説明

透水性蓋の製造方法

【課題】高強度、特に曲げ強度が高く、しかも容易かつ安価に製造できる透水性蓋の製造方法を提案すること。
【解決手段】内面の底面から上方に向かって貫通孔を形成するための凸部2が設けられた型枠1と、自己流動性を有するポリマーセメントモルタルPと、予め形成された、接合面の前記型枠の凸部に対応する位置に凹部4が設けられた多孔質コンクリート板Bとを用い、前記型枠1に前記ポリマーセメントモルタルPを打設した後、その上方から、前記多孔質コンクリート板Bを、前記型枠の凸部2の上端が該多孔質コンクリート板Bの凹部4に嵌合し、且つ、該嵌合する部分を除く接合面では多孔質コンクリート板Bの連続空隙にポリマーセメントモルタルPが浸透して接合層Mが形成されるように載置し、前記ポリマーセメントモルタルPが硬化した後、脱型する透水性蓋の製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製の透水性蓋の製造方法に関し、特に、連続空隙を有する多孔質コンクリート板からなる表層と、貫通孔が形成されたポリマーセメントモルタルからなる基層とが一体化してなる排水溝や雨水貯留槽の蓋として好適に使用することができる透水性蓋の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、総合的な治水対策の観点から、『水循環』というキーワードが導入され、雨水貯留施設の普及が強力に押し進められている。
この雨水貯留施設は、例えば公園、道路の地下等に大規模な貯水槽を構築し、該貯水槽に集中豪雨時等における雨水を一旦貯留し、その後、該貯水槽から徐々に地下に水を浸透させることによって、集中豪雨時における洪水の制御、河川の平常時流量の確保、更には、ヒートアイランド現象の低減、地下水の涵養等を図るものである。
【0003】
上記雨水貯留施設の構築に際しては、透水性を有する高強度(特に高曲げ強度)の蓋材が必要となる。即ち、貯水槽の上部を覆い、その上方に公園、道路等を形成する蓋材には、雨水を下方の貯水槽に通過させると共に、通行車両や遊戯施設等による上方からの荷重に耐える強度が必要となる。
【0004】
透水性を有する高強度の部材としては、特許文献1に開示された透水性ブロック、或いは特許文献2に開示されたプレキャストコンクリート舗装版等がある。
特許文献1に開示された透水性ブロックは、表層と基層との層状構成を有し、表層は、空隙率が25〜50%の範囲内にあり、骨材粒は平均粒径が0.5〜2mmの範囲内にあると共に最大寸法及び平均粒径において基層の骨材粒よりも小さく、基層は、空隙率が10%以上であると共に表層よりも低い空隙率を有し、かつ、骨材粒の平均粒径が1.5〜2.5mmの範囲内にあることを特徴とするものであり、その曲げ強度は30kgf/cm2 (約3N/mm2 )以上(実施例の10個平均は62.3kgf/cm2 )とされてる。
また、特許文献2に開示されたプレキャストコンクリート舗装版は、透水性多孔質コンクリート層と非透水性コンクリート基層とからなる2層構造プレキャストコンクリート舗装版であって、透水性多孔質コンクリート層の配合組成を工夫し、該透水性多孔質コンクリート層の空隙率、透水係数、曲げ強度を、それぞれ、10〜25%、10-2cm/sec、3N/mm2 以上としたことを特徴とするものであり、非透水性コンクリート基層には、該コンクリート基層を貫通して上記透水性多孔質コンクリート層に達する導水路を形成することも開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−146703号公報
【特許文献2】特開2001−164502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記特許文献1或いは特許文献2に記載された部材は、いずれも透水性を有する道路舗装への使用を想定しており、突き固めた路盤上等に載置されることから、3N/mm2 以上の曲げ強度を有していれば、強度的には充分であると考えられるが、上記した地下の雨水貯留施設における貯水槽の上部を覆う蓋材として使用される場合には、両端支持状態となると共に、該蓋材には通行車両等による繰り返しの曲げ荷重がかかるため、前述の通り強度、特に曲げ強度の更に高い部材が必要となる。
【0007】
また、上記特許文献1の技術にあっては、基層材料を型に入れて加圧成形した後、その上方に表層材料を入れて加圧成形し、得られた成形体を焼成して製造することとしているため、その製造工程は複雑であり、また燃料コストもかかることから、高価となる。
また、特許文献2の技術にあっても、透水性多孔質コンクリート層の強度を上げるため、原料に特殊な混和材(有機ポリマー等)や混和剤(増粘剤、高性能減水剤等)を添加しており、コストが高くつくだけでなく、非透水性コンクリート基層の強度を改善するものではないため、舗装版全体の曲げ強度の向上効果が小さい。
そのため、本発明者等は、先に透水性を有すると共に高曲げ強度の透水性コンクリート部材(特願2005−209291)を開発したが、効率的な製造方法が確率されていなかったため、透水性蓋等の製品の製造は実用面では不十分であった。
【0008】
本発明は、上述した背景技術が有する実情に鑑みて成されたものであって、その目的は前記本発明者等が先に開発した透水性コンクリート部材による透水性蓋であって、容易かつ安価に製造できる透水性蓋の実用的な製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明に係る透水性蓋の製造方法は、連続空隙を有する多孔質コンクリート板からなる表層と、貫通孔が形成されたポリマーセメントモルタルからなる基層とを一体化してなる透水性蓋の製造方法であって、内面の底面から上方に向かって前記貫通孔を形成するための凸部が設けられた型枠と、自己流動性を有するポリマーセメントモルタルと、予め形成された、接合面の前記型枠の凸部に対応する位置に凹部が設けられた多孔質コンクリート板とを用い、前記型枠に前記ポリマーセメントモルタルを打設した後、その上方から、前記多孔質コンクリート板を、前記型枠の凸部上端が該多孔質コンクリート板の凹部に嵌合し、且つ、該嵌合する部分を除く接合面では多孔質コンクリート板の連続空隙に前記ポリマーセメントモルタルが浸透して接合層が形成されるように載置し、前記ポリマーセメントモルタルが硬化した後、脱型する透水性蓋の製造方法とした。
【0010】
ここで、上記本発明において、上記型枠内面の底面から上方に向かって設けられた凸部が、天板のない上面開口の中空構造であること、或いは側板上部に切り欠き部或いは穴を有する中空構造であることは、余分なポリマーセメントモルタルがこの上面開口、或いは切り欠き部等からオーバーフローし、貫通孔の形成部分と連通する多孔質コンクリート板の連続空隙を詰まらせることを確実に防止できるため、好ましい実施の形態である。
また、上記ポリマーセメントモルタルが、セメント、細骨材、ポリマーエマルジョン、高性能減水剤、消泡剤とを少なくとも含むものであることは、高強度、特に曲げ強度の高い透水性蓋を製造する上において、好ましい実施の形態である。
【発明の効果】
【0011】
上記した本発明に係る透水性蓋の製造方法によれば、連続空隙を有する多孔質コンクリート板からなる表層と、貫通孔を有するポリマーセメントモルタルからなる基層とを強固に一体化してなる透水性蓋を、容易に製造することができる。
また、本発明に係る透水性蓋の製造方法によれば、ポリマーセメントモルタルに形成された貫通孔と多孔質コンクリート板の連続空隙とが良好に連通した状態の透水性蓋を、容易かつ確実に製造することができる。また、多孔質コンクリート板からなる表層と、ポリマーセメントモルタルからなる基層を種々組み合わせることにより、さまざまなバリエーションの透水性蓋を製造することができる。
更に、本発明に係る透水性蓋の製造方法によれば、ポリマーセメントモルタルからなる基層によって、その全体としての強度(特に曲げ強度)が確保されるため、表層部を構成する多孔質コンクリート板として、特殊な混和材や混和剤が添加された、特別に高強度で、高価なものを使用する必要はなく、また、ポリマーセメントモルタルを用いた基層は、通常のポリマーセメントモルタル製品の製法、即ち、型枠に打設することにより形成できるものであるため、全体を低コストにて製造することができる。
このように、本発明に係る透水性蓋の製造方法は、確実に透水性を維持しつつ、高強度の透水性蓋が容易に得られるので、その実用性は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、上記した本発明に係る透水性蓋の製造方法の実施の形態を、詳細に説明する。
【0013】
本発明に係る透水性蓋の製造方法は、内面の底面から上方に向かって貫通孔を形成するための凸部が設けられた型枠と、自己流動性を有するポリマーセメントモルタルと、予め形成された、接合面の前記型枠の凸部に対応する位置に凹部が設けられた多孔質コンクリート板とを用いる。
【0014】
上記本発明において用いる型枠は、通常の型枠の作製に用いられれる材料、例えば鋼材を使用して作製することができ、その形状・寸法は、当然、製造する透水性蓋の形状・寸法に合わせて設計されることとなる。透水性蓋の形状・寸法は、蓋をされる器(槽)の形状・寸法によるので一概に限定されないが、透水性蓋の寸法、特に平面寸法は、あまりに小さすぎると、曲げ強度が強い特徴が十分に発揮されない。逆にあまりに大きすぎると、設計荷重を満たすために、部材厚が増え、重量は重くなり、施工効率が低下する。よって、一応好ましい範囲は存在する。具体的には、平面寸法が、縦横共に30〜500cm程度の矩形内に収まるようなものであることが好ましく、更には50〜400cm程度の矩形内に収まるようなものであることが最も好ましい。また、厚さは、透水性蓋に作用する荷重や部材自身の耐久性、更には施工性から、100〜500mmであることが好ましく、更には100〜300mmであることが最も好ましい。そのため、型枠の形状・寸法も、上記好ましい形状・寸法の透水性蓋を製造できるものとし、1個取り、或いは複数個取りの型枠とする。
【0015】
上記型枠内面の底面には、該底面から上方に向かって凸部が設けられている。この凸部は、ポリマーセメントモルタルにより形成される基層に上下方向に貫通する孔を形成するためのものであり、その断面形状は、特には限定されないが、円形、楕円形等の角部を有しないものとすることが、形成される貫通孔が応力集中の生じ難いものとなるために好ましく、また、上下方向には抜き勾配が形成されていることが、脱型が容易となるために好ましい。該凸部の材質は、耐久性のあるものであれば特に限定されないが、通常、型枠と同一の材料で形成すればよい。
また、該凸部によって形成される貫通孔のポリマーセメントモルタルからなる基層の水平横断面に対する開口面積率は、0.5〜50%が適当であり、更には2〜30%が好ましい。また、貫通孔の1個当たりの開口面積は、20cm2 以上であり、かつ基層の水平横断面積の50%以下であることが適当であり、更には50cm2 以上であり、かつ基層の水平横断面積の30%以下であることが好ましい。これは、前記開口面積率が上記値に満たない場合には、充分な透水性能(例えば、透水係数が1×10-2cm/sec以上)が得られないためであり、逆に開口面積率が上記値を超えると、ポリマーセメントモルタルからなる基層の強度が低下するので好ましくない。また、前記貫通孔の1個当たりの開口面積が20cm2 に満たない小さなものである場合には、形成すべき貫通孔の数を多くする必要があり、型枠に設ける凸部の数が増え、型枠の製作が困難となると共に、貫通孔の成形も難しく、また貫通孔が詰まり易いものとなるために好ましくない。また貫通孔の1個当たりの開口面積が基層の水平横断面積の50%を超えると、ポリマーセメントモルタルからなる基層の強度が低下するので好ましくない。
上記した好ましい開口面積率、1個当たりの開口面積等を満足する貫通孔を形成する凸部を、型枠内面の底面に上方に向って設ける。
【0016】
また、型枠に設ける上記凸部は、図1に概念的に示したように、天板のない上面が開口した中空構造とすること〔図1の(a)参照〕、或いは側板上部に切り欠き部或いは穴を有する中空構造とすること〔図1の(b)参照〕が好ましい。これは、型枠に打設した余分なポリマーセメントモルタルが、この凸部の上面開口或いは切り欠き部等からオーバーフローし、貫通孔の形成部分と連通する多孔質コンクリート板の連続空隙を詰まらせることを確実に防止できるために好ましい。切り欠き部或いは穴の寸法は、上記作用効果が得られる大きさであれば、特には限定されない。
また、この型枠に設ける凸部の高さは、少なくとも形成するポリマーセメントモルタルからなる基層の厚さプラス後述する接合層の厚さとする必要があり、凸部の側板に上記切り欠き部或いは穴を形成した場合は、その切り欠き部或いは穴の下端までの高さが、少なくとも形成するポリマーセメントモルタルからなる基層の厚さプラス接合層の厚さとする必要がある。
【0017】
次に、本発明において用いる上記自己流動性を有するポリマーセメントモルタルは、セメント、細骨材、ポリマーエマルジョン、高性能減水剤、消泡剤を少なくとも含むものであることが、高強度、特に曲げ強度の高い基層を形成する上で好ましい。すなわち、地下に構築される貯水槽の上部を覆い、その上方に公園、道路等を形成することができる蓋材として十分に使用可能な透水性蓋を製造できるために好ましい。
【0018】
上記セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、シリカセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等の何れでも良いが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントが好ましく、気中養生の場合は普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントが、蒸気養生の場合は早強ポルトランドセメントが特に好ましい。
【0019】
上記細骨材としては、特に限定されるものはなく、通常コンクリート製品に使用される細骨材であれば良い。例えば、静岡県小笠産陸砂(表乾密度2.60g/cm3 )が例示される。細骨材の粒径は0.15〜5mmが好ましい。また、骨材の配合量は、セメント100重量部に対して100〜300重量部が好ましい。
【0020】
上記ポリマーエマルジョンとしては、曲げ強度の発現性の観点から、アクリル系エマルジョンとアクリル−スチレン系エマルジョンが好ましく、アクリル系エマルジョンがより好ましい。該アクリル系エマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体を含む単量体組成物を乳化重合して得ることができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレートが好ましい。
上記ポリマーエマルジョンの好ましい粒子径は、50〜400nmであり、更に好ましくは100〜200nmである。また、ポリマーエマルジョンの固形分としては、30〜70質量%であることが好ましく、更に好ましくは45〜70質量%である。更に、ポリマーエマルジョンの粘度は、200mPa・s以下が好ましく、100mPa・s以下がより好ましい。また、このポリマーエマルジョンの配合量は、セメント100質量部に対して固形分(有効成分)換算で5〜22質量部が好ましく、8〜14質量部がより好ましい。
【0021】
上記高性能減水剤としては、通常コンクリートに用いられる高性能AE減水剤でない高性能減水剤であれば何でも良いが、減水効果の高いものが望ましい。例えば、ポリカルボン酸エーテル系高性能減水剤が例示される。この高性能減水剤の配合量は、セメント100質量部に対して1〜3質量部が好ましい。
【0022】
上記消泡剤としては、シリコーン系エマルジョンや特殊非イオン界面活性剤が例示される。一般に、セメントモルタル中にポリマーエマルジョンを混入すると気泡が発生し、必要以上の空気(気泡)連行を伴うため、緻密な高強度ポリマーセメントモルタル硬化体をつくるには、適当な消泡剤を添加する必要がある。
消泡剤の添加方法としては、予めポリマーエマルジョンの製造時に添加しても良く、ポリマーエマルジョンの製造時に添加せずポリマーセメントモルタル練り混ぜ時に添加しても良く、また、ポリマーエマルジョンの製造時に一部添加し、ポリマーセメントモルタル練り混ぜ時に更に添加することもできる。この消泡剤の配合量は、ポリマーエマルジョン100質量部に対して0.5〜7質量部が好ましい。
【0023】
本発明において用いるポリマーセメントモルタルには、上記以外に、必要に応じて高炉スラグ粉末、無水石膏、フライアッシュ、シリカフューム、石灰石粉末、珪石粉末から選ばれる1種以上の粉末を更に添加しても良い。
また、本発明のポリマーセメントモルタルは、成形性の観点から自己流動性を有するものであることが好ましく、この自己流動性は、主に上記したポリマーエマルジョンと高性能減水剤の併用によって付与することができる。
上記自己流動性は、上に載せる多孔質コンクリート板の自重によってモルタルが該多孔質コンクリート板の空隙に入り込む程度の自己流動性があることが好ましく、JIS R 5201(1997)に規定されているフロー試験(0打)によるフロー値で表せば、200〜320mmであることが好ましく、更には250〜300mmであることが好ましい。これは、フローが200mmに満たない場合、フレッシュ時のポリマーセメントモルタルの流動性が足りず、ポリマーセメントモルタルは接合部となる多孔質コンクリート板の空隙に十分充填できず、多孔質コンクリート板との接合強度が弱いものとなる場合がある。一方、フローが320mmを超える場合は、ポリマーセメントモルタルが材料分離を起こし易く、材料分離によって多孔質コンクリート板に充填するポリマーセメントモルタル部分は水セメント比の大きいものとなり、多孔質コンクリート板との接合強度がやはり弱くなり易い。
【0024】
次に、本発明において表層として用いる上記多孔質コンクリート板は、予め製造された、基層との接合面には上記型枠の凸部に対応する位置に凹部が設けられた多孔質コンクリート板である。
この多孔質コンクリート板の接合面に設けられた凹部は、型枠に形成された上記凸部上端が嵌合する部分で、その形状は凸部の平面形状、例えば平面形状が円形の凸部である場合には、円形の凹部となり、その寸法は、凸部の寸法より若干(数mm〜数cm)大きく形成される。また、凹部の深さは、3〜100mm又は多孔質コンクリート板の厚みの半分までが好ましく、5〜20mmが更に好ましい。これは3mmより浅い場合には、接合層が十分にとれず、接合強度が弱いものとなり易く、また、多孔質コンクリート板の接合面の全部にポリマーセメントモルタルが詰まってしまい、透水効率が悪くなる憂いがある。逆に100mm又は多孔質コンクリート板の厚みの半分を超える深さである場合には、多孔質コンクリート板のポリマーセメントモルタルの貫通孔に対応する部分の厚みが薄くなり過ぎ、荷重に耐えられずに押し潰されてしまう憂いが生じる。
【0025】
また、多孔質コンクリート板の連続空隙率は、10〜40%が適当であり、更には15〜35%が好ましい。これは、10%に満たない連続空隙率のものである場合には、充分な透水性能(例えば、透水係数が1×10-2cm/sec以上)が得られないためであり、逆に連続空隙率が40%を超えると、外観、強度、更には車両走行性等において不都合が生じる。
なお、上記「連続空隙率」は、下記の式(1)により算出した値である。

連続空隙率(%)=〔(V0 −V1 )/V0 〕×100 ・・・ 式(1)

ここに、V0 :試供体の見かけの体積(cm3
V1 :骨材と結合材と独立空隙との体積(cm3 )=(A−C)/γw
C :試供体を常温の水中に24時間放置した後の水中重量(g)
A :水中重量を測定した試供体を布に包み、90分間放置した後の同試供体 の重量(g) ※これは「表乾重量」と呼ばれる。
γw :常温の水の密度(≒1.0g/cm3

また、上記連続空隙における各々の孔径は、2〜10mmが好ましい。これは、連続空隙の孔の径が小さ過ぎると、目詰まりが生じ易く、逆に大き過ぎると、透水性と強度のバランスが悪く。
本発明の多孔質コンクリート板の強度は、少なくとも圧縮強度が15.0N/mm2程度、曲げ強度が3.0N/mm2程度あれば十分であり、この条件を満たせば、本発明の多孔質コンクリート板としては、従来より存在する、いわゆるポーラスコンクリートを広く使用することができる。
【0026】
上記した多孔質コンクリート板の製造は、例えば、普通ポルトランドセメント100重量部に5〜40mm程度の砕石等の粗骨材400〜600重量部と、水20〜50重量部とを混入し、必要に応じて顔料を添加して混練した混練物を型枠内に打設し、打設上面に凹部を形成するための凸部を備えた加圧板を載せ、振動加圧した後脱型し、養生することによって製造することができる。
なお、上記振動加圧条件は、振動数は50〜200Hz程度、加圧力は5〜10kN/m2程度が好ましい。また、粗骨材は、直径が同程度の軽石、セラミック骨材、レンガ屑、軽量骨材等を使用しても良い。また、シリカフューム、水ガラス、その他強度増進材を添加することは好ましい。上記した連続空隙の空隙率や孔の大きさは、上記粗骨材の径、粗骨材の量、セメントの量等によって、適宜調節することができる。
【0027】
次に、上記した型枠、ポリマーセメントモルタル、多孔質コンクリート板を用いた本発明に係る透水性蓋の製造方法の一例を、図面に従って説明する。
先ず、図2に示したように、型枠1にポリマーセメントモルタルPを打設する。
この際、型枠1内面の底面に設けた凸部2に、オーバーフローを可能とする上面開口、或いは切り欠き部、穴が形成されている(図示した型枠1には、切り欠き部3が形成されている)場合には、オーバーフローするまで、或いはその直前までポリマーセメントモルタルPを打設すれば良いが、このような上面開口、切り欠き部等が形成されていない場合は、形成する接合層の厚さ、また多孔質コンクリート板をその上方に載置した場合の水面の上昇量等を勘案し、凸部の上端から適当な距離低い位置までポリマーセメントモルタルPを正確に打設する必要がある。
【0028】
続いて、予め製造しておいた多孔質コンクリート板Bを、図3に示したように、上記型枠1の凸部2の上端が該多孔質コンクリート板Bの凹部4に嵌合し、且つ、該嵌合する部分を除く接合面では多孔質コンクリート板Bの連続空隙にポリマーセメントモルタルPが浸透して接合層Mが形成されるように載置する。
この接合層Mの厚さ、即ちポリマーセメントモルタルPが多孔質コンクリート板Bの連続空隙に浸透した部分の厚さは、3〜20mmが好ましく、5〜10mmが更に好ましい。これは、接合層Mの厚さが3mmに満たない場合には、付着力が足りず、多孔質コンクリート板BとポリマーセメントモルタルPからなる層とが剥がれ易くなる。また、接合層Mの厚みを20mmを超えるものとしても、付着力の増大は期待できず、意味がない。
【0029】
上記多孔質コンクリート板BのポリマーセメントモルタルP上への載置に際して、図4に拡大して示したように、型枠1の凸部2が、ポリマーセメントモルタルPに形成される貫通孔5の上方に位置する多孔質コンクリート板Bの連続空隙の部分、即ち、多孔質コンクリート板Bの凹部4の底面に位置する部分の連続空隙にポリマーセメントモルタルPが侵入するのを阻止する堰の役割を果たす。また、型枠1の凸部2にオーバーフローを可能とする上面開口、或いは切り欠き部、穴が形成されている(図示した型枠1には、切り欠き部3が形成されている)場合には、余分なポリマーセメントモルタルPがこの上面開口、或いは切り欠き部等からオーバーフローし、貫通孔5の形成部分と連通する多孔質コンクリート板Bの連続空隙を詰まらせることを確実に防止できる。
以上から、貫通孔5を有し、十分な接合強度を有する接合層Mが容易に製造できる。
【0030】
続いて、必要に応じて蒸気養生し、ポリマーセメントモルタルPを十分に硬化させた後、脱型する。なお、養生は、蒸気養生以外の養生方法でも製造できるが、好ましくは蒸気養生が良く、特に、セメントとして早強ポルトランドセメントを用いた場合には、蒸気養生がより好ましい。
【0031】
上記した本発明に係る製造方法により得られた透水性蓋6は、図5に概念的に示したように、連続空隙を有する多孔質コンクリート板Bからなる表層7と、貫通孔5が形成されたポリマーセメントモルタルPからなる基層8とが、貫通孔を有する接合層Mを介して一体的に結合された高強度な蓋となり、また、ポリマーセメントモルタルPからなる基層8に存在する貫通孔5が、多孔質コンクリート板Bからなる表層7の連続空隙とほぼ完全に連通した、透水性の高い蓋となる。
【0032】
また、本発明に係る製造方法により作製する透水性蓋6は、その多孔質コンクリート板Bからなる表層7と、ポリマーセメントモルタルPからなる基層8の厚みの割合は、特には限定されないが、1:0.5〜1:2程度が好ましい。また、透水性蓋6の強度、特に曲げ強度は、構成する表層7と基層8のそれぞれの強度や厚み、更には基層部分の開口面積率などによって異なり、一概には言えないが、少なくとも5N/mm2 以上であり、好ましくは8N/mm2 以上であり、特に好ましくは12N/mm2 以上である。
【実施例】
【0033】
−実施例1,2−
・板面に凹部が設けられた多孔質コンクリート板の製造
ゼロスランプの表1に示した配合組成のコンクリートを、各々図6に示した型枠k内に打設し、上面に凹部を形成するための凸部を備えた加圧板(天板)を載置し、振動加圧した後脱型し、養生することによって、板面に凹部が設けられた配合1、及び配合2の多孔質コンクリート板を製造した。
なお、多孔質コンクリート板の凹部は、型枠kの加圧板(天版)に、図6に示したように凸部tを後記する型枠Kの凸部Tに対応する位置に設けることにより形成した。また、コンクリートを型枠内に供給した後の振動数は7000rpm、振動加速度は25G(1G:地表面における重力加速度)、振動加圧時間は10秒とした。養生は、蒸気養生で行った。
【表1】

【0034】
上記製法により製造した板面に凹部が設けられた多孔質コンクリート板の形状寸法、及び諸特性は、次のものであった。
・外形寸法:縦100cm,横100cm,厚さ10cm(配合1)
縦100cm,横100cm,厚さ8cm(配合2)
・凹部寸法:深さ10mm,直径160mm(配合1及び2)
・連続空隙率:25.2%(配合1),18.2%(配合2)
・曲げ強度:3.9N/mm2(配合1),4.7N/mm2(配合2)
・圧縮強度:18.1N/mm2(配合1),24.1N/mm2(配合2)
なお、連続空隙率は、前記した式(1)により求めた値である。曲げ強度及び圧縮強度は、多孔質コンクリート板から切り出した10×10×40cm、及び直径10×高さ20cmの供試体を用いて、各々JIS A 1106−1999、及びJIS A 1108−1999に記載された試験方法に準拠して求めた値である。
【0035】
・ポリマーセメントモルタルの調整及び透水性蓋の製造
表2に示した配合組成になるように各材料を計量し、先ず早強ポルトランドセメント、シリカフューム、細骨材とを2軸ミキサー(IHI社製:DAM100)に投入・攪拌(空練り)し、更にポリマーエマルジョン、水、高性能減水剤、消泡剤を加えて練り混ぜ、配合A、及び配合Bのポリマーセメントモルタルを調整した。
【表2】

なお、シリカフュームは、電融ジルコニアを製造する際に発生する微粉末(密度2.24g/cm3 、比表面積12m2 /g)を、細骨材は、静岡県小笠郡浜岡町産陸砂(表乾度2.60g/cm3 、FM2.75)を用いた。また、ポリマーエマルジョンは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(固形分50%)を、高性能減水剤は、ポリカルボン酸エーテル系高性能減水剤を、消泡剤は、特殊非イオン界面活性剤を、各々用いた。
【0036】
得られた配合A,配合Bのポリマーセメントモルタルを、図7に示したように貫通孔を形成するための凸部Tが内面の底面から上方に向かって設けられた型枠Kに各々流し込み、その上方に、予め製造しておいた上記配合1,配合2の多孔質コンクリート板を、各々前記型枠Kの凸部Tの上端が該多孔質コンクリート板の凹部に嵌合し、且つ、該嵌合する部分を除く接合面では多孔質コンクリート板の連続空隙にポリマーセメントモルタルが浸透して10mmの接合層ができるように載置し、蒸気養生後、脱型することにより、連続空隙を有する多孔質コンクリート板からなる表層と、貫通孔が形成されたポリマーセメントモルタルからなる基層とが、接合層を介して一体的に結合された、縦100cm、横100cm、厚さ20cm(この内、実施例1は、表層の厚さ約9cm,基層の厚さ約10cm,結合層の厚さ約10mm、実施例2は、表層の厚さ約7cm,基層の厚さ約12cm,結合層の厚さ約10mm)の実施例1,実施例2に係る透水性蓋を各々製造した。
なお、蒸気養生の条件は、20℃で前置き3時間とし、20℃/時で昇温させ、65℃で3時間保持し、その後自然放冷させた。また、型枠は、図8に示したように、基層に、1個の開口面積が176.6cm2の円形貫通孔が、4個等間隔で配置され、得られる開口面積率が7.1%となるよう凸部Tが底部に設けられた型枠Kを用いた。また、4×4×16cmに成形した供試体について、JIS A 1171−2000に記載された試験方法に準拠して実施した配合A,配合Bのポリマーセメントモルタルの曲げ強度、及び圧縮強度を測定したところ、その値は次のものであった。
・曲げ強度:15.2N/mm2(配合A),17.8N/mm2(配合B)
・圧縮強度:79.2N/mm2(配合A),84.1N/mm2(配合B)
【0037】
−比較例1−
配合1のコンクリートによって凹部を有しない多孔質コンクリート板(縦100cm,横100cm,厚さ8cm)を製造し、且つ基層を形成する材料として、表3に示した配合組成の普通コンクリートを用いると共に、上記型枠Kを用い、接合部に多孔質コンクリート板の連続空隙に普通コンクリートが浸透することなく、単に両者が接触するように多孔質コンクリート板を普通コンクリート上に載置して製造した以外は、上記実施例1と同様の製法によって、連続空隙を有する配合1の多孔質コンクリート板からなる表層と、貫通孔が形成された配合Cの普通コンクリートからなる基層とからなる、縦100cm、横100cm、厚さ20cm(この内、表層の厚さ約8cm,基層の厚さ約12cm)の比較例1に係る透水性蓋を製造した。
【表3】

なお、粗骨材は、茨城県岩瀬町産硬質砂岩砕2005(表乾密度2.66g/cm3 )を、細骨材は、静岡県小笠郡浜岡町産陸砂(表乾密度2.60g/cm3 、FM2.75)を用いた。また、高性能減水剤は、ナフタリンスルホン酸ホルマリン高縮合物塩を用いた。また、上記と同様の条件で10×10×40cm、及び直径10×高さ20cmに成形した供試体について、JIS A 1106−1999、JIS A 1108−1999に記載された試験方法に準拠して実施した配合Cの普通コンクリートの曲げ強度、及び圧縮強度は、4.9N/mm2 、及び41.7N/mm2 であった。
【0038】
−曲げ試験−
実施例1,2(実施例1:表層に配合1の多孔質コンクリート板,基層に配合Aのポリマーセメントモルタル、実施例2:表層に配合2の多孔質コンクリート板,基層に配合Bのポリマーセメントモルタル)、及び比較例1で製造した各々の透水性蓋について、スパンを70cmとし、載荷速度をJIS A 1106−1999に準拠し、中央載荷方法によって曲げ破壊荷重を各々測定した。
その測定結果を、表4に示す。
【表4】

【0039】
−透水試験−
実施例1,2で製造した透水性蓋、及び比較例1で製造した透水性蓋について、JIS A 1218−1998で規定されている透水試験方法を参考にして装置を作製し、透水係数を測定した。
その測定結果を、表5に示す。
【表5】

【0040】
−評 価−
実施例1及び実施例2の透水性蓋は、基層が普通コンクリートで作成された比較例1の透水性蓋に比して、いずれも4倍以上の曲げ破壊荷重を有するものであった。また、実施例1及び実施例2の透水性蓋は、充分な透水性能を有するものであった。さらに、実施例1及び実施例2の表層と基層との接合強度は、実用上充分なものであった。このことから、本発明に係る製造方法により作製された透水性蓋は、強い曲げ荷重がかかり、かつ自動車の走行等による振動を受ける、地下に構築される雨水貯留施設等の天井材(蓋材)として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る透水性蓋の製造方法に用いる型枠の凸部の一構造を概念的に示した斜視図である。
【図2】本発明に係る透水性蓋の製造方法の一工程を示した概念的な断面図である。
【図3】本発明に係る透水性蓋の製造方法の一工程を示した概念的な断面図である。
【図4】本発明に係る透水性蓋の製造方法の一工程の要部を拡大して示した概念的な断面図である。
【図5】本発明に係る製造方法により作製された透水性蓋の一構造を概念的に示した断面図である。
【図6】多孔質コンクリート板を製造する型枠の一例を示した概念的な断面図である。
【図7】実施例の透水性蓋の製造に使用した型枠を示した概念的な断面図である。
【図8】実施例の透水性蓋の製造に使用した型枠を示した概念的な平面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 型枠
2 凸部
3 切り欠き部
4 多孔質コンクリート板に設けられた凹部
5 貫通孔
6 透水性蓋
7 表層
8 基層
B 多孔質コンクリート板
P ポリマーセメントモルタル
M 接合層
k 多孔質コンクリート板を製造する型枠
t 多孔質コンクリート板に凹部を形成する凸部
K 型枠
T 貫通孔を形成するための凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続空隙を有する多孔質コンクリート板からなる表層と、貫通孔が形成されたポリマーセメントモルタルからなる基層とを一体化してなる透水性蓋の製造方法であって、内面の底面から上方に向かって上記貫通孔を形成するための凸部が設けられた型枠と、自己流動性を有するポリマーセメントモルタルと、予め形成された、接合面の上記型枠の凸部に対応する位置に凹部が設けられた多孔質コンクリート板とを用い、上記型枠に上記ポリマーセメントモルタルを打設した後、その上方から、上記多孔質コンクリート板を、上記型枠の凸部上端が該多孔質コンクリート板の凹部に嵌合し、且つ、該嵌合する部分を除く接合面では多孔質コンクリート板の連続空隙にポリマーセメントモルタルが浸透して接合層が形成されるように載置し、上記ポリマーセメントモルタルが硬化した後、脱型することを特徴とする、透水性蓋の製造方法。
【請求項2】
上記型枠内面の底面から上方に向かって設けられた凸部が、天板のない上面開口の中空構造であることを特徴とする、請求項1に記載の透水性蓋の製造方法。
【請求項3】
上記型枠内面の底面から上方に向かって設けられた凸部が、側板上部に切り欠き部或いは穴を有する中空構造であることを特徴とする、請求項1に記載の透水性蓋の製造方法。
【請求項4】
上記ポリマーセメントモルタルが、セメント、細骨材、ポリマーエマルジョン、高性能減水剤、消泡剤とを少なくとも含むものであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の透水性蓋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−290179(P2007−290179A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118578(P2006−118578)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(591013894)東京セメント工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】