説明

通信回路、及び該通信回路を有した視覚再生補助装置

【課題】 本発明は、消費電力を抑えることができるとともに簡単な構成にて通信を行うことのできる通信回路、及び該通信回路を用いた視覚再生補助装置を提供する。
【解決手段】 交流により電力を伝送する電力伝送回路と、ブリッジ整流回路を有し電力伝送回路によって伝送される電力を受信する電力受信回路とを有し、電力受信側から電力伝送側に所定の信号を送信するための通信回路において、ブリッジ整流回路は全波整流回路と偶数次の高調波を発生させるための半波整流回路とを選択的に切り換えるためのスイッチ手段を有し、スイッチ手段によって切り換えられる半波整流回路によって発生する偶数次の高調波を所定の信号として電力受信回路側から電力伝送回路側に対して送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力及び情報伝達のための通信回路及び患者の視覚の一部又は全部を再生する視覚再生補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFID(Radio Frequency Identification)技術を用いて、非接触状態で、受信装置、送信装置の間で、情報や電力のやり取りをするものが知られている。(例えば、特許文献1参照)。このような装置は、無線ICタグとも呼ばれ、応用範囲が広く、送信側(装置本体)と受信側(ICタグ側)とが相互インダクタンスによる結合回路にて電気的に結合され、電磁誘導にて情報及び電力の送受信がされるようになっている。
【0003】
一方、失明治療方法の一つとして、電極を有する装置を眼内等に埋植し、視覚を形成する細胞に対して電極から刺激パルスを出力して刺激することで、失われた視覚機能の一部を代行させる視覚再生補助装置の研究がされている。このような視覚再生補助装置は、外部から画像情報を得るために患者の体外に設置される体外装置と、患者に電気刺激を与えて視覚の再生を促すために体内に設置される体内装置とから構成されている。
【0004】
このような、視覚再生補助装置は、上述した無線ICタグの技術を用いた結合回路にて体外装置と体内装置とが電気的に結合されており、電磁誘導にて電力及び情報の送受信が行われるようになっている。視覚再生補助装置においては体内装置側の動作状況を把握するために応答信号を体内装置側から体外装置側に送信できることが好ましい。このような応答信号を送信させる方法としては、例えば、体内装置に設けられた負荷変調回路の負荷抵抗の変更により生じる電圧振幅の変化を利用するものが知られている(例えば、特許文献2参照)。また、体内装置側に3次高調波の振幅を変調する回路を設け、3次高調波を応答信号として利用するものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−137779号公報
【特許文献2】特開2007−208935号公報
【特許文献3】特開2009−218847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したような視覚再生補助装置は、患者に装着されて使用することが前提であるため小型であることが好ましい。また、長時間動作させるために装置の消費電力を抑制しつつ、効率よく動作させることが求められている。
【0007】
特許文献2の構成のように、負荷抵抗の変化により応答信号を発生させる方法では、視覚再生補助装置の駆動及び制御に必要な負荷以外の負荷による消費電量が発生してしまい効率の良い動作を行わせることが難しい。また、特許文献3の構成では、応答信号に3次の高調波を利用することで、応答信号の発生のための電力消費が抑えられているが、体内装置側には3次の高調波を変調するための共振回路を作り込まなくてはならず、体内装置の回路構成が複雑になることで、体内装置の小型化に不利な構成となっていた。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、消費電力を抑えることができるとともに簡単な構成にて通信を行うことのできる通信回路、及び該通信回路を用いた視覚再生補助装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0010】
(1) 交流によって電力を伝送する電力伝送回路と、ブリッジ整流回路を有し前記電力伝送回路によって伝送される前記電力を受信する電力受信回路とを有し、電力受信側から電力伝送側に所定の信号を送信するための通信回路において、前記ブリッジ整流回路は全波整流回路と偶数次の高調波を発生させるための半波整流回路とを選択的に切り換えるためのスイッチ手段を有し、該スイッチ手段によって切り換えられる前記半波整流回路によって発生する前記偶数次の高調波を所定の信号として前記電力受信回路側から前記電力伝送回路側に対して送信することを特徴とする。
(2) (1)の通信回路において、前記電力伝送回路は1次コイルを有し、前記電力受信回路は2次コイルを有し、前記1次コイル及び2次コイルによる電磁誘導を用いて前記電力を伝送することを特徴とする。
(3) (2)の通信回路において、前記電力伝送回路は前記スイッチ手段によって切り換えられた前記半波整流回路による整流により発生する偶数次の高調波を検出する検出回路を持ち、該検出回路によって検出される前記偶数次の高調波によって前記所定の信号を受信することを特徴とする。
(4) 外部からの画像情報を得るために患者の体外に設置される体外装置と、眼内に埋植される電極を備え,前記電極から被検者眼の視覚を形成する細胞に電気刺激を与えることで視覚の再生を促す体内装置と、を備える視覚再生補助装置において、前記体外装置から前記体内装置へと電力を伝送し、前記体内装置から前記体外装置へと信号を送信するために(2)又は(3)に記載の通信回路を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
消費電力を抑えることができるとともに簡単な構成にて通信を行うことのできる通信回路、及び該通信回路を用いた視覚再生補助装置を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。なお、本発明の通信回路を用いた一つの実施形態として、以下に視覚再生補助装置を例に挙げて説明する。図1は視覚再生補助装置の外観の概略構成図、図2は視覚再生補助装置の体内装置の概略構成図である。
【0013】
視覚再生補助装置1は、外界を撮影するための体外装置10と網膜を構成する細胞に電気刺激を与え、視覚の再生を促す体内装置20とからなる。
体外装置10は、患者が掛けるバイザー11と、バイザー11に取り付けられるCCDカメラ等からなる撮影装置12と、外部デバイス13、送受信手段である1次コイルL1とを備える。外部デバイス13は、動作制御を行うための制御部13aと、直流電圧を供給するための直流電源13bと、外部デバイス13と1次コイルL1とで電力及び情報のやりとりを行うための送受信部13cとから構成される。また、送受信部13cと1次コイルL1とで電力伝送回路100が構成され、本実施形態では、体内装置20への電力伝送と情報通信とが電磁誘導にて行われるようになっている。なお、1次コイルL1の中心には図示を略す磁石が取り付けられており、後述する送受信手段である2次コイルL10との位置固定に使用される。
【0014】
体内装置20は、送受信手段である2次コイルL10を有し、体外装置10から送信された電力及び情報を電磁誘導にて受信するための送受信部30としての電力受信通信回路200と、網膜を構成する細胞を電気刺激するための刺激部40とから構成される。
【0015】
なお、体外装置10の1次コイルL1と体内装置20の2次コイルL10により結合回路が構成され、電磁誘導にて電力伝送回路100と電力受信通信回路200とで電力の双方向の通信が行われるようになっている。なお、本実施形態では、電力伝送回路100から送信される電力及び情報が電力受信通信回路200にて受信される他、電力受信通信回路200から送信された体内装置20の応答信号(詳細な説明は後述する)が電力伝送回路100で受信されるようになっている。なお、電力伝送回路100と電力受信通信回路200とで構成される通信回路300の構成の詳細な説明は後述する。
【0016】
体外装置10のバイザー11は眼鏡形状をしており、図1に示すように、患者の眼前に装着して使用される。患者に視認される被写体は、バイザー11の前面に取り付けられた撮影装置12で撮影される。
【0017】
制御部13aから出力された電気刺激パルス用データ等の情報は、電力伝送回路100に入力される。電力伝送回路100は、所定の周波数の交流電圧(搬送波)を発生する。そして、制御部13aで作成した電気刺激パルス用データに基づき搬送波の振幅変調を行う。これにより、体外装置10から体内装置20側へ電力及び情報を送信するための電磁波である体内装置駆動信号(以下、駆動信号と記す)が生成される。電力伝送回路100で生成された駆動信号は、1次コイルL1と2次コイルL10とによるコイルリンクによる電磁誘導で体外装置10から体内装置20側に送信(無線通信)される。
【0018】
体内装置20の送受信部30である電力受信通信回路200は体外装置10からの駆動信号(体内装置20で利用される情報を含む)を受信する役目を有すると共に、体内装置20側の動作状態(正しく動作されているか等)を表す情報である応答信号を体外装置10側へと送信する送信部として機能する。
【0019】
電力受信通信回路200が有する2次コイルL10による駆動信号の受信によって、体内装置20を駆動するための直流電源が生成される。また、電力受信通信回路200は駆動信号に重畳されている情報(電気刺激パルス用データ)を抽出する。そして、抽出された情報に基づき、視覚を得るための電気刺激パルス信号及びこの信号に対応する電極を指定する電極刺激信号とを生成して、刺激部40へと送信する。また、電力受信通信回路200は体内装置20の動作状態に基づき応答信号を送信する役割を有する。
なお、電力受信通信回路200にて応答信号を送信する方法の詳細な説明は後述する。
【0020】
以上のような電力受信通信回路200は、樹脂モールド33内に形成される。なお、体内装置20の2次コイルL10には1次コイルL1とを位置固定させるための図示なき磁石が設けられている。更には、電力受信通信回路200と接続される不関電極34は、基板33から離れた位置に配置できる構成とされる。
【0021】
体内装置20の刺激部40は、金・白金等の生体適合性が高い貴金属にて形成され,電気刺激パルス信号を出力するための電極41、刺激制御回路42が設けられている。各電極41は、刺激制御回路42に接続されており、刺激制御回路42は電力受信通信回路200からの電極指定信号に基づき、対応する電気刺激パルス信号を電極41の各々へ振り分ける制御手段として機能する。基板43は折り曲げ可能な材料を長板状に加工したものをベース部としている。基板43上には電極41が配置され、刺激制御回路42がフリップチップ実装されており、電極41と刺激制御回路42とはリード線44にて電気的に接続されている。なお、電力受信通信回路200の動作制御手段である制御部32、刺激制御回路42にて体内装置20の制御手段が構成される。
【0022】
また、電力受信通信回路200と刺激部40とは複数のワイヤー50で電気的に接続されている。複数のワイヤー50はチューブ51によって一つに束ねられていることによって、取り扱いがし易くなっている。なお、各ワイヤー50は接続部分を除いて絶縁被膜が施されている。また、図示は省略するが、体内装置20は電極41と不関電極34の先端以外の構成部分の全てに生体適合性の高いコーティング層が形成されている。
【0023】
ここで、体外装置10と体内装置20とで相互に無線通信を行うための通信回路300全体の構成を説明する。図3は通信回路300の構成を説明するための回路ブロック図である。通信回路300は、体外装置10側となる、1次コイルL1を有する電力伝送回路100と、体内装置20側となる、2次コイルを有する電力受信通信回路200にて構成される。
【0024】
電力伝送回路100は、駆動信号発生器110、駆動信号送信回路120、高調波検出回路140、応答信号検出回路150とから構成され、各回路は互いに電気的に接続されている。
駆動信号発生器110は、直流電源13bから供給される直流電圧を所定の周波数帯域の交流電圧(以下、搬送波と記す)に変換する周知のインバータ回路を備える。また、駆動信号発生器110は、振幅変調により情報(電気刺激パルス用データ等)を搬送波に重畳させて、体内装置20に電力及び情報を送信させる駆動信号を生成する周知の振幅変調器を備える。
【0025】
駆動信号送信回路120は、(可変)コンデンサC1と1次コイルL1の直列共振回路で構成されている。なお、コンデンサC1及び1次コイルL1による直列共振回路の共振周波数は、駆動信号発生器110から出力される駆動信号(搬送波)の周波数に一致されるように決定されるが、駆動信号送信回路120は駆動信号を効率的に送信するための回路であり、回路構成はこれに限定されるものではない。駆動信号発生器110で生成された駆動信号は駆動信号送信回路120を介して、好適に体内装置20側へと無線送信されるようになる。
【0026】
高調波検出回路140は、体内装置20から送信された応答信号である2次高調波を受信する役割を有する。高調波検出回路140は、複数の(可変)コンデンサC1,C2,C3、1次コイルL1,コイルL2によって構成され、所定の2次高調波に共振するようになっている。具体的には、コンデンサC2,コイルL2は搬送波の周波数に直列共振して搬送波を抑制する。コンデンサC1,C2,C3,コイルL1,L2にてたとえば2次高調波の周波数に共振し2次高調波の振幅が最大となるように調整される。これにより、2次高調波の成分のみが好適に抽出されるようになる。
【0027】
応答信号検出回路150は、抵抗R1と、検波回路151とから構成される。抵抗R1は高調波検出回路140のQ値を制限し、信号レベルと通信速度を調整する。なお、抵抗R1の値は、電力伝送回路100が安定して動作するように決定される。検波回路151は、2次高調波の振幅変化を2値化してデジタル信号(0、1)に変換する。検波回路151で生成されたデジタル信号は制御部13aに入力される。これにより、体外装置10側では応答信号に基づき体内装置20の動作状態が検知されるようになる。なお、高調波検出回路140の出力に搬送波成分が多すぎる場合には検波回路151にハイパスフィルターまたはノッチフィルターを追加して搬送波を抑圧してもよい。
【0028】
一方、電力受信通信回路200は、駆動信号受信部210、復調器である振幅変化検出器220、整流回路230、電源部240、電力受信通信回路200の動作制御を行うための制御部32とから構成されており、各回路は互いに電気的に接続されている。
【0029】
駆動信号受信部210は、(可変)コンデンサC10と2次コイルL10による並列共振回路にて構成されており、体外装置10からの駆動信号は2次コイルL10による電磁誘導にて受信される。なお、コンデンサC10と2次コイルL10による並列共振回路の共振周波数は駆動信号(搬送波)の周波数に一致されるように決定される。
【0030】
振幅変化検出器220は周知の検波器(復調器)と2値化回路にて構成されて、駆動信号受信部210に並列接続され、駆動信号受信部210で受信された駆動信号の振幅変化から電気刺激パルス用データを抽出する。振幅変化検出器220からの信号は、振幅変化検出器220に接続された刺激制御回路42に入力される。
【0031】
整流回路230は駆動信号受信部210に並列接続されており、駆動信号受信部210で受信された駆動信号(搬送波)を直流電圧に整流(変換)するコンバータとして機能する。なお、本実施形態では整流回路230は、4つのダイオードD10、D11、D12、D13と、トランジスタ又はサイリスタ等による半導体スイッチ(電子式の高周波スイッチ)との組み合わせで構成されているが機能を実現するための回路構成はこれに限定されない。
【0032】
制御部32により、2つのスイッチSW10、SW11のON(接触状態)とOFF(開放状態)とが切換えられることで、全波整流回路と半波整流回路とが切換えられるようになる。具体的には、スイッチSW10,11がONの時には、4つのダイオードD10〜D13によって、全波整流回路であるブリッジ整流回路が構成される。一方、スイッチSW10、11がOFFの時には、ダイオードD11,D12によって半波整流回路が構成される。
【0033】
なお、本実施形態ではスイッチSW10,11として半導体スイッチが用いられているが、これに限るものではない。スイッチSW10,11には、ONとOFFとを高速で切換える事ができるものが選択されれば良く、機械的なスイッチが用いられても良い。
【0034】
また、本実施形態では2つのスイッチSW10,11とが同時にON,OFFされることで、整流回路230が全波整流回路と半波整流回路とで切換えられているが、これに限られるものではない。例えば、整流回路230の全波整流回路と半波整流回路とは1つのスイッチ(ここでは、スイッチSW10又はスイッチSW11)により切換えることもできる。ただし、この場合にはコモンモードノイズが発生する可能性があるので、ノイズを除去するための図示を略す周知のノイズ除去フィルターを電力受信通信回路200に設けるようにしても良い。
【0035】
ところで、交流電圧を直流電圧に変換する際に、交流電圧が非線形素子であるダイオード等に印加されることで高調波が発生することが知られている。本実施形態の場合、整流回路230が全波整流回路のときは、電磁波(駆動信号)がダイオードD10〜D13に加わることで、奇数次の高調波が主に発生し、偶数時の高調波はほとんど発生しない。整流回路230が半波整流回路のときは波形が非対称となり多くの偶数次の高調波が発生する。
【0036】
そこで、本実施形態では、全波整流と半波整流とで偶数次の高調波のレベルが大きく変化することを利用する。つまり、通常の駆動信号の送信では、整流回路230を全波整流回路にして電力が効率よく生成されるようにする。そして、応答信号を送信するタイミングで、半波整流回路に切換える。そして、半波整流によって発生した偶数次の高調波(本実施形態では2次高調波)を体内装置20の動作状態を示す応答信号として送信させるようにする。
【0037】
このようにすると、応答信号を発生させるための回路を別途設ける必要が無くなり、体内装置20の回路構成が簡単になることで、体内装置20の小型化に有利になる。
【0038】
また、応答信号に高調波を利用することで、負荷抵抗の変化による応答信号の発生方法と比べて、電力の消費が抑えられ、体外装置10の直流電源13bから供給される電力をより効率良く使用することができ、視覚再生補助装置1を長時間使用することができるようになる。更には、応答信号に高調波を利用することで、1次コイルL1と2次コイルL10の結合状態の変化による影響を受けにくくなり、より正しく応答信号の検出を行うことができるようになる。
【0039】
電源部240はコンデンサC11等からなり、整流回路230に並列接続されている。整流回路230で整流された直流電圧がコンデンサC11に加わることで充電(平滑化)されて、体内装置20の電源として使用されるようになる。
【0040】
なお、以上のような構成を備える視覚再生補助装置1の体内装置20は、患者の体内の所定位置に設置される。図4は患者眼Eに刺激部40を設置した一例を示す図である。この場合、基板43上に形成される電極41を脈絡膜E2に接触させた状態で、基板43の一部は、強膜E3と脈絡膜E2との間に設置される。また、基板43の刺激制御回路42部分は、強膜E3の外側に置かれる。この基板43の設置は、強膜E3の一部を切開して強膜ポケットを形成させておき、この強膜ポケット内(脈絡膜E2の外側)に基板43の電極部分を挿入し設置後、縫合等により基板43を固定することにより行われる。
【0041】
なお、不関電極34は眼内中央の前眼部よりの位置に置かれる。これによって、網膜E1は電極41と不関電極34(対向電極)との間に位置することとなり、電極41からの電気刺激パルス信号が効率的に網膜を通ることとなる。
【0042】
2次コイルL10は、1次コイルL1からの駆動信号を受信可能な生体内の所定位置に設置される。例えば、図1に示すように、患者側頭部の皮膚の下に2次コイルL10を埋め込むと共に、皮膚を介して2次コイルL10と対向する位置に1次コイルL1を設置する。2次コイルL10には磁石が取り付けられており、埋植された2次コイルL10上に1次コイルL1が位置されることで、磁力にて1次コイルL1が側頭部で保持されるようになる。
【0043】
なお、ワイヤー50を束ねるチューブ51は、側頭部に埋め込まれた電力受信通信回路200から側頭部に沿って皮膚下を患者眼に向かって延び、患者の上まぶたの内側を通して眼窩に入れられる。眼窩に入れられたチューブ51は、強膜E3の外側を通り、基板43に設置された刺激制御回路42に接続される。
【0044】
なお、本実施形態では、体内装置20(刺激部40)の設置位置を強膜E3側に位置させて、強膜側(脈絡膜側)から網膜E1を構成する細胞を電気刺激する構成としたが、これに限るものではない。患者眼の網膜を構成する細胞を好適に刺激することが可能な位置に電極を設置することができればよい。例えば、体内装置を患者眼の眼内(網膜上や網膜下)に置き、電極が形成されている基板先端部分を網膜下(網膜と脈絡膜との間)や網膜上に設置させるような構成とすることもできる。
【0045】
次に、以上のような構成を備える視覚再生補助装置の視覚再生の動作を、図3の回路図及び図5の制御系のブロック図を用いて説明する。撮影装置12で撮影された被写体の撮影データ(画像データ)は、制御部13aに送られる。制御部13aは、撮影された被写体を患者が認識するために必要となる所定のデータパラメータ(電気刺激パルス用データ)に変換する。また、直流電源13bからは直流電圧が供給され、電気刺激パルス用データ及び直流電圧は、電力伝送回路100の駆動信号発生器110に入力される。
【0046】
駆動信号発生器110は、直流電圧を所定の周波数の交流電圧(搬送波)に変換すると共に、電気刺激パルス用データに基づき振幅変調を行い、搬送波に電気刺激パルス用データの情報を重畳させて駆動信号を生成する。駆動信号は1次コイルL1と2次コイルL10による電磁誘導にて体内装置20側へ送信される。
【0047】
体内装置20では、電力受信通信回路200の2次コイルL10で受信された駆動信号は、整流回路230に入力されて直流電圧に変換される。整流回路230で変換された直流電圧は、電源部240のコンデンサC11に充電される。これにより、体内装置20側で電力が使用できるようになる。
【0048】
一方、駆動信号の振幅変化は、振幅変化検出器220で検出されて、刺激制御回路42に入力される。刺激制御回路42は、振幅変化検出器220からの信号に基づき、電気刺激パルス信号の強度と電極指定信号とを生成する。そして、刺激制御回路42は、生成した電気刺激パルス信号及び電極指定信号等に基づき、電極41から双極性の電気刺激パルス信号を同時に或いは個別に出力させる。複数の電極41から電気刺激パルス信号を同時に出力する場合には、視覚の再生を妨げない程度の同時出力にて行う。各電極41から出力する電気刺激パルス信号によって網膜を構成する細胞が電気刺激され、患者は視覚(光覚)を得る。
【0049】
以上のような、網膜を構成する細胞を刺激する一連の動作中(又は合間)に、電力受信通信回路200(制御部32)は体内装置20の動作情報である応答信号を体外装置10へと送る。例えば、応答信号は所定の時間間隔(例えば、1秒間に20回)で送信されるように予め決定されており、制御部32は、これに応じて所定のステップでスイッチSW10、11を同時にON/OFFにすることで、整流回路230を切換える。整流回路230が半波整流回路に切換えられた状態で駆動信号(搬送波)が入力されると、2次高調波が発生される。
【0050】
発生した2次高調波は、1次コイルL1と2次コイルL10による電磁誘導で体外装置10に送信される。このとき、搬送波は、コンデンサC2とコイルL2とによる直列共振回路にて抑圧されるので、2次高調波はコンデンサ(C1、C2、C3)とコイル(L1、L2)による並列共振回路にて好適に抽出されるようになる。
【0051】
以上のようにして、高調波検出回路140で抽出された2次高調波は、応答信号検出回路150に入力される。応答信号検出回路150では、アナログ信号の2次高調波を、周知の方法により2値化して、デジタル信号(0、1)に変換する。生成されたデジタル信号は制御部13aに入力される。
【0052】
制御部13aでは、所定の時間間隔(ステップ)で検出される応答信号の有無によって、体内装置20の動作状態を検知する。つまり、所定のステップで応答信号が正しく受信される間は、体内装置20は正常に動作していると判断され、視覚再生の動作が継続される。一方、所定時間が経過しても応答信号が検出されないときは、体内装置20が存在しないと判断される。
【0053】
この場合、制御部13aは電源13bからの電力供給を停止させる制御を行うようにしても良い。このようにすると、正常に動作していない体内装置20に電力が継続して供給されることが停止され、患者への悪影響及び電力の消費が抑えられるようになる。
【0054】
以上のように、本実施形態では、整流回路230を全波整流回路と半波整流回路とで切換えるだけで発生する偶数次の高調波を応答信号として利用することで、体内装置20に応答信号を発生させるための回路を別途設ける必要がなくなり、体内装置20の回路構成が簡単になることで小型化に有利になる。また、2次高調波を応答信号に利用するため、応答信号を発生させるための余分な電力消費が抑制され、体外装置10の電源13bから供給される電力をより効率良く利用できるようになり、長期間安定した使用状態を保つことができるようになる。
【0055】
なお、本実施形態では2次の高調波の発生により体外装置側への応答信号を生成する場合を例に挙げて示しているが、これに限られるものではない。これ以外にも4次高調波、6次高調波等の偶数次の高調波を用いることができる。この場合には、上記の高調波検出回路140の並列共振回路の共振周波数を、体内装置20から送信される偶数次の高調波に一致するように決定されればよい。
【0056】
また、電力伝送回路100に、偶数次の高調波を好適に抽出するための図示を略す高調波抽出フィルターが設けられても良い。高調波抽出フィルターとしては、例えば、搬送波を抑制するノッチフィルター、高調波を通過させるハイパスフィルター等の特定の高調波を通過させる周知のバンドパスフィルターが用いられる。高調波抽出フィルターは、高調波検出回路140と応答信号検出回路150とに接続され、所定の偶数次の高調波のみを抽出する役割を有する。これにより、高調波検出回路140への入力信号の内、所定の偶数次の高調波以外のノイズとなる周波数成分が精度良く取り除かれ、より正確に応答信号を生成することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】視覚再生補助装置の外観の概略構成図である。
【図2】視覚再生補助装置の体内装置の概略構成図である。
【図3】通信回路の構成を説明するための回路ブロック図である。
【図4】患者眼に刺激部を設置した一例を示す図である。
【図5】制御系のブロック図である。
【符号の説明】
【0058】
1 視覚再生補助装置
10 体外装置
20 体内装置
100 電力伝送回路
110 駆動信号発生器
120 駆動信号送信回路
140 高調波検出回路
150 応答信号検出回路
200 電力受信通信回路
210 駆動信号受信部
220 振幅変化検出器
230 整流回路
240 電源部
300 通信回路
SW10、SW11 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流によって電力を伝送する電力伝送回路と、ブリッジ整流回路を有し前記電力伝送回路によって伝送される前記電力を受信する電力受信回路とを有し、電力受信側から電力伝送側に所定の信号を送信するための通信回路において、前記ブリッジ整流回路は全波整流回路と偶数次の高調波を発生させるための半波整流回路とを選択的に切り換えるためのスイッチ手段を有し、該スイッチ手段によって切り換えられる前記半波整流回路によって発生する前記偶数次の高調波を所定の信号として前記電力受信回路側から前記電力伝送回路側に対して送信することを特徴とする通信回路。
【請求項2】
請求項1の通信回路において、前記電力伝送回路は1次コイルを有し、前記電力受信回路は2次コイルを有し、前記1次コイル及び2次コイルによる電磁誘導を用いて前記電力を伝送することを特徴とする通信回路。
【請求項3】
請求項2の通信回路において、前記電力伝送回路は前記スイッチ手段によって切り換えられた前記半波整流回路による整流により発生する偶数次の高調波を検出する検出回路を持ち、該検出回路によって検出される前記偶数次の高調波によって前記所定の信号を受信することを特徴とする通信回路。
【請求項4】
外部からの画像情報を得るために患者の体外に設置される体外装置と、
眼内に埋植される電極を備え,前記電極から被検者眼の視覚を形成する細胞に電気刺激を与えることで視覚の再生を促す体内装置と、を備える視覚再生補助装置において、
前記体外装置から前記体内装置へと電力を伝送し、前記体内装置から前記体外装置へと信号を送信するために請求項2又は請求項3に記載の通信回路を備えることを特徴とする視覚再生補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−239030(P2011−239030A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106520(P2010−106520)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】