説明

通信システム及び基地局装置

【課題】IA技術のように、複数のセルが協調してセル間干渉を抑圧する場合の制御情報のやり取り等を効率良く行うことを目的とする発明を提供する。
【解決手段】基地局装置と少なくとも1つの端末装置とが無線通信を行う通信エリアが複数存在し、前記複数の通信エリアが隣接又は重複し合う通信システムであって、各通信エリアにおいて、少なくとも1つの他の通信エリアにおける通信状況を考慮して通信を行う協調制御が行われる場合に、前記複数の通信エリアのうち1つの通信エリア内の基地局装置が、前記協調制御を開始するための情報を別の通信エリア内の基地局装置に通知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局装置と少なくとも1つの端末装置とが無線通信を行う通信エリアが複数存在し、前記複数の通信エリアが隣接又は重複し合う通信システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
全てのセルで同一周波数を用いて通信を行う、1セル繰り返しのセルラシステムは、周波数利用効率を高め、各セルの最大伝送速度を向上させることが可能となることから、近年の標準規格として採用されている。しかし、隣接セル同士で同一周波数を用いることから、隣接セルから到来する干渉の影響により、特にセルエッジに位置する端末装置の通信品質が劣化するという問題がある。
【0003】
このような、1セル繰り返しのセルラシステムにおける有効な干渉低減方法としてInterference Alignment(IA)が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。IAは、干渉源となる複数の送信装置(例えば、基地局装置)から到来する干渉信号の等価伝搬路の向き(ベクトル)が、受信装置(例えば、端末装置)において受信信号に乗算する受信ウェイトに直交するように、各送信装置と各受信装置が協調して送信ウェイトと受信ウェイトを算出し、それらを用いた送受信を行う技術であり、このような制御を行うことにより、受信装置において除去可能な数(自由度)以上の干渉信号が隣接セルから到来する場合にも、それらの干渉信号を除去し、受信信号から所望信号を高精度に抽出することが可能となる。
【0004】
ここでは、複数の基地局装置から到来する干渉信号が各セルの端末装置において除去可能となるように制御する場合を例としているが、逆に、複数セル内にそれぞれ位置する複数の端末装置から到来する干渉信号が各セルの基地局装置において除去できるように制御することも可能である。
【0005】
また、このような技術を、マクロセル内に複数のピコセルやフェムトセルが存在するシステムにおいて、それらゾーン半径の異なるセル間の干渉を低減するために用いることもできる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】”Approaching the Capacity of Wireless Networks through Distributed Interference Alignment”, IEEE GLOBECOM 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載のIA技術は、複数のセルの基地局装置と端末装置が協調して、互いに与えるセル間干渉を抑圧できるような送受信ウェイトをそれぞれ用いることにより、送受信装置が有する自由度を最大限に活用し、効率良く通信を行う技術である。このようなIA技術を実際のセルラシステム等に適用する場合には、複数の基地局装置及びそれら各基地局装置とそれぞれ通信を行う複数の端末装置が、どのように協調するかという手順を予め決めておく必要がある。
【0008】
しかし、元々はそれぞれ独立に動作する複数のセルの送受信装置が対象となることから、導入する手順によっては、効率の低下や、干渉の抑圧が効果的に行えないといった問題が生じることが考えられる。
【0009】
上述した課題に鑑み、IA技術のように、複数のセルが協調してセル間干渉を抑圧する場合の制御情報のやり取り等を効率良く行うことを目的とする発明を提供する。また、IA技術に限らず、セル間干渉の抑圧を複数セル間で協調して行う、その他の技術にも適用可能な発明を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題に鑑み、本発明の通信システムは、
基地局装置と少なくとも1つの端末装置とが無線通信を行う通信エリアが複数存在し、前記複数の通信エリアが隣接又は重複し合う通信システムであって、
各通信エリアにおいて、少なくとも1つの他の通信エリアにおける通信状況を考慮して通信を行う協調制御が行われる場合に、
前記複数の通信エリアのうち1つの通信エリア内の基地局装置が、前記協調制御を開始するための情報を別の通信エリア内の基地局装置に通知することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の通信システムにおいて、
前記協調制御を開始するための情報を通知する基地局装置は、各通信エリアの通信状況に応じて選択されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の通信システムにおいて、
前記協調制御を開始するための情報を通知する基地局装置は、予め決められた順番で前記複数の通信エリアから選択されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の通信システムにおいて、
前記協調制御を行う通信エリアの最大数が予め設定されており、その数を表わす情報を各基地局装置が保持していることを特徴とする。
【0014】
本発明の基地局装置は、
隣接又は重複し合う複数の通信エリアのそれぞれにおいて、少なくとも1つの端末装置と無線通信を行う基地局装置であって、
各通信エリアにおいて、少なくとも1つの他の通信エリアにおける通信状況を考慮して通信を行う協調制御が行われる場合に、
前記協調制御を開始するための情報を別の通信エリアの基地局装置に通知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
IA技術のように、複数のセルが協調してセル間干渉を抑圧する場合の制御情報のやり取り等を効率良く行うことが可能となり、実際のシステムにおいてセル間干渉抑圧技術の効果を引き出すことができる。したがって、複数のセルが同一周波数を用いて通信を行う場合にも、それぞれのセルにおいてセル間干渉を効果的に抑圧し、良好な受信特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態における全体を説明するための図である。
【図2】第1実施形態における基地局装置の処理の流れを説明するための図である。
【図3】第1実施形態における基地局装置の処理の流れを説明するための図である。
【図4】第1実施形態における端末装置の処理の流れを説明するための図である。
【図5】第1実施形態における基地局装置の構成を説明するための図である。
【図6】第1実施形態における端末装置の構成を説明するための図である。
【図7】第2実施形態における全体を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0018】
[1.第1実施形態]
[1.1 全体説明]
本発明を適用した第1実施形態では、複数のセル内にそれぞれ基地局装置(セル内の通信を制御する制御装置)と端末装置が存在し、各セルにおいて基地局装置と端末装置がそれぞれ通信を行うセルラシステムを対象とする。このようなシステムの一例を図1に示す。
【0019】
図1は、セル1〜5の5つのセルにおいて、それぞれ基地局装置と端末装置が通信する様子を表わしている。以下では、このようなセルラシステムにおいて、各セルの基地局装置及び端末装置が協調してIA技術を用いる場合の制御手順について示す。
【0020】
図1に示すように、本実施形態では、5つ又はそれ以下の複数のセルが、互いに干渉し合わないように協調して通信を行うシステムを対象としているが、通常のセルラシステムでは、各セルはそれぞれ独立に動作するものであることから、協調制御を開始するためには特別な手順が必要となる。ここでは、ある1つのセルが他のセルに対して協調制御を開始する旨を通知し、他のセルがその通知に対する応答を行うといった手順により、制御が開始されるものとする。
【0021】
ここで、協調制御を開始する旨を他セルに通知するセルを「主導セル」、主導セルからの通知に対して応答するセルを「協調セル」と呼ぶものとし、主導セルと協調セルのそれぞれの基地局装置の動作を図2に示す。但し、ここでは協調セルのフローは1つであるが、実際には、協調セルは複数あるものとする。
【0022】
図2のS100、S101に示すように、本実施形態では、最初の時点では主導セルと協調セルと区別することなく各セルが動作しているものとする。
【0023】
[1.2 処理の説明]
まず、本実施形態における処理の流れについて説明する。図2は、基地局装置に関する処理を記載した図である。
【0024】
まず、各セルの基地局装置は、自身が管理するセル内の端末装置から、受信品質に関する情報を定期的又は不定期的に取得する(ステップS100)。但し、ここでの受信品質とは、受信SINR(Signal to Interference plus Noise power Ratio)等、干渉(セル間干渉)に関する要素が含まれた数値であるものとする。
【0025】
そして、各端末装置から通知された受信品質と予め決められた閾値との比較を行う(ステップS101)。この比較の結果、受信品質が閾値以下と判断された場合には(ステップS101;Yes)、ステップS102に進み、このセルは主導セルとして動作することとなる。一方、受信品質が閾値より大きいと判断された場合には(ステップS101;No)、ステップS111に進み、このセルは主導セルではないセル(協調セル)として動作することとなる。
【0026】
このように、本実施形態では、端末装置から報告される受信品質に応じて、主導セルになるか否かが決定されるが、これは、本実施形態で対象とするIA技術のような協調制御技術は、セル間干渉の影響が大きい場合に、その効果を発揮する技術であることから、特に、干渉の影響が大きいセルが他のセルに対して協調制御を呼び掛け、それを開始することにより、干渉の影響により劣化している受信品質を改善することが可能となるためである。
【0027】
但し、端末装置から報告される受信品質に応じて主導セルになるか否かを基地局装置が決定するだけでなく、基地局装置自身における受信品質に基づいて、そのような決定を行ってもよい。また、端末装置が基地局装置に対し、主導セルとなるようにリクエストする情報を通知し、その情報を受信した基地局装置が主導セルとして動作するといった制御でもよい。また、閾値以下の受信品質となる、セル内の端末装置数が一定数を超えた際に主導セルとして動作するようにしてもよい。
【0028】
これらの基準により、主導セルとして動作することとなったセルの動作について以下に示す。ステップS101の判断の結果、主導セルとなったセルは、周辺のセルに協調制御依頼通知を送信する(ステップS102)。これは、周辺セルに対して、協調制御の開始を依頼する通知であり、ここでは、この通知を受け取ったセルは協調制御の開始に同意し、協調セルとなるものとする。このような基地局装置間での情報のやり取りは基本的には有線経由で行うものとするが、これに限らず、無線通信によって行うものとしてもよい。
【0029】
ここで、協調制御依頼通知は、基本的にはどのセルに対して通知してもよいが、通常は、周辺の数セルに対して通知する。例えば、図1において、セル3が主導セルとなった場合には、周囲のセル1、2、4、5の基地局装置に対して協調制御依頼の通知を行うこととなる。
【0030】
図2のS102では、最大協調セル数分のセルに協調制御依頼通知を送信する例である。最大協調セル数とは、協調制御依頼通知を送信する相手先のセル数である。この場合、最大協調セル数は予め決めておいてもよいし、状況に応じて変更されるものとしてもよい。また、最大協調セル数以下の任意のセル数分にだけ協調制御依頼の通知を行ってもよい。最大協調セル数を予め決めておく場合には、セルの大きさやセルがどのような環境に位置するかによって、設定する最大協調セル数を調整してもよい。
【0031】
例えば、セル半径が一定値以上の場合には、最大協調セル数を多く、セル半径が一定値以下の場合には、最大協調セル数を少なく設定しておくといった調整である。また、マクロセルでは最大協調セル数を多くし、ピコセル等の小さいセルでは最大協調セル数を少なく設定しておいてもよい。
【0032】
さらに、市街地に位置するセルでは最大協調セル数を多く設定しておき、郊外に位置するセルでは最大協調セル数を少なく設定するといった調整も可能である。そして、このようにセル(主導セル)の大きさや環境等に応じてそれぞれ設定された最大協調セル数分のセルに対して、主導セルは協調制御依頼の通知を行うこととなる。
【0033】
但し、このように最大協調セル数がセル毎に決められている場合には、協調制御を行う複数セルのうち、最大協調セル数が最小となるセルに合わせた制御を行うことが好ましく、それぞれの最大協調セル数に関する情報をセル間で予め共有しておくのがよい。
【0034】
つまり、最大協調セル数に関する情報をセル間で通知し合ったり、オペレータの集中制御局等から通知されたりすることとなる。このようにセル毎に最大協調セル数を決めておくのに対して、ある程度の数のセルをまとめてセル群として扱い、セル群毎に最大協調セル数を決めておいてもよい。この場合には、セル群に属するセルの最大協調セル数は、そのセル群で決められた数となる。
【0035】
また、状況に応じて最大協調セル数が変更される場合の例としては、予め何段階かの最大協調セル数の候補が決められていて、周辺セルの通信状況や、通信対象となる端末装置の受信アンテナ数等の機能に応じて、その候補の中から適宜最大協調セル数を選択するといったものが考えられる。この場合には、周辺セルの通信状況や、周辺セルにどのような機能の端末装置が存在するかを、事前に把握しておくことにより、主導セルは効率良く最大協調セル数を選択することができる。
【0036】
このように、最大協調セル数分のセルへ協調制御依頼通知を送信した後に、その通知に対する応答が各セルから返送されてくるため、他セルからその応答通知(協調制御応答通知)を取得する(ステップS103)。
【0037】
この応答通知を取得することにより、協調制御依頼通知を送った相手先のセルが協調通知に同意したことが確認でき、それらのセルを協調セルとして設定する(ステップS104)。
【0038】
そして、どのセルが協調セルとして動作するかを示す情報(協調セル情報)を、全ての協調セルに向けて送信する(ステップS105)。これは、それぞれの協調セルは、どのセルが主導セルであるかを認識できているものの、他のどのセルが協調セルであるかということは認識できていないことから、主導セルがその情報を通知し、協調制御を行うすべてのセルを認識させるためである。
【0039】
この場合、協調セルのセルID等を主導セルが全ての協調セルに通知することにより、全ての協調セルで情報を共有することができる。また、この協調セル情報は、主導セル内の端末装置宛にも送られる。
【0040】
次に、主導セルでは、本実施形態で対象とするIA技術のような協調制御を行うために必要となる伝搬路情報を取得する必要があり、伝搬路を端末装置に推定させるための伝搬路推定用信号を送信する(ステップS106)。この伝搬路推定用の信号は、いずれの協調セルとも重複しないように送信される既知の信号であり、この信号を受信した各セルの端末装置は主導セルの基地局装置との間の伝搬路をそれぞれ推定することができる。
【0041】
ここで、各セルの端末装置は、協調セルの基地局装置との間の伝搬路も推定している(後述のステップS115の説明参照)。そして、主導セルの基地局装置は、各端末装置と各基地局装置との間の伝搬路に関する情報を取得する(ステップS107)。この場合、主導セルの基地局装置は、主導セル内の端末装置において推定された伝搬路に関する情報を、該端末装置から直接取得する。
【0042】
また、主導セルの基地局装置は、協調セル内の端末装置において推定された伝搬路情報も、協調セルの基地局装置経由で取得する(後述するステップS116及びS117の説明参照)。これは、協調セル内の端末装置において推定された伝搬路情報が、それぞれの協調セルの基地局装置に通知され、それらの基地局装置から主導セルの基地局装置へ通知することにより行うことができる。
【0043】
ここで、IA技術のような協調制御を行う場合に必要となる伝搬路情報は、各端末装置において、協調制御を行う全ての基地局装置との間の伝搬路変動を推定した結果であり、各端末装置は主導セル、協調セルの基地局装置との間の伝搬路変動を推定して、その結果を自身が接続している基地局装置に通知する必要がある。
【0044】
この場合、各端末装置は、どのセルが協調制御を行うセルであるかを、主導セルの基地局装置から送られた協調セル情報により把握するものとする。但し、協調セル内の端末装置は、主導セルから協調セルに送られた情報を、協調セルの基地局装置がセル内の端末装置向けに送信することで、協調セル情報を得ることができる。
【0045】
このように、全ての伝搬路情報を取得した主導セルの基地局装置は、それらの情報を用いた送受信ウェイトの算出を行う(ステップS108)。ここで、本実施形態で主に対象としているIA技術では、干渉源となる複数の送信装置(例えば、基地局装置)から到来する干渉信号の等価伝搬路の向き(ベクトル)が、受信装置(例えば、端末装置)において受信信号に乗算する受信ウェイトに直交するように送受信ウェイトを算出することとなる。
【0046】
この算出方法としては、幾つかの方法が提案されているが、送受信装置のペアが3組以上である場合には、繰り返しアルゴリズムにより算出する方法が一般的である。本実施形態は、IA技術やそれに類似する協調制御技術を行う際の制御手順に関するものであり、それらの制御を行う際のウェイトの詳細な算出方法に関するものではないため、ここでは、IA技術におけるアルゴリズムのうち、最も基本的なものを図3に示す。
【0047】
なお、Hkjはセルjの基地局装置とセルkの端末装置(協調制御の対象となる端末装置)との間の伝搬路変動を、Hjk’はセルkの端末装置とセルjの基地局装置との間の伝搬路変動をそれぞれ表わしている。また、vは送信ウェイトをuは受信ウェイトをそれぞれ表わしており、Qは受信する干渉信号の共分散行列である。また、Pは送信電力、dは送信するストリーム数、Kは協調制御の対象となるセル数である。
【0048】
まず、i=0に設定し(ステップS200)、任意の送信ウェイトvを設定する(ステップS201)。続いて、以下の数式1に基づいて、Qを算出する(ステップS202)。
【数1】

【0049】
次に、Qを特異値分解し、uを算出する(ステップS203)。続いて、v’=uとし、Hjk’=Hkjとする(ステップS204)。その後、以下の数式2に基づいて、Q’を算出する(ステップS205)。
【数2】

【0050】
続いて、Q’を特異値分解し、u’を算出する(ステップS206)。そして、v=u’を代入し(ステップS207)、iに1を加算する(ステップS208)。ここで、iの値が閾値を超えていれば処理を終了し(ステップS209;Yes→ステップS210)、超えていなければ処理をステップS202から繰り返し実行する。
【0051】
このように図3に示すアルゴリズムは、伝搬路の双対性、つまり、基地局装置から端末装置の伝搬路行列の複素共役転置行列が、端末装置から基地局装置の伝搬路行列となるという性質を利用して、送信と受信の役割を入れ替えながら干渉の影響ができるだけ小さくなるようなウェイトを求めるものである。
【0052】
送信と受信の役割を入れ替えるというのは、ステップS202、ステップS203では、基地局装置が送信装置、端末装置が受信装置として動作する場合の演算を行い、ステップS205、ステップS206では、端末装置が送信装置、基地局装置が受信装置として動作する場合の演算を行うことにより実現することができる。
【0053】
そして、ステップS203、ステップS206では、干渉の共分散行列Qを特異値分解して得られる左特異ベクトルのうち、小さい特異値に対応するものをストリーム数分選択してウェイトuとしている。
【0054】
このように、小さい特異値に対応するウェイト(干渉電力が小さくなるようなウェイト)を用いるようにウェイトを繰り返し更新していくため、予め決められた繰り返し回数後には、干渉の影響を抑圧することができるウェイトが得られる。このように得られたvを送信ウェイト、uを受信ウェイトとして用いることにより、複数のセルが協調して干渉の影響を抑圧することができる。但し、このアルゴリズムは一例であり、この他のアルゴリズムを用いてもよい。
【0055】
このように主導セルで算出されたそれぞれの送受信ウェイトは、図2のステップS109に示すように、協調セルや主導セル内の端末装置に制御情報としてそれぞれ通知される(ステップS109)。このような通知を行うことにより、主導セルで一括して算出した送受信ウェイトを協調セルでも把握し、データ伝送時に用いることができる(ステップS110)。この制御情報には、送受信ウェイトに関する情報の他に、算出した送受信ウェイトを用いるタイミング等に関する情報を含めてもよい。
【0056】
以上のような手順により、受信品質が劣悪なセルが主導セルとなって、周辺セルに協調制御の実施を呼び掛け、各協調セルから集めた伝搬路情報を基に送受信ウェイトを求めて各セルに通知することが可能となり、複数のセルが協調して干渉を抑圧可能なデータ伝送を行うことができる。
【0057】
他方、ステップS101で受信品質が閾値より大きいと判断された場合には(ステップS101;No)、ステップS111に進み、このセルは主導セルではないセルとして動作することとなる。
【0058】
この場合、他セル(主導セル)から協調制御依頼通知を受信した場合には協調セルとして、協調制御依頼通知を受信しない場合には、協調制御を行わない通常のセルとしてそれぞれ動作する。
【0059】
まず、他セルから協調制御依頼通知を受信(取得)し、協調セルとして動作する場合には、主導セルの依頼に対する応答通知(協調制御応答通知)を返送する(ステップS112)。その後、どのセルが協調セルであるかを示す協調セル情報が主導セルから送られてくるため、その協調セル情報を受信し、協調セル情報から、例えば協調セルのセルID等を取得する(ステップS113)。そして、この協調セル情報を自セル内の端末装置に通知する(ステップS114)。
【0060】
次に、端末装置に伝搬路を推定させるための伝搬路推定用信号を送信する(ステップS115)。この伝搬路推定用の信号は、主導セルや協調セルのいずれとも重複しないように送信される既知の信号であり、協調セル情報を通知された端末装置は、どのセルが協調制御を行うセルかを把握することができるので、伝搬路推定用信号を基に、それらのセルの基地局装置(主導セルを含む)との間の伝搬路を推定することができる。
【0061】
このように、端末装置は、各セルの基地局装置(主導セルを含む)との間の伝搬路を推定した後に、伝搬路情報を該基地局装置に通知する。協調セルの基地局装置では、それぞれセル内の端末装置が通知する伝搬路情報を取得し(ステップS116)、取得した伝搬路情報を主導セルに通知する(ステップS117)。このように協調セルのそれぞれが伝搬路情報を主導セルに通知することにより、主導セルで一括して送受信ウェイトを求めることができる。そして、主導セルで算出された送受信ウェイトに関する情報が協調セルに通知されるため、主導セルからその制御情報を取得する(ステップS118)。そして、主導セル並びに全ての協調セルと同じリソースにおいて、主導セルで算出された送受信ウェイトを用いたデータ伝送を行う(ステップS119)。
【0062】
また、ステップS111において、協調制御依頼通知を受信しない場合には(ステップS111;No)、協調制御を希望するセル(主導セル)が周辺に存在しないということであるため、ステップS120に示すように、通常のデータ伝送、つまり、本実施形態で対象とする協調制御を行わずにデータ伝送することとなる。
【0063】
以上のような手順により、受信品質が閾値以上であるセルは協調セルとなって、主導セルからの呼び掛けに応じて協調制御を行うことができる。そして、各セルで推定された伝搬路に基づいて主導セルが一括して算出した送受信ウェイトを用いることにより、複数のセルが協調して干渉を抑圧可能なデータ伝送を行うことができる。
【0064】
次に、本実施形態における端末装置の動作を図4を用いて説明する。本実施形態では、主導セルと協調セルというセルの役割の違いがあるものの、いずれのセルに属する端末装置も同じ動作をするものとする。
【0065】
図4に示すように、端末装置は定期的又は不定期的に受信品質に関する情報を、それぞれが属するセルの基地局装置に送信する(ステップS300)。そして、図2のステップS105やステップS114に示すように、基地局装置から協調セル情報が送信されるため、この情報を取得する(ステップS301)。
【0066】
続いて、この協調セル情報を基に、どのセルが協調制御を行うセルであるかを認識し、次に各基地局装置から送信される伝搬路推定用信号を受信する(ステップS302)。そして、伝搬路推定用信号を受信した際に、どの伝搬路推定用信号がどの基地局装置から送られたものか識別した上で伝搬路推定を行う(ステップ303)。
【0067】
次に、推定した伝搬路変動に関する情報を、それぞれが属するセルの基地局装置に送信する(ステップS304)。この伝搬路情報を用い、図3に示すようなアルゴリズムによって、協調制御を行う際の送受信ウェイトが主導セルの基地局装置において算出され(図2のステップS108)、算出されたウェイトに関する情報が制御情報として送信されるため(図2のステップS109)、各端末装置はこの制御情報を受信する(ステップS305)。
【0068】
但し、協調セルに属する端末装置は、主導セルの基地局装置から協調セルの基地局装置に通知された制御情報を、協調セルの基地局装置経由で受信することとなる。そして、算出された送信ウェイトを用いたデータ伝送が各セルにおいて行われるため、これらの信号を受信し、制御情報で通知された受信ウェイトを用いて信号の合成を行う。これにより、制御情報に基づくデータ受信が行われる(ステップS306)。
【0069】
以上のような制御を行うことにより、本実施形態における協調制御を行う際に必要となる伝搬路情報を基地局装置に通知し、その伝搬路情報を基に算出された、協調制御のための受信ウェイトを用いてデータ信号を受信することができる。これにより、他セルからの干渉を抑圧することが可能となり、隣り合う複数のセルで同一周波数帯を用いた伝送を行う場合にも、良好な受信品質を確保することができる。
【0070】
[1.3 装置構成]
次に、本実施形態における基地局装置の装置構成を図5に示す。但し、送信アンテナ数は4とし、主導セルと協調セルの基地局装置は同じ構成であるものとする。図5に示すように、本実施形態における基地局装置は、上位層100と、変調部101と、送信ウェイト乗算部102と、D/A部103−1〜4と、無線部104−1〜4、108と、送信アンテナ部105−1〜4と、伝搬路推定用信号生成部106と、受信アンテナ部107と、A/D部109と、受信部110と、品質判定部111とを備えて構成される。ここで、受信アンテナ数は1となっているが、これに限らず、何本のアンテナを備えるようにしてもよい。また、送信アンテナと受信アンテナを共用する構成としてもよい。
【0071】
図5の基地局装置では、図2のステップS100に示す受信品質に関する情報は、受信アンテナ部107で受信した信号を無線部108において周波数変換し、A/D部109でA/D変換した後に受信部110で取得される。
【0072】
そして、図2のステップS101は品質測定部111において行われる。この判定結果は上位層100に通知され、図2のステップS102に進むか、図2のステップS111に進むかの判断が行われる。そして、主導セルではステップS102以降、協調セルではステップS111以降の処理が行われることとなるが、これらのうち、セル間で行う情報交換に関しては、有線ネットワークを経由して行うものとする。
【0073】
また、端末装置との間での情報交換に関しては、無線通信により行うものとし、上位層100におけるデータは変調部101にて変調され、送信ウェイト乗算部102を経由して、D/A部103−1〜4でアナログ信号に変換、無線部104−1〜4で無線周波数に変換された後に、送信アンテナ部105−1〜4から送信される。但し、制御情報を送信する際には、送信ウェイト乗算部102では、送信ウェイトの乗算は行われない。
【0074】
一方、データ信号を送信する場合(図2のステップS110、S119)には、ステップS108で算出された送信ウェイトの乗算が送信ウェイト乗算部102において行われることとなる。
【0075】
ここで、主導セルの上位層100には、受信アンテナ部107や有線ネットワークから伝搬路情報が集められ、送受信ウェイトの算出が行われるものとする。また、伝搬路推定用の信号は、伝搬路推定用信号生成部106において生成されて送信される。また、最大協調セル数等の情報は上位層100において保持されるものとし、このような情報をセル間でやり取りする場合には、有線ネットワーク経由で行うものとする。
【0076】
次に、本実施形態における端末装置の装置構成を図6に示す。但し、受信アンテナ数は4とし、主導セル、協調セルのいずれに属する場合でも同じ端末装置構成であるものとする。図6に示すように、本実施形態における端末装置は、受信アンテナ部200−1〜4と、無線部201−1〜4、210と、A/D部202−1〜4と、信号分離部203と、受信ウェイト乗算部204と、復調部205と、上位層206と、伝搬路推定部207と、送信部208と、D/A部209と、送信アンテナ部211とを備えて構成される。ここで、送信アンテナ数は1となっているが、これに限らず、何本のアンテナを備えるようにしてもよい。また、送信アンテナと受信アンテナを共用する構成としてもよい。
【0077】
図6の端末装置では、受信アンテナ部200−1〜4、無線部201−1〜4を介して受信された信号をA/D部202−1〜4にてA/D変換された後に、信号分離部203に入力される。ここで、図4のステップS302に示す伝搬路推定用信号を受信した場合には、信号分離部203において受信信号を伝搬路推定部207へ出力し、伝搬路推定を行う。この伝搬路推定の際には、基地局装置から通知され、復調等の処理が行われて上位層に保持されている協調セル情報を基に、協調制御を行う対象となるセルの基地局装置との間の伝搬路を適切に推定することとなる。そして、伝搬路推定結果は送信部208に入力され、基地局装置向けに送信される。
【0078】
但し、協調セル情報の受信時には、協調セル情報に付加された復調用伝搬路推定信号を用いて、伝搬路推定部207で推定された伝搬路変動を基に算出される受信ウェイトを用いる。
【0079】
また、この伝搬路推定部207では、受信信号の電力(伝搬路のノルム)等を算出することもでき、これを受信品質として基地局装置にフィードバックすることができる(図4のステップS300に対応)。また、基地局装置から送られる、受信ウェイトに関する情報を含む制御情報も、復調等の処理の後、上位層206から受信ウェイト乗算部204に送られ、データ伝送時の受信ウェイトとして用いられる。
【0080】
一方、データ信号を受信した場合(図4のステップS306)、信号分離部203において、データ信号を受信ウェイト乗算部204へ出力し、受信ウェイト乗算部204において、信号分離部203から入力されたデータ信号と上位層206から入力された受信ウェイトの乗算が行われ、復調部205において復調しデータ信号を得る。
【0081】
このような構成とすることにより、本実施形態における協調制御を行う際に必要となる伝搬路情報を基地局装置に通知し、その伝搬路情報を基に算出された、協調制御のための受信ウェイトを用いてデータ信号を受信することができる。
【0082】
ここで、本実施形態では、受信品質に応じて主導セルとなるか否かが決定されるものとしていが、受信品質だけでなく、セルのトラフィックに応じて主導セルとなるか否かを決定してもよい。これは例えば、セルのトラフィックが閾値以上となっているセルが主導セルとして動作するといったことである。また、接続する端末装置数が一定数を超えた際に主導セルとして動作するようにしてもよい。
【0083】
また、この実施形態では、協調制御依頼通知を受け取ったセルの基地局装置は、協調制御応答通知を主導セルへ送り、協調セルとなる例について示したが、協調制御依頼通知を受け取った場合でも常に協調セルになる必要はない。
【0084】
これは、例えば、自セルにおける受信品質が非常に良いセルでは、自セルのことだけを考えると、主導セルからの依頼に応じて協調セルとして動作する必要が特にないといったことである。
【0085】
このようなセルは、主導セルから通知される協調制御依頼を拒否する応答を返送するような手順を設けてもよい。また、セル間干渉とは別の原因により受信品質が悪いセルについても、周辺セルと協力するメリットが少ないため協調制御依頼を拒否しても構わない。
【0086】
さらに、自セルのトラフィックが非常に低いセルにおいても、周辺セルと協力するメリットが少なく、また、他セルへ与える干渉もそれほど多くないものと考えられるため、協調制御依頼を拒否するようにしてもよい。このような場合には、協調制御に同意する応答通知ではなく、協調制御を拒否する応答通知の送信を図2のステップS112において行う。そして、その後、ステップS120に進み、セル単独でのデータ伝送を適宜行うこととなる。
【0087】
また、協調制御を拒否する応答通知を受け取った主導セルの基地局装置では、図2のステップS104において該当セルを協調セルに設定せず、協調制御に同意する応答通知を送ってきた、その他のセルのみを協調セルに設定して、以降の処理を行う。
【0088】
以上のような制御を行うことにより、協調セルとして動作するか否かを各セルの基地局装置自身が決定することができ、各セルの状況に応じた通信を実現することができる。また、このように協調制御を拒否する場合に、拒否する期間を表わす情報を応答通知に付加して送るようにしてもよい。このように拒否する期間を予め伝えておくことにより、何度も協調制御依頼通知、応答通知をやり取りする状況を回避することができる。
【0089】
また、協調制御応答通知として、拒否する期間を表わす情報を送るようにしてもよい。この場合、協調制御に同意する場合には、拒否する期間をゼロとすればよい。また、主導セルの基地局装置から送られる協調制御依頼に幾つかの段階を設けるようにしてもよい。これは、依頼度合いの強弱を表わす段階で、例えば、強、弱(又は2,1)の2段階に分かれるといったものである。
【0090】
ここで、主導セルが、依頼度合いが強の協調制御依頼通知を送った場合には、その通知を受け取った協調セルの基地局装置は協調制御を拒否することはできず、依頼度合いが弱の場合には、協調セルの基地局装置は自セルの状況に応じて協調制御を拒否することができるものとする。
【0091】
この依頼度合いは協調制御依頼を通知する相手先のセルに応じて異なるようにしてもよい。例えば、セル1には依頼度合いが弱の依頼通知を、セル2には依頼度合いが強の依頼通知を送るといったこともできる。また、ここでは、依頼度合いの段階を2段階としたが、それ以上の段階を設けて、より細かい制御を行うようにしてもよい。
【0092】
また、上記はセルの状況に応じて協調制御を拒否する場合について述べたが、複数の主導セルから協調制御依頼通知が送られてきた場合にも、それら複数の依頼に対して同時に同意することはできないため、いずれかの依頼を拒否する手順が必要となる。これは、最初の協調制御依頼通知のみを受け入れ、その後に受け取った協調制御依頼通知に対しては拒否するといった制御を行えばよい。つまり、協調制御依頼通知に対して同意する応答通知を送った後、その協調制御が終わるまでの間は、別の協調制御依頼通知に対して拒否するということとなる。この場合、先に述べたように、拒否する期間、つまり、現在の協調制御が終わるまでの時間を別の主導セルに通知するようにしてもよい。
【0093】
また、拒否する理由を応答通知に付加して返送してもよい。これは、例えば、受信品質が高い、トラフィックが非常に低い、別の協調制御を行っている等、協調制御依頼通知に対して拒否する理由を予め決めて数値等で表わしておき、その数値を主導セルに通知するといった制御となる。このように、拒否する理由を通知することにより、そのセルの状況を別の主導セルに伝えることが可能となり、状況を把握できた主導セルでその後の制御を効率良く行うことができる。
【0094】
また、どのセルを協調セルとするか、主導セルが選択するようにしてもよい。これは、本実施形態では、周囲のセルに対して協調制御依頼通知を送信するという説明を行ったが、実際には、協調制御を行うことができるセル数は限られており、多くのセルと協調制御を行うことができるわけではない。したがって、できるだけ効率良く、良好な特性を得るためには、有効な協調相手を見つけて制御の依頼を行う必要がある。そこで、主導セルが周辺セルの中から幾つかのセルを選択し、選択されたセルに対して協調制御依頼の通知を行うようにしてもよい。
【0095】
ここで、選択の基準としては、主導セルに対して高い電力の干渉を与えているセルであることや、逆に、主導セルが高い電力の干渉を与えていること等が挙げられる。したがって、このような基準に基づくセルの選択を行う場合には、事前に互いの干渉電力に関する情報等のやり取りが必要となる。そこで、受信品質やセル間で互いに与え合う干渉電力に関する情報を各セルで交換し合うようにしてもよいし、また、OI(Overload Indication)、HII(High Interference Indication)、RNTP(Relative Narrowband Tx Power)といった、セル間で交換される情報に基づいた制御を行うようにしてもよい。ここで、OI、HII、RNTPといった情報は、LTE(Long Term Evolution)システムにおいて採用されているものである。
【0096】
このうち、OIは周辺のセルから受ける干渉レベルをリソースブロック毎に周辺セルへ通知するものであり、高い干渉レベルを示すOIを受け取ったセルは、隣接セルに高い干渉を与えている可能性が高いものと考えられ、そのようなセルが主導セルとなり、OIを通知してきたセルを協調セルとして選択するといった制御が可能となる。また、OIを通知する方のセルが主導セルとなって、OIの通知先のセルを協調セルとするようにしてもよい。この時、OIと共に協調制御依頼通知を送るようにしてもよい。
【0097】
また、HIIは、セルエッジに位置し、高い送信電力で送信を行う端末装置を割り当てるリソースブロックの位置を隣接セルに通知するためのものであり、この情報を受け取った隣接セルは、そのリソースブロックに端末装置を割り当てないようにスケジューリングを行うことが可能となる。このような情報を、協調セルの選択に用いる場合、HIIを受け取り、隣接セルが高い送信電力で送信を行う端末装置を割り当てようとしていることを把握できたセルが主導セルとなり、その隣接セルを協調セルとして選択するといったことが考えられる。また、HIIを通知する方のセルが主導セルとなって、HIIの通知先のセルを協調セルとするようにしてもよい。この時、HIIと共に協調制御依頼通知を送るようにしてもよい。
【0098】
RNTPはダウンリンクの送信電力が閾値よりも低いか否かをリソースブロック毎に表わす情報である。この情報を受け取ったセルは、隣接セルにおける送信電力を把握することが可能となるため、それを考慮したスケジューリングを行うことが可能となる。このような情報を、協調セルの選択に用いる場合、RNTPを受け取り、隣接セルが高い送信電力で送信を行おうとしていることを把握できたセルが主導セルとなり、その隣接セルを協調セルとして選択するといったことが考えられる。また、RNTPを通知する方のセルが主導セルとなって、RNTPの通知先のセルを協調セルとするようにしてもよい。この時、RNTPと共に協調制御依頼通知を送るようにしてもよい。
【0099】
また、本実施形態では、協調制御応答通知とは別に、各セル(協調セル)の伝搬路変動に関する情報を主導セルに返送するものとして記載されているが、これとは異なり、伝搬路変動に関する情報を主導セルに通知することが、協調制御依頼に同意することを示す情報であるものとして扱ってもよい。
【0100】
[2.第2実施形態]
第1実施形態では、各セルの状況に応じて主導セルや協調セルとしてそれぞれ動作する例について示したが、先に述べたように、この場合には複数のセルが主導セルとなり、異なる主導セルが同じセルに協調制御依頼通知を送るといった状況も生じるものと考えられる。このような場合に、第1実施形態では、最初に協調制御依頼通知を送った主導セルとの協調制御を行い、それ以外の主導セルからの依頼は拒否する制御について示した。ここでは、このような制御とは異なり、近くに位置する複数のセルが同時に主導セルとなる状況をできるだけ回避するための制御について示す。
【0101】
まず、複数のセルをセル群としてまとめて扱い、セル群の中で主導セルとして動作するのは1セルのみというように予め決めておくという方法がある。これにより、近くに位置し、同じセル群を構成する複数のセルが同時に主導セルとして動作を開始する状況を回避することができる。
【0102】
但し、セル群を構成する各セルがそれぞれ独立に、主導セルとして動作するか否かを判断しないようにする必要があるが、このためには、主導セルとなる権利を順次隣接セルに渡していく方法を用いることが考えられる。これは、主導セルとなる権利を保持しているセルの基地局装置のみが主導セルとして動作を開始することができ、セル群を構成するその他のセルは主導セルとして動作することはできないというものである。
【0103】
主導セルとなる権利を保持している基地局装置は、自セルの状況又は周辺セルの状況を考慮して、主導セルとして協調制御を開始するか否かの判断を行う。そして、協調制御を行う場合には図2のステップS102以降に示す制御を行い、協調制御を行わない場合には、主導セルとなる権利を隣接セルに渡してステップS120の処理に進む。つまり、この権利を取得したからといって必ずしも主導セルとして動作する必要はない。そして、主導セルとなる権利を渡されたセルの基地局装置は、また同様の制御を行うこととなる。
【0104】
このような、主導セルとなる権利を基地局装置間で受け渡す方法をポーリング、実際に受け渡す情報をポーリングパケットと呼んでもよい。このポーリングパケットは、セルラシステムの基地局装置同士のように有線ネットワークで接続されている装置間では、その有線ネットワーク経由での受け渡しを行えばよく、無線LANシステムのように装置同士が有線接続されていない場合には、無線通信により受け渡しを行えばよい。
【0105】
また、このポーリングパケットを基地局装置間で受け渡すのは、予め決められた時間間隔(定期的)であってもよいし、適応的に行うようにしてもよい。定期的である場合には、例えば、ポーリングパケットを取得して、協調制御を開始してから、予め決められたフレーム数の伝送が終わった後に、ポーリングパケットを次の基地局装置に渡すような制御となる。
【0106】
また、ポーリングパケットを次の基地局装置に渡すまでのフレーム数を基地局装置毎に異なるように設定してもよい。一方、間隔が適応的である場合には、ポーリングパケットを次の基地局装置に渡すタイミングを基地局装置毎に判断することとなり、例えば、セル内のトラフィックが一定以下になった時や、協調制御によるデータ伝送の対象となる端末装置の通信が終了した時に、ポーリングパケットの受け渡しを行うといった制御となる。但し、定期的、不定期的であるかに関わらず、協調制御を行う必要がないと判断した場合には、ポーリングパケットをすぐに次の基地局装置に渡すようにしてもよい。
【0107】
ポーリングパケットの受け渡し先となるセルの選択については、セル群に属するセルの中からランダムに選択してもよいし、セルID等の情報に基づいて選択してもよい。また、予め決められた順番でポーリングパケットをやり取りするようにしてもよいし、ポーリングパケットと共に、これまでのポーリングの履歴を示す情報を次の基地局装置に送るものとし、その履歴に基づいてポーリングパケット送付先となる基地局装置を選択するようにしてもよい。特に、これまでにポーリングパケットを受け取ったことがない基地局装置が存在する場合には、その基地局装置へ優先的にポーリングパケットを送るようにしてもよい。
【0108】
このような制御を行うことにより、近くに位置する複数のセルが主導セルとして動作を開始する状況を回避することができる。
【0109】
また、セル群を構成するセルのうち、あるセルを主導セルとして固定するようにしてもよい。主導セルとして固定するセルは、セル群の中央付近に位置するセルであることが望ましく、自セル及びセル群全体の状況を考慮しながら協調制御を行うか否かを判断するようにしてもよい。また、図7に示すように、セル半径の大きいマクロセルの中に、セル半径の小さいピコセル(又はフェムトセル)が複数存在するヘテロジーニアスネットワークと呼ばれるシステムでは、マクロセルが主導セルとして動作するようにしてもよい。
【0110】
この場合、マクロセルは自セルの状況やピコセルの状況を考慮して協調制御を行うか否か判断することとなる。但し、主導セルとして動作するからといって、マクロセル自身も協調制御の対象となり、送信ウェイトを用いた伝送を行う必要はない。マクロセルは複数のピコセルを集中的に管理する仲介役のような位置づけで動作するようにしてもよい。
【0111】
さらに、本実施形態においても、第1実施形態において述べたように、最大協調セル数を予め設定しておき、その数以下のセルの基地局装置へ協調制御依頼の通知を送るようにしてもよい。また、本実施形態における基地局装置や端末装置の構成は、第1実施形態と同じもので実現することができる。
【0112】
[3.変形例]
上記の実施の形態において、添付図面に図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0113】
また、上述の実施形態では、基地局装置から端末装置へのデータ伝送、つまり、ダウンリンクの伝送を対象として説明を行ったが、これに限らず、端末装置から基地局装置へのデータ伝送にも適用可能である。但し、その場合にも、主導セルの基地局装置が送受信ウェイトを一括して算出する制御を行うのが効率的である。
【0114】
また、主にセルラシステムについての説明を行ったが、これに限らず、無線LANシステム等にも適用可能である。その場合には、隣接し、同一周波数帯を用いる無線LANシステムのいずれかのAP(Access Point)が主導セルの基地局装置の役割を果たし、残りのシステムのAPが協調セルの基地局装置の役割を果たすこととなる。ここで、セルラシステムを対象とする場合には、基地局装置間の情報交換は有線ネットワーク経由で行うものとしていたが、無線LANシステムのAP同士は有線ネットワークで直接的に接続されていないため、無線通信によってAP間の情報交換を行うようにしてもよい。つまり、協調制御依頼通知、協調制御応答通知、最大協調セル数に関する情報、伝搬路情報等が無線伝送されることとなる。
【0115】
また、上述の実施形態では、複数セルにおける協調制御の一例として、IA技術を対象とした制御手順について説明を行ったが、いずれの実施形態における手順もIA技術に限らず、その他の協調制御技術、特に、受信側から通知された伝搬路変動に関する情報に基づいて、少なくとも送信側のウェイトを制御する技術を用いる際に適用可能である。これは、隣接し、同一周波数を用いるセルやシステム(無線LANシステム等)の受信装置への干渉を抑圧するような送信ウェイトを、各送信装置において送信信号に乗算するといった技術である。具体的な送信ウェイトとしては、隣接セル又はシステムへの受信装置への干渉を完全に抑圧するZF(Zero Forcing)基準により算出されたウェイトや、雑音の成分についても考慮し、SINRを最大化することができるMMSE(Minimum Mean Square Error)基準により算出されたウェイト等があり、各セル又はシステムの送信装置が、隣接セル又はシステムの受信装置に互いに干渉を与え合わないように、これらの送信ウェイトを用いるものとする。
【0116】
この場合には、図2におけるステップS108は、送信ウェイトのみを算出するように変更され、図3に示すアルゴリズムの代わりに上記ウェイトを算出するための演算が行われる。但し、この場合の送信ウェイト算出は主導セルで一括して行う必要はなく、各セルの基地局装置でそれぞれ行うことも可能である。
【0117】
ここで例えば、自局と3つの隣接するセル又はシステムが存在する環境においてZF基準によりウェイトの算出を行う場合に、通信相手先の受信装置から通知された伝搬路がH、隣接するセル又はシステムの受信装置から通知された伝搬路がそれぞれH、H、Hであるものとすると、送信ウェイトは([H−1のようになる。このような送信ウェイトを各送信装置が用いてデータ伝送を行うことにより、隣接する受信装置への干渉を抑圧する協調制御を行うことができる。
【0118】
また、本実施形態で説明した機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。尚、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0119】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
【0120】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また前記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【符号の説明】
【0121】
10,11,12,13,14 基地局装置
100 上位層
101 変調部
102 送信ウェイト乗算部
103−1〜103−4 D/A部
104−1〜104−4 無線部
105−1〜105−4 送信アンテナ部
106 伝送路推定用信号生成部
107 受信アンテナ部
108 無線部
109 A/D部
110 受信部
111 品質判定部
20,21,22,23,24 端末装置
200−1〜200−4 受信アンテナ部
201−1〜201−4 無線部
202−1〜202−4 A/D部
203 信号分離部
204 受信ウェイト乗算部
205 復調部
206 上位層
207 伝搬路推定部
208 送信部
209 D/A部
210 無線部
211 送信アンテナ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局装置と少なくとも1つの端末装置とが無線通信を行う通信エリアが複数存在し、前記複数の通信エリアが隣接又は重複し合う通信システムであって、
各通信エリアにおいて、少なくとも1つの他の通信エリアにおける通信状況を考慮して通信を行う協調制御が行われる場合に、
前記複数の通信エリアのうち1つの通信エリア内の基地局装置が、前記協調制御を開始するための情報を別の通信エリア内の基地局装置に通知することを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記協調制御を開始するための情報を通知する基地局装置は、各通信エリアの通信状況に応じて選択されることを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項3】
前記協調制御を開始するための情報を通知する基地局装置は、予め決められた順番で前記複数の通信エリアから選択されることを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項4】
前記協調制御を行う通信エリアの最大数が予め設定されており、その数を表わす情報を各基地局装置が保持していることを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項5】
隣接又は重複し合う複数の通信エリアのそれぞれにおいて、少なくとも1つの端末装置と無線通信を行う基地局装置であって、
各通信エリアにおいて、少なくとも1つの他の通信エリアにおける通信状況を考慮して通信を行う協調制御が行われる場合に、
前記協調制御を開始するための情報を別の通信エリアの基地局装置に通知することを特徴とする基地局装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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