説明

透析システム

【課題】信号の受発信により精製水製造装置と透析装置を連動させ、それらを熱水化された精製水により熱水処理できるシステムであって、熱水処理中に誤操作等が生じた場合であっても、透析液に熱水化された精製水が混入することを防止できる透析システムの提供を目的とする。
【解決手段】精製水製造装置10と透析装置20とを具備したシステムであって、処理要求信号(b2)を受信後、所定事項を確認した後に熱水処理信号(a1)を発信し、所定時間内に熱水処理信号(a2)を発信されないときには警報を発する及び/又は履歴を残す機能と、所定の熱水処理時間中に、処理要求信号(b2)が停止し又は精製水要求信号(b1)が受信された時に直ちに精製水製造装置10内の精製水を冷却する機能と、処理要求信号(b2)が停止した時の排水の温度を制御する機能と、を有する透析システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
病院等の医療現場では、市水から精製水を製造する精製水製造装置と、該精製水製造装置から送られてくる精製水により透析液を調製して透析を行う透析装置とを連結した透析システムを用いて透析治療が行われている。これらの装置は、透析液が細菌やエンドトキシンにより汚染されないようにするため、繰り返し消毒を行うことが必要である。従来は、精製水製造装置と透析装置においてそれぞれ熱水又は消毒液により消毒が行われていた。しかし、この消毒方法では精製水製造装置と透析装置の連結部分の消毒が行えない。
そこで、特に熱水に対応していない透析装置では、精製水製造装置に消毒液を導入し、該消毒液を透析装置に供給することにより、前記連結部分の消毒を行っていた。しかし、この方法は消毒液の受け入れを透析装置側からの操作のみにより行っていたため、消毒操作が煩雑であった。
【0003】
そこで、精製水製造装置、透析装置内及びそれらの連結部分を簡便な手法で消毒することができる透析システムとして、以下のシステムが示されている。
精製水製造装置に消毒液を供給し、さらに精製水製造装置から該消毒液を透析装置に供給することにより、精製水製造装置、透析装置、及びそれらの連結部分を消毒する方法であって、精製水製造装置から透析装置に消毒液送液信号を送り、該信号により透析装置が消毒液を受け入れる所定動作を行うようにすることで、消毒が自動的に行える透析システム(特許文献1)。
精製水製造装置内で精製水を加熱して熱水とし、該熱水を透析装置に供給することにより、精製水製造装置、透析装置、及びそれらの連結部分を消毒する方法であって、熱水による消毒時に精製水製造装置と透析装置を連動させるための情報を受発信させることで、効率的に消毒が行える透析システム(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−260131号公報
【特許文献2】特開2008−23325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の透析システムでは、装置内に消毒液が残留してしまうと、その後の透析のときに透析液に消毒液が混入してしまう可能性があり、それを避けるために入念に消毒液の洗浄を行う必要がある。また、消毒液を用いた消毒は排液のpH等を調整する必要もある。
これに対し、特許文献2の透析システムでは、消毒液を含まない熱水を用いることで装置内に消毒液が残留するおそれがなくなる。しかし、消毒中に誤って透析開始の操作が行われた場合等における対処が考慮されておらず、そのような場合には精製水製造装置内の熱水が透析装置に送られて透析液に熱水が混入するおそれがあると考えられる。
また、熱水消毒のさらなる問題点として、システムの系外への熱水の排水処理が挙げられる。系外へ熱水をそのまま排出することは環境上問題があるとともに、システムのみならず建物の排水管にも耐熱処理を施す必要がある、という問題があった。
【0006】
本発明は、信号の受発信により精製水製造装置と透析装置を連動させ、それらを熱水化された精製水により熱水処理できるシステムであって、熱水処理中に誤操作等が生じた場合であっても、透析液に熱水化された精製水が混入することを防止できる透析システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]精製水を製造する精製水製造装置と、前記精製水により透析液を調製して透析を行う透析装置とを具備した透析システムであって、前記精製水製造装置内には、装置内で製造した精製水を熱水化するための加熱手段が設けられ、前記精製水製造装置及び前記透析装置には、前記透析装置が発信する、前記透析装置が精製水を必要としていることを報知する精製水要求信号、前記精製水製造装置が発信する、精製水製造装置が前記透析装置に精製水を送水することを報知する精製水送水信号、前記透析装置が発信する、前記透析装置が熱水化された精製水の注入を必要としていることを報知する、前記精製水製造装置と前記透析装置の熱水処理に要する時間として予め設定された熱水処理時間中発信され続ける処理要求信号、並びに、前記処理要求信号が発信された場合に、前記精製水要求信号が発信されていないこと及び前記精製水製造装置において熱水処理を開始できる態勢が整っていることを確認した後に前記精製水製造装置が発信する、前記精製水製造装置が熱水処理工程中であることを報知する前記熱水処理信号を各々受発信する信号受発信手段が設けられ、前記透析装置からの前記処理要求信号が発信されてから所定時間内に前記熱水処理信号が発信されない時には、警報を発する及び/又は履歴を残す機能を有することを特徴とする透析システム。
[2]前記処理要求信号が停止されるか又は前記処理要求信号と前記精製水要求信号とが同時に発信された時に、直ちに前記精製水製造装置内の熱水化された精製水を透析に使用できる温度まで冷却する機能を有する前記[1]に記載の透析システム。
[3]前記処理要求信号が停止した時に、精製水の製造に用いる原水と、透析装置から排水として排出される熱水化された精製水とを混合して、前記排水を冷却する機能を有する前記[1]又は[2]に記載の透析システム。
[4]前記透析装置に、前記排水の温度が50℃以下となるように排水温度を制御する制御手段が設けられている前記[1]〜[3]のいずれかに記載の透析システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の透析システムは、信号の受発信により精製水製造装置と透析装置とを連動させ、それらを熱水化した精製水により熱水処理を行うことができ、熱水処理中に誤操作等が生じた場合であっても、透析液に熱水化された精製水が混入することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の透析システムの実施形態の一例を示した概要図である。
【図2】図1の透析システムの信号の受発信の概要を示した概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の透析システムの実施形態の一例を図1及び図2に基づいて説明する。
本実施形態の透析システム1は、図1に示すように、精製水製造装置10と透析装置20とを具備している。
【0011】
精製水製造装置10は、原水を貯留する原水タンク11と、原水タンク11から送られてくる原水を前処理する前処理装置12と、前処理装置12から送られてくる前処理水を精製する精製手段13と、精製水を貯留する精製水タンク14とを備えている。
【0012】
精製水製造装置10は、一端が原水タンク11に接続され、他端が前処理装置12に接続され、途中に電動弁30及びこれより下流に原水送水のための送水ポンプ60が設けられた原水移送ライン40と、一端が前処理装置12に接続され、他端が精製手段13に接続され、途中に電動弁31及びこれより下流に高圧ポンプ61が設けられた前処理水移送ライン41と、一端が精製手段13に接続され、他端が精製水タンク14に接続され、途中に逆止弁32が設けられた精製水移送ライン42と、一端が精製水タンク14に接続され、途中に精製水送水のための送水ポンプ62が設けられ、他端が精製水タンク14に接続された精製水を循環させる精製水循環ライン43と、を有している。
また、精製水製造装置10は、一端が精製水タンク14に接続され、途中に送水ポンプ63が設けられた、精製水タンク14内で加熱された精製水を所定箇所に循環させる熱水循環ライン44と、一端が熱水循環ライン44から分岐し、他端が前処理水移送ライン41における高圧ポンプ61の下流に合流接続され、途中に電動弁33が設けられた熱水循環ライン45と、一端が熱水循環ライン44から分岐し、他端が前処理装置12に接続され、途中に電動弁34が設けられた熱水循環ライン46とを有している。
【0013】
前処理装置12は、原水中の細かい浮遊物等を除去するプレフィルタと、原水中に残留する塩素を除去する活性炭フィルタと、原水の水質をチェックするチェックフィルタと、原水を軟水化するナノ濾過膜モジュールとを備えており、これらがこの順で送水ラインにより接続されている。また、前述した熱水循環ライン46の他端は、前記プレフィルタの上流に合流接続されている。
ナノ濾過膜モジュールは、特開2009−38602号公報に記載のスパイラル型逆浸透膜モジュールとほぼ同じ構造を有するモジュールであり、集水管の周りに、逆浸透膜の代わりにナノ濾過膜を巻き回した円柱状のナノ濾過膜エレメントを、円筒状のケーシングに収納したものである。ナノ濾過膜モジュールは、原水入口から導入された原水を、ナノ濾過膜を透過する軟水と、ナノ濾過膜を透過しない濃縮水とに分離することができる。
【0014】
ここで、ナノ濾過膜(NF膜、マイクロフィルターともいう。)とは、限外濾過膜(UF膜)と逆浸透膜(RO膜)との中間の細孔径を有し、かつ膜素材表面に荷電を持つ膜のことを指す。また、IUPACの定義{Journal of Membrane Science,120,149−159(1996)に記載された「膜および膜プロセス用語(1996 IUPAC推奨)」}によると、ナノ濾過膜とは「2nmより小さい程度の粒子や高分子が阻止される圧力駆動の膜分離プロセス」とされている(ちなみに、精密濾過膜(MF膜)は0.1μmより大きいもの、限外濾過膜(UF膜)は0.1μm〜2nmの範囲のものを阻止できる膜とされている)。すなわち、ナノ濾過膜は、細孔による分離(サイズ分離)と膜表面の荷電と溶質中のイオン成分との電気的相互作用による分離効果とが組み合わされて、その膜固有の阻止性能、透過性能を示すものである。
【0015】
ナノ濾過膜としては、ポリアミドを材質として用いた濾過膜(以下、「ポリアミド系ナノ濾過膜」という。)が使用される。ポリアミド系ナノ濾過膜は、膜素材表面にマイナスの固定荷電を有するので、一般的なナノ濾過膜である酢酸セルロース系、ポリスルホン系、ポリアクリロニトリル系に比べ、2価以上の陽イオン、特にカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の硬度成分の除去能力が高く、原水の軟水化に最適である。
また、ポリアミド系ナノ濾過膜は、イオン交換樹脂に比べ、原水の滞留が少ないので、細菌が繁殖しにくい。
また、ポリアミド系ナノ濾過膜は、2nmより小さい程度の粒子や高分子を阻止できるので、エンドトキシンの除去が可能である。また、ポリアミド系ナノ濾過膜は、一般的なナノ濾過膜である酢酸セルロース系ナノ濾過膜に比べ、流量が多く、使用できるpH範囲及び温度範囲が広く、エンドトキシンの除去能力が高く、耐薬品性が優れている。
【0016】
精製手段13は、逆浸透膜モジュールである。
逆浸透膜モジュールとしては、例えば、特開2009−38602号公報に記載のスパイラル型逆浸透膜モジュールが使用できる。ただし、本発明における逆浸透膜モジュールは、前処理装置12から送られてくる前処理水(本実施形態では軟水)を、逆浸透膜を透過する精製水と、逆浸透膜を透過しない濃縮水とに分離できるものであれば前記スパイラル型逆浸透膜モジュールに限定はされない。
また、逆浸透膜モジュールにおける逆浸透膜は、精製水製造装置に通常使用される逆浸透膜を用いればよい。逆浸透膜の材質としては、例えば、ポリアミド、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリルが挙げられる。
なお、精製手段13としては、図1及び図2において用いている逆浸透膜モジュールに代えて限外濾過膜モジュールも用いることが可能である。
【0017】
精製水タンク14には、精製水タンク14内の精製水を殺菌する紫外線ランプ15と、精製水タンク14内の精製水を加熱する加熱手段16と、精製水タンク14内の精製水温度を計測する温度センサ(図示せず)とが設けられている。加熱手段16としては、ヒータが挙げられる。
【0018】
送水ポンプ60、62及び63、並びに高圧ポンプ61は、精製水製造装置で通常使用されるポンプを使用することができ、例えば、多段渦巻ポンプ、プランジャーポンプ等の高圧ポンプが挙げられる。
【0019】
また、精製水製造装置10は、前述した各種弁、各ポンプ及び加熱手段16に電気的に接続され、これらを制御する制御手段17を備えている。
制御手段17は、信号受発信手段と、処理部と、インターフェイス部と、カレンダータイマとから概略構成されている。以下、制御手段17が有する信号受発信手段を特に信号受発信手段Aという。
【0020】
信号受発信手段Aは、後述する透析装置20に備えられた信号受発信手段(以下、「信号受発信手段B」という。)と電気信号の受発信を行うことができる。
信号受発信手段Aは、透析装置20の信号受発信手段Bに対して、精製水製造装置10が透析装置20に精製水を送水することを報知する精製水送水信号(a1)と、精製水製造装置10が熱水処理工程中であることを報知する熱水処理信号(a2)とを発信することができる。また、透析装置20の信号受発信手段Bから発信されてくる、透析装置20が精製水を必要としていることを報知する精製水要求信号(b1)と、透析装置20が熱水化された精製水の注入を必要としていることを報知する処理要求信号(b2)を受信することができる。
【0021】
前記カレンダータイマは、年月日及び時刻を管理する時計部と、精製水製造装置10の運転スケジュールを記憶する記憶部とを具備してなり、記憶部に記憶された設定日時に処理部に対して所定の電気信号を発信できるようになっている。
前記インターフェイス部は、各ラインに設けられた全ての弁、ポンプ、紫外線ランプ及び加熱手段(ヒータ)と、処理部との間を電気的に接続するものである。
前記処理部は、カレンダータイマからの所定の電気信号、処理部に入力された操作信号、又は信号受発信手段Aで受信された精製水要求信号(b1)、処理要求信号(b2)に基づいて、各ラインに設けられた弁の開閉及びポンプ、並びに紫外線ランプ15及び加熱手段16の運転を制御できるようになっている。該処理部は、専用のハードウエアにより実現されるものであってもよく、また、メモリ及び中央演算装置(CPU)によって構成され、処理部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能が実現されるものであってもよい。
【0022】
制御手段17は、前処理装置12及び精製手段13への原水の供給の開始及び停止、精製水タンク14からの精製水の排出の開始、並びに精製水タンク14内の精製水の加熱、透析装置20への精製水又は熱水化された精製水の送水、各種信号の受発信、精製水製造装置10及び透析装置20からの排水温度を制御することができる。また、これらの制御は、各装置における手動操作、カレンダータイマに設定された任意の日時の経過により開始される。
【0023】
制御手段17には、表示装置18が接続されている。表示装置18としては、例えば、CRTディスプレイ、液晶表示装置が挙げられる。制御手段17には、表示装置18に加えて、入力装置等の周辺機器がさらに接続されている(図示せず)。入力装置としては、スイッチパネル、キーボード等の入力デバイスが挙げられる。また、表示装置18は入力装置を兼ねたディスプレイタッチパネルであってもよい。
【0024】
また、精製水製造装置10は、一端が原水移送ライン40の送水ポンプ60の下流に接続されており、途中に電動弁35が設けられ、透析装置20へと延設された主排水ライン80を有している。主排水ライン80には、排水温度を計測する排水温度センサ(図示せず)が接続されている。そして、制御手段17が該排水温度センサの計測結果に基づいて電動弁35を開閉し、原水を混合させることで主排水ライン80を通って排出される排水の温度を50℃以下に制御するようになっている。
また、精製水製造装置10は、いずれも図示していない、一端が前処理装置12に接続され、他端が主排水ライン80に接続され、途中に流量調整弁及びこれより下流に電動弁が設けられた第1濃縮水排出ラインと、一端が精製手段13に接続され、他端が主排水ライン80に接続され、途中に流量調整弁及びこれより下流に電動弁が設けられた第2濃縮水排出ラインと、一端が前処理水移送ライン41、精製水移送ライン42及び精製水循環ライン43のそれぞれのラインに接続され、他端が主排水ライン80に接続され、途中に電動弁が設けられた3つの排水ラインと、を有している。さらに精製水製造装置10は、いずれも図示していない、一端が前記第1濃縮水排出ラインから分岐し、他端が原水移送ライン40の電動弁30と送液ポンプ60の間に接続され、途中に逆止弁が設けられた第1濃縮水返送ラインと、一端が第2濃縮水排出ラインから分岐し、他端が前処理水移送ライン41の電動弁31と高圧ポンプ61の間に接続され、途中に電動弁及びこれより下流に流量調整弁が設けられた第2濃縮水返送ラインと、一端が第2濃縮水排出ラインから分岐し、他端が原水タンク11に接続された第3濃縮水返送ラインと、を有している。
【0025】
精製水製造装置10における前処理水移送ライン41、精製水移送ライン42、精製水循環ライン43、及び熱水循環ライン44〜46を構成する各部材には、耐熱性能を有する部材を用いる。該部材の耐熱性能は、少なくとも90℃以上であることが好ましい。具体的には、ステンレス等の熱伝導率の比較的高い金属製の配管等が挙げられる。
また、前処理装置12(前処理装置12内の送水ラインも含む。)、精製手段13も同様の耐熱性能を有する耐熱仕様の装置を採用する。
尚、図示都合上、図1では制御手段17が一部の弁等にのみ接続されているように示したが、電子制御可能な全ての弁、及び全てのポンプの駆動回路に接続される。
【0026】
透析装置20は、図1に示すように、透析液供給装置21と、A粉末溶解装置22と、B粉末溶解装置23と、患者監視装置24と、個人用患者監視装置25とを備えている。
また、一端がA粉末溶解装置22に接続され、他端が透析液供給装置21に接続された透析原液移送ライン51と、一端がB粉末溶解装置23に接続され、他端が透析液供給装置21に接続された透析原液移送ライン52と、一端が透析液供給装置21に接続され、他端が患者監視装置24に接続された透析液移送ライン53と、一端がそれぞれ透析液供給装置21、A粉末溶解装置22、B粉末溶解装置23、患者監視装置24及び個人用患者監視装置25に接続され、他端がそれぞれ精製水製造装置10から延びる主排水ライン80に合流接続された排水ライン54〜58と、を有している。
尚、図1では都合上、患者監視装置24は1台しか示していないが、必要に応じて、透析液移送ライン53が複数のラインに分岐され、そのそれぞれのラインの先に複数台の患者監視装置24が並列接続される。
【0027】
透析装置20の前記各装置は、一端が精製水循環ライン43から分岐し、他端が透析液供給装置21に接続されている精製水移送ライン47と、一端が精製水循環ライン43の精製水移送ライン47の上流から分岐し、他端がA粉末溶解装置22に接続された精製水移送ライン48と、一端が精製水循環ライン43の精製水移送ライン48の上流から分岐し、他端がB粉末溶解装置23に接続された精製水移送ライン49と、一端が精製水循環ライン43の精製水移送ライン49の上流から分岐し、他端が個人用患者監視装置25に接続された精製水移送ライン50と、が連結部分となって精製水製造装置10と連結されている。
【0028】
A粉末溶解装置22は、塩化カリウム溶液、塩化ナトリウム溶液等を主成分とするA剤を精製水製造装置10から送られてくる精製水で溶解して透析原液Aを調製する装置である。
B粉末溶解装置23は、重炭酸ナトリウム溶液からなるB剤を精製水製造装置10から送られてくる精製水で溶解して透析原液Bを調製する装置である。
【0029】
透析液供給装置21は、A粉末溶解装置22から送られてくる透析原液Aと、B粉末溶解装置23から送られてくる透析原液Bと、精製水製造装置10から送られてくる精製水とを混合し、所定の濃度に希釈して血液透析のための透析液を調製し、各患者監視装置24に供給する装置である。
【0030】
患者監視装置24は、透析治療を行っている患者の監視機能、患者に透析を行うために必要な機能、及び透析液の調整機能等を備えた装置である。
個人用患者監視装置25は、精製水製造装置10から送られてくる精製水と、タンク等から供給した前記A剤及びB剤とを混合して透析液を調製する機能と、透析治療を行っている患者の監視機能、患者に透析を行うために必要な機能、及び透析液の調整機能等を備えた、独立して患者に透析治療が行える装置である。
【0031】
また、透析装置20の透析液供給装置21、A粉末溶解装置22、B粉末溶解装置23、患者監視装置24及び個人用患者監視装置25は、それぞれが精製水製造装置10における制御手段17の信号受発信手段Aと電気信号を受発信できる信号受発信手段Bを備えている。
各々の信号受発信手段Bは、図2に示すように、前述した精製水要求信号(b1)及び処理要求信号(b2)を制御手段17の信号受発信手段Aに発信することができ、信号受発信手段Aから発信される精製水送水信号(a1)及び熱水処理信号(a2)を受信することができる。
【0032】
透析装置20では、透析液供給装置21、A粉末溶解装置22、B粉末溶解装置23、患者監視装置24及び個人用患者監視装置25のそれぞれにおいて、精製水要求信号(b1)又は処理要求信号(b2)を発信することにより、精製水製造装置10に対して透析液の調製に用いる精製水又は熱水化された精製水を要求することができる。また、各々の装置においては、精製水送水信号(a1)の受信によってバルブを開く等の任意の設定動作を行うことで、各精製水移送ラインから精製水又は熱水化された精製水を受け入れるようになっている。
【0033】
透析装置20における各ラインの部材としては、耐熱性能を有する部材を用いる。該部材の耐熱性能は少なくとも90℃以上であることが好ましい。具体的には、ステンレス等の熱伝導率の比較的高い金属製の配管等が挙げられる。
透析装置20における各装置は、同様の耐熱性能を有する耐熱仕様の装置である。
また、連結部分における各ラインも同様に、耐熱性能を有する部材を用いる。
【0034】
以下、本実施形態の透析システム1の機能について、透析治療を行う透析治療工程(X)、精製水製造装置10及び透析装置20を熱水処理する熱水処理工程(Y)の一例を示し、順を追って詳細に説明する。
透析治療工程(X)は、精製水製造装置10が精製水を製造する工程(X1)と、精製水製造装置10から精製水を透析装置20に送水し、透析装置20が該精製水を用いて透析液を調製して患者に対して透析治療を行う工程(X2)を有する。
【0035】
工程(X1)では、透析装置20においてボタン操作等の所定操作を行うことで、使用する各々の装置の信号受発信手段Bから精製水製造装置10に対して精製水要求信号(b1)が発信される。精製水製造装置10は、制御手段17の信号受発信手段Aで精製水要求信号(b1)を受信すると、制御手段17が各種弁及び送水ポンプ等の駆動を制御して精製水の製造を開始する。
精製水製造装置10では、精製水の製造を開始する際、熱水循環ライン45の電動弁33、熱水循環ライン46の電動弁34、主排水ライン80の電動弁35、及び精製水循環ライン43から分岐している排水ラインの電動弁を閉じ、その他の電動弁を開く。
【0036】
精製水製造装置10の精製水の製造に用いる原水としては、例えば、水道水、地下水等の市水を用いることができる。
原水タンク11から原水移送ライン40を通って供給される原水は、送水ポンプ60によって昇圧された後、前処理装置12に送られる。前処理装置12では、プレフィルタによって原水中に含まれている細かい浮遊物等が除去され、活性炭フィルタによって原水中の残留塩素が除去される。その後、チェックフィルタを通過した原水がナノ濾過膜モジュールに送られ、その一部がナノ濾過膜を透過して軟水化される。ナノ濾過膜を透過しなかった残りの原水は濃縮水となる。
該濃縮水は、その一部が前述の第1濃縮水排出ラインから分岐した第1濃縮水返送ラインを通って原水移送ライン40に戻され、原水として再利用される。また残りの濃縮水は、第1濃縮水排出ラインから主排水ライン80を通って透析システム1外に排出される。
前処理装置12のナノ濾過膜モジュール内の原水圧力の調整は、第1濃縮水排出ラインに設けられた流量調整弁によって行われる。
【0037】
前処理装置12のナノ濾過膜モジュールにて軟水化された原水(前処理水)は、前処理水移送ライン41の高圧ポンプ61によって昇圧され、精製手段13(逆浸透膜モジュール)に送られる。精製手段13に供給された前処理水は、その一部が逆浸透膜を透過して精製水となり、精製水移送ライン42を通って精製水タンク14に貯留される。逆浸透膜を透過しなかった残りの前処理水は濃縮水となる。
該濃縮水の一部は、前述の第2濃縮水排出ラインから分岐した第2濃縮水返送ラインを通って前処理水移送ライン41に戻され、前処理水として再利用され、また別の一部が第2濃縮水排出ラインから分岐した第3濃縮水返送ラインを通って原水タンク11に戻されて原水として再利用される。また、残りの濃縮水は第2濃縮水排出ラインから主排水ライン80を通って透析システム1外に排出される。
精製手段13の逆浸透膜モジュール内の原水圧力の調整は、第2濃縮水排出ラインに設けられた流量調整弁によって行われる。
【0038】
精製水タンク14に貯留された精製水は、送水ポンプ62により精製水タンク14から精製水循環ライン43に取り出された後、再度精製水タンク14に返送されており、絶えず流動状態とされる。これにより、精製水が滞留して細菌が繁殖することが防止される。また、精製水タンク14内では、紫外線ランプ15により紫外線を照射することにより、貯留された精製水が殺菌処理されている。
【0039】
工程(X2)では、精製水製造装置10における制御手段17の信号受発信手段Aが、透析装置20において精製水要求信号(b1)を発信している信号受発信手段Bに対して精製水送水信号(a1)を発信する。透析装置20では、信号受発信手段Bが精製水送水信号(a1)を受信した装置において、バルブを開く等の所定動作を行うことで精製水の受け入れを開始する。
透析装置20における各装置の信号受発信手段Bは、精製水が必要な間は常に精製水要求信号(b1)を発信している。一方、制御手段17の信号受発信手段Aは、透析装置20に精製水を送っている間は常に精製水送水信号(a1)を発信している。
【0040】
透析装置20では、まず精製水製造装置10の精製水循環ライン43、精製水移送ライン48を通って送られてくる精製水により、A粉末溶解装置22にてA剤を溶解して透析原液Aを調製する。また、精製水循環ライン43、精製水移送ライン49を通って送られてくる精製水により、B粉末溶解装置23にてB剤を溶解して透析原液Bを調製する。
次いで、透析液供給装置21において、A粉末溶解装置22とB粉末溶解装置23から、透析原液移送ライン51、52を通って送られてくる透析原液A及び透析原液Bと、精製水循環ライン43、精製水移送ライン47を通って送られてくる精製水とを混合し、透析原液を所定濃度まで希釈して透析液を調製する。
次いで、透析液供給装置21から透析液移送ライン53を通じて患者監視装置24に透析液が送られ、患者監視装置24を装着している患者に透析治療を行う。
【0041】
また、個人用患者監視装置25では、精製水循環ライン43、精製水移送ライン50を通って送られてくる精製水により、タンク等から供給されるA剤及びB剤を溶解して透析液を調製し、個人用患者監視装置25を装着している患者に透析治療を行う。
【0042】
透析液供給装置21による透析液の調製、A粉末溶解装置及びB粉末溶解装置による透析原液の調製、並びに複数の患者監視装置24及び個人用患者監視装置25による透析治療が終了すると、透析装置20における各信号受発信手段Bからの精製水要求信号(b1)の発信が停止される。
【0043】
熱水処理工程(Y)では、透析装置20における各信号受発信手段Bから処理要求信号(b2)が発信される。処理要求信号(b2)の発信は、前記透析治療工程(X)が終了した後に自動的に行われるように設定されている。
熱水処理工程(Y)は、精製水製造装置10において精製水を加熱する工程(Y1)と、熱水化された精製水により精製水製造装置10を熱水処理する工程(Y2)と、精製水製造装置10から透析装置20に熱水化された精製水を送水して透析装置20を熱水処理する工程(Y3)と、精製水製造装置10内の熱水化された精製水を冷却する工程(Y4)とを有する。
【0044】
熱水処理工程(Y)では、工程(Y1)から工程(Y4)の熱水処理に要する熱水処理時間を予め概算しておき、少なくとも精製水製造装置10内において熱水化された精製水の冷却が終了する後まで、透析装置20における各信号受発信手段Bが処理要求信号(b2)を発信し続けるように設定されている。
【0045】
制御手段17は、信号受発信手段Aが処理要求信号(b2)を受信すると、精製水要求信号(b1)が受信されていないこと、及び前処理装置12、精製手段13において逆洗処理、フラッシング処理等のメンテナンス等が行なわれておらず、精製水製造装置10において熱水処理を行える態勢が整っていることを確認する。そして、それらが確認できた後に、制御手段17の信号受発信手段Aから熱水処理信号(a2)を各信号受発信手段Bに発信し、精製水の加熱を開始する。
制御手段17の信号受発信手段Aは、精製水の加熱の開始から、工程(Y4)における熱水の冷却が終了するまで熱水処理信号(a2)を発信し続ける。
透析装置20は、各信号受発信手段Bが信号受発信手段Aから発信される熱水処理信号(a2)を受信することにより、処理要求信号(b2)の発信以外の機能を停止する。
【0046】
また、制御手段17は、信号受発信手段Aが処理要求信号(b2)を受信してから所定時間内に熱水処理を行う態勢が整わず、熱水処理信号(a2)を発信できない場合、透析装置20に対してその事項を伝える警報信号(a3)を発信し、またその履歴を残す機能(以下、「機能(1)」という。)を有する。前記所定時間としては、例えば、1〜3分とすることができる。
また、透析装置20においては、制御手段17の信号受発信手段Aからの警報信号(a3)を受信すると、そのことがナースモニタ等の外部監視モニタで確認できるようになっていることが好ましい。
【0047】
制御手段17は、信号受発信手段Aから熱水処理信号(a2)を発信すると同時に、精製水タンク14内の精製水温度を計測する温度センサ(図示せず)の出力に基づいて加熱手段16の駆動制御を行い、精製水タンク14内の精製水を加熱する。精製水の加熱は、制御手段17により各電動弁及び送水ポンプの駆動を制御し、精製水タンク14−精製水循環ライン43−精製水タンク14の経路(以下、「循環経路(i)」という。)、精製水タンク14−熱水循環ライン44−熱水循環ライン45−前処理水移送ライン41−精製手段13−精製水移送ライン42−精製水タンク14の経路(以下、「循環経路(ii)」という。)、又は精製水タンク14−精製水循環ライン44−精製水循環ライン46−前処理装置12−前処理水移送ライン41−精製手段13−精製水移送ライン42−精製水タンク14の経路(以下、「循環経路(iii)」という。)の3経路のいずれかに精製水を循環させながら行う。
精製水を加熱する際は、紫外線ランプ15による精製水タンク14内の精製水への紫外線の照射は停止することが好ましい。加熱しながらの紫外線ランプの照射はランプ寿命を短命にする傾向がある。
【0048】
熱水化された精製水の温度は、60〜95℃であることが好ましく、80〜95℃であることがより好ましい。該温度が60℃以上であれば、精製水製造装置10、透析装置20、及びその連結部を充分に熱水処理しやすく、該温度が80℃以上であればさらに熱水処理が容易になる。また、該温度が95℃以下であれば、各装置及び各ラインの熱劣化を抑制しやすい。
精製水の加熱では、各電動弁、送液ポンプ、ヒータ等の駆動を制御することにより、5℃/分以下の速度で昇温させることが好ましい。精製水の加熱速度が5℃/分以下であれば、循環経路にあるナノ濾過膜、逆浸透膜等の熱劣化、特に耐熱性が比較的低いポリアミドを用いた場合のナノ濾過膜の熱劣化を抑制しやすい。
【0049】
制御手段17は、加熱手段16による加熱により精製水が所定温度(例えば80℃)になったことを検出すると、工程(Y2)に移行し、精製水製造装置10の熱水処理を行う。
工程(Y2)の精製水製造装置10の熱水処理は、制御手段17により各種弁及び送水ポンプの駆動を制御して、前記循環経路(i)〜(iii)にそれぞれ熱水化された精製水を循環させることにより行う。これにより、熱水化された精製水によって精製水製造装置10の各ライン、前処理装置12、精製手段13がそれぞれ熱水処理される。熱水処理は、熱伝導を利用した熱消毒であるため、特に配管の継ぎ手部分等、従来消毒液により消毒することが困難であった部分も充分に消毒できる。
【0050】
精製水製造装置10の熱水処理時間は、例えば、以下のようにして決定する。予め所定の温度(例えば80℃)に熱水化された精製水を用いた基準処理時間を設定しておく。制御手段17は、該基準処理時間と実際に熱水処理に使用する熱水化された精製水の温度の測定結果から、該温度で実際に熱水処理にかかる時間を、前記所定の温度の熱水処理に要する時間として換算した等価処理時間(Ao値)を算出する。基準処理時間については、例えば、80℃の熱水を用いた基準処理時間は10〜60分に設定することができる。
制御手段17は、算出した等価処理時間だけ精製水製造装置10内に熱水化された精製水を循環させるように制御する。該等価処理時間は、実際に熱水処理に使用する熱水化された精製水の温度が予め設定した所定の温度に比べて高いほど短くなり、また実際に使用する熱水化された精製水の温度が予め設定した所定の温度に比べて低いほど長くなる。
制御手段17に接続された表示装置18は、前述の等価処理時間が表示可能になっており、等価処理時間の監視、記録が行えるようになっていることが好ましい。
尚、精製水製造装置10の処理時間は、制御手段17に備えられたディスプレイタッチパネル等の入力装置で変更できるようになっていてもよい。
【0051】
精製水製造装置10の熱水処理が終了すると、工程(Y3)に移行する。
工程(Y3)では、制御手段17が、信号受発信手段Aから熱水処理信号(a2)に加えて精製水送水信号(a1)を発信する。透析装置20では、各装置において信号受発信手段Bが熱水処理信号(a2)に加えて精製水送水信号(a1)を受信すると、バルブを開く等の所定動作を行って熱水化された精製水の受け入れを開始する。
【0052】
透析液供給装置21では、精製水送水信号(a1)を受信した後、精製水循環ライン43、精製水移送ライン47を通って送られてくる熱水化された精製水を受け入れて装置内に通過させて熱水処理し、さらに透析液移送ライン54を通じて患者監視装置24に熱水化された精製水を送る。患者監視装置24の熱水処理を行わない場合は、排水ライン54から熱水化された精製水を主排水ライン80に送る。患者監視装置24では、透析液供給装置21から送られてきた熱水化された精製水を装置内に通過させて熱水処理を行い、排水ライン57から主排水ライン80へと送る。
また、A粉末溶解装置22及びB粉末溶解装置23においても、精製水循環ライン43、精製水移送ライン48、49をそれぞれ通って送られてくる熱水化された精製水を受け入れ、装置内に通過させて熱水処理を行い、透析原液移送ライン51、52を通じて透析液供給装置21に送水したり、排水ライン55、56から主排水ライン80に送水したりする。
同様に、個人用患者監視装置25でも、精製水循環ライン43、精製水移送ライン50を通って送られてくる熱水化された精製水を受け入れ、装置内を通過させて熱水処理を行い、その後排水ライン58から主排水ライン80に送る。
【0053】
透析装置20の各装置から熱水化された精製水を排出する際、精製水製造装置10の制御手段17は、電動弁35を開き、送水ポンプ60を稼動させて原水を主排水ライン80に送り、各排水ライン54〜58から主排水ライン80に送られてくる熱水化された精製水と原水とを混合させて、透析システム1から排出される排水を冷却する。
排水の温度は、50℃以下に制御されることが好ましい。
【0054】
透析装置20の熱水処理は精製水製造装置10の熱水処理と同様に、制御手段17により、予め設定した基準処理時間から実際に用いる熱水化された精製水の温度における等価処理時間を算出し、該等価処理時間だけ熱水化された精製水を送水して熱水処理を行うように制御する。
また、透析装置20を熱水処理する等価処理時間についても、制御手段17に接続された表示装置18に表示し、監視及び記録が可能になっていることが好ましい。
【0055】
透析装置20の熱水処理が終了すると、制御手段17の信号受発信手段Aは精製水送水信号(a1)の発信を停止し、工程(Y4)に移行し、精製水製造装置10内の熱水化された精製水の冷却を開始する。制御手段17の信号受発信手段Aは、工程(Y4)の冷却を行っている間も熱水処理信号(a2)を発信し続ける。
【0056】
工程(Y4)における精製水製造装置10内の熱水化された精製水の冷却は、例えば、熱水を前記循環経路(i)〜(iii)のいずれかの経路で循環させつつ、原水タンク11に貯留されている加熱されていない原水を前処理装置12及び精製手段13で処理して精製水タンク14に送り、その低温の精製水と熱水化された精製水とを混合することにより行う方法が挙げられる。このとき、低温の精製水の混合に応じて精製水製造装置10の各排水ラインから主排水ライン80を通じて熱水化された精製水の排出を行うが、排水の温度は、電動弁35を開いて原水を主排水ライン80へと送って熱水化された精製水と混合することにより50℃以下に制御することが好ましい。
また、制御手段17は、電動弁35の故障等により排水温度が50℃を超える場合には、即座に熱水化された精製水の排水を停止し、排水温度が50℃以下になってから排水を再開させるように制御できることが好ましい。
また、熱水化された精製水の冷却は、該精製水を前記循環経路(i)〜(iii)のいずれかの経路で循環させながらの放冷により行ってもよい。
【0057】
工程(Y4)における熱水化された精製水の冷却速度は、ナノ濾過膜や逆浸透膜の劣化を抑制しやすい点から、各種弁及び送水ポンプを制御して、5℃/分以下とすることが好ましい。
工程(Y4)では、精製水製造装置10内の精製水が透析可能な温度まで冷却された時点で、熱水処理信号(a2)の発信を停止し、精製水の冷却を終了させる。前記透析可能な温度としては、例えば、25〜35℃の範囲に設定することができる。
【0058】
透析装置20の各装置の信号受発信手段Bは、予め設定した、前述の工程(Y1)から工程(Y4)の熱水処理に要する熱水処理時間が経過するまで処理要求信号(b2)を発信し続けるように設定されており、該設定により少なくとも精製水製造装置10における精製水の冷却が終了し、熱水処理信号(a2)が停止した後に処理要求信号(b2)が停止するようになっている。
透析システム1においては、制御手段17は、前述の熱水処理時間が経過するまで発信し続ける処理要求信号(b2)が、該熱水処理時間内に停電、故障等により停止した場合には、直ちに工程(Y4)の熱水化された精製水の冷却を行うようになっていることが好ましい。ただし、停電により制御手段17を含む全ての機能が停止した場合には、復帰後に直ちに冷却工程に移るようになっていることが好ましい。
また、透析装置20を操作することによって、前記熱水処理時間内に制御手段17の信号受発信手段Aで精製水要求信号(b1)が受信された場合にも、制御手段17が直ちに工程(Y4)の熱水化された精製水の冷却を行うようになっていることが好ましい。
制御手段17は、このような冷却工程への強制的な移行を制御できる機能(以下、「機能(2)」という。)を有することが好ましい。
【0059】
機能(2)により、熱水処理工程(Y)中に停電が起きた場合や、誤操作により精製水要求信号(b1)を発信してしまった場合に加え、緊急で透析を行う必要が生じた場合等においても、透析液に熱水化された精製水が混入することを防止することができる。
【0060】
また、透析システム1は、前述のように処理要求信号(b2)の発信が予期せず停止してしまった場合も含めて、透析装置20からの処理要求信号(b2)の発信が停止すると、制御手段17が電動弁35と送水ポンプ60を制御して主排水ライン80に原水を送り、透析装置20の各排水ラインから送られてくる熱水化された精製水に原水を混合させ、排水を冷却する機能(以下、「機能(3)」という。)を有することが好ましい。排水の温度は50℃以下に制御されることが好ましい。
【0061】
次に、透析装置20から精製水要求信号(b1)及び処理要求信号(b2)をいずれも受信しておらず、透析装置20への精製水の送水も熱水処理も行っていない時の精製水製造装置10の動きについて説明する。このとき、信号受発信手段Aからは精製水送水信号(a1)及び熱水処理信号(a2)はいずれも発信されない。
【0062】
制御手段17のカレンダータイマには、夜間、休日等、精製水を使わない日時が設定されている。そして、該設定又は使用者の停止操作に基づいて、制御手段17は、送水ポンプ60の運転を停止し、原水移送ライン40の電動弁30、前処理水移送ライン41の電動弁31、第2濃縮水排出ラインの電動弁及び第2濃縮水排出ラインの電動弁等を閉じて精製水の製造を停止させ、熱水循環ライン46の電動弁34のみが開かれている状態とする。そして、送水ポンプ63を駆動させ、精製水タンク14に貯留された精製水を循環経路(ii)に循環させる。これにより、透析装置20に精製水を送水していない時でも、精製水が滞留して細菌が繁殖することを防止できる。
【0063】
以上説明した本発明の透析システムは、信号の受発信により精製水製造装置と透析装置とを連動させて、それらを熱水化された精製水で熱水処理することができる。また、受発信手段による連携や機能(1)を用いることで、熱水処理中に誤操作が生じても透析液に熱水化された精製水が混入することを防止でき、安定した運転が行える。
また、従来の透析システムでは熱水処理中に比較的短時間の停電が起き、熱水処理が中断された場合に熱水化された精製水が透析液に混入するおそれがあった。また、一度熱水処理が開始されると該処理が終了するまでは透析を行うことができず、緊急で透析を行う必要が生じた場合に対応できなかった。しかし、本発明の透析システムに機能(2)を備えさせることにより、このような停電が生じて信号の受発信の停止した場合であっても、強制的に熱水化された精製水が冷却される。そのため、停電等の不測の事態が生じても熱水化された精製水が透析液に混入することを防止でき、さらに緊急で透析を行いたい場合にも対応可能となる。
また、透析システムが機能(3)を有していれば、排水の温度が高くなりすぎることも抑制できる。
【0064】
尚、本発明の透析システムは、前述の機能(1)を有するシステムであれば特に限定されず、機能(2)及び機能(3)のいずれか一方又は両方を有していないシステムであってもよい。
また、制御手段17の機能(1)は、警報信号(a3)を発信して警報を発する機能のみであってもよく、履歴の残す機能のみであってもよい。
また、透析システム1ではプレフィルタ、活性炭フィルタ、チェックフィルタ及びナノ濾過膜モジュールを備えた前処理装置12について説明したが、前処理装置12はプレフィルタやチェックフィルタが備えられていなくてもよく、前記ナノ濾過膜モジュールの代わりに逆浸透膜モジュール、軟水化濾過装置が備えられていてもよく、活性炭フィルタの代わりに活性炭濾過器が備えられていてもよい。場合によっては、原水タンク11が装備されていないシステムであってもよい。
【0065】
また、精製手段13は、複数の逆浸透膜モジュールが並列に備えられていてもよい。また、精製手段13は逆浸透膜モジュールの代わりにナノ濾過膜モジュールが備えられていてもよい。
また、精製水製造装置10は、工程(Y4)で熱水を冷却するための熱交換器等の冷却装置を備えていてもよい。
また、透析装置は、個人用患者監視装置25を備えていないものであってもよく、患者監視装置を備えておらず個人用患者監視装置25のみを備えたものであってもよい。また、透析装置は、各装置を制御し、まとめて信号の受発信を行う制御手段を備えていてもよい。
【0066】
また、透析システム1は、精製水製造装置10及び透析装置20の熱水処理を手動で開始できるようになっていてもよい。また、手動による熱水処理は、透析システム1のように透析装置20の各装置が個別に信号受発信手段Bを備えていれば、透析装置20の各装置のうち特定の装置のみで選択的に行えるようにしてもよい。
また、この場合、精製水製造装置10の制御手段17において、通常透析治療を行っている時間帯等に処理要求信号(b2)を受け付けない時間帯を設定しておき、該時間帯には誤作動によって透析治療中に熱水処理が開始されることが防止できるようにしておくことが好ましい。
【0067】
また、手動により精製水製造装置10を単独で熱水処理できるようになっていてもよい。このとき、精製水製造装置10を手動により単独で熱水処理する場合には、各循環ラインに熱水化された精製水を個別に循環させることにより、前処理装置12、精製手段13をそれぞれ任意に熱水処理することができる。精製水製造装置10を単独で熱水処理する場合には、精製水送水信号(a1)が発信されていないこと、透析装置10から精製水要求信号(b1)が受信されていないこと、及び精製水製造装置10内で前述のメンテナンス等が行われておらず熱水処理を開始できる状態になっていることが確認できた後に熱水処理が開始されるようにすればよい。
【0068】
また、透析システム1では、熱水循環ライン46が前処理装置12のプレフィルタの上流に接続されている形態であったが、熱水循環ライン46をさらに分岐させてナノ濾過モジュールの上流に接続させ、精製水タンク14−熱水循環ライン44−熱水循環ライン46−前記分岐ライン−ナノ濾過膜モジュール(前処理装置12)−前処理水移送ライン41−精製手段13−精製水移送ライン42−精製水タンク14の第4の循環経路(iv)が形成されていてもよい。この循環経路(iv)は、工程(Y1)の精製水の加熱、工程(Y2)の精製水製造装置10の熱水処理、及び工程(Y4)の熱水化された精製水の冷却の際の循環に使用できる。
また、透析システム1では、主排水ライン80が精製水製造装置10からの排水ラインと透析装置20からの排水ラインを兼ねているが、透析装置20から排出される熱水化された精製水に原水を混合させて排水温度を制御できるようになっていれば、精製水製造装置10と透析装置20に対する主排水ラインがそれぞれ別々に設けられていてもよい。
また、前述の透析システム1では排水の温度の制御を制御手段17が行う場合について説明したが、透析装置に排水の温度を制御できる制御手段が設けられている態様も好ましい。
【0069】
また、透析装置20の各装置は全て耐熱性能を有する装置であるが、透析装置20の各装置には耐熱性能を有さない装置が含まれていてもよい。この場合、透析装置20の耐熱性能を有さない装置については、熱水処理信号(a2)に加えて精製水送水信号(a1)を受信しても熱水化された精製水を受け入れないようにインターロックをかけられることが好ましい。
【0070】
また、透析システム1は精製水を加熱された精製水のみを使用するものであるが、本発明の透析システムはこれには限定されず、精製水と消毒液を混合して熱水消毒液としてもよい。
また、精製水製造装置10における精製水の製造も手動で開始できるようにしてもよい。制御手段17の信号受発信手段Aが透析装置20から精製水要求信号(b1)を受信した時に、既に精製水製造装置10で精製水が製造されて該精製水が装置内を循環されている状態であれば、直ぐに精製水送水信号(a1)を発信して精製水の送水を行うことができる。
【0071】
また、本発明の透析システムは、前述の制御手段17に代えて、精製水製造装置と透析装置における信号受発信手段による信号の受発信と連動し、精製水制御装置の各弁やポンプ等の駆動を制御できる制御装置を第3の装置として具備しているものであってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 透析システム 10 精製水製造装置 11 原水タンク 12 前処理装置 13 精製手段 14 精製水タンク 15 紫外線ランプ 16 加熱手段 17 制御手段 18 表示装置 20 透析装置 21 透析液供給装置 22 A粉末溶解装置 23 B粉末溶解装置 24 患者監視装置 25 個人用患者監視装置 30、31、33〜35 電動弁 32 逆止弁 40 原水移送ライン 41 前処理水移送ライン 42 精製水移送ライン 43 精製水循環ライン 44〜46 熱水循環ライン 47〜50 精製水移送ライン 51、52 透析原液移送ライン 53 透析液移送ライン 54〜58 排水ライン 60、62、63 送水ポンプ 61 高圧ポンプ 80 主排水ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製水を製造する精製水製造装置と、前記精製水により透析液を調製して透析を行う透析装置とを具備した透析システムであって、
前記精製水製造装置内には、装置内で製造した精製水を熱水化するための加熱手段が設けられ、
前記精製水製造装置及び前記透析装置には、
前記透析装置が発信する、前記透析装置が精製水を必要としていることを報知する精製水要求信号、
前記精製水製造装置が発信する、精製水製造装置が前記透析装置に精製水を送水することを報知する精製水送水信号、
前記透析装置が発信する、前記透析装置が熱水化された精製水の注入を必要としていることを報知する、前記精製水製造装置と前記透析装置の熱水処理に要する時間として予め設定された熱水処理時間中発信され続ける処理要求信号、
並びに、
前記処理要求信号が発信された場合に、前記精製水要求信号が発信されていないこと及び前記精製水製造装置において熱水処理を開始できる態勢が整っていることを確認した後に前記精製水製造装置が発信する、前記精製水製造装置が熱水処理工程中であることを報知する前記熱水処理信号
を各々受発信する信号受発信手段が設けられ、
前記透析装置からの前記処理要求信号が発信されてから所定時間内に前記熱水処理信号が発信されない時には、警報を発する及び/又は履歴を残す機能を有することを特徴とする透析システム。
【請求項2】
前記処理要求信号が停止されるか又は前記処理要求信号と前記精製水要求信号とが同時に発信された時に、直ちに前記精製水製造装置内の熱水化された精製水を透析に使用できる温度まで冷却する機能を有する請求項1に記載の透析システム。
【請求項3】
前記処理要求信号が停止した時に、精製水の製造に用いる原水と、透析装置から排水として排出される熱水化された精製水とを混合して、前記排水を冷却する機能を有する請求項1又は2に記載の透析システム。
【請求項4】
前記透析装置に、前記排水の温度が50℃以下となるように排水温度を制御する制御手段が設けられている請求項1〜3のいずれかに記載の透析システム。

【図1】
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【図2】
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