説明

通信システム、無線機器、及び、無線機器のプログラム

【課題】 非力な無線端末を使用した場合に生ずる通信遅延を抑制することができる通信システム等を提供することを目的とする。
【解決手段】 エッジルータ12は、ルータ広告を無線端末11に送信することにより無線端末11にホップリミットを通知する。無線端末11は、IPv6パケットのホップリミットフィールドに、通知されたホップリミットを格納する。エッジルータ12は、ユーザ宅内システム1における最大ホップ数とIPネットワークNWにおける最大ホップ数とを記憶しており、ユーザ宅内システム1からIPネットワークNWに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットをIPネットワークNWにおける最大ホップ数に設定し、IPネットワークNWからユーザ宅内システム1に送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットをユーザ宅内システム1における最大ホップ数に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システム、無線機器、及び、無線機器のプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、6LoWPAN(IPv6 over Low-Power Wireless Personal Area Networks)の標準である下記の非特許文献が知られている。6LoWPANは、IPv6をIEEE 802.15.4上で利用可能にするものである。この6LowPANにおいて、低消費電力の無線リンク上でIPv6による通信を行う無線機器は、内部リソースが十分でなく、例えば、同一リンク内のpingパケットの送信に20〜30msecかかる場合もある。なお、PC等の高リソース機器であれば、pingパケットのmsecオーダ以下である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】RFC 4944 Transmission of IPv6 Packets over IEEE 802.15.4 Networks
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
6LowPANにおける無線端末は、マルチホップルーティングの機能を具備している。これにより、この無線端末は、複数の無線端末を経由して、ルートノードに相当するエッジルータを介してインターネット接続され、通信を行う。
【0005】
しかし、上述のように内部リソースが低い非力な無線端末を利用してマルチホップルーティングして通信すると、ホップしていく無線端末での演算時間の積算値が大きくなり、通信の遅延が大きくなる。
【0006】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、非力な無線端末を使用した場合に生ずる通信遅延を抑制することができる通信システム、無線機器、及び、無線機器のプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する第1の発明に係る通信システムは、第1ネットワークと第2ネットワークの間に配される第1無線機器と、前記第1ネットワークに配されて前記第1無線機器と無線接続される第2無線機器とを備える通信システムであって、前記第1無線機器は、前記第1ネットワークにおける最大ホップ数と前記第2ネットワークにおける最大ホップ数とを記憶する記憶部と、前記第1ネットワークにおける最大ホップ数をホップリミットとしてルータ広告を前記第2無線機器に送出する第1通信部とを備え、前記第2無線機器は、前記第1無線機器から送信されたルータ広告に含まれるホップリミットを受信した場合に、当該受信したホップリミットに設定するホップリミット設定部と、当該設定されたホップリミットを含めた通信パケットを生成する通信パケット生成部と、前記通信パケットを送出する第2通信部とを備え、前記第1無線機器は、前記第1ネットワークから前記第2ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを前記第2ネットワークにおける最大ホップ数に設定し、前記第2ネットワークから前記第1ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを前記第1ネットワークにおける最大ホップ数に設定するホップリミット書換部を備え、前記第1通信部は、前記ホップリミット書換部によりホップリミットが設定された通信パケットを転送することを特徴とする。
【0008】
第1の発明に係る通信システムであって、第2の発明は、前記第2無線機器は、前記第1ネットワークにおいて隣接する他の第2無線機器から前記第1無線機器までのホップ数を取得し、自身から第1無線機器までのホップ数が前記ホップリミット設定部により設定されたホップリミットを越えないように経路を生成する経路生成部を備えることを特徴とする。
【0009】
第2の発明に係る通信システムであって、第3の発明は、前記第2無線機器は、前記経路生成部によって前記ホップリミット設定部により設定されたホップリミット内のホップ数で経路が生成できない場合に、その旨を外部に報知することを特徴とする。
【0010】
第2の発明に係る通信システムであって、第4の発明は、前記第2無線機器における前記経路生成部は、前記第1無線機器との間の複数の経路を生成した後に、前記第1無線機器との間の応答時間を計測し、当該応答時間に基づいて経路を選択することを特徴とする。
【0011】
第4の発明に係る通信システムであって、第5の発明は、前記第2無線機器における前記経路生成部は、前記応答時間の差が所定値以下である場合に、受信電波強度に基づいて経路を選択することを特徴とする。
【0012】
第1の発明に係る通信システムであって、第6の発明は、前記第1無線機器は、前記第1ネットワークにおいて隣接する第2無線機器までの平均応答時間を計測する応答時間計測部と、前記応答期間計測部により計測された平均応答時間と前記ホップ数との積が予め定められた通信時間よりも小さい経路のみで経路を生成するルーテイング処理部とを備えることを特徴とする。
【0013】
上記の課題を解決する第7の発明に係る無線機器は、第1ネットワークと第2ネットワークの間に配され、前記第1ネットワークに配された無線端末と無線接続される無線機器であって、前記第1ネットワークにおける最大ホップ数と前記第2ネットワークにおける最大ホップ数とを記憶する記憶部と、前記第1ネットワークにおける最大ホップ数をホップリミットとしてルータ広告を前記無線端末に送出する通信部と、前記第1ネットワークから前記第2ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを前記第2ネットワークにおける最大ホップ数に設定し、前記第2ネットワークから前記第1ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを前記第1ネットワークにおける最大ホップ数に設定するホップリミット書換部とを備え、前記通信部が、前記ホップリミット書換部によりホップリミットが設定された通信パケットを転送することを特徴とする。
【0014】
上記の課題を解決する第8の発明に係る無線機器のプログラムは、第1ネットワークと第2ネットワークの間に配され、前記第1ネットワークに配された無線端末と無線接続される無線機器のプログラムであって、前記無線機器のコンピュータを、前記第1ネットワークにおける最大ホップ数と前記第2ネットワークにおける最大ホップ数とを記憶する記憶部と、前記第1ネットワークにおける最大ホップ数をホップリミットとしてルータ広告を前記無線端末に送出する通信部と、前記第1ネットワークから前記第2ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを前記第2ネットワークにおける最大ホップ数に設定し、前記第2ネットワークから前記第1ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを前記第1ネットワークにおける最大ホップ数に設定するホップリミット書換部として機能させ、前記通信部を、前記ホップリミット書換部によりホップリミットが設定された通信パケットを転送するように機能させる。
【0015】
上記の課題を解決する第9の発明に係る無線機器は、第1ネットワークと第2ネットワークの間に配される無線親機と無線接続され、前記第1ネットワークに配された無線機器であって、前記無線親機から送信されたルータ広告に含まれるホップリミットを受信した場合に、当該受信したホップリミットに設定するホップリミット設定部と、前記ホップリミット設定部により設定されたホップリミットを含めた通信パケットを生成する通信パケット生成部と、前記通信パケットを送出する通信部とを備え、前記第1ネットワークにおいて隣接する他の無線機器から前記無線親機までのホップ数を取得し、自身から前記無線親機までのホップ数が前記ホップリミット設定部により設定されたホップリミットを越えないように経路を生成する経路生成部を備えることを特徴とする。
【0016】
上記の課題を解決する第10の発明に係る無線機器のプログラムは、第1ネットワークと第2ネットワークの間に配される無線親機と無線接続され、前記第1ネットワークに配された無線機器のプログラムであって、前記無線親機のコンピュータを、前記無線親機から送信されたルータ広告に含まれるホップリミットを受信した場合に、当該受信したホップリミットに設定するホップリミット設定部と、前記ホップリミット設定部により設定されたホップリミットを含めた通信パケットを生成する通信パケット生成部と、前記第1ネットワークにおいて隣接する他の無線機器から前記無線親機までのホップ数を取得し、自身から前記無線親機までのホップ数が前記ホップリミット設定部により設定されたホップリミットを越えないように経路を生成する経路生成部として機能させるための。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、無線通信ネットワークにおける最大ホップ数をホップリミットとしてルータ広告を無線機器に送出して、無線機器のホップリミットとして設定する。これにより、非力な無線機器を使用した場合に生ずる通信遅延を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態として示す通信システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態として示す通信システムにおけるユーザ宅内システム内の経路を示すブロック図である。
【図3】IPv6パケットにおけるヘッダフォーマットを示す図である。
【図4】本発明の一実施形態として示す通信システムにおいて、各部の信号の授受について示すシーケンス図である。
【図5】本発明の一実施形態として示す通信システムにおいて、複数の経路が存在することを示すブロック図である。
【図6】本発明の一実施形態として示す通信システムにおける無線端末によって経路を求めるための処理手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態として示す通信システムにおけるエッジルータによって経路を求めるための処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0020】
本発明の実施形態として示す通信システムは、例えば図1に示すように構成される。この通信システムは、ユーザ宅内システム1が、IPネットワークNW及びルータ2a、3aを介してパーソナルコンピュータ2や、外部サーバ3と通信を行うものである。ユーザ宅内システム1は、第1ネットワークとしてのIP通信が可能な無線通信ネットワークを構成している。一方、IPネットワークNWは、第2ネットワークとしてのIP通信が可能な有線又は無線通信ネットワークを構成している。この通信システムにおいて、無線通信ネットワークにおける無線端末11、エッジルータ12、IPネットワークNWにおけるパーソナルコンピュータ2や外部サーバ3は、IPv6を使って通信することが可能である。
【0021】
この通信システムは、例えばユーザが操作するパーソナルコンピュータ2で発生した要求に応じて、ユーザ宅内システム1によってユーザ宅内の状況等をパーソナルコンピュータ2に通知する。また、通信システムは、例えば外部サーバ3によってユーザ宅内を監視するために、無線端末11によって検知するセンサ情報を外部サーバ3に供給する。
【0022】
ユーザ宅内システム1は、第2無線機器(無線子機)としての複数の無線端末11と、第1無線機器(無線親機)としてのエッジルータ12と、ブロードバンドルータ13とを含む。エッジルータ12は、無線端末11に対する親機として機能する。
【0023】
無線端末11は、エッジルータ12又は他の無線端末11との間で無線信号を送受信する。無線端末11は、ユーザの宅内に設けられたセンサ、スイッチ等である。無線端末11としては、例えば、温度センサ等の各種のセンサ、照明スイッチ等の各種のスイッチ、照明や空調機器等の各種家電機器などが挙げられる。無線端末11は、ユーザ宅内の状況をユーザに閲覧等させるために、センサ信号やオンオフ状態等のデータを無線信号として出力する。この無線信号は、直接的にエッジルータ12に送信され、又は、他の無線端末11を介してエッジルータ12にマルチホップ送信される。
【0024】
この無線端末11は、後述するように、ルータ広告によってホップリミットを設定する処理やホップリミット等に基づいて経路を演算する処理等を行う。無線端末11は、少なくとも、記憶部や通信I/F回路、CPU及びプログラムを含むコンピュータであり、CPUがプログラムを実行する。これにより、無線端末11のプログラムは、後述するように、ルータ広告によってホップリミットを設定する動作や、経路を演算する動作を実行させる。
【0025】
エッジルータ12は、無線端末11との間で無線信号を送受信する。エッジルータ12は、ブロードバンドルータ13からの送信要求に応じて無線信号を無線端末11に送信し、無線端末11から無線信号を受信して、データをブロードバンドルータ13に供給する。また、エッジルータ12は、後述するように、無線端末11のホップリミットを設定する動作や、パケットのホップリミットを書き換える動作、無線端末11までの経路を演算する動作を行う。
【0026】
エッジルータ12は、少なくとも、記憶部や通信I/F回路、CPU及びプログラムを含むコンピュータであり、CPUがプログラムを実行する。これにより、エッジルータ12のプログラムは、後述するように、ルータ広告を送信する動作や、ホップリミットを書き換える動作、無線端末11までの経路を演算する動作を実行させる。
【0027】
ブロードバンドルータ13は、第1ネットワークとしてのユーザ宅内システム1と、第2ネットワークとしてのIPネットワークNWとの間に配される第1無線機器である。ブロードバンドルータ13は、パーソナルコンピュータ2や外部サーバ3からの要求に応じて、エッジルータ12を介して無線端末11に無線信号を送出させる。また、ブロードバンドルータ13は、エッジルータ12を介した無線端末11から送信されたデータをパーソナルコンピュータ2や外部サーバ3に送信する。
【0028】
このような通信システムにおいて、無線端末11はエッジルータ12と直接通信できない場合には、他の無線端末11を経由して通信することが可能である。この仕組みは一般的にマルチホップと称される。例えば、図2に示すように、無線端末11Cがエッジルータ12と通信するためには、無線端末11B、無線端末11Aを経由するマルチホップ通信を行う必要がある。
【0029】
マルチホップ通信によって無線端末11が通信する場合、一般的に無線端末11はパーソナルコンピュータ等に比べて、情報処理能力が低く、パケットを転送するための時間を長く要することが多い。例えば、直接に有線接続されたパーソナルコンピュータ同士でpingパケットを送信すれば、1msec以下で通信可能であっても、無線端末11同士であれば、20msec以上の通信時間を要することもある。そのため、マルチホップ通信によって無線端末11が通信するときの通信時間に制約がある場合は、無線通信ネットワークにおけるマルチホップのホップ数を制限したいという要求がある。
【0030】
したがって、この通信システムでは、ユーザ宅内システム1のエッジルータ12によって無線端末11のホップリミットを設定する。このホップリミット(Hop Limit)は、図3に示すように、IPv6パケットのヘッダ部に設けられている。無線端末11は、ホップリミットが設定されると、設定後に作成するIPv6パケットのホップリミットフィールドに、ホップリミットの値を格納する。
【0031】
エッジルータ12は、ユーザ宅内システム1の無線通信ネットワークにおける最大ホップ数とIPネットワークNWにおける最大ホップ数とを記憶している。そして、エッジルータ12は、無線通信ネットワークにおける最大ホップ数をホップリミットとしてルータ広告を無線端末11に送出する。
【0032】
これに対し、無線端末11は、エッジルータ12から送信されたルータ広告に含まれるホップリミットを受信した場合に、当該受信したホップリミットに設定する(ホップリミット設定部)。その後、無線端末11は、当該設定されたホップリミットを含めた通信パケットを生成する(通信パケット生成部)。これにより、無線端末11は、通信パケットを無線信号として送出する。
【0033】
また、この通信システムにおいて、エッジルータ12は、無線通信ネットワークからIPネットワークNWに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットをIPネットワークNWにおける最大ホップ数に書き換える。一方、エッジルータ12は、IPネットワークNWから無線通信ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを無線通信ネットワークにおける最大ホップ数に設定する。そして、エッジルータ12は、当該書き換えた通信パケットを転送する。
【0034】
この通信システムにおいて、エッジルータ12、無線端末11A〜11Cは、図4に示すように動作する。
【0035】
エッジルータ12は、定期的にRouter Advertisement(ルータ広告、RA)と呼ばれるメッセージ(ルータ広告メッセージ)S1を送信している。このルータ広告メッセージS1は、主に同一ネットワーク上の無線端末11A〜11Cに64ビット長のネットワークプレフィックスを送信するために用いられる。このルータ広告メッセージS1には、ネットワークプレフィックス以外にも各種情報をオプションとして無線端末11A〜11Cに通知可能である。そこで、本実施形態におけるエッジルータ12は、無線端末11が通信する際の端末経由数の制限値(ホップリミット(Hop Limit))を通知する。
【0036】
ホップリミットは、ユーザ宅内システム1における無線通信ネットワークを管理する管理者が、無線端末11の経由数を制限したい場合に、エッジルータ12と無線端末11との間の通信時間の長い経路を避けるために設定される。具体的には、図2に示した通信システムにおいて、図4のように、ホップリミットは、“2”に設定される。このルータ広告メッセージS1は、無線端末11A、無線端末11Bを経由して、無線端末11Cまで供給される。各無線端末11は、ルータ広告メッセージS1を受信すると、当該ルータ広告メッセージS1に含まれたホップリミットを、通信パケットに格納することが設定される。
【0037】
また、この通信システムにおいて、無線端末11は、起動していない場合にはルータ広告メッセージS1を受信できない。これに対し、無線端末11は、当該無線端末11が起動した時に、ルータ要請メッセージ(Router Solicitation、RS)を同報送信する。このルータ要請メッセージは、直接にエッジルータ12に受信され、又は、隣接する無線端末11により中継されてエッジルータ12に受信される。
【0038】
ルータ要請メッセージを受信したエッジルータ12は、ルータ広告メッセージS1を無線端末11に送信できる。ルータ広告メッセージS1を受信した各無線端末11は、自身のデータリンク層アドレス(MACアドレス等)とルータ広告メッセージS1に含まれる受信したネットワークプレフィックスとを組み合わせて、128ビットのIPv6アドレスを決定する。その後、無線端末11は、他の無線端末とIPv6アドレスが重複していないかを確認する。このために、無線端末11は、重複アドレス検知(Duplication Address Detection、DAD)と呼ばれる方法を実行する。無線端末11A〜11Cは、決定したIPv6アドレスを宛先アドレスに設定した近隣要請メッセージ(Neighbor Solicitation、NS)S2、S3、S4を送信する。無線端末11A〜11Cは、一定時間後に近隣要請メッセージS2に対する応答がなければ、決定したIPv6アドレスを自身のIPv6アドレスとして設定する。
【0039】
このように、無線端末11A〜11Cは、エッジルータ12からのルータ広告メッセージS1によってIPv6アドレス及びホップリミットが設定される。この無線端末11A〜11Cは、必要に応じて、外部サーバ3にデータを送信する。
【0040】
ここで、図2に示したように、無線端末11Cが、無線端末11B、無線端末11A、エッジルータ12の順で経由して外部サーバ3にデータを送信するように経路設定されているとする。この場合、無線端末11Cは外部サーバ3にデータを送信する際にホップリミットを“2”に設定して、無線端末11Bに通信パケットS5を送信する。無線端末11Bは、通信パケットS5を受信すると、ホップリミットを1だけ減算した値、すなわち“1”に設定して、無線端末11Aに通信パケットS5を転送する。無線端末11Aは、通信パケットS5を受信すると、ホップリミットを1だけ減算する。すると、ホップリミットが“0”となる。このため、無線端末11Aは、エッジルータ12に通信パケットを転送することができず、通信パケットを破棄する。
【0041】
その後、無線端末11Aは、無線端末11BにICMPv6により規定された時間超過メッセージ(Time Exceeded)S6を送信する。無線端末11Bは、時間超過メッセージS6を受信すると、当該時間超過メッセージS6を無線端末11Cに転送する。無線端末11Cは、時間超過メッセージS6を受信すると、先に送信した通信パケットS5が破棄されたことを知ることができる。
【0042】
また、無線端末11Bが外部サーバ3にデータを送信する場合にも、無線端末11Bは、ホップリミットを“2”に設定して、無線端末11Aに通信パケットS7を送信する。無線端末11Aは、通信パケットS7を受信すると、ホップリミットを1だけ減算した値、すなわち“1”に設定して、エッジルータ12に通信パケットS7を転送する。
【0043】
エッジルータ12は、通信パケットS7を受信すると、ホップリミットが“1”であるため、外部サーバ3に対してデータの転送が可能であると判断する。エッジルータ12は、予め管理者によって設定されたIPネットワークNWのホップリミット最大値(基準値)である“255”から無線通信ネットワークのホップ数“2”を減算した“253”をホップリミットに設定した通信パケットS8を作成する。これにより、エッジルータ12は、無線通信ネットワークからIPネットワークNWに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットをIPネットワークNWにおける最大ホップ数に書き換える。そして、エッジルータ12は、ブロードバンドルータ13を介して外部サーバ3に宛てた通信パケットS8を転送する。
【0044】
なお、この動作例では、ユーザ宅内システム1から外部サーバ3にデータを送信する場合について説明した。これに対し、外部サーバ3から無線端末11に要求等を送信する場合には、エッジルータ12は、IPネットワークNWの最大ホップ数を無線通信ネットワークの最大ホップ数に書き換えれば良い。
【0045】
以上説明したように、この通信システムによれば、無線通信ネットワークにおける最大ホップ数をホップリミットとしてルータ広告を無線端末11に送出して、無線端末11A〜11Cのホップリミットとして設定する。これにより、この通信システムによれば、非力な無線端末11を使用した場合に生ずる通信遅延を抑制することができる。
【0046】
また、この通信システムによれば、エッジルータ12によってIPネットワークNWにおける最大ホップ数と無線通信ネットワークにおける最大ホップ数とを書き換えるので、IPネットワークNWにおけるホップ数に影響を与えることがない。
【0047】
すなわち、ユーザ宅内システム1における無線通信ネットワークは非力な無線端末11を用いることが多いため応答時間が遅くなる。したがって、ホップ数を低減することが好ましい。一方、宅外のインターネット等のIPネットワークNWでは、特に端末による制限はない。従って、通常用いられる値(255)を用いることが好ましい。この通信システムによれば、ホップ数の制御を意識せずにIPv6の層だけで、双方のホップ数を設定することを実現することができる。
【0048】
また、この通信システムは、当該通信システムで実現可能なアプリケーションに依存することなく、Iv6層の機能だけで、無線通信ネットワークにおけるホップ数を制限しながら、外部サーバ3と通信可能になる。また、この通信システムによれば、アプリケーションに依存することなく、また、無線部以外のインターネット通信区間のホップ数に影響を与えることなく、ルートノードであるエッジルータ12から各無線端末11のホップ数を簡易に設定することができる。
【0049】
つぎに、上述した通信システムにおいて、無線端末11によってエッジルータ12までの経路を作成するものについて説明する。無線端末11は、無線通信ネットワークにおいて隣接する他の無線端末11からエッジルータ12までのホップ数を取得し、自身からエッジルータ12までのホップ数がホップリミットを越えないように経路を生成する。これにより、通信システムは、ホップリミットを越えるホップ数の経路を形成しないようにして不要な通信を低減させることができる。
【0050】
例えば、図2に示した無線通信ネットワークでは、無線端末11の位置によっては、図5に示すように、無線端末11Cからエッジルータ12までの経路が複数あり、複数の経路から選択可能である。図5では、点線で示した無線端末11B及び無線端末11Aを経由する経路と、実線で示した直接エッジルータ12に接続する経路がある。
【0051】
このように複数の経路が選択可能な場合、無線端末11は、エッジルータ12から送信されたルータ広告で規定されたホップリミットを超えないように経路を作成する。また、無線端末11は、ホップリミットを超えない複数の経路が作成された場合には、他の無線端末11との間の応答時間や、電波の受信強度に基づいて経路を選択する。
【0052】
無線端末11は、例えば、図6に示すような処理手順に従って動作する。なお、例えば図5における無線端末11Cが行う例について説明する。
【0053】
先ず、ステップST1において、無線端末11Cは、エッジルータ12からルータ広告によってホップリミットを受信したことを判定した場合に、ステップST2において、ホップリミットを設定する。この例では、ホップリミットが“2”である。
【0054】
次のステップST3において、無線端末11Cは、同報通信にて近隣の無線端末11やエッジルータ12に対して、エッジルータ12までのホップ数を要求するメッセージを送信する。エッジルータ12がホップ数の要求メッセージを受信した場合、エッジルータ12は、他の無線端末11を介せず直接に無線端末11と通信可能である。このため、エッジルータ12は、ホップ数“1”を返信する。一方、無線端末11Bが無線端末11Cからの同報通信によってホップ数の要求メッセージを受信した場合、無線端末11Bは、無線端末11Aを経由してエッジルータ12と接続されるため、ホップ数“3”を返信する。
【0055】
次のステップST4において、無線端末11Cは、ホップリミットを超えない経路が作成可能か否かを判定する。無線端末11Cは、ホップリミットが“2”と、ステップST3で得られたホップ数とを比較する。無線端末11Cは、無線端末11Bを経由する経路はホップ数が“3”であり、ホップリミット“2”を超えると判定する。一方、無線端末11Aは、エッジルータ12からのホップ数が“1”であるので、ホップリミット“2”を超えないと判定して、ステップST6に処理を進める。
【0056】
仮に、エッジルータ12からホップ数が取得できなかった場合、無線端末11Cは、無線端末11Bからのホップ数がホップリミットを超えるので、ステップST5に処理を進める。ステップST5において、無線端末11Cは、ホップリミットを超えない経路が作成できないことを外部に報知して処理を終了する。例えば、管理者が保有する携帯端末に対してメールを送信する、無線端末11のGUIに表示する、ことが挙げられる。
【0057】
また、ホップリミットを超えない経路が作成できず、無線端末11Bを経由する経路を経路設定から除外したことを報知しても良い。これにより、管理者が無線端末11の設置個所を見直したり、送信電波強度を大きくしたり等、ホップリミットを超えない経路を増やす対策を講じることが可能になる。また、無線端末はGUI等を具備していれば、GUIに経路設定情報を表示して管理者に通知することも可能である。
【0058】
ステップST6において、無線端末11Cは、ホップリミットを超えない経路を作成する。無線端末11Cは、エッジルータ12に直接無線信号を送信する経路を作成する。
【0059】
次のステップST7において、無線端末11Cは、ステップST6にてホップリミットを超えない経路が複数作成されたか否かを判定する。無線端末11Cは、エッジルータ12に直接無線信号を送信する経路のみが作成されているので、処理を終了する。
【0060】
仮に、ホップリミットを超えない経路が複数作成された場合には、ステップST8に処理を進める。ステップST8において、無線端末11は、経路毎に、エッジルータ12との間の応答時間を計測する。
【0061】
次のステップST9において、無線端末11は、ステップST8にて計測された経路毎のエッジルータ12との応答時間の差が所定値以下であるか否かを判定する。経路毎のエッジルータ12との応答時間の差が所定値以下である場合にはステップST10に処理を進め、そうでない場合にはステップST11に処理を進める。
【0062】
ステップST11において、無線端末11は、エッジルータ12との応答時間が短い経路を選択して、処理を終了する。これにより、無線端末11Cは、エッジルータ12との間の応答時間に基づいて経路を選択して、より遅延時間の少ない経路選択が可能になる。また、経路構築後であれば、平均応答時間でなく、各無線端末11にpingパケットを送信して実際の応答時間を計測し、予め設定された許容できる応答時間と比較し、許容内の応答時間の経路でマルチホップを行うことができる。これにより、さらに精度高く決められた応答時間で応答可能な無線通信ネットワークを構築することができる。
【0063】
ステップST10において、無線端末11は、エッジルータ12との間の応答時間の差が所定値以下であるので、受信電波強度に基づいて経路を選択する。このとき、無線端末11は、複数の経路のうち、隣接する無線端末11又はエッジルータ12との間で、最も受信電波強度の高い無線端末11又はエッジルータ12の経路を選択する。これにより、応答時間が近似した複数の経路が存在する場合であっても、より無線通信の安定した経路を選択することができる。
【0064】
つぎに、上述した通信システムにおいて、エッジルータ12によって無線端末11に対して要求やデータを送信する経路を演算する処理について、図7を参照して説明する。
【0065】
先ずステップST21において、エッジルータ12は、近隣の無線端末11に向けてpingパケットを送出する。
【0066】
次のステップST22において、エッジルータ12は、ステップST21にて送出したpingパケットに対する応答パケットが返信されてくるまでの応答時間を、各無線端末11について計測する。
【0067】
次のステップST23において、エッジルータ12は、ステップST22にて各無線端末11について計測した全ての応答時間の平均を算出して、無線通信ネットワークにおける無線端末11の平均応答時間を算出する。この平均応答時間は、無線通信ネットワークにおいて1ホップ当たりの応答時間とみなすことができる。
【0068】
次のステップST24において、エッジルータ12は、ステップST23にて求めた平均応答時間と各無線端末11までのホップ数の積を、エッジルータ12から各無線端末11への応答時間として算出する。
【0069】
次のステップST25において、エッジルータ12は、ステップST24にて算出されたエッジルータ12から各無線端末11への応答時間が、予め設定された許容できる応答時間よりも短いか否かを判定する。エッジルータ12から各無線端末11への応答時間が、許容応答時間よりも短い場合には、ステップST26に処理を進めて、当該無線端末11への経路を作成する。一方、エッジルータ12から各無線端末11への応答時間が、許容応答時間よりも短くない場合には、当該無線端末11への経路は破棄される。
【0070】
この通信システムによれば、エッジルータ12によって、平均応答時間とホップ数との積が予め定められた通信時間よりも小さい経路のみで経路を生成するので、限られた通信時間で応答する無線通信ネットワークを構築できる。また、アプリケーションによっては制御遅延時間など応答時間が重要となるが、この通信システムによれば、ホップ数と隣接する無線端末11までの平均応答時間により通信時間を推定して通信時間のかかる経路を予め無くすことができる。
【0071】
また、ユーザ宅内システム1における無線端末11が多くなるほど、各無線端末からエッジルータ12までの経路は種々様々な経路が構成されるが、ホップ数ではなく応答時間によって通信遅延が少ない経路を作成できる。
【0072】
なお、上述の実施の形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
1 ユーザ宅内システム
2 パーソナルコンピュータ
3 外部サーバ
11 無線端末
12 エッジルータ
13 ブロードバンドルータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ネットワークと第2ネットワークの間に配される第1無線機器と、前記第1ネットワークに配されて前記第1無線機器と無線接続される第2無線機器とを備える通信システムであって、
前記第1無線機器は、前記第1ネットワークにおける最大ホップ数と前記第2ネットワークにおける最大ホップ数とを記憶する記憶部と、前記第1ネットワークにおける最大ホップ数をホップリミットとしてルータ広告を前記第2無線機器に送出する第1通信部とを備え、
前記第2無線機器は、前記第1無線機器から送信されたルータ広告に含まれるホップリミットを受信した場合に、当該受信したホップリミットに設定するホップリミット設定部と、当該設定されたホップリミットを含めた通信パケットを生成する通信パケット生成部と、前記通信パケットを送出する第2通信部とを備え、
前記第1無線機器は、
前記第1ネットワークから前記第2ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを前記第2ネットワークにおける最大ホップ数に設定し、前記第2ネットワークから前記第1ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを前記第1ネットワークにおける最大ホップ数に設定するホップリミット書換部を備え、
前記第1通信部は、前記ホップリミット書換部によりホップリミットが設定された通信パケットを転送すること
を特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記第2無線機器は、前記第1ネットワークにおいて隣接する他の第2無線機器から前記第1無線機器までのホップ数を取得し、自身から第1無線機器までのホップ数が前記ホップリミット設定部により設定されたホップリミットを越えないように経路を生成する経路生成部を備えることを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記第2無線機器は、前記経路生成部によって前記ホップリミット設定部により設定されたホップリミット内のホップ数で経路が生成できない場合に、その旨を外部に報知することを特徴とする請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記第2無線機器における前記経路生成部は、前記第1無線機器との間の複数の経路を生成した後に、前記第1無線機器との間の応答時間を計測し、当該応答時間に基づいて経路を選択することを特徴とする請求項2に記載の通信システム。
【請求項5】
前記第2無線機器における前記経路生成部は、前記応答時間の差が所定値以下である場合に、受信電波強度に基づいて経路を選択することを特徴とする請求項4に記載の通信システム。
【請求項6】
前記第1無線機器は、
前記第1ネットワークにおいて隣接する第2無線機器までの平均応答時間を計測する応答時間計測部と、
前記応答期間計測部により計測された平均応答時間と前記ホップ数との積が予め定められた通信時間よりも小さい経路のみで経路を生成するルーテイング処理部と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項7】
第1ネットワークと第2ネットワークの間に配され、前記第1ネットワークに配された無線端末と無線接続される無線機器であって、
前記第1ネットワークにおける最大ホップ数と前記第2ネットワークにおける最大ホップ数とを記憶する記憶部と、
前記第1ネットワークにおける最大ホップ数をホップリミットとしてルータ広告を前記無線端末に送出する通信部と、
前記第1ネットワークから前記第2ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを前記第2ネットワークにおける最大ホップ数に設定し、前記第2ネットワークから前記第1ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを前記第1ネットワークにおける最大ホップ数に設定するホップリミット書換部とを備え、
前記通信部が、前記ホップリミット書換部によりホップリミットが設定された通信パケットを転送すること
を特徴とする無線機器。
【請求項8】
第1ネットワークと第2ネットワークの間に配され、前記第1ネットワークに配された無線端末と無線接続される無線機器のプログラムであって、
前記無線機器のコンピュータを、
前記第1ネットワークにおける最大ホップ数と前記第2ネットワークにおける最大ホップ数とを記憶する記憶部と、
前記第1ネットワークにおける最大ホップ数をホップリミットとしてルータ広告を前記無線端末に送出する通信部と、
前記第1ネットワークから前記第2ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを前記第2ネットワークにおける最大ホップ数に設定し、前記第2ネットワークから前記第1ネットワークに送信される通信パケットを受信した場合に、当該通信パケット内のホップリミットを前記第1ネットワークにおける最大ホップ数に設定するホップリミット書換部として機能させ、
前記通信部を、前記ホップリミット書換部によりホップリミットが設定された通信パケットを転送するように機能させるための無線機器のプログラム。
【請求項9】
第1ネットワークと第2ネットワークの間に配される無線親機と無線接続され、前記第1ネットワークに配された無線機器であって、
前記無線親機から送信されたルータ広告に含まれるホップリミットを受信した場合に、当該受信したホップリミットに設定するホップリミット設定部と、
前記ホップリミット設定部により設定されたホップリミットを含めた通信パケットを生成する通信パケット生成部と、
前記通信パケットを送出する通信部とを備え、
前記第1ネットワークにおいて隣接する他の無線機器から前記無線親機までのホップ数を取得し、自身から前記無線親機までのホップ数が前記ホップリミット設定部により設定されたホップリミットを越えないように経路を生成する経路生成部を備えることを特徴とする無線機器。
【請求項10】
第1ネットワークと第2ネットワークの間に配される無線親機と無線接続され、前記第1ネットワークに配された無線機器のプログラムであって、
前記無線親機のコンピュータを、
前記無線親機から送信されたルータ広告に含まれるホップリミットを受信した場合に、当該受信したホップリミットに設定するホップリミット設定部と、
前記ホップリミット設定部により設定されたホップリミットを含めた通信パケットを生成する通信パケット生成部と、
前記第1ネットワークにおいて隣接する他の無線機器から前記無線親機までのホップ数を取得し、自身から前記無線親機までのホップ数が前記ホップリミット設定部により設定されたホップリミットを越えないように経路を生成する経路生成部として機能させるための無線機器のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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