説明

透光性部材およびこれを備えた時計

【課題】高い耐傷性と良好な視認性の双方を備えた透光性部材、およびこの透光性部材を備えた時計を提供する。
【解決手段】透光性部材1は、透光性を有する基材10と、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)層11と、を備える透光性部材1であって、DLC層11は、透光性部材1の最表面に設けられ、ポーラスに形成されている。DLC層11の屈折率は、1.7以下であり、また、DLC層11は、空孔の体積率が40%以上70%以下である。DLC層11には、原子比で20%以上50%以下の水素またはフッ素が添加されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバーガラス等の透光性部材、およびこの透光性部材を備えた時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時計用のカバーガラスには、サファイアガラス、石英ガラスおよびソーダガラス等が使用されている。しかし、これらのガラスを単体で使用すると、反射率が高いため、時刻表示等の視認性が悪い。特に、硬度の高いサファイアガラスを用いた場合に顕著である。そこで、ガラスの表面に反射防止層を設け、反射率を抑えて視認性を向上する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、反射防止層の材質には硬度の低いものも少なくないため、反射防止層には傷が付きやすく、かえって視認性が悪くなるとともに意匠性も低下するおそれがあった。
これに対し、特許文献2には、反射防止層の上に硬度の高いDLC(ダイヤモンドライクカーボン)層を設け、耐摩擦性を向上した時計用カバーガラスが開示されている。
【0004】
【特許文献1】実開昭48−77456号公報
【特許文献2】特開2004−93437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、DLC層は屈折率が高く、屈折率の低い反射防止層の上にDLC層を形成すると、反射防止効果が損なわれてしまうという問題があった。
そこで、本発明は、高い耐傷性と良好な視認性の双方を備えた透光性部材、およびこの透光性部材を備えた時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の透光性部材は、透光性を有する基材と、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)層と、を備える透光性部材であって、前記DLC層は、該透光性部材の最表面に設けられ、ポーラスに形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、透光性部材の最表面にポーラスに形成されたDLC層を設ける。
ここで、ポーラスに形成されたDLC層は、従来のDLC層と同様の高い硬度を有しながら、屈折率が小さい。
よって、本発明では、従来のDLC層を設ける場合に比べ、透光性部材の表面と空気との屈折率の差が小さくなる。これによって、光透過率を増大させて反射率を低減することができ、透光性部材を介して向こう側を見る場合の視認性を向上することができる。
また、ポーラスに形成されたDLC層は、従来のDLC層と同様の高い硬度を有するので、透光性部材に高い耐傷性を付与することができる。
すなわち、本発明によれば、高い耐傷性と良好な視認性の双方を備えた透光性部材を実現できる。
【0008】
なお、ポーラスとは、DLC層内部に空孔を有することを意味し、DLC層をポーラスに形成する方法としては、例えば、一般に使われるプラズマCVD法の成膜ガス圧を変化させることで空孔の割合を制御することができる。
また、基材の材質は、特に限定されないが、例えば、サファイアガラス、石英ガラスおよびソーダガラス等が挙げられる。
【0009】
本発明の透光性部材において、前記DLC層の屈折率は、1.7以下であることが好ましい。
この発明によれば、透光性部材の表面の屈折率を十分に低減することができ、良好な反射防止効果が得られる。
ここで、DLC層の屈折率が1.7を超えると、透光性部材の表面と空気との屈折率の差が大きくなり、十分な反射防止効果が得られないため好ましくない。なお、DLC層の屈折率は、1.6以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
【0010】
本発明の透光性部材において、前記DLC層は、空孔の体積率が40%以上70%以下であることが好ましい。
この発明によれば、空孔の体積率を所定範囲に制御することにより、DLC層の高い硬度を維持しつつ屈折率を低減することができ、高い耐傷性と良好な視認性の双方を備えた透光性部材を実現できる。
ここで、空孔の体積率が40%未満であると、屈折率が低下せず十分な反射防止効果が得られないため好ましくない。一方、空孔の体積率が70%を超えると、硬度が低下して十分な耐傷性が得られず、また、反射率が大きくなって色つき(白濁)が発生する場合があるため好ましくない。
なお、空孔の体積率は、45%以上65%以下であることがより好ましく、50%以上60%以下であることがさらに好ましい。
【0011】
本発明の透光性部材において、前記DLC層には、水素およびフッ素の少なくともいずれかが添加されていることが好ましい。
この発明では、DLC層に水素およびフッ素の少なくともいずれかが含まれているので、DLC層の着色を防止することができる。
また、水素やフッ素の存在により低屈折率のDLC層を得ることができる。
【0012】
本発明の透光性部材において、前記DLC層に対する水素およびフッ素の合計含有量は、原子比で20%以上50%以下であることが好ましい。
この発明では、DLC層に水素およびフッ素の少なくともいずれかを所定量だけ添加するので、DLC層の着色を適切に防止することができる。
ここで、DLC層に対する水素およびフッ素の合計含有量が原子比で20%未満または50%を超えると、DLC層が着色する場合があるため好ましくない。また、50%を超えると、DLC層の硬度が低下する場合があり好ましくない。なお、DLC層に対する水素およびフッ素の合計含有量は、原子比で25%以上45%以下であることがより好ましく、30%以上40%以下であることがさらに好ましい。
【0013】
本発明の透光性部材において、前記基材と前記DLC層との間に、前記DLC層よりも屈折率の大きい高屈折率層を備えることが好ましい。
この発明によれば、DLC層の低屈折率化による反射率の低減に加え、低屈折率のDLC層と高屈折率層との積層によっても反射防止の効果を得ることができ、より一層良好な視認性を備えた透光性部材を実現できる。
【0014】
本発明の透光性部材において、前記高屈折率層は、Ta,TiO,Al,MgO,Gd,La,Pr11,ZnO,ZrO,In,Nd,ThO,SnO,Sb,CeO,BiおよびHfOの少なくともいずれかによって形成されることが好ましい。
この発明によれば、屈折率の高い材料で形成された高屈折率層の上に、これよりも屈折率の低いDLC層を設ける。このような屈折率の異なる二つの層の積層によれば、より一層高い反射防止効果を得ることができる。
なお、高屈折率層は、屈折率と硬度の観点より、Ta,HfO,TiOまたはZrOによって形成されていることがより好ましい。
【0015】
本発明の透光性部材において、前記DLC層の厚さは、50nm以上150nm以下であることが好ましい。
この発明によれば、DLC層の着色を防止して透光性部材の透明性を確保しつつ、耐傷性を向上することができる。
ここで、DLC層の厚さが50nm未満であると、耐傷性を十分に向上することができず好ましくない。一方、DLC層の厚さが150nmを超えると、DLC層が着色する場合があり好ましくない。なお、DLC層の厚さは、60nm以上140nm以下であることがより好ましく、70nm以上130nm以下であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明の時計は、前述の透光性部材を備えた時計であって、前記透光性部材は、時計体を収容するケースに設けられることを特徴とする。
本発明によれば、前述の透光性部材が、例えば、カバーガラスとしてケースに設けられる。このとき、透光性部材の反射防止機能によって情報の視認性が向上する。そして、この視認性は、透光性部材の耐傷性によって長期にわたって維持される。
【発明の効果】
【0017】
このような本発明によれば、高い耐傷性と良好な視認性の双方を備えた透光性部材、およびこれを備えた時計を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
[第1実施形態]
〔透光性部材の構成〕
図1に、本発明の第1実施形態に係る透光性部材の概略層構成を示す。
本実施形態の透光性部材1は、図1に示すように、基材10と、基材10の上にポーラスに形成されたDLC層11と、を備える。
【0020】
基材10は、透光性を有する材質、例えば、サファイアガラス、石英ガラスまたはソーダガラス等で形成することができる。本実施形態の基材10は、サファイアガラスである。
【0021】
DLC層11は、例えば、プラズマCVD法、スパッタリング法、イオン化蒸着法等によって形成することができる。
本実施形態では、DLC層11は、プラズマCVD法によって形成され、水素が導入されている。
DLC層11の形成には、通常のプラズマCVDに用いられる装置を用いることができる。原料ガスは、メタン等の炭化水素ガスである。この原料ガスに、水素を含有させることで、DLC層11に水素を導入することができる。
このようなDLC層11をポーラスに形成するためには、プラズマCVDの運転条件のガス圧を高めに設定すればよい。例えば、ガス流量を増大させる、排気を絞るなどして、通常ガス圧の0.2mTorrを2.0mTorrとする。
【0022】
DLC層11の屈折率は、1.7以下であることが好ましい。
DLC層11の屈折率が1.7以下であれば、十分な反射防止効果が得られる。なお、DLC層11の屈折率は、1.6以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
なお、DLC層11の屈折率は、DLC層の形成条件等によって調整することができる。例えば、プラズマCVDの運転条件のガス圧や、ガス中のH分圧を高く設定することにより屈折率を下げることが可能である。
【0023】
DLC層11は、空孔の体積率が40%以上70%以下であることが好ましい。
空孔の体積率がこのような範囲にあれば、DLC層11の高い硬度を維持しつつ屈折率を低減することができる。なお、空孔の体積率は、45%以上65%以下であることがより好ましく、50%以上60%以下であることがさらに好ましい。
例えば、プラズマCVDの運転条件のガス圧を高く設定することにより空孔の体積率を制御することができる。
【0024】
また、DLC層11に対する水素の含有量は、原子比で20%以上50%以下であることが好ましい。
水素の含有量が原子比で20%以上50%以下であれば、DLC層11の硬度を低下させることなく、DLC層11の着色を適切に防止することができる。なお、DLC層11に対する水素の含有量は、原子比で25%以上45%以下であることがより好ましく、30%以上40%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
DLC層11の厚さは、50nm以上150nm以下であることが好ましい。
DLC層11の厚さが50nm以上150nm以下であれば、DLC層11の着色を防止して透光性部材1の透明性を維持することができる。なお、DLC層11の厚さは、60nm以上140nm以下であることがより好ましく、70nm以上130nm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
〔時計の構成〕
図2に、透光性部材1をカバーガラスとして備えた時計の断面図を示す。
図2に示すように、本実施形態の時計100において、透光性部材1は、時計体(ムーブメント)3を収容するケース4に、カバーガラス2として設けられる。ケース4には裏蓋5が設けられている。
ここで、本実施形態のカバーガラス2の体表面部は、前面部2A、後面部2B、および側面部2Cからなる。前面部2Aは、カバーガラス2の外側の部分に相当する。後面部2Bは、カバーガラス2の内側の部分に相当し、文字板6および指針7に対向する。
本実施形態においては、カバーガラス2の前面部2Aに、前述のDLC層11が位置している。
【0027】
〔第1実施形態による効果〕
以上の本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
(1)透光性部材1の最表面に、ポーラスに形成されたDLC層11を設ける。
ポーラスに形成されたDLC層11は、従来のDLC層と同様の高い硬度を有しながら、屈折率が小さいという特性を有する。
よって、本発明では、従来のDLC層を設ける場合に比べ、透光性部材1の表面と空気との屈折率の差が小さくなる。これによって、光透過率を増大させて反射率を低減することができ、透光性部材1を介して向こう側を見る場合の視認性を向上することができる。
また、ポーラスに形成されたDLC層11は、従来のDLC層と同様の高い硬度を有するので、透光性部材1に高い耐傷性を付与することができる。
【0028】
(2)DLC層11の屈折率を1.7以下としたので、透光性部材1の表面の屈折率を十分に低減することができ、良好な反射防止効果が得られる。
(3)空孔の体積率を40%以上70%以下とするので、DLC層11の高い硬度を維持しつつ屈折率を低減することができ、高い耐傷性と良好な視認性の双方を備えた透光性部材1を実現できる。
(4)DLC層11に水素を添加するので、DLC層11の着色を防止することができる。
本実施形態では、特に、DLC層11に対する水素の含有量を原子比で20%以上50%以下としたので、DLC層11の硬度を低下させることなく、DLC層11の着色を適切に防止することができる。
また、水素やフッ素の存在により低屈折率のDLC層13を得ることができる。
【0029】
(5)DLC層11の厚さを50nm以上150nm以下としたので、DLC層11の着色を防止して透光性部材1の透明性を確保しつつ、耐傷性を向上することができる。
(6)時計100において、透光性部材1が、カバーガラス2としてケース4に設けられているので、透光性部材1の反射防止機能によって情報の視認性が向上する。そして、DLC層11がカバーガラス2の前面部2Aに位置しているので、この視認性は、透光性部材1の耐傷性によって長期にわたって維持される。
【0030】
[第2実施形態]
本実施形態の透光性部材1は、基材10とDLC層11との間に、DLC層11よりも屈折率の大きい高屈折率層12を備える点において前述の第1実施形態と異なる。このため、第1実施形態と同一の符号を用い、重複する箇所の説明は適宜省略する。
【0031】
図3に、本実施形態に係る透光性部材の概略層構成を示す。
図3に示すように、本実施形態の透光性部材1においては、基材10とDLC層11との間に、DLC層11よりも屈折率の大きい高屈折率層12が設けられている。
基材10およびDLC層の構成は、第1実施形態のDLC層11と同様である。
【0032】
高屈折率層12は、Ta,TiO,Al,MgO,Gd,La,Pr11,ZnO,ZrO,In,Nd,ThO,SnO,Sb,CeO,BiおよびHfOの少なくともいずれかによって形成されていることが好ましい。
特に、高屈折率層12は、屈折率と硬度の観点より、Ta,HfO,TiOまたはZrOによって形成されていることがより好ましい。
本実施形態では、高屈折率層12は、ZrOによって形成されている。
【0033】
高屈折率層12の厚さは、50nm以上150nm以下であることが好ましい。
高屈折率層12の厚さが50nm以上150nm以下であれば、反射率を十分に下げることができ、また高屈折率層12の着色を防止して、透光性部材1の透明性を維持することができる。
なお、高屈折率層12の厚さは、140nm以下であることがより好ましく、130nm以下であることがさらに好ましい。
なお、高屈折率層12は、例えば、プラズマCVD法、スパッタリング法、イオン化蒸着法等によって形成される。
【0034】
〔第2実施形態による効果〕
以上の本実施形態によれば、上述の(1)〜(6)に加え、次のような効果が得られる。
(7)屈折率の高い材料で形成された高屈折率層12の上に、これよりも屈折率の低いDLC層11を設ける。このような屈折率の異なる二つの層の積層によれば、より一層高い反射防止効果を得ることができる。
【0035】
[本発明の変形例]
本発明は、以上述べた実施形態には限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で種々の改良および変形を行うことが可能である。
前記各実施形態では、DLC層11に水素を添加する態様を例示したが、これに限定されない。例えば、DLC層11には、水素に代えてフッ素が添加されていてもよく、水素とフッ素の双方が添加されていてもよい。また、DLC層11の透明性が確保されるならば、水素またはフッ素は添加しなくてもよい。
【0036】
前記各実施形態では、カバーガラス2の前面部2AのみにDLC層11が形成されていたが、後面部2Bにも形成してもよい。ここで、前面部2Aと後面部2Bとの両方にDLC層11を形成することにより、カバーガラス2の反射防止性能をより一層高くできる。
【0037】
前記各実施形態では風防としてのカバーガラス2に本発明が適用された例を示したが、本発明の透光性部材1は、風防としてのカバーガラス2に限定されない。機械式時計などでは、裏蓋5(図2参照)が設けられる位置にカバー部材としての透光性部材1が設けられ、この透光性部材1を介して時計体3の内部の機構を視認可能なシースルーバック仕様とされていることがある。このような場合、この透光性部材1に本発明を適用できる。
【0038】
なお、透光性部材1の基材10としては、高硬度のサファイアが好適であるが、このほか、石英ガラス、ソーダガラス等の使用も検討してよい。
【0039】
また、本発明の透光性部材1は、時計100に使用されるカバー部材に限らず、携帯電話、携帯情報機器、計測機器、ディジタルカメラ、プリンタ、ダイビングコンピュータ、脈拍計等の各種機器における情報表示部のカバー部材として好適に使用できる。
なお、本発明の透光性部材1は、カバー部材には限定されない。本発明に係るDLC層11は、透光性部材1の基材10において硬度確保と反射防止機能とが要求される任意の箇所に形成される。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
(水素含有量によるDLC層の特性の変化)
基材10としてのサファイアガラスを120℃の熱硫酸中に10分間浸漬し、純水でよくリンスした後、120℃に設定した大気中オーブンで30分間乾燥した。
洗浄した基材10をCVD装置にセットし、所定濃度の水素を含むアセチレンガスを15.0SCCMで導入し、1.0mTorrとした。この状態で、プラズマを発生させ、DLC層11を厚さ100nm程度となるように形成した。
ここで、水素含有量の異なるアセチレンガスを用いることで、DLC層11に対する水素含有量の異なる複数の透光性部材1を得た。
なお、DLC層における空孔率は、いずれも40%となるように運転条件を設定した。
【0042】
これらの透光性部材1を、以下の方法により評価した。
水素濃度:DLC層11の水素濃度を、SIMSを用いて測定した。
屈折率:DLC層11の屈折率を、エリプソメータを用いて測定した。
色:DLC層11の色を、目視にて評価した。
表面硬度:ナノインデンターを使用してDLC層11の表面硬度を測定した値であり、ISO14577に準拠する。
これらの評価の結果を、以下の表1にまとめる。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の結果より、ポーラスなDLC層の屈折率は、一般的に知られるDLCの屈折率(約2.2)よりも低く、反射防止効果に優れることがわかった。
また、表1から、DLC層11に対する水素の含有量が原子比で20%以上であれば、DLC層11の着色を防止できることがわかった。また、50%以下であれば、DLC層11の表面硬度を19600N/mm以上の高硬度とできることがわかった。なお、一般に、表面硬度が19600N/mm以上であれば、表面の耐傷性が十分なものとなる。
【0045】
[実施例2]
上述のCVD法によるDLC層11の形成において、プラズマパワーとガス圧を変化させ、DLC層11の水素濃度を20%に維持しつつ、空孔の体積率の異なる複数の透光性部材1を得た。
これらについて、上述の評価に加え、反射率の評価を実施した。具体的には、透光性部材1表面に対して90°の入射角で入射する標準光の反射率を求め、この反射率と、入射角90°の場合の視感感度とを可視光領域の各波長において掛け合わせた値の積算値に基づいて反射率を算出した。
評価の結果を以下の表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2から明らかなように、空孔の体積率を上げると、屈折率および反射率が下がって反射防止機能が向上した。ただし、体積率の上昇とともに表面硬度、耐傷性がやや低下する。また、70%以上の高体積率では、色つき(白濁)が発生した。
表2によれば、空孔の体積率が40%以上70%以下の範囲が、反射防止機能と耐傷性の観点より好ましい。特に、空孔の体積率が50%以上60%以下の範囲がより好ましい。
【0048】
[実施例3]
上述と同様の方法で洗浄したサファイアガラスをスパッタ装置にセットした。チャンバー内を120℃、10−6Torrとした後、Arガスを9.0SCCM、酸素を9.5SCCMで導入し、0.2mTorrとした。この状態において、ZrOターゲット、スパッタパワー1500Wでスパッタを実施し、サファイアガラス上に高屈折率層12を形成した。
続いて、上述と同様のCVD法により、DLC層11を形成し、空孔の体積率の異なる複数の透光性部材1を得た。DLC層11の水素濃度は20%であった。
これらの透光性部材1を評価した結果を以下の表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
実施例2の場合と同様に、空孔の体積率を上げると、屈折率および反射率が下がって反射防止機能が向上することがわかった。体積率の上昇とともに表面硬度、耐傷性が低下し、70%以上の高体積率では、色つき(白濁)が発生する点も実施例2と同様であった。
よって、高屈折率層12を備える透光性部材1においても、空孔の体積率が40%以上70%以下の範囲が、反射防止機能の観点より好ましい。特に、空孔の体積率が50%以上60%以下の範囲がより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1実施形態に係る透光性部材の概略層構成を示す図。
【図2】第1実施形態に係る透光性部材をカバーガラスとして備えた時計の断面図。
【図3】本発明の第2実施形態に係る透光性部材の概略層構成を示す図。
【符号の説明】
【0052】
1…透光性部材、3…時計体、4…ケース、10…基材、11…DLC層、12…高屈折率層、100…時計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する基材と、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)層と、を備える透光性部材であって、
前記DLC層は、該透光性部材の最表面に設けられ、ポーラスに形成されている
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項2】
請求項1に記載の透光性部材において、
前記DLC層の屈折率は、1.7以下である
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透光性部材において、
前記DLC層は、空孔の体積率が40%以上70%以下である
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の透光性部材において、
前記DLC層には、水素およびフッ素の少なくともいずれかが添加されている
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項5】
請求項4に記載の透光性部材において、
前記DLC層に対する水素およびフッ素の合計含有量は、原子比で20%以上50%以下である
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の透光性部材において、
前記基材と前記DLC層との間に、前記DLC層よりも屈折率の大きい高屈折率層を備える
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項7】
請求項6に記載の透光性部材において、
前記高屈折率層は、Ta,TiO,Al,MgO,Gd,La,Pr11,ZnO,ZrO,In,Nd,ThO,SnO,Sb,CeO,BiおよびHfOの少なくともいずれかによって形成される
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の透光性部材において、
前記DLC層の厚さは、50nm以上150nm以下である
ことを特徴とする透光性部材。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の透光性部材を備えた時計であって、
前記透光性部材は、時計体を収容するケースに設けられる
ことを特徴とする時計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−186236(P2009−186236A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24315(P2008−24315)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】