説明

逆入力遮断クラッチ

【課題】一方向の入力トルクのみを伝達する逆入力遮断クラッチにおいて、入力トルク伝達後の逆入力トルクに対して入力回転部材の共回りを防止する。
【解決手段】入力歯車1と出力回転部材4とを一定方向にトルク伝達可能に係合(ロック)させるロック手段としてばねクラッチを用い、そのばねクラッチのコイルばね5で入力歯車1に弾性連結されたフライホイール6と固定輪7との間に、フライホイール6を一定方向に空転させ、逆方向の回転に対しては固定輪7と係合させて停止させる一方向クラッチ8を組み込んで、一定方向の入力トルクの供給が停止したときに、フライホイール6が惰走してばねクラッチによる入力歯車1と出力回転部材4とのロック状態を解除した後、コイルばね5の弾性回復によってわずかに逆転して停止することにより、ロック解除状態が維持されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力側に加えられる入力トルクを出力側に伝達し、出力側に加えられる逆入力トルクは入力側に伝達されないようにする逆入力遮断クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
逆入力遮断クラッチは、同一軸心のまわりに回転する入力回転部材と出力回転部材とをトルク伝達可能に連結し、その連結部に逆入力遮断機構、すなわち入力回転部材に加えられる入力トルクを出力回転部材に伝達し、出力回転部材に加えられる逆入力トルクは入力回転部材に伝達しない機構を設けたものである。
【0003】
ところで、逆入力遮断クラッチの使用条件としては、入力回転部材の回転方向が一方向に限定されている場合があることから、本出願人は、このような条件のもとで使用するのに適したコンパクトな逆入力遮断クラッチとして、所定の一方向(一定方向)の入力トルクのみを伝達し、逆入力トルクに対しては出力回転部材が空転する構造のものを提案した(特許文献1参照。)。
【0004】
上記特許文献1に記載された逆入力遮断クラッチの具体的な構造は、入力回転部材の径方向内側に入力回転部材と同心状態に出力回転部材を配し、その出力回転部材の外周面を円筒面とし、入力回転部材の内周面に所定の周方向間隔をおいて複数のポケットを設け、これらの各ポケットの底側に同一方向に傾斜するカム面を設けて、各ポケットのカム面と出力回転部材の円筒面との間に周方向の一側で次第に狭小となる楔形空間を形成し、各ポケットに、ころと、ころを楔形空間の広大側へ向けて付勢する付勢ばねと、ころを挟んで付勢ばねと対向する位置に配される押さえ板とを収容し、押さえ板に固定部材と摺動する摺動ばねを取り付けたものである。
【0005】
このクラッチでは、入力回転部材に一定方向の入力トルクが加えられると、ころが固定部材から摺動ばねを介して回転抵抗を受ける押さえ板に押され、付勢ばねの弾性力に抗して楔形空間の狭小側へ相対移動して入力回転部材および出力回転部材と係合することにより、出力回転部材にトルクが伝達される。一方、出力回転部材に逆入力トルクが加えられたときは、付勢ばねがころおよび押さえ板を楔形空間の広大側へ押すことにより、ころの入力回転部材および出力回転部材との係合(ロック)が解除された状態となるので、出力回転部材が空転して入力回転部材にはトルクが伝達されないようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−351422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上述した特許文献1に記載の逆入力遮断クラッチでは、入力回転部材に入力トルクが加えられて出力回転部材にトルクが伝達された後、入力トルクと逆方向の逆入力トルクが出力回転部材に加えられたときに、入力回転部材が出力回転部材と共回りしてしまうことがある。これは、トルク伝達直後には、ころのロック状態が保持されているからである。すなわち、トルク伝達後のロック状態において、入力トルクと同方向の逆入力トルクが加えられると、ころが出力回転部材から受ける摩擦力と付勢ばねの弾性力により楔形空間の広大側へ移動してロック状態が解除され、出力回転部材が空転するが、逆方向の逆入力トルクが加えられた場合は、ロック状態が解除されず、逆入力トルクが入力回転部材に伝達されてしまうのである。
【0008】
そこで、本発明は、一方向の入力トルクのみを伝達する逆入力遮断クラッチにおいて、入力トルク伝達後の逆入力トルクに対して入力回転部材の共回りを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、入力回転部材と出力回転部材とを同一軸心のまわりに回転自在に配し、前記入力回転部材に一定方向の入力トルクが加えられたときに出力回転部材にトルクが伝達され、前記出力回転部材に逆入力トルクが加えられたときには、出力回転部材が空転して入力回転部材にトルクが伝達されないようにした逆入力遮断クラッチにおいて、前記入力回転部材と出力回転部材とを一定方向にトルク伝達可能に係合(ロック)させるロック手段と、前記入力回転部材に弾性連結された慣性体を有し、前記一定方向の入力トルクの供給が停止したときに、前記慣性体を惰走させて前記ロック手段による入力回転部材と出力回転部材との係合状態を解除し、その解除状態で前記慣性体を停止させるロック解除手段とを備えた構成を採用したのである。
【0010】
上記の構成によれば、入力トルクの供給が停止したときに確実に入力回転部材と出力回転部材とのロック状態を解除し、ロック解除状態を維持することができるので、その後にいずれの方向の逆入力トルクが加えられても入力回転部材が共回りすることがない。
【0011】
ここで、前記ロック解除手段は、前記慣性体としてフライホイールを用い、このフライホイールと固定部材との間に、フライホイールを一定方向に空転させ、逆方向の回転に対しては固定部材と係合させて停止させる一方向クラッチを組み込んだものを採用するとよい。また、前記ロック手段には、ばねクラッチを採用するとよい。
【0012】
前記ばねクラッチは、前記出力回転部材の外周にコイルばねを装着し、このコイルばねの一端部を前記入力回転部材に、他端部を前記フライホイールにそれぞれ係合させて、前記入力回転部材に一定方向の入力トルクが加えられたときに、前記コイルばねが出力回転部材を緊縛するようにしたものとすることができる。
【0013】
前記フライホイールおよび固定部材の具体的な組込構造は、前記固定部材を前記両回転部材と同軸に配される固定輪とし、前記フライホイールを、前記固定輪の外周に前記一方向クラッチを介して取り付けられるものとしたり、前記固定部材を前記両回転部材の軸心と平行に配される固定軸とし、この固定軸の外周に前記一方向クラッチを介して歯車を取り付けるとともに、前記フライホイールを、前記両回転部材と同軸に配され、その外周面に設けた歯で前記歯車と噛み合うものとしたりすることができる。
【0014】
あるいは、前記固定部材を前記両回転部材の軸心と平行に配される固定軸とし、この固定軸の外周に前記一方向クラッチを介して前記フライホイールを取り付けるとともに、前記両回転部材と同一軸心のまわりに回転自在に配され、前記コイルばねの他端部と係合する中間回転部材を設け、この中間回転部材と前記フライホイールに無端ベルトを巻き掛けて、中間回転部材とフライホイールとの間で回転が伝達されるようにすることもできる。
【0015】
一方、前記入出力回転部材の具体的な組込構造は、前記入力回転部材を、前記出力回転部材を構成する出力軸の外周に回転自在に嵌め込んだり、前記入力回転部材および出力回転部材を、固定された中心軸の外周にそれぞれ回転自在に嵌め込まれる入力回転スリーブおよび出力回転スリーブを備えたものとしたりすることができる。
【0016】
また、前記出力回転部材を、固定された中心軸の外周に回転自在に嵌め込まれる出力回転スリーブを備えたものとし、この出力回転スリーブの外周に前記入力回転部材を回転自在に嵌め込むとともに、前記中心軸の外周に前記一方向クラッチを介して前記フライホイールを取り付けるようにしてもよい。
【0017】
前記ばねクラッチは、上記と別の構成として、軸方向中央に形成されたU字状部の両側の部分が互いに逆巻きとされたコイルばねを前記出力回転部材の外周に装着し、このコイルばねのU字状部を前記入力回転部材に係合させ、両端部を前記フライホイールに連結された制御部材に係合させて、前記入力回転部材に一定方向の入力トルクが加えられたときに、前記コイルばねが出力回転部材を緊縛するようにしたものを採用することもできる。
【0018】
ここで、前記制御部材は、前記入力回転部材とコイルばねの径方向の隙間に配される円筒体であり、その中央部に前記コイルばねのU字状部と係合する入力回転部材の係合部を通す窓があけられている場合、この窓の位置で軸方向に2分割して、容易に組み込めるようにすることが望ましい。
【0019】
また、前記ばねクラッチのさらに別の構成として、巻き方向が同一の小径部と大径部とを内外に配してその一端どうしを連結した2重巻のコイルばねを、その小径部で前記出力回転部材の外周に装着し、前記入力回転部材を前記コイルばねの大径部と径方向で対向させ、前記コイルばねの大径部の他端部を前記入力回転部材に係合させ、小径部の他端部を前記フライホイールに係合させて、前記入力回転部材に一定方向の入力トルクが加えられたときに、前記コイルばねの大径部が入力回転部材を緊縛し、小径部が出力回転部材を緊縛するようにしたものを採用してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の逆入力遮断クラッチは、上述したように、一定方向の入力トルクの供給が停止したときに、入力回転部材に弾性連結された慣性体を惰走させて入力回転部材と出力回転部材とのロック状態を解除し、ロック解除状態で慣性体を停止させることにより、ロック解除状態を維持できるようにしたものであるから、その後にいずれの方向の逆入力トルクが加えられても入力回転部材が共回りすることがなく、安定した逆入力遮断動作が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態の逆入力遮断クラッチの縦断正面図
【図2】図1の逆入力遮断クラッチの要部の分解斜視図
【図3】a、b、cは、それぞれ図1のIIIa−IIIa線、IIIb−IIIb線、IIIc−IIIc線に沿った断面図
【図4】a〜dは、それぞれ図1の逆入力遮断クラッチの動作の説明図
【図5】第2実施形態の逆入力遮断クラッチの縦断正面図
【図6】第3実施形態の逆入力遮断クラッチの縦断正面図
【図7】第4実施形態の逆入力遮断クラッチの縦断正面図
【図8】第5実施形態の逆入力遮断クラッチの縦断正面図
【図9】図8の逆入力遮断クラッチの要部の分解斜視図
【図10】第6実施形態の逆入力遮断クラッチの縦断正面図
【図11】図10の逆入力遮断クラッチの要部の分解斜視図
【図12】a、bは、それぞれ図10のXIIa−XIIa線、XIIb−XIIb線に沿った断面図
【図13】第7実施形態の逆入力遮断クラッチの縦断正面図
【図14】aは図13のコイルばねの斜視図、bはaの矢印A方向から見た側面図
【図15】a〜cは、それぞれ図13の逆入力遮断クラッチのXV−XV線に沿った断面での動作説明図
【図16】第8実施形態の逆入力遮断クラッチの縦断正面図
【図17】a、bは、それぞれ図16のコイルばねのフック側およびその反対側から見た側面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を説明する。図1乃至図4は第1の実施形態を示す。この逆入力遮断クラッチは、図1および図2に示すように、入力歯車(入力回転部材)1と、出力軸2に出力歯車3を取り付けた出力回転部材4と、出力軸2の外周に装着されるコイルばね5と、コイルばね5で入力歯車1に連結されるフライホイール(慣性体)6と、出力軸2を回転自在に支持する固定輪(固定部材)7と、フライホイール6と固定輪7との間に組み込まれる一方向クラッチ8とで基本的に構成されている。その入力歯車1は、外部のモータ9から駆動歯車10を介して一定方向の入力トルクが加えられるようになっている。また、入力歯車1および出力回転部材4と同軸に配される固定輪7は、その一端のフランジ部7aで出力軸2を通すハウジング11に固定されている。
【0023】
前記入力歯車1とフライホイール6とは、互いに対向する側の内周に形成されたばね収納部1a、6aにコイルばね5を収納する状態で、出力軸2の外周に回転自在に嵌め込まれている。
【0024】
前記コイルばね5は、図3(a)、(b)にも示すように、一端のフック部5aが入力歯車1のばね収納部1aに設けられた係合溝1bに挿入され、他端のフック部5bがフライホイール6のばね収納部6aに設けられた係合溝6bに挿入されている。そして、入力歯車1に一定方向(図3(a)中の矢印方向)の入力トルクが加えられたときに入力歯車1およびフライホイール6と係合して縮径し、出力軸2を緊縛するようになっている。これにより、入力歯車1と出力回転部材4とを一定方向にトルク伝達可能に係合(ロック)させるロック手段としてのばねクラッチが構成されている。
【0025】
また、前記フライホイール6と固定輪7との間には、前述のように一方向クラッチ8が組み込まれている。言い換えれば、フライホイール6が一方向クラッチ8を介して固定輪7の外周に取り付けられている。
【0026】
前記一方向クラッチ8は、図3(c)に示すように、フライホイール6と一体回転する外輪12の内周面に複数のポケット13を設け、各ポケット13の底側に傾斜カム面13aを形成し、各ポケット13にころ14ところ14をポケット13の狭小側へ付勢する板ばね15を1つずつ組み込んだものである。そして、フライホイール6が一定方向(図中の矢印方向)に回転するときは、ころ14が外輪12のポケット13の広大側へ相対移動してフリー状態となることにより、フライホイール6とともに回転し、フライホイール6が逆方向に回転しようとすると、ころ14が外輪12のポケット13の狭小側へ相対移動して傾斜カム面13aおよび固定輪7の外周面と係合することにより、フライホイール6とともに停止するようになっている。すなわち、この一方向クラッチ8は、フライホイール6を固定輪7に対して一定方向に空転させ、逆方向の回転に対しては固定輪7と係合させて停止させる作用がある。
【0027】
次に、この逆入力遮断クラッチの動作について説明する。まず、入力歯車1に一定方向の入力トルクが加えられると、前述のように、ばねクラッチの作用によりコイルばね5が縮径して出力軸2を緊縛し、出力回転部材4が回転駆動される。このとき、コイルばね5と係合するフライホイール6も一方向クラッチ8の作用により一定方向に空転する。
【0028】
上記の入力トルクの供給が停止すると、図4(a)、(b)に示すように、出力軸2(出力回転部材4)も停止するが、フライホイール6は入力歯車1にコイルばね5で弾性連結されており、一方向クラッチ8は引き続きフライホイール6を空転させる状態にあるため、フライホイール6が慣性力により惰走してコイルばね5を拡径させる。これにより、ばねクラッチによる入力歯車1と出力回転部材4とのロック状態が解除される。その後、フライホイール6は拡径したコイルばね5の弾性力を受けて一旦停止する。
【0029】
そして、図4(c)、(d)に示すように、一旦停止したフライホイール6は、コイルばね5の弾性回復により入力トルクと逆の方向へわずかに回転するが、その直後に一方向クラッチ8の作用により固定輪7と係合して停止する。このとき、コイルばね5は図4(a)の状態よりもわずかに縮径するが、予めコイルばね5の剛性や入力歯車1の回転数に応じてフライホイール6の重量や径方向寸法を適切に設定して、コイルばね5が出力軸2を緊縛するまでに停止するように調整しておくことにより、ロック解除状態を維持することができる。従って、この後に出力歯車3に逆入力トルクが加えられても、出力回転部材4は逆入力トルクの方向によらず空転し、入力歯車1が共回りすることはない。
【0030】
この逆入力遮断クラッチは、上述したように、入力歯車1への一定方向の入力トルクの供給が停止したときに、入力歯車1に弾性連結したフライホイール6を惰走させて、ばねクラッチによるロック状態を解除し、ロック解除状態でフライホイール6を停止させるロック解除手段を設けて、ロック解除状態を維持できるようにしたので、入力トルク供給停止後にいずれの方向の逆入力トルクを加えられても入力歯車1が共回りせず、安定した逆入力遮断動作が得られる。
【0031】
また、入力歯車1から出力回転部材4へのトルク伝達にばねクラッチを用いているので、そのばねクラッチのコイルばね5を交換するだけで伝達トルクの大きさを変更できるという利点もある。
【0032】
なお、上述した第1の実施形態では入力歯車1を出力軸2の外周に回転自在に嵌め込んだが、出力軸2と同径の入力軸をコイルばね5の中央位置で出力軸2と軸方向に対向するように配して、この入力軸の外周に入力歯車1を一体回転するように嵌め込んでもよい。また、フライホイール6の逆回転を止める一方向クラッチは、実施形態のころ式のものに代えてばねクラッチを使用することにより、コストの低減を図ることができる。
【0033】
図5乃至図15に示す第2乃至第7の実施形態は、それぞれ第1実施形態に対して、フライホイールおよび固定部材の組込構造、入出力回転部材の組込構造、ばねクラッチの構成等を変更したもので、基本的な構成および動作は第1実施形態と同じである。従って、以下では、これらの各実施形態の第1実施形態と異なる部分について説明する。
【0034】
図5に示す第2の実施形態は、第1実施形態の固定輪7に代わる固定部材として、フライホイール6の外側でハウジング11に固定される固定軸16を、入力歯車1および出力回転部材4の軸心と平行に設け、この固定軸16の外周に一方向クラッチ8を介して歯車17を取り付けるとともに、フライホイール6をその外周面に設けた歯6cで歯車17と噛み合うものとしている。
【0035】
図6に示す第3の実施形態は、第2実施形態と同様に固定軸16を設けるとともに、第1実施形態のフライホイール6を、固定軸16の外周に一方向クラッチ8を介して取り付けられるフライホイール18と、出力軸2の外周に回転自在に嵌め込まれ、コイルばね5の他端のフック部5bと係合する中間回転部材19とに分割し、その中間回転部材19とフライホイール18の一側に設けたプーリ部18aに無端ベルト20を巻き掛けて、中間回転部材19とフライホイール18との間で回転が伝達されるようにしたものである。
【0036】
図7に示す第4の実施形態は、第1実施形態の出力軸2の代わりに、固定された中心軸21を逆入力遮断クラッチの中心に配し、この中心軸21の外周に回転自在に嵌め込まれる入力回転スリーブ22と、入力回転スリーブ22と一体回転する入力歯車23とで入力回転部材を構成し、中心軸21の外周に回転自在に嵌め込まれる出力回転スリーブ24と、出力回転スリーブ24と一体回転する出力歯車25とで出力回転部材を構成している。その入力回転スリーブ22と出力回転スリーブ24は、コイルばね5の中央位置で軸方向に対向するように配されている。また、フライホイール6は出力回転スリーブ24の外周に回転自在に嵌め込まれ、固定輪7は出力回転スリーブ24の外周を回転自在に支持するようになっている。
【0037】
図8および図9に示す第5の実施形態は、第4実施形態と同様に中心軸21を設けるとともに、中心軸21の外周に回転自在に嵌め込まれる出力回転スリーブ24と、出力回転スリーブ24と一体回転する出力歯車25とで出力回転部材を構成している。そして、入力回転部材としての入力歯車26が、出力回転スリーブ24の外周に回転自在に嵌め込まれている。また、フライホイール27は中心軸21の外周に一方向クラッチ8を介して取り付けられており、第1実施形態の固定輪7は不要とされている。なお、この実施形態では、出力歯車25が入力歯車26と軸方向で隣接する位置に配され、中心軸21の一端にはフライホイール27を抜け止めするフランジ21aが設けられている。
【0038】
図10乃至図12(a)、(b)に示す第6の実施形態は、上述した第5実施形態をベースとし、第1乃至第5の実施形態のコイルばね5に代えて、軸方向中央に形成されたU字状部28aの両側の部分が互いに逆巻きとされたコイルばね28(図11参照)を用いて、ばねクラッチの構成を変更したものである。
【0039】
この実施形態のばねクラッチは、前記U字状部28aを有するコイルばね28を出力回転スリーブ24の外周に装着し、そのU字状部28aを入力歯車29の内周に設けた係合突起29a、29bに係合させ、両端部をフライホイール30に連結された制御部材31に係合させたものである。入力歯車29は、その両端部の内周に取り付けられた蓋32を介して、制御部材31の外周に回転自在に嵌め込まれている。
【0040】
前記制御部材31は、入力歯車29とコイルばね28の径方向の隙間に配される円筒体で、出力回転スリーブ24の外周に回転自在に嵌め込まれている。その中央部には入力歯車29の内周面に形成された2つの係合突起(係合部)29a、29bを通す窓31aがあけられており、容易に組み込めるように窓31aの位置で軸方向に2分割されている。また、その窓31aから軸方向両側に延びる係合溝31bが設けられ、各係合溝31bにそれぞれコイルばね28の両端のフック部28bが挿入されるようになっている。そして、フライホイール30と対向する側の端部に設けた凹部31cに、フライホイール30の端面に設けた凸部30aが嵌め込まれて、フライホイール30と一体回転するように連結されている。
【0041】
従って、入力歯車29に一定方向の入力トルクが加えられると、コイルばね28のU字状部28aが入力歯車29の一方の係合突起29aに押され、U字状部28aの両側部分がいずれも縮径して出力回転スリーブ24を緊縛することにより、出力回転スリーブ24が出力歯車25と一体に回転する。このとき、入力歯車29の回転がコイルばね28および制御部材31を介してフライホイール30にも伝達され、フライホイール30が空転する。
【0042】
そして、入力トルクの供給が停止すると、フライホイール30が制御部材31とともに惰走し、制御部材31がコイルばね28の両端のフック部28bを押すことにより、コイルばね28のU字状部28aが入力歯車29の他方の係合突起29bに当接し、U字状部28aの両側部分が拡径して、ばねクラッチによるロック状態が解除される。
【0043】
すなわち、この実施形態では、フライホイール30が制御部材31を介して第1実施形態のフライホイール6の役割を果たすようになっている。従って、上記のようにロック状態が解除された後も、第1実施形態で説明したのと同様の動作により、ロック解除状態が維持される。
【0044】
また、図13乃至図15に示す第7の実施形態は、第6実施形態と同様に第5実施形態をベースとし、巻き方向が同一の小径部33aと大径部33bとを内外に配してその一端どうしを連結した2重巻のコイルばね33(図14(a)、(b)参照)を用いて、ばねクラッチの構成を変更したものである。
【0045】
この実施形態のばねクラッチは、前記2重巻のコイルばね33をその小径部33aで出力回転スリーブ24の外周に装着し、入力歯車34をコイルばね33の大径部33bと径方向で対向させ、コイルばね33の大径部33bの他端のフック部33dを入力歯車34に係合させ、小径部33aの他端のフック部33cをフライホイール35に係合させたものである。
【0046】
この実施形態では、入力歯車34に一定方向の入力トルクが加えられると、図15(a)に示すように、コイルばね33の大径部33bが拡径して入力歯車34を緊縛し、小径部33aが縮径して出力回転スリーブ24を緊縛することにより、出力回転スリーブ24が出力歯車25と一体に回転し、フライホイール35は空転する。このとき、入力歯車34からはコイルばね33の大径部33b全体に対してトルク伝達が行われるので、過大な入力トルクが加えられたときもコイルばね33の破損が生じにくい。
【0047】
そして、入力トルクの供給が停止すると、図15(b)に示すように、フライホイール35が惰走してコイルばね33の小径側のフック部33cを押すことにより、コイルばね33の小径部33aが拡径してばねクラッチによるロック状態が解除される。なお、このとき、コイルばね33の大径部33bは縮径して入力歯車34に対する緊縛も解かれる。
【0048】
その後、図15(c)に示すように、フライホイール35がわずかに逆転して、コイルばね33の小径部33aが拡径した状態で停止することにより、ロック解除状態が維持される点は、第1実施形態で説明した動作と同じである。
【0049】
図16および図17(a)、(b)に示す第8の実施形態は、第7実施形態をベースとし、巻き方向が互いに逆の小径部36aと大径部36bとを内外に配してその一端どうしを連結した2重巻のコイルばね36と、内筒37aを有する二重筒構造の入力歯車37を用いたものである。
【0050】
この実施形態では、前記2重巻のコイルばね36をその小径部36aで出力回転スリーブ24の外周に装着するとともに、その大径部36bを入力歯車37の内筒37aの外周面に近接対向させ、小径部36aの他端のフック部36cをフライホイール35に、大径部36bの他端のフック部36dを入力歯車37にそれぞれ係合させている。なお、コイルばね36の各フック部36c、36dは、上述した各実施形態と異なり、軸方向に突出している。また、入力歯車37は、コイルばね36が挿入される開口を塞ぐ蓋38を介して、出力回転スリーブ24の外周に回転自在に嵌め込まれている。
【0051】
従って、入力歯車37に一定方向の入力トルクが加えられると、コイルばね36の大径部36bと小径部36aがいずれも縮径して、入力歯車37の内筒37aおよび出力回転スリーブ24をそれぞれ緊縛し、入力トルクの供給が停止すると、コイルばね36の小径部36aと大径部36bがいずれも拡径して、ばねクラッチのロック状態が解除されるとともに入力歯車37の内筒37aに対する緊縛も解かれる。
【0052】
すなわち、この実施形態と第7実施形態とでは、コイルばねが入力歯車を緊縛するとき、およびその緊縛が解かれるときの動作は異なっているが、その他の動作、および過大な入力トルクに対してもコイルばねの破損が生じにくい点は同じである。
【符号の説明】
【0053】
1、23、26、29、34、37 入力歯車
1a ばね収納部
1b 係合溝
2 出力軸
3、25 出力歯車
4 出力回転部材
5、28、33、36 コイルばね
5a、5bフック部
6、18、27、30、35 フライホイール
6a ばね収納部
6b 係合溝
6c 歯
7 固定輪
8 一方向クラッチ
16 固定軸
17 歯車
19 中間回転部材
20 無端ベルト
21 中心軸
22 入力回転スリーブ
24 出力回転スリーブ
28a U字状部
28b フック部
29a、29b 係合突起
31 制御部材
31a 窓
31b 係合溝
33a、36a 小径部
33b、36b 大径部
33c、33d、36c、36d フック部
37a 内筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力回転部材と出力回転部材とを同一軸心のまわりに回転自在に配し、前記入力回転部材に一定方向の入力トルクが加えられたときに出力回転部材にトルクが伝達され、前記出力回転部材に逆入力トルクが加えられたときには、出力回転部材が空転して入力回転部材にトルクが伝達されないようにした逆入力遮断クラッチにおいて、
前記入力回転部材と出力回転部材とを一定方向にトルク伝達可能に係合させるロック手段と、
前記入力回転部材に弾性連結された慣性体を有し、前記一定方向の入力トルクの供給が停止したときに、前記慣性体を惰走させて前記ロック手段による入力回転部材と出力回転部材との係合状態を解除し、その解除状態で前記慣性体を停止させるロック解除手段とを備えていることを特徴とする逆入力遮断クラッチ。
【請求項2】
前記ロック解除手段が、前記慣性体としてフライホイールを用い、このフライホイールと固定部材との間に、フライホイールを一定方向に空転させ、逆方向の回転に対しては固定部材と係合させて停止させる一方向クラッチを組み込んだものであることを特徴とする請求項1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項3】
前記ロック手段がばねクラッチであることを特徴とする請求項2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項4】
前記ばねクラッチは、前記出力回転部材の外周にコイルばねを装着し、このコイルばねの一端部を前記入力回転部材に、他端部を前記フライホイールにそれぞれ係合させて、前記入力回転部材に一定方向の入力トルクが加えられたときに、前記コイルばねが出力回転部材を緊縛するようにしたものであることを特徴とする請求項3に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項5】
前記固定部材を前記両回転部材と同軸に配される固定輪とし、前記フライホイールは、前記固定輪の外周に前記一方向クラッチを介して取り付けられるものとしたことを特徴とする請求項4に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項6】
前記固定部材を前記両回転部材の軸心と平行に配される固定軸とし、この固定軸の外周に前記一方向クラッチを介して歯車を取り付けるとともに、前記フライホイールは、前記両回転部材と同軸に配され、その外周面に設けた歯で前記歯車と噛み合うものとしたことを特徴とする請求項4に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項7】
前記固定部材を前記両回転部材の軸心と平行に配される固定軸とし、この固定軸の外周に前記一方向クラッチを介して前記フライホイールを取り付けるとともに、前記両回転部材と同一軸心のまわりに回転自在に配され、前記コイルばねの他端部と係合する中間回転部材を設け、この中間回転部材と前記フライホイールに無端ベルトを巻き掛けて、中間回転部材とフライホイールとの間で回転が伝達されるようにしたことを特徴とする請求項4に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項8】
前記入力回転部材を、前記出力回転部材を構成する出力軸の外周に回転自在に嵌め込んだことを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項9】
前記入力回転部材および出力回転部材を、固定された中心軸の外周にそれぞれ回転自在に嵌め込まれる入力回転スリーブおよび出力回転スリーブを備えたものとしたことを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項10】
前記出力回転部材を、固定された中心軸の外周に回転自在に嵌め込まれる出力回転スリーブを備えたものとし、この出力回転スリーブの外周に前記入力回転部材を回転自在に嵌め込むとともに、前記中心軸の外周に前記一方向クラッチを介して前記フライホイールを取り付けたことを特徴とする請求項4に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項11】
前記ばねクラッチは、軸方向中央に形成されたU字状部の両側の部分が互いに逆巻きとされたコイルばねを前記出力回転部材の外周に装着し、このコイルばねのU字状部を前記入力回転部材に係合させ、両端部を前記フライホイールに連結された制御部材に係合させて、前記入力回転部材に一定方向の入力トルクが加えられたときに、前記コイルばねが出力回転部材を緊縛するようにしたものであることを特徴とする請求項3に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項12】
前記制御部材は、前記入力回転部材とコイルばねの径方向の隙間に配される円筒体であり、その中央部に前記コイルばねのU字状部と係合する入力回転部材の係合部を通す窓があけられ、この窓の位置で軸方向に2分割されていることを特徴とする請求項11に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項13】
前記ばねクラッチは、巻き方向が同一の小径部と大径部とを内外に配してその一端どうしを連結した2重巻のコイルばねを、その小径部で前記出力回転部材の外周に装着し、前記入力回転部材を前記コイルばねの大径部と径方向で対向させ、前記コイルばねの大径部の他端部を前記入力回転部材に係合させ、小径部の他端部を前記フライホイールに係合させて、前記入力回転部材に一定方向の入力トルクが加えられたときに、前記コイルばねの大径部が入力回転部材を緊縛し、小径部が出力回転部材を緊縛するようにしたものであることを特徴とする請求項3に記載の逆入力遮断クラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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