説明

透過式海域制御構造物の構築方法

【課題】開口部を有する透過型の堤体から構成される透過型海域制御構造物を大型の起重機船を使用せずに安全面及び経済面で有利に構築可能な透過式海域制御構造物の構築方法を提供する。
【解決手段】この透過式海域制御構造物の構築方法は、内部の空洞に連通するように上面、底面、前面及び後面に開口部をそれぞれ有し消波性能を備える透過型の堤体11と、堤体を支持する複数本の基礎杭を備える基礎構造と、から構成される透過式海域制御構造物を構築する方法であって、基礎杭の少なくとも一部53を打設し、堤体を沈下可能な補助浮体Jに載せて設置対象の水域まで運搬し、補助浮体とともに堤体を水中へ沈下させて打設された基礎杭に設置し、補助浮体をさらに沈下させて堤体から離してから移動させ、複数の基礎杭のうちで打設が完了していない基礎杭がある場合、その打設を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消波性能を有する透過型の堤体とその堤体を支持する基礎構造とから構成される透過式海域制御構造物を構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾の静穏度を確保するためには、沖側に不透過型の防波堤(陸側への透過波を防ぐ)を構築することが効果的である。しかしながら、砂浜などの海岸浸食を防ぐには、不透過型の防波堤は不向きである。この海岸浸食が発生するか否かは、主に砂の特性(比重や形状)や常時波浪特性により決定される。したがって、数年〜数十年間に一度の割合で来襲する波浪(暴風時)による浸食の影響は、長期的に見ると少ないと考えられている。
【0003】
海岸浸食が卓越する地点に防波堤を構築すると、防波堤前面の反射率が大きくなるため設置地点の沖側の砂が浸食される。一方で、陸側には砂が堆積するため、前面の浸食及び背面の堆積対策が新たに必要となる。海岸浸食を防ぐには、常時波浪に対して対象地点周辺の透過・反射率をともに低減(消波性能)させる透過式の構造物が有効である。例えば、図20のように、透過式構造物Aを構築し、沖側から入射波が透過式構造物Aに到来したとき、透過式構造物Aにおいて、入射波によって生じる反射波及び透過波をともに低減させることで、前面の砂の浸食及び背面の砂の堆積を減らすことができる。かかる透過式構造物Aは、内部が空洞であるため、通常の防波堤などのような重量式では安定性が保てないため、基礎杭Bを打ち込んで固定される。
【0004】
上述のような透過式構造物として、例えば、特許文献1は透過型海域制御構造物およびその構築方法を開示し、特許文献2は海域制御構造物を開示する。いずれの構造物も、その周囲の部材に開口があり、内部の空洞と連通している。
【0005】
従来の透過型海域制御構造物の施工方法は、基礎杭を打ち込んだ後に、起重機船を用いて上部の堤体を据え付け、据え付けた堤体と基礎杭をモルタルグラウト等を施工して連結させる。堤体は一体化もしくは水平方向に分割した構造で数回に分けて据え付ける方法がある。
【0006】
従来の透過型海域制御構造物の施工手順の一例について説明する。
(1)〔ガイド管設置〕工場で製作したガイド管を製作ヤードに運搬し、所定の位置に設置・固定する。(2)〔堤体製作〕ガイド管を骨組みとし、鉄筋コンクリートによる堤体を製作する。(3)〔鋼管杭打設〕ブラケットを取り付けた鋼管杭をバイブロハンマにより海底に打設する。(4)〔堤体据付〕堤体を大型起重機船で運搬し、鋼管杭のブラケット上に据え付ける。(5)〔間詰モルタル充填〕鋼管杭とガイド管の隙間にモルタルグラウト等を充填し堤体を固定する。
【0007】
引用文献3は、ケーソン等の水中基礎の構築方法を開示する。引用文献4は、一対の浮力体を側方に配置したケーソンの回航支援装置を開示する。引用文献5は、沈設台船を用いた大型ケーソンの進水工法を開示する。引用文献6は、浮きドックを用いたコンクリート構造物の進水工法を開示する。引用文献7は、多目的アクセストランクを備えた浮きドックを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−262890号公報
【特許文献2】特開2010−59705号公報
【特許文献3】特開2005−330718号公報
【特許文献4】特開2002−327442号公報
【特許文献5】特開平5−311667号公報
【特許文献6】特開昭59−73389号公報
【特許文献7】特開昭61−275090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
透過型海域制御構造物の上部の堤体を据え付ける際に使用する起重機船は、図21のように、図20のような透過式構造物Aを構成する堤体A1の重量が大きいため大型の起重機船100を使用しなければならない。大型の起重機船を使用しないで、複数隻による据え付けを行う方法もあるが、安全面や経済面、海域占有面積増加の面で不利である。
【0010】
しかし、大型の起重機船100は、クレーン高が非常に高く(70〜100m程度)、またブーム高Hの調整が殆どできないため、空港近隣で高度制限の制約がかかる地点や電線、橋脚などが近辺に存在する地点では、大型の起重機船による施工が困難となる。また、高度制限の制約で据え付けが夜間作業になる場合は、視界が悪いため安全面、設置精度面において大いに不利となる。
【0011】
ケーソンなどの不透過型の構造物は、特許文献3のように堤体内部を空洞にした浮遊状態で運搬・据付を行う施工方法を採用でき、その場合には大型の起重機船を必要としない。一方、透過型海域制御構造物はその周囲に貫通した開口を有するため、その施工方法を適用できない。
【0012】
透過型海域制御構造物をあらかじめ分割する方法で起重機船の縮小化を図ることで、クレーン高の低い船舶を用いることも可能であるが、海上での作業期間が大幅に増加するため、安全面や経済面で大いに不利となる。
【0013】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、開口部を有する透過型の堤体から構成される透過型海域制御構造物を大型の起重機船を使用せずに安全面及び経済面で有利に構築可能な透過式海域制御構造物の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための透過式海域制御構造物の構築方法は、内部の空洞に連通するように上面、底面、前面及び後面に開口部をそれぞれ有し消波性能を備える透過型の堤体と、前記堤体を支持する複数本の基礎杭を備える基礎構造と、から構成される透過式海域制御構造物を構築する方法であって、前記基礎杭の少なくとも一部を打設し、前記堤体を沈下可能な補助浮体に載せて設置対象の水域まで運搬し、前記補助浮体とともに前記堤体を水中へ沈下させて前記打設された基礎杭に設置し、前記補助浮体をさらに沈下させて前記堤体から離してから移動させ、前記複数の基礎杭のうちで打設が完了していない基礎杭がある場合、その打設を行うことを特徴とする。
【0015】
この透過式海域制御構造物の構築方法によれば、上面、底面、前面及び後面に開口部を有するため浮力の利用ができない堤体を補助浮体に載せて設置対象の水域まで運搬することができ、補助浮体とともに堤体を水中へ沈下させて、あらかじめ打設された基礎杭に設置することができる。補助浮体はさらに沈下させて堤体から離してから移動させ撤去した後、打設が完了していない基礎杭がある場合、その打設を行う。このようにして堤体を簡単な工程で運搬し設置することができるので、従来のような大型の起重機船を必要とせず、安全にかつ低コストで透過式海域制御構造物を構築することができる。
【0016】
上記透過式海域制御構造物の構築方法において、前記堤体は、前記複数の基礎杭に対応する複数の位置に前記基礎杭が挿入される複数の被挿入部を有し、前記堤体を前記補助浮体に載せたとき前記被挿入部の少なくとも一部が前記補助浮体からはみ出るようにして運搬し、前記はみ出た被挿入部に対し前記打設された基礎杭を挿入することが好ましい。堤体を補助浮体に載せたまま補助浮体とともに沈下させ、補助浮体からはみ出た堤体の被挿入部に対しあらかじめ打設した基礎杭を挿入することで堤体を設置することができる。
【0017】
この場合、前記はみ出た被挿入部に対応する基礎杭を前記堤体が前記補助浮体に載った状態で打設することが好ましい。あらかじめ打設された基礎杭以外に、はみ出た被挿入部に対応する基礎杭がある場合、堤体を補助浮体に載せた状態で打設することができる。
【0018】
また、前記堤体の設置の際に前記堤体を暫定的に受けて支持する仮受け部材を前記基礎杭にあらかじめ設置することが好ましい。これにより、堤体を設置したときに発生する荷重を基礎杭に伝達して堤体の安定性を確保することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の透過式海域制御構造物の構築方法によれば、開口部を有する透過型の堤体から構成される透過型海域制御構造物を大型の起重機船を使用せずに簡単な工程で構築することができ、安全面及び経済面で有利な構築方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の構築方法を適用可能な透過式海域制御構造物の一例を示す図であり、平面図(a)、正面図(b)、側面図(c)及び後面図(d)である。
【図2】図1の透過式海域制御構造物の底面図(a)及び図1(b)のII-II線に沿って切断してみた断面図(b)である。
【図3】図3は本実施形態で使用可能な補助浮体の側面図(a)及び平面図(b)である。
【図4】本実施形態による透過式海域制御構造物の第1の構築方法における工程S01〜S08を説明するためのフローチャートである。
【図5】第1の構築方法であらかじめ前面端部の基礎杭を打設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図6】第1の構築方法で堤体を補助浮体により曳航する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図7】第1の構築方法で堤体を沈下させ基礎杭に沈設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図8】第1の構築方法で後面端部の基礎杭を打設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図9】第1の構築方法で補助浮体を撤去した状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図10】第1の構築方法で堤体を所定位置に沈設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図11】第1の構築方法で前後面中央部の基礎杭を打設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図12】第1の構築方法で後面端部の基礎杭を打設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図13】本実施形態による透過式海域制御構造物の第1の構築方法における工程S11〜S16を説明するためのフローチャートである。
【図14】第2の構築方法であらかじめ前後面端部の基礎杭を打設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図15】第2の構築方法で堤体を補助浮体により曳航する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図16】第2の構築方法で堤体を沈下させ基礎杭に沈設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図17】第2の構築方法で補助浮体を撤去した状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図18】第2の構築方法で堤体を所定位置に沈設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図19】第2の構築方法で前後面中央部の基礎杭を打設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【図20】海域に構築した透過式構造物に入射波が到来したときの、入射波によって生じる反射波及び透過波を説明するための概略図である。
【図21】従来の透過型海域制御構造物の堤体の据付設置工程に用いる大型起重機船を概略的に示す側面図である。
【図22】別の海域制御構造物を概略的に示す底面図(a)、正面図(b)及び断面図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態の構築方法を適用可能な透過式海域制御構造物の一例を示す図であり、平面図(a)、正面図(b)、側面図(c)及び後面図(d)である。図2は図1の透過式海域制御構造物の底面図(a)及び図1(b)のII-II線に沿って切断してみた断面図(b)である。
【0022】
図1,図2の透過式海域制御構造物10は、消波性能を有する透過型の堤体11と、堤体11を支持する複数本の基礎杭51〜56を備える基礎構造12とから構成される。複数本の基礎杭51〜53は前面側(沖側)に配置され、複数本の基礎杭54〜56は後面側(陸側)に配置される。
【0023】
堤体11は、前面側(沖側)に位置し鉛直方向に延びた前面鉛直壁13と、前面鉛直壁13の上端から傾斜する前面傾斜壁14とを有し、後面側(陸側)に位置し鉛直方向に延びた後面壁15を有し、前面と後面との間に前面鉛直壁13に平行な中間壁16を有し、両側面に側面壁17,18を有する。また、堤体11は、上面の頂版19と、底面の底版20と、を有する。
【0024】
前面鉛直壁13には、水平方向に延びて壁面の中間に開口した前面鉛直壁開口部21が左右に設けられ、前面傾斜壁14には、水平方向に延びて斜面の中間に開口した前面傾斜壁開口部22が設けられている。後面壁15には、複数の後面壁開口部23が水平方向に左右に設けられている。中間壁16には、複数の中間壁開口部24が縦方向に設けられている。さらに、頂版19には上面開口部25が設けられ、底版20には、複数の底面開口部26が設けられている。また、側面壁17,18には凹部18aが形成され、開口部が設けられていないが、開口部を設けてもよい。
【0025】
なお、堤体11において、各開口部の好ましい開口率(部材面積に対する開口面積の割合)は、前面鉛直壁13と前面傾斜壁14とで15〜40%、後面壁15で20〜40%、頂版19、底版20の各水平版ではそれぞれ10〜35%である。
【0026】
上述のように、堤体11は、内部に中間壁開口部24のある中間壁16があるが、全体として内部が空洞となっており、周囲の部材、内部に設けられた各開口部21,22,23,24,25,26により水が透過可能な透過式の構造体となっている。
【0027】
堤体11の各基礎杭51〜56が位置する部分には、基礎杭51〜56が挿入されるようにガイド管51a〜56a(図3(b)参照)が配置されている。堤体11のガイド管に基礎杭51〜56が挿入され一体化されることで基礎構造12が構築され、堤体11が基礎構造12によって支持される。
【0028】
上述の透過式海域制御構造物10は、天端高または突堤部高さが満潮時の海水面程度の高さでありかつ開口部より水の通過を許容する低天端透過式となっている。なお、堤体11の主な寸法は、例えば、海岸線に平行な横幅が16m、高さ8m、海岸線に垂直な奥行きが9.5mであるが、これらの寸法は一例であって、適宜変更可能である。また、堤体11の底版20と水底Gとの間隔は0〜2m程度が好ましい。すなわち、水底Gに対し間隔をあけて堤体11を設置する場合は、2m以下が好ましい。
【0029】
図1,図2の透過式海域制御構造物10によれば、沖側からの入射波の越波(堤体11の上部を越えようとする波)に伴う砕波によるエネルギー損失、前面傾斜壁14の前面傾斜壁開口部22における流出水、流入水による乱れによるエネルギー損失、中間壁開口部24、後面壁開口部23、底面開口部26の各開口により、向きが互いに反対に発生する渦によるエネルギー損失などの各エネルギー損失効果が相乗して消波を促進し、エネルギー損失による消波性能を向上させることができる。
【0030】
次に、図1,図2の堤体を運搬し設置するための補助浮体について図3を参照して説明する。図3は本実施形態で使用可能な補助浮体の側面図(a)及び平面図(b)である。
【0031】
補助浮体Jは、図3(a)(b)のように、内部が空洞Kで、上面J1が平坦な台船状をした浮体から構成され、空洞K内に注水することで沈下し、また空洞K内の水をポンプ等により排出することで浮上するようになっている。
【0032】
補助浮体Jは、上面J1に図3(a)の破線で示す堤体11を載せて浮上し曳航船により曳航されるようになっている。図3(b)のように、補助浮体Jの幅W1は堤体11の横幅Wよりも狭くなっており、補助浮体J上に堤体11を載せたとき、ガイド管51a、53a及びガイド管54a、56aの各位置が補助浮体Jからはみ出るようになっている。ガイド管51a、53aは堤体11の前面両端部の基礎杭51,53に対応し、ガイド管54a、56aは後面両端部の基礎杭54,56に対応する。
【0033】
透過型の堤体11は、その構造上、各部材に、図2(b)のように堤体11内の空洞Cに連通する開口部を有するため、浮力を利用することができず、水面に浮上させて運搬することが困難であったが、堤体11を製作した製作ヤードから図3の補助浮体Jに載せて浮上させて設置対象の水域まで運搬することができる。さらに、堤体11を補助浮体Jに載せて支えた状態で据え付け設置のために水中へと沈下させる場合、堤体11は、各部材に内部の空洞Cへ連通する開口部を有するため空洞Cが直ちに水で満たされ、余分な浮力が作用しないので、補助浮体Jとともに簡単に沈下させてあらかじめ打設した基礎杭に挿入して設置することができる。このため、堤体11の設置を従来のような大型の起重機船を必要とせずに行うことができ、しかも安全にかつ低コストで可能である。
【0034】
次に、図1,図2の透過式海域制御構造物10を構築する第1,第2の構築方法について説明する。
【0035】
〈第1の構築方法〉
本実施形態による透過式海域制御構造物の第1の構築方法について図4〜図12を参照して説明する。図4は、本実施形態による透過式海域制御構造物の第1の構築方法における工程S01〜S08を説明するためのフローチャートである。
【0036】
図5は第1の構築方法であらかじめ前面端部の基礎杭を打設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。図6は第1の構築方法で堤体を補助浮体により曳航する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。図7は第1の構築方法で堤体を沈下させ基礎杭に沈設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。図8は第1の構築方法で後面端部の基礎杭を打設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。図9は第1の構築方法で補助浮体を撤去した状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。図10は第1の構築方法で堤体を所定位置に沈設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。図11は第1の構築方法で前後面中央部の基礎杭を打設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。図12は第1の構築方法で後面端部の基礎杭を打設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【0037】
まず、図5(a)(b)のように、堤体11を設置する破線で示す設置対象領域Rに、前面(沖側)両端部の基礎杭51,53を杭打船Dによりあらかじめ打設し、堤体11を暫定的に受けて支持する仮受けブラケット27を設置する(S01)。仮受けブラケット27は、公知のバンド等を用いて基礎杭に取り付け、仮固定しておく。なお、前面側の基礎杭51〜53は、後面側の基礎杭54〜56よりも完成天端高さが低い。また、堤体11を図2(b)と同様の断面図で示すが、図5(a)の破線位置が堤体11の最終的な設置位置である。
【0038】
次に、図3の補助浮体Jを用いて、堤体11を補助浮体Jに積載し、図6(a)(b)のように、透過式海域制御構造物10を構築する水域へと曳航船Fによって曳航する(S02)。
【0039】
次に、図7(a)(b)のように、補助浮体J内の空洞K(図3)に注水することで補助浮体Jとともに堤体11を沈下させ、堤体11を基礎杭51,53に挿入し、仮受けブラケット27に沈設する(S03)。このように堤体11を設置したときに発生する荷重を仮受けブラケット27により基礎杭51,53に伝達して堤体11の安定性を確保することができる。
【0040】
次に、図8(a)(b)のように、堤体11が沈下した補助浮体Jに載った状態で、後面(陸側)両端部の基礎杭54,56を打設し、仮受けブラケット27を設置し仮固定する(S04)。このとき基礎杭54,56は所定高さ(設計高さ)よりも高い位置までしか打設されない。なお、堤体11の沈下高さ位置は、補助浮体Jが水平方向に移動できる高さとする。
【0041】
次に、図9(a)(b)のように、補助浮体J内の空洞K(図3)にさらに注水することで、補助浮体Jをさらに沈下させて堤体11から離した後、補助浮体Jを水平方向に移動させて撤去する(S05)。
【0042】
次に、図10(a)(b)のように、堤体11を所定高さ位置に沈設する(S06)。このとき、例えば、小規模のクレーン船などを用いて堤体11を支持しながら仮受けブラケット27をあらかじめ所定位置に下げておく。
【0043】
次に、図11(a)(b)のように、前後面中央部の基礎杭52,55を所定高さまで打設する(S07)。
【0044】
次に、図12(a)(b)のように、工程S04で打設した後面端部の基礎杭54,56をさらに打設し、所定高さまで打設することで堤体11の設置が完了する(S08)。
【0045】
この後、堤体11のガイド管51a〜56aと基礎杭51〜56との間の隙間にモルタルグラウトを充填し堤体と基礎杭との一体化を図る。また、仮受けブラケット27は、取り外してもよいが、残してもよく、残す場合には水中溶接等で基礎杭に取り付けることができる。
【0046】
以上のようにして、透過式海域制御構造物10の所定の設置位置での構築が完成する。
【0047】
〈第2の構築方法〉
本実施形態による透過式海域制御構造物の第2の構築方法について図13〜図19を参照して説明する。図13は、本実施形態による透過式海域制御構造物の第1の構築方法における工程S11〜S16を説明するためのフローチャートである。
【0048】
図14は第2の構築方法であらかじめ前後面端部の基礎杭を打設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。図15は第2の構築方法で堤体を補助浮体により曳航する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。図16は第2の構築方法で堤体を沈下させ基礎杭に沈設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。図17は第2の構築方法で補助浮体を撤去した状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。図18は第2の構築方法で堤体を所定位置に沈設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。図19は第2の構築方法で前後面中央部の基礎杭を打設する状態を示す図(a)及びその平面図(b)である。
【0049】
まず、図14(a)(b)のように、堤体11を設置する破線で示す設置対象領域Rに、前後両端部の基礎杭51,53,54,56を杭打船Dによりあらかじめ打設し、堤体11を受ける仮受けブラケット27を設置する(S11)。仮仮受けブラケット27は、公知のバンド等を用いて基礎杭に取り付け、仮固定しておく。なお、前面側の基礎杭51〜53は、後面側の基礎杭54〜56よりも完成天端高さが低い。
【0050】
次に、図3の補助浮体Jを用いて、堤体11を補助浮体Jに積載し、図15(a)(b)のように、透過式海域制御構造物10を構築する水域へと曳航船Fによって曳航する(S12)。
【0051】
次に、図16(a)(b)のように、補助浮体J内の空洞K(図3)に注水することで補助浮体Jとともに堤体11を沈下させ、堤体11を基礎杭51,53,54,56に挿入し、仮受けブラケット27に沈設する(S13)。このように堤体11を設置したときに発生する荷重を仮受けブラケット27により基礎杭51,53,54,56に伝達して堤体11の安定性を確保することができる。
【0052】
次に、図17(a)(b)のように、補助浮体J内の空洞K(図3)にさらに注水することで、補助浮体Jをさらに沈下させて堤体11から離した後、補助浮体Jを水平方向に移動させて撤去する(S14)。
【0053】
次に、図18(a)(b)のように、堤体11を所定高さ位置に沈設する(S15)。このとき、例えば、小規模のクレーン船などを用いて堤体11を支持しながら仮受けブラケット27をあらかじめ所定位置に下げておく。
【0054】
次に、図19(a)(b)のように、前後面中央部の基礎杭52,55を所定高さまで打設することで堤体11の設置が完了する(S16)。
【0055】
この後、堤体11のガイド管51a〜56aと基礎杭51〜56との間の隙間にモルタルグラウトを充填し堤体と基礎杭との一体化を図る。また、仮受けブラケット27は、取り外してもよいが、残してもよく、残す場合には水中溶接等で基礎杭に取り付けることができる。
【0056】
以上のようにして、透過式海域制御構造物10の所定の設置位置での構築が完了する。
【0057】
以上のように、本実施形態の第1及び第2の構築方法によれば、堤体11を補助浮体Jに載せて設置対象の水域まで運搬し、補助浮体Jとともに堤体11を水中へ沈下させて、あらかじめ打設された基礎杭に設置することができる。補助浮体Jをさらに沈下させて堤体11から離して移動させ撤去した後、打設が完了していない基礎杭がある場合、その打設を行うことができる。このようにして堤体11を簡単な工程で設置することができるので、従来のような大型の起重機船を必要とせず、安全にかつ低コストで透過式海域制御構造物10を構築することができる。
【0058】
また、堤体11を補助浮体Jに載せたとき堤体11の被挿入部の一部51a,53a,54a,56aが補助浮体Jからはみ出るようにして運搬し、堤体11を補助浮体Jに載せたまま補助浮体Jとともに沈下させることで、補助浮体Jからはみ出た堤体の被挿入部に対しあらかじめ打設した基礎杭を挿入して堤体11を据え付け設置することができる。
【0059】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、本発明の構築方法を適用可能な透過式海域制御構造物は、図1,図2の構造に限定されず、他の構造であってもよいことはもちろんである。例えば、図22(a)〜(c)のような海域制御構造物に対して適用可能である。
【0060】
すなわち、図22(a)〜(c)の海域制御構造物は、内部が空洞化された箱形ブロック91が複数の杭90により水底に固定されるもので、箱形ブロック91は、複数の開口部93を有する前面側(沖側)の前面壁92と、複数の開口部95を有する後面側(陸側)の後面壁94と、複数の中間壁開口部97を有する中間壁96と、を備え、底版98に複数の開口部99を有し、頂版に開口部99と同様の複数の開口部を有する。後面壁94には平均海面から突出するよう上面側に突設部94aが設けられている。図22(a)〜(c)の海域制御構造物は、上述の実施形態と同様にして運搬し沈下させることで設置することができる。なお、箱形ブロック91の両側面に開口部を設けていないが、設けてもよい。
【0061】
また、本実施形態の構築工法を適用した透過式海域制御構造物は、基礎杭が前面側3本、後面側3本の基礎構造であったが、本発明はこれ以外の基礎構造を有する透過式海域制御構造物に適用してもよいことはもちろんであり、例えば、基礎杭が前面側2本、後面側2本の基礎構造であってもよく、この場合、すべての基礎杭をあらかじめ打設しておいてもよい。
【0062】
また、図1の堤体11は、前面側(沖側)に前面鉛直壁13と前面傾斜壁14とを有する構成であるが、前面全体を鉛直壁に構成してもよく、また、前面全体を傾斜壁に構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の透過式海域制御構造物の構築方法によれば、透過型海域制御構造物を大型の起重機船を使用せずに簡単な工程で構築することができ、安全面及び経済面で有利な構築方法を提供できるので、海域において入射波によって生じる反射波及び透過波をともに低減させることで前面(沖側)の砂の浸食及び背面(陸側)の砂の堆積を減らすことができる透過型海域制御構造物を低コストでかつ安全に構築することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 透過式海域制御構造物
11 堤体
12 基礎構造
13 前面鉛直壁
14 前面傾斜壁
15 後面壁
16 中間壁
17,18 側面壁
19 頂版
20 底版
21 前面鉛直壁開口部
22 前面傾斜壁開口部
23 後面壁開口部
24 中間壁開口部
25 上面開口部
26 底面開口部
27 仮受けブラケット(仮受け部材)
51a〜56a ガイド管(被挿入部)
51〜56 基礎杭
G 水底
J 補助浮体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部の空洞に連通するように上面、底面、前面及び後面に開口部をそれぞれ有し消波性能を備える透過型の堤体と、前記堤体を支持する複数本の基礎杭を備える基礎構造と、から構成される透過式海域制御構造物を構築する方法であって、
前記基礎杭の少なくとも一部を打設し、
前記堤体を沈下可能な補助浮体に載せて設置対象の水域まで運搬し、
前記補助浮体とともに前記堤体を水中へ沈下させて前記打設された基礎杭に設置し、
前記補助浮体をさらに沈下させて前記堤体から離してから移動させ、
前記複数の基礎杭のうちで打設が完了していない基礎杭がある場合、その打設を行うことを特徴とする透過式海域制御構造物の構築方法。
【請求項2】
前記堤体は、前記複数の基礎杭に対応する複数の位置に前記基礎杭が挿入される複数の被挿入部を有し、
前記堤体を前記補助浮体に載せたとき前記被挿入部の少なくとも一部が前記補助浮体からはみ出るようにして運搬し、前記はみ出た被挿入部に対し前記打設された基礎杭を挿入する請求項1に記載の透過式海域制御構造物の構築方法。
【請求項3】
前記はみ出た被挿入部に対応する基礎杭を前記堤体が前記補助浮体に載った状態で打設する請求項2に記載の透過式海域制御構造物の構築方法。
【請求項4】
前記堤体の設置の際に前記堤体を暫定的に受けて支持する仮受け部材を前記基礎杭にあらかじめ設置する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の透過式海域制御構造物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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