説明

通信システム

【課題】通信線のインピーダンスが低下しても通信できるようにしつつ、電源装置から通信線への給電が停止しても通信を継続することができる通信システムを提供する。
【解決手段】通信端末T1は、通信線W上に信号を送出する第1送信部Tx1、第2送信部Tx2と、他の通信端末T1から信号を受信する第1受信部Rx1、第2受信部Rx2と、信号の送信方式を切り替える通信方式切替部13とを備える。第1送信部Tx1は電流信号を通信線Wに送出する。第1受信部Rx1は、第1送信部Tx1から送出された電流信号が電流電圧変換部4により変換されてなる電圧信号を受信する。第2送信部Tx2は通信信号を電圧信号として通信線Wに送出する。第2受信部Rx2は第2送信部Tx2から送信された電圧信号を受信する。通信方式切替部13は、第1送信部Tx1で送信を行う電流送信方式と、第2送信部Tx2で送信を行う電圧送信方式とを切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2線式の通信線に接続される複数台の通信端末と、通信線の2線間に電圧を印加する電源装置とを備えた通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、通信線(伝送路)に対して親機(伝送ユニット)および複数台の通信端末(子機)が接続され、各通信端末と親機との間で通信を行う通信システムが知られている。この種の通信システムの一例として、親機が定期的に通信端末の状態を監視し、通信端末の状態に変化があった場合、その状態変化に対応する処理を行うように親機から他の通信端末に信号を送るものがある(たとえば特許文献1〜3参照)。
【0003】
ただし、上記構成では、通信端末同士は常に親機を介して通信を行うものであって、親機が通信端末に対してポーリングを行うため通信速度が遅く、たとえばアナログ量のように比較的データ量の多い情報の伝送には不向きである。また、親機の故障時などにシステム全体が停止してしまうため、通信システムとしての信頼性が低いという問題もある。
【0004】
これに対して、通信線に接続された通信端末同士がピア・ツー・ピア(P2P)で直接通信を行うように構成され、通信速度を向上させることで比較的データ量の多い情報も伝送可能とした通信システムが提案されている。この通信システムでは、親機を電源装置として用い、1台の親機から通信線を介して複数台の通信端末に電力供給を行うライン給電方式を採用することが一般的である。
【0005】
ところで、上述のように通信端末同士が直接通信を行う通信システムでは、2線式の通信線に複数台の端末(親機、通信端末)が接続されるから、各端末の入力インピーダンスが通信線を介して並列接続されることとなる。したがって、通信端末間で電圧信号を用いた通信を行うためには、通信線に接続する端末のインピーダンスを高くする必要がある。たとえば親機は電源装置として機能するために平滑コンデンサなどを出力段に具備し、比較的低いインピーダンスを示す。このような端末に関しては、通信線との間に電圧信号に対して高インピーダンスとなる高インピーダンスモジュール(図示せず)を接続し、信号成分に対する入力インピーダンスを高くする必要がある。仮に、高インピーダンスモジュールを接続し忘れていると、通信線のインピーダンスが低下し通信端末同士の通信が成立しなくなる可能性がある。
【0006】
以上のことから、上記通信システムの導入に当たっては、現場の状況の調査などに手間がかかり、施工業者の負担が大きくなるため、通信システムを容易に導入できないという問題がある。
【0007】
そこで、通信端末の送信部を、通信線に接続し、電源装置としての親機から通信線を介して流れ込む電流を変化させることで電流信号を通信線上に送出するように構成することが考えられる。この場合、通信端末の受信部は、送信部から送出された電流信号が親機と通信線との間に設けた電流電圧変換部にて電圧信号に変換されたものを受信するように構成される。
【0008】
これにより、通信端末からの信号の送出は電流信号で行われ、通信端末での信号の受信は、電流信号を電流電圧変換部にて変換した電圧信号で行われることになる。このように通信端末からの送出信号を電流信号としたことで、通信線のインピーダンスが低下しても通信可能となる。結果的に、通信システムの導入に当たっては、現場の状況の調査などの手間が軽減され、施工業者の負担が小さくなって、通信システムの導入が容易になるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第1180690号公報
【特許文献2】特許第1195362号公報
【特許文献3】特許第1144477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述したように通信装置から電流信号が送信される電流送信方式を適用する場合、電源装置としての親機から通信線の2線間に電圧が印加されていることが必須となる。そのため、親機の故障やメンテナンスにより親機から通信線への給電が停止すると、この通信線に接続された全ての通信端末が通信不能となる不都合を生じる。
【0011】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであって、通信線のインピーダンスが低下しても通信できるようにしつつ、電源装置から通信線への給電が停止しても通信を継続することができる通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、2線式の通信線に接続される複数の通信端末と、通信線の2線間に電圧を印加する電源装置とを備えた通信システムであって、通信線上の電流変化を抵抗成分での電圧降下により通信線上の電圧変化に変換する電流電圧変換部を備え、通信端末が、送信すべき情報に基づいて通信信号を生成する信号生成部と、通信線に接続され通信信号の変化に応じて通信線から流れ込む電流を変化させることにより電流信号を通信線に送出する第1送信部と、通信線に接続され通信信号を電圧信号として通信線に印加する第2送信部と、第1送信部から送出された電流信号が電流電圧変換部により電圧変化に変換されてなる電圧信号を受信するとともに、第2送信部から送出された電圧信号を受信する受信部と、第1送信部により通信信号の送信を行う電流送信方式と第2送信部により通信信号の送信を行う電圧送信方式とを所定の通信切替ルールに従って切り替える通信方式切替部とを有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、通信端末は、第1送信部により電流信号にて通信信号の送信を行う電流送信方式と、第2送信部により電圧信号にて通信信号の送信を行う電圧送信方式とを切り替えて動作可能である。したがって、たとえば常時は電流送信方式として通信線のインピーダンスが低下しても通信できるようにしつつも、電源装置から通信線への給電が停止したときには電圧送信方式に切り替えることで通信を継続することができる。ここで、電流電圧変換部の抵抗成分としては抵抗素子を用いてもよいが、他に、通信線自身の特性インピーダンスや電源装置の出力インピーダンス等を抵抗成分として利用することも考えられる。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記通信端末が、前記電源装置から前記通信線を介して電力供給を受けるライン給電部と、外部電源から通信線を介さずに電力供給を受けるローカル給電部と、ライン給電部で動作電力の供給を受けるライン給電方式とローカル給電部で動作電力の供給を受けるローカル給電方式とを所定の給電切替ルールに従って切り替える給電方式切替部とをさらに有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、通信端末はライン給電方式とローカル給電方式とを切替可能となる。したがって、たとえば常時は電源装置から電力供給を受けるライン給電方式としつつも、電源装置から通信線への給電が停止したときにはローカル給電方式に切り替えることで通信を継続することができる。
【0016】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記給電方式切替部が、前記電流送信方式での動作中には前記ライン給電方式を選択し、前記電圧送信方式での動作中には前記ローカル給電方式を選択するように定められた前記給電切替ルールを用いることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、通信端末は、電流送信方式での動作中にはライン給電方式で動作し、電圧送信方式での動作中にはローカル給電方式で動作するので、通信方式に応じてそれぞれ好ましい給電方式を選択することができる。
【0018】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明において、前記電源装置が、出力が規定値を下回ると前記通信線への給電を停止する停止手段を有し、前記通信端末が、通信線上の給電状態を監視する給電監視部をさらに有し、前記通信方式切替部が、前記電流送信方式での動作中に電源装置から通信線への給電が停止すると前記電圧送信方式に切り替えるように定められた前記通信切替ルールを用いることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、電流送信方式での動作中に停電などの理由により電源装置の出力が低下し電流送信方式による通信を継続できなくなった場合、電圧送信方式に切り替わることで通信を継続することができる。
【0020】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明において、前記通信端末が、前記電源装置の電流容量から前記通信線上の電流値を差し引いて余裕値を求める容量評価部をさらに有し、前記通信方式切替部が、前記電流送信方式での動作中に容量評価部で求めた余裕値が所定値を下回ったときに前記電圧送信方式に切り替えるように定められた前記通信切替ルールを用いることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、電流送信方式での動作中に通信端末の台数増加などの理由により電源装置の電流容量に余裕がなくなって電流送信方式による通信が不安定になる場合、電圧送信方式に切り替わることで安定した通信を継続することができる。
【0022】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかの発明において、前記通信端末が、前記通信線上の電圧信号の信号レベルを監視する信号監視部をさらに有し、前記通信方式切替部が、前記電圧送信方式での動作中に通信線上の電圧信号の信号レベルが所定値を下回った場合に前記電流送信方式に切り替えるように定められた前記通信切替ルールを用いることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、電圧送信方式での動作中に通信線のインピーダンスの低下などの理由により電圧信号の信号レベルが低下し電圧送信方式による通信が不安定になる場合、電流送信方式に切り替わることで安定した通信を継続することができる。
【0024】
請求項7の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明において、前記電源装置が、前記通信線に印加する電圧の大きさを変化させることにより電圧信号からなる伝送信号を通信線上に送出する信号送出部を有し、通信線には、伝送信号を用いて電源装置と通信する端末機器が接続されることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、電源装置と端末機器との間で伝送信号により通信を行う通信システムが既に存在する場合、既存の通信システムの通信線を有効に利用して、通信端末間での通信を実現することができる。
【0026】
請求項8の発明は、請求項7の発明において、前記端末機器が、前記伝送信号に含まれる返送期間に同期して、前記通信線を適当な低インピーダンスを介して短絡することにより送出される電流モードの信号を前記電源装置に返送する機能を有し、前記通信方式切替部が、伝送信号の返送期間には前記電圧送信方式で通信を行い、伝送信号の返送期間以外の期間には前記電流送信方式で通信を行うように定められた前記通信切替ルールを用いることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、通信端末は、伝送信号の返送期間には電圧送信方式で動作し、伝送信号の返送期間以外の期間には電流送信方式で動作するので、端末機器が電源装置に対して返送する電流モードの信号と、通信端末の第1送信部が通信線に送出する電流信号との干渉を回避することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、通信端末が電流送信方式と電圧送信方式とを切り替える通信方式切替部を有するので、たとえば常時は電流送信方式として通信線のインピーダンスが低下しても通信できるようにしつつ、電源装置から通信線への給電が停止したときには電圧送信方式に切り替えることで通信を継続できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態1の構成を示す概略システム構成図である。
【図2】同上の通信端末の構成を示す概略ブロック図である。
【図3】同上の動作例を示すフローチャートである。
【図4】同上の動作例を示すフローチャートである。
【図5】同上の通信端末の構成を示す概略ブロック図である。
【図6】同上の動作例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態2の構成を示す概略システム構成図である。
【図8】同上で用いる伝送信号の形式の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施形態1)
本実施形態の通信システムは、図1に示すように2線式の通信線Wに接続される電源装置3と、通信線Wに接続され互いに直接通信する複数台の通信端末T1とを備えている。通信システムは、さらに電源装置3と通信線Wとの間に、通信線W上の電流変化を通信線W上の電圧変化に変換するための電流電圧変換部4を備えている。電源装置3は、通信線Wの2線間に電圧(直流電圧)を印加する。
【0031】
本実施形態では、複数台のうち一部の通信端末T1に、通信端末T1,T1間で伝送される監視情報を出力する被監視機器(図示せず)が接続されるものとする。さらに、別の通信端末T1には、監視情報を通信端末T1から取得する監視装置(図示せず)が接続される。
【0032】
すなわち、通信線Wを介した通信(データ伝送)を行うのは通信端末T1であるが、伝送するデータ(監視情報)を生成するのは被監視機器であって、受信したデータを処理するのは監視装置である。ここに、通信端末T1は、各々に接続された被監視機器あるいは監視装置からのデータを変換し通信線W上に送出することで通信を行うアダプタとして機能する。被監視機器や監視装置は、定期的に通信を行うことによって通信端末T1とデータの授受を行う。なお、被監視機器の一例としては照明器具の消費電力を計量する電力計測器が考えられ、監視装置の一例としては電力計測器で計量された消費電力を表示する検針装置がある。
【0033】
電流電圧変換部4は、電源装置3の出力端と通信線Wとの間に挿入された抵抗素子からなる。ここで、抵抗素子は2線式の通信線Wのうち少なくとも一方に挿入されていればよいが、本実施形態では2線共に挿入され、且つ両抵抗素子の抵抗値は同一とする。この構成により、電流電圧変換部4は、通信線W上の電流変化を抵抗素子での電圧降下によって通信線W上の電圧変化に変換する。
【0034】
ただし、実際には、通信線W自体の特性インピーダンスも、通信線W上の電流変化を通信線W上の電圧変化に変換する電流電圧変換部の抵抗成分として大きく寄与することになる。さらに、通信線Wの特性インピーダンスだけでなく、電源装置3の出力インピーダンスなど、送信側の通信端末T1と電源装置3との間に存在する抵抗成分は全て、電流電圧変換部として用いることができる。そのため、抵抗素子を新たに設けることなく、通信線Wの特性インピーダンスや電源装置3の出力インピーダンス等の抵抗成分を電流電圧変換部として用いることは可能である。
【0035】
通信端末T1は、図1に示すように、他の通信端末T1との間で信号の送受信を行う送受信部10と、送受信部10から送信すべき通信信号を生成する信号生成部11と、各部の制御処理を行う処理部12とを有している。なお、図1では1台の通信端末T1についてのみ構成を示しているが、他の通信端末T1も全て同じ構成を採用しているものとする。
【0036】
信号生成部11は被監視機器から受けた送信すべき情報に基づいて通信信号を生成し、処理部12は通信信号から得られた情報を監視装置に出力する。つまり、通信端末T1は、被監視機器から取得したデータ(監視情報)を送受信部10から他の通信端末T1に送信し、他の通信端末T1から送受信部10にて取得したデータを監視装置に出力する。
【0037】
送受信部10は、通信線W上に通信信号を送出する第1送信部Tx1および第2送信部Tx2と、他の通信端末T1から通信信号を受信する第1受信部Rx1および第2受信部Rx2と、通信方式を切り替える通信方式切替部13とを備えている。つまり、送受信部10は、送信部および受信部を2つずつ備え、いずれの送信部および受信部を用いて通信を行うのかが通信方式切替部13にて切り替えられる。
【0038】
第1送信部Tx1は、通信線Wに接続され通信線Wから流れ込む電流を変化させることで電流信号からなる一次信号Siを通信線W上に送出するように構成される。第1受信部Rx1は、第1送信部Tx1から送出された一次信号Siが、電流電圧変換部4にて電圧信号に変換されてなる二次信号Svを受信するように構成される。つまり、通信端末T1が電流信号からなる一次信号Siを通信線W上に送出すると、この通信端末T1と電源装置3との間に設けた電流電圧変換部4が、一次信号Siを電圧信号からなる二次信号Svに変換する。そのため、第1受信部Rx1は、第1送信部Tx1から送信された通信信号を電圧信号として受信可能となる。
【0039】
一方、第2送信部Tx2は、通信信号を電圧信号として通信線Wに送出するように構成される。第2受信部Rx2は、第2送信部Tx2から送信された電圧信号を受信するように構成される。
【0040】
通信方式切替部13は、第1送信部Tx1−第1受信部Rx1間で電流信号により通信を行う電流送信方式と、第2送信部Tx2−第2受信部Rx2間で電圧信号により通信を行う電圧送信方式との2つの送信方式を後述する通信切替ルールに従って切り替える。要するに、通信方式切替部13は、第1送信部Tx1−第1受信部Rx1の組み合わせを通信線Wに接続する状態と、第2送信部Tx2−第2受信部Rx2の組み合わせを通信線Wに接続する状態とを択一的に選択する。
【0041】
これにより、通信端末T1は、第1送信部Tx1−第1受信部Rx1の組み合わせが通信線Wに接続された状態では電流送信方式にて通信を行い、第2送信部Tx2−第2受信部Rx2の組み合わせが通信線Wに接続された状態では電圧送信方式にて通信を行う。なお、第1受信部Rx1および第2受信部Rx2はいずれも通信線W上の電圧信号を受信するものであるから、1つの受信部を第1受信部Rx1および第2受信部Rx2として兼用することも可能である。この場合、受信部は通信方式切替部13に依らず常に通信線Wに接続されることになる。
【0042】
上述した構成の通信システムでは、通信端末T1の通信方式を電流送信方式と電圧送信方式とで切り替えることができるので、これらの通信方式を状況に応じて使い分けることでそれぞれの長所を活かすことができる。
【0043】
すなわち、電流送信方式では、信号を送信する側の通信端末T1は、電流信号からなる一次信号Siにより信号を通信線W上に送出し、信号を受信する側の通信端末T1は、一次信号Siが電流電圧変換部4にて電圧信号に変換された二次信号Svを受信する。つまり、通信端末T1は電圧信号を直接重畳するのではなく、電源装置3から電流を流し込むことにより生じる電圧降下を利用して電圧信号を発生させるので、端末の入力インピーダンスの影響を受けにくいという利点がある。
【0044】
しかも、電流送信方式では、電流電圧変換部4のインピーダンスを高くすることで通信線Wから見た電源装置3の入力インピーダンスを高くした場合は勿論のこと、電源装置3の入力インピーダンスを低くした場合でも、通信端末T1,T1間の通信が可能である。このように電源装置3の入力インピーダンスを低くすることで、ノイズが発生しにくい構成とすることができる。すなわち、通信端末T1から送出される一次信号Siに電流信号を用いたことにより、通信線Wの線間インピーダンスが低インピーダンスであっても一次信号Siの送出が可能になる。
【0045】
一方、電圧送信方式は、電流送信方式とは異なり電源装置3から通信線Wへの電圧印加を必要としないため、電源装置3の故障やメンテナンスにより電源装置3から通信線Wへの給電が停止しても、通信を継続できるという利点がある。
【0046】
さらに電圧送信方式では、信号送信時に通信線Wを流れる電流が電流送信方式に比べて小さくなる。また、電流送信方式では周波数が高くなると信号の追従性が悪くなり、通信信号に十分な振幅を確保できない可能性があるのに対し、電圧送信方式では周波数が高くなっても通信信号に十分な振幅を確保できるという利点もある。
【0047】
通信端末T1は、電源装置3から通信線Wを介して電力供給を受けるライン給電部14と、商用電源から通信線Wを介さずに電力供給を受けるローカル給電部15と、いずれの給電部で自己の動作電力を確保するかを切り替える給電方式切替部16とをさらに有する。すなわち、ライン給電部14は、通信線W上の電力を安定化することによって得られる電力により通信端末T1の電源を確保し、ローカル給電部15は、商用電源を整流し安定化することによって得られる電力により通信端末T1の電源を確保する。
【0048】
給電方式切替部16は、ライン給電部14を通信端末T1の電源とするライン給電方式と、ローカル給電部15を通信端末T1の電源とするローカル給電方式との2つの給電方式を後述する給電切替ルールに従って切り替える。要するに、給電方式切替部16は、ライン給電部14を通信端末T1の各回路に接続する状態と、ローカル給電部15を通信端末T1の各回路に接続する状態とを択一的に選択する。
【0049】
ライン給電方式では、電源装置3にUPS(無停電電源装置)などのバックアップ機能を有する場合、停電時でも通信端末T1の電源を確保することができる。一方、ローカル給電方式には、電源装置3の故障やメンテナンスにより、電源装置3からの電力供給が停止した場合でも、通信端末T1の電源を確保することができる。
【0050】
本実施形態では、給電方式切替部16は、電流送信方式による通信時にライン給電とし、電圧送信方式による通信時にローカル給電とするように定められた給電切替ルールを用いており、通信方式に合わせて給電方式を自動的に切り替えるものとする。このように通信方式に合わせて給電方式を切り替えることで以下のような利点がある。
【0051】
すなわち、電流送信方式での動作中においては、通信端末T1は通信を行うために通信線Wから電流を引き込む必要があるので、電源装置3から通信線Wへの電圧印加は必須となる。したがって、通信端末T1は、電流送信方式で通信可能な場合には必然的にライン給電方式による動作が可能となるため、電流送信方式での動作中においてはライン給電方式とすることが好ましい。なお、電流送信方式での動作中でも通信端末T1の各回路の動作電源をローカル給電方式で賄うことは可能であるが、この場合、停電時などで通信端末T1の電源が確保できなければ通信不能になる。
【0052】
一方、通信端末T1が電圧送信方式で通信を行うためには、そもそも通信線Wのインピーダンスを高くしておく必要がある。そのため、通信端末T1への電力供給を行うために低インピーダンスの電源装置3が通信線Wに接続されることは好ましくなく、電圧送信方式での動作中においてはローカル給電方式とすることが好ましい。
【0053】
ところで、通信方式切替部13が通信方式を切り替える際に用いる通信切替ルールは、本実施形態では以下のように定められている。ただし、通信切替ルールは通信システムのトポロジ、用途などにより様々なバリエーションが考えられるため、以下では第1〜第3の3通りの通信切替ルールを例示する。
【0054】
まず、第1の通信切替ルールについて説明する。第1の通信切替ルールを適用する場合、通信端末T1は、図2に示すように通信線Wに接続され通信線Wの状態を監視する状態監視部17をさらに有する。状態監視部17は、少なくとも電源装置3から通信線Wへの給電状態を監視する給電監視部の機能を有している。状態監視部17の出力は処理部12に入力され、処理部12にていずれの通信方式とするかが決定される。一方、電源装置3は、出力が規定値を下回ると通信線Wとの電気的接続を遮断することにより通信線Wへの電圧の印加を停止する停止手段(図示せず)を有している。
【0055】
第1の通信切替ルールは、電源装置3から通信線Wへの給電が停止した場合に、通信方式を電流送信方式から電圧送信方式に切り替えるように定められており、処理部12はこの通信切替ルールに従って通信方式切替部13を制御する。したがって、電流送信方式で動作中に、停電や電源装置3の故障などにより、電源装置3の出力が規定値を下回って電源装置3から通信線Wへの給電が停止すると、通信方式切替部13は通信方式を電圧送信方式に切り替える。
【0056】
第1の通信切替ルールを適用したときの通信端末T1の動作を図3のフローチャートを用いて説明する。
【0057】
通信端末T1がライン給電方式、電流送信方式で動作中(S1)、電源装置3の出力が低下すると(S2)、電源装置3が通信線Wから切り離され(S3)、電源装置3から通信線Wへの直流電圧の印加が停止する。このとき、通信端末T1は、状態監視部17で監視している通信線W上の電圧が所定値を下回ることにより(S4,S5)、給電方式切替部16、通信方式切替部13にてそれぞれローカル給電方式、電圧送信方式に切り替える(S6,S7)。
【0058】
その後、通信端末T1は状態監視部17にて通信線W上の給電状態の監視を継続し(S8)、電源装置3からの給電が復旧すれば(S9:Yes)、ライン給電方式、電流送信方式での動作に復帰する(S10)。
【0059】
以上説明した第1の通信切替ルールを適用することで、通信端末T1は、基本的には電流送信方式で動作しながらも、停電その他の理由により電源装置3の出力が低下した場合は電圧送信方式に切り替えて通信を継続することができる。
【0060】
次に、第2の通信切替ルールについて説明する。第2の通信切替ルールを適用する場合、状態監視部17は、少なくとも通信線W上の電圧信号の信号レベル(振幅)を監視する信号監視部の機能を有する。第2の通信切替ルールは、電圧送信方式による動作中に通信線W上の電圧信号の信号レベルが所定値を下回ることにより通信不能と判断された場合に、通信方式を電流送信方式に切り替えるように定められている。処理部12はこの通信切替ルールに従って通信方式切替部13を制御する。したがって、電圧送信方式で動作中に、通信線Wに対して低インピーダンスの端末が接続されるなどして、通信線Wのインピーダンスが低下し、電圧信号の信号レベルが所定値を下回ると、通信方式切替部13は通信方式を電流送信方式に切り替える。
【0061】
第2の通信切替ルールを適用したときの通信端末T1の動作を図4のフローチャートを用いて説明する。
【0062】
通信端末T1がローカル給電方式、電圧送信方式で動作中(S11)、通信線Wのインピーダンスが低下すると(S12)、通信線W上の電圧信号の信号レベルが低下する。このとき、通信端末T1は、状態監視部17で監視している通信線W上の信号レベルが所定値を下回ることにより(S13,S14)、給電方式切替部16、通信方式切替部13にてそれぞれライン給電方式、電流送信方式に切り替える(S15,S16)。
【0063】
その後、通信端末T1は第2送信部Tx1から電圧信号を定期的に送出しながら(S17)、状態監視部17にて通信線W上の電圧信号の信号レベルの監視を継続する(S18)。信号レベルが所定値以上に回復すれば(S19:Yes)、通信端末T1はローカル給電方式、電圧送信方式での動作に復帰する(S20)。なお、信号レベルと比較される所定値は、電圧送信方式から電流送信方式へ切り替えるとき(S14)と、電流送信方式から電圧送信方式へ切り替えるとき(S19)とで同値である必要はなく、前者(S14)の方が低く設定されることが望ましい。
【0064】
以上説明した第2の通信切替ルールを適用することで、通信端末T1は、基本的には電圧送信方式で動作しながらも、低インピーダンスの端末の追加等により電圧送信方式による通信が不安定になると電流送信方式に切り替えて安定した通信を継続できる。
【0065】
次に、第3の通信切替ルールについて説明する。第3の通信切替ルールを適用する場合、通信端末T1は、上記状態監視部17に代えて、図5に示すように電源装置3の電流容量と通信線W上の電流値とを比較して余裕値を求める容量評価部18を有する。容量評価部18には電源装置3の電流容量が予め設定されている。電流容量の設定は、通信端末T1に設けた電流容量の設定入力用の入力手段から手入力で行うようにしてもよいし、電源装置3から電流容量を示す信号を通信端末T1に送信することで行ってもよい。容量評価部18は、第1受信部Rx1、第2受信部Rx2での受信結果から通信線W上の電流値を取得し、この電流値を電源装置3の電流容量から差し引くことにより余裕値を求める。
【0066】
第3の通信切替ルールは、電流送信方式による動作中に容量評価部18で求めた余裕値が所定値を下回った場合に、通信方式を電圧送信方式に切り替えるように定められている。処理部12はこの通信切替ルールに従って通信方式切替部13を制御する。したがって、電流送信方式で動作中に、同時に送信を行う通信端末T1の台数増加などにより、通信線W上の電流値が上昇し、容量評価部18で求まる余裕値が所定値を下回ると、通信方式切替部13は通信方式を電圧送信方式に切り替える。
【0067】
第3の通信切替ルールを採用したときの通信端末T1の動作を図6のフローチャートを用いて説明する。
【0068】
通信端末T1がライン給電方式、電流送信方式で動作中(S21)、電源装置3の電流容量が設定され(S22)、容量評価部18は電源装置3の電流容量と通信線W上の電流値とを比較して余裕値を求める(S23)。通信端末T1は、余裕値が所定値を下回ることにより(S24:Yes)、給電方式切替部16、通信方式切替部13にてそれぞれローカル給電方式、電圧送信方式に切り替える(S25,S26)。
【0069】
その後、通信端末T1は容量評価部18にて余裕値の監視を継続する(S27)。余裕値が所定値以上に回復すれば(S28:Yes)、通信端末T1はライン給電方式、電流送信方式での動作に復帰する(S29)。なお、余裕値と比較される所定値は、電流送信方式から電圧送信方式へ切り替えるとき(S24)と、電圧送信方式から電流送信方式へ切り替えるとき(S28)とで同値である必要はなく、前者(S24)の方が低く設定されることが望ましい。
【0070】
以上説明した第3の通信切替ルールを適用することで、通信端末T1は、基本的には電流送信方式で動作しながらも、通信端末T1の台数が増えて電源装置3の電流容量に余裕がなくなって通信が不安定になると電圧送信方式に切り替えて安定した通信を継続できる。
【0071】
また、通信端末T1は、上述した第1〜第3の通信切替ルールを個別に適用してもよいが、これらの通信切替ルールを適宜組み合わせて用いてもよい。一例として、電流送信方式から電圧送信方式への切替には第1の通信切替ルールを用い、電圧送信方式から電流送信方式への切替には第2の通信切替ルールを用いるという組み合わせが考えられる。
【0072】
なお、本実施形態では、通信端末T1がライン給電部14とローカル給電部15とを具備し、給電方式切替部16が通信方式に合わせて給電方式を切替可能とする例を示したが、この例に限るものではない。たとえば、給電方式切替部16は、電源装置3からライン給電部14への給電状態や商用電源からローカル給電部15への給電状態に応じて、適切な給電方式に切り替える構成とすることも考えられる。
【0073】
また、給電方式切替部16は、切替スイッチを有し、通信方式とは関係なく切替スイッチの操作に応じて給電方式を切り替える構成であってもよい。さらに、通信端末T1はライン給電部14とローカル給電部15との一方のみを具備する構成とし、固定的にいずれかの給電方式を採用するようにしてもよい。
【0074】
(実施形態2)
まず、本実施形態に係る通信システムの基本構成について説明する。この通信システムは、図7に示すように2線式の通信線Wに接続される親機(伝送ユニット)30と、通信線Wに接続され親機30と通信する複数台(図示例では2台)の第1通信端末T11とを備えたNMAST(登録商標)のような通信システムである。通信システムは、さらに通信線Wに接続されピア・ツー・ピア(P2P)で互いに直接通信する複数台(図示例では2台)の第2通信端末T12を備える。
【0075】
第1通信端末T11同士は常に親機30を介して通信を行うものであって、親機30が通信端末T11に対してポーリングを行うため通信速度が遅く、たとえばアナログ量(電力量の計量値等)のように比較的データ量の多い情報の伝送には不向きである。また、親機30の故障時などにシステム全体が停止してしまうため、通信システムとしての信頼性が低いという問題もある。これに対し、第2通信端末T12同士は直接通信を行うので、通信速度を向上させることで比較的データ量の多い情報も伝送可能となる。
【0076】
すなわち、通信速度や信頼性の観点からは第2通信端末T12のように直接通信を行う通信システムが望ましいが、一般的には第1通信端末T11のように親機30を介して通信を行う通信システムが広く普及している。そこで、既設の通信システムを有効に利用するために、図7のように第1通信端末T11と第2通信端末T12とを混在させたシステム構成とする。
【0077】
ここで、第2通信端末T12には実施形態1における通信端末T1が用いられ、親機30としては実施形態1における電源装置3が用いられる。要するに、第2通信端末T12は、通信方式が電流送信方式と電圧送信方式とで切替可能に構成され、さらに給電方式もライン給電方式とローカル給電方式とで切替可能に構成されている。なお、図7では図示を省略するが、親機30と通信線Wとの間には、通信線W上の電流変化を通信線W上の電圧変化に変換するための電流電圧変換部4が設けられている。
【0078】
以下、本実施形態の通信システムにおける実施形態1の通信システムとの相違点について説明する。
【0079】
複数台の第1通信端末(端末機器)T11は、親機30に対して通信線Wによって並列接続されている。親機30および第1通信端末T11は、親機30から通信端末T11へのデータ伝送と第1通信端末T11から親機30へのデータ伝送とが時分割で行われる時分割多重伝送システム(以下「基本システム」という)を構築する。
【0080】
基本システムにおいて、第1通信端末T11は、スイッチやセンサなど(図示せず)を付設した監視端末器と、負荷(図示せず)を付設した制御端末器との2種類に分類される。これにより、監視端末器に付設したスイッチやセンサなどからの第1監視情報に応じて、制御端末器に付設した負荷を制御することが可能となる。ここで、第1通信端末T11にはそれぞれアドレス(識別子)が設定されている。監視端末器は、第1監視情報を受けると親機30に対して第1監視情報に対応した制御情報を伝送する。親機30は、制御情報を受け取るとアドレスによって上記監視端末器と対応付けられている制御端末器に対して制御情報を伝送する。制御端末器は、制御情報を受け取ると上記制御情報に従って負荷を制御する。負荷を制御するための制御情報は第1監視情報を反映しているから、監視端末器と制御端末器との間に親機30が介在しているものの、制御情報が通信線Wを通して伝送されることにより、第1監視情報が負荷の制御に反映されることになる。
【0081】
続いて、基本システムの動作について説明する。
【0082】
親機30は、通信線Wに対して図8(a)に示すような形式の電圧波形からなる伝送信号を送信する信号送出部(図示せず)としての機能を有する。すなわち、伝送信号は、スタート信号帯A1,A2と、第1通信端末T11にデータを伝送するための信号送信帯Bと、第1通信端末T11からの返送信号を受信するタイムスロットである信号返送帯Cと、エンド信号帯D1,D2と、休止帯Eとからなる。この伝送信号は、複極(±24V)の時分割多重信号であり、パルス列からなるキャリアをパルス幅変調することによってデータを伝送するものである。
【0083】
各第1通信端末T11では、通信線Wを介して受信した伝送信号の信号送信帯Bに含まれるアドレスデータがそれぞれに設定されているアドレスに一致すると、伝送信号から負荷を制御するための制御情報を取り込む。さらに、第1通信端末T11は、伝送信号の信号返送帯Cに同期して制御情報を電流モードの信号(通信線Wを適当な低インピーダンスを介して短絡することにより送出される信号)として返送する。また、第1通信端末T11の内部回路の電源は、通信線Wを介して伝送される伝送信号を整流し安定化することによって供給される。
【0084】
親機30は、常時は伝送信号に含まれるアドレスデータをサイクリックに変化させて第1通信端末T11に順次アクセスする常時ポーリングを行う。常時ポーリングの際には、伝送信号に含まれるアドレスデータが自己のアドレスに一致した第1通信端末T11は、伝送信号に制御情報が含まれていれば制御情報を取り込んで動作し、自己の動作状態を親機30に返送する。
【0085】
親機30は、いずれかの監視端末器において第1監視情報に対応して発生する割込信号を受信すると、割込信号を発生した第1通信端末T11を検索し、その第1通信端末T11にアクセスして第1監視情報に呼応した制御情報を返送させる割込ポーリングも行う。
【0086】
すなわち、親機30においては、常時はアドレスデータをサイクリックに変化させた伝送信号を通信線Wに送出する常時ポーリングを行う。さらに、親機30は監視端末器(第1通信端末T11)で発生した割込信号を伝送信号のスタート信号帯A1あるいはエンド信号帯D1に同期して検出すると、モードデータを割込ポーリングモードとした伝送信号を送出する。割込信号を発生した第1通信端末T11は、割込ポーリングモードの伝送信号のアドレスデータの上位ビットが自己のアドレスの上位ビットに一致していれば、その伝送信号の信号返送帯Cに同期して自己のアドレスの下位ビットを返送データとして返送する。これにより親機30では割込信号を発生した第1通信端末T11のアドレスを取得できる。
【0087】
割込信号を発生した第1通信端末T11のアドレスが親機30で取得されると、親機30は当該第1通信端末T11に対して制御情報の返送を要求する伝送信号を送出し、第1通信端末T11は第1監視情報に対応した制御情報を親機30に返送する。親機30は制御情報を受け取ると、該当する第1通信端末T11の第1監視情報をクリアするように指示を与え、当該第1通信端末T11では第1監視情報のクリアを返送する。
【0088】
制御情報を受け取った親機30は、当該制御情報の発信元の第1通信端末(監視端末器)T11とアドレスの対応関係によって対応付けられている第1通信端末(制御端末器)T11へ送信する制御情報を生成する。さらに親機30は、この制御情報を含む伝送信号を通信線Wに送出して、前記第1通信端末(制御端末器)T11に付設した負荷を制御する。
【0089】
上述した基本システムでは、ポーリング・セレクティング方式のプロトコル(以下、第1プロトコルという)に従い、親機30を介して第1通信端末(監視端末器、制御端末器)T11同士が通信を行うこととなる。
【0090】
ところで、本実施形態の通信システムでは、複数台の第2通信端末T12が、上記基本システムと通信線Wを共用するように前記通信線Wを介して互いに並列接続されている。
【0091】
第2通信端末T12は、上述した第1プロトコルとは異なるプロトコル(以下、第2プロトコルという)に従って、親機30を介することなくデータ(第2監視情報)を他の第2通信端末T12に伝送する機能を有している。第2プロトコルの信号は第1プロトコルの信号よりも周波数が高く、第1プロトコルの信号と第2プロトコルの信号との間には信号レベル等に差異がある。そのため、第1通信端末T11と第2通信端末T12とは同一の通信線Wに接続されているものの互いに通信を行うことはできない。
【0092】
具体的には、第2通信端末T12は、他の第2通信端末T12に伝送すべきデータを含んだパケットを第2プロトコルに従って伝送信号に重畳させて通信線Wに送出し、且つ他の第2通信端末T12が送信した第2プロトコルのパケットを受信する。つまり、第1プロトコルによる第1通信端末T11同士の通信は上述したように親機30を介して行われるのに対し、第2プロトコルによる第2通信端末T12同士の通信は第2通信端末T12間で直接行われるものであって親機30には依存しない。そのため、第2プロトコルによる通信は、第1プロトコルによる通信に比べて通信速度を高速化できるものであって、たとえばアナログ量(電力量の計量値等)のように比較的データ量の多い情報の伝送に用いられる。
【0093】
第2通信端末T12は、ライン給電方式の選択時には、基本システムの第1通信端末T11と同様に親機30から通信線Wを介して伝送される伝送信号を整流し安定化することにより電力供給を受けて動作する。
【0094】
また、第2通信端末T12は、基本システムの親機30と第1通信端末T11との間で伝送される第1プロトコルの伝送信号を監視し、この伝送信号から第1プロトコルのデータ伝送状況(以下、ステートという)を解析する。第2通信端末T12は、ステートが第2プロトコルのパケットの伝送に適した状況にあるか否かを判定し、伝送に適していると判断したタイミングでパケットを送信する機能を具備している。
【0095】
すなわち、基本システムで使用する第1プロトコルにおいては、パルス列からなるキャリアをパルス幅変調した伝送信号を伝送している。この伝送信号に第2プロトコルのパケットを重畳するに当たっては、伝送信号がハイレベルあるいはローレベルに安定している期間に重畳することが望ましい。伝送信号は図8(a)の信号フォーマットを採用している。そのため、信号送信帯B以外の期間は、伝送信号がハイレベルあるいはローレベルに安定している時間が相対的に長いからパケットを伝送するのに適した期間(以下、通信適合期間という)と考えられる。
【0096】
一方、信号送信帯Bは、伝送信号がハイレベルあるいはローレベルに安定している時間が相対的に短いことや、第1プロトコルによる親機30と第1通信端末T11との間の信号の伝送の影響を受けやすい。そのため、これらの期間はパケットを伝送するのに適さない期間(以下、通信不適合期間という)と考えられる。
【0097】
そこで、第2通信端末T12は伝送信号のステートを解析し、その解析結果に基づいて通信適合期間か通信不適合期間かの判定を行い、通信適合期間と判断したときに限って第2プロトコルのパケットを送出するように構成されている(図8(b)参照)。このように第1プロトコルの伝送信号に同期させる形で伝送信号に第2プロトコルのパケットを重畳させることにより、共通の通信線Wを使用する第1プロトコルの通信と第2プロトコルの通信との干渉を避けることができる。ここで、第2通信端末T12は、送信データのデータ量が多く一度の通信適合期間内で送信しきれなかった場合には、当該通信適合期間の終了に合わせて通信を中断し、次回の通信適合期間に残りのデータを送信する。
【0098】
さらに、本実施形態の第2通信端末T12は、電流送信方式と電圧送信方式との切替についても、実施形態1で説明した通信切替ルールではなく、伝送信号のステートの解析結果に基づいて行う。
【0099】
つまり、通信適合期間であっても、信号返送帯Cとエンド信号帯D1,D2とからなる期間(返送期間)においては、第1通信端末T11から親機30に電流モードの信号が返信される。そのため、信号返送帯Cやエンド信号帯D1,D2に第2通信端末T12が通信線Wに電流信号を送出すると、当該電流信号が第1通信端末T11からの電流モードの信号と干渉し、基本システムの通信エラーにつながる。そこで、通信方式切替部13は、図8(b)に示すように、第1通信端末T11から親機30に電流モードの信号が返信される信号返送帯Cやエンド信号帯D1,D2には電圧送信方式、その他の通信適合期間には電流送信方式に切り替える構成とする。
【0100】
ただし、第1通信端末T11と第2通信端末T12とを混在させたシステム構成において、第2通信端末T12が電圧送信方式で通信すると、基本システムのトポロジや第1通信端末T11の仕様によっては通信エラーを生じることもある。そこで、電圧送信方式による通信は、複数回に1回の割合で通信に成功すればよいような重要度の低い情報の伝達に用いることが望ましい。なお、伝送信号のステート解析は、実施形態1で説明した図3の状態監視部17にて行う。
【0101】
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
【符号の説明】
【0102】
3 電源装置
4 電流電圧変換部
13 通信方式切替部
14 ライン給電部
15 ローカル給電部
16 給電方式切替部
17 状態監視部
18 容量評価部
Rx1 第1受信部
Rx2 第2受信部
T1 通信端末
Tx1 第1送信部
Tx2 第2送信部
W 通信線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2線式の通信線に接続される複数の通信端末と、通信線の2線間に電圧を印加する電源装置とを備えた通信システムであって、通信線上の電流変化を抵抗成分での電圧降下により通信線上の電圧変化に変換する電流電圧変換部を備え、通信端末は、送信すべき情報に基づいて通信信号を生成する信号生成部と、通信線に接続され通信信号の変化に応じて通信線から流れ込む電流を変化させることにより電流信号を通信線に送出する第1送信部と、通信線に接続され通信信号を電圧信号として通信線に印加する第2送信部と、第1送信部から送出された電流信号が電流電圧変換部により電圧変化に変換されてなる電圧信号を受信するとともに、第2送信部から送出された電圧信号を受信する受信部と、第1送信部により通信信号の送信を行う電流送信方式と第2送信部により通信信号の送信を行う電圧送信方式とを所定の通信切替ルールに従って切り替える通信方式切替部とを有することを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記通信端末は、前記電源装置から前記通信線を介して電力供給を受けるライン給電部と、外部電源から通信線を介さずに電力供給を受けるローカル給電部と、ライン給電部で動作電力の供給を受けるライン給電方式とローカル給電部で動作電力の供給を受けるローカル給電方式とを所定の給電切替ルールに従って切り替える給電方式切替部とをさらに有することを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項3】
前記給電方式切替部は、前記電流送信方式での動作中には前記ライン給電方式を選択し、前記電圧送信方式での動作中には前記ローカル給電方式を選択するように定められた前記給電切替ルールを用いることを特徴とする請求項2記載の通信システム。
【請求項4】
前記電源装置は、出力が規定値を下回ると前記通信線への給電を停止する停止手段を有し、前記通信端末は、通信線上の給電状態を監視する給電監視部をさらに有し、前記通信方式切替部は、前記電流送信方式での動作中に電源装置から通信線への給電が停止すると前記電圧送信方式に切り替えるように定められた前記通信切替ルールを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項5】
前記通信端末は、前記電源装置の電流容量から前記通信線上の電流値を差し引いて余裕値を求める容量評価部をさらに有し、前記通信方式切替部は、前記電流送信方式での動作中に容量評価部で求めた余裕値が所定値を下回ったときに前記電圧送信方式に切り替えるように定められた前記通信切替ルールを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項6】
前記通信端末は、前記通信線上の電圧信号の信号レベルを監視する信号監視部をさらに有し、前記通信方式切替部は、前記電圧送信方式での動作中に通信線上の電圧信号の信号レベルが所定値を下回った場合に前記電流送信方式に切り替えるように定められた前記通信切替ルールを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項7】
前記電源装置は、前記通信線に印加する電圧の大きさを変化させることにより電圧信号からなる伝送信号を通信線上に送出する信号送出部を有し、通信線には、伝送信号を用いて電源装置と通信する端末機器が接続されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項8】
前記端末機器は、前記伝送信号に含まれる返送期間に同期して、前記通信線を適当な低インピーダンスを介して短絡することにより送出される電流モードの信号を前記電源装置に返送する機能を有し、前記通信方式切替部は、伝送信号の返送期間には前記電圧送信方式で通信を行い、伝送信号の返送期間以外の期間には前記電流送信方式で通信を行うように定められた前記通信切替ルールを用いることを特徴とする請求項7記載の通信システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−151736(P2011−151736A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13347(P2010−13347)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】