説明

通信システムにおいてデータパケット内の検出不可能な誤りを最小にする方法

【課題】パケット内の検出不可能な誤りが、各パケット内のCRCを検証し、CRCフラグを0にセットして成功を示し、CRCフラグを1にセットして失敗を示すことによって最小にされる。
【解決手段】パケットのセット内の少なくとも1つのパケットが失敗した場合、パケットごとに、失敗したパケットを、CRC検証に合格した1つのパケットと比較することによって誤りパターンEを生成し、この誤りパターンを既知の誤りパターンのセットと比較する。次に、差が所定の閾値未満の場合、CRCフラグを0にセットして成功を示し、各パケットのペイロードおよびCRCをアプリケーションに送信し、そうでない場合、CRCフラグを1にセットして失敗を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、包括的にはデジタル通信に関し、より詳細には、データパケット内の検出不可能な誤りを最小にすることによる、輸送システムなどのセーフティアプリケーションにおける信頼性のある通信に関する。
【背景技術】
【0002】
セーフティアプリケーション内の通信システムは、高い信頼性を要求する。検出不可能な誤りの確率Pueが低いことを保証するために、多くの場合に誤り検出符号が用いられる。巡回冗長検査(CRC)は1つの一般的な誤り検出符号である。本明細書において、用語CRCは、符号並びにこの符号を生成および検証する機能の双方のために用いられる。
【0003】
図1は、セーフティアプリケーション105のための従来の通信システム101を示している。セーフティアプリケーションは、エレベータシステム、航空機などの輸送システム、または高い信頼性を必要とする任意の他のシステムに組み込むことができる。
【0004】
アプリケーション105によってペイロード110が生成される。送信機102がCRCを生成し、このCRCをパケット内のペイロードに付加する。パケット111は符号化されて、符号化パケット112にされる。符号化パケット112は変調されて、変調パケット113にされ、変調パケット113は雑音のあるチャネル104を通して送信される。
【0005】
受信機103は変調された受信パケット123を受信し、この受信パケットを復調して復調パケット122にする。復調パケットは誤り訂正復号器によって復号され、復号パケット121にされる。復号パケットはCRC検証を通される。CRCが成功すると、CRCフラグ128は0にセットされ、ペイロードおよびCRCフラグがアプリケーション105に渡される。誤りが検出されると、CRCフラグ129は1にセットされ、受信機によって、再送信要求などの適切な動作がとられる。この場合、アプリケーションは誤りを含むペイロードを受信しない。
【0006】
CRCは、確率Pueが0であることを保証することができない。線形誤り検出符号の場合、ペイロード内の誤りパターンが有効な符号語であるとき、検出不可能な誤りが発生する可能性がある。
【0007】
検出不可能な誤りは稀ではあるが、セーフティアプリケーションにおいて極度に有害であり、危険なオペレーションおよび大惨事を引き起こす可能性がある。したがって、検出不可能な誤りの確率Pueを最小にするように通信システムを設計することが極めて重要である。
【0008】
高い信頼性および低いパケット損失率を提供する通信システムは、通常、時間領域、周波数領域、空間領域、および/または符号領域における冗長送信を用いる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来から、受信機は、送信のうちの少なくとも1つがCRCに合格した場合、パケット配信を成功とみなす。パケット配信は、すべての送信および再送信が成功しなかった場合にのみ失敗する。
【0010】
そのようなメカニズムは、高い確率Pueに起因して、セーフティアプリケーションに必要とされる要件を満たしていない場合がある。
【0011】
したがって、セーフティアプリケーションにおいて、通信システムにおける検出不可能な誤りの確率Pueを最小にすることが所望されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の実施の形態は、パケットのセットから受信した情報を組み合わせて、セーフティアプリケーションとともに用いられる通信システムにおける受信パケット内の検出不可能な誤りの確率Pueを最小にする方法を提供する。この発明の実施の形態は、高い信頼性を必要とする他のシステムにおいても遂行可能なことが理解される。
【0013】
受信パケットのセットがCRCに合格した場合、受信機はすべてのパケットのCRCを比較してCRCが一致することを保証する。
【0014】
いくつかのパケットが成功し、少なくとも1つのパケットが失敗した場合、受信機は、成功したパケットから失敗したパケットの誤りパターンを生成し、失敗したパケットのパターンを既知の誤りパターンのセットと比較して検出不可能な誤りの確率を求める。検出不可能な誤りの確率が正しい受信の確率よりも大きい場合、ペイロードはアプリケーションに渡されず、CRCが1にセットされて、アプリケーションに対し受信の失敗を示す。そうではなく、CRCが検証された場合、CRCフラグが0にセットされ、ペイロードおよびCRCフラグがアプリケーションに渡される。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、セーフティアプリケーションとともに用いられる通信システムにおける受信パケット内の検出不可能な誤りの確率Pueを最小にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来のセーフティアプリケーションにおける通信システムの概略図である。
【図2A】この発明の実施の形態1による、双方の送信が成功したときの受信の概略図である。
【図2B】この発明の実施の形態1による、双方の送信が失敗したときの受信失敗の概略図である。
【図3】この発明の実施の形態1による、1つの送信が成功し、1つの送信が失敗したときの受信の概略図である。
【図4】この発明の別の実施の形態1による、1つの送信が成功し、1つの送信が失敗したときの受信の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この説明を簡単にするために、セーフティアプリケーションにおける通信システム内の受信機にパケットのセットを送信するための、対応する第1の送信および対応する第2の送信を伴う2つのパケットのセットを用いる。受信機において、復号パケットのセットは、パケットrおよびパケットrを含む。パケットの更なる送信を用いることができること、すなわち、セットは3つ以上のパケットを含むことができることが理解される。各パケットはペイロードおよび巡回冗長検査(CRC)を含む。いくつかの用途において、パケット内のビットが送信間で変化する可能性があること、たとえば再送信フラグがセットされるか、またはシーケンス番号がインクリメントされることも理解される。
【0018】
図2Aに示すように、双方の復号パケットrおよびr内のCRCを検証することができる(
【数1】

)。受信機は、2つのパケットのCRCを比較する(210)。同一である場合、受信機はフラグを0にセットし、ペイロードおよびCRCフラグをアプリケーションに渡す。異なる場合、受信機はフラグを1にセットし、パケット配信は失敗し、CRCフラグのみがアプリケーションに渡される。
【0019】
パケットの3つ以上の送信および再送信の場合、多数決に従って訂正を行うことができる。
【0020】
図2Bに示すように、双方の復号パケットがCRC検証に失敗する(X)場合、受信機はCRCフラグを1にセットし、パケット配信は失敗し、CRCフラグのみがアプリケーションに渡される。
【0021】
図3に示すように、一方の送信がCRC検証に失敗し(X)、他方の送信がCRCに合格する。すなわち、CRCはセット内の少なくとも1つのパケットにおいて検証することができない。受信機は最初に、CRC検証に失敗したパケットごとに、このCRC検証に失敗したパケットと、CRC検証に合格したパケットとを比較する(399)ことによって誤りパターンEを生成する。復号メッセージが2値数列である場合、この比較は2つのパケット内のビットの排他的OR(XOR)によって実行することができる。
【0022】
誤りパターンEは既知の誤りパターンのセット{T}と比較される。ここで、下付きのインデックスは範囲[0,K]内にある。Tは全ゼロパターンであり、他のK個のパターンは、所定の値jよりも小さな重みを有するすべての有効な符号語を含む。
【0023】
比較することによって、誤りパターンと既知の誤りパターンとの間の差が本質的に求められる。差は、距離または確率として表すことができる。距離が、アプリケーションによってセットされた所定の閾値未満である場合、検証は成功し、そうでない場合、検証は失敗する。
【0024】
距離に基づく差
1つの実施形態では、誤りパターンE310と既知の誤りパターンT311との間の距離Dが、すべてのx∈[0,K]について求められる(320)。ここで、D=‖E−T‖である。ハミング距離またはレーベンシュタイン距離などの多数の距離測定が当該技術分野において既知である。
【0025】
距離Dが最小距離である場合、受信機は成功を示し、CRCフラグを0にセットし、ペイロードおよびCRCフラグをアプリケーションに渡す。Dが最小距離より大きい場合、受信機は失敗を宣言し、CRCフラグを1にセットし、CRCフラグのみをアプリケーションに渡す。
【0026】
確率に基づく差
復号器が軟出力を生成することが可能である場合、復号シーケンスrおよびrは、2値数列の代わりに実数列とすることができる。比較器399によって軟誤りパターンE310を計算することができる。次に、条件付き確率Pr(T|E)を求めることができる。条件付き確率Pr(T|E)が最大確率である場合、受信機は成功を宣言し、フラグを0にセットし、ペイロードおよびCRCフラグをアプリケーションに渡す。Pr(T|E)が最大確率未満である場合、受信機は失敗を宣言し、CRCフラグを1にセットし、CRCフラグのみをアプリケーションに渡す。
【0027】
例として、軟誤りパターンEをガウス分布としてモデリングすることができる場合、Pr(T|E)は以下のように書くことができる。
【0028】
【数2】

【0029】
ここで、E(n)はEのn番目の要素であり、T(n)はTのn番目の要素であり、σはEの分散である。
【0030】
図4は、この発明の別の実施形態を示しており、チャネルコーディングに系統的な符号が用いられている場合、復調パケット122は、CRC検証に失敗したパケットの場合の比較器399への入力として直接用いることができる。CRC検査に合格したパケットの場合、復号されたペイロードが比較器399への他方の入力である。同様に、軟誤りパターンEを比較器によって生成することができる。
【0031】
いくつかの用途では、パケットのペイロード内の或る特定のビット(フィールド)は送信間で変化すること、たとえば再送信フラグがセットされるか、またはシーケンス番号がインクリメントされることが知られている。そのような場合、2つの復号パケットを直接比較することは不可能である。しかし、ペイロード内の変更されたビットの数は通常非常に少なく、またそれらのビットは確定しており既知であるので、受信機は復号パケットを取得し、それに従って既知のビットを変更し、CRCを再生成して変更されたパケットを生成することができる。次に、受信機は変更されたパケットと失敗したパケットとを比較して、誤りパターンEを生成する。
【0032】
セット{T}内の符号語は、以下の観測に基づいて選択される。CRCは線形符号であり、したがって、2つの有効な符号語cの差もまた有効な符号語である。すなわち、ci,j≡c−c∈Cである。したがって、検出不可能な誤りを有する復号パケットは基本的に、元の符号語に誤りを含む符号語を重ね合わせたものであり、これも有効な符号語である。
【0033】
ρをビット誤り確率とすると、Pue
【数3】

である。ここで、wは重みdを有するCRC符号語の数であり、NはCRC符号長であり、dminは符号語の最小距離である。ρが小さい場合、Pueはj以下の重みを有する符号語によって決定付けられ、すなわち以下となる。
【0034】
【数4】

【0035】
ここで、jの値に依拠して、δは任意に小さくすることができる。
【0036】
j以下の重みを有する符号語の総数は非常に限られている。様々なCRCの重み分布は当業者に既知である。最も一般的に用いられるCRC長は、9ビット(CRC−8)、17ビット(CRC−16)、33ビット(CRC−32)、および65ビット(CRC−64)である。
【0037】
したがって、jを超えない重みを有するすべてのCRC符号語を選択することによって、既知の誤りパターンのセット{T}を構築することができる。jの重み上限は、用途によって指定される確率Pueに基づいて選択される。
【0038】
この発明を好ましい実施の形態の例として説明してきたが、この発明の趣旨および範囲内で様々な他の適応および変更を行うことができることは理解されたい。したがって、添付の特許請求の範囲の目的は、この発明の真の趣旨および範囲内に入るすべての変形および変更を包含することである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アプリケーションの通信システムの受信機において受信されるパケットのセット内の検出不可能な誤りを最小にする方法であって、前記各パケットはペイロードおよび巡回冗長検査(CRC)を含み、前記方法は、
パケットのセットを受信するステップと、
前記各パケット内の前記CRCを検証するステップと、
前記各CRCが検証された場合、CRCフラグを0にセットして成功を示し、前記各パケットの前記ペイロードおよび前記CRCフラグを前記アプリケーションに渡す、セットして渡すステップと、
すべての前記パケットが前記検証に失敗した場合、前記CRCフラグを1にセットして前記検証の失敗を示し、前記CRCフラグのみを前記アプリケーションに渡す、セットして渡すステップと、
を含み、前記パケットのセット内の少なくとも1つのパケットが前記検証に失敗した場合、
前記CRC検証に失敗した前記パケットごとに、前記CRC検証に失敗した前記各パケットを前記CRC検証に合格した1つのパケットと比較することによって誤りパターン(E)を生成するステップと、
前記誤りパターンを既知の誤りパターンのセット{T}と比較するステップであって、ここで、下付きのインデックスは範囲[0,K]内にあり、Tは全ゼロパターンであり、他のK個のパターンは、所定の値未満の重みを有するすべての有効な符号語を含む、比較するステップと、
差が所定の閾値未満である場合、CRCフラグを0にセットして成功を示し、前記各パケットの前記ペイロードおよび前記CRCフラグを前記アプリケーションに渡し、そうでない場合、前記CRCフラグを1にセットして前記検証の失敗を示し、前記CRCフラグのみを前記アプリケーションに渡す、セットして渡すステップと、
をさらに含み、前記ステップは前記受信機において実行される、アプリケーションの通信システムの受信機において受信されるパケットのセット内の検出不可能な誤りを最小にする方法。
【請求項2】
前記生成するステップは、前記CRC検証に失敗した前記パケットと、前記検証に合格した前記1つのパケットとの間の排他的ORによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記既知の誤りパターンのセットは、全ゼロパターン、および所定の値以下の重みを有する前記ペイロードに対応するすべての有効な符号語を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記差は、前記失敗したパケットの前記誤りパターンと前記既知の誤りパターンのセットとの間の距離である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記差は、前記失敗したパケットの前記誤りパターンと、前記既知の誤りパターンのセットとの間の条件付き確率である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記条件付き確率は
【数1】

であり、ここで、Tは前記既知の誤りパターンのセットであり、Eは前記検証に失敗した前記パケットの前記誤りパターンであり、nは前記既知の誤りパターンのセットへのインデックスであり、σはEの分散である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記各パケット内の、変化することが知られている前記ペイロード内のビットを変更するステップと、
前記変更されたペイロードの前記CRCを再生成して変更されたパケットを生成する、再生成するステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−170062(P2012−170062A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−22033(P2012−22033)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【出願人】(597067574)ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド (484)
【住所又は居所原語表記】201 BROADWAY, CAMBRIDGE, MASSACHUSETTS 02139, U.S.A.
【Fターム(参考)】