合、著しくカプセル製剤が退色することを見出した。このような実情に鑑み、着色カプセル製剤の退色防止が要望されていた。着色カプセル製剤の退色防止は、美的外観に基づく製品価値の向上に繋がり、患者、使用者、摂取者に対する信頼度の確保および誤認服用、調剤ミス等の医療過誤防止にとっても重要な技術的課題である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリビニルアルコール共重合体、ゲル化剤および有彩色の色素を配合してなる着色カプセルは、その退色が効果的に抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、
(1)有彩色の色素およびゲル化剤をカプセル剤皮中に配合したカプセルにおいて、カプセル剤皮の主体がポリビニルアルコール共重合体であることを特徴とするカプセル、
(2)さらにカプセル剤皮中にゲル化補助剤が配合されている上記(1)記載のカプセル、
(3)さらにカプセル剤皮中に不透明化剤が配合されている上記(1)記載のカプセル、
(4)当該ポリビニルアルコール共重合体が、ポリビニルアルコールと少なくとも1以上の重合性ビニル単量体とを重量比6:4〜9:1の割合で共重合させて得られ、25℃における当該共重合体の5重量%水溶液の粘度が5〜40mPa・sである共重合体である上記(1)記載のカプセル、
(5)該ポリビニルアルコールの平均重合度が、300〜3000である上記(4)記載のカプセル、
(6)当該ポリビニルアルコールが、部分けん化ポリビニルアルコールである上記(4)または(5)記載のカプセル、
(7)当該重合性ビニル単量体が、不飽和カルボン酸類、不飽和カルボン酸類のエステル類およびそれらの塩から選択される1または2以上である上記(4)〜(6)のいずれかに記載のカプセル、
(8)当該重合性ビニル単量体が、アクリル酸またはその塩およびメチルメタクリレートである上記(7)記載のカプセル、
(9)共重合する際におけるアクリル酸またはその塩とメチルメタクリレートの重量比が、3:7〜0.5:9.5である上記(8)記載のカプセル、
(10)当該ポリビニルアルコール共重合体が、平均重合度300〜3000の部分けん化ポリビニルアルコール、メチルメタクリレートおよびアクリル酸とを重量比60〜90:7〜38:0.5〜12の割合で共重合させて得られる共重合体であり、25℃における当該共重合体の5重量%水溶液の粘度が5〜40mPa・sである上記(1)〜(9)のいずれかに記載のカプセル、
(11)当該有彩色の色素が、光によって退色しやすい色素である上記(1)〜(10)のいずれかに記載のカプセル、
(12)当該有彩色の色素が、レーキ化したタール色素、水溶性タール色素および天然色素から選択される1または2以上である上記(11)記載のカプセル、
(13)当該ゲル化剤が、カラギーナンである上記(1)〜(12)のいずれかに記載のカプセル、
(14)当該ゲル化補助剤が、塩化カリウムである上記(1)〜(13)のいずれかに記載のカプセル、
(15)当該不透明化剤が、酸化チタンである上記(1)〜(14)のいずれかに記載のカプセル、
(16)上記(1)〜(15)のいずれかに記載のカプセルによって構成される硬カプセル、
(17)公定法に従って、累積照射量が120万ルクス・時間の光を照射した場合、カプセルの変色度(△E)が5以下である上記(1)〜(16)のいずれかに記載のカプセル、
(18)上記(1)〜(17)のいずれかに記載のカプセルに薬物を充填したカプセル剤、
(19)上記(1)〜(17)のいずれかに記載のカプセルを製造することを目的とした、ポリビニルアルコール共重合体、有彩色の色素およびゲル化剤を含有するカプセル剤皮用組成物、および
(20)有彩色の色素およびゲル化剤をカプセル剤皮中に配合したカプセルにおいて、カプセル剤皮としてポリビニルアルコール共重合体を主体として用いることを特徴とする、カプセル剤皮中の有彩色の色素の退色防止方法、
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリビニルアルコール共重合体(以下、PVA共重合体と称することもある)カプセルは有彩色の色素、または有彩色の色素と不透明化剤によって着色しても光安定性に優れており、光安定性ガイドラインに示される太陽光に近い光源の医薬製造指針の光照射によってもほとんど変化を示さない優れたカプセルである。また、本発明によれば、例えば、レーキ化したタール色素や水溶性タール色素、天然色素など光に弱いとされる色素も含めて、あらゆる色への着色が可能になり、製剤の識別性を著しく向上でき、医療現場等でのカプセル製剤の取り違いによる医療過誤の恐れが少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の退色が抑制された着色カプセルは、それ自体公知のカプセル成形法により製造することができる。すなわち、公知のゼラチン硬カプセルあるいはセルロースエーテル類の硬カプセルと同様に、通常の浸漬成型法に準じて製造される(参照:特開昭58−138458)。
例えば、ポリビニルアルコール共重合体、ゲル化剤、有彩色の色素、必要に応じてゲル化補助剤を溶解または分散した液(以下、「ディッピング液」または「カプセル浸漬液」または「カプセル剤皮用組成物」という場合がある。)中にカプセルピンバーを浸漬し、これを引き上げ、上記共重合体をゲル化、乾燥するという通常の硬カプセル成型手法と同様の方法により硬カプセルを得ることができる。
【0019】
本発明の着色されたポリビニルアルコール共重合体カプセルにおいて、主体として使用されるポリビニルアルコール共重合体は、ポリビニルアルコールまたはその誘導体と少なくとも1種の重合性ビニル単量体とをそれ自体公知の方法で共重合させることにより製造することができる。そのようなポリビニルアルコール共重合体の製造法としては、WO2005/19286やWO02/17848に記載されている。その一例として、ラジカル重合、例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合法および塊状重合などのそれ自体公知の方法を挙げることができる。この重合反応は、通常、重合開始剤の存在下、必要に応じて還元剤(例えば、エリソルビン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸)、連鎖移動剤(例えば、2−メルカプトエタノール、α−メチルスチレンダイマー、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ラウリルメルカプタン)あるいは分散剤(例えば、ソルビタンエステル、ラウリルアルコールなどの界面活性剤)等の存在下、水、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、セロソルブ、カルビトール)あるいはそれらの混合物中で実施される。また、未反応の単量体の除去方法、乾燥、粉砕方法等も公知の方法でよく、特に制限は無い。
【0020】
本発明のポリビニルアルコール共重合体の原料となるポリビニルアルコールとしては、平均重合度約300〜3000、好ましくは平均重合度約400〜2000、より好ましくは平均重合度約500〜1800である。また、ポリビニルアルコールのけん化度とは、ポリ酢酸ビニルの酢酸基を水酸基に置換して、ポリビニルアルコールとする工程で置換された水酸基の量をいい、通常、けん化度は約96モル%以下、好ましくは約78〜約96モル%の部分けん化ポリビニルアルコールを使用する。
【0021】
所望のポリビニルアルコールを製造するためには、適宜、重合度、けん化度をそれ自体公知の方法で制御することによって達成される。
【0022】
なお、こうした部分けん化ポリビニルアルコールは、市販品を使用することも可能であり、好ましいポリビニルアルコールの市販品としては、例えば、ゴーセノールEG05、EG25(日本合成化学製)、PVA203(クラレ社製)、PVA204(クラレ社製)、PVA205(クラレ社製)、JP−04(日本酢ビ・ポバール製)、JP−05(日本酢ビ・ポバール製)等が挙げられる。なお、本発明のカプセルの主成分であるポリビニルアルコール共重合体の製造においては、原料としてポリビニルアルコールを単独で使用するのみならず、平均重合度、けん化度の異なる2種以上のポリビニルアルコールを目的に応じて適宜併用することができる。例えば、平均重合度500の部分けん化ポリビニルアルコールと平均重合度1700の部分けん化ポリビニルアルコールとを混合して使用することが可能である。
【0023】
本発明においては、原料としてのポリビニルアルコールは各種変性ポリビニルアルコールを使用することができ、例えば、アミン変性ポリビニルアルコール、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、ジアセトン変性ポリビニルアルコール、チオール変性ポリビニルアルコール等をあげることができる。これらの変性ポリビニルアルコールは、市販品を使用してもよく、あるいは当該分野で公知の方法で製造したものを使用することができる。
【0024】
原料のポリビニルアルコールと重合させるビニル単量体としては、重合性ビニル単量体が好ましく、具体的には不飽和カルボン酸類、不飽和カルボン酸のエステル類、不飽和ニトリル類、不飽和アミド類、芳香族ビニル類、脂肪族ビニル類、不飽和結合含有複素環類およびそれらの塩である。好ましくは、2以上の重合性ビニル単量体を共重合させたものであり、少なくとも1つは不飽和カルボン酸類またはそれらの塩であり、少なくとも1つは不飽和カルボン酸のエステル類である。
【0025】
不飽和カルボン酸類またはそれらの塩類としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸またはそれらの塩(例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルキルアミン塩)、それらのエステル類(例えば、置換または非置換のアルキルエステル、環状アルキルエステル、ポリアルキレングリコールエステル)、不飽和ニトリル類、不飽和アミド類、芳香族ビニル類、脂肪族ビニル類、不飽和結合含有複素環類等を挙げることができる。具体的には、(1)例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールアクリレートなどのアクリル酸エステル類、(2)例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートなどのメタクリル酸エステル類、(3)例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、(4)例えば、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、メタクリルアミドなどの不飽和アミド類、(5)スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル類、(6)酢酸ビニルなどの脂肪族ビニル類、(7)N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリンなどの不飽和結合含有複素環類が例示される。
【0026】
これらの重合性ビニル単量体は、1種または2種以上を組み合わせてポリビニルアルコール、特に部分けん化ポリビニルアルコールと共重合させることができるが、好ましい組み合わせは、アクリル酸とメタクリル酸エステル(例えば、メチルメタクリレート)との混合物をポリビニルアルコール、特に部分けん化ポリビニルアルコールと共重合させるのがよい。
ここにポリビニルアルコール、特に部分けん化ポリビニルアルコールと重合性ビニル単量体との重合比は、約6:4から9:1、好ましくは約8:2である。ポリビニルアルコールと重合性ビニル単量体の重量比で6:4よりもポリビニルアルコールの割合が少なければ、当該重量比で6:4〜9:1のカプセルに比較して、カプセルの水中での溶解または分散する能力が低下する可能性がある。一方、ポリビニルアルコールと重合性ビニル単量体の重量比で9:1よりもポリビニルアルコールの割合が多ければ、当該重量比で6:4〜9:1のカプセルに比較して、カプセルが湿度の影響を若干受け、高湿度下のカプセル強度が低下し軟化する恐れがある。
また、重合性ビニル単量体としてアクリル酸とメチルメタクリレートを使用する場合には、その混合比は約3:7〜約0.5:9.5、好ましくは約1.25:8.75である。
本発明においてカプセル剤皮の主成分として使用する好ましいポリビニルアルコール共重合体は、部分けん化ポリビニルアルコール(平均重合度約300〜3000、好ましくは400〜2000、より好ましくは500〜1,800;けん化度約96モル%以下、好ましくは約78〜96モル%)、メチルメタクリレートおよびアクリル酸の共重合する際における重量比が、約60〜90:7〜38:0.5〜12、好ましくは約75〜85:17.0〜18.0:2〜3、最も好ましくは約80:17.5:2.5である。
【0027】
なお、共重合する際における部分けん化ポリビニルアルコール、メチルメタクリレートおよびアクリル酸のそれぞれの重量比は、共重合体中の部分けん化ポリビニルアルコール、メチルメタクリレートおよびアクリル酸の重合比と同じであり、それぞれ約60〜90:7〜38:0.5〜12である。この重合比は、NMRで測定可能である。
【0028】
ポリビニルアルコールおよび重合性ビニル単量体の重合を開始する重合開始剤としては、当該分野で用いられているものを使用することができる。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の無機過酸化物、過酢酸やt−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート等の有機過酸化物やアゾ化合物が挙げられる。
【0029】
上記ポリビニルアルコール共重合体において、25℃におけるポリビニルアルコール共重合体5重量%水溶液の粘度(B型粘度計で測定、以下粘度はB型粘度計の測定値)が約5〜40mPa・s、好ましくは約10〜30mPa・s、より好ましくは約15〜20mPa・sである。粘度が低いとカプセル形成用ピンに付着するカプセル原料が少なく、カプセルの膜厚が薄くなり脆くなる恐れがあり、粘度が高すぎるとカプセルの形状の制御が一般に困難になる可能性があり、上記範囲の粘度が好ましい。
【0030】
従って、ポリビニルアルコール共重合体として適しているのは、平均重合度約300〜3,000の部分けん化ポリビニルアルコールと少なくとも1以上の重合性ビニル単量体とを重量比6:4〜9:1の割合で共重合させて得られる共重合体であり、当該共重合体の25℃における5重量%水溶液の粘度が約5〜40mPa・sであるポリビニルアルコール共重合体、好ましくは平均重合度約400〜2000の部分けん化ポリビニルアルコールと少なくとも1以上の重合性ビニル単量体とを重量比6:4〜9:1の割合で共重合させて得られる共重合体であり、当該共重合体の25℃における5重量%水溶液の粘度が約10〜30mPa・sであるポリビニルアルコール共重合体であり、より好ましくは、平均重合度約500〜1800の部分けん化ポリビニルアルコールと少なくとも1以上の重合性ビニル単量体とを重量比6:4〜9:1の割合で共重合させて得られる共重合体であり、当該共重合体の25℃における5重量%水溶液の粘度が約15〜20mPa・sであるポリビニルアルコール共重合体である。
【0031】
重合性ビニル単量体として、メチルメタクリレートおよびアクリル酸を使用する場合、ポリビニルアルコール共重合体としては、平均重合度約300〜3000の部分けん化ポリビニルアルコール、メチルメタクリレートおよびアクリル酸を共重合する際における重量比が約60〜90:7〜38:0.5〜12であり、当該共重合体の25℃における5重量%水溶液の粘度が約5〜40mPa・sであるポリビニルアルコール共重合体、好ましくは平均重合度約400〜2000の部分けん化ポリビニルアルコール、メチルメタクリレートおよびアクリル酸を共重合する際における重量比が約60〜90:7〜38:0.5〜12であり、当該共重合体の25℃における5重量%水溶液の粘度が約10〜30mPa・sであるポリビニルアルコール共重合体、より好ましくは平均重合度約500〜1800の部分けん化ポリビニルアルコール、メチルメタクリレートおよびアクリル酸を共重合する際における重量比が約60〜90:7〜38:0.5〜12であり、当該共重合体の25℃における5重量%水溶液の粘度が約15〜20mPa・sであるポリビニルアルコール共重合体である。
【0032】
本発明の退色を抑制した着色カプセルの製造に際してディッピング液(カプセル浸漬液)の調製に使用されるゲル化剤としては、特に制限はされないが、カルボキシル基、硫酸基、アミノ基等の塩を形成しうる官能基を有さない、約40〜80℃で溶けて室温(約25〜50℃)でディッピング液を固化させうるものであればいずれのものも使用することができる。そのようなゲル化剤としては、多糖類やタンパク質が好ましく、具体的にはι(イオタ)−カラギーナン、κ(カッパー)−カラギーナン、λ(ラムダ)−カラギーナン、タマリンド種子多糖体、ペクチン、カードラン、ファーセレラン、キサンタンガム、ローカストビーンガムおよび寒天等の多糖類、ゼラチン等のタンパク質である。中でも、より好ましいのは、ι(イオタ)−カラギーナン、κ(カッパー)−カラギーナン、さらに好ましいのは、κ(カッパー)−カラギーナンである。これらのゲル化剤は、ディッピング液中に約0.01〜1重量%、好ましくはディッピング液中に約0.05〜0.5重量%配合される。また、カプセル中には、ゲル化剤は約0.05〜5重量%、好ましくは約0.25〜2.5重量%配合される。
【0033】
なお、使用するゲル化剤によっては、カプセル形成用ゲルの生成が不十分な場合があるが、そのようなときには所望によりゲル化補助剤を使用することができる。例えば、ゲル化剤として、κ(カッパー)−カラギーナンを使用する場合、ゲル化補助剤として、カリウムイオンを生じるもの、例えば、塩化カリウム、リン酸カリウム、クエン酸カリウム等が、好ましくは塩化カリウムが使用される。ゲル化剤として、ι(イオタ)−カラギーナンを使用する場合には、ゲル化補助剤としてカルシウムイオンを生じるもの、例えば、塩化カルシウムが使用される。これらのゲル化補助剤は、ディッピング液中に約0.01〜1重量%、より好ましくは約0.05〜0.5重量%配合される。また、カプセル中には、ゲル化補助剤は約0.05〜5重量%、好ましくは約0.25〜2.5重量%配合される。
【0034】
本発明で使用するカプセルには有彩色の色素が配合されている。有彩色の色素としては医薬分野で使用できるものであればよい。例えば、レーキ化したタール色素、水溶性のタール色素や天然色素等がある。具体的には、レーキ化したタール色素として、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用赤色3号アルミニウムレーキ等がある。水溶性のタール色素として、食用青色1号、食用青色2号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用赤色102号、食用赤色2号、食用赤色3号等がある。天然色素として、ウコン抽出液、カロテン、カロテン液、銅クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィル、ハダカムギ緑葉エキス末、裸麦緑葉青汁乾燥粉末、裸麦緑葉抽出エキス等がある。また、その他の有彩色の色素として、塩化メチルロザニリン、カルミン、感光素201号、パーマネントバイオレット−R−スペシャル、メチレンブルー、酪酸リボフラビン、リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム等がある。なお、ここで有彩色とは、上述したように黒、白、灰色以外のすべての色を指す。有彩色の色素の配合量は、カプセル中に約0.001〜2重量%、好ましくは約0.05〜0.75重量%、より好ましくは約0.075〜0.5重量%である。
【0035】
一般に、着色剤をカプセル剤皮へ微量添加し、製剤の色を薄い色にしたほうが患者には好まれる。しかし、タール色素などの着色剤を微量添加して、淡色に着色した場合、光安定性はさらに低下する。本発明の方法によれば、これら淡色の着色カプセルも光安定性に優れるという特徴を有する。
【0036】
なお、本発明のカプセルを製造する際には、当該分野で常用されている、不透明化剤(例えば、酸化チタン)等の添加剤を適宜、配合することができる。
上記したディッピング液は、例えば有彩色の色素、ゲル化剤、ポリビニルアルコール共重合体、必要によりゲル化補助剤、不透明化剤などを定法によって水に溶解・分散することにより製造される。
【0037】
本発明のカプセルの形態は、硬カプセルまたは軟カプセルであるが、主として用いるカプセルは、硬カプセルである。軟カプセルを製造する場合は、上記した硬カプセルの成分にグリセリンを多量に添加して、当該分野で公知の方法に従い、製造することができる。
【0038】
充填物の本発明の硬カプセル内への充填は、それ自体公知のカプセル充填機、例えば、全自動カプセル充填機(型式名:LIQFILsuper80/150、シオノギクオリカプス社製)、カプセル充填・シール機(型式名:LIQFILsuperFS、シオノギクオリカプス社製)等を用いて実施することができる。
【0039】
硬カプセルのサイズとしては、00号、0号、1号、2号、3号、4号、5号等があるが、本発明ではいずれのサイズの硬カプセルも製造し、使用することができる。
【0040】
本発明のカプセル剤皮の厚さは、硬カプセルとしての機能を満たす限り特に制限されないが、好ましくは約10〜1000μm、より好ましくは約30〜500μm程度である。
【0041】
本発明の硬カプセルに充填する充填物としては、ヒトまたは動物の医薬、動物薬、農薬、健康補助食品、化粧品等が挙げられ、硬カプセル皮膜を溶解しない、または硬カプセルの剤皮と反応しないものであればいずれをも充填することができる。また、充填物の性状は、固形状、半固形状、結晶状、油状、溶液状など何れのものでもよい。特に、難溶性薬物の吸収を上げるために、可溶化溶媒に溶解した溶液充填に好適に用いられ、このときにカプセルのキャップとボディーを接合する、いわゆるバンドシール液にも本発明の着色したポリビニルアルコール共重合体の液を用いることができる。本発明の硬カプセルは医薬品、動物薬、健康補助食品等の経口投与用の容器としてのみならず、さらに、入れ歯、メガネ、コンタクトレンズなどの消毒・洗浄などを目的とするいわゆる医薬部外品の充填用カプセルとしても適用可能である。
【0042】
本発明の硬カプセル中に充填される医薬品としては、例えば、滋養強壮保健薬、解熱鎮痛消炎薬、向精神薬、抗不安薬、抗うつ薬、催眠鎮静薬、鎮痙薬、中枢神経作用薬、脳代謝改善剤、脳循環改善剤、抗てんかん剤、交感神経興奮剤、胃腸薬、制酸剤、抗潰瘍剤、鎮咳去痰剤、鎮吐剤、呼吸促進剤、気管支拡張剤、アレルギー用薬、歯科口腔用薬、抗ヒスタミン剤、強心剤、不整脈用剤、利尿薬、血圧降下剤、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、高脂血症用剤、利胆剤、抗生物質、化学療法剤、糖尿病用剤、骨粗しょう症用剤、抗リウマチ薬、骨格筋弛緩薬、鎮痙剤、ホルモン剤、アルカロイド系麻薬、サルファ剤、痛風治療薬、血液凝固阻止剤、抗悪性腫瘍剤などから選ばれた1種または2種以上の成分が用いられる。
【0043】
滋養強壮保健薬としては、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE(酢酸d−α−トコフェロールなど)、ビタミンB1(ジベンゾイルチアミン、フルスルチアミン塩酸塩など)、ビタミンB2(酪酸リボフラビンなど)、ビタミンB6(塩酸ピリドキシンなど)、ビタミンC(アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウムなど)、ビタミンB12(酢酸ヒドロキソコバラミン、シアノコバラミンなど)のビタミン類;カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラル類;タンパク;アミノ酸;オリゴ糖;生薬などが含まれる。解熱鎮痛消炎薬としては、例えば、アスピリン、アセトアミノフェン、エテンザミド、イブプロフェン、塩酸ジフェンヒドラミン、dl−マレイン酸クロルフェニラミン、リン酸ジヒドロコデイン、ノスカピン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸フェニルプロパノールアミン、カフェイン、無水カフェイン、セラペプターゼ、塩化リゾチーム、トルフェナム酸、メフェナム酸、ジクロフェナクナトリウム、フルフェナム酸、サリチルアミド、アミノピリン、ケトプロフェン、インドメタシン、ブコローム、ペンタゾシンなどが挙げられる。
【0044】
向精神薬としては、例えば、クロルプロマジン、レセルピンなどが挙げられる。抗不安薬としては、例えば、アルプラゾラム、クロルジアゼポキシド、ジアゼパムなどが例示される。抗うつ薬としては、例えば、イミプラミン、塩酸マプロチリン、アンフェタミンなどが例示される。催眠鎮静薬としては、例えば、エスタゾラム、ニトラゼパム、ジアゼパム、ペルラピン、フェノバルビタールナトリウムなどが例示される。鎮痙薬には、例えば、臭化水素酸スコポラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸パパベリンなどが含まれる。中枢神経作用薬としては、例えば、シチコリンなどが例示される。脳代謝改善剤としては、例えば、塩酸メクロフェニキセートなどが挙げられる。脳循環改善剤としては、例えば、ビンポセチンなどが挙げられる。抗てんかん剤としては、例えば、フェニトイン、カルバマゼピンなどが挙げられる。交感神経興奮剤としては、例えば、塩酸イソプロテレノールなどが挙げられる。胃腸薬には、例えば、ジアスターゼ、含糖ペプシン、ロートエキス、セルラーゼAP3、リパーゼAP、ケイヒ油などの健胃消化剤、塩化ベルベリン、耐性乳酸菌、ビフィズス菌などの整腸剤などが含まれる。
【0045】
制酸剤としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、沈降炭酸カルシウム、酸化マグネシウムなどが挙げられる。抗潰瘍剤としては、例えば、ランソプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾール、ファモチジン、シメチジン、塩酸ラニチジンなどが挙げられる。鎮咳去痰剤としては、例えば、塩酸クロペラスチン、臭化水素酸デキストロメルトファン、テオフィリン、グァヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシン、リン酸コデインなどが挙げられる。鎮吐剤としては、例えば、塩酸ジフェニドール、メトクロプラミドなどが挙げられる。呼吸促進剤としては、例えば、酒石酸レバロルファンなどが挙げられる。気管支拡張剤としては、例えば、テオフィリン、硫酸サルブタモールなどが挙げられる。アレルギー用薬としては、アンレキサノクス、セラトロダストなどが挙げられる。歯科口腔用薬としては、例えば、オキシテトラサイクリン、トリアムシノロンアセトニド、塩酸クロルヘキシジン、リドカインなどが例示される。
【0046】
抗ヒスタミン剤としては、例えば、塩酸ジフェンヒドラミン、プロメタジン、塩酸イソチペンジル、dl−マレイン酸クロルフェニラミンなどが挙げられる。強心剤としては、例えば、カフェイン、ジゴキシンなどが挙げられる。不整脈用剤としては、例えば、塩酸プロカインアミド、塩酸プロプラノロール、ピンドロールなどが含まれる。利尿薬としては、例えば、イソソルピド、フロセミド、ヒドロクロロチアジドなどが挙げられる。血圧降下剤としては、例えば、塩酸デラプリル、カプトプリル、塩酸ヒドララジン、塩酸ラベタロール、塩酸マニジピン、カンデサルタンシレキセチル、メチルドパ、ペリンドプリルエルブミンなどが挙げられる。血管収縮剤としては、例えば、塩酸フェニレフリンなどが挙げられる。
【0047】
冠血管拡張剤としては、例えば、塩酸カルボクロメン、モルシドミン、塩酸ペラパミルなどが挙げられる。末梢血管拡張薬としては、例えば、シンナリジンなどが挙げられる。高脂血症用剤としては、例えば、セリバスタチンナトリウム、シンバスタチン、プラバスタチンナトリウム、アトルバスタチンカルシウム水和物などが挙げられる。利胆剤としては、例えばデヒドロコール酸、トレピプトンなどが挙げられる。抗生物質には、例えば、セファレキシン、セファクロル、アモキシシリン、塩酸ピプメシリナム、塩酸セフォチアムヘキセチル、セファドロキシル、セフィキシム、セフジトレンピボキシル、セフテラムピボキシル、セフポドキシミプロキセチルなどのセフェム系、アンピシリン、シクラシン、ナリジクス酸、エノキサシンなどの合成抗菌剤、カルモナムナトリウムなどのモノバクタム系、ペネム系およびカルバペネム系抗生物質などが挙げられる。
【0048】
化学療法剤としては、例えば、スルファメチゾールなどが挙げられる。糖尿病用剤としては、例えば、トルブタミド、ボグリボース、塩酸ピオグリタゾン、グリベンクラミド、トログリダゾンなどが挙げられる。骨粗しょう症用剤としては、例えば、イプリフラボンなどが挙げられる。骨格筋弛緩薬としては、メトカルバモールなどが挙げられる。鎮けい剤としては、塩酸メクリジン、ジメンヒドリナートなどが挙げられる。抗リウマチ薬としては、メソトレキセート、ブシラミンなどが挙げられる。ホルモン剤としては、例えば、リオチロニンナトリウム、リン酸デキメタゾンナトリウム、プレドニゾロン、オキセンドロン、酢酸リュープロレリンなどが挙げられる。アルカロイド系麻薬として、アヘン、塩酸モルヒネ、トコン、塩酸オキシコドン、塩酸アヘンアルカロイド、塩酸コカインなどが挙げられる。サルファ剤としては、例えば、スルフィソミジン、スルファメチゾールなどが挙げられる。痛風治療薬としては、例えば、アロプリノール、コルヒチンなどが挙げられる。血液凝固阻止剤としては、例えば、ジクマロールが挙げられる。抗悪性腫瘍剤としては、例えば、5−フルオロウラシル、ウラシル、マイトマイシンなどが挙げられる。
【0049】
本発明の着色カプセルの変色度は、公定法(医薬品製造指針の光安定性試験法ガイドライン)に規定された光安定性試験により測定した。測定条件の詳細は、実施例1に記載されている。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を記載し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
実施例1
(実験方法)
ポリビニルアルコール(PVA)にメチルメタクリレートおよびアクリル酸を共重合させたポリビニルアルコール共重合体(PVAの重合度が1700と500であり、PVAケン化度がいずれも88%の2種類のポリビニルアルコールおよびメチルメタクリレートとアクリル酸をそれぞれ重量比で平均重合度1700のPVA 56:平均重合度500のPVA 24:メチルメタクリレート 17.5:アクリル酸 2.5で乳化重合したもの)60gを精製水246.2gに溶解した。この溶液に塩化カリウム0.8g、20%酸化チタン分散液9g、1%赤色3号色素水溶液(三栄源エフ・エフ・アイ社製)4gを混合分散し、70℃に加温した。別に、κ(カッパー)−カラギーナン0.8gを精製水79.2gに分散し、80℃に加温して溶解したものを70℃に加温した液と混合し、ディッピング液を調製した。調製したディッピング液を70℃で保存し、1号カプセルピンバーを用いて55℃でディッピング成型を行った。30分間室温で冷却した後、80℃の乾燥機を用いて40分間乾燥を行い、再び室温で冷却した後カプセルをピンバーから抜き取った。カプセルの端をカッティングし、ボディとキャップを組み合わせて、厚さ約100μmのピンク色の1号ポリビニルアルコール共重合体カプセルを得た。
得られたカプセルを未包装の状態でISO10977に規定されている屋外の昼光の標準である光源を備えた光安定性試験装置(ナガノ科学機械製作所 型式LTL400−D50)中で累積積算量が60万ルクス・時間(3000ルクス×200時間)、120万ルクス・時間(3000ルクス×400時間)になるまで光照射をおこなった。得られた試料の変色度(ΔE)を分光色差計(日本電色製 型式SE−2000)を用いて測定し,未照射品に対しての変色度を算出した。
カプセルの外観は変色の度合いを3段階にスコアー化し、これを集計して順序化する官能試験方法によっておこなった。すなわち、未照射フィルムと光照射フィルムの外観を蛍光燈下および室内散光下に並べて観察を行ない、照射後のフィルムの外観を「変化なし」、「ごく僅かに変色」、「退色」の3段階にわけた。
【0052】
比較例1
(実験方法)
比較例として、前述したゼラチンで生じるような問題がなく、現在、徐々に使用されつつある、植物由来の水溶性高分子であるヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)をカプセルの主体として用いた。実施例1のポリビニルアルコール共重合体60gを精製水246.2gに溶解することを、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5R、信越化学工業株式会社)60gを80℃の精製水246.2gに分散することに変更する以外は、実施例1と同様の方法でディッピング液を調製した。
調製したディッピング液を55℃で保存し、1号カプセルピンバーを用いて45℃でディッピング成型を行った。25℃で24時間乾燥した後、カプセルをピンバーから抜き取り、カプセルの端をカッティングし、ボディとキャップを組み合わせて、厚さ約100μmのピンク色の1号ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセルを得た。
得られたカプセルの光安定性試験を実施したが、試験法、評価法は実施例1と同じである。
【0053】
(実験結果)
未照射品と比較したカプセルの変色度を表1に、カプセルの外観を表2に示す。
【表1】

【表2】

ポリビニルアルコール共重合体を主体とするカプセルの変色度は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを主体とするカプセルの変色度よりも小さかった。また、ポリビニルアルコール共重合体を主体とするカプセルの外観は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを主体とするカプセルに比べ変化は少なかった。ポリビニルアルコール共重合体およびヒドロキシプロピルメチルセルロースで成型したピンク色のカプセルの光照射後の外観を図1に示す。
【0054】
実施例2
(実験方法)
実施例1の1%赤色3号色素水溶液4gを、1%青色1号色素(三栄源エフ・エフ・アイ社製)水溶液1gに変更した以外は実施例1と同様にして厚さ約100μmの水色の1号ポリビニルアルコール共重合体カプセルを得て、実施例1と同じ評価を行った。
【0055】
比較例2
(実験方法)
比較例1の1%赤色3号色素水溶液4gを、1%青色1号色素(三栄源エフ・エフ・アイ社製)水溶液1gに変更した以外は比較例1と同様にして厚さ約100μmの水色の1号ヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルを得て、比較例1と同じ評価を行った。
【0056】
(実験結果)
未照射品と比較したカプセルの変色度を表3に、カプセルの外観を表4に示す。
【表3】

【表4】

【0057】
ポリビニルアルコール共重合体を主体とするカプセルの変色度は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを主体とするカプセルの変色度よりも小さかった。また、ポリビニルアルコール共重合体を主体とするカプセルの外観は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを主体とするカプセルに比べ変化は少なかった。ポリビニルアルコール共重合体およびヒドロキシプロピルメチルセルロースで成型した水色カプセルの光照射後の外観を図2に示す。
【0058】
前述した様に、ポリビニルアルコール共重合体カプセルは、ゼラチンで生じるような問題がない。また、ポリビニルアルコール共重合体カプセルは、現在除々に使用されつつある植物由来の水溶性高分子であるヒドロキシプロピルメチルセルロースのカプセルと比較して、カプセル剤皮中の有彩色色素の退色を抑制することができる。従って、ポリビニルアルコール共重合体カプセルは、優れた効果を併せ持つカプセルである。
さらに、ポリビニルアルコール共重合体カプセルは、ゼラチンやヒドロキシプロピルメチルセルロースのカプセルに比べると、カプセル内の酸素透過性を低減できることから、ポリビニルアルコール共重合体カプセル中には、酸素に不安定な薬物を充填することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
ポリビニルアルコール共重合体、ゲル化剤および有彩色の色素、および所望によりゲル化補助剤、不透明化剤、その他の添加剤を配合して形成されるカプセルは、退色が抑制された着色カプセルであり、優れた外観および物理的・化学的特性を有し、医薬、動物薬、農薬、化粧品、健康補助食品等の内容物充填カプセルとして非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】は、ポリビニルアルコール共重合体およびヒドロキシプロピルメチルセルロースで成型したピンク色のカプセルの光照射後の外観を示す。
【図2】は、ポリビニルアルコール共重合体およびヒドロキシプロピルメチルセルロースで成型した水色カプセルの光照射後の外観を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有彩色の色素およびゲル化剤をカプセル剤皮中に配合したカプセルにおいて、カプセル剤皮の主体がポリビニルアルコール共重合体であることを特徴とするカプセル。
【請求項2】
さらにカプセル剤皮中にゲル化補助剤が配合されている請求項1記載のカプセル。
【請求項3】
さらにカプセル剤皮中に不透明化剤が配合されている請求項1記載のカプセル。
【請求項4】
当該ポリビニルアルコール共重合体が、ポリビニルアルコールと少なくとも1以上の重合性ビニル単量体とを重量比6:4〜9:1の割合で共重合させて得られ、25℃における当該共重合体の5重量%水溶液の粘度が5〜40mPa・sである共重合体である請求項1記載のカプセル。
【請求項5】
当該ポリビニルアルコールの平均重合度が、300〜3000である請求項4記載のカプセル。
【請求項6】
当該ポリビニルアルコールが、部分けん化ポリビニルアルコールである請求項4または5記載のカプセル。
【請求項7】
当該重合性ビニル単量体が、不飽和カルボン酸類、不飽和カルボン酸類のエステル類およびそれらの塩から選択される1または2以上である請求項4〜6のいずれかに記載のカプセル。
【請求項8】
当該重合性ビニル単量体が、アクリル酸またはその塩およびメチルメタクリレートである請求項7記載のカプセル。
【請求項9】
共重合する際におけるアクリル酸またはその塩とメチルメタクリレートの重量比が、3:7〜0.5:9.5である請求項8記載のカプセル。
【請求項10】
当該ポリビニルアルコール共重合体が、平均重合度300〜3000の部分けん化ポリビニルアルコール、メチルメタクリレートおよびアクリル酸とを重量比60〜90:7〜38:0.5〜12の割合で共重合させて得られる共重合体であり、25℃における当該共重合体の5重量%水溶液の粘度が5〜40mPa・sである請求項1〜9のいずれかに記載のカプセル。
【請求項11】
当該有彩色の色素が、光によって退色しやすい色素である請求項1〜10のいずれかに記載のカプセル。
【請求項12】
当該有彩色の色素が、レーキ化したタール色素、水溶性タール色素および天然色素から選択される1または2以上である請求項11記載のカプセル。
【請求項13】
当該ゲル化剤が、カラギーナンである請求項1〜12のいずれかに記載のカプセル。
【請求項14】
当該ゲル化補助剤が、塩化カリウムである請求項1〜13のいずれかに記載のカプセル。
【請求項15】
当該不透明化剤が、酸化チタンである請求項1〜14のいずれかに記載のカプセル。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載のカプセルによって構成される硬カプセル。
【請求項17】
公定法に従って、累積照射量が120万ルクス・時間の光を照射した場合、カプセルの変色度(△E)が5以下である請求項1〜16のいずれかに記載のカプセル。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載のカプセルに薬物を充填したカプセル剤。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれかに記載のカプセルを製造することを目的とした、ポリビニルアルコール共重合体、有彩色の色素およびゲル化剤を含有するカプセル剤皮用組成物。
【請求項20】
有彩色の色素およびゲル化剤をカプセル剤皮中に配合したカプセルにおいて、カプセル剤皮としてポリビニルアルコール共重合体を主体として用いることを特徴とする、カプセル剤皮中の有彩色の色素の退色防止方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−91670(P2007−91670A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285354(P2005−285354)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【出願人】(598005661)日新化成株式会社 (9)
【Fターム(参考)】