説明

逆流防止ゲート

【課題】施工が容易であり、ワイヤ弛緩に起因する巻上機ドラムからのワイヤ離脱が発生し難く、四方水密構造の流路にも設置可能な浮力式の逆流防止ゲートを提供する。
【解決手段】逆流防止ゲート10は、流路11の底部11bに支承部12を介して起伏可能に配置され水中で浮力を生じる扉体13と、係止手段14を介して先端側が扉体13に繋がれたワイヤ15と、ワイヤ15の基端側を巻き取る巻上機15と、を備え、扉体13の起伏範囲16内において係止手段14がワイヤ15の長手方向15Lに沿ってスライド可能である。係止手段14は、ワイヤ15をその長手方向15Lに沿ってスライド可能に把持する把持部材18を有し、この把持部材18のスライドを所定位置(ワイヤ15の先端部)で阻止するためのストッパ19をワイヤ15の先端側に設けている。このストッパ19は、ワイヤ15に張力を付与するための重錘としての機能も有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川側や海洋側と水路側との水位差に応じて起伏動作することにより河川や海洋側からの水の逆流を防止する機能を備えた浮力式の逆流防止ゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川管理施設としての樋門や樋管には、集中豪雨などで河川が増水したときの逆流を防止するため浮力式の逆流防止ゲートが設置されている例がある。浮力式の逆流防止ゲートは、一定方向に水を流す流路の底面に水中で浮力を生ずる扉体を、水平軸を中心に起伏自在に軸支した構造である。また、浮力式の逆流防止ゲートは、満潮などによって潮位が上昇した場合に、海水が河川側へ逆流することを防止する管理設備として採用されることもある。
【0003】
平常時は流路の上流側の水位が高いので、浮力式の逆流防止ゲートの扉体は下流側へほぼ水平に倒伏した状態にあり、水は扉体を乗り越えて流路の上流側から下流側に向かって一定方向に流れている。
【0004】
一方、集中豪雨などで河川が増水し、流路の下流側の水位が上昇すると、扉体は水の浮力によって上流側に起立した状態となるため、流路内に、下流側から上流側に向かう逆流が発生するのを防止することができる。
【0005】
また、浮力式の逆流防止ゲートにおいては、管理あるいは貯水を目的として扉体を起伏させるためのワイヤ式巻上機が設置される場合がある。ワイヤ式巻上機が設置された、浮力式の逆流防止ゲートにおいては、浮力による扉体の起伏動作により、ワイヤが緩んで、巻上機のドラムからワイヤが外れ、その後の巻き上げ動作が不能になる場合がある。
【0006】
このような問題を解決するため、巻き上げ用のワイヤに張力を付与する重錘としてのアームの基端部を扉体に回転自在に軸着し、このアームの先端部に前記ワイヤを取り付けたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
特許文献1記載の転倒ゲートにおいては、一旦転倒した扉体が水位の上昇に伴って起立した状態となったとき、重錘としてのアームによりワイヤに張力が付与されるので、ワイヤが弛んで巻上機から外れることがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2964046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載の転倒ゲートの場合、ワイヤを巻き上げて扉体を起立させたときアーム部分は巻上機で巻き取ることができないので、アーム無しの場合に比べ、このアームの長さに相当する分だけ高い位置に巻上機を設置する必要がある。このため、巻上機の設置場所となる流路側壁が低いときは、巻上機設置用の基礎構造を高く形成しなければならないので、建設資材が増大しがちであり、施工性も良くない。
【0010】
また、特許文献1記載の転倒ゲートの場合、扉体が起伏するときのアームの動作領域を確保するため、流路の上面が開放されていなければならないので、四方水密構造の流路への設置は極めて困難である。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、施工が容易であり、ワイヤ弛緩に起因する巻上機ドラムからのワイヤ離脱が発生し難く、四方水密構造の流路にも設置可能な浮力式の逆流防止ゲートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の逆流防止ゲートは、流路の底部に起伏可能に配置され水中で浮力を生じる扉体と、係止手段を介して先端側が前記扉体に繋がれたワイヤと、前記ワイヤの基端側を巻き取る巻上機と、を備え、前記扉体の起伏範囲内において前記係止手段が前記ワイヤの長手方向に沿ってスライド可能であることを特徴とする。
【0013】
このような構成とすれば、倒伏状態にある扉体が起立するとき係止手段がワイヤの長手方向に沿ってスライドするので、ワイヤの先端側が扉体とともに持ち上がってワイヤが弛緩することがなくなり、ワイヤ弛緩に起因する巻上機ドラムからのワイヤ離脱を防止することができる。また、扉体の起伏範囲内においてワイヤの長手方向に沿ってスライド可能な係止手段を介して当該ワイヤの先端側を扉体に繋いだ簡素な構造であるため、施工は容易である。さらに、ワイヤの先端側と扉体との間は係止手段で繋がれているが、巻上機でワイヤを巻き取って扉体を起立させたとき、扉体より高く突出する部材や巻上機と扉体との間に収まらない部材が存在しないので、四方水密構造の流路にも設置可能である。
【0014】
ここで、前記係止手段として、前記ワイヤをスライド可能に把持する把持部材を設け、前記把持部材のスライドを阻止するためのストッパを前記ワイヤの先端側に設けることが望ましい。このような構成とすれば、簡素な構造でありながら、ワイヤ巻き上げによる扉体の起立動作に支障を与えることなく、ワイヤに対する確実なスライド機能を確保することができるので、優れた弛緩防止効果を得ることができる。
【0015】
また、前記ワイヤに張力を付与するための重錘を前記ワイヤの先端側に設けることが望ましい。このような構成とすれば、扉体がどの傾斜角度にあっても、ワイヤが常に引っ張られた状態に保たれるため、ワイヤの弛緩防止機能がさらに向上する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、施工が容易であり、ワイヤ弛緩に起因する巻上機ドラムからのワイヤ離脱が発生し難く、四方水密構造の流路にも設置可能な浮力式の逆流防止ゲートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態である逆流防止ゲートを示す平面図である。
【図2】図1のA−A線における断面図である。
【図3】図1の矢線Bで示す部分の一部省略拡大図である。
【図4】図2の矢線Cで示す部分の一部省略拡大図である。
【図5】図1に示す逆流防止ゲートを構成する係止手段の機能を示す図である。
【図6】図1に示す逆流防止ゲートの作動状態を示す図である。
【図7】図6中の矢線X状態における逆流防止ゲートの一部省略拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜図4に示すように、本発明の実施形態である浮力式の逆流防止ゲート10は、流路11の底部11bに支承部12を介して起伏可能に配置され水中で浮力を生じる扉体13と、係止手段14を介して先端側が扉体13に繋がれたワイヤ15と、ワイヤ15の基端側を巻き取る巻上機16と、を備え、扉体13の起伏範囲17内において係止手段14がワイヤ15の長手方向15Lに沿ってスライド可能である。支承部12は流路11の水流方向Rと直交する方向の支軸12aを有し、この支軸12aを中心に扉体13が回動して起伏することにより、流路11の開閉が行われる。
【0019】
係止手段14は、ワイヤ15をその長手方向15Lに沿ってスライド可能に把持する把持部材18を有し、この把持部材18のスライドを所定位置(ワイヤ15の先端部)で阻止するためのストッパ19をワイヤ15の先端側に設けている。このストッパ19は、後述するように、ワイヤ15に張力を付与するための重錘としての機能も有する。
【0020】
把持部材18は、扉体13の前縁部13aの一方の側端を流路11の側壁11aに向かって延設して形成された突状部13bから突設された一対のブラケット20a,20b間に回動自在に保持された軸体18aと、ブラケット20a,20b間において軸体18aにより回動自在に軸支されたカラー18bと、を備えている。軸体18a及びカラー18bの軸心18cは支承部12の支軸12aと平行をなす方向(流路11の水流方向Rと直交する方向)に配置されている。突状部13bは、扉体13の本体部13cの横幅13wよりも広く突出している。
【0021】
軸体18a及びカラー18bには、軸心18cと直交する方向に沿って互いに同軸をなすワイヤ孔18ah,18bhがそれぞれ開設され、これらのワイヤ孔18ah,18bhを貫通した状態でワイヤ15がスライド可能に挿通されている。図5に示すように、把持部材18は、ワイヤ15の長手方向15Lに沿ってスライド可能であり、把持部材18を貫通するワイヤ15とともに軸心18cを中心に回動可能である。
【0022】
図1,図2に示すように、ワイヤ15の基端部は巻上機16のドラム21に巻き付けられ、ドラム21と係止手段14との間のワイヤ15及び係止手段14の移動経路となる凹状部22が流路11の一方の側壁11aに形成されている。ワイヤ15の先端部はストッパ19によって係止手段14に係止されているので、巻上機16を作動させてワイヤ15をドラム21に巻き取っていくと、扉体13はワイヤ15で引っ張られて徐々に流路11の上流側へ起立していき、図2に示すように、扉体13の上縁部13aが上部戸当たり23に当接した時点で流路11が閉止される。逆に、巻上機16のドラム21からワイヤ15を繰り出すと、扉体13は徐々に流路11の下流側へ倒伏していき、ほぼ水平に倒伏した状態となる。
【0023】
ここで、図6,図7に基づいて逆流防止ゲート10の機能について説明する。平常時は流路11の上流側の水位が高いので、図6に示すように、逆流防止ゲート10の扉体13は下流側へほぼ水平に倒伏した状態にあり、水は扉体13を乗り越えて流路11の上流側から下流側に向かって一定方向に流れている。このとき、ワイヤ15は、巻上機16のドラム21と、扉体13の係止手段14に係合したストッパ19との間で直線状をなしている。
【0024】
集中豪雨などで河川が増水し、流路11の下流側の水位が上昇すると、扉体13は水の浮力によって上流側に起立した状態(図6中の矢線Xで示す状態)となる。このとき、扉体13とともに起立する係止手段14の把持部材18は、ワイヤ15の長手方向15Lに沿ってその上方へスライドするとともに、扉体13の傾斜角度に応じて軸心18cを中心に反時計方向に回転し、図7に示すような状態となる。即ち、巻上機16のドラム21と把持部材18との間に位置するワイヤ15は直線状態となり、把持部材18とストッパ19との間に位置するワイヤ15は、重錘を兼ねるストッパ19の重さにより、鉛直下方へ垂下した状態に保たれる。
【0025】
流路11の下流側の水位がさらに上昇して、図6に示すように、扉体13の上縁部13aが上部戸当たり23に当接した状態(図6中の矢線Yで示す状態)となると、図7で示した場合と同様に、巻上機16のドラム21と把持部材18との間に位置するワイヤ15は直線状態となり、把持部材18とストッパ19との間に位置するワイヤ15は、重錘を兼ねるストッパ19の重さにより、鉛直下方へ垂下した状態に保たれる。
【0026】
図6に示すように、逆流防止ゲート10においては、倒伏状態にある扉体13が起立するとき係止手段14がワイヤ15の長手方向15Lに沿ってスライドするので、ワイヤ15の先端側が扉体13とともに持ち上がってワイヤ15が弛緩することがない。このため、ワイヤ15の弛緩に起因する巻上機16のドラム21からのワイヤ15の離脱を防止することができる。
【0027】
また、扉体13の起伏範囲17内においてワイヤ15の長手方向15Lに沿ってスライド可能な係止手段14を介して当該ワイヤ15の先端側のストッパ19を扉体13に繋いだ簡素な構造であるため、施工は容易である。さらに、ワイヤ13の先端側と扉体13との間はスライド可能な係止手段14で繋がれているが、巻上機16でワイヤ15を巻き取って扉体13を起立させたとき、扉体13より高く突出する部材や巻上機16と扉体13との間に収まらない部材などが存在しないので、天井部11cを有する四方水密構造の流路11にも設置可能である。
【0028】
逆流防止ゲート10においては、係止手段14として、ワイヤ15をスライド可能に把持する把持部材18を設け、把持部材18のスライドを阻止するためのストッパ19をワイヤ15の先端側に設けている。このため、簡素な構造でありながら、ワイヤ15の巻き上げによる扉体13の起伏動作に支障を与えることなく、ワイヤ15に対する確実なスライド機能を確保することができるので、優れた弛緩防止効果を得ることができる。
【0029】
また、ワイヤ15に張力を付与するための重錘としての機能をストッパ14に持たせたことにより、扉体13が起伏範囲17内のいずれの状態にあってもワイヤ15が常に引っ張られた状態に保たれるため、安定したワイヤ15の弛緩防止機能を発揮する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の逆流防止ゲートは、河川の管理施設あるいは沿岸地域の防潮施設などとして広く利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10 逆流防止ゲート
11 流路
11a 側壁
11b 底部
11c 天井部
12 支承部
12a 支軸
13 扉体
13a 前縁部
13b 突状部
13c 本体部
13w 横幅
14 係止手段
15 ワイヤ
15L 長手方向
16 巻上機
17 起伏範囲
18 把持部材
18a 軸体
18b カラー
18c 軸心
19 ストッパ(重錘)
20a,20b ブラケット
21 ドラム
22 凹状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路の底部に起伏可能に配置され水中で浮力を生じる扉体と、係止手段を介して先端側が前記扉体に繋がれたワイヤと、前記ワイヤの基端側を巻き取る巻き上げ装置と、を備え、前記扉体の起伏範囲内において前記係止手段が前記ワイヤの長手方向に沿ってスライド可能であることを特徴とする逆流防止ゲート。
【請求項2】
前記係止手段として、前記ワイヤをスライド可能に把持する把持部材を設け、前記把持部材のスライドを阻止するためのストッパを前記ワイヤの先端側に設けたことを特徴とする請求項1記載の逆流防止ゲート。
【請求項3】
前記ワイヤに張力を付与するための重錘を前記ワイヤの先端側に設けたことを特徴とする請求項1または2記載の逆流防止ゲート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−99232(P2011−99232A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253878(P2009−253878)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(591039698)開成工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】