説明

通信制御方法および基地局

【課題】MU−MIMOにおける、受信側から送信側へのフィードバック、および、プリコーディング行列作成方法に関し、MIMO通信の特性を改善する。
【解決手段】各ユーザ端末は、チャネル行列(H)を特異値分解(H=UΣ)して、直交行列(V)および対角行列(Σ)をそれぞれ取得し、フィードバック情報として、前記直交行列(V)、および、前記対角行列(Σ)と前記対角行列(Σ)をエルミート転置したエルミート行列(Σ)とから算出した値(Λ=ΣΣ)をそれぞれ基地局に送信し、基地局は、前記直交行列(V)(jは2以上n以下の整数、j≠i)から得られる双対行列であって(特許請求の範囲の数1)を満たす双対行列と、ユーザ端末からのフィードバック情報から得られる行列の乗算値を特異値分解して得られる右特異行列(V)とから、各ユーザ端末に用いるプリコーディング行列Wを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信制御方法および基地局に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のアンテナを用いて送信された信号を複数のアンテナで受信し、信号処理技術により空間信号分離を行うMIMO(Multiple−Input Multiple−Output)が周波数利用効率の向上を実現する技術として注目されている(例えば、特許文献1参照)。MIMO技術は、チャネル情報が送信側で既知であるか否かによって2つに分類される。チャネル情報が送信側で既知であるものをクローズドループMIMO、チャネル情報が送信側で既知でないものをオープンループMIMOと称する。
【0003】
クローズドループMIMOでは、送信側において、送信する夫々のデータストリームに対して、チャネル情報に基づきプリコーディング(Precoding/事前符号化)と称される送信位相/振幅制御を行う。これにより、受信側では、干渉量を削減することができる。このように、クローズドループMIMOは、オープンループMIMOと比べて、一般的に高い特性を得られる反面、送信側においてプリコーディングを行うためにチャネル情報が必要になる。そして、このチャネル情報を送信側が得るために、受信側から送信側へのフィードバックが必要となる。
【0004】
MIMO技術は、他の分類方法として、基地局とユーザ端末とが1:1で通信を行うシングルユーザMIMO(Single user MIMO、SU−MIMO)と、基地局とユーザ端末とが1:多で通信を行うマルチユーザMIMO(Multi user MIMO、MU−MIMO)とに分類される。
【0005】
MU−MIMOでは、複数のユーザ端末をMIMOにより空間多重して通信を行う。特性が良いユーザ端末に無線リソースを割当てることができるため、SU−MIMOに比べてシステム容量の増加が期待できる。しかしながら、MU−MIMOを行う場合、ユーザを空間で分割するため、クローズドループMIMOを用いたプリコーディングを行うことが必須となる。MU−MIMOにおけるフィードバックではExplicit Feedbackが用いられる。ここで、Explicit Feedbackとは、フィードバックすべき情報そのものを送信(フィードバック)する方法である。
【0006】
Explicit Feedbackの一例として、非特許文献1には、クローズドループMIMOにおける通信方法のひとつである固有ビーム空間多重を用いた場合の一例が開示されている。非特許文献1では、送信データストリーム数が1の場合を想定している。そのときのフィードバック情報として、チャネル状態を表すチャネル行列を特異値分解することにより得られる第1特異ベクトルをフィードバックする例が示されている。以下は、その処理概要である。
【0007】
1.チャネル状態を表すチャネル行列Hを特異値分解する。
2.特異値分解により得られる右特異ベクトルの第1要素を1として、第2要素以降を正規化する。
3.正規化された第2要素以降の複素数を4ビットまたは6ビットで量子化する。
4.量子化された複素数情報を基地局へフィードバック情報として送信する。
なお、上記2.の処理の正規化は、フィードバックすべき情報を削減するために行っている。また、特許文献1にも、Explicit Feedbackにてフィードバック情報を送受するためのシーケンスについて開示されている。
【0008】
非特許文献2では、MU−MIMOにおいて、SLNR(signal to leakage and noise ratio)を用いたプリコーディング決定方法が開示されている。非特許文献2では、2つのユーザ端末(ユーザ端末0、ユーザ端末1)によるMU−MIMOを想定し、プリコーディングWiを下記式(1)により求めている。
【0009】
【数1】

【0010】
但し、ここで、λi、Viは夫々のユーザ端末iの第1特異値および特異ベクトルである。また、μは他セルの干渉および雑音電力である。上記式(1)においてSLNRが最も大きくなる、即ち、空間多重する他のユーザ端末からの影響が小さくなるプリコーディングが選択されることによって、特性の向上が図られる。また、特許文献2および非特許文献3では、MU−MIMOにおいて、空間多重するユーザ端末間の干渉を無くすプリコーディング方法としてブロック対角化の方法が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2009−543471号公報
【特許文献2】特開2009−278203号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】庄納 崇 編,“WiMAX教科書”,インプレス,2008.
【非特許文献2】3GPP TSG-RAN WG1 #58,R1-093129,DL MU-MIMO operation in LTE-A
【非特許文献3】S.W.Koo,Y.H.Kim, S.I.Seo,and J.Y.Kim,”Performance analysis of multi user MIMO system with CDD for 802.11n application”,9th International Symposium on Communications and Information Technology (ISCIT),pp.11-15,Sept.,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述の各従来技術には以下のような問題がある。
MU−MIMOにおいて、非特許文献2の手法では、ユーザ端末間の多重は行うことができるが、マルチレイヤは考慮されていない。また、特許文献2および非特許文献3の方法では、ブロック対角化によりユーザ間の干渉を完全に除去する方法は開示されているが、そのフィードバック方法については言及されていない。また、当該方法では各ユーザ端末のチャネ行列が必要であり、フィードバック量が膨大になるといった問題がある。
【0014】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであって、MU−MIMOにおける、受信側から送信側へのフィードバック、および、プリコーディング行列作成方法に関し、MIMO通信の特性を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記問題を解決するために、本発明の一態様である通信制御方法は、基地局とユーザ端末とが1:n(nは2以上の整数)で通信を行うMU−MIMOにおける通信制御方法であって、各ユーザ端末は、チャネル行列(H(iは2以上n以下の整数))を特異値分解(H=UΣ)して、直交行列(V)および対角行列(Σ)をそれぞれ取得し、フィードバック情報として、前記直交行列(V)、および、前記対角行列(Σ)と前記対角行列(Σ)をエルミート転置したエルミート行列(Σ)とから算出した値(Λ=ΣΣ)の対角要素をそれぞれ基地局に送信し、基地局は、前記直交行列(V)(jは2以上n以下の整数、j≠i)から得られる双対行列であって、
【数2】

を満たす双対行列である
【数3】

と、ユーザ端末からのフィードバック情報から得られる行列の乗算値である
【数4】

を特異値分解して得られる右特異行列(V)とから、各ユーザ端末に用いるプリコーディング行列W
【数5】

を算出することを特徴とする。なお、V\iは、ランクに合わせて、例えば、ランクがmの場合は、Vのm列までがプリコーディングに使用される。
【0016】
上記問題を解決するために、本発明の他の態様である通信制御方法は、MU−MIMOにおいて、基地局はユーザ端末から送信されるパイロット信号から、当該ユーザ端末のチャネル行列Hを取得し、当該ユーザ端末と空間多重を行うユーザ端末のチャネル行列Hから特異値分解することにより得られるVを当該ユーザ端末へフィードバックし、当該ユーザ端末のチャネル行列Hとフィードバック情報Vから、プリコーディング行列としてW=V\iを用いることを特徴とする。
【0017】
上記問題を解決するために、本発明の他の態様である基地局は、各ユーザ端末からのフィードバック情報VおよびΛから、
【数6】

を計算し、当該計算結果を特異値分解することにより得られるVから、当該ユーザ端末に対するプリコーディング行列W=V\iを算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、MU−MIMOにおいて、プリコーディング時に空間多重されるユーザ端末間の干渉を無くすことができるようになる。これにより、MIMO通信の特性を向上することができる。また、ブロック対角化におけるフィードバック方法を提供する。チャネル行列ではなく、Vおよびランクの選択数に応じたΣΣをフィードバックすればよく、チャネル行列Hをフィードバックする場合に比べて、フィードバック量を削減することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態を説明するための概略模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態によるユーザ端末の概略機能構成図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による基地局の概略機能構成図である。
【図4】本発明の第1の実施形態によるフィードバックに係る動作の一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施形態を説明するための概略模式図である。
【図6】本発明の第2の実施形態によるフィードバックに係る動作の一例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第3の実施形態によるフィードバックに係る動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明の第1の実施形態では、基地局を送信局とし、ユーザ端末を受信局とする回線(ダウンリンク、DL)を想定する。なお、本発明の第2の実施形態(後述)では第1の実施形態と同様にダウンリンクを想定し、本発明の第3の実施形態(後述)ではユーザ端末を送信局とし、基地局を受信局とする回線(アップリンク、UL)を想定する。
【0021】
また、本発明の第1の実施形態(本発明の第2の実施形態(後述)および第3の実施形態(後述)も同様)では、クローズドループMIMOとして固有ビーム空間多重(E−SM)を適用した場合を想定する。送信アンテナの本数をNt、受信アンテナの本数をNrとした場合、チャネル情報は、Nr×Ntの行列Hで示される(以下、行列Hをチャネル行列とも称する)。固有ビーム空間多重(E−SM)では、チャネル行列の特異値分解(SVD)を利用する。即ち、チャネル行列Hは、下記式(2)のように表される。
【0022】
H=UΣV … (2)
【0023】
上記式(2)において、U、Vはユニタリ行列(直交行列)であって、下記式(3)(4)を満足する。
【0024】
VV=VV=INt … (3)
UU=UU=INr … (4)
但し、Xは、Xのエルミート転置を示す。
また、NをN=min{Nt,Nr}とする。
【0025】
上記式(2)において、Σは下記式(5)に示すような対角行列である。
【0026】
【数7】

【0027】
なお、λはHHの固有値を示す。下記式(6)より、チャネル行列Hを各チャネルが互いに干渉しない直交チャネルに変換することができる。
【0028】
HV=UUΣVV=Σ … (6)
【0029】
続いて、本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態を説明するための概略模式図である。第1の実施形態は、基地局とユーザ端末とが1:多でMIMO通信を行うMU−MIMOを想定した実施形態である。以下、便宜上、図1に示すように、基地局11とユーザ端末21とが1:2である場合の例を説明する(各ユーザ端末21を区別する場合、一方のユーザ端末をユーザ端末21−1、他方をユーザ端末21−2と表記する)。また、フィードバック手法としてExplicit Feedbackを想定する。
【0030】
図2は、本発明の第1の実施形態によるユーザ端末の概略機能構成図である。ユーザ端末21は、図2に示すように、制御部200、無線インターフェース部210、ユーザデータ処理部220、制御データ処理部230および上位レイヤ処理部240を備える。また、制御データ処理部230は、チャネル情報取得部234、フィードバック情報生成部236を備える。
【0031】
制御部200は、無線インターフェース部210、ユーザデータ処理部220、制御データ処理部230および上位レイヤ処理部240の各機能を制御する。
【0032】
無線インターフェース部210は、RF部(非図示)を有し、無線パケットを送受信する。無線パケットを受信した無線インターフェース部210は、当該無線パケットがユーザデータに係るパケットであるか制御データに係るパケットであるかを判別し、ユーザデータに係るパケットである場合はユーザデータ処理部220へ転送(供給)し、制御データに係るパケットである場合は制御データ処理部230へ転送する。また、無線インターフェース部210は、ユーザデータ処理部220または制御データ処理部230からデータを取得し、無線パケットとして送信する。
【0033】
ユーザデータ処理部220は、無線インターフェース部210からユーザデータに係るパケットを取得し、ユーザデータに関する処理を行う。
【0034】
制御データ処理部230は、制御データに関する処理を行う。具体的には、チャネル情報取得部234は、基地局11から送信されたパイロット信号(リファレンスシグナル)に基づいて、現在のチャネル情報を示すチャネル行列Hを取得する。フィードバック情報生成部236は、チャネル情報取得部234にて取得されたチャネル行列Hに基づいて、基地局11へフィードバックするフィードバック情報を生成する。
【0035】
上位レイヤ処理部240は、ユーザデータ処理部220または制御データ処理部230から転送されたデータに対する上位レイヤの処理を行う。また、上位レイヤ処理部240は、上位レイヤの処理として生成したデータをユーザデータ処理部220または制御データ処理部230へ転送する。
【0036】
図3は、本発明の第1の実施形態による基地局の概略機能構成図である。基地局11は、図3に示すように、制御部100、無線インターフェース部110、パケット処理部120、プリコーディング行列生成部130、上位レイヤ処理部140、パイロット信号生成部150を備える。
【0037】
制御部100は、無線インターフェース部110、パケット処理部120、プリコーディング行列生成部130、上位レイヤ処理部140、パイロット信号生成部150の各機能を制御する。
【0038】
無線インターフェース部110は、RF部(非図示)を有し、無線パケットを送受信する。無線パケットを受信した無線インターフェース部110は、受信した無線パケットをパケット処理部120へ転送する。
【0039】
パケット処理部120は、無線インターフェース部110から転送されたパケットを処理する。具体的には、パケット処理部120は、無線インターフェース部110からフィードバック情報に係るパケットを取得した場合は、当該情報をプリコーディング行列生成部130へ転送する。パケット処理部120は、他のパケット(ユーザパケット、制御パケット)を取得した場合は、適切な処理を行い、上位レイヤ処理部140へ転送する。
【0040】
また、パケット処理部120は、上位レイヤ処理部140から転送されたユーザデータに対しては、当該ユーザに関するプリコーディング情報をプリコーディング行列生成部130より取得し、当該プリコーディング情報を用いてプリコーディングを行った後、無線インターフェース部110へ転送する。
【0041】
プリコーディング行列生成部130は、パケット処理部120から転送されるプリコーディング情報を基に、各ユーザ端末のプリコーディング行列を作成、保持する。上位レイヤ処理部140は、パケット処理部120から転送されたデータに対する上位レイヤの処理を行う。また、下りデータに対して、上位レイヤでの処理を行った後、当該データをパケット処理部120へ転送する。パイロット信号生成部150は、ユーザ端末がチャネル行列Hを作成するためのパイロット信号を生成し、定期的あるいはユーザ端末から要求があった際に無線インターフェースへ転送する。
【0042】
図4は、本発明の第1の実施形態によるフィードバックに係る動作の一例を示すフローチャートである。具体的には、図4に示すフローチャートは、ユーザ端末21および基地局11によるフィードバック処理の流れを示すものである。なお、ユーザ端末21−1、ユーザ端末21−2は、何れも同一の基地局11のセル内に位置しているものとする。
【0043】
図4において、ユーザ端末21−1は、基地局11から送信されるパイロット信号を用いて、当該基地局11とのチャネル情報を表すチャネル行列Hを取得する(ステップS110)。同様に、ユーザ端末21−2は、基地局11から送信されるパイロット信号を用いて、当該基地局11とのチャネル情報を表すチャネル行列Hを取得する(ステップS110)。
【0044】
次いで、ユーザ端末21−1は、下記式(7)に示すように、チャネル行列Hを特異値分解する(ステップS120)。同様に、ユーザ端末21−2は、下記式(8)に示すように、チャネル行列Hを特異値分解する(ステップS120)。
【0045】
=UΣ … (7)
=UΣ … (8)
【0046】
次いで、ユーザ端末21−1は、Λ=ΣΣを算出する(ステップS130)。同様に、ユーザ端末21−2は、Λ=ΣΣを算出する(ステップS130)。
【0047】
次いで、ユーザ端末21−1は、算出したΛ、上記式(7)から、下記式(9)の関係を得る。同様に、ユーザ端末21−2は、算出したΛ、上記式(8)から、下記式(10)の関係を得る。
【0048】
=(UΣΣ=VΣΣ =VΣΣ=VΛ… (9)
=VΛ… (10)
【0049】
次いで、ユーザ端末21−1は、V、CQI情報として、Λを基地局11へ送信(フィードバック)する(ステップS140)。同様に、ユーザ端末21−2は、V、CQI情報として、Λを基地局11へ送信(フィードバック)する(ステップS140)。以上、ステップS140迄は、ユーザ端末21の動作である。
【0050】
なお、CQI情報は、一般に、適応変調を実施するために用いられるチャネル品質情報であり、例えば、変調方式と符号化率により設定される。本実施形態では、MU−MIMOを行うために、CQI情報としてΛに関する情報もフィードバックされる。
【0051】
続いて、図4を参照し、ユーザ端末21からフィードバック情報を取得したときの基地局11の処理等を説明する。なお、基地局11は、図示するように、フィードバック情報から、ユーザ端末21−1に対するPrecodingであるW、ユーザ端末21−2に対するPrecodingであるWを作成し、Wを用いてユーザ端末21−1へデータを送信し、Wを用いてユーザ端末21−2へデータを送信するが、ここではWについて説明する。
【0052】
ユーザ端末21−2からフィードバック情報(V、Λ=ΣΣ)を取得した基地局11は、取得したVの双対行列Vを求める。なお、VとVには、下記式(11)の関係がある。
【0053】
=0 … (11)
【0054】
いま、Hを下記式(12)のように定義する。なお、式中において、「X」は、「X」の上部に「〜」を付して表記する。
【0055】
【数8】

【0056】
また、Hの特異値分解は、下記式(13)で示されるものとする。
【0057】
【数9】

【0058】
ここで、上記式(12)より、下記式(14)を得る。
【0059】
【数10】

【0060】
つまり、上記式(11)〜上記式(14)に示すように、基地局11は、ユーザ端末21からのフィードバック情報から、(VΛを計算する(ステップS150)。同様に、基地局11は、(VΛを計算する(ステップS150)。
【0061】
さらに、上記式(13)より、下記式(15)を得る。
【0062】
【数11】

【0063】
よって、上記式(14)(15)より、下記式(16)を得る。
【0064】
【数12】

【0065】
ここで、上記式(16)は、左辺を特異値分解することにより右辺を得ることができることを示している。また、上記式(16)の左辺は、ユーザ端末21からフィードバックされる情報から計算することが可能である。よって、上記式(16)から、Vを得ることが可能である。換言すれば、上記式(16)に示すように、基地局11は、ステップS150において計算した計算結果((VΛ)を特異値分解する(ステップS160)。同様に、基地局11は、ステップS150において計算した計算結果((VΛ)を特異値分解する(ステップS160)。
【0066】
従って、基地局11は、ユーザ端末21−1に対するPrecodingであるWを、下記式(17)に従って導出することができる(ステップS170)。同様に、基地局11は、ユーザ端末21−2に対するPrecodingであるWを下記式(18)に従って導出することができる(ステップS170)。なお、上記式(12)(13)より、H=UΣ、H=UΣである。
【0067】
【数13】

【0068】
以上、ステップS150からステップS170は、基地局11の動作である。
例えば、基地局11がユーザ端末21−1にデータxを送信し、ユーザ端末21−2にデータxを送信し、ユーザ端末21−1がyを受信し、ユーザ端末21−2がyを受信した場合、受信信号y、yは、W、Wを用いて、下記式(19)のように表される。
【0069】
【数14】

【0070】
いま、ユーザ端末21−1のみに着目すると上記式(19)は下記式(20)となる。
【0071】
【数15】

【0072】
上記式(20)内のHは、上記式(17)(12)(13)から、下記式(21)のように表される。また、上記式(20)内のHは、上記式(18)(8)(11)から、下記式(22)のように表される。
【0073】
【数16】

【0074】
よって、上記式(21)は、下記式(23)のように示される。
【0075】
【数17】

【0076】
そして、上記式(23)から、下記式(24)を得る。同様に、ユーザ端末21−2に対して、下記式(25)を得る。
【0077】
【数18】

【0078】
ここまで、2ユーザ端末に対して説明を行ってきたが、Nユーザ端末が多重される場合は、Nユーザ端末のフィードバック情報(V、V、…V)を用いる。即ち、上記式(12)を下記式(26)に置き換えることにより対応可能である。
【0079】
【数19】

【0080】
以上のように、当該フィードバック情報によりユーザ端末21−1およびユーザ端末21−2がお互いに干渉を与えることなくMU−MIMOを行うことができる。さらに、固有ビーム空間多重方式を用いることが出来るため、チャネル容量を最大化するために、ユーザ端末毎に無線品質に応じたレイヤ(ランク)選択、符号化変調を行うことができる。なお、本実施例では、全ランクを用いる場合について記載したが、ランク数が選択される場合は、ランク数に対応したΛの要素のみがフィードバックされる。また、V\iは、ランクに合わせて、例えば、ランクがmの場合は、Vのm列までがプリコーディングに使用される。
【0081】
なお、第1の実施形態は、FDD(Frequency Division Multiplex、周波数分割複信方式)に対して好適である。
【0082】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態について図面を参照して説明する。図5は、本発明の第2の実施形態を説明するための概略模式図である。第2の実施形態は、基地局とユーザ端末とが多:多でMIMO通信を行う基地局連携MIMOを想定した実施形態である。以下、便宜上、図5に示すように、基地局12とユーザ端末22とが2:2である場合の例を説明する(各基地局12を区別する場合、一方の基地局を基地局12−1、他方を基地局12−2と表記し、各ユーザ端末22を区別する場合、一方のユーザ端末をユーザ端末22−1、他方をユーザ端末22−2と表記する)。なお、第2の実施形態におけるユーザ端末22の機能構成は、上記第1の実施形態におけるユーザ端末21と同様であるため説明を省略する。
【0083】
図6は、本発明の第2の実施形態によるフィードバックに係る動作の一例を示すフローチャートである。具体的には、図6に示すフローチャートは、ユーザ端末22および基地局12によるフィードバック処理の流れを示すものである。なお、ユーザ端末22は、基地局12−1と基地局12−2とのセル境界付近に位置しているものとする。
【0084】
図6において、ユーザ端末22−1は、基地局12−1から送信されるパイロット信号を用いて基地局12−1とのチャネル情報を表すチャネル行列H11を取得し、基地局12−2から送信されるパイロット信号を用いて基地局12−2とのチャネル情報を表すチャネル行列H21を取得する。同様に、ユーザ端末22−2は、基地局12−1から送信されるパイロット信号を用いて基地局12−1とのチャネル情報を表すチャネル行列H12を取得し、基地局12−2から送信されるパイロット信号を用いて基地局12−2とのチャネル情報を表すチャネル行列H22を取得する(ステップS210)。
【0085】
ユーザ端末22−1は、得られたチャネル行列H11、H21から、基地局12−1と基地局12−2とを1つの基地局と想定した仮想基地局におけるチャネル行列としてチャネル行列Hを、下記式(27)により計算する。同様に、ユーザ端末22−2は、得られたチャネル行列H12、H22から、基地局12−1と基地局12−2とを1つの基地局と想定した仮想基地局におけるチャネル行列としてチャネル行列Hを、下記式(28)により計算する(ステップS215)。なお、式中において、「X」は、「X」の上部に「」を付して表記する。
【0086】
【数20】

【0087】
ここで、H^は基地局12−1と基地局12−2とをひとつの基地局と想定した場合のチャネル行列Hに該当する。このため、第2の実施形態におけるユーザ端末22−1とチャネル行列H^の関係は、第1の実施形態におけるユーザ端末21−1とチャネル行列Hの関係と同様に取り扱うことができる。また、第2の実施形態におけるユーザ端末22−2とチャネル行列H^の関係は、第1の実施形態におけるユーザ端末21−2とチャネル行列Hの関係と同様に取り扱うことができる。従って、以降の処理(ステップS220からステップS270)は、図6に示すように、基地局11に代えて仮想基地局を用いる点を除いて、図4のステップS120からステップS170と同様の処理である。
【0088】
以上のように、フィードバック情報によりユーザ端末21−1およびユーザ端末21−2がお互いに干渉を与えることなく基地局連携MU−MIMOを行うことができる。
【0089】
なお、上述の如く、CQI情報は、一般に、適用変調を実施するために用いられるが、第1の実施形態と同様、MU−MIMOを行うためにも、CQI情報としてΛをフィードバックする。
【0090】
以上の説明したように、第1の実施形態および第2の実施形態によれば、MU−MIMOにおいて、プリコーディング時に空間多重されるユーザ端末間の干渉を無くすことができるようになる。これにより、MIMO通信の特性を向上することができる。また、ブロック対角化におけるフィードバック方法を提供する。チャネル行列ではなく、VおよびΣΣをフィードバックすればよく、チャネル行列Hをフィードバックする場合に比べて、フィードバック量を削減することができる。
【0091】
(第3の実施形態)
続いて、本発明の第3の実施形態について説明する。第1、第2の実施形態はダウンリンクを想定した実施形態であったが、第3の実施形態はアップリンクを想定した実施形態である。また、本発明の第3の実施形態では、第1、第2の実施形態と同様、クローズドループMIMOとして固有ビーム空間多重(E−SM)を適用した場合を想定し、フィードバック手法としてExplicit Feedbackを想定する。
【0092】
また、第3の実施形態では、基地局1台、ユーザ端末2台(各ユーザ端末を区別する場合、一方のユーザ端末をユーザ端末23−1、他方をユーザ端末23−2と表記する)のMU−MIMOを想定する。第3の実施形態においてユーザ端末は、第1、第2の実施形態におけるユーザ端末の構成に加えて、パイロット信号生成部を備える。ユーザ端末が備えるパイロット信号生成部は、基地局が当該ユーザ端末の上りチャネル行列Hを取得するためのパイロット信号を生成し、生成したパイロット信号を、定期的あるいは基地局から要求があった際に無線インターフェース部から基地局へ送信する。
【0093】
図7は、本発明の第3の実施形態によるフィードバックに係る動作の一例を示すフローチャートである。図7において、基地局は、ユーザ端末23−1、ユーザ端末23−2から送信されるパイロット信号を用いて、当該ユーザ端末とのチャネル情報を表すチャネル行列H、Hを取得する(ステップS310)。
【0094】
基地局は、上記式(7)(8)と同様、下記式(29)(30)の如くチャネル行列H、Hを特異値分解する(ステップS320)。
【0095】
=UΣ … (29)
=UΣ … (30)
【0096】
基地局は、Vをユーザ端末23−1へフィードバックし、Vをユーザ端末23−2へフィードバックする(ステップS330)。以上、ステップS330迄は、基地局の動作である。
【0097】
ユーザ端末23−1は、当該ユーザ端末23−1が保持するチャネル行列Hとフィードバック情報Vを乗算することにより得られる行列Hを下記式(31)の如く特異値分解する(ステップS340)。
【0098】
【数21】

【0099】
ユーザ端末23−1は、フィードバック情報Vと上記Vとから、下記式(32)の如くプリコーディングWを導出する(ステップS350)。同様に、ユーザ端末23−2は、下記式(33)の如くプリコーディングWを導出する(ステップS350)。以上、ステップS340およびステップS350は、ユーザ端末の動作である。
【0100】
【数22】

【0101】
なお、第3の実施形態は、下り回線のチャネル情報を上り回線のチャネル情報として用いることができるTDD(Time Division Multiplex、時分割複信方式)に対して好適である。
【0102】
なお、上記第1、第2、第3の実施形態では、フィードバック手法として、Explicit Feedbackを想定したが、この限りではなく、例えば、Implicit Feedback、あるいは、Implicit FeedbackとExplicit FeedbackのひとつであるAnalog Feedbackを組み合わせた手法(Hybrid Feedback)を用いてもよい。この場合、Implicit Feedbackに加えて、Implicit Feedbackにおけるフィードバック情報と実データ(実環境)との差分値をAnalog Feedbackにてフィードバックする。
【0103】
なお、本発明の各実施形態によるユーザ端末または基地局の各処理を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、当該記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、本発明の各実施形態によるユーザ端末または基地局に係る上述した種々の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0104】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0105】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0106】
11、12…基地局
21、22…ユーザ端末
100…制御部
110…無線インターフェース部
120…パケット処理部
130…プリコーディング行列生成部
140…上位レイヤ処理部
150…パイロット信号生成部
200…制御部
210…無線インターフェース(フィードバック情報送信部)
220…ユーザデータ処理部
230…制御データ処理部
234…チャネル情報取得部
236…フィードバック情報生成部
240…上位レイヤ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局とユーザ端末とが1:n(nは2以上の整数)で通信を行うMU−MIMOにおける通信制御方法であって、
各ユーザ端末は、
チャネル行列(H(iは2以上n以下の整数))を特異値分解(H=UΣ)して、直交行列(V)および対角行列(Σ)をそれぞれ取得し、
フィードバック情報として、前記直交行列(V)、および、前記対角行列(Σ)と前記対角行列(Σ)をエルミート転置したエルミート行列(Σ)とから算出した値(Λ=ΣΣ)をそれぞれ基地局に送信し、
基地局は、
前記直交行列(V)(jは2以上n以下の整数、j≠i)から得られる双対行列であって、
【数1】

を満たす双対行列である
【数2】

と、ユーザ端末からのフィードバック情報から得られる行列の乗算値である
【数3】

を特異値分解して得られる右特異行列(V)とから、
各ユーザ端末に用いるプリコーディング行列W
【数4】

を算出する
ことを特徴とする通信制御方法。
【請求項2】
MU−MIMOにおいて、基地局は各ユーザ端末から送信されるパイロット信号から、当該ユーザ端末のチャネル行列Hを取得し、当該ユーザ端末と空間多重を行うユーザ端末のチャネル行列Hから特異値分解することにより得られるVを当該ユーザ端末へフィードバックし、当該ユーザ端末のチャネ行列Hとフィードバック情報Vから、プリコーディング行列としてW=V\iを用いることを特徴とする通信制御方法。
【請求項3】
各ユーザ端末からのフィードバック情報VおよびΛから、
【数5】

を計算し、当該計算結果を特異値分解することにより得られるVから、当該ユーザ端末に対するプリコーディング行列W=V\iを算出することを特徴とする基地局。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−172067(P2011−172067A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34733(P2010−34733)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】