説明

透過膜の阻止率判定方法

【課題】RO膜の阻止率、特に有機物に対する阻止率を的確に判定する。
【解決手段】トレーサーを含む液を給水として逆浸透膜に供給し、逆浸透膜を透過した透過水中のトレーサー、或いは給水中のトレーサーと透過水中のトレーサーを検出することにより該逆浸透膜の阻止率を判定する。トレーサーの検出にあたり、液中のトレーサーを気相に移行させ、該気相中のトレーサーを検出する。液中のトレーサーを気相中に移行させ、気相中のトレーサーを検出することにより、膜からの溶出物や、給水中の他の物質の影響を受けることなく、トレーサーのみを的確に検出して、その濃度を精度良く測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜の阻止率を判定する方法に係り、特に、阻止率向上処理を施した逆浸透膜の阻止率向上効果を確認するための方法として有用な透過膜の阻止率判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水資源を有効に利用するために、排水を回収し、再生、再利用するプロセスや海水を淡水化するプロセスの導入が進んでいる。そして、このような背景のもと、水質の高い処理水を得るためには、電解質除去、中低分子除去が可能なナノ濾過膜や逆浸透膜(以下、特に明記しない限り逆浸透膜にはナノ濾過膜を含むものとし、逆浸透膜を「RO膜」と記す)の使用が不可欠である。
【0003】
一方、半導体回路形成技術の進歩により、線幅65nm以下の回路を作製することが可能となってきている。そして、それに伴い、半導体製造工程で使用される超純水に対する要求水質も高まっており、後段処理の負荷を軽減し、より高いレベルでの純水製造を実現する純水製造装置及び純水製造方法の開発が望まれている。特に有機成分はデバイスへの影響が大きいことが懸念されていることから、有機成分を極力排除した水が要求されている。
【0004】
また、海水淡水化に用いられるRO膜においては、高いホウ素除去性能を持つRO膜が求められている。
【0005】
また、一方でRO膜については、運転時の操作圧力の低圧化が進められ、低圧、超低圧で高阻止率が得られるRO膜が求められている。
【0006】
本発明者らは、RO膜の阻止率を効果的に向上させることができる方法として、高分子量のイオン性高分子を用いるRO膜の阻止率向上処理方法を見出した(特開2006−110520号公報)。
【0007】
従来、このような阻止率向上処理を行った場合、その処理効果を判定する方法として、阻止率向上剤を含む液中にトレーサーとなる水溶性有機物や無機電解質を添加しておき、トレーサーと阻止率向上剤を含む液をRO膜に透過させ、給水中のトレーサー濃度に対する透過水中のトレーサー濃度の低減度合で、RO膜の阻止率を判定することが行われている。この場合、トレーサーが水溶性有機物であればその濃度をTOC計で測定することができる。また、無機電解質であれば導電率計でその濃度を求めることができる。
【0008】
しかし、RO膜による電解質の除去性能は、膜の荷電状態の影響を受けるため、必ずしも有機物の除去性能と相関がとれるわけではない。このため、有機物除去性能を向上させることを目的とした場合、その阻止率の判定方法として、無機電解質をトレーサーとすることは不適当であった。
【0009】
トレーサーとして有機物を用いた場合には、TOC計でその濃度を測定し、処理効果を判断することが可能であるが、給水にTOC源が存在する場合や、膜からTOC成分が溶出した場合には、トレーサー以外の物質も測定され、正確な判定ができない場合があった。
【特許文献1】特開2006−110520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来の問題点を解決し、RO膜の阻止率、特に有機物に対する阻止率を的確に判定することができる透過膜の阻止率判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、トレーサーを気相に移行させ、気相中のトレーサーを検出することにより、トレーサー以外の物質の影響を受けることなくトレーサーのみの濃度を正確に測定することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明(請求項1)の透過膜の阻止率判定方法は、トレーサーを含む液を給水として逆浸透膜に供給し、該逆浸透膜を透過した透過水中のトレーサー、或いは給水中のトレーサーと透過水中のトレーサーを検出することにより該逆浸透膜の阻止率を判定する方法において、トレーサーの検出にあたり、液中のトレーサーを気相に移行させ、該気相中のトレーサーを検出することを特徴とする。
【0013】
請求項2の透過膜の阻止率判定方法は、請求項1において、阻止率向上処理を実施した逆浸透膜の阻止率向上効果を確認するために該逆浸透膜の阻止率を判定する方法であることを特徴とする。
【0014】
請求項3の透過膜の阻止率判定方法は、請求項1又は2において、該気相中のトレーサーを半導体センサーで検出することを特徴とする。
【0015】
請求項4の透過膜の阻止率判定方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、該トレーサーがアルコール類、又はアルデヒド類であることを特徴とする。
【0016】
請求項5の透過膜の阻止率判定方法は、請求項4において、該トレーサーがイソプロピルアルコールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の透過膜の阻止率判定方法によれば、液中のトレーサーを気相中に移行させ、気相中のトレーサーを検出することにより、膜からの溶出物や、給水中の他の物質の影響を受けることなく、トレーサーのみを的確に検出して、その濃度を精度良く測定することができる。
【0018】
従って、本発明によれば、RO膜の阻止率向上処理に当たり、その処理効果を的確に判定して、より確実な阻止率向上処理を行うことができる(請求項2)。
【0019】
本発明において、気相中のトレーサーは、半導体センサーで容易にかつ確実に検出することができる(請求項3)。
【0020】
また、トレーサーとしては、容易に気化し易いアルコール類又はアルデヒド類が好ましく(請求項4)、特に取り扱い性、RO膜での除去性能の面から、イソプロピルアルコールが好ましい(請求項5)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の透過膜の阻止率判定方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明の透過膜の阻止率判定方法は、トレーサーを含む液を給水としてRO膜に供給して透過させ、透過水中のトレーサー、或いは給水中のトレーサーと透過水中のトレーサーを検出してRO膜の阻止率を判定するに当たり、液中のトレーサーを気相に移行させて、気相中のトレーサーを検出することを特徴とするものである。
【0023】
<RO膜>
本発明に適用されるRO膜は、膜を介する溶液間の浸透圧差以上の圧力を高濃度側にかけて、溶質を阻止し、溶媒を透過させる液体分離膜である。
RO膜の膜構造としては、複合膜、相分離膜などの高分子膜などを挙げることができる。
【0024】
本発明に適用されるRO膜の素材としては、例えば、芳香族系ポリアミド、脂肪族系ポリアミド、これらの複合材などのポリアミド系素材などを挙げることができる。これらの中で、本発明は、芳香族系ポリアミドRO膜の阻止率向上処理を施した場合の、その処理効果の判定のために特に好適に適用することができる。
【0025】
RO膜モジュールの型式については特に制限はなく、例えば、管状膜モジュール、平面膜モジュール、スパイラル膜モジュール、中空糸膜モジュールなどを適用することができる。
【0026】
<阻止率向上処理>
本発明は特に、RO膜の阻止率向上処理を施した場合の、その処理効果の確認のための阻止率向上度合の判定方法として有用であるが、RO膜の阻止率向上処理に用いられる阻止率向上剤としては、ポリエチレングリコール(水溶液);カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーの併用(膜表面にポリイオンコンプレックスを形成させる)、タンニン酸(水溶液)、アミン(水溶液)、酸ハライド(水溶液)などが挙げられる。
【0027】
本発明に係る阻止率向上剤としては、特に有機物の阻止性能を向上させるものであることが好ましく、このようなものであれば、どのようなものでも適用できる。
【0028】
RO膜の阻止率向上処理に当たり、阻止率向上剤をRO膜に接触させる方法としては、一過通水による方法、循環通水による方法、浸漬方法などが挙げられるが、循環通水による方法が好ましい。
【0029】
なお、阻止率向上剤水溶液中のポリエチレングリコール等の阻止率向上剤の濃度は、通常0.1〜10mg/L程度である。
【0030】
阻止率向上剤水溶液をRO膜に通水する際、この水溶液中にトレーサーを添加しておき、RO膜の給水(トレーサーを含む阻止率向上剤水溶液)中のトレーサー濃度と、透過水中のトレーサー濃度とを比較することにより、阻止率向上処理による阻止率の向上度合をリアルタイムで確認することができる。この場合、給水のトレーサー濃度が既知であれば、透過水中のトレーサー濃度のみを測定すれば良い。
【0031】
なお、この阻止率向上処理を施すRO膜は、使用済膜に限らず、未使用の新膜であっても良い。
【0032】
<トレーサー>
本発明においては、液中のトレーサーを気相に移行させて、気相中のトレーサーを検出する。従って、トレーサーは、水中から気相に移行可能な物質であれば良く、特に制限はないが、アルコール類、又はアルデヒド類が好適に使用され、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等が挙げられる。
【0033】
これらのうち、RO膜がある程度の除去率を示すものが、阻止率を判定しやすいため好ましい。
トレーサーとしては、取り扱い性、RO膜による除去性能などから、特にイソプロピルアルコールが好適に使用される。
【0034】
RO膜の阻止率判定に当たり、RO膜に透過させる給水中のトレーサー濃度は、過度に多いと使用後のトレーサー含有排液の処理に係る負荷が大きくなり、また、洗浄処理が煩雑となり、過度に少ないとトレーサーの阻止率を正確に把握することができないことから、0.1〜100mg/L、特に1〜10mg/L程度とすることが好ましい。
【0035】
<トレーサーの気相への移行方法>
トレーサーを液中から気相に移行させる方法に特に制限はなく、トレーサーを含む液を加熱してトレーサーを気相中に蒸発させる方法や、ガス透過膜又はアルコール透過膜を介して気相中に移行させる方法などが挙げられる。
【0036】
<気相中のトレーサーの検出方法>
気相中のトレーサーを検出、測定する方法に制限はなく、市販のセンサー等が使用できる。例えば、アルコール類を測定する方法としては半導体による電気化学的手法を利用した半導体センサーがあり、好適に使用できる。
【0037】
<阻止率向上処理及び判定装置>
本発明は、特に、RO膜の阻止率向上剤の水溶液をRO膜に循環通水して阻止率向上処理を行う際に、その処理効果を同時に判定する場合に有効に適用される。
【0038】
図1にこのようなRO膜の阻止率向上処理及び判定装置の実施形態を示す。図2は図1における検出器の詳細を示す構成図である。
【0039】
1は阻止率向上剤とトレーサーを含む水溶液が貯留された処理剤タンクであり、タンク1内の処理剤(給水)は高圧ポンプPにより配管11を経て、RO膜2Aを内蔵するRO膜ベーセル2に通水され、透過水及びブライン(濃縮水)がそれぞれ、配管12,13を経てタンク1に戻される。
【0040】
RO膜モジュール2への給水配管11及び透過水配管12には、それぞれ検出器3,4が設けられており、トレーサー濃度の測定が行われる。
【0041】
この検出器3,4は、図2に示す如く、調整室5と分析室6とで主に構成される。V〜Vは開閉バルブである。検出器3,4では、配管11からの給水又は配管12からの透過水の一部を配管21を介してケミカルポンプPにて一定圧力で調整室5に導入する。調整室5内は、熱交換器8で水温が一定に調整されている。調整室5内は疎水性多孔質テフロン膜、疎水性ゼオライト膜又はシリコーンゴム膜などのガス透過膜7で液相部5Aと気相部5Bに仕切られており、液相部5Aに導入された試料は、トレーサーがガス透過膜7を透過して気相部5Bに移行する。トレーサーが移行した残液はドレンとして排出されるが、系外に排出しても、タンク1に戻してもよい。
【0042】
気相部5Bに移行したトレーサーの蒸気は、配管23からのキャリアガス(窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスが用いられる。)により、配管24を経て分析室6に移送される。
なお、分析室6を真空又は低真空状態に保つことで、トレーサーの移行を促進するようにしてもよい。
【0043】
分析室6内には、半導体センサー9が設けられており、トレーサー濃度が検出される。
【0044】
分析室6内のガス凝縮水は配管25よりドレンとして排出される。
【0045】
このようにして、処理剤の循環通水による阻止率向上処理において、給水及び透過水中のトレーサー濃度を連続的又は間欠的に測定し、給水中のトレーサー濃度に対して、透過水中のトレーサー濃度が所定値以下となり、目的とする阻止率を達成することができたことが確認されたら、処理剤の循環通水を停止して阻止率向上処理を終了することができる。
【0046】
ただし、本発明の透過膜の阻止率判定方法は、このようなRO膜の阻止率向上処理時の処理効果の確認のために適用するものに何ら限定されず、あらゆる新膜や使用済膜の阻止率の程度を調べる場合に有効に適用可能である。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0048】
実施例1
図1に示す装置によりRO膜の阻止率向上処理を行うに当たり、本発明に従って、トレーサー濃度の測定を行った。
【0049】
阻止率向上剤としては重量平均分子量4000のポリエチレングリコールを用い、また、トレーサーとしてはイソプロピルアルコール(IPA)を用い、ポリエチレングリコール濃度5mg/Lで、イソプロピルアルコール濃度100mg/Lの処理剤水溶液を調製した。
【0050】
RO膜2Aとしては、日東電工社製「ES20−D8」(芳香族系ポリアミド超低圧RO膜)をベッセル2に装填した。
【0051】
処理剤水溶液は運転圧力0.75MPaで6時間、RO膜ベッセル2に循環通水し、給水と透過水中のイソプロピルアルコール濃度をそれぞれオンラインで分析した。
検出器3,4では、調整室5の液相部5Aでサンプルを60℃で加熱してイソプロピルアルコールをガス透過膜(ミリポア社製「デュラポア膜」)7を経て気相部5Bに移行させた。気相部5Bのイソプロピルアルコールは乾燥アルゴンガスで分析室6に送給した。分析室6の半導体センサー9としてはSnO型半導体センサーを用い、イソプロピルアルコール濃度に応じた電圧変化を検出した。イソプロピルアルコール濃度の測定には、このセンサーを用いて、予め既知のイソプロピルアルコール濃度の分析を行って検量線を作成し、この検量線に基いて試料のイソプロピルアルコール濃度を求めた。
【0052】
給水のイソプロピルアルコール濃度と、透過水のイソプロピルアルコール濃度の経時変化を図3に示す。
【0053】
このイソプロピルアルコール濃度の測定結果から、RO膜のイソプロピルアルコール除去率を把握することができ、所定の除去率に達した時点で阻止率向上処理を終了することができた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の透過膜の阻止率判定方法は、電子デバイス製造分野、半導体製造分野、その他の各種産業分野で排出される高濃度ないし低濃度TOC含有排水の回収・再利用のための水処理において、特に有機物除去を目的として用いられるRO膜の阻止率向上処理を行う場合において、その処理効果の確認のための阻止率判定に有効に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明が適用されるRO膜の阻止率向上処理及び判定装置の実施形態を示す系統図である。
【図2】図1における検出器の詳細を示す構成図である。
【図3】実施例1における給水及び透過水のイソプロピルアルコール濃度の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1 処理剤タンク
2 RO膜ベッセル
2A RO膜
3,4 検出器
5 調整室
5A 液相部
5B 気相部
6 分析室
7 ガス透過膜
8 熱交換器
9 半導体センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレーサーを含む液を給水として逆浸透膜に供給し、該逆浸透膜を透過した透過水中のトレーサー、或いは給水中のトレーサーと透過水中のトレーサーを検出することにより該逆浸透膜の阻止率を判定する方法において、
トレーサーの検出にあたり、液中のトレーサーを気相に移行させ、該気相中のトレーサーを検出することを特徴とする透過膜の阻止率判定方法。
【請求項2】
請求項1において、阻止率向上処理を実施した逆浸透膜の阻止率向上効果を確認するために該逆浸透膜の阻止率を判定する方法であることを特徴とする透過膜の阻止率判定方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、該気相中のトレーサーを半導体センサーで検出することを特徴とする透過膜の阻止率判定方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該トレーサーがアルコール類、又はアルデヒド類であることを特徴とする透過膜の阻止率判定方法。
【請求項5】
請求項4において、該トレーサーがイソプロピルアルコールであることを特徴とする透過膜の阻止率判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−136778(P2009−136778A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316030(P2007−316030)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】