説明

透明導電性シートの製造方法

【課題】金属粒子を含む透明導電膜形成用塗布液を用いて、低温で、かつ、簡潔なプロセスで、良好な導電性と透明性を兼ね備えた透明導電性シートが得られる透明導電性シートの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の透明導電性シート10の製造方法は、透明基板11と、透明基板11の上に形成された透明導電膜12とを含む透明導電性シートの製造方法であって、透明基板11の上に金属粒子を含む透明導電膜形成用塗布液を塗布して塗布膜を形成する工程と、上記塗布膜を光照射処理する工程と、上記光照射処理を行った塗布膜を、酸化雰囲気中、200℃以上の温度で加熱処理することにより、透明導電膜12を形成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基板上に透明導電膜が形成されている透明導電性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透明導電膜や透明導電性インクの材料として、酸化スズ粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子(ATO)、スズ含有酸化インジウム粒子(ITO)、アルミニウム含有酸化亜鉛粒子(AZO)、ガリウム含有酸化亜鉛粒子(GZO)などが知られている。中でも、酸化インジウムにスズを含有させたスズ含有酸化インジウム粒子は、可視光に対する高い透光性と、高い導電性から、静電防止や電磁波遮蔽が要求されるオフィスオートメーション(OA)機器の陰極線管(CRT)のパネル表面や液晶ディスプレイ(LCD)の表面などに塗布して使用されている(特許文献1)。さらに、スズ含有酸化インジウム粒子を含む塗布液(インク)を塗布して作製された透明導電膜は、タッチパネルなどの、より高い透光性と導電性が要求される分野への応用が期待されている。
【0003】
また、現在、主に用いられている透明導電膜の成膜方法は、真空蒸着法やスパッタリング法などの物理的方法であるが、成膜する基板の大型化に伴い、製造装置が大掛かりとなり、コストが高くなってしまうという問題が生じている。
【0004】
そして、コストの面及び簡便であるという点から、塗布法による透明導電膜の成膜が検討されている。塗布による透明導電膜の形成には、大きく分けて、以下の3種類の方法が提案されている。
(1)透明導電性物質の前駆体として、例えばインジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)などの金属イオンを含む有機化合物又は無機化合物を溶解させた塗布液を塗布し、焼成することにより、透明導電膜を形成させる方法
(2)透明導電性粒子を分散させた塗布液を塗布して、透明導電膜を形成させる方法
(3)In、Sn、Zn、Cdなどの金属粒子を分散させた塗布液を塗布し、酸化加熱処理をすることにより、透明導電膜を形成させる方法
【0005】
上記(1)の方法の例として、例えば特許文献2には、硝酸インジウムと塩化スズをアルコール中に溶解させた塗布液をスピンコーティングによってガラス基板上に塗布し、大気中で、650℃で加熱処理を加えることにより、シート抵抗が1900Ω/スクエアの透明導電膜を形成することが提案されている。また、特許文献3には、アセチルアセトンインジウム、アセチルアセトン錫、パラターシャリーブチルフェノールと二塩基酸エステルを混合して塗布液を調製し、バーコーティングによってガラス基板上に塗布し、大気中で、550℃で加熱処理を加えることにより、シート抵抗が1400Ω/スクエアの透明導電膜を形成する方法が開示されている。しかし、このような透明導電性物質の前駆体を用いて透明導電膜を形成させる方法では、高温での加熱処理が不可欠であり、400℃以下の低温焼成では良好な透明導電膜を得ることができない。
【0006】
上記(2)の方法の例として、ITO粒子を含むシリカゾル液(特許文献1参照)や、ITO粒子とバインダ用シリケートと極性溶媒とからなる塗布液(特許文献4参照)を用いて、ガラスなどの基材上にスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティングなどの方法で塗布・乾燥・焼成してITO透明導電膜を形成することが知られている。しかし、上記(2)の方法で、低抵抗な透明導電膜を形成するためには、分散剤などの有機物を分解できる350℃以上の加熱処理を施さなければならない。
【0007】
上記(3)の方法の例として、例えば特許文献5又は6には、In−Sn合金などの金属ナノ粒子を含む分散液を基材上に塗布した後、金属や合金が酸化しない雰囲気で焼成し、その後、酸化性雰囲気中で焼成することによって、230℃程度で、透明導電膜を形成することが提案されている。しかし、酸化しない雰囲気中で焼成するためには、真空装置や雰囲気制御の装置が必要であり、装置的にコストがかかり、また、プロセスが複雑になるという問題がある。
【特許文献1】特開平2−312136号公報
【特許文献2】特開2004−84064号公報
【特許文献3】特開2006−49019号公報
【特許文献4】特開平8−176794号公報
【特許文献5】特開2005−183054号公報
【特許文献6】特開2005−243249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来では、簡潔なプロセスで、かつ、低温で、高い透明性と優れた導電性とを併せ持った透明導電性シートを製造することは困難であった。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するため、金属粒子を含む透明導電膜形成用塗布液を用いて、低温で、かつ、簡潔なプロセスで、良好な導電性と透明性を兼ね備えた透明導電性シートが得られる透明導電性シートの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の透明導電性シートの製造方法は、透明基板と、上記透明基板の上に形成された透明導電膜とを含む透明導電性シートの製造方法であって、上記透明基板の上に金属粒子を含む透明導電膜形成用塗布液を塗布して塗布膜を形成する工程と、上記塗布膜を光照射処理する工程と、上記光照射処理を行った塗布膜を、酸化雰囲気中で、200℃以上の温度で加熱処理することにより、透明導電膜を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の透明導電性シートの製造方法によって得られる透明導電性シートは、良好な導電性と透明性を兼ね備えているので、電子ペーパー、フラットパネルディスプレイ(FPD)、太陽電池などの透明電極に応用することができる。また、本発明の透明導電性シートの製造方法によれば、基板にダメージを与えず、ポリイミドなどの合成樹脂製のフレキシブルな基板上に透明導電膜を形成し、良好な導電性と透明性を兼ね備えた透明導電性シートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、透明基板上に金属粒子を含む塗布液を塗布して塗布膜を形成し、その塗布膜に光照射処理を行い、さらに、200℃以上の温度で加熱処理を行う2段階プロセスにより、透明導電膜を形成することによって、塗布法で形成された透明導電膜でも優れた導電性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
上記のように、金属粒子表面に融点の高い金属酸化物層が形成されてしまう前に、光照射処理、例えばフラッシュランプ照射などによって、金属粒子を焼結及び溶融させて金属粒子同士の結合を強固にし、さらに、その後に200℃以上の温度で加熱処理することにより、金属を反応させて金属酸化物にすることで、低抵抗な透明導電膜が形成できる。
【0014】
以下、本発明の透明導電性シートの製造方法を説明する。
【0015】
本発明の透明導電性シートの製造方法は、透明基板と、上記透明基板の上に形成された透明導電膜とを含む透明導電性シートの製造方法であって、上記透明基板の上に金属粒子を含む透明導電膜形成用塗布液を塗布して塗布膜を形成する工程と、上記塗布膜を光照射処理する工程と、上記光照射処理を行った塗布膜を、酸化雰囲気中で、200℃以上の温度で加熱処理することにより、透明導電膜を形成する工程とを含む。図1は、本発明の製造方法により得られる透明導電性シートの一例を示す概略断面図である。図1において、本発明の透明導電性シート10は、透明基板11と、透明基板11の一方の主面に形成されている透明導電膜12とを備えている。
【0016】
透明基板11としては、透明な透光性を有する材料で形成されていれば特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、アラミド、芳香族ポリアミドなどの材料からなる、フィルム又はシートを用いることができる。透明基板11の厚さは、通常3〜300μmである。また、透明基板11は、ガラス板のような硬質の基板でもよく、フレキシブルであってもよい。
【0017】
なお、透明基板11には、酸化防止剤、難燃剤、耐熱防止剤、紫外線吸収剤、易滑剤、帯電防止剤などの添加剤が添加されていてもよい。さらに、その上に設けられる膜との密着性を向上させるために、基板表面に易接着層(例えば、プライマー層)を設けたり、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を行ってもよい。
【0018】
透明導電膜12は、上記透明基板の上に金属粒子を含む透明導電膜形成用塗布液を塗布して塗布膜を形成し、上記塗布膜を光照射処理し、その後、酸化雰囲気中、200℃以上の温度で加熱処理することにより形成される。上記透明導電膜形成用塗布液は、金属粒子と金属粒子を分散し得る溶剤とを含む。
【0019】
上記金属粒子としては、酸化されることによって透明性と導電性を兼ね備えた金属酸化物になるものであればよく、特に限定されない。例えば、金、銀、銅、スズ、インジウム、亜鉛、アルミニウム、カドミウム、アンチモン、ガリウムなどの金属粒子やそれらの合金粒子などが挙げられる。また、これらの金属粒子や合金粒子の混合物を用いてもよい。本発明において、特に指定がない場合、金属粒子は、合金粒子を含むものである。また、より透明性が優れるという点から、インジウム、スズ、亜鉛及びカドミウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を主成分として、さらにスズ、アンチモン、アルミニウム、ガリウムを含む金属粒子、例えば、酸化されると、アンチモン含有酸化スズ粒子(ATO)、スズ含有酸化インジウム粒子(ITO)、アルミニウム含有酸化亜鉛粒子(AZO)、ガリウム含有酸化亜鉛粒子(GZO)などの金属酸化物になるものが好ましい。中でも、酸化するとITOになるインジウム(In)とスズ(Sn)との合金粒子が、透明性、導電性及び化学特性などに優れているため、特に好ましい。ここで、主成分とは、金属粒子全体に対して、80重量%以上含まれる金属成分をいう。上記金属粒子は、表面が金属状態であることが好ましいが、部分的に酸化されていてもよい。上記金属粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0020】
上記金属粒子の一次粒子径は1〜50nmであることが好ましい。一次粒子径が1nm未満であると、金属粒子を製造することが難しい傾向があり、一方、一次粒子径が50nmよりも大きいと、透明性が低下してしまう傾向がある。本発明において、一次粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、粒界で区切られた個々の粒子の粒子径を観察・測定した後、少なくとも20個の粒子の粒子径を平均した平均粒子径をいう。
【0021】
上記金属粒子の濃度は、透明導電膜形成用塗布液全体に対して、1〜60重量%であることが好ましい。上記金属粒子の濃度が1重量%未満であると、高い導電性が得られにくい傾向があり、60重量%を超えると、塗布液を作製しにくい傾向があるからである。
【0022】
上記金属粒子の調製方法は、特に限定されるものではなく、例えば、ガス中蒸発法、湿式還元法、熱還元法などを用いることができる。
【0023】
上記溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの炭酸エステル系溶剤、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤のほか、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、デカヒドロナフタレンなどの有機溶剤が挙げられる。なお、透明導電膜形成用塗布液をインクジェット用インクとして調製する場合には、使用するヘッドに合わせて、溶剤を選定することが好ましい。
【0024】
上記透明導電膜形成用塗布液は、金属粒子の分散性を向上させるために、さらに有機化合物からなる分散剤を含んでもよい。即ち、本発明において、上記金属粒子は、有機化合物、例えばアルキルアミン、カルボン酸アミド、アミノカルボン酸塩及び脂肪酸などを分散剤として、有機溶剤中に分散させたものであることが好ましい。この場合、金属粒子は、その周囲に分散剤である有機化合物が付着した状態の粒子であり、この粒子を用いると、分散が容易になるからである。
【0025】
上記分散剤のアルキルアミンとしては、第1〜3級アミンであっても、モノアミン、ジアミン、トリアミンであってもよい。主鎖の炭素数が4〜20であるアルキルアミンが好ましく、安定性、ハンドリング性の点から、主鎖の炭素数が8〜18であるアルキルアミンがさらに好ましい。アルキルアミンの主鎖の炭素数が4より短かいと、アミンの塩基性が強過ぎて金属粒子を腐食して最終的には金属粒子を溶かしてしまう傾向がある。また、アルキルアミンの主鎖の炭素数が20よりも長いと、金属粒子の含有量を高くしたときに、塗布液の粘度が上昇してハンドリング性がやや劣る傾向がある。また、ハンドリング性の点から、第1級のアルキルアミンを用いることが好ましい。
【0026】
上記カルボン酸アミドやアミノカルボン酸塩の具体例としては、例えば、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸ラウリルアミド、オレイン酸アミド、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ラウリルアミド、ステアラニリド、オレイルアミノエチルグリシンなどが挙げられる。
【0027】
上記脂肪酸としては、例えば、ヘキサン酸、ミリスチン酸、オレイン酸などが挙げられる。
【0028】
上記透明導電膜形成用塗布液は、さらに、導電性金属酸化物粒子を含んでもよい。上記導電性金属酸化物粒子としては、透明性と導電性を兼ね備えた粒子であればよく、特に限定されない。例えば、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化カドミウムなどの金属酸化物粒子が挙げられる。また、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛及び酸化カドミウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を主成分として、さらにスズ、アンチモン、アルミニウム、ガリウム、インジウム、フッ素、亜鉛及び珪素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素でドープされた導電性金属酸化物粒子、例えば、スズ含有酸化インジウム粒子(ITO)、アンチモン含有酸化スズ粒子(ATO)、アルミニウム含有酸化亜鉛粒子(AZO)、ガリウム含有酸化亜鉛粒子(GZO)及びITOをアルミニウム置換した導電性金属酸化物粒子などが挙げられる。中でも、透明性、導電性及び化学特性に優れている点から、ITOが特に好ましい。ここで、主成分とは、導電性金属酸化物粒子において、結晶母体となる金属酸化物のことである。
【0029】
上記導電性金属酸化物粒子の一次粒子径は5〜150nmであることが好ましい。一次粒子径が5nm未満であると、結晶性のよい粒子を得ることが難しい傾向があり、一方、一次粒子径が150nmよりも大きいと、透明性が低下してしまう傾向がある。
【0030】
上記導電性金属酸化物粒子の含有量は、溶剤を除く固形分に対して、90重量%以下であることが好ましい。90重量%を超えると、導電性が低下してしまう傾向がある。
【0031】
上記透明導電膜形成用塗布液を、透明基板11上の一方の主面に塗布することにより塗布膜を形成する。塗布方法は、特に限定されず、例えば、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコートなどの塗工法、又はグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法などを用いることができる。
【0032】
上記のように、塗布により形成される塗布膜の膜厚は、最終的に透明導電膜の膜厚が0.05〜6μmになるように設定することが好ましい。上記透明導電膜の膜厚が0.05μm未満であると、透明性には優れるが、高い導電性が得られにくい傾向がある。また、上記透明導電膜の膜厚が6μmを超えると、高い透明性が得られにくい傾向がある。
【0033】
上記塗布膜に対して、光照射処理を行う。光照射処理を行うことにより、塗布膜中の粒子同士の結合が強固になり、塗膜硬度が高くなり、かつ、導電パスが形成される。上記光照射処理としては、例えば、ランプ照射処理、電磁波照射処理、フラッシュランプ照射処理などを用いることができる。上記光照射処理は、短時間の照射処理であることが好ましい。金属粒子表面に金属酸化物が形成される前に、金属粒子同士の結合を強固にできるからである。特に、上記光照射処理は、0.01ms〜1sの短時間で光を照射する、パルス照射であることが好ましい。0.01ms未満のパルスで照射処理することは技術的に難しい傾向があり、また、1sを超えるパルスで照射すると、基板にダメージを与える恐れがある。また、照射エネルギー密度は、塗布膜の膜厚にもよるが、最終的な透明導電膜の膜厚が0.05〜6μmの範囲において、0.5〜10J/cm2の範囲であることが好ましい。0.5J/cm2未満では、優れた導電性を得られにくい傾向があり、10J/cm2を超えると、エネルギーが強すぎて、塗布膜にクラックが入ってしまう傾向がある。本発明において、1パルス、すなわち、一回の照射処理で、サンプル基板の単位面積に照射されるトータルのエネルギーを単位面積あたりの照射エネルギーといい、一回の照射処理で、サンプル基板の1cm2の単位面積に照射されるトータルのエネルギーを照射エネルギー密度という。
【0034】
上記光照射処理後に、さらに、酸化雰囲気中、200℃以上の温度で加熱処理することによって、塗布膜中の金属粒子が酸化されて金属酸化物となり、透明導電膜が形成される。上記加熱処理の温度は、200〜550℃であることが好ましく、230〜350℃であることがさらに好ましく、230〜250℃であることが特に好ましい。また、上記加熱処理の時間は、5〜120分の範囲であることが好ましく、10〜60分の範囲であることがさらに好ましい。また、上記加熱処理の雰囲気は、酸素が存在する酸化雰囲気であればよく、特に限定されず、大気雰囲気でもよい。また、上記加熱処理は、従来の電気炉や高温槽などによる加熱処理でもよく、ランプアニール処理、電磁波照射アニール処理、熱風表層アニール処理、フラッシュランプアニール処理などの加熱処理でもよい。
【0035】
上記の加熱処理後に、還元雰囲気中、例えば窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気中や水素を含むような雰囲気中でさらに加熱処理を行ってもよい。
【0036】
上記透明導電性シートの初期シート抵抗は、1000Ω/スクエア以下であることが好ましく、500Ω/スクエア以下であることがさらに好ましく、100Ω/スクエア以下であることが特に好ましい。上記初期シート抵抗は、透明導電性シートの導電性を示すものであり、値が低いほど、導電性が高いことを示す。ここで、初期シート抵抗とは、加熱処理直後のシート抵抗をいう。
【0037】
上記透明導電性シートの380〜780nmの波長領域における全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。上記全光線透過率は、透明導電性シートの透明性を示すものであり、値が高いほど、透明性が高いことを示す。
【0038】
上記のように、本発明の透明導電性シートの製造方法によれば、簡潔なプロセスで、かつ、低温で、高い透明性と優れた導電性を併せ持った透明導電性シートを提供できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基いて本発明を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
<透明導電膜形成用塗布液の調製>
一次粒子径10nmのIn−Sn合金粒子をデカヒドロナフタレンに分散させて、In−Sn合金粒子の濃度が20重量%の透明導電膜形成用塗布液を調製した。また、上記透明導電膜形成用塗布液には、分散剤として、塗布液全体に対して0.6重量%のへキサン酸が含まれている。なお、In−Sn合金中のSnの含有量は5重量%であり、粉末X線回折より、金属であることを確認した。
【0041】
<透明導電膜の形成>
先ず、透明基板として幅50mm、長さ50mm、厚さ800μmの無アルカリガラス基板を準備した。次に、調製した透明導電膜形成用塗布液を、上記の無アルカリガラス基板上に、スピンコーターにより1000rpmの条件にて塗布して塗布膜を形成した。続いて、上記塗布膜に、当該塗布膜側から、3J/cm2の照射エネルギー密度、200μsの照射時間でフラッシュランプ照射処理を行った後、大気雰囲気中、60分間、230℃で加熱処理を行い、実施例1の透明導電性シートを得た。
【0042】
(実施例2)
フラッシュランプ照射処理の照射エネルギー密度を2.5J/cm2に設定した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の透明導電性シートを得た。
【0043】
(実施例3)
大気雰囲気中の加熱処理後に、さらに窒素雰囲気中で、60分間、230℃で加熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の透明導電性シートを得た。
【0044】
(実施例4)
加熱処理温度を200℃に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の透明導電性シートを得た。
【0045】
(比較例1)
フラッシュランプ照射処理を行っていないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の透明導電性シートを得た。
【0046】
(比較例2)
加熱処理を行っていないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の透明導電性シートを得た。
【0047】
(比較例3)
加熱処理温度を180℃に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の透明導電性シートを得た。
【0048】
実施例1〜4及び比較例1〜3の透明導電性シートについて、下記のとおり、初期シート抵抗、全光線透過率、膜厚及び表面性を測定・評価して、その結果を下記表1に示した。
【0049】
<初期シート抵抗>
抵抗率測定装置“ロレスタAP MCP−T400”(三菱化学社製)を用い、初期シート抵抗を測定した。
【0050】
<全光線透過率>
紫外可視近赤外分光光度計“V−570”(日本分光社製)を用い、透明導電性シートの380〜780nmの波長領域における全光線透過率を測定した。
【0051】
<膜厚>
走査型電子顕微鏡(SEM)による透明導電膜の断面形状観察を行ない、膜厚を測定した。
【0052】
<表面性>
目視で、透明導電膜側の表面を観察し、クラックが入ってないものをA、クラックが入っているものをBと評価した。
【0053】
【表1】

表1から、以下のことが分かる。
【0054】
実施例1と比較例1との比較から、光照射処理を行わないと、十分な導電性が得られないことが分かった。即ち、光照射処理、例えばフラッシュランプ照射処理を行うことにより、高い透明性を維持しつつ、初期シート抵抗を4000分の1以下と大幅に低下できることが分かった。
【0055】
実施例1及び4と比較例2及び3との比較から、酸化雰囲気中、例えば大気雰囲気中、200℃以上の温度で加熱処理を施さないと、十分な透過率が得られないことが分かった。
【0056】
実施例1と実施例2との比較から、透明導電膜の膜厚が同じである場合、フラッシュランプ照射処理の照射エネルギー密度の大きいほど、初期シート抵抗が低くなることが分かった。
【0057】
実施例1と実施例3との比較から、窒素雰囲気中で加熱処理を行う工程を加えることによって、初期シート抵抗がさらに低くなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
金属粒子を含む塗布膜に対して、光照射処理と加熱処理という2つのプロセスの処理を行うことによって、スパッタ膜に匹敵する低抵抗な透明導電性シートが実現でき、低抵抗が必要なフラットパネルディスプレイ(FPD)や電子ペーパーなどの表示素子の透明電極、太陽電池の透明電極などへ応用でき、かつ、フレキシブルな基板への応用も考えられ、広範囲の用途が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の製造方法により得られる透明導電性シートの一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0060】
10 透明導電性シート
11 透明基板
12 透明導電膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、前記透明基板の上に形成された透明導電膜とを含む透明導電性シートの製造方法であって、
前記透明基板の上に金属粒子を含む透明導電膜形成用塗布液を塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を光照射処理する工程と
前記光照射処理を行った塗布膜を、酸化雰囲気中で、200℃以上の温度で加熱処理することにより、透明導電膜を形成する工程とを含むことを特徴とする透明導電性シートの製造方法。
【請求項2】
前記光照射処理が、ランプ照射処理、電磁波照射処理及びフラッシュランプ照射処理からなる群から選ばれる一種により、0.01ms〜1sの範囲の照射時間で行われる請求項1に記載の透明導電性シートの製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理が、550℃以下での加熱処理である請求項1又は2に記載の透明導電性シートの製造方法。
【請求項4】
前記金属粒子が、金、銀、銅、スズ、インジウム、亜鉛、アルミニウム、カドミウム、アンチモン、ガリウム及びそれらの合金からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属粒子である請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明導電性シートの製造方法。
【請求項5】
前記透明導電膜形成用塗布液が、さらに導電性金属酸化物粒子を含み、前記導電性金属酸化物粒子が、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛及び酸化カドミウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物粒子である請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明導電性シートの製造方法。
【請求項6】
前記導電性金属酸化物粒子が、さらにスズ、アンチモン、アルミニウム、ガリウム、インジウム、亜鉛、フッ素及び珪素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素でドープされている請求項5に記載の透明導電性シートの製造方法。
【請求項7】
前記透明導電性シートの初期シート抵抗が、1000Ω/スクエア以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の透明導電性シートの製造方法。
【請求項8】
前記透明導電性シートの380〜780nmの波長領域における全光線透過率が、80%以上である請求項1〜7のいずれか1項に記載の透明導電性シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−146995(P2010−146995A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326359(P2008−326359)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】