説明

透明導電性塗料及び透明導電性ポリイミド管状物

【課題】有機溶媒への分散性を高めるためのカップリング剤や界面活性剤を用いることなく、しかも水を含む必要もない透明導電性塗料を提供し、及びこの透明導電性塗料を塗布しイミド転化してなる透明導電性被膜を有する透明導電性ポリイミド管状物を提供すること。
【解決手段】アンチモンドープ酸化スズ粉末、20度Cにおける比誘電率が50以上で、
かつ、比重が1.20以上の有機溶媒、及びこの有機溶媒に可溶な結着剤を有する透明導
電性塗料を、基層となるポリイミド管状物に塗布し、イミド転化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜化することによって透明性と導電性に優れた特性を有する塗料と、それを用いて得られる透明導電性被膜層を有する、透明導電性ポリイミド管状物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド管状物は、特に電子写真技術を用いた複写機やプリンタ等の画像形成装置において、感光、転写搬送、中間転写、あるいは定着などの画像形成プロセスの中で、重要な役割を持つ部材としてその用途が拡大している。近年電子写真技術は、小型化、軽量化、高速化、及びカラー化を含む画像の鮮明さが追求され、研究開発が加速してきているが、このような背景の中で特許文献4に開示されている背面露光感光体、あるいは裏面露光感光体と呼ばれる技術が注目されている。
【0003】
前記背面露光感光体に関する技術は、ガラス管やプラスチック管状物、ポリイミドフィルムなどの透明な支持体(基層)上にITO(酸化インジウムスズ)などの透明導電層と、光導電体層を積層して感光体を形成し、露光手段を感光ドラムの内側に収納して、ドラム内部から光を照射して露光し潜像を形成する、いわゆる背面、または裏面露光と呼ばれる技術である。
【0004】
このポリイミドフィルム等の基層上にITO透明導電性被膜を形成するためには、特許文献4に開示されているように真空中でスパッタリングなどの方法を用いる必要があり、工程が煩雑であるとともに、バッチ的な処理になり、製造コストが高い問題がある。
【0005】
また、透明導電性材料は画像形成装置のみならず、液晶ディスプレイ、タッチパネル、ブラウン管等の透明性基材表面の導電性あるいは帯電防止剤として市場の拡大が著しく、安価な透明導電性材料及び安価な透明導電性被膜の成形方法の開発が望まれている。透明導電性材料としては、前記したスズドープ酸化インジウム(いわゆるITO)がよく知られているが、インジウムが高価であるため、現在、それに替わるべき透明導電性材料として、アンチモンドープ酸化スズが検討されている。しかし、アンチモンドープ酸化スズ粉末は、親水性が極めて高いため、有機溶媒に分散させることが難しく、アンチモンドープ酸化スズ粉末を用いた有機溶媒系の塗料では、透明性の高い導電性被膜を得ることが困難であった。
【0006】
これらの問題に対処するため、いくつかの技術が提案されている。例えば、特許文献1には、粒子表面に有機金属カップリング剤を被覆した酸化スズ粉末と分散剤を含む有機溶媒からなる導電性有機系塗料が開示されている。この場合、あえてカップリング剤を被覆することにより、粉末の分散性を上げようとするものであるが、その反面、導電性と透明性を低下させてしまうという問題点がある。
【0007】
また、特許文献2には、導電性酸化物、水及び有機溶媒を含む第1液と、硬化性成分を含む第2液とからなる導電性塗料が開示されている。この文献では、導電性酸化物を配合する第一液の分散媒に水と、35以上の比誘電率と100度C以上の沸点とを有する非水溶媒を用いることによって、液中での導電性酸化物の分散安定化と導電性酸化物を配合した第一液を塗布した際の凝集を防止しようとするものであり、前記第一液を基材に塗布し導電性酸化物を含む層を形成させた後、第二液を塗布し硬化性成分を硬化させて塗膜を形成させ透明性と導電性を有する塗膜を得ようとするものである。しかしながらこの文献で開示されている導電性塗料は二液性であるため製膜工程が煩雑であり、分散媒に水を含んでいるため塗膜時にハジキが発生しやすい問題がある。
【0008】
さらに、特許文献3には、アンチモン含有酸化スズ微粒子の水性ゾルに界面活性剤を添加して沈澱物を得た後、該沈澱物を乾燥することによって疎水性アンチモン含有酸化スズ微粒子を作製し、前記疎水性アンチモン含有酸化スズ微粒子をシラザン重合体溶液に分散してなる熱線遮蔽コーティング液が開示されている。本文献に記載のようにアンチモン含有酸化スズ微粒子を疎水化することによって有機溶媒に安定して分散可能なアンチモン含有酸化スズのコーティング液を作製することができるが、界面活性剤を添加することにより、このような微粒子を用いた塗料は、特許文献1のカップリング剤と同様、導電性と透明性を低下させてしまうという問題、及び疎水性処理のために、製造コスト高くなる問題点を持っている。
【0009】
また、耐熱性の高い透明導電性被膜を得るためには、結着剤の耐熱性が高い材料を使用することが好ましく、ポリイミド樹脂は好ましい結着材料であるが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを極性溶媒中で反応させて得られるポリイミド前駆体溶液は、水や貧溶媒を添加すると再沈殿するという問題がある。したがって親水性が極めて高いためアンチモンドープ酸化スズ粉末を分散媒に水を用いることなく有機溶媒に分散させ、結着剤としてポリイミド前駆体を用いた透明導電塗料は、個々の材料が有するそれぞれ相容れがたい特性から未だ開発されていない。
【特許文献1】特開2001−148207号公報
【特許文献2】特開2003−20449号公報
【特許文献3】特開平07−257922号公報
【特許文献4】特開平05−249705号公報
【特許文献5】特開平06−023770号公報
【特許文献6】特開平01−156017号公報
【特許文献7】特開平05−077252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を克服し、有機溶媒への分散性を高めるための
カップリング剤や界面活性剤を用いることなく、しかも、分散媒として水を用いない新規な透明導電性塗料と、基層となるポリイミド管状物の表面に前記透明導電性塗料を塗布し、イミド転化してなる透明導電被膜層を有する、透明性と導電性に優れた透明導電性ポリイミド管状物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の透明導電性塗料は、アンチモンドープ酸化スズ粉末
と、20度Cにおける比誘電率が50以上で、かつ、比重が1.20以上である有機溶媒と、この有機溶媒に可溶な結着剤を有することを特徴とするものである。
【0012】
また、上記目的を達成するため、本発明の透明導電性塗料は、前記有機溶媒が、炭酸プ
ロピレン、炭酸エチレン又はその混合物であることを特徴とするものである。
【0013】
また、上記目的を達成するため、本発明の透明導電性塗料は、アンチモンドープ酸化スズ粉末の比表面積が、30m/g〜130m/gであることを特徴とするものである。
【0014】
また、上記目的を達成するため、本発明の透明導電性塗料は、前記結着剤が、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを極性溶媒中で反応させて得られるポリイミド前駆体であることを特徴とするものである。
【0015】
また、上記目的を達成するため、本発明の透明導電性ポリイミド管状物は、本発明の透
明導電性塗料をイミド転化してなる導電性被膜層を有することを特徴とするものである。
【0016】
また、上記目的を達成するため、本発明の透明導電性ポリイミド管状物は、前記導電性被膜層の表面抵抗率が10Ω/□以下であることを特徴とするものである。
【0017】
また、上記目的を達成するために本発明の透明導電性ポリイミド管状物は、透明導電性被膜層を有するポリイミド管状物の厚みが100μm以下である場合において、波長650nmの光を照射したとき光の透過率が70%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、従来は分散性向上のために必要とされていたカップリング剤や界面
活性剤の処理をすることなく、直接、アンチモンドープ酸化スズ粉末を有機溶媒に分散させることができる。したがって、絶縁性のカップリング剤や界面活性剤の添加による導電性のバラツキや、光の透過率が低下することがない。しかも、分散媒として水を用いることがないため、ポリイミド前駆体を結着剤として用いた場合であっても、前記有機溶媒とアンチモンドープ酸化スズ粉末の分散液がポリイミド前駆体溶液と相溶し、ポリイミド前駆体に水や貧溶媒を混合した時に発生する沈殿や凝集の問題も解決できる。また、基層となるポリイミド管状物表面に塗布する場合にも、前記管状物と透明導電性塗料の結着剤が同系統の成分であるため、塗布むら、ハジキなどの問題もなく、また、前記導電性塗料をイミド転化して得られる導電性被膜層とポリイミド管状物との接着性が極めて強固であり、導電性、透明性の特性と同時に優れた耐熱性および機械的特性を有するポリイミド管状物を提供できる。さらに、ITOを用いてスパッタリングなどの方法で導電性被膜を成形する方法と異なり、本発明の導電性塗料はディッピングなどの方法で導電性被膜を成形できるため、連続生産が可能で、製造コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明におけるアンチモンドープ酸化スズ粉末は、塩化物と塩基性化合物との混合反応
によって得られた共沈物の焼成や、水熱法等、いずれも公知の方法によって製造すること
ができる。その比表面積は、十分な分散性を得るために、30m/g〜130m/g
の範囲にあることが好ましい。さらに、40m/g〜100m/gの範囲にあること
が、より好ましい。
【0020】
本発明における有機溶媒は、20度Cにおける比誘電率が50以上で、かつ、比重が1.20以上であることが必要である。比誘電率が50未満、あるいは比重が1.20未満
では、アンチモンドープ酸化スズ粉末の分散性が悪くなるからである。比誘電率は、60以上であることが好ましい。本発明における有機溶媒としては、炭酸プロピレン、炭酸エチレン又はその混合物を用いることが好ましい。
【0021】
本発明における結着剤は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンを極性溶媒中で反応させて得られるポリイミド前駆体であることが好ましい。ポリイミド前駆体は加熱等の手段でイミド転化させることができ、イミド転化によって得られるポリイミド樹脂被膜は耐熱性、機械的特性、寸法安定性など優れた特性を有する。このようなポリイミド前駆体を結着剤として用いることによって、ポリイミド樹脂の優れた特性を兼ね備えた透明導電性被膜を成形することができるからである。上記ポリイミド前駆体溶液は、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを極性溶媒中で反応させて得られ公知の方法で製造することができる。なお、本発明の透明導電性ポリイミド管状物は、背面露光感光体などの用途として使用する場合には、できる限り光の透過率が高いものが目的に合致するため、結着剤として用いるポリイミド前駆体の製造に用いるモノマーにはポリイミド樹脂被膜として成形したときに、高い透明性が得られるモノマーを用いることが好ましい。
【0022】
本発明における上記のポリイミド前駆体溶液を作製するための芳香属テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス[4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物や9,9−ビス[4−(3,4’−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物が挙げられる。これらを1種以上混合して反応させてもよい。
【0023】
また芳香属ジアミンとしては、例えば、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等の芳香族ジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン等の脂環式ジアミンが挙げられる。これらを1種以上混合して反応させてもよい。
【0024】
また、極性重合溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、炭酸プロピレンなどが挙げられる。このうち、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0025】
また、本発明において、透明導電性ポリイミド管状物の基層となるポリイミド管状物もポリイミド前駆体溶液を出発物として製造することができるため、基層となるポリイミド管状物を成形するためのポリイミド前駆体も、上記透明導電性塗料の結着剤として使用するポリイミド前駆体の特性と同様に透明性の高いモノマーを使うことが好ましい。
【0026】
また、基層となるポリイミド管状物の製造方法は、特許文献5では金型の外面に、また特許文献6では金型の内面に、それぞれポリイミド前駆体溶液を所定の厚みで液状成形(キャスティング)し、その後乾燥工程から段階的に加熱してイミド化を完結させた後、金型から分離して管状物を製造する方法が提案されている。また、特許文献7ではポリイミド前駆体溶液を円筒状金型の内面に注入し加熱しながら回転させ、遠心成形法を用い薄肉のシームレスベルトを製造する方法が提案されており、基層となるポリイミド管状物の製造方法はこれらの公知のいずれの方法を用いても良い。本発明においては、あらかじめポリイミド管状物を作製し、その外面に透明導電性塗料を塗布するため、特許文献5に開示されているように金型の外面にポリイミド前駆体溶液をキャスティング成形する方法が、金型から管状物を脱型することなく連続した工程で導電性塗料の塗布処理ができるため最も好ましい製法である。これらのポリイミド管状物は画像形成装置の用途では定着ベルト、転写ベルトあるいは背面露光感光ドラム等の部材として使用することができる。このような用途では厚みが10μm〜500μmの範囲で、直径が10mm〜500mmの範囲のシームレス形状のポリイミド管状物が好ましく使用される。
【0027】
本発明における透明導電性塗料の塗布は、スピン法・ディップ法・ワイヤーバーコート
法・スプレー法など、公知の方法で行うことができる。ポリイミド管状物表面への塗布方
法はスプレー法、ディップ法などが好ましく、均一に塗布でき塗料のロスが少ない方法と
してディップ法は最も好ましい塗布方法である。
【0028】
本発明における導電性塗料のイミド化は、結着剤であるポリイミド前駆体を完全にイミド転化させるために、200度C以上で行うことが好ましい。より好ましくは250度
C以上で行い、300度C以上で行うことが最も好ましい。
【0029】
また、基層となるポリイミド管状物表面に前記透明導電性塗料を塗布する場合、ポリイミド管状物を完全にイミド転化した後に、透明導電性塗料を塗布し、前記塗料のイミド化を行ってもよく、ポリイミド管状物のイミド転化が完結する前に透明導電性塗料を塗布し、ポリイミド管状物と前記塗料のイミド化を同時に行っても良い。
【0030】
本発明の透明導電塗料は、基層のポリイミド管状物に塗布し、イミド転化した後の表面抵抗率が、10Ω/□以下であることが必要である。10Ω/□を超える場合には、背面露光感光体等の用途に用いた場合、十分な導電性が得られなく前記感光体表面に鮮明な画像を形成することができないからである。また帯電した静電気がその表面を伝って逃げにくく、帯電防止(制電)効果が発揮できなくなるからである。
【0031】
また、本発明の透明導電ポリイミド管状物は、透明導電性被膜層を有するポリイミド管状物の厚みが100μm以下である場合において、波長650nmの光を照射したとき光透過率が70%以上であることが好ましい。波長650nmは、緑色発光ダイオードの発光波長に相当し、その波長において光透過率が70%以上であることが、所望の機能を発揮させるための「透明性」の指標として、好ましい範囲であり前記背面露光感光体などの用途にも好適に使用できる。
【0032】
以下、実施例によって、本発明をさらに具体的に説明する。実施例1は、実施例2の場
合よりも、一層透明性に優れた透明導電性ポリイミド管状物を得ることができた。なお、実施例及び比較例における各特性は、次の計測器機を用いて測定した。
(1)表面抵抗率
高抵抗計ハイレスタMCP−HT450(三菱化学)
(2)光透過率
分光光度計UV−2550(島津製作所)
なお、測定波長は、上記した理由からすべて650nmにした。
【実施例1】
【0033】
(アンチモンドープ酸化スズ分散液の調製)
炭酸プロピレン500g(20度Cにおける比誘電率66.1、比重1.21、ハンツ
マン)に、アンチモンドープ酸化スズ粉末“T−1” (三菱マテリアル)214gを添
加し、ビーズミルで分散して、アンチモンドープ酸化スズ分散液を得た。
【0034】
(ポリイミド前駆体溶液Aの調製)
5Lの3つ口セパラブルフラスコに、ポリテトラフルオロエチレン製の攪拌羽を取り付
けた攪拌棒と窒素ガス導入管を取り付けて反応容器とし、反応はすべて、窒素雰囲気下で
行った。ポリイミド前駆体溶液の濃度が31質量%となるように、ジアミン成分として4、4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)“セイカキュアーS”(和歌山精化
工業)68.388g(0.276モル)、3,3−ジアミノジフェニルスルホン(33
DDS)“DAS”(三井化学ファイン)68.388g(0.276モル)、反応溶媒
としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC、三菱ガス化学)670.16gを投入
した。ジアミン成分がDMACに完全に溶解後、テトラカルボン酸二無水物成分として2,2−ビス[4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物 “BPADA”(上海市合成樹脂研究所)71.644g(0.138モル)及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 “BPDA”(三菱化学)121.52g(0.413モル)を固体のままで添加し、40度Cで12時間反応させ、粘度約800ポ
イズの粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0035】
(導電性塗料の調製)
前記アンチモンドープ酸化スズ分散液714gに、前記ポリイミド前駆体溶液Aを21.4g添加してビーズミルで分散し、ろ別して、固形分濃度約15重量%の導電性塗料を得た。
【0036】
(透明ポリイミド管状物の作製)
外径30.0mm、長さ470mmのアルミニウム製金型を用意した。この金型を、外
面の平均表面粗さ(Rz)が1μm以下になるように研磨加工し、その表面に酸化ケイ素
をディッピング法により塗布し、150度Cで30分間及び370度Cで30分間加熱し
て、酸化ケイ素膜で被覆した。次に、前記ポリイミド前駆体溶液Aの中に前記金型を浸漬
し、長さ310mm部分の表面に塗布した後、内径31.5mmのリング状ダイスを前記
金型の上部から挿入して自重で落下走行させ、前記金型の表面に均一にポリイミド前駆体
溶液Aを液状成形した。その後、80度Cで45分間、120度Cで45分間、200度
Cで30分間、そして250度Cまで45分間で昇温させ、250度Cで30分間、30
0度Cで20分間焼成して、透明ポリイミド管状物を作製した。この管状物の被膜の厚さ
は65±2μmであり、光透過率は85.9%であった。
【0037】
(透明導電性ポリイミド管状物の作製)
前記のようにして作製した透明ポリイミド管状物に前記導電性塗料を塗布し、室温で風乾後、80度Cから250度Cまで30分間で昇温し、250度Cで10分間イミド転化して透明導電層を形成し、ポリイミド管状物基層の表面に透明導電被膜が形成された管状物を得た。この透明導電イミド転化被膜の表面抵抗率は3.31×10Ω/□であり、ポリイミド管状物の光透過率は81.0%であった。
【実施例2】
【0038】
(ポリイミド前駆体溶液Bの調製)
5Lの3つ口セパラブルフラスコに、ポリテトラフルオロエチレン製の攪拌羽を取り付
けた攪拌棒と窒素ガス導入管を取り付けて反応容器とし、反応はすべて、窒素雰囲気下で
行った。ポリイミド前駆体溶液の濃度が15質量%となるように、ジアミン成分としてパ
ラフェニレンジアミン(PPD)66.39g(0.615モル)を投入し、反応溶媒と
してDMAC1253gを投入して、40度Cに昇温した。PPDが完全に溶解後、テト
ラカルボン酸二無水物成分としてBPDA180.74g(0.615モル)を固体のまま添加し、40度Cで12時間反応させ、粘度約1,200ポイズの粘稠なポリイミド前
駆体溶液Bを得た。このポリイミド前駆体溶液Bを、実施例1におけるポリイミド前駆体
溶液Aの代りに用いた以外は、実施例1と同様にして、透明ポリイミド管状物を作製した。この管状物の被膜の厚さは50±2μmであり、光透過率は74.0%であった。また、実施例1と同様にして、本発明の透明導電性ポリイミド管状物を作製した。その表面抵
抗率は6.27×10Ω/□であり、光透過率は71.0%であった。
【実施例3】
【0039】
実施例1において、炭酸プロピレンの代りに炭酸プロピレン/炭酸エチレン=75/2
5重量比の混合物(比重1.23、比誘電率57)を用いた以外は、実施例1と同様にし
て、透明導電性ポリイミド管状物を作成した。その光透過率は80%、表面抵抗率は1.
61×10Ω/□であった。
【実施例4】
【0040】
実施例2において、炭酸プロピレンの代りに炭酸プロピレン/炭酸エチレン=75/2
5重量比の混合物(比重1.23、比誘電率57)を用いた以外は、実施例1と同様にし
て、透明導電性ポリイミド管状物を作成した。その光透過率は70%、表面抵抗率は8.
65×10Ω/□であった。
(比較例1)
【0041】
γ−ブチロラクトン(比重1.13、比誘電率39.0、三菱化学)500gに、アン
チモンドープ酸化スズ粉末214gを添加したが、分散しなかった。
(比較例2)
【0042】
N,N−ジメチルアセトアミド(比重0.94、比誘電率38.85、三菱化学)50
0gに、アンチモンドープ酸化スズ粉末214gを添加したが、分散しなかった。
(比較例3)
【0043】
炭酸ジエチル(比重0.98、比誘電率2.82、和光純薬)500gに、アンチモン
ドープ酸化スズ粉末214gを添加したが、分散しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の透明導電性ポリイミド管状物は、導電性に優れているため、例えば、電子
写真技術を用いた画像形成装置における感光ドラム・中間転写ベルトなどに、好適に用い
ることができる。また、導電性ばかりでなく、透明性にも優れているため、内側から投光
する背面露光などの用途には、特に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチモンドープ酸化スズ粉末、20度Cにおける比誘電率が50以上で、かつ、比重が1.20以上である有機溶媒、及びこの有機溶媒に可溶な結着剤を有することを特徴とする透明導電性塗料。
【請求項2】
前記有機溶媒が、炭酸プロピレン、炭酸エチレン又はその混合物であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性塗料。
【請求項3】
前記アンチモンドープ酸化スズ粉末の比表面積が30m/g〜130m/gであることを特徴とする、請求項1に記載の透明導電性塗料。
【請求項4】
前記結着剤が、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを極性溶媒中で反応させて得られるポリイミド前駆体であることを特徴とする、請求項1に記載の透明導電性塗料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電性塗料をイミド転化させた透明導電性被膜層を有することを特徴とする、透明導電性ポリイミド管状物。
【請求項6】
前記透明導電性被膜層の表面抵抗率が10Ω/□以下であることを特徴とする、請求項5に記載の透明導電性ポリイミド管状物。
【請求項7】
前記透明導電性被膜層を有するポリイミド管状物の厚みが100μm以下である場合において、波長650nmの光を照射したとき光の透過率が70%以上であることを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載の透明導電性ポリイミド管状物。

【公開番号】特開2007−2238(P2007−2238A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145079(P2006−145079)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】