説明

逆打ち工法におけるコンクリートの打継方法

【課題】 先打ちコンクリートと後打ちコンクリートの打継部において、確実に区画できて耐久性と防水性に対する信頼性の向上を図ること。
【解決手段】 コンクリート躯体の幅厚方向に向けた複数の拡縮成形体50を、先打ちコンクリート1aの打継面に間隔を隔てて設置し、拡縮成形体50を埋没させて後打ちコンクリート1bを構築し、拡縮成形体50を撤去してコンクリート打継部に注入路11を形成し、注入路11に注入材を充填して仕切材12を形成し、仕切材12でコンクリート打継部をブロック化した区画内で、注入ホース3を介して打継部に注入材を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は逆打ち工法におけるコンクリートの打継方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
逆打ち工法において、後打ちコンクリートを先打ちコンクリートの下面に接する高さまで打設しても、ブリージングや自己沈下、施工不良等の理由により打継部に隙間が生じる。
特許文献1には逆打ち工法における打継部の隙間の処理方法が開示されている。
これを図11〜図13を基に説明すると、この方法は、先打ちコンクリート1aの下面と後打ちコンクリート1bとの上面の間に、仕切板2を設けて打継部をブロックに分割し、予め先打ちコンクリート1aの下面に取り付けた逆止弁機能付きの注入ホース3を通じてブロック単位で打継部の隙間に注入材を効率よく注入するものである。
仕切板2は断面形状がT字形やL字形を呈し、その全長がコンクリート躯体の幅厚と等しい長さを有するもので、先打ちコンクリート1aの下面に予め取り付けてある。尚、図中符号4は山留め壁、5は地山である。
【0003】
【特許文献1】特許第3396851号公報(段落0023〜0040、図1〜図16)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したコンクリートの打継方法にはつぎのような問題点がある。
(1)図13に示すように先打ちコンクリート1aと後打ちコンクリート1bの打継部における隙間6の発生の有無や発生量、および仕切板2による仕切り状況を確認する好適な手段がない。
そのため、両コンクリート1a,1bの打継部に、仕切板2の高さを越える大きさの隙間6があると仕切り機能を喪失する。その結果、図11に矢印で示すように、注入材が仕切板2を越えて隣のブロックへ逃げ出てしまう。
このように仕切板2を設置していながら、ブロック毎に確実な注入ができないことから、打継部における耐久性と防水性に対する信頼性が低いものとなる。
(2)仕切板2の仕切り機能を高める手段として、仕切板の高さを高くする方法が考えられるが、仕切板2の高さを高くするほどコンクリート躯体の分断量が増して強度面で悪影響を及ぼすという不具合がある。
(3)仕切板2はコンクリートに付着して撤去が困難であることから埋め殺しにしている。
仕切板2の使い捨ては単に不経済なだけでなく、コンクリート躯体の断面欠損を放置することになり強度面で悪影響を及ぼす。
(4)予め組み付けた逆止弁機能付きの注入ホース3を通じて隙間6を解消しているが、逆止弁機能付きの注入ホース3の時間単位当たりの注入性能はそれほど高くないため、隙間6が大きい場合は注入に長時間を要する。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは、つぎの何れかひとつの逆打ち工法におけるコンクリートの打継方法を提供することにある。
(1)先打ちコンクリートと後打ちコンクリートの打継部において、確実に区画できて耐久性と防水性に対する信頼性の向上が図れること。
(2)コンクリート躯体の分断を解消すると共に、断面欠損の発生も回避できること。
(3)経済的に施工できること。
(4)打継部に大きな隙間が発生している場合、効率よく短時間に注入材を注入できること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の第一発明は、コンクリート打継部に注入ホースを設置し、該注入ホースを介して打継部に注入材を注入する、逆打ち工法におけるコンクリートの打継方法であって、コンクリート躯体の幅厚方向に向けた複数の拡縮成形体を、先打ちコンクリートの打継面に間隔を隔てて設置し、前記拡縮成形体を埋没させて後打ちコンクリートを構築し、前記拡縮成形体を撤去してコンクリート打継部に注入路を形成し、前記注入路に注入材を充填して仕切材を形成し、前記仕切材でコンクリート打継部をブロック化した区画内で、注入ホースを介して打継部に注入材を注入することを特徴とするものである。
本願の第二発明は、前記した第一の発明において、コンクリート打継部に形成した注入路を利用入してコンクリート打継部の状況を確認した後に、前記注入路に注入材を充填して仕切材を形成することを特徴とするものである。
本願の第三発明は、前記した第一または第二の発明において、注入ホースの敷設長より広い間隔を隔てて拡縮成形体を配置して注入路と仕切材を形成することを特徴とするものである。
本願の第四発明は、前記した第一乃至第三の何れかの発明において、拡縮成形体が断面方向にその形状を膨張及び収縮可能に構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は以下のいずれか一つの効果を得ることができる。
(1)注入路を利用して仕切材を形成できるので、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートの打継部の間を確実に仕切ることができる。
そのため、注入材の漏出を回避しながら注入ホースによる注入を確実に行うことができ、打継部の耐久性と防水性に対する信頼性が向上する。
(2)拡縮成形体は撤去するので打継部に拡縮成形体が残ることがない。
注入路は注入材を充填して閉鎖するのでコンクリート躯体の分断の問題や断面欠損の問題も解消できる。
(3)注入路を利用することによりコンクリート打継部の状況を正確に把握して、注入材の充填に役立たせることができ、経済的な施工が可能となる。
(4)打継部に大きな隙間が発生している場合でも、注入ホースではなく、注入路を通じてこの隙間に注入材を効率よく短時間で注入できる。
(5)撤去した拡縮成形体は繰り返し再使用(転用)が可能であるため、資材の無駄を省いて経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明する。
まず施工に使用する主要な機材について説明する。
【0009】
[使用機材]
<1>注入ホース
注入ホース3は逆流防止機能を具備した公知の注入管で、図1に示すように先打ちコンクリート1aと後打ちコンクリート1bの打継部に介装される。
【0010】
図3に例示した注入ホース3について説明すると、注入ホース3は、中空コア31と、中空コア31の外溝32に嵌め込んだゴム製の帯弁33と、これら中空コア31及び帯弁33を被覆するメッシュ34とにより構成されている。
【0011】
中空コア31の外溝32の溝底には、中空コア31の軸路31aと連通する吐出口35が設けられていて、通常は帯弁33が吐出口35を閉鎖している。軸路31aの内圧が一定以上に達したときのみ帯弁33が吐出口35を開放し得る構造になっている。
【0012】
また注入ホース3の両端には延長管36が接続している。延長管36は弁機構を持たず、コンクリート躯体の外部へ突出し得るだけの長さを有する。
注入ホース3は上記したものに限定されず、例えば逆止弁機構は公知の各種機構を適用でき、また吐出方向は全方向に吐出する他に特定方向に吐出する形態も適用できる等、公知の注入機材を適用することができることは勿論である。
【0013】
<2>拡縮成形体
拡縮成形体50は図1に示すように先打ちコンクリート1aの下面の打継面に配置し、後打ちコンクリート1bの躯体に注入路11を成形するための型材であり、少なくとも断面(径)方向に向けて拡縮可能に構成してある。
【0014】
注入路11は最終的に注入材を充填して閉鎖するため、注入路11の断面方向の大きさは特に制限を受けない。そのため、拡縮成形体50の断面方向の大きさは任意である。
また拡縮成形体50の拡張時の断面形状は、円形に限定されるものではなく、楕円形や角形であってもよく、断面形状に制約を受けない。
【0015】
拡縮成形体50としては、例えば図1に示すようなエア等の流体圧の給排により膨縮する円柱状のチューブ体を採用できる。
【0016】
また拡縮成形体50のその他の形態としては、図4に示すようなバルブ51付きの中空体52に環状チューブ53を外装し、中空体に51に流体を供給して環状チューブ53を風船状に膨らませるものや、図5に示すような環状チューブ53の両側をネジ機構により接近方向に押圧可能に構成するものを採用できる。
【0017】
拡縮成形体50に要求されることは、径方向に拡縮可能な構成であることであり、この条件を満たすものであれば、流体圧の他にメカニカルな機構等の公知の各種の拡縮手段を適用することができる。
また拡縮成形体50のその全長は後打ちコンクリート1bの幅厚以上であることが望ましいが、カバー等の補助資材を併用すればその全長は後打ちコンクリート1bの幅厚より小さくてもよい。
【0018】
[施工方法]
つぎに逆打ち工法における打継部の処理方法について説明する。
【0019】
<1>先打ちコンクリートの打設
型枠工と配筋工を行い、コンクリートを打設して先打ちコンクリート1aを構築する。
【0020】
<2>注入ホースと拡縮成形体のセット
コンクリートの養生後に型枠を撤去する。
先打ちコンクリート1aの下面の打継面に、図6に示すような定着クリップ37を介して注入ホース3を設置する。両端の延長管36を内側へ出しておく。
また、先打ちコンクリート1aの下面の打継面に横断溝を形成し、この横断溝内に注入ホース3を配置する場合もある。
【0021】
注入ホース3の設置と前後して、図7に示すように先打ちコンクリート1aの下面の打継面に、コンクリート躯体の幅厚方向に向けて複数の拡縮成形体50を所定の間隔を隔てて設置する。
拡縮成形体50の設置間隔は、少なくとも注入ホース3の敷設長より広くする。
【0022】
<3>後打ちコンクリートの打設
先打ちコンクリート1aと同様に、型枠工と配筋工を行う。
拡縮成形体50は所定の大きさに膨張させておき、そし図8に示すように先打ちコンクリート1aの下面に接するまでコンクリートを打設して後打ちコンクリート1bを構築する。
拡縮成形体50の外形はコンクリートの打設圧力によって変形しない。
先打ちコンクリート1aと後打ちコンクリート1bの打継部に、横断方向に配置した棒状の拡縮成形体50を残置したまま養生する。
尚、先打ちコンクリート1aと後打ちコンクリート1bを構築する際に、必要に応じて型枠にエア抜き管を取り付ける。
【0023】
<4>拡縮成形体の回収と再使用
後打ちコンクリート1bの強度がある程度発現してきたら、図9に示すように流体を抜く等の収縮操作を行って拡縮成形体50をコンクリートから剥離して撤去し、拡縮成形体50の撤去跡に注入路11をする。
回収した拡縮成形体50は再使用に供する。
尚、拡縮成形体50の外周面を予め剥離性のコーティングやシート等で被覆しておくと、コンクリートとの縁切りを容易にすることができる。
【0024】
<5>打継部の状況確認
ブリージングや自己沈下、施工不良等の理由により、両コンクリート1a,1bの打継部に隙間が生じる。
これまでは、打継部の躯体幅が厚くなるほど隙間の奥が見え難く、隙間の発生程度や位置等の状況を確認することが極めて困難であった。
【0025】
本発明では、両コンクリート1a,1bの打継部に形成した注入路11を通して、打継部の状況を確認することができる。
状況確認は目視により行ってもよいが、注入路11内にファイバースコープ等のカメラを差し込んで見れば、隙間の発生量や発生程度を正確に確認できる。
【0026】
<6>仕切材の形成
つぎに図1に示すように、注入路11内に注入材を充填して仕切材12を形成する。
本発明では、図10に拡大して示すように、打継部に発生する隙間が拡縮成形体50の拡張時の高さを超えた大きさであっても、注入路11に注入材を充填することによって、拡縮成形体50の拡張時の高さを超えた範囲にも注入材を充填できるので、注入ホース3の設置した両側を仕切材12,12で仕切ってブロック化することができる。
【0027】
従来は打継部の背面(地山)側に大きな間隙が発生しているような場合でも、注入ホース3を通じて大量の注入材を充填していた。
これに対して本発明では、注入路11内に注入材を充填して仕切材12を形成するときに、このような大きな間隙を解消しておくことができる。
すなわち、注入路11の容積は既知であり、またの近くの隙間量は注入路11を利用して確認済であるから、注入路11の入口側からこれらの既知の量の注入材を充填することで、注入路11と近くの隙間に注入材を無駄なく経済的に充填することができる。
【0028】
注入路11を通した充填は、打継部の全域に亘って行う場合もあるが、原則的には注入路11とその周辺だけである。
また通常、注入材には高価な無収縮性の樹脂やセメント系固結材が用いられるが、注入路11と周辺の隙間の充填に安価で一定品質以上の固結材を使用すると経済的である。
【0029】
<7>注入ホースによる注入
先打ちコンクリート1aと後打ちコンクリート1bの打継部に介在させた注入ホース3の一方から所定の注入材を注入して、打継部へ圧入する。
このとき、注入ホース3の他端に圧力計や開閉弁を設けておき、注入材の注入圧力を管理して好適な圧力で注入する。
注入材としては、例えばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セメント系スラリー等が使用可能である。
【0030】
図2に示す如く、注入ホース3を配置したエリアは、両側を注入材で形成した仕切材12,12により区画されているので、仕切材12を越えて注入材が隣のブロックへ浸透することを確実に防止できる。また注入材の注入量管理が容易であり、注入材の加圧注入を効率良く行え、施工効率が大幅に向上する。
【0031】
図示しないエア抜き管から注入材の漏れ出しを確認できるまで、注入ホース31による注入作業を継続することは従来と同様である。
このようにブロック毎に確実な注入をすることができることから、両コンクリート1a,1bの打継部における耐久性と防水性に対する信頼性が著しく向上する。
【0032】
必要に応じて、注入ホース3による注入を完了したら、真空ポンプ等でホース3内の注入材を吸引して排出した後、注入ホース3内に送水して洗浄する。
そして、一次注入した注入材が硬化した後、再度注入材の二次注入を行う場合もある。この再注入工程は防水の必要性に応じて繰り返すこととし、その都度、注入ホース3内を洗浄して次注入に備える。
注入材を打継部に十分に注入した後、注入ホース3の両端を切断し、公知のシール材によって埋没処理する。
以上の各工程を各ブロック毎に行って、両コンクリート1a,1bの打継部の空隙処理を行うと共に、両コンクリート1a,1bの一体化を図る。
【0033】
<8>その他の実施の形態
以上は拡縮成形体50が棒状を呈する場合について説明したが、中心部に孔を有するドーナツ形(竹輪形)であっても、同様に注入路11を形成することができる。
中心部に孔を有する拡縮成形体50使用した場合は、後打ちコンクリート1bの構築時に拡縮成形体50をエア抜き管と兼用して活用できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る説明図で、逆打ち工法の要部を表した斜視図
【図2】注入材ホースによる注入作業を説明するためのコンクリート打継部の平面モデル図
【図3】一部を省略した注入ホースの説明図
【図4】他の拡縮成形体の説明図
【図5】他の拡縮成形体の説明図
【図6】注入ホースを設置した先打ちコンクリートの打継面の拡大断面図
【図7】拡縮成形体を設置した先打ちコンクリートの打継面の拡大断面図
【図8】後打ちコンクリートの構築時の説明図
【図9】拡縮成形体の収縮撤去時におけるコンクリートの打継部の拡大断面図
【図10】仕切材の構築時におけるコンクリートの打継部の拡大断面図Qの実施例の説明図。
【図11】従来のコンクリートの打継部の平面モデル図
【図12】図11におけるXII−XIIの断面図
【図13】図11におけるXIII−XIIIの断面図
【符号の説明】
【0035】
1a・・・先打ちコンクリート
1b・・・後打ちコンクリート
11・・・注入路
12・・・仕切材
2・・・・仕切板
3・・・・注入ホース
4・・・・山留壁
5・・・・地山
50・・・拡縮成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート打継部に注入ホースを設置し、該注入ホースを介して打継部に注入材を注入する、逆打ち工法におけるコンクリートの打継方法であって、
コンクリート躯体の幅厚方向に向けた複数の拡縮成形体を、先打ちコンクリートの打継面に間隔を隔てて設置し、
前記拡縮成形体を埋没させて後打ちコンクリートを構築し、
前記拡縮成形体を撤去してコンクリート打継部に注入路を形成し、
前記注入路に注入材を充填して仕切材を形成し、
前記仕切材でコンクリート打継部をブロック化した区画内で、注入ホースを介して打継部に注入材を注入することを特徴とする、
逆打ち工法におけるコンクリートの打継方法。
【請求項2】
請求項1において、コンクリート打継部に形成した注入路を利用してコンクリート打継部の状況を確認した後に、前記注入路に注入材を充填して仕切材を形成することを特徴とする、逆打ち工法におけるコンクリートの打継方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、注入ホースの敷設長より広い間隔を隔てて拡縮成形体を配置して注入路と仕切材を形成することを特徴とする、逆打ち工法におけるコンクリートの打継方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかにおいて、拡縮成形体が断面方向にその形状を膨張及び収縮可能に構成されていることを特徴とする、逆打ち工法におけるコンクリートの打継方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−52554(P2006−52554A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233834(P2004−233834)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(593193354)シンエイマスター株式会社 (2)
【出願人】(393012297)トーヨー産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】