説明

透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体およびその製造方法。

【課題】この発明は、比表面積を一定の範囲とした高純度のAl粉末を原料とし、所定量のSiを焼結助剤とすることによって、厚さ3mmで可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が82%以上の透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体を得ようとするものである。
【解決手段】厚さ3mmで可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が82%以上の透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体を比表面積が3〜15m2/gで純度が99.99重量%以上のAl粉末を原料粉末として、焼結助剤としてSiを焼結体中に200wt ppm以上800wt ppm以下残存するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体は、その優れた透光性、耐熱性および形状自由度などから、レーザホスト材料、蛍光ランプ発光管などへの適用が従来から検討されている。これまで透光性YAGセラミックスの製造方法としては、Al粉末とY粉末を1500から1850℃で反応焼結して製造する方法が公知である(例えば、特許文献1。)。
【特許文献1】特開平3−218963号公報(特許請求の範囲,請求項1) また、YAG粉末の理論密度比94%以上に緻密化した一次焼結体に熱間等方圧加圧を施して製造する方法が公知である(例えば、特許文献2。)。
【特許文献2】特開20001−158660(特許請求の範囲,請求項3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
しかしながら、特許文献1のAl粉末とY粉末を反応焼結して製造する方法で製造されたものは、その直線透過率は1000nmにおいて厚さ1mmで81%以下と、レーザホスト等の高度な透明度が必要とされる分野においては適用が困難であった。
【0003】
また、特許文献2のYAG粉末の一次焼結体に熱間等方圧加圧を施して製造する方法は、確かに透光性に優れた酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体が得られるが、その生産性に問題があった。即ち、この方法はAl粉末とY粉末を反応焼結する製法と比較して焼結性に劣るために熱間等方圧加圧を施すことが必要となるが、この方法は生産性が悪かった。さらに、この方法では成形体密度を高める必要があり、成形方法も鋳込み成形など一部の成形方法に限られてしまい、透光性焼結体の優位性の一つである形状自由度を低下させてしまう結果となっていた。
【0004】
この発明は、比表面積を一定の範囲とした高純度のAl粉末を原料とし、かつ所定量のSiを焼結助剤とすることによって、厚さ3mmで可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が82%以上の優れた透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体を得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、厚さ3mmで可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が82%以上の透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体を比表面積が3〜15m2/gで純度が99.99重量%以上のAl粉末およびY粉末を原料として、焼結助剤としてSiを焼結体中に20wt ppm以上800wt ppm以下残存するように添加する透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体の製造方法(請求項1)および透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体が、モル換算で焼結体中のYと、AlおよびSiの合計の比が、0.599≦Y/(Al+Si)≦0.601とした請求項1記載の透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体の製造方法(請求項2)、比表面積が3〜15m2/gで純度が99.99重量%以上のAl粉末およびY粉末を原料とした焼結体で、焼結体中に焼結助剤としてSiを200wt ppm以上800wt ppm以下残存する厚さ3mmで可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が82%以上の透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体(請求項3)である。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、従来のように熱間等方圧加圧などの加圧焼結などを用いないで、厚さ3mmで可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が82%以上の透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体を製造することが可能となる。従って、この発明によれば成形方法も鋳込み成形に限られることもないので、焼結体の形状自由度を低下させることもない。さらにこの発明によると、透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体を生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
この発明は、厚さ3mmで可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が82%以上の透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体であって、原料として比表面積が3〜15m2/gで純度が99.99重量%以上のAl粉末およびY粉末を用い、焼結助剤としてSiを焼結体中に200wt ppm以上800wt ppm以下残存するように添加するものである。
【0008】
焼結体中の気孔や異相は散乱体となり焼結体の透明度を低下させる。このために高度な透明度が要求される透光性性セラミックスを作製するためには、これら散乱体を極限まで低下させることが重要である。こうしたことで、本発明の透光性焼結体の原料には高純度で、成形性、焼結性に富む原料として、比表面積が3〜15m2/gで純度が99.99重量%以上のAl粉末およびY粉末を用いる。原料粉末の純度が99.99%未満では不純物が異相として焼結体中に残存し、焼結体の透明度を低下させる。原料粉末の比表面積は3〜15m2/gとする。比表面積が3m2/g未満では焼結性に劣り、また15m2/gを超えると成形性が劣る。
【0009】
焼結助剤としてのSiは、酸化イットリウムアルミニウムガーネット中に固溶し焼結性を向上させる。Siの添加量は焼結体中に200wt ppm以上800wt ppm以下残存するようにする。過剰のSi添加は酸化イットリウムアルミニウムガーネット中に固溶しきれず、粒界層に偏析層を形成し焼結体の透明度を低下させる。Siの添加方法は、原料粉末に混合しやすい正珪酸エチルやコロイダルシリカを使用することが好ましいがこれらに限られるものではない。
【0010】
焼結体中にYやAlの過剰成分が存在すると異相を形成し焼結体の透明度を低下させる。また、YやAlとSiとの比も制御することが好ましい。これらの関係はモル換算で0.599≦Y/(Al+Si)≦0.601が好ましい。モル換算で焼結体中のYおよびAlとSiとの和の比が0.599未満であるとAlまたはSi化合物が偏析し、また0.601を超えるとY化合物が偏析し焼結体の透明度を低下させる。
【実施例】
【0011】
(実施例1〜5,比較例1〜8)
純度99.99%、比表面積が2m2/g,10m2/g,30m2/gの各種酸化イットリウム粉末と、純度99.99%、比表面積が1.5m2/g,8m2/g,24m2/gの各種酸化アルミニウム粉末に正珪酸エチルを所定量秤量して混合した。これにエタノール、アクリル系バインダを添加しナイロンボールミルを用いたボールミルで12時間混合してスラリを得た。このスラリからスプレードライヤを用いて平均粒径60μmの造粒粉を作製した。次いで、造粒粉を20Mpaで一軸金型成形を行い、さらに150Mpaで冷間静水圧成形(CIP)を行って成形体とした。
【0012】
この成形体を大気中1000℃で脱脂処理を行った。次いでこの脱脂体を真空雰囲気(1×10−2pa以下)、1700℃で3時間焼成し焼結体を得た。この焼結体を直径20mm、厚さ3mmに両面鏡面研磨し、分光光度計を用いて400nm〜1800nmにおける直線透過率を測定した。この測定結果のうち500nmにおける直線透過率を表1に示した。
【0013】
また、測定後の焼結体は洗浄を行って、ICP発光分光分析法によってY濃度、Al濃度、Si濃度を測定した。この測定結果からSi濃度およびY/(Al+Si)比を計算で求めた。これらの結果も合わせて表1に示した。
【表1】

【0014】
表1に示すように、実施例1〜5は、いずれも厚さ3mmで可視光帯域波長400nm〜800nmにおける直線透過率が82%を超えていることが明らである。これに対し、比較例1、2は、Si濃度がこの発明で特定した範囲を外れているので、いずれも厚さ3mmで可視光帯域波長400nm〜800nmにおける直線透過率が82%未満となっている。比較例3、4はYの比表面積が、比較例5、6はAlの比表面積が、いずれもこの発明の範囲でないので、直線透過率が82%未満となっている。
【0015】
比較例7、8はY/(Al+Si)が、いずれもこの発明の範囲でないので、直線透過率が82%未満となっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ3mmで可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が82%以上の透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体を比表面積が3〜15m2/gで純度が99.99重量%以上のAl粉末およびY粉末を原料として、焼結助剤としてSiを焼結体中に200wt ppm以上800wt ppm以下残存するように添加する透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体の製造方法。
【請求項2】
透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体が、モル換算で焼結体中のYと、AlおよびSiの合計の比を0.599≦Y/(Al+Si)≦0.601とした請求項1記載の透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体の製造方法。
【請求項3】
比表面積が3〜15m2/gで純度が99.99重量%以上のAl粉末およびY粉末を原料とした焼結体で、焼結体中に焼結助剤としてSiを200wt ppm以上800wt ppm以下残存する厚さ3mmで可視光帯域波長400〜800nmにおける直線透過率が82%以上の透光性酸化イットリウムアルミニウムガーネット焼結体。

【公開番号】特開2009−84060(P2009−84060A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251529(P2007−251529)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】