説明

送電線用アルミニウム線又はアルミニウム合金線の表面処理方法及びこれを用いた送電線の製造方法

【課題】 本発明は、鉄塔間などに架設される送電線に使用されるアルミニウム線又はアルミニウム合金線の表面処理方法に関し、特に、耐食性に優れた線材を提供するものである。
【解決手段】 かゝる本発明は、ロジン化合物を含有する表面処理剤が表面に塗布されてなり、この表面処理剤中のロジン化合物の含有が10〜20質量%である送電線用アルミニウム線又はアルミニウム合金線の表面処理方法にあり、このロジン化合物の塗布により、これらの線材を架空送電線としたとき、強酸性雰囲気中においても、塩素イオンなどが存在していても、破壊され難く、十分な耐食性、即ち環境遮断性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄塔間などに架設される送電線の導体などとして使用されるアルミニウム線又はアルミニウム合金線の表面処理方法及びこれを用いた送電線の製造方法に関し、特に、耐食性の向上を図ったものである。
【背景技術】
【0002】
鉄塔間に架設される架空送電線は、鉄塔及びその他の設備の建設コストを軽減するため、軽量であることが要求されている。従って、この送電線の導体としては、軽量であって、導体の中にあって比較的導電率が高いアルミニウムやアルミニウム合金が用いられることが多い。
【0003】
一方で、この送電線は、その自重により鉄塔間で弛み、鉄塔間の中央部で垂れ下がった状態となるが、安全性を確保するためには、送電線に対する送電電圧に応じて、垂れ下がった部分の地上からの高さを所定の高さ以上に設定する必要がある。
【0004】
ところが、このために鉄塔などの支持点の高さをより一層高くすると、鉄塔及びその他の設備の建設コストが高くなる。そこで、従来から、鉄塔間における送電線に付加される張力を大きくして、弛み量(弛度)を小さくする方法が使用されている。この場合、送電線の張力に対する強度を高くするために、亜鉛メッキ鋼線もしくはアルミニウム覆鋼線の単線又は撚線を中心として、その周囲に同心円上にアルミニウム線又はアルミニウム合金線が撚り合わせられてなる複合撚線(ACSR:Aluminium Conductor Steel Reinforced)が架空送電線として使用されている。
【0005】
ところで、このような架空送電線は、それ自体が日光及び風雨雪などの自然環境に曝されるので、耐環境性に優れたものであることが要求される。従って、ACSRなどの鋼芯アルミニウム撚線に使用される鋼線の表面には、亜鉛めっきやアルミニウム被覆などの防食処理が施されている。一方、アルミニウム線やアルミニウム合金線は、通常の環境に対しては良好な耐食性を有するので、通常の環境下で使用する場合には、それらの表面に特別な防食処理を施さないのが一般的である。
【0006】
しかし、アルミニウム線やアルミニウム合金線の耐食性は、塩素イオンなどの存在により著しく低下する。従って、海洋に近い地域においては、大気中に塩素イオンが多量に存在するため、この塩素イオンと水分の存在により、ACSRなどの架空送電線であっても、腐食が進行するという問題があった。
【0007】
そこで、本出願人は、既に、このような状況下に対応するため、外気に露出する金属部分に防食用のグリースを塗布して、架空送電線の耐食性を向上させる方法を提案してある(特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−006438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、最近では大気汚染や酸性雨などの影響により、海洋の影響を受ける地域以外でも、アルミニウム線やアルミニウム合金線に対する腐食性が高まってきており、このような環境下に架空送電線が曝されると、やはり腐食が進行するという問題がある。
【0009】
また、このような厳しい環境下でも、上記したような防食用のグリースを塗布した場合、ある程度の防食効果は得られるものの、この環境下では、グリース自体が劣化するという問題があることが判った。即ち、グリースは高分子化合物からなるので、日光の紫外線にさらされたり、加熱されたりすると、グリース自体が劣化し易くなるからである。
【0010】
このため、グリースの塗布された防食架空送電線にあっては、定期的にグリースの状態を監視するなどして、グリースの補充などの保守点検が必要となる。しかし、ACSRなどの架空送電線で、導体のアルミニウム線やアルミニウム合金線はこのような厳しい環境下では、急速に腐食が進行するため、完全な保守点検は不可能である。
【0011】
そこで、本発明者は、このような厳しい環境下でも、十分耐える得る材料について、鋭意検討したところ、グリースに替わる塗布材料として、ロジン化合物、例えばロジンカリウムを含有する表面処理剤が最適であることを見出した。つまり、ロジン化合物を含有する表面処理剤は、アルミニウム線やアルミニウム合金線などの表面に密着性の高いコーティング皮膜を形成することができ、このコーティング皮膜は、強酸性雰囲気中であっても、或いは塩素イオンなどが存在していても、破壊され難く、優れた環境遮断性を有することが判ったのである。
【0012】
本発明は、このような観点に立ってなされたもので、基本的には、ロジン化合物を含有する表面処理剤を表面に塗布した送電線用アルミニウム線又はアルミニウム合金線の表面処理方法、及びこれを用いた送電線の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の本発明は、ロジン化合物を含有する表面処理剤が表面に塗布されてなり、当該表面処理剤中のロジン化合物の含有が10〜20質量%であることを特徴とする送電線用アルミニウム線又はアルミニウム合金線の表面処理方法にある。
【0014】
請求項2記載の本発明は、ロジン化合物を含有する表面処理剤が表面に塗布されてなり、当該表面処理剤の動粘度が3〜40cStであることを特徴とする送電線用アルミニウム線又はアルミニウム合金線の表面処理方法にある。
【0015】
請求項3記載の本発明は、請求項1乃至請求項2のいずれかの表面処理方法による送電線用アルミニウム線又はアルミニウム合金線を用いたことを特徴とする送電線の製造方法にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の送電線用アルミニウム線又はアルミニウム合金線の表面処理方法によると、これらの線材の表面にロジン化合物を含有する表面処理剤を表面に塗布してあるため、耐食用のグリースに比べて、より高い優れた耐食性が得られる。つまり、ロジン化合物を含有する表面処理剤の場合、塗布後、水分が蒸発すると、線材表面に密着性の高いコーティング皮膜が形成される。このコーティング皮膜は、強酸性雰囲気中であっても、塩素イオンなどが存在していても、破壊され難く、優れた環境遮断性を呈するからである。
【0017】
また、本発明の送電線の製造方法によると、このロジン化合物を含有する表面処理剤が塗布された送電線用アルミニウム線又はアルミニウム合金線を用いているため、上記したような作用により、強酸性雰囲気中であっても、塩素イオンなどが存在していても、腐食し難い、優れた耐食性、即ち、環境遮断性耐食性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のロジン化合物、例えばロジンカリウムを含有する表面処理剤では、ロジンカリウムの含有量が10〜20質量%で、残りの残部は水からなり、常温下の動粘度は、3〜40cStである。なお、ロジン化合物としては、ロジンナトリウムなども使用可能である。
【0019】
ここで、ロジンカリウムの含有量を10〜20質量%としたのは、その含有量が10質量%未満では、動粘度(粘度/比重)が低いため、塗布後線材から垂れ落ち易くなるためである。垂れ落ちがあると、コーティング皮膜の膜厚にバラツキが生じるなどして、十分な環境遮断性が得られなくなる。一方、その含有量が20質量%を超えるようになると、逆に動粘度が高くなり、線材表面に過剰の粘性を有したコーティング皮膜が形成され、耐食性には問題がないものの、撚り線工程での作業性の悪化が懸念されるからである。また、送電線の外観を損なう恐れもある。つまり、ロジンカリウムの濃度が高いと、松ヤニ色(琥珀色)の厚いコーティング皮膜となるからである。なお、常温(約25℃)下での動粘度は、上記範囲の含有量とすることで3〜40cSt値が確保される。
【0020】
このようにしてなる表面処理剤の塗布にあたっては、荒引線を伸線してボビンに巻き取るまでの間などでアルミニウム線又はアルミニウム合金線に対して、表面処理剤を噴霧するか、刷毛などで塗るなどして塗布し、或いは、アルミニウム線又はアルミニウム合金線を、表面処理剤の充填された槽中に通して塗布するなどすればよい。そして、必要により乾燥工程に導き、乾燥させて(大気中での自然乾燥も可能)、水分を除去すれば、所望のコーティング皮膜が得られる。
【0021】
このコーティング皮膜の施されたアルミニウム線又はアルミニウム合金線を用いて、通常のACSRとして、亜鉛メッキ鋼線やアルミニウム覆鋼線の外周に撚り合わせるなどすれば、所望の架空送電線が得られる。
〈実施例・比較例〉
【0022】
先ず、表1に示したように、ロジンカリウムを種々の含有量となるように、水を溶媒として溶解させた。この水溶液(表面処理剤)の常温(約25℃)における動粘度をウベローデ粘度計により測定した。次に、送電線となるACSRの製造工程におけるアルミニウム線の撚り合わせ工程において、アルミニウム線の表面に、上記種々のロジンカリウムの含有量を有する表面処理剤を用い、スプレーノズルによる噴霧により塗布させ、乾燥させて、コーティング皮膜を形成させた(実施例1〜2、比較例1〜2)。なお、比較例3の場合には、無処理のアルミニウム線によりACSRを製造した。
【0023】
この後、得られたACSRを500mmの長さに切断し、端面の露出による腐食を避けるため、両端を樹脂(例えばエポキシ樹脂)で被覆し、腐食試験用のサンプルとした。
これらを、JIS−H8502において規定された「めっきの耐食性試験方法」に準じて塩水サイクル試験を3000時間実施した。乾湿サイクルの条件は、塩水噴霧2時間→乾燥4時間→湿潤2時間とした。この試験後、サンプルの断面観察を行い、アルミニウム線に発生している最大孔食深さを測定した。これらの結果は、上記表1に併記した。
【0024】
【表1】

【0025】
この表1から、本発明方法によるACSR(実施例1〜2)の場合、適正なロジンカリウムを含有した表面処理剤が塗布されたものであるため、良好なコーティング皮膜が形成され、最大孔食深さが小さく、特に、無処理のアルミニウム線(比較例3)に比べると、優れた耐食性、即ち環境遮断性が得られていることが判る。
【0026】
一方、ロジンカリウムの含有量が少ない表面処理剤(10質量%未満の5質量%)が塗布されたACSR(比較例1)の場合、動粘度が低いため、線材からの垂れ落ちがあったと推測され、コーティング皮膜の形成が不十分で、最大孔食深さがかなり大きいことが判る。また、逆にロジンカリウムの含有量が多すぎる表面処理剤(20質量%を超える25質量%)が塗布されたACSR(比較例2)の場合、動粘度は高く、十分なコーティング皮膜が形成されるものの、ACSRの外観に松ヤニ色の出現が見られた。また、撚り線工程における作業性の低下もあった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジン化合物を含有する表面処理剤が表面に塗布されてなり、当該表面処理剤中のロジン化合物の含有が10〜20質量%であることを特徴とする送電線用アルミニウム線又はアルミニウム合金線の表面処理方法。
【請求項2】
ロジン化合物を含有する表面処理剤が表面に塗布されてなり、当該表面処理剤の動粘度が3〜40cStであることを特徴とする送電線用アルミニウム線又はアルミニウム合金線の表面処理方法。
【請求項3】
請求項1乃至請求項2のいずれかの表面処理方法による送電線用アルミニウム線又はアルミニウム合金線を用いたことを特徴とする送電線の製造方法。


【公開番号】特開2006−269285(P2006−269285A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86700(P2005−86700)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】