説明

透明かつ高強度の結束バンドと結束バンドキット、ならびに結束バンド用ヘッドおよび結束バンド用ストラップ

【課題】表面に歯が列設されたストラップと、ストラップを挿入可能な通路を有するヘッドとを備え、通路内に配置された爪と上記歯とを噛み合わせることにより、ケーブルなどの物品を結束できる結束バンドであって、従来実現できていない、ポリアミド系樹脂組成物からなる透明かつ高強度の結束バンドを提供する。
【解決手段】ストラップおよびヘッドが、JIS K7198の規定に基づいて測定した動的粘弾性について、30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が1×108〜5×109Paの範囲にあり、かつ、90℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有するポリアミド系樹脂組成物からなる結束バンドとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明かつ高強度の結束バンドと結束バンドキット、ならびに結束バンド用ヘッドおよび結束バンド用ストラップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物品、典型的にはケーブルなどの細長い物品、を結束するために、樹脂からなる結束バンドが広く用いられている。結束バンドは、表面に歯が列設されたストラップと、当該ストラップを挿入可能な通路を有するヘッドとを備える。上記通路には、ストラップを通路に挿入する方向に移動させるときにはストラップの歯と噛み合わず、ストラップを通路から引き抜く方向に移動させるときにはストラップの歯と噛み合う爪が配置されている。ストラップを、ケーブルなどの結束対象物を巻くようにループ状に変形させ、上記通路に挿入して上記歯と爪とを噛み合わせることで、上記歯と爪とが噛み合った位置からストラップが後退することなく結束対象物を結束できる。
【0003】
結束バンドには、様々な種類の樹脂を用いることが可能であるが、例えば、ナイロンに代表されるポリアミド樹脂を用いた結束バンドは、結束バンドとして必要な靭性を確保できながら、その強度が高く、耐摩耗性に優れる。
【0004】
一方、結束対象物を結束した状態で当該対象物の表面を視認できる透明な結束バンドが、近年求められている。透明性を謳った結束バンドには、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)などのポリオレフィン樹脂を用いた結束バンドがあるが、これらのバンドの透明性は低く、実質的には半透明であるに過ぎない。また、これらのバンドの強度はポリアミド樹脂を用いた結束バンドに劣り、ポリアミド樹脂を用いた従来の結束バンドは不透明である。このため、ポリアミド樹脂に由来する高い強度を有しながら、透明である結束バンドの実現が望まれる。
【0005】
なお、結束バンドには、ヘッドとストラップとが一体化された構造を有する一体型結束バンドと、ヘッドとストラップとが分離しており、使用時に両者を組み合わせる分離型結束バンドとがある。一体型結束バンドの一例は、例えば特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2005−187070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ポリアミド樹脂を含むポリアミド系樹脂組成物からなる透明かつ高強度の結束バンドは、これまで実現できていない。これは、透明性を有するポリアミド樹脂組成物は知られているものの、結束バンドの形状が、ストラップを備えることにより長尺でありながら、列設された歯や爪などの微細な部分を有する複雑な形状であるために、その成形加工の難度が高く、この難度を克服して高強度かつ透明な結束バンドを形成することが困難なためである。
【0007】
そこで本発明は、従来実現できなかった、ポリアミド系樹脂組成物からなる透明かつ高強度の結束バンドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の透明かつ高強度の結束バンド(一体型結束バンド)は、表面に歯が列設された帯状のストラップと、前記ストラップを挿入可能な通路を有する、前記ストラップと一体化されたヘッドとを備える。前記通路には、前記ストラップを前記通路に挿入する方向に移動させるときには前記歯と噛み合わず、前記ストラップを前記通路から引き抜く方向に移動させるときには前記歯と噛み合う爪が配置されている。本発明の結束バンドでは、前記ストラップを、結束対象物を巻くようにループ状に変形させ、前記通路に挿入して前記歯と前記爪とを噛み合わせることで、前記歯と前記爪とが噛み合った位置から前記ストラップが後退することなく前記対象物を結束できる。ここで、前記ストラップおよび前記ヘッドは、JIS K7198の規定に基づいて測定した動的粘弾性について、30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が1×108〜5×109Paの範囲にあり、かつ、90℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有するポリアミド系樹脂組成物からなる。
【0009】
本発明の透明かつ高強度の結束バンドキット(分離型結束バンド)は、表面に歯が列設された帯状のストラップと、前記ストラップを挿入可能な通路を有するヘッドと、を備える。前記通路には、前記ストラップを前記通路に挿入する方向に移動させるときには前記歯と噛み合わず、前記ストラップを前記通路から引き抜く方向に移動させるときには前記歯と噛み合う、爪が配置されている。本発明の結束バンドキットでは、結束対象物を巻くように前記ストラップを変形させ、その両方の端部の各々を前記通路に挿入して前記歯と前記爪とを噛み合わせることで、前記歯と前記爪とが噛み合った位置から前記ストラップが後退することなく前記対象物を結束できる。ここで、前記ストラップおよび前記ヘッドから選ばれる少なくとも1つが、JIS K7198の規定に基づいて測定した動的粘弾性について、30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が1×108〜5×109Paの範囲にあり、かつ、90℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有するポリアミド系樹脂組成物からなる。
【0010】
本発明の結束バンド用ヘッドは、表面に歯が列設された帯状のストラップと組み合わせて結束バンドとして用いられる。本発明のヘッドは、前記ストラップを挿入可能な通路を有し、かつ、前記通路には、前記ストラップを前記通路に挿入する方向に移動させるときには前記歯と噛み合わず、前記ストラップを前記通路から引き抜く方向に移動させるときには前記歯と噛み合う爪が配置されている。本発明のヘッドは、JIS K7198の規定に基づいて測定した動的粘弾性について、30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が1×108〜5×109Paの範囲にあり、かつ、90℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有するポリアミド系樹脂組成物からなる。
【0011】
本発明の結束バンド用ストラップは、表面に歯が列設された帯状のストラップであって、前記ストラップを挿入可能な通路を有し、かつ、前記通路に、前記ストラップを前記通路に挿入する方向に移動させるときには前記歯と噛み合わず、前記ストラップを前記通路から引き抜く方向に移動させるときには前記歯と噛み合う爪が配置されているヘッドと組み合わせて結束バンドとして用いられる。本発明のストラップは、JIS K7198の規定に基づいて測定した動的粘弾性について、30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が1×108〜5×109Paの範囲にあり、かつ、90℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有するポリアミド系樹脂組成物からなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成形加工に関する特定の温度域において特定の動的粘弾性を満たすポリアミド系樹脂組成物を用いることにより、透明かつ高強度の結束バンドを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明の結束バンド(一体型結束バンド)の一例を示す平面図である。図1に示す結束バンド1は、ストラップ2、および、ストラップ2の一方の端部において当該ストラップと一体化されたヘッド3とを備える。ストラップ2の一方の主面上には、歯11が列設されており、歯11のエッジが伸長する方向はストラップ2の短手方向である。ヘッド3は、ヘッド3を貫通してストラップ2を挿入可能な通路12を有する。通路12には、ストラップ2をその他方の端部から通路12に挿入する方向に移動させるときには歯11と噛み合わず、ストラップ2を通路12から引き抜く方向に移動させるときには歯11と噛み合う爪13が配置されている。
【0015】
結束バンド1における、ストラップ2が挿入された状態のヘッド3の拡大図を図2に示す。図2に示すように、ストラップ2に並んで設けられている歯11の形状は鋸状であり、爪13におけるストラップ2と接触する面は歯11の形状と対応する形状を有する。爪13は可撓性を有しており、ストラップ2を通路12に挿入する方向(図2の矢印Aの方向)へ移動させようとすると、爪13が歯11から離れる方向に撓むことで、歯11と爪12とが噛み合うことなく、ストラップ2は当該方向へ移動できる。これとは逆に、ストラップ2をヘッド3の通路12から引き抜く方向(図2の矢印Bの方向)へ移動させようとすると、爪13は撓むことなく歯11と噛み合って、ストラップ2の上記方向への移動が(即ちストラップ2の後退が)抑止される。
【0016】
図3に示すように、このような結束バンド1について、ストラップ2を結束対象物51を巻くようにループ状に変形させ、ヘッド3の通路12に挿入して歯11と爪12とを噛み合わせることで、歯11と爪12とが噛み合った位置からストラップ2が後退することなく結束対象物51を結束できる。
【0017】
ここで、ストラップ2およびヘッド3は、JIS K7198の規定に基づいて測定した動的粘弾性について、30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が1×108〜5×109Paの範囲にあり、かつ、90℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有するポリアミド系樹脂組成物(A)からなる。結束バンド1は、ポリアミド樹脂に由来する高い強度を有するとともに、透明である。
【0018】
上述したように、結束バンドの形状が成形加工の難度が高い形状であるために、従来、この難度を克服して高強度かつ透明な結束バンドを形成することが困難であった。本発明者らは、鋭意検討の結果、動的粘弾性に関して上記特性を有する樹脂組成物(A)により、高強度かつ透明な結束バンドが実現できることを初めて見出した。
【0019】
本発明者らの検討によれば、成形加工の温度に対応する30〜100℃の温度域における樹脂組成物の貯蔵弾性率(E')が、透明な結束バンドの形成に必要な樹脂の固化速度、固化の状態(硬さ)および離型性を確保するために重要であることがわかった。結束バンドは、典型的には溶融状態の樹脂を金型に射出して形成されるが、透明な結束バンドを得るためには、射出された樹脂を速やかに冷却する必要がある。このため、成形加工の難度が高い形状を有する上に、さらに透明な結束バンドを形成するためには、30〜100℃の温度域における樹脂の固化速度、固化の状態および離型性が非常に重要となる。30〜100℃の温度域における樹脂組成物(A)の貯蔵弾性率(E')は上記範囲にあり、透明な結束バンドの形成に必要な上記各特性を確保できる。
【0020】
30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が上記範囲よりも大きい場合、成形加工時における樹脂組成物の固化速度が過度に速く、結束バンドの形成に必要な樹脂組成物の流動性を確保できない。また、この場合、樹脂組成物が硬すぎて、成形加工時にクラックが入りやすくなる。一方、上記範囲よりも小さい場合、成形加工時の樹脂の離型性が低下して、結束バンドの形成が困難となる。
【0021】
また本発明者らの検討によれば、透明な結束バンドを得るためには、樹脂組成物の損失弾性率(E'')のピークが位置する温度(ピーク温度)が重要であることがわかった。ピーク温度が成形加工の温度に位置する場合、具体的には90℃未満に位置する場合、成形加工中に樹脂組成物の結晶化が進行して半透明または不透明となる。樹脂組成物(A)の損失弾性率(E'')のピーク温度は90℃以上であり、透明な結束バンドとすることができる。
【0022】
樹脂組成物(A)の30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')は、2×108〜3×109Paの範囲にあることが好ましく、3×108〜2×109Paの範囲にあることがより好ましい。結束バンドの形成時における樹脂組成物(A)の固化速度、固化の状態(硬さ)および離型性をより向上できる。
【0023】
樹脂組成物(A)は、100℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有することが好ましい。このような樹脂組成物は、より非晶性が高く、透明な結束バンドをより確実に得ることができる。
【0024】
また、樹脂組成物(A)の70〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が、9×108Pa以下であることが好ましい。この場合、結束バンドの形成時における樹脂組成物の離型性を確保しながら、その流動性を向上でき、例えば、より大型の(長尺の)結束バンドを安定して形成できる。
【0025】
樹脂組成物(A)の具体的な組成は、ポリアミド樹脂を含むポリアミド系樹脂組成物であって、動的粘弾性に関する上記規定を満たす限り特に限定されないが、樹脂組成物(A)は、例えば、非晶質ポリアミドを含んでいてもよい。
【0026】
非晶質ポリアミドの種類は特に限定されず、例えば、芳香族ジアミン、アリール脂肪族ジアミンおよび脂環式ジアミンから選択される少なくとも1種のジアミンと、50モル%以上のテトラデカンジオイック酸を含むジカルボン酸との縮合により得た非晶質ポリアミド(B)であってもよい。
【0027】
上記ジアミンは、例えば、2つの脂環を有する脂環式ジアミンであり、一例として以下の式(1)に示す構造を有する。
【0028】
【化1】

【0029】
ただし、上記式(1)において、R1〜R4は、水素原子または炭素原子数が1〜6のアルキル基から選択され、互いに同一でも異なっていてもよく、Xは、単結合または下記(a)〜(d)から選択される二価の基を示す:
(a)炭素原子数が1〜10の直鎖または分岐を有する脂肪族鎖
(b)炭素原子数が6〜12の脂環式基
(c)炭素原子数が6〜8の脂環式基で置換されていてもよい炭素原子数が1〜10の直鎖または分岐を有する脂肪族鎖
(d)シクロヘキシル基またはベンジル基を有する直鎖または分岐を有するジアルキルからなる炭素原子数が8〜12の基。
【0030】
非晶質ポリアミド(B)は、上記少なくとも1種のジアミンと、70モル%以上のテトラデカンジオイック酸を含むジカルボン酸との縮合により得たポリアミドであってもよく、上記少なくとも1種のジアミンとテトラデカンジオイック酸との縮合により得たポリアミドであってもよい。
【0031】
非晶質ポリアミド(B)は、結束バンドの形成時における流動性、離型性および非晶性に優れており、非晶質ポリアミド(B)を含むポリアミド系樹脂組成物(A)とすることで、透明な結束バンドを安定して得ることができる。
【0032】
透明な結束バンドの成形加工の難度の高さは、樹脂組成物の透明性を確保するために離型剤の種類が制限されることにもよっている。例えば、不透明な結束バンドを形成する際には、成形加工に広く用いられている各種の離型剤を添加することで、成形加工時の樹脂組成物の離型性の確保が可能となる。しかし、透明な結束バンドを得る、即ち、樹脂組成物の透明性を確保するためには、樹脂組成物と異なる屈折率を一般に有し、光の散乱源となりうる離型剤を、不透明な結束バンドを形成する際と同様に用いることは難しい。これに対して、非晶質ポリアミド(B)を含む樹脂組成物(A)では、結束バンドの具体的な形状および成形加工条件にもよるが、離型剤を添加することなく樹脂の離型性を確保することも可能である。
【0033】
樹脂組成物(A)が非晶質ポリアミド(B)を含む場合、樹脂組成物(A)はその他のポリアミド、例えば、半結晶ポリアミドを含んでいてもよく、半結晶ポリアミドの例としては、ポリアミド11および/またはポリアミド12が挙げられる。
【0034】
また、樹脂組成物(A)が非晶質ポリアミド(B)を含む場合、樹脂組成物(A)は、例えば、ポリエーテルアミドブロック共重合体を含んでいてもよい。このような樹脂組成物(A)は、成形加工時における流動性に優れる。
【0035】
樹脂組成物(A)は、動的粘弾性に関する上記規定を満たす限り、ポリアミド以外の樹脂を含んでいてもよく、透明な結束バンドが得られる限り、必要に応じて、離型剤などの各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0036】
本発明の結束バンドはヘッドとストラップとが分離した分離型の結束バンドであってもよく、即ち、ストラップとヘッドとを備える結束バンドキットであってもよい。
【0037】
図4は、本発明の結束バンドキットを構成するストラップの一例を示す平面図であり、図5は、本発明の結束バンドキットを構成するヘッドの一例を示す平面図である。図4に示すストラップ4の一方の主面上には、歯11が列設されており、歯11のエッジが伸長する方向はストラップ4の短手方向である。図5に示すヘッド5は、ストラップ4における双方の端部の各々を個別に挿入可能な一対の通路14a、14bを有する。通路14a、14bには、ストラップ4を、その端部から通路14a、14bに挿入する方向に移動させるときには歯11と噛み合わず、ストラップ4をヘッド5の通路14a、14bから引き抜く方向に移動させるときには歯11と噛み合う爪15a、15bがそれぞれ配置されている。具体的な歯11および爪15a、15bの形状、ならびに歯11と爪15a、15bとが噛み合う状態は、図2に示す歯11および爪13の形状、ならびに歯11と爪13とが噛み合う状態と同様である。
【0038】
ストラップ4とヘッド5とを組み合わせて結束対象物51を結束した状態を図6に示す。図6に示すように、結束対象物51を巻くようにストラップ4を変形させ、ストラップ4の双方の端部の各々を個別に通路14a、14bに挿入して歯11と爪15a、15bとを噛み合わせることで、歯11と爪15a、15bとが噛み合った位置からストラップ4が後退することなく(ヘッド5からストラップ4が脱落することなく)、対象物51を結束できる。
【0039】
本発明の結束バンドキットでは、ストラップ4およびヘッド5から選ばれる少なくとも1つが上述した樹脂組成物(A)からなればよい。また、ストラップ4およびヘッド5の双方が樹脂組成物(A)からなることにより、本発明の一体型結束バンド1と同様に、ストラップおよびヘッドの双方が透明な、高強度の分離型結束バンドとすることができる。
【0040】
本発明の結束バンドキットを構成するストラップ4およびヘッド5は、それぞれ、結束バンド用ストラップおよび結束バンド用ヘッドとして、単独で流通させることができる。
【0041】
一体型および分離型を含め、本発明の結束バンド(結束バンドキット)の構造、例えばストラップおよびヘッドの構造、は、図1〜図6に示す例に限定されず、市販の任意の結束バンドと同様の構造を有していてもよい。
【0042】
本発明の結束バンドおよび結束バンドキットは、公知の成形法、例えば、射出成形法や押出成形法により形成できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0044】
(実施例1)
ポリアミド系樹脂組成物(A)として、非晶質ポリアミド組成物である、アルケマ社より供給されたRilsan Clear(以下A−1と称す)を用い、射出成形により、図7に示す形状を有する一体型結束バンド1(全長L=100mm、ストラップの幅W=2.5mm、ストラップの厚さD=2mm、ストラップ2における歯11が設けられた部分とヘッド3との間に、ラベルなどを貼付可能な平板部6が設けられている)の形成を試みたところ、問題なく上記結束バンドを形成できた。なお、離型剤は用いなかった。
【0045】
用いた非晶質ポリアミド組成物A−1は、上記式(1)に示す構造を有するジアミンと、50モル%以上のテトラデカンジオイック酸を含むジカルボン酸との縮合により得た非晶質ポリアミド(B)を含む。
【0046】
得られた結束バンド(サンプル1)は、図8に示すように透明であり、平板部6だけでなくヘッド3の部分においても、結束バンド1を通してその下にある文字を鮮明に読み取ることができた。
【0047】
これとは別に、比較のため、従来より結束バンドに用いられているポリアミド66(デュポン社製、商品名ザイテル、射出成形用グレード:以下C−1と称す)を用い、射出成形により、上記と同様の一体型結束バンドの形成を試みたところ、問題なく上記結束バンドを形成できた。ただし、得られた結束バンド(サンプル2)は、淡い白色であり不透明であった。
【0048】
結束バンドの形成に用いた上記A−1およびC−1に対して、JIS K7198の規定に基づいて、その動的粘弾性を測定した結果(動的粘弾性プロファイル)を、それぞれ図9、10に示す。なお、動的粘弾性の測定は、アイティー計測制御株式会社製動的粘弾性測定装置(DVA−220)を用い、昇温速度6℃/分、測定周波数10Hzにて行った。樹脂組成物に対する動的粘弾性の測定方法は、実施例2においても同様である。
【0049】
図9に示すように、非晶質ポリアミド組成物A−1の30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')は9×108〜2×109Paの範囲、即ち1×108〜5×109Paの範囲内にあり、また、当該組成物は、132℃付近に損失弾性率(E'')のピークを有していた。
【0050】
一方、図10に示すように、ポリアミド66(C−1)の30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')は4×108〜2×109Paの範囲、即ち1×108〜5×109Paの範囲内にあるものの、当該ポリアミドは、90℃以上の温度域において損失弾性率(E'')のピークを有さなかった。なお、図9、10に示す「tanθ」は、一般に「損失正接」と呼ばれ、損失弾性率の貯蔵弾性率に対する比を示す。
【0051】
次に、上記のようにして得たサンプル1およびサンプル2の双方について、そのループ強度を評価した。ループ強度とは、結束対象物を結束した状態における結束バンドの強度を示す指標の一つである。本実施例では、SAE AS23190の規定に基づき、サンプルのループ強度を評価した。評価は、引張速度を25mm/分、使用マンドレルをφ10mmとして行った。
【0052】
評価の結果、サンプル1のループ強度は180N、サンプル2のループ強度は118Nであり、サンプル1はサンプル2よりも高強度であった。即ち、アミド樹脂からなる従来の結束バンドよりも高い強度を有し、透明な結束バンドを実現できた。なお、サンプル1のループ強度である「180N」の値は、ポリアミド66からなる従来の結束バンドでは、通常、サイズがより大きい結束バンド(全長150mm、ストラップの幅3.5mm)でなければ実現できない値である。
【0053】
(実施例2)
ポリアミド系樹脂組成物として、実施例1で用いた上記A−1およびC−1、ならびに、アルケマ社供給:Rilsan 微細結晶グレード(以下A−2と称す)、アルケマ社供給:Pebax(ショアー硬度63、以下A−3と称す)、アルケマ社供給:Pebax(ショアー硬度55、以下A−4と称す)、およびEMS社製システマーS400を、以下の表1に示す配合比により混合した組成物を用い、射出成形により、図1に示す形状を有する一体型結束バンド1(全長L=840mm、ストラップの幅W=6mm、ストラップの厚さD=2mm)の形成を試みた。なお、A−2は、半結晶ポリアミドであるポリアミド11を主成分(含有率にして50モル%以上)とし、非晶質ポリアミドおよびポリエーテルアミドブロック共重合体をさらに含む、透明性を有するポリアミド系樹脂組成物である。A−3、A−4は、ポリエーテルアミドブロック共重合体を主成分とするポリエーテルアミド組成物である。EMS社製システマーS400は、ポリアミド66を主成分とし、ポリプロピレンをアロイ化した構造を有するポリアミド系アロイ材である。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示す各樹脂組成物サンプルについて、その動的粘弾性の測定結果を以下の表2〜表3に示す。なお、表2〜表3に示す各樹脂組成物の動的粘弾性は、30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')について、上記温度域にわたって当該E'が1×108〜5×109Paの範囲にある場合を「○」とし、ない場合を「×」とした。70〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')について、上記温度域にわたって当該E'が9×108Pa以下である場合を「○」とし、上記温度域における少なくとも一部の温度において9×108Paを超えた場合を「×」とした。また、損失弾性率(E'')のピークについて、90℃以上にピーク温度を有する場合を「○」、有さない場合を「×」とした。一例として、サンプル6、7、16および17の動的粘弾性プロファイルを、それぞれ図11〜14に示す。
【0056】
また表2〜表3に、各樹脂組成物サンプルにおける結束バンドの成形試験の結果、および、試験後に得られた結束バンド(結束バンドが形成できなかった場合には成形試験を経た樹脂組成物サンプル)の透明性の評価結果、ならびに、結束バンドを形成できたサンプルについて、得られた結束バンドのループ強度の評価結果を示す。
【0057】
成形試験の評価は、問題なく結束バンドを形成できた場合を「◎」、部分的に小さい傷などが見られるが結束バンドを形成できた場合を「○」、金型からの離型が困難であったり、成形時に樹脂組成物が十分に金型の内部に行き渡らなかったりして結束バンドが形成できなかった場合を「×」とした。
【0058】
透明性の評価は、ストラップ2における歯11が設けられた部分において、当該ストラップを通して新聞の本文の文字が鮮明に読み取れる場合を「○」、文字がぼやけるなど、読み取り難い場合を「×」とした。結束バンドが形成できなかったサンプルについては、上記ストラップと同様の厚みを有する部分において、同様の評価を行った。文字を鮮明に読み取ることができた結束バンドの一例(樹脂組成物はサンプル6)を図15に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
表2〜表3に示すように、30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が1×108〜5×109Paの範囲にあり、70〜100℃の温度域における前記樹脂の貯蔵弾性率(E')が9×108Pa以下であり、90℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有する樹脂組成物を用いた場合に、ポリアミド66からなる結束バンド(サンプル15)よりも高い強度を有し、かつ、透明な結束バンドを実現できた。
【0062】
特に、A−1とA−2とを、配合比にして、A−1/A−2=95〜40重量%/5〜60重量%で混合した樹脂組成物(サンプル4〜7)の場合に、570N以上の高いループ強度を有する透明な結束バンドを実現できた。
【0063】
実施例1では、樹脂組成物としてA−1を用いて透明かつ高強度な結束バンドを実現できたが、実施例2では、同じ樹脂組成物を用いたサンプル3において、結束バンドの形成が困難であった。これは、実施例2で形成を試みた結束バンドが、実施例1の結束バンドよりも長尺であり、成形加工の難度が高かったためと推定される。即ち、成形加工の難度が高い結束バンドを形成する場合には、70〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が9×108Pa以下であることが好ましいことがわかった。
【0064】
なお、透明なポリアミド樹脂組成物であるA−2からなるサンプル17では、成形試験後に透明性が低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
透明であり、ナイロンなどのポリアミド樹脂からなる従来の結束バンドよりも高い強度を有する結束バンドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(a)は、本発明の結束バンド(一体型結束バンド)の一例を示す上面図であり、(b)は、(a)に示す結束バンドの側面図である。
【図2】図1に示す結束バンド1において、ヘッド3にストラップ2を挿入した状態を説明するための断面図である。
【図3】図1に示す結束バンド1により、結束対象物51を結束した状態を模式的に示す部分断面図である。
【図4】本発明の結束バンドキット(分離型結束バンド)に用いるストラップの一例を示す上面図である。
【図5】本発明の結束バンドキット(分離型結束バンド)に用いるヘッドの一例を示す上面図である。
【図6】図4に示すヘッド5および図5に示すストラップ4により、結束対象物51を結束した状態を模式的に示す部分断面図である。
【図7】実施例1において作製した結束バンドを示す上面図である。
【図8】実施例1において作製した本発明の結束バンド(サンプル1)の透明性を説明するための図である。
【図9】実施例1のサンプル1に用いた樹脂組成物の動的粘弾性プロファイルを示す図である。
【図10】実施例1のサンプル2に用いた樹脂組成物の動的粘弾性プロファイルを示す図である。
【図11】実施例2に用いた樹脂組成物(サンプル6)の動的粘弾性プロファイルを示す図である。
【図12】実施例2に用いた樹脂組成物(サンプル7)の動的粘弾性プロファイルを示す図である。
【図13】実施例2に用いた樹脂組成物(サンプル16)の動的粘弾性プロファイルを示す図である。
【図14】実施例2に用いた樹脂組成物(サンプル17)の動的粘弾性プロファイルを示す図である。
【図15】実施例2において作製した本発明の結束バンドの透明性を説明するための図である。
【符号の説明】
【0067】
1 結束バンド
2 ストラップ
3 ヘッド
4 ストラップ
5 ヘッド
6 平板部
11 歯
12 通路
13 爪
14 通路
15 爪
51 結束対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に歯が列設されたストラップと、前記ストラップを挿入可能な通路を有する、前記ストラップと一体化されたヘッドと、を備え、
前記通路に、前記ストラップを前記通路に挿入する方向に移動させるときには前記歯と噛み合わず、前記ストラップを前記通路から引き抜く方向に移動させるときには前記歯と噛み合う、爪が配置されており、
前記ストラップを、結束対象物を巻くようにループ状に変形させ、前記通路に挿入して前記歯と前記爪とを噛み合わせることで、前記歯と前記爪とが噛み合った位置から前記ストラップが後退することなく前記対象物を結束できる結束バンドであって、
前記ストラップおよび前記ヘッドは、
JIS K7198の規定に基づいて測定した動的粘弾性について、30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が1×108〜5×109Paの範囲にあり、かつ、90℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有する、ポリアミド系樹脂組成物からなる、
透明かつ高強度の結束バンド。
【請求項2】
70〜100℃の温度域における前記樹脂組成物の貯蔵弾性率(E')が、9×108Pa以下である請求項1に記載の透明かつ高強度の結束バンド。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、100℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有する請求項1に記載の透明かつ高強度の結束バンド。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、非晶質ポリアミドを含む請求項1に記載の透明かつ高強度の結束バンド。
【請求項5】
前記非晶質ポリアミドが、芳香族ジアミン、アリール脂肪族ジアミンおよび脂環式ジアミンから選択される少なくとも1種のジアミンと、50モル%以上のテトラデカンジオイック酸を含むジカルボン酸との縮合により得た非晶質ポリアミドである請求項4に記載の透明かつ高強度の結束バンド。
【請求項6】
前記ジアミンが、以下の式(1)に示す構造を有する請求項5に記載の透明かつ高強度の結束バンド。
【化1】

ただし、上記式(1)において、R1〜R4は、水素原子または炭素原子数が1〜6のアルキル基から選択され、互いに同一でも異なっていてもよく、
Xは、単結合または下記(a)〜(d)から選択される二価の基を示す:
(a)炭素原子数が1〜10の直鎖または分岐を有する脂肪族鎖
(b)炭素原子数が6〜12の脂環式基
(c)炭素原子数が6〜8の脂環式基で置換されていてもよい炭素原子数が1〜10の直鎖または分岐を有する脂肪族鎖
(d)シクロヘキシル基またはベンジル基を有する直鎖または分岐を有するジアルキルからなる炭素原子数が8〜12の基。
【請求項7】
前記樹脂組成物が、半結晶ポリアミドをさらに含む請求項4に記載の透明かつ高強度の結束バンド。
【請求項8】
前記半結晶ポリアミドが、ポリアミド11および/またはポリアミド12である請求項7に記載の透明かつ高強度の結束バンド。
【請求項9】
前記樹脂組成物が、ポリエーテルアミドブロック共重合体をさらに含む請求項4に記載の透明かつ高強度の結束バンド。
【請求項10】
表面に歯が列設されたストラップと、前記ストラップを挿入可能な通路を有するヘッドと、を備え、
前記通路に、前記ストラップを前記通路に挿入する方向に移動させるときには前記歯と噛み合わず、前記ストラップを前記通路から引き抜く方向に移動させるときには前記歯と噛み合う、爪が配置されており、
結束対象物を巻くように前記ストラップを変形させ、その両方の端部の各々を前記通路に挿入して前記歯と前記爪とを噛み合わせることで、前記歯と前記爪とが噛み合った位置から前記ストラップが後退することなく前記対象物を結束できる、結束バンドキットであって、
前記ストラップおよび前記ヘッドから選ばれる少なくとも1つが、
JIS K7198の規定に基づいて測定した動的粘弾性について、30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が1×108〜5×109Paの範囲にあり、かつ、90℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有する、ポリアミド系樹脂組成物からなる、
結束バンドキット。
【請求項11】
前記ストラップおよび前記ヘッドが、前記樹脂組成物からなる請求項10に記載の結束バンドキット。
【請求項12】
表面に歯が列設されたストラップと組み合わせて結束バンドとして用いられ、
前記ストラップを挿入可能な通路を有し、かつ、前記通路に、前記ストラップを前記通路に挿入する方向に移動させるときには前記歯と噛み合わず、前記ストラップを前記通路から引き抜く方向に移動させるときには前記歯と噛み合う、爪が配置されており、
JIS K7198の規定に基づいて測定した動的粘弾性について、30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が1×108〜5×109Paの範囲にあり、かつ、90℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有する、ポリアミド系樹脂組成物からなる、
結束バンド用ヘッド。
【請求項13】
表面に歯が列設されたストラップであって、
前記ストラップを挿入可能な通路を有し、かつ、前記通路に、前記ストラップを前記通路に挿入する方向に移動させるときには前記歯と噛み合わず、前記ストラップを前記通路から引き抜く方向に移動させるときには前記歯と噛み合う、爪が配置されているヘッドと組み合わせて、結束バンドとして用いられ、
JIS K7198の規定に基づいて測定した動的粘弾性について、30〜100℃の温度域における貯蔵弾性率(E')が1×108〜5×109Paの範囲にあり、かつ、90℃以上の温度域に損失弾性率(E'')のピークを有する、ポリアミド系樹脂組成物からなる、
結束バンド用ストラップ。

【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−1316(P2009−1316A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165346(P2007−165346)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000108524)ヘラマンタイトン株式会社 (57)
【Fターム(参考)】