説明

透過型海域制御構造物およびその構築方法

【課題】 常時波浪に対する消波性能を充分に有し、かつ暴風時の作用波力の低減を可能とする透過型海域制御構造物およびその構築方法を提供することである。
【解決手段】 透過型海域制御構造物1は、杭基礎3に箱形の堤体2が海底4との間に適宜間隙部5をもって設置され、堤体2は鉛直壁6と傾斜壁7とからなる前面壁、中間壁12、後面壁9、側面壁8、底板10および頂板11からなり、鉛直壁6および傾斜壁7、中間壁12、後面壁9には透過スリット15が開口され、底板10および頂板11には開口部16が形成され、傾斜壁7の透過スリット15が中間壁12の透過スリット15よりも上部で、かつ中間壁12の上部壁面に対向する箇所に開口されたことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は透過型海域制御構造物およびその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾の静穏度を確保するには、陸側への透過波を防ぐ不透過型の防波堤を沖側に構築することが効果的である。しかし、砂浜などの海岸侵食を防ぐには、不透過型の防波堤は不向きである。この海岸侵食が発生するか否かは、主に比重や形状などの砂の特性や常時波浪特性により決定されるため、数年から数十年の間に一度の割合で来襲する暴風時の波浪による侵食の影響は、長期的に見ると少ないと考えられている。そのため海岸侵食の卓越する地点に防波堤を構築すると、防波堤前面の反射率が大きくなって設置地点の沖側への砂が侵食される一方、陸側には砂が堆積するので、前面の侵食及び背面の堆積対策が新たに必要になる。このような対策としては、常時波浪に対して、対象地点周辺の透過・反射率をともに低減(消波性能)させる透過型海域制御構造物が有効である。この透過型海域制御構造物としては、特開昭63−93918号のものがある。
【特許文献1】特開昭63−93918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の透過型海域制御構造物は、常時波浪に対する消波性能が高いが、暴風時に受ける波力が大きくなるため、堤体規模の増加やそれに伴う施工の難易度が高くなるという問題があった。
【0004】
本願発明は上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、常時波浪に対する消波性能を充分に有し、かつ暴風時の作用波力の低減を可能とする透過型海域制御構造物およびその構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための透過型海域制御構造物は、杭基礎に箱形の堤体が海底面との間に適宜間隙部をもって設置され、堤体は鉛直壁と傾斜壁とからなる前面壁、中間壁、後面壁、側面壁、底板および頂板からなり、鉛直壁および傾斜壁、中間壁、後面壁には透過スリットが開口され、底板および頂板には開口部が形成され、傾斜壁の透過スリットが中間壁の透過スリットよりも上部で、かつ中間壁の上部壁面に対向する箇所に開口されたことを特徴とする。また前面壁の透過スリットの開口率が中間壁および後面壁の透過スリットの開口率よりも小さいことを含む。また頂板より上部の後面壁に透過スリットが形成されたことを含むものである。
また透過型海域制御構造物の構築方法は、傾斜壁と鉛直壁とからなる前面壁、中間壁、後面壁、側面壁、底板および頂板からなり、傾斜壁および鉛直壁、中間壁、後面壁には透過スリットが開口され、底板および頂板には開口部が形成され、傾斜壁の透過スリットが中間壁の透過スリットよりも上部で、かつ中間壁の上部壁面に対向する箇所に開口された堤体に杭打設用貫通孔を複数設け、これら杭打設用貫通孔のいくつかに海底から適宜高さ突出した杭基礎を挿入して海底面との間に適宜間隙部をもって堤体を設置した後、この堤体における杭基礎の挿入されていない杭打設用貫通孔に杭基礎を打設することを特徴とする。
また透過型海域制御構造物の構築方法は、傾斜壁と鉛直壁とからなる前面壁、中間壁、後面壁、側面壁、底板および頂板からなり、傾斜壁および鉛直壁、中間壁、後面壁には透過スリットが開口され、底板および頂板には開口部が形成され、傾斜壁の透過スリットが中間壁の透過スリットよりも上部で、かつ中間壁の上部壁面に対向する箇所に開口された堤体に杭打設用貫通孔を複数設け、この堤体が上下に分割した複数の堤体ユニットで構成され、これら杭打設用貫通孔のいくつかに海底から適宜高さ突出した杭基礎を挿入して海底面との間に適宜間隙部をもって最初の堤体ユニットを設置した後、該最初の堤体ユニットの上にその他の堤体ユニットを順次積み重ねて堤体を形成し、この堤体における杭基礎の挿入されていない杭打設用貫通孔に杭基礎を打設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
押波時は、前面側の傾斜壁を越波して、斜面部を遡上する際に砕波するとともに、斜面越波後の後壁への波の衝突によっても消波する。また引波時は、傾斜壁の内側(遊水部)と外側とに水位差が生じ、傾斜壁の透過スリットからの海水の流出が促進されて波の谷部に落水することによって消波する。また傾斜壁の透過スリットを透過した波は、中間壁の上部壁面に衝突して消波する。また傾斜壁を乗り越えて後面壁に衝突した後に頂板の開口部から前後の遊水部に流入した波と、鉛直壁の透過スリットから流入した波とが、中間壁の透過スリットによって相互に消波する。また傾斜壁を越波した波のエネルギーを後面壁の透過スリットで消散させる。上記のような消波によって透過率の低減を可能にする。また海底との間に適宜間隙部をもって堤体を設置したことにより受圧面積を低減させて反射率を低下させるとともに、傾斜壁の斜面を越波させて波力を受け流すことにより水平力を低減させる。さらに底板および頂板に開口部を設けたことにより、揚圧力を低減させることができるとともに、傾斜壁に作用する波力が分解されて鉛直下向きの力が生じることにより揚圧力を低減させる。また堤体重量、作業船舶規格などの施工条件を考慮して、堤体の一括施工または分割施工のどちらかを選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本願発明の透過型海域制御構造物およびその構築方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。はじめに透過型海域制御構造物(以下制御構造物という)について説明し、次に、この制御構造物の構築方法について説明するが、各実施の形態において同じ構成は同じ符号を付して説明し、異なった構成にのみ異なった符号を付して説明する。
【0008】
図1〜図4は本願発明の制御構造物1を示し、この制御構造物1は箱形の堤体2と、この堤体2が設置された杭基礎3とから構成されており、この堤体2が海底4から適宜高さ突出した杭基礎3に設置されて海底4との間に適宜間隙部5を形成して、この間隙部5を波が通過できるようになっている。
【0009】
また堤体2は平面長方形であり、鉛直壁6、傾斜壁7、側面壁8、後面壁9、底板10および頂板11によって箱体を形成し、この箱体の内部における中間壁12によって前部の遊水室13と後部の遊水室14とが形成され、これらの遊水室13、14が、前面壁と後面壁9における杭基礎3間に形成された隔壁12aによって横方向に複数区画されている。前記の傾斜壁7は鉛直壁6の上部から後面壁9側に傾斜して形成される。
【0010】
また鉛直壁6、傾斜壁7、後面壁9、中間壁12にはそれぞれ透過スリット15が水平方向に開口され、底板10および頂板11には透過スリット15よりも大きな開口部16が形成されている。また傾斜壁7における透過スリット15が中間壁12の透過スリット15よりも上部で、かつ中間壁の上部壁面17に対向する箇所に形成されている。これは透過スリット15を通った波が中間壁の上部壁面17に衝突して砕波されるようにするものであり、透過スリット15の対向位置には中間壁の上部壁面17が垂れ壁のように形成されている。この高さはL.W.L(最低潮位)±1mの箇所が最も好ましい位置である。また頂板11よりも上部の後面壁9、および側面壁8にも透過スリット15が形成されているが、この側面壁8には透過スリット15を設けない場合もある。
【0011】
また、これらの透過スリット15の開口率(壁面積に対する開口割合)は鉛直壁6と傾斜壁7とからなる前面壁が15〜25%、後面壁9が30〜40%、中間壁12が20〜30%、底板10および頂板11が25〜35%である。このように前面壁の開口率を、後面壁9および中間壁12の開口率よりも小さくすることによって遊水室13、14と前面壁外側との間に水位差を生じるようにしている。
【0012】
したがって、図5に示すように、引波時には傾斜壁7の内側における遊水部13、14と傾斜壁外側とに水位差が生じて、傾斜壁の透過スリット15からの海水18が引波の谷部19に落水することによって消波が行われる。
【0013】
この堤体の鉛直壁6および後面壁9の所定箇所には杭打設用貫通孔(前後各5箇所ずつ)20が形成され、この杭打設用貫通孔20に海底4から突出した杭基礎3が挿入されて、堤体2を海底4から適宜間隙部をもった位置に設置し、海底4との間に隙間(h2/h=0〜0.2)5を設けている。
【0014】
次に、上記の制御構造物1の常時(暴風時でないとき)における透過・反射性能の検証実験について説明する。図6の(1)に示す1/25の縮尺の模型の堤体を使用し、同図の(2)に従来の堤体の断面図を示す。また下記の表1に図6の(1)および(2)の堤体の開口率の比較表を示す。このような堤体を使用して同図の(3)に示す実験装置において、現地諸元で波高1.0〜3.0m、周期5.0〜14.0sの波を造って透過・反射性能の検証を行った。図7はその検証結果を示したものであり、(1)および(2)により本願発明の制御構造物1は、透過率が0.6以下で、反射率が0.5以下となる消波性能を有していることを確認することができた。
【表1】

【0015】
次に、本願発明の制御構造物の暴風時における作用波力の検証実験について説明する。図8の(1)に示す1/25の縮尺の堤体を使用し、適宜箇所に波圧計を設置するとともに、堤体天端に架台を設置して分力計を固定した。このような堤体を使用して同図の(2)および(3)に示す実験装置において現地諸元で潮位条件がH.H.W.Lで9.1m(水深)、L.W.Lで6.8m(水深)、海底地盤が1/10勾配および1/50勾配、現地諸元で波高が4.5〜11.25m、周期が9.0〜16.0sの波を造って水平波力・揚圧力の測定を行った。図9の(1)は水平波力の測定結果、(2)は揚圧力の測定結果をそれぞれ示すものであり、従来の制御構造物よりも水平波力で50%、揚圧力で30%程度低減できることを確認することができた。
【0016】
次に、上記の制御構造物の構築方法を図に基づいて説明する。図10および図11は一括施工方式である。この構築方法は、一つの堤体2を一度に吊り上げる船舶を使用することができる場合に適用されるものである。
【0017】
まず、図10に示すように、海底4の四箇所、すなわち堤体1の四隅の杭打設用貫通孔20に挿入する杭基礎3を打設する。次に、図11の(1)に示すように、この4本の杭基礎3を堤体1の四隅の杭打設用貫通孔20に挿入すると、この堤体2は杭基礎3のストッパ21で止められて海底4から適宜間隙部5をもった箇所に設置され、海底4との間に隙間(h2/h=0〜0.2)が形成される。
【0018】
次に、図11の(2)に示すように、残りの杭打設用貫通孔20、すなわち前面壁における3つの杭打設用貫通孔20と、後面壁9における3つの杭打設用貫通孔20とに後打ち用の杭基礎3を打設した後、杭基礎3と杭打設用貫通孔20の隙間にグラウト22を充填し、後面壁側の杭打設用貫通孔20の上部にコンクリートを打設すると制御構造物1が完成する。
【0019】
次に、制御構造物の分割施工方式の構築方法について説明する。この分割施工方式とは、堤体を縦方向に複数分割したもの、すなわち堤体が複数の堤体ユニット23、24から構成されたものであり、二つの堤体ユニット23、24からなる堤体25を使用した構築方法について説明する。この構築方法は、一つの堤体を一度に吊り上げる船舶を使用することができない場合、すなわち小さな船舶しか使用できない場合に適用されるものである。この小さな船舶で吊り上げ可能な大きさに堤体を分割して施工するものである。
【0020】
まず、上記と同じように、堤体の四隅の杭打設用貫通孔20に打設される杭基礎3を4本海底4に打設する。そして、図12に示すように、この4本の杭基礎3を、最初の堤体ユニット(第1の堤体ユニット)23の四隅の杭打設用貫通孔20に挿入すると、この堤体ユニット23が杭基礎のストッパ21で止められて海底4から適宜間隙部5をもった箇所に設置され、海底4との間に隙間(h2/h=0〜0.2)が形成される。
【0021】
次に、他の堤体ユニット(第2の堤体ユニット)24の四隅の杭打設用貫通孔20に4本の杭基礎3を挿入して最初の堤体ユニット23の上に積み重ねると、二つの堤体ユニット23、24からなる堤体25が完成する。
【0022】
次に、図13に示すように、残りの杭打設用貫通孔20、すなわち前面壁における3つの杭打設用貫通孔20と、後面壁9における3つの杭打設用貫通孔20とに後打ち用の杭基礎3を打設した後、杭基礎3と杭打設用貫通孔20の隙間にグラウト22を充填し、後面壁側の杭打設用貫通孔20の上部にコンクリートを打設すると制御構造物1が完成する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】制御構造物であり、(1)は正面図、(2)は平面図である。
【図2】(1)は図1のA−A線断面図、(2)は同B−B線断面図である。
【図3】制御構造物の水平方向の断面図である。
【図4】制御構造物の斜視図である。
【図5】消波状態を示す制御構造物の断面図である。
【図6】(1)は実験に使用する堤体の断面図、(2)は従来の堤体の断面図、(3)は実験装置の断面図である。
【図7】(1)および(2)は透過・反射性能の検証結果を示すグラフ図である。
【図8】(1)は実験に使用する堤体の断面図、(2)および(3)は実験装置の断面図である。
【図9】(1)および(2)は作用波力の検証結果を示すグラフ図である。
【図10】制御構造物の構築方法であり、(1)は海底に杭基礎を打設した側面図、(2)は同平面図である。
【図11】(1)は杭基礎に堤体を設置した断面図、(2)は同平面図である。
【図12】(1)は杭基礎に最初の堤体ユニットを設置した断面図、(2)は同平面図である。
【図13】杭基礎に二つの堤体ユニットを設置した断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 制御構造物
2、25 堤体
3 杭基礎
4 海底
5 間隙部
6 鉛直壁
7 傾斜壁
8 側面壁
9 後面壁
10 底板
11 頂板
12 中間壁
12a 隔壁
13、14 遊水室
15 透過スリット
16 開口部
17 上部壁面
18 海水
19 谷部
20 杭打設用貫通孔
21 ストッパ
22 グラウト
23、24 堤体ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭基礎に箱形の堤体が海底面との間に適宜間隙部をもって設置され、堤体は鉛直壁と傾斜壁とからなる前面壁、中間壁、後面壁、側面壁、底板および頂板からなり、鉛直壁および傾斜壁、中間壁、後面壁には透過スリットが開口され、底板および頂板には開口部が形成され、傾斜壁の透過スリットが中間壁の透過スリットよりも上部で、かつ中間壁の上部壁面に対向する箇所に開口されたことを特徴とする透過型海域制御構造物。
【請求項2】
前面壁の透過スリットの開口率が中間壁および後面壁の透過スリットの開口率よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の透過型海域制御構造物。
【請求項3】
頂板より上部の後面壁に透過スリットが形成されたことを特徴とする請求項1に記載の透過型海域制御構造物。
【請求項4】
請求項1の堤体に杭打設用貫通孔を複数設け、これら杭打設用貫通孔のいくつかに海底から適宜高さ突出した杭基礎を挿入して海底面との間に適宜間隙部をもって堤体を設置した後、この堤体における杭基礎の挿入されていない杭打設用貫通孔に杭基礎を打設することを特徴とする透過型海域制御構造物の構築方法。
【請求項5】
杭打設用貫通孔が複数設けられた請求項1の堤体が上下に分割した複数の堤体ユニットで構成され、これら杭打設用貫通孔のいくつかに海底から適宜高さ突出した杭基礎を挿入して海底面との間に適宜間隙部をもって最初の堤体ユニットを設置した後、該最初の堤体ユニットの上にその他の堤体ユニットを順次積み重ねて堤体を形成し、この堤体における杭基礎の挿入されていない杭打設用貫通孔に杭基礎を打設することを特徴とする透過型海域制御構造物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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