説明

逆ミセル抽出系において逆ミセルサイズを制御する方法

【課題】
抽出・分離機能を付加した逆ミセルを液-液抽出に利用すると、水相中の低濃度の目的物質を選択的に抽出媒体相中の逆ミセルナノ反応場に抽出・濃集した後、ナノ粒子化などの化学反応にあずからせることができる。しかしながら、このような2液相系では、逆ミセルのサイズ制御に大きな難があった。たとえば、金属の抽出率を大きく保ったまま、逆ミセルのサイズを小さくすることはできなかった。
【解決手段】
分子性配位子の持つ逆ミセル内核水相を縮小させる効果を利用すると、添加する分子性配位子の濃度を変化させるだけで、逆ミセルのサイズ制御が可能になる。この方法では、金属に対する大きな抽出能を持ちながら、逆ミセルサイズを小さくできる。しかも、水相には何も足さないので、水相を排出する際、脱酸処理などを要しない。さらに、界面活性剤も分子性配位子もほとんど水相に溶出しないため、抽出媒体相を繰り返し利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノテクノロジーに関する発明であり、特に、本発明は、水と抽出媒体(有機溶媒など)の2液相系の抽出媒体相中で生成する逆ミセルのサイズを制御する方法を提案するものであり、たとえば、低濃度の金属イオンを水溶液中から逆ミセルに抽出・濃集してからナノ粒子化する際、生成するナノ粒子の粒径コントロールに利用できる。
【背景技術】
【0002】
逆ミセルは、不活性媒体(アルカン、超臨界流体二酸化炭素など)中で生成する界面活性剤の集合体であり、多くの場合、その内側には内核水相と呼ばれるナノメーターサイズの微小水滴を有する。別の言い方をすると、逆ミセルとは、界面活性剤の形成する単分子膜に覆われたナノ水滴である。このようなナノ反応場を利用して、たとえば、金属のナノ粒子を製造する方法がある。逆ミセルを用いるナノ粒子製造法には、大量生産が可能、生成するナノ粒子の均質性が高い、種々の化学反応を利用して多様な形態の粒子を製造できる、粒子の表面を修飾できるなど、いくつかの利点がある。具体的には、高濃度の金属イオンを含む水溶液を界面活性剤を含む溶媒に微量注入する方法(微量注入法)によって、高濃度の金属イオンを含む逆ミセルを生成させた後、還元剤などを作用させてナノ粒子を生成させる方法が一般的である(例えば、非特許文献1)。
【0003】
一方、液-液分配(2液相分配)によって水相中の金属イオンを抽出溶媒相に抽出した後、還元剤などを作用させてナノ粒子を製造する方法(液-液分配法)がある(例えば、非特許文献2及び3)。液-液分配法には、目的物質の抽出とそのナノ粒子化を同じ媒体相で行うことができるという利点がある。液-液分配法を逆ミセルと組み合わせて用いることもできる。すなわち、逆ミセルに抽出・分離機能を付加し、液-液分配を利用して逆ミセル中に目的とする物質を選択的に抽出・濃集した後、ナノ粒子化を行う方法である。この方法を利用すれば、低濃度でしか目的物質(ナノ粒子化したい物質)を含まず且つ不純物も多い水溶液(たとえば廃水など)からであっても、高品質なナノ粒子を効率的に製造することが可能になると期待できる。しかしながら、水相と平衡にある抽出媒体相中で生成する逆ミセルを利用する場合、上記のような利点がある一方で、微量注入法のように自在に逆ミセルのサイズを変えられない、という欠点があった。微量注入法では、界面活性剤の濃度や注入する水溶液の体積を変えることにより、容易に逆ミセルのサイズを変化させることができる。一方、液-液分配法では、界面活性剤の濃度を変えても逆ミセルの数が変化するのみで逆ミセルそのもののサイズは変化しない。
【0004】
また、2液相系の抽出媒体相で生成する逆ミセルの内核水相の大きさは、抽出媒体相での水の活量(自由水の濃度に対応する量)に依存するが、液-液平衡にある抽出媒体相は常に水相中の水と同じ活量の水によって飽和されているため、水相での水の活量がそのまま抽出媒体相での水の活量に相当することになる。たとえば、逆ミセルサイズを小さくするには抽出媒体相での水の活量を下げる必要があり、そのためには水相に大量の電解質(自由水を束縛する物質)を添加しなければならない。しかしながら、大量の電解質を加えると金属イオンの抽出率が著しく減少するため、高濃度の金属イオンを含む逆ミセルを作成することができなくなる(例えば、非特許文献4)。すなわち、従来の液-液分配法では、サイズの小さい逆ミセルに高濃度の金属イオンを導入することは不可能であった。また、廃水などに対する適用を考えるのならば、大量の電解質を加えなければならないことは、実用面において大きなマイナスである。以上のように、2液相系では逆ミセルのサイズの制御に大きな難があった。
【非特許文献1】小泉光恵ら、ナノ粒子の製造・評価・応用・機器の最新技術、(株)シーエムシー出版(2002年)
【非特許文献2】M. Brustら、Journal of Chemical Society, Chemical Communications、801-802(1994年)
【非特許文献3】近藤和生ら、Solvent Extraction Research and Development, Japan、7巻、176-184(2000年)
【非特許文献4】鈴木英哉ら、Solvent Extraction and Ion Exchange、21巻、527-546(2003年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抽出・分離機能を付加した逆ミセルを液-液抽出に利用すると、水相中の低濃度の目的物質を選択的に抽出媒体相中の逆ミセルナノ反応場に抽出・濃集した後、ナノ粒子化などの化学反応にあずからせることができる。しかしながら、このような2液相系では、逆ミセルのサイズ制御に大きな難があった。すなわち、液-液平衡においては抽出媒体相が水相中の水と同じ活量の水によって飽和されるため、水の活量を変える以外には内核水相中の水の量を変化させることができなかった。逆ミセルサイズを小さくする(すなわち、逆ミセル内核水相を小さくする)には、水の活量を下げるために自由水を束縛する電解質を水相に大量に加える必要があったが、電解質の添加は逆ミセルへの金属イオンの抽出を著しく減少させた。よって、サイズの小さい逆ミセルには高濃度の金属イオンを導入することが不可能であった。また、タンパク質などの生体高分子を抽出する際には、高濃度の電解質の存在がタンパク質の変性を招いた。
【0006】
そこで、本発明の課題は、水と抽出媒体から成る2液相系の抽出媒体相において逆ミセルを生成させる際、電解質を大量に加えることなく逆ミセルのサイズを制御する手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前述の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、分子性配位子をある程度の量で添加することによって、抽出媒体相中で生成する逆ミセルの内核水相が縮小する現象を発見するに至った。たとえば、イオン性界面活性剤としてビス(ジエチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム[Bis(2-ethylhexyl)sulfosuccinate sodium salt](商標名AerosolOT:AOTと略す)を含むヘキサンに、N,N’-ジオクチル-N,N’-ジメチル-2-(3’-オキ
サペンタデシル)プロパン-1,3-ジアミド [N,N’-dioctyl-N,N’-dimetyl-2-(3’-oxapentadecyl)propane-1,3-diamide](DA)のような金属イオンに対して配位子として働く分子性化合物を添加すると、金属イオンを高い抽出率で抽出媒体相に保持したまま、AOT逆ミセルのサイズを小さくできることがわかった。
【0008】
すなわち、本発明は、水相中の目的物質(金属イオンなど)を液-液抽出により界面活性剤を溶解した抽出媒体相中に抽出する際、抽出媒体相中で界面活性剤が形成する微小水滴を内包する分子集合体(逆ミセル)のサイズを制御するものである。目的物質に対して配位子として働く分子性化合物を添加することにより、目的物質の抽出媒体相への高い抽出率を保持したまま、逆ミセルのサイズを小さく制御することができる。
【0009】
この方法を用いると、水相には何も足すことなく、抽出媒体相中に存在する分子性配位子の濃度を変化させるだけで、逆ミセル内核水相の大きさを変えることができる。すなわち、逆ミセルのサイズ制御が可能になる。分子性配位子の濃度を大きくすると逆ミセルのサイズが小さくなるが、水相に電解質を加えて逆ミセルのサイズを小さくする場合とは異なり、抽出媒体相への金属イオンの抽出率は低下せず、維持もしくは逆に増幅される。よって、サイズの小さい逆ミセルにも高濃度の金属イオンを導入することが可能になる。また、界面活性剤も分子性配位子も抽出媒体相に保持されることから、抽出媒体相を繰り返し使用できる。たとえば廃水や飛灰溶解液などからのナノ粒子製造を考えるとき、抽出媒体相の繰り返し利用が可能なことと水相への添加物がないことは、コスト面、環境面などで大きな利点になる。抽出媒体相を繰り返し利用できれば、試薬量および廃棄物量を非常に少なくできる。また、水相に大量の電解質を添加する必要がなければ、電解質の費用が不要になるとともに、処理後の廃水を排出する際に脱酸処理(あるいは脱塩処理)を行う必要がない。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、水と抽出媒体の2液相系において、抽出媒体相中で生成する逆ミセルのサイズを制御する方法を提供するものであり、液-液分配(2液相分配)によって目的物質を逆ミセルに抽出・濃集してナノ粒子を製造する際の粒径制御など、ナノテクノロジーに利用できる。たとえば金属イオンを抽出・分離機能を付加した逆ミセルに抽出してナノ粒子化する方法では、1)希薄な金属イオンを抽出・濃集してナノ粒子化できること、2)複数の金属イオンを含む水溶液から目的とする金属イオンのみを高選択的に集めてナノ粒子化できることなどの利点がある。これらの特徴を生かして、たとえば廃水中の微量有価金属のみを選択的に回収した後、ナノ粒子として資源化する技術に応用することが可能である。しかしながら、液-液分配法では、大量の電解質を加える以外には逆ミセル内核水相のサイズを小さくする方法が知られておらず、この方法では金属イオンの抽出率が著しく減少するため、サイズの小さい逆ミセルに高濃度の金属イオンを導入することができない。このことから、シングルナノサイズの粒子を作成することは困難であった。本発明が提供する分子性配位子を利用して内核水相を縮小させる方法では、2液相系で生成する逆ミセルのサイズを電解質を加えることなく制御できる。電解質を加える方法とは異なり、抽出媒体相への金属イオンの抽出率は維持(もしくは増幅)されることから、サイズの小さい逆ミセルにも高濃度の金属イオンを導入することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
界面活性剤のみから成る逆ミセルは、金属イオンなどの物質を抽出する能力(抽出能)、複数の物質を含む水溶液中から目的とする物質のみを選択的に抽出する能力(選択的分離能)のいずれも乏しい。そこで、逆ミセルに抽出能、選択的分離能を付加する方法を模索した。もし逆ミセルに優れた抽出・分離機能を付加することができれば、微量注入法の場合のように、純粋な目的物質のみを高濃度で含む水溶液を用いる必要はなく、たとえば廃水や飛灰溶解液などのように、目的物質を低濃度でしか含まず不純物も多い水溶液中からであっても目的物質のみを抽出・濃集し、高品質なナノ粒子として再資源化することが可能になる。以前の研究から、イオン性界面活性剤の形成する逆ミセルを含む系に少量の分子性配位子を添加することにより、優れた抽出能、選択的分離能が発現することがわかり、逆ミセルを液-液分配法で利用する道が開けた(長縄弘親ら、Physical Chemistry Chemical Physics、2巻、3247-3253(2000年))。
【0012】
その一方で、液-液分配法では逆ミセルのサイズ制御に大きな難があったが、さらに研究を進めるうちに、添加する分子性配位子の量を変えることによって、逆ミセルサイズがコントロールできることを発見した。すなわち、分子性配位子の濃度が小さければ(たとえば界面活性剤の濃度と同程度であれば)、高い抽出・分離機能が付加されるものの、逆ミセルのサイズは大きいままであるが、分子性配位子の濃度を高くすると、高い抽出・分離機能を持ちつつ、逆ミセルのサイズが指数関数的に減少する。また、界面活性剤、分子性配位子ともに水相に溶出することなく抽出媒体相に保持される。すなわち、抽出媒体相を繰り返し使用することができ、たとえば廃水などからのナノ粒子製造を考えるとき、抽出媒体相の繰り返し利用と水相への添加物がないことは、コスト面、環境面などで大きな利点になる。なお、逆ミセルを含む2液相系では、DAのような疎水性配位子に限らず、両親媒性、さらには親水性の分子性配位子であっても、逆ミセル内に強く保持され、水相にほとんど溶出しない場合があることもわかった。以下に、本発明の実施の形態について、イオン性界面活性剤としてAOT、分子性配位子としてDAを選んだときを例に挙げてさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0013】
(実施例1) AOTを含む2液相逆ミセル系にDAを添加したときの逆ミセルサイズの測定
以下に示す要領で、AOTを含む2液相逆ミセル系にDAを添加したときの逆ミセルサイズの測定を行った。
【0014】
1)0.2 M の硝酸を含む水溶液と、それと同体積の一定濃度(0.002 M)の AOTおよび種々の濃度(0.002 Mから0.1 M)のDAを含むヘキサン溶液を試験管に用意し、25 ℃に設定した恒温庫内で15分間振とうした。
【0015】
2)恒温庫内で5分間、遠心分離した後、有機相を分取した。
【0016】
3)有機相中に存在する逆ミセルのサイズを、動的レーザー光散乱測定装置(DLS)を用いて測定した。
【0017】
4)有機相中の水の濃度をカール・フィッシャー滴定法によって測定し、その値に基づいて、逆ミセルのサイズを求めた。
【0018】
図1は、上記にように測定した逆ミセルサイズとユウロピウム(III)の抽出率(実施例2を参照)をDA濃度の関数として示した図である(硝酸の濃度は0.2 M、AOTの濃度は0.002 Mで一定)。この図から、DAの濃度が増加することによって、逆ミセルのサイズが指数関数的に減少する一方で、ユウロピウム(III)の抽出率は維持(もしくは増幅)されることがわかる。なお、逆ミセルのサイズは、DLSによって直接測定した値と、有機相中で内核水相を形成している水の濃度と内核水相の直径が比例すること(M. P. Pileniら、Chemical Physics Letters、 118巻、414-420(1985年))に基づいて算出した値の両方を示す。
【0019】
(実施例2) AOTを含む2液相逆ミセル系にDAを添加したときのユウロピウム(III)の抽出率の測定
以下に示す要領で、AOTを含む2液相逆ミセル系にDAを添加したときのユウロピウム(III)の抽出率の測定を行った。
【0020】
1)1×10-5 Mのユウロピウム(III)を含む0.2 M硝酸水溶液と、それと同体積の一定濃度(0.002 M)の AOTおよび種々の濃度(0.002 Mから0.1 M)のDAを含むヘキサン溶液を試験管に用意し、25 ℃に設定した恒温庫内で15分間振とうした。
【0021】
2)恒温庫内で5分間、遠心分離した後、両相を分取した。
【0022】
3)分取した水相は、0.5 M硝酸水溶液で希釈した後、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用いて、ユウロピウム(III)の濃度を測定した。
【0023】
4)分取した有機相は、3 M硝酸水溶液を用いて逆抽出操作を行い、逆抽出相を採取して希釈した後、ICP-MSを用いて、ユウロピウム(III)の濃度を測定した。
【0024】
5)3)、4)の測定結果から、ユウロピウム(III)の抽出率(有機相中に抽出されたユウロピウム(III)の濃度をユウロピウム(III)の初濃度で割った値)を求めた。
【0025】
得られたユウロピウム(III)の抽出率の値をDA濃度の関数として、逆ミセルサイズの変化(実施例1を参照)とともに、図1に示す。
【0026】
(実施例3) AOTを含む2液相逆ミセル系にDAを添加したときとDAを添加しないときのユウロピウム(III)の抽出率の比較
以下に示す要領で、AOTを含む2液相逆ミセル系にDAを添加したときとDAを添加しないときのユウロピウム(III)の抽出率の比較を行った。
【0027】
1)1×10-5 Mのユウロピウム(III)を含む種々の濃度(0.05 Mから1 M)の硝酸水溶液と、それと同体積の0.002 Mの AOTを含むヘキサンに0.002 MのDAを添加したものとDAを添加しないものを試験管に用意し、25 ℃に設定した恒温庫内で15分間振とうした。
【0028】
2)恒温庫内で5分間、遠心分離した後、両相を分取した。
【0029】
3)分取した水相は、0.5 M硝酸水溶液で希釈した後、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用いて、ユウロピウム(III)の濃度を測定した。
【0030】
4)分取した有機相は、3 M硝酸水溶液を用いて逆抽出操作を行い、逆抽出相を採取して希釈した後、ICP-MSを用いて、ユウロピウム(III)の濃度を測定した。
【0031】
5)3)、4)の測定結果から、ユウロピウム(III)の抽出率を求めた。
【0032】
図2は、0.002 MのAOTを含むヘキサン溶液に0.002 M のDAを添加した場合と添加しない場合でのユウロピウム(III)の抽出率を硝酸濃度の関数として示した図である。この図から、AOT単独ではユウロピウム(III)をほとんど抽出することができないが、少量のDAを添加することで、硝酸の濃度が比較的低い条件下では、ほぼ100%のユウロピウム(III)を抽出できることがわかる。すなわち、添加する分子性配位子(DA)が少量であっても、逆ミセルに高い抽出・分離機能が付加される。なお、AOTのみの場合、硝酸の濃度が0.5 Mに満たないときにはAOTが水相に溶出し、濁りやゲルが生じる。一方、DAを添加すれば、低硝酸濃度でもAOTの水相への溶出が起こらない(濁りやゲルが生じない)。このように、分子性配位子(DA)は、界面活性剤(AOT)の有機相から水相への溶出を抑制する効果も有する。
【0033】
(比較例1) AOTとDAを含む2液相逆ミセル系において、電解質(硝酸)の濃度を変化させたときの逆ミセルサイズの測定
以下に示す要領で、AOTとDAを含む2液相逆ミセル系において、電解質(硝酸)の濃度を変化させたときの逆ミセルサイズの測定を行った。
【0034】
1)種々の濃度(0.05 Mから0.6 M)の硝酸を含む水溶液と、それと同体積の0.002 Mの AOTおよび0.002 MのDAを含むヘキサン溶液を試験管に用意し、25 ℃に設定した恒温庫内で15分間振とうした。
【0035】
2)恒温庫内で5分間、遠心分離した後、有機相を分取した。
【0036】
3)有機相中に存在する逆ミセルのサイズを、動的レーザー光散乱測定装置(DLS)を用いて測定した。
【0037】
4)有機相中の水の濃度をカール・フィッシャー滴定法によって測定し、その値に基づいて、逆ミセルのサイズを求めた。
【0038】
図3は、上記のようにして得られた逆ミセルサイズとユウロピウム(III)の抽出率(比較例2を参照)を電解質(硝酸)の濃度の関数として示した図である(AOTの濃度およびDAの濃度は、ともに0.002 Mで一定)。この図から、電解質(硝酸)の濃度を大きくすると、逆ミセルサイズを減少させることができるが、それに伴ってユウロピウム(III)の抽出率が著しく減少することがわかる。また、硝酸以外の電解質(たとえば、塩化ナトリウム)を用いても、硝酸の場合と同様にユウロピウム(III)の抽出率を減少させる効果があることがわかっている。なお、逆ミセルのサイズは、DLSによって直接測定した値と、有機相中で内核水相を形成している水の濃度と内核水相の直径が比例することに基づいて算出した値の両方を示す。
【0039】
(比較例2) AOTとDAを含む2液相逆ミセル系において、電解質(硝酸)の濃度を変化させたときのユウロピウム(III)の抽出率の測定
以下に示す要領で、AOTとDAを含む2液相逆ミセル系において、電解質(硝酸)の濃度を変化させたときのユウロピウム(III)の抽出率の測定を行った。
【0040】
1)1×10-5 Mのユウロピウム(III)と種々の濃度(0.05 Mから0.6 M)の硝酸を含む水溶液と、それと同体積の0.002 Mの AOTおよび0.002 MのDAを含むヘキサン溶液を試験管に用意し、25 ℃に設定した恒温庫内で15分間振とうした。
【0041】
2)恒温庫内で5分間、遠心分離した後、両相を分取した。
【0042】
3)分取した水相は、0.5 M硝酸水溶液で希釈した後、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用いて、ユウロピウム(III)の濃度を測定した。
【0043】
4)分取した有機相は、3 M硝酸水溶液を用いて逆抽出操作を行い、逆抽出相を採取して希釈した後、ICP-MSを用いて、ユウロピウム(III)の濃度を測定した。
【0044】
5)3)、4)の測定結果から、ユウロピウム(III)の抽出率を求めた。
【0045】
得られたユウロピウム(III)の抽出率の値を硝酸濃度の関数として、逆ミセルサイズの変化(比較例1を参照)とともに、図3に示す。
【産業上の利用可能性】
【0046】
たとえば、廃水や飛灰溶解液などに含まれる金属を逆ミセルに抽出・分離してナノ粒子を製造することを考えるとき、水相に添加物を加えることなく粒子サイズを制御でき、抽出媒体を繰り返し利用できるということは、コスト面、環境面などで大きな利点になる。また、廃水処理に利用すると、環境に放出されれば有害な金属を抽出によって除去するとともに、高品質なナノ粒子として再資源化することができるので、環境浄化と資源循環を同時に実行できる一挙両得な方法と言える。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】逆ミセルサイズとユウロピウム(III)の抽出率をDA濃度の関数として示した図(硝酸の濃度は0.2 M、AOTの濃度は0.002 Mで一定)である。
【図2】0.002 MのAOTを含むヘキサン溶液に0.002 M のDAを添加した場合と添加しない場合でのユウロピウム(III)の抽出率を硝酸濃度の関数として示した図である。
【図3】逆ミセルサイズとユウロピウム(III)の抽出率を電解質(硝酸)の濃度の関数として示した図(AOTの濃度およびDAの濃度は、ともに0.002 Mで一定)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中の金属イオンや高分子などを、逆ミセルを含む媒体に抽出する2液相系(逆ミセル抽出系)において、電気的に中性な配位子(分子性配位子)を加えることで、抽出媒体中の逆ミセルのサイズを制御する方法。
【請求項2】
前記分子性配位子は、逆ミセルのサイズを制御するだけではなく、逆ミセルに高い抽出・分離機能を付加する働きをすることから、目的物質(たとえば、ナノ粒子化したい物質)に対する高い抽出能と選択的分離能を逆ミセルに持たせつつ、逆ミセルのサイズを小さくできることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
逆ミセルを形成する界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、および両性界面活性剤のうちのいずれかであり、分子性配位子は、金属イオンなどに対して配位能を有する分子性化合物であり、疎水性、親水性、両親媒性のいずれであっても良いことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
抽出媒体が不活性媒体である、アルカン類、超臨界流体二酸化炭素又はフルオラス溶媒であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
陽イオン性界面活性剤がアミン塩型もしくは第4級アンモニウム塩型、陰イオン性界面活性剤がスルホン酸塩型、硫酸エステル塩型、リン酸エステル塩型、もしくはカルボン酸塩型、両性界面活性剤がスルホン酸塩型、硫酸エステル塩型、リン酸エステル塩型、もしくはカルボン酸塩型であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項6】
分子性配位子が1個ないしは複数個(同一または別異)の官能基を持つ化合物であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記官能基が、ホスホリル基、チオホスホリル基、ホスフィン基、カルボニル基、カルバモイル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピロリジニル基、ピペリジル基、メルカプト基、アミド基、イミド基、アミノ基、アミンオキシド基、イミダゾール基、エーテル基、アルコキシル基、チオエーテル基、水酸基、グリコール基、チオール基、チエニル基、スルホニル基、チアジル基、又はアルデヒド基である請求項6記載の方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−330874(P2007−330874A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164769(P2006−164769)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】