説明

通信システム、送信装置、受信装置および通信方法

【課題】 広帯域のシステムにおいて、受信装置から出力される漏れ音声の音声レベルを低減することができ、秘話性を高めることのできる通信システムを提供する。
【解決手段】 通信システム1は、送信装置であるワイヤレスマイク2と、受信装置であるスピーカ装置3とで構成される。ワイヤレスマイク2は、広帯域の音声信号が入力されると、音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理を行って、周波数が反転された音声信号のうち、基準周波数以下の帯域の信号をカットした音声信号を送信する。スピーカ装置3は、ワイヤレスマイクから送信された音声信号を受信すると、受信した音声信号の周波数を再反転させる逆平衡変調処理を行って、周波数が再反転された音声信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域の音声信号を送受信する通信システムに関し、特に、秘話性を高める技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランシーバや家庭用コードレスホンなどでは、音声帯域(300Hz〜3kHz)のみを含むような狭帯域の音声信号を送受信する通信システムが利用されている。従来、このような狭帯域の通信システムで、比較的安価に秘話性を持たせる技術として、送信機と受信器の両方に平衡変調器を設け、送信機側では周波数を反転させた音声信号を送信し、受信機側では受信した音声を再反転して元に戻す方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような従来の方法によれば、送信機から送信された音声信号を、他の受信器(平衡変調機を持たない受信器)が受信したとしても、その音声信号の周波数が反転されているので、音声の内容を聞き取ることは困難である。従来、狭帯域の通信システムでは、このようにして秘話性が保たれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−307721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の通信システムは、音声帯域(300Hz〜3kHz)のみを含むような狭帯域の音声信号しか送受信できないので、オーディオ帯域(100Hz〜15kHz)を含むような広帯域の場合に比べて音質が低いという問題があった。
【0006】
そこで、音質を高くするために、従来のシステム(狭帯域の通信システム)で用いられていた方法を、広帯域の通信システムにそのまま適用することも考えられる。しかし、単に、従来の方法を広帯域の通信システムに適用しただけでは、狭帯域の通信システムで得られていたような秘話性を得ることはできない。平衡変調後(周波数反転後)の音声信号には、平衡変調器を構成する電子部品の電気的特性がその製造上のばらつきや温度変化等によって理想的な対称性から偏移してしまい、原音声(平衡変調前の音声信号)が「漏れ音声」として含まれる。この「漏れ音声」は、平衡変調後の音声信号の低域側(主に300Hz〜3kHzの音声帯域)に含まれることになる。
【0007】
平衡変調後の音声信号の低域側(低周波数側)は、平衡変調前の音声信号の高域側(高周波数側)に対応することになるが、マイクへの入力が主に音声である場合には、原音声(平衡変調前の音声信号)に音声帯域を超えるような高域側の成分は少なく、したがって、平衡変調後の音声信号の低域側の成分も少ない。そのため、送信機から送信された音声信号を、他の受信器(平衡変調機を持たない受信器)が受信した場合に、平衡変調後の音声信号の低域側には、「漏れ音声」以外の成分が少なく、結果として、「漏れ音声」が聞き取りやすくなり、秘話性が保てないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたもので、広帯域のシステム(高音質のシステム)でも漏れ音声の音声レベルを低減することができ、秘話性を高めることのできる通信システムを提供することを目的とする。
【0009】
本発明の通信システムは、音声帯域より高い周波数帯域を含む広帯域の音声信号を送受信するための送信装置と受信装置を備えた通信システムであって、前記送信装置は、広帯域の音声信号が入力される音声入力部と、前記音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理を行う平衡変調部と、前記周波数が反転された音声信号のうち、第1の所定周波数以下の帯域の信号をカットするフィルター部と、前記第1の所定周波数以下の帯域がカットされた音声信号を送信する送信部とを備え、前記受信装置は、前記送信装置から送信された音声信号を受信する受信部と、前記受信した音声信号の周波数を再反転させる逆平衡変調処理を行う逆平衡変調部と、前記周波数が再反転された音声信号を出力する音声出力部とを備えた構成を有している。
【0010】
この構成により、音声帯域(例えば、300Hz〜3kHz)より高い周波数帯域を含む広帯域(例えば、100Hz〜15kHz)の音声信号を秘話性を高めて送受信することができる。この場合、送信装置(例えば、ワイヤレスマイク)で、広帯域の音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理が行われ、その周波数が反転された音声信号のうち低域側(例えば、3kHz以下)の帯域の信号がカットされる。そのため、平衡変調後(周波数反転後)の音声信号に、平衡変調前(周波数反転前)の音声信号が「漏れ音声」として含まれる場合であっても、その周波数帯域(低域側の帯域)の信号がカットされ、受信装置(例えば、スピーカ装置)から漏れ音声が出力されるのを抑えることができる。このようにして、広帯域のシステム(高音質のシステム)において、受信装置から出力される漏れ音声のレベルを低減することができ、秘話性を高めることができる。
【0011】
また、本発明の通信システムでは、前記送信装置は、前記周波数が反転された音声信号のうち、第2の所定周波数以下の帯域にノイズ信号を重畳させるノイズ重畳部を備え、前記受信装置は、前記受信した音声信号のうち、前記第2の所定周波数以下の帯域の信号をカットするノイズカット部を備えた構成を有している。
【0012】
この構成により、送信装置(例えば、ワイヤレスマイク)で、周波数が反転された音声信号のうち低域側(例えば、3kHz以下)の帯域にノイズ信号(例えば、メロディーや別の音声など)が重畳される。そのため、平衡変調後(周波数反転後)の音声信号に、平衡変調前(周波数反転前)の音声信号が「漏れ音声」として含まれる場合であっても、その周波数帯域(低域側の帯域)の信号がノイズ信号によって聴感上でマスキングされ、受信装置(例えば、スピーカ装置)から出力される漏れ音声を聞き取りにくくすることができる。このようにして、広帯域のシステム(高音質のシステム)において、受信装置から出力される漏れ音声をマスキングすることができ、秘話性を高めることができる。
【0013】
また、本発明の通信システムでは、前記送信装置は、前記送信部により送信される音声信号に、前記受信装置を制御するための制御信号を含んだトーン信号を重畳するトーン信号重畳部を備え、前記受信装置は、前記トーン信号により伝送される前記制御信号に基づき前記逆平衡変調部または前記ノイズカット部の動作の制御を行う構成を有している。
【0014】
この構成により、送信装置(例えば、ワイヤレスマイク)から送信される音声信号にトーン信号が重畳され、そのトーン信号により受信装置を制御するための制御信号が搬送される。受信装置(例えば、スピーカ装置)は、この制御信号に従って送信装置側での秘話機能のオン/オフに応じて、逆平衡変調部またはノイズカット部の動作を制御することができる。
【0015】
また、本発明の通信システムでは、前記送信装置は、前記送信部により送信される音声信号に、コードキーデータを搬送するためのトーン信号を重畳するトーン信号重畳部を備え、前記受信装置は、前記トーン信号により搬送されたコードキーデータの照合が成功した場合に、前記音声出力部から前記音声信号を出力するコードキーデータ照合部を備えた構成を有している。
【0016】
この構成により、送信装置(例えば、ワイヤレスマイク)から送信される音声信号にトーン信号が重畳され、そのトーン信号によりコードキーデータが搬送される。受信装置(例えば、スピーカ装置)は、このコードキーデータの照合が成功した場合にのみ、音声信号を出力する。これにより、受信装置が、特定の送信装置(コードキーデータが一致した送信装置)から送信された音声信号だけを出力できるようになる。
【0017】
また、本発明の通信システムでは、前記送信装置は、前記平衡変調部の動作/非動作または前記音声信号の音声帯域のレベルまたは広帯域の音声信号に含まれる音声帯域の周波数成分の大きさに基づいて、前記フィルター部により前記第2の所定周波数以下の帯域の信号をカットするか否かの切替えを行う構成を有している。
【0018】
この構成により、送信装置で、周波数が反転された音声信号のうち低域側(例えば、3kHz以下)の帯域の信号をカットするか否かの切替えが行われる。この切替えは、平衡変調部の動作/非動作または音声信号の音声帯域のレベルまたは広帯域の音声信号に含まれる音声帯域の周波数成分の大きさに基づいて、適切に行われる。
【0019】
本発明の通信システムは、音声帯域より高い周波数帯域を含む広帯域の音声信号を送受信するための送信装置と受信装置を備えた通信システムであって、前記送信装置は、広帯域の音声信号が入力される音声入力部と、前記音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理を行う平衡変調部と、前記周波数が反転された音声信号のうち、所定周波数以下の帯域にノイズ信号を重畳させるノイズ重畳部と、前記ノイズ信号が重畳された音声信号を送信する送信部とを備え、前記受信装置は、前記送信装置から送信された音声信号を受信する受信部と、前記受信した音声信号のうち、前記所定周波数以下の帯域の信号をカットするノイズカット部と、前記受信した音声信号の周波数を再反転させる逆平衡変調処理を行う逆平衡変調部と、前記周波数が再反転された音声信号を出力する音声出力部とを備えたを備えた構成を有している。
【0020】
このシステムによっても、上記と同様に、広帯域のシステム(高音質のシステム)でのノイズ付加によるマスキング効果によって、漏れ音声の音声レベルを低減して、秘話性を高めることができる。
【0021】
また本発明の通信システムは、前記ノイズカット部の動作/非動作の制御は、前記送信装置から前記音声信号に重畳されるトーン信号の制御信号に基づいて行われる構成を有している。
【0022】
この構成により、送信装置(例えば、ワイヤレスマイク)から送信される音声信号にトーン信号が重畳され、そのトーン信号により受信装置を制御するための制御信号が搬送される。受信装置(例えば、スピーカ装置)は、この制御信号に従って送信装置側における秘話のためのノイズの重畳/非重畳に応じて、ノイズカット部の動作を制御することができる。
【0023】
本発明の送信装置は、音声帯域より高い周波数帯域を含む広帯域の音声信号を送受信するための通信システムで用いられる送信装置であって、前記送信装置は、広帯域の音声信号が入力される音声入力部と、前記音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理を行う平衡変調部と、前記周波数が反転された音声信号のうち、所定周波数以下の帯域の信号をカットするフィルター部と、前記所定周波数以下の帯域がカットされた音声信号を送信する送信部とを備え、前記通信システムに備えられる受信装置では、前記送信装置から送信された音声信号が受信され、前記受信した音声信号の周波数を再反転させる逆平衡変調処理が行われ、前記周波数が再反転された音声信号が出力される構成を有している。
【0024】
この装置によっても、上記と同様に、広帯域のシステム(高音質のシステム)での漏れ音声の音声レベルを低減して、秘話性を高めることができる。
【0025】
本発明の受信装置は、音声帯域より高い周波数帯域を含む広帯域の音声信号を送受信するための通信システムで用いられる受信装置であって、前記通信システムに備えられる送信装置では、広帯域の音声信号が入力され、前記音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理が行われ、前記周波数が反転された音声信号のうち、所定周波数以下の帯域の信号がカットされ、前記所定周波数以下の帯域がカットされた音声信号が送信され、前記受信装置は、前記送信装置から送信された音声信号を受信する受信部と、前記受信した音声信号の周波数を再反転させる逆平衡変調処理を行う逆平衡変調部と、前記周波数が再反転された音声信号を出力する音声出力部とを備えたことを特徴とする受信装置を備えた構成を有している。
【0026】
この装置によっても、上記と同様に、広帯域のシステム(高音質のシステム)での漏れ音声の音声レベルを低減して、秘話性を高めることができる。
【0027】
本発明の通信方法は、音声帯域より高い周波数帯域を含む広帯域の音声信号を送受信するための送信装置と受信装置を備えた通信システムで用いられる通信方法であって、
前記送信装置で、広帯域の音声信号が入力され、前記音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理が行われ、前記周波数が反転された音声信号のうち、所定周波数以下の帯域の信号がカットされ、前記所定周波数以下の帯域がカットされた音声信号が送信され、
前記受信装置で、前記送信装置から送信された音声信号が受信され、前記受信した音声信号の周波数を再反転させる逆平衡変調処理が行われ、前記周波数が再反転された音声信号が出力される。
【0028】
この方法によっても、上記と同様に、広帯域のシステム(高音質のシステム)での漏れ音声の音声レベルを低減して、秘話性を高めることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、広帯域のシステム(高音質のシステム)において、受信装置から出力される漏れ音声の音声レベルを低減することができ、秘話性を高めることができるという効果を有する通信システムを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施の形態における通信システムの構成を示すブロック図
【図2】本発明の第1の実施の形態における送信装置(ワイヤレスマイク)の動作の説明図
【図3】本発明の第1の実施の形態における受信装置(スピーカ装置)の動作の説明図
【図4】本発明の第2の実施の形態における通信システムの構成を示すブロック図
【図5】本発明の第2の実施の形態における送信装置(ワイヤレスマイク)の動作の説明図
【図6】本発明の第2の実施の形態における受信装置(スピーカ装置)の動作の説明図
【図7】本発明の他の実施の形態における通信システムの構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態の通信システムについて、図面を用いて説明する。本実施の形態では、ワイヤレスマイクシステム等に用いられる通信システムの場合を例示する。
【0032】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態の通信システムの構成を、図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の通信システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、通信システム1は、送信装置としてのワイヤレスマイク2と、受信装置としてのスピーカ装置3とを備えている。この通信システム1では、広帯域(100Hz〜15kHzのオーディオ帯域)の音声信号が送受信される。なお、以下の説明では広帯域の音声信号として(100Hz〜15kHz)の場合を例に説明するが、下限がない場合すなわち( 〜15kHz)であってもよい。
【0033】
ワイヤレスマイク2は、音声信号が入力されるマイク4と、入力された音声信号を増幅するAFアンプ5と、音声信号の周波数を反転させる処理(平衡変調処理)を行う平衡変調回路6と、平衡変調処理における変調クロック周波数より高い周波数成分をカットするローパスフィルター7(LPF)と、第1の所定周波数(例えば、3kHz)以下の周波数成分をカットするハイパスフィルタ8(HPF)と、ハイパスフィルタ8の動作(オン/オフ)の切替を制御するフィルタ制御部9と、ハイパスフィルタ8の音声信号出力にトーン信号を重畳するトーン信号重畳部10と、音声信号をFM変調するFM変調回路11と、音声信号をアンテナから送信する送信部12を備えている。なお、ここでは、ハイパスフィルタ8の第1の所定周波数としてカットオフ周波数が3kHzである場合について例示したが、ハイパスフィルタ8のカットオフ周波数がこれに限定されないのは勿論である。すなわち0〜3kHzの間の任意の周波数としても構わない。例えば重低音の楽器をバックに男性音声を送信する場合は、カットオフ周波数を低く設定し、ピアノ等の高音部をバックに女性音声を送信する場合は、カットオフ周波数を高く設定するなどしてよい。
【0034】
トーン信号重畳部10で重畳されるトーン信号によって、コードキーデータが搬送される。コードキーデータを搬送するトーン信号は、ワイヤレスマイク2の主電源を入れたタイミングで1回だけ(音声信号に重畳して)送信されてもよく、あるいは、ワイヤレスマイク2の主電源が入れられている間には所定の時間間隔で(音声信号に重畳して)送信されてもよい。
【0035】
フィルタ制御部9は、秘話制御のオン/オフに基づいて、オンの場合には平衡変調回路6、LPF7およびHPF8を動作させ、オフの場合には平衡変調回路6、LPF7およびHPF8を動作させずにスルーさせる制御を行う。この制御は、通信システム1として秘話機能を使用する場合にオンし、使用しない場合にオフして用いるのが基本であるが、音声信号の音声レベルが所定の基準レベル以上になった場合に、秘話制御をオンするようにしてもよい。また、音声信号に所定の周波数成分が含まれている場合に、秘話制御をオンするようにしてもよい。これらの場合には、平衡変調後の漏れ音声成分が大きくなると考えられるためである。
【0036】
一方、スピーカ装置3は、音声信号をアンテナから受信する受信部13と、受信した音声信号をFM復調するFM復調回路14と、FM復調された信号からトーン信号を抽出するトーン信号抽出部15と、音声信号の周波数を反転させる処理(平衡変調処理)を行う平衡変調回路16と、平衡変調処理における変調クロック周波数より高い周波数成分をカットするローパスフィルター17(LPF)と、音声信号を増幅するAFアンプ18と、音声信号を出力するスピーカ19とを備えている。このスピーカ装置3の平衡変調回路16で行われる平衡変調処理は、すでに周波数が反転されている音声信号(ワイヤレスマイク2の平衡変調回路6で周波数が反転された音声信号)の周波数を再反転するものである。したがって、スピーカ装置3の平衡変調回路16で行われる平衡変調処理は、逆平衡変調処理と呼ぶこともでき、スピーカ装置3の平衡変調回路16は、逆平衡変調回路と呼ぶこともできる。
【0037】
トーン信号抽出部15は、音声信号に重畳されたトーン信号を抽出し、そのトーン信号によりワイヤレスマイク2側で秘話制御がされたことを判別すると、スピーカ装置側でも逆平衡変調およびLPF処理を行うことで正しくスピーカに音声出力ができるようにするものである。また、トーン信号により受信を希望するスピーカ装置3のコードキーデータが搬送された場合には、コードキーデータの照合を行い、コードキーデータの照合が成功すなわち、ワイヤレスマイクから受信したコードキーデータとスピーカ装置にあらかじめ備えられたコードキーデータとが実質的に一致した場合だけ、音声信号が出力されるようすることで、逆平衡回路を有した他のスピーカ装置に不正に受信されることを防ぐようにしてもよい。
【0038】
なお、トーン信号を用いてスピーカ装置3の制御信号を伝送する方法については、複数の周波数を用いてトーン信号を伝送してもよい。例えば秘話制御ONのときには、トーン信号の周波数として30トーン信号の周波数として30kHzを用い、制御信号OFFのときにはトーン信号の周波数として70Hzを用いるなどである。トーン信号伝送用の周波数は、上記周波数以外に、例えば60Hz〜80Hz、15kHz〜90kHzの間の周波数を用いることも可能である。
【0039】
また、トーン信号を用いてスピーカ装置3の制御信号を伝送する方法は、前記音声信号に重畳されるトーン信号のレベルや位相、または、前記音声信号に重畳されるトーン信号の有無などを用いても良い。トーンにレベルや位相を与える方法は、ASK(振幅シフトキーイング)、PSK(位相シフトキーイング)、FSK(周波数シフトキーイング)のほか、QAM(直交振幅変調)や、AM、PM、FM等の変調としてもよい。
【0040】
以上のように構成された通信システム1について、図面を参照してその動作を説明する。
【0041】
図2は、本実施の形態のワイヤレスマイク2の動作の説明図である。図2に示すように、本実施の形態のワイヤレスマイク2では、音声帯域(300Hz〜3kHz)を含むような広帯域の音声信号がマイク4から入力されると(図2(a)参照)、その音声信号の周波数を反転する平衡変調処理がなされる(図2(b)参照)。平衡変調後の音声信号の低域側の部分(音声帯域の部分)には、漏れ音声が含まれることがあるが、本実施の形態では、この部分(漏れ音声を含んだ部分)がハイパスフィルタ8でカットされ、漏れ音声を含まない音声信号が送信される(図2(c)参照)。なお、本実施の形態では音声帯域として(300Hz〜3kHz)を例に説明するが、下限がない場合すなわち( 〜3kHz)であってもよい。
【0042】
図3は、本実施の形態のスピーカ装置3の動作の説明図である。図3に示すように、本実施の形態のスピーカ装置3では、ワイヤレスマイク2から送信された音声信号を受信すると(図3(a)参照)、その音声信号の周波数を反転(再反転)する平衡変調処理(逆平衡変調処理)がなされ(図3(b)参照)、スピーカ19から音声として出力される。
【0043】
このような本発明の第1の実施の形態の通信システム1によれば、広帯域のシステム(高音質のシステム)において、スピーカ装置3から出力される漏れ音声の音声レベルを低減することができ、秘話性を高めることができる。
【0044】
本実施の形態では、音声帯域(例えば、300Hz〜3kHz)より高い周波数帯域を含む広帯域(例えば、100Hz〜15kHz)の音声信号が送受信される。この場合、ワイヤレスマイク2で、広帯域の音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理が行われ、その周波数が反転された音声信号のうち低域側(例えば、3kHz以下)の帯域の信号がカットされる。そのため、平衡変調後(周波数反転後)の音声信号に、平衡変調前(周波数反転前)の音声信号が「漏れ音声」として含まれる場合であっても、その周波数帯域(低域側の帯域)の信号がカットされ、スピーカ装置3から漏れ音声が出力されるのを抑えることができる。このようにして、広帯域のシステム(高音質のシステム)において、スピーカ装置3から出力される漏れ音声のレベルを低減することができ、秘話性を高めることができる。
【0045】
また、本実施の形態では、ワイヤレスマイク2から送信される音声信号にトーン信号が重畳され、そのトーン信号によりコードキーデータが搬送される。スピーカ装置3は、このコードキーデータの照合が成功した場合にのみ、音声信号を出力する。これにより、スピーカ装置3が、特定のワイヤレスマイク2(コードキーデータが一致したワイヤレスマイク2)から送信された音声信号だけを出力できるようになる。
【0046】
また、本実施の形態では、ワイヤレスマイク2で、周波数が反転された音声信号のうち低域側(例えば、3kHz以下)の帯域の信号をカットするか否かの切替えが行われる。この切替えは、音声信号の音声レベル、広帯域の音声信号に含まれる音声帯域の周波数成分などに基づいて、適切に行われる。すなわち、原音声信号の音声レベルが大きければ、平衡変調後にも漏れ音声成分が大きくなると考えられるので、低域をカットする制御を行う。また、広帯域の音声信号の中で音声帯域の周波数成分が多いときにも平衡変調後の漏れ成分を大きくなると考えられるので、低域をカットする制御を行う。
【0047】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態の通信システム1について説明する。ここでは、第2の実施の形態の通信システム1が、第1の実施の形態と相違する点を中心に説明する。ここで特に言及しない限り、本実施の形態の構成および動作は、第1の実施の形態と同様である。
【0048】
図4は、本実施の形態の通信システム1の構成を示すブロック図である。図4に示すように、本実施の形態のワイヤレスマイク2は、ハイパスフィルタ8を備えておらず、代わりに、平衡変調後の音声信号の所定の基準周波数(例えば、3kHz)以下の帯域にノイズ信号を重畳するノイズ重畳部20を備えている。ノイズ信号としては、例えば、ノイズ用の一般的な白色雑音または有色雑音に加えてメロディーや送信しようとしている音声とは異なる別の音声などが利用できる。一方、スピーカ装置3は、ワイヤレスマイク2から受信した音声信号のうち、第2の所定周波数としてカットオフ周波数(例えば、3kHz)以下の周波数成分(ノイズ信号が重畳されている部分)をカットするハイパスフィルタ21(HPF)を備えている。ハイパスフィルタ21は、ワイヤレスマイク2でノイズ重畳部20によりノイズが重畳された場合には、動作させるが、ノイズ重畳部20でノイズを重畳しない場合には動作させないこととしてもよい。この場合、スピーカ装置3のハイパスフィルタ21の動作/非動作の別は第1の実施の形態と同じく、ワイヤレスマイク2側からトーン信号等により伝送するものとする。なお、ここでは、ノイズ信号の周波数が3kHz以下である場合について例示したが、ノイズ信号の周波数がこれに限定されないのは勿論である。
【0049】
以上のように構成された通信システム1について、図面を用いてその動作を説明する。
【0050】
図5は、本実施の形態のワイヤレスマイク2の動作の説明図である。図5に示すように、本実施の形態のワイヤレスマイク2では、音声帯域(300kHz〜3kHz)を含むような広帯域の音声信号がマイク4から入力されると(図5(a)参照)、その音声信号の周波数を反転する平衡変調処理がなされる(図5(b)参照)。平衡変調後の音声信号の低域側の部分(音声帯域の部分)には、漏れ音声が含まれることがあるが、本実施の形態では、この部分(漏れ音声を含んだ部分)にノイズ信号が重畳され、漏れ音声がマスキングされた音声信号が送信される(図5(c)参照)。
【0051】
図6は、本実施の形態のスピーカ装置3の動作の説明図である。図6に示すように、本実施の形態のスピーカ装置3では、ワイヤレスマイク2から送信された音声信号を受信すると(図6(a)参照)、その音声信号のうち第2の所定周波数であるカットオフ周波数(例えば、3kHz)以下の周波数成分(ノイズ信号が重畳されている部分)がカットされる(図6(b)参照)。その後、音声信号の周波数を反転(再反転)する平衡変調処理(逆平衡変調処理)がなされ(図6(c)参照)、スピーカ19から音声として出力される。
【0052】
このような本発明の第2の実施の形態の通信システム1によっても、第1の実施の形態と同様の作用効果が奏される。つまり、広帯域のシステム(高音質のシステム)において、スピーカ装置3から出力される漏れ音声の音声レベルを低減することができ、秘話性を高めることができる。
【0053】
本実施の形態では、ワイヤレスマイク2で、周波数が反転された音声信号のうち低域側(例えば、3kHz以下)の帯域にノイズ信号が重畳される。そのため、平衡変調後(周波数反転後)の音声信号に、平衡変調前(周波数反転前)の音声信号が「漏れ音声」として含まれる場合であっても、その周波数帯域(低域側の帯域)の信号がノイズ信号によって聴感上でマスキングされ、スピーカ装置3から出力される漏れ音声を聞き取りにくくすることができる。このようにして、広帯域のシステム(高音質のシステム)において、スピーカ装置3から出力される漏れ音声をマスキングすることができ、秘話性を高めることができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を例示により説明したが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において目的に応じて変更・変形することが可能である。
【0055】
例えば、図7には、本発明の他の実施の形態が示される。図7に示すように、この実施の形態では、第1の実施の形態と第2の実施の形態を組み合わせた構成となっている。このような通信システム1によっても、第1の実施の形態や第2の実施の形態の作用効果が奏される。なお、トーン信号重畳部とノイズ重畳部の順序は、図示の逆順であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のように、本発明にかかる通信システムは、広帯域のシステム(高音質のシステム)において、受信装置から出力される漏れ音声の音声レベルを低減することができ、秘話性を高めることができるという効果を有し、ワイヤレスマイクシステム等として有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 通信システム
2 ワイヤレスマイク
3 スピーカ装置
4 マイク
5 AFアンプ
6 平衡変調回路
7 ローパスフィルター
8 ハイパスフィルタ
9 フィルタ制御部
10 トーン信号重畳部
11 FM変調回路
12 送信部
13 受信部
14 FM復調回路
15 トーン信号抽出部
16 平衡変調回路
17 ローパスフィルター
18 AFアンプ
19 スピーカ
20 ノイズ重畳部
21 ハイパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声帯域より高い周波数帯域を含む広帯域の音声信号を送受信するための送信装置と受信装置を備えた通信システムであって、
前記送信装置は、
広帯域の音声信号が入力される音声入力部と、
前記音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理を行う平衡変調部と、
前記周波数が反転された音声信号のうち、第1の所定周波数以下の帯域の信号をカットするフィルター部と、
前記第1の所定周波数以下の帯域がカットされた音声信号を送信する送信部と、
を備え、
前記受信装置は、
前記送信装置から送信された音声信号を受信する受信部と、
前記受信した音声信号の周波数を再反転させる逆平衡変調処理を行う逆平衡変調部と、
前記周波数が再反転された音声信号を出力する音声出力部と、
を備えたことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記送信装置は、前記周波数が反転された音声信号のうち、第2の所定周波数以下の帯域にノイズ信号を重畳させるノイズ重畳部を備え、
前記受信装置は、前記受信した音声信号のうち、前記第2の所定周波数以下の帯域の信号をカットするノイズカット部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記送信装置は、前記送信部により送信される音声信号に、前記受信装置を制御するための制御信号を含んだトーン信号を重畳するトーン信号重畳部を備え、
前記受信装置は、前記トーン信号により伝送される前記制御信号に基づき前記逆平衡変調部または前記ノイズカット部の動作の制御を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記送信装置は、前記制御信号としてコードキーデータをトーン信号に重畳し、
前記受信装置は、前記トーン信号により搬送されたコードキーデータの照合が成功した場合に、前記音声出力部から前記音声信号を出力するコードキーデータ照合部を備えたことを特徴とする請求項3に記載の通信システム。
【請求項5】
前記送信装置は、前記平衡変調部の動作/非動作または前記音声信号の音声帯域のレベルまたは広帯域の音声信号に含まれる音声帯域の周波数成分の大きさに基づいて、前記フィルター部により前記第2の所定周波数以下の帯域の信号をカットするか否かの切替えを行うとを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の通信システム。
【請求項6】
音声帯域より高い周波数帯域を含む広帯域の音声信号を送受信するための送信装置と受信装置を備えた通信システムであって、
前記送信装置は、
広帯域の音声信号が入力される音声入力部と、
前記音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理を行う平衡変調部と、
前記周波数が反転された音声信号のうち、所定周波数以下の帯域にノイズ信号を重畳させるノイズ重畳部と、
前記ノイズ信号が重畳された音声信号を送信する送信部と、
を備え、
前記受信装置は、
前記送信装置から送信された音声信号を受信する受信部と、
前記受信した音声信号のうち、前記所定周波数以下の帯域の信号をカットするノイズカット部と、
前記受信した音声信号の周波数を再反転させる逆平衡変調処理を行う逆平衡変調部と、
前記周波数が再反転された音声信号を出力する音声出力部と、
を備えたことを特徴とする通信システム。
【請求項7】
前記ノイズカット部の動作/非動作の制御は、前記送信装置から前記音声信号に重畳されるトーン信号の制御信号に基づいて行われることを特徴とする請求項6に記載の通信システム。
【請求項8】
音声帯域より高い周波数帯域を含む広帯域の音声信号を送受信するための通信システムで用いられる送信装置であって、
前記送信装置は、
広帯域の音声信号が入力される音声入力部と、
前記音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理を行う平衡変調部と、
前記周波数が反転された音声信号のうち、所定周波数以下の帯域の信号をカットするフィルター部と、
前記所定周波数以下の帯域がカットされた音声信号を送信する送信部と、
を備え、
前記通信システムに備えられる受信装置では、前記送信装置から送信された音声信号が受信され、前記受信した音声信号の周波数を再反転させる逆平衡変調処理が行われ、前記周波数が再反転された音声信号が出力されることを特徴とする送信装置。
【請求項9】
音声帯域より高い周波数帯域を含む広帯域の音声信号を送受信するための通信システムで用いられる受信装置であって、
前記通信システムに備えられる送信装置では、広帯域の音声信号が入力され、前記音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理が行われ、前記周波数が反転された音声信号のうち、所定周波数以下の帯域の信号がカットされ、前記所定周波数以下の帯域がカットされた音声信号が送信され、
前記受信装置は、
前記送信装置から送信された音声信号を受信する受信部と、
前記受信した音声信号の周波数を再反転させる逆平衡変調処理を行う逆平衡変調部と、
前記周波数が再反転された音声信号を出力する音声出力部と、
を備えたことを特徴とする受信装置。
【請求項10】
音声帯域より高い周波数帯域を含む広帯域の音声信号を送受信するための送信装置と受信装置を備えた通信システムで用いられる通信方法であって、
前記送信装置で、広帯域の音声信号が入力され、前記音声信号の周波数を反転させる平衡変調処理が行われ、前記周波数が反転された音声信号のうち、所定周波数以下の帯域の信号がカットされ、前記所定周波数以下の帯域がカットされた音声信号が送信され、
前記受信装置で、前記送信装置から送信された音声信号が受信され、前記受信した音声信号の周波数を再反転させる逆平衡変調処理が行われ、前記周波数が再反転された音声信号が出力されることを特徴とする通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−109830(P2012−109830A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257610(P2010−257610)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】