説明

送受信モジュール

【課題】 送受信モジュールの雑音指数の劣化を抑えて、送信系から受信系へ入力される大電力を保護することを目的とする。
【解決手段】 受信系の低雑音増幅器13の入力部に、送受信の切替え信号と同期して方向性の切り替わる方向性可変サーキュレータ14を備え、アンテナ10から微弱な受信信号を受信する場合は、方向性可変サーキュレータ14を低雑音増幅器13に接続し、低損失に低雑音増幅器13に信号伝送を行い、送信時には方向性可変サーキュレータ14を終端抵抗器15に接続し、受信系に入力されてしまう大電力については終端抵抗器15で吸収され、低雑音増幅器13が破壊されることを保護する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波またはミリ波帯の高周波信号を送受信する送受信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
送受信モジュールを多数用いて構成されるフェーズドアレイアンテナの場合、送受信モジュールの相互結合(アクティブインピーダンス)によって、送信時の大電力が受信系に入力される。従来、このような受信系への大電力入力から受信系の低雑音増幅器を保護する目的で、低雑音増幅器の入力部には、高耐電力スイッチやリミッタ等が配置されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−153653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の送受信モジュールにおいては、高耐電力スイッチやリミッタ等の保護回路を採用する場合、その高耐電力スイッチやリミッタの通過損失(約1dB程度)により、受信時の雑音指数を劣化させてしまうという課題があった。
【0005】
この発明は、係る課題を解決するためになされたものであり、送受信モジュールの雑音指数の劣化を抑えて、送信系から受信系へ入力される大電力を保護することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による送受信モジュールは、サーキュレータを介してアンテナに接続される送信系の高出力増幅器と、上記サーキュレータを介して上記アンテナに接続される受信系の低雑音増幅器と、上記サーキュレータと低雑音増幅器の間に接続され、上記サーキュレータに接続される第1の端子、上記低雑音増幅器に接続される第2の端子、および第3の端子を有した方向性可変サーキュレータと、上記方向性可変サーキュレータの第3の端子に接続された終端器とを備え、上記方向性可変サーキュレータは、受信時には上記第1、第2の端子間が接続され、送信時には上記第1、第3の端子間が接続されるものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、受信時には低損失に低雑音増幅器に信号伝送を行い、送信時には受信系に入力されてしまう大電力が終端抵抗器15で吸収されるので、低雑音増幅器が破壊されることを保護することができるとともに、方向性可変サーキュレータは通過損失が小さいので、受信時の雑音指数の劣化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明に係る実施の形態1による送受信モジュールの回路構成を示す図である。
【図2】この発明に係る実施の形態1による送受信モジュールのサーキュレータの構造を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明に係る実施の形態1による送受信モジュールの回路構成を示す図である。図2は、実施の形態1による送受信モジュールのサーキュレータの構造を示す図である。
図において、実施の形態1の送受信モジュールは、アンテナ10と、サーキュレータ11と、送信信号用の高出力増幅器12と、受信信号用の低雑音増幅器13と、方向性可変サーキュレータ14と、終端器15と、送受切り替えスイッチ16と、移相器17と、給電端子18とを備えている。
【0010】
アンテナ10は、送信電力が給電端子に入力され、アンテナ素子にて送信電波を放射する。また、アンテナ10は、アンテナ素子にて受信電波を受け、受信電力を給電端子から出力する。
アンテナ10の給電端子は、サーキュレータ11の入出力端子に接続される。サーキュレータ11は、送信側端子が高出力増幅器12の出力端子に接続され、受信側端子が方向性可変サーキュレータ14の第1の端子14aに接続される。サーキュレータ11は、送信時には高出力増幅器12から出力される送信信号をアンテナ10に出力し、受信時にはアンテナ10で受けた受信信号を第1の端子14aに送る。
【0011】
方向性可変サーキュレータ14の第2の端子14bは低雑音増幅器13の入力端子に接続される。方向性可変サーキュレータ14の第3の端子14cは終端器15の一端に接続される。終端器15の他端はグランド(接地面)に接続される。方向性可変サーキュレータ14は、送信時に第1の端子14aに入力される信号を第3の端子14cに出力し、受信時に第1の端子14aに入力される信号を第2の端子14bに出力する。
【0012】
送受切り替えスイッチ16は、第1の端子もしくは第2の端子の何れか一方が、第3の端子に接続される。送受切り替えスイッチ16の第1の端子は高出力増幅器12の入力端子に接続される。送受切り替えスイッチ16の第2の端子は低雑音増幅器13の出力端子に接続される。送受切り替えスイッチ16の第3の端子は移相器17の一方の端子に接続される。送受切り替えスイッチ16は、1回路2接点の単極双投のRF(Radio Frequency)スイッチによって構成される。送受切り替えスイッチ16は、図示しない外部制御装置の制御によって、第1の端子と第3の端子が接続される第1の状態と、第2の端子と第3の端子が接続される第2の状態とが切替わる。移相器17の他方の端子は給電端子18に接続される。
【0013】
次に、動作について説明する。
受信時には、アンテナ10から入力された微弱な受信信号は、サーキュレータ11及び方向性可変サーキュレータ14を通過して、低雑音増幅器13に入力される。この場合、方向性可変サーキュレータ14は、図示しない外部制御装置から送受信の切替え信号として受信へ切替える信号が発生した時、第1の端子14aから第2の端子14bが通過状態(低損失)となっている。
【0014】
また、低雑音増幅器13に入力された受信信号は、低雑音増幅器13にて信号増幅または波形整形などの処理が施され、送受切り替えスイッチ16及び移相器17を通過して、給電端子18に出力される。このとき、送受切り替えスイッチ16は、図示しない外部制御装置から送受信の切替え信号として受信へ切替える信号を受けて、第3の端子が第2の端子に接続されるように切替えられている。また、移相器17は、図示しない外部制御装置により設定される設定位相指令に基いて、受信信号の位相を所望の位相にシフトする。
【0015】
送信時には、給電端子18から入力された送信信号は、移相器17及び送受切り替えスイッチ16を通過して、高出力増幅器12に入力される。このとき、送受切り替えスイッチ16は、図示しない外部制御装置から送受信の切替え信号として送信へ切替える信号を受けて、第3の端子が第1の端子に接続されるように切替えられている。また、移相器17は、図示しない外部制御装置により設定される設定位相指令に基いて、送信信号の位相を所望の位相にシフトする。高出力増幅器12は、送受切り替えスイッチ16を通過した送信信号を大電力信号に増幅し、サーキュレータ11に送る。サーキュレータ11に送られた大電力信号はアンテナ10に送られ、アンテナ10は空中に向けて送信電波を放射する。
【0016】
また、送信時には、アンテナ10に入力される大電力信号の一部は、アンテナ10にて反射されて再びサーキュレータ11に入力される。このアンテナ10から入力された大電力信号は、サーキュレータ11を通過して方向性可変サーキュレータ14の第1の端子14aに入力される。
この場合、方向性可変サーキュレータ14は、図示しない外部制御装置から送受信の切替え信号として送信へ切替える信号が発生した時、第1の端子14aから第3の端子14cへの通過状態となっており、方向性可変サーキュレータ14の第1の端子14aに入力された大電力信号は、第3の端子14cに接続されている終端器15に吸収される。そのため、低雑音増幅器13には大電力信号は入力されずに、方向性可変サーキュレータ14が受信系の保護回路となっている。
【0017】
次に、方向性可変サーキュレータ14の多層基板構造および動作原理について説明する。
図2は、実施の形態1による送受信モジュールのサーキュレータの構造を示す図である。
図において、方向性可変サーキュレータ14の多層基板構造は、多層セラミック基板1a〜1fの内層に、フェライト材料2a〜2d、磁界発生用のコイル形状をした導体配線3a〜3d、及び高周波信号伝送用導体配線4を形成することによって構成される。多層セラミック基板1a〜1fは、導体ペーストにより回路配線が印刷された複数枚のグリーンシートを積層し、焼結により一体化した低温焼成基板(LTCC;Low Temperature Co-fired Ceramics)によって構成される。ここで、多層セラミック基板1a〜1fは、次のように積層されて一体的に形成される。導体配線3a〜3dは、フェライト材料2a〜2dの周囲を螺旋状に取り巻くように配置され、フェライト材料2a〜2dとは非接続に設けられている。
【0018】
多層セラミック基板1aは多層セラミック基板1b上に積層される。
多層セラミック基板1bには一塊の矩形板状のフェライト2aが埋め込まれ、フェライト2aの周囲を取り囲むように、一部分の開いたループ状の導体配線3aが配設されている。導体配線3aの一端は多層セラミック基板1bの側端部に向かって引き出され、電圧端子5に接続される。導体配線3aの他端は、多層セラミック基板1bの内層において基板厚方向に対し垂直に設けられた導体ビア(又は導体スルーホール)に接続される。多層セラミック基板1bは多層セラミック基板1c上に積層される。
【0019】
多層セラミック基板1cには一塊の矩形板状のフェライト2bが埋め込まれ、フェライト2bの周囲を取り囲むように、一部分の開いたループ状の導体配線3bが配設されている。導体配線3bの一端は、多層セラミック基板1bの内層に設けられた導体ビア(又は導体スルーホール)に接続されて、導体配線3aの他端に接続される。導体配線3bの他端は多層セラミック基板1cの内層において基板厚方向に対し垂直に設けられた導体ビア(又は導体スルーホール)に接続される。多層セラミック基板1cは多層セラミック基板1d上に積層される。
【0020】
高周波信号伝送用導体配線層である多層セラミック基板1dの表層には、円形状の導体板4dの周囲に互いに配向の異なる3つの高周波信号伝送用導体配線4a〜4cが放射状に配設され、導体板4dとともに高周波信号伝送用導体配線4が形成されている。この高周波信号伝送用導体配線4a、高周波信号伝送用導体配線4b、及び高周波信号伝送用導体配線4cは、多層セラミック基板1dの中央部で導体板4dに接続される。また、高周波信号伝送用導体配線4の導体板4dは、上層のフェライト2bおよび下層のフェライト2cと対面するように配置される。
高周波信号伝送用導体配線4aの一端と高周波信号伝送用導体配線4bの一端は互いに対向し、高周波信号伝送用導体配線4cは高周波信号伝送用導体配線4a、4bを通る仮想直線に対して直角をなす方向(基板面内で仮想直線に垂直な方向)に配向される。また、高周波信号伝送用導体配線4aの他端は第2の端子14bとなり、高周波信号伝送用導体配線4bの他端は第1の端子14aとなり、高周波信号伝送用導体配線4cにおける導体板4dとの接続部とは反対側の端部が第3の端子14cとなる。
多層セラミック基板1dの内層には、高周波信号伝送用導体配線4とは非接続に、基板厚方向に対し垂直に導体ビア(又は導体スルーホール)が設けられ、多層セラミック基板1cの導体ビアに接続されて、導体配線3bの他端に接続される。多層セラミック基板1dは多層セラミック基板1e上に積層される。
【0021】
多層セラミック基板1eには一塊の矩形板状のフェライト2cが埋め込まれ、フェライト2cの周囲を取り囲むように、一部分の開いたループ状の導体配線3cが配設されている。導体配線3cの一端は、多層セラミック基板1dの内層に設けられた導体ビア(又は導体スルーホール)に接続されて、導体配線3bの他端に接続される。導体配線3cの他端は、多層セラミック基板1eの内層において基板厚方向に対し垂直に設けられた導体ビア(又は導体スルーホール)に接続される。多層セラミック基板1eは多層セラミック基板1f上に積層される。
【0022】
多層セラミック基板1fには一塊の矩形板状のフェライト2dが埋め込まれ、フェライト2dの周囲を取り囲むように、一部分の開いたループ状の導体配線3dが配設されている。導体配線3dの一端は多層セラミック基板1eの内層に設けられた導体ビア(又は導体スルーホール)に接続される。導体配線3dの他端は多層セラミック基板1fの側端部に向かって引き出され、電圧端子6に接続される。
【0023】
続いて、方向性可変サーキュレータ14の動作について説明する。
図示しない外部制御装置から送受信の切替え信号として受信へ切替える信号が発生されると、外部制御装置は同時に、方向性可変サーキュレータ14の制御電圧端子である電圧端子5に正電圧、電圧端子6に負電圧を印加し、導体配線3a〜3dに電流を流した場合、磁界は矢印アの方向に発生する(第1の状態)。
この第1の状態では、高周波信号伝送用導体配線4の導体板4dを貫通する矢印アの方向の磁界の作用により、高周波信号伝送用導体配線4bの端子14aから入力された高周波信号は、高周波信号伝送用導体配線4aの端子14bへ低損失で通過し、高周波信号伝送用導体配線4cの端子14cへは、ほとんど高周波信号は出力されない。
【0024】
一方、図示しない外部制御装置から送受信の切替え信号として送信へ切替える信号が発生されると、外部制御装置は同時に、方向性可変サーキュレータ14の電圧端子5に負電圧、電圧端子6に正電圧を印加し、導体配線3a〜3dに前記第1の状態とは逆方向に電流を流した場合、磁界は矢印イの方向に発生する(第2の状態)。
この第2の状態では、高周波信号伝送用導体配線4の導体板4dを貫通する矢印イの方向の磁界の作用により、高周波信号伝送用導体配線4bの端子14aから入力された高周波信号は、高周波信号伝送用導体配線4cの端子14cへ低損失で通過し、高周波信号伝送用導体配線4aの端子14bへは、ほとんど高周波信号は出力されない。
このように電圧印加の極性を送受信の切替え信号と同期して切り替えることにより、方向性可変サーキュレータ14の信号伝送方向の切替え動作を可能としている。
【0025】
以上説明したとおり、この実施の形態1による送受信モジュールは、サーキュレータ11を介してアンテナ10に接続される送信系の高出力増幅器12と、上記サーキュレータ11を介して上記アンテナ10に接続される受信系の低雑音増幅器13と、上記サーキュレータ11と低雑音増幅器13の間に接続され、上記サーキュレータ11に接続される第1の端子14a、上記低雑音増幅器に接続される第2の端子14b、および第3の端子14cを有した方向性可変サーキュレータ14と、上記方向性可変サーキュレータ14の第3の端子に接続された終端器15とを備え、上記方向性可変サーキュレータ14は、受信時には上記第1、第2の端子14a、14b間が接続され、送信時には上記第1、第3の端子14a、14c間が接続されることによって構成される。
【0026】
また、上記方向性可変サーキュレータ14は、上層および下層のフェライト2a、2b、および2c、2dと、上層および下層のフェライト2a、2b、および2c、2dの周囲を螺旋状に取り囲む導体配線3a、3b、3c、3dと、上層のフェライト2a、2bと下層のフェライト2c、2dの間に積層され、上記第1、第2、第3の端子14a、14b、14cが放射状に配置された高周波伝送用導体配線層4とが積層された多層基板から構成される。
【0027】
このように構成されることにより、受信系の低雑音増幅器13の入力部に、送受信の切替え信号と同期して方向性の切り替わる方向性可変サーキュレータ14を備え、アンテナ10から微弱な受信信号を受信する場合は、方向性可変サーキュレータ14を低雑音増幅器13に接続し、低損失に低雑音増幅器13に信号伝送を行い、送信時には方向性可変サーキュレータ14を終端抵抗器15に接続し、受信系に入力されてしまう大電力については終端抵抗器15で吸収され、低雑音増幅器13が破壊されることを保護することができる。また、方向性可変サーキュレータ14は、高耐電力スイッチやリミッタ等の保護回路に比べて通過損失が小さいので、受信時の雑音指数の劣化を抑えることができる。
【0028】
また、方向性可変サーキュレータ14は多層基板によって構成することができるので、送受信モジュールを実装するパッケージに一体的に成形することにより、小型または低価格な受信系の大電力保護回路を得ることができる。
【符号の説明】
【0029】
2a〜2d フェライト、導体配線3a〜3d、4 高周波信号伝送用導体配線、10 アンテナ、11 サーキュレータ、12 高出力増幅器、13 低雑音増幅器、14 方向性可変サーキュレータ、15 終端器、16 送受切り替えスイッチ、17 移相器、18 給電端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーキュレータを介してアンテナに接続される送信系の高出力増幅器と、
上記サーキュレータを介して上記アンテナに接続される受信系の低雑音増幅器と、
上記サーキュレータと低雑音増幅器の間に接続され、上記サーキュレータに接続される第1の端子、上記低雑音増幅器に接続される第2の端子、および第3の端子を有した方向性可変サーキュレータと、
上記方向性可変サーキュレータの第3の端子に接続された終端器と、
を備え、
上記方向性可変サーキュレータは、受信時には上記第1、第2の端子間が接続され、送信時には上記第1、第3の端子間が接続される送受信モジュール。
【請求項2】
上記方向性可変サーキュレータは、上層および下層フェライトと、上層および下層フェライトの周囲を螺旋状に取り囲む導体配線と、上層フェライトと下層フェライトの間に積層され、上記第1、第2、第3の端子が放射状に配置された高周波伝送用導体配線層とが積層された多層基板から構成される請求項1記載の送受信モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−171805(P2011−171805A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31162(P2010−31162)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】