説明

通信性能チェッカ

【課題】伝送路上で伝送信号を受信する地点におけるノイズの電力を評価し、1台の装置で伝送信号の受信可否を簡易に評価することを可能にする。
【解決手段】通信性能チェッカ10は、通信に用いられる伝送路20からフィルタ回路13を通して伝送信号に影響するノイズ成分を取得する取得部111を備える。演算部112は、伝送路20についてあらかじめ定められた受信電力の最小値である受信限界と、取得部111が取得したノイズ成分の電力との比率を、信号対雑音比として算出する。判断部113は、演算部112が算出した信号対雑音比をあらかじめ定められた基準値と比較することにより伝送路20においてノイズ成分を取得した位置における伝送信号の受信可否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送路上で伝送信号を受信する地点において受信の可否を判定する通信性能チェッカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、通信の可否を判定する技術として、特許文献1に記載されているように信号の受信強度を検出する技術が広く採用されている。特許文献1には、電波の強度を検出するとともに、検出した強度を表示する技術が記載されている。
【0003】
また、装置間で信号を伝送する際に、送信側の装置からの信号にパイロット信号を加算し、受信側の装置においてパイロット信号のレベルを見ることにより、送信側の異常の有無などを判定する技術も知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−246843号公報
【特許文献2】特開2001−244898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1と特許文献2とに記載された技術は、いずれも送信側の装置と受信側の装置とを用いて、受信側の装置で得られる信号電力に基づいて通信の可否を判定している。したがって、必ず2台の装置が必要であって、1台の装置のみで通信の可否を判定することはできないという問題がある。
【0006】
また、集合住宅などにおいて構内網の通信路を構築するような場合、受信側の装置は容易に設置できるとしても、送信側の装置を設置する場所は、電気室などであって立ち入りが制限されていることがある。そのため、通信の可否を1台の装置で行えるようにすることが要望されている。
【0007】
さらに、特許文献1、2に記載された技術では、受信強度のみを検出しているから、ノイズの影響による受信可否については検証することができない。ノイズの影響は、スペクトルアナライザを用いることにより確認することが可能であるが、機材が大がかりになるという問題があり、加えて、測定装置の受信インピーダンスが実機とは異なるから、測定結果に十分な信頼性が得られないという問題もある。さらに、スペクトルアナライザを用いてノイズを計測するには、熟練を要するとともに、測定に時間がかかるという問題もある。
【0008】
本発明は、伝送路上で伝送信号を受信する地点におけるノイズの電力を評価することにより、1台の装置で伝送信号の受信可否を簡易に評価することを可能にした通信性能チェッカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る通信性能チェッカの一形態は、通信に用いられる伝送路から伝送信号に影響するノイズ成分を取得する取得部と、前記伝送路についてあらかじめ定められた受信電力の最小値と前記取得部が取得したノイズ成分の電力との比率を信号対雑音比として算出する演算部と、前記演算部が算出した前記信号対雑音比をあらかじめ定められた基準値と比較することにより前記伝送路においてノイズ成分を取得した位置における伝送信号の受信可否を判定する判断部とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る通信性能チェッカの別形態は、前記伝送信号と等価な仮想信号を生成する信号生成部と、通信に用いられる伝送路から伝送信号に影響するノイズ成分を取得する機能と、前記仮想信号を取得する機能とを有した取得部と、前記取得部が取得した前記仮想信号の信号電力が前記伝送路についてあらかじめ定められた受信電力の最小値であるときに、前記仮想信号の信号電力と前記取得部が取得したノイズ成分との比率を信号対雑音比として算出する演算部と、前記演算部が算出した前記信号対雑音比をあらかじめ定められた基準値と比較することにより前記伝送路においてノイズ成分を取得した位置における伝送信号の受信可否を判定する判断部とを備えることを特徴とする。
【0011】
この通信性能チェッカにおいて、前記信号生成部から出力される前記仮想信号が通過するボルテージフォロワからなるバッファと、前記伝送路から取得するノイズ成分と前記バッファから出力される前記仮想信号とを加算する加算器とをさらに備えることが好ましい。
【0012】
この通信性能チェッカにおいて、前記仮想信号の信号電力を調節するレベル制御部をさらに備えることが好ましい。
【0013】
この通信性能チェッカにおいて、前記伝送信号の変調方式が複数種類から選択され、かつ変調方式に応じて信号対雑音比に対する基準値が異なる場合に用いられ、変調方式に基準値を対応付けて記憶させたルックアップテーブルをさらに備え、前記判断部は、前記演算部が算出した信号対雑音比を前記ルックアップテーブルに記憶された前記基準値と比較することにより適正な変調方式を選択する機能を有することが好ましい。
【0014】
この通信性能チェッカにおいて、前記取得部は、取得期間において前記伝送路からノイズ電力を所定の時間間隔で複数回計測し、前記演算部は、信号対雑音比の分布を求め、前記判断部は、前記演算部が求めた信号対雑音比の分布から求めた判定閾値を前記ルックアップテーブルに照合する信号対雑音比として用いることが好ましい。
【0015】
この通信性能チェッカにおいて、前記判断部は、変調方式を時間帯に対応付けたタイムスケジュールを記憶する機能と、タイムスケジュールに従って変調方式を選択する機能とをさらに有することが好ましい。
【0016】
この通信性能チェッカにおいて、前記判断部の判断結果を提示する報知装置をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の構成によれば、伝送路上で伝送信号を受信する地点におけるノイズの電力を評価することにより、1台の装置で伝送信号の受信可否を評価することが可能になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1を示すブロック図である。
【図2】同上の動作説明図である。
【図3】実施形態2を示すブロック図である。
【図4】実施形態3を示すブロック図である。
【図5】実施形態4を示すブロック図である。
【図6】同上の動作説明図である。
【図7】実施形態5を示すブロック図である。
【図8】同上の動作説明図である。
【図9】実施形態6を示す動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に説明する通信性能チェッカは、伝送路上で伝送信号を受信する地点において、ノイズの電力を評価することにより、伝送信号の受信可否を簡易に判定する機能を備える。伝送路は、基本的には、経路が既知である建物内の有線伝送路を想定している。ただし、建物外であっても、DSLやCATVのような公衆網を構築する有線伝送路、特定地域の遠隔監視制御を行うための有線伝送路のように、伝送路上で受信地点における伝送信号の最小電力が保証されている場合には、以下に説明する技術を採用可能である。すなわち、伝送路上で許容される受信電力の最小値(以下、「受信限界」という)が定められていることを前提条件とする。
【0020】
伝送路に接続される通信装置は、伝送路を伝送される伝送信号を用いてデータを授受するために、データと伝送信号との相互変換を行う変復調機能を備えている。変調方式は、QAM、QPSK、BPSKなどのデジタル変調方式から選択される。また、以下の実施形態は、PLC(Power Line Communication)による通信を想定しているが、他の通信方式を用いる場合も同様の技術を採用することが可能である。
【0021】
(実施形態1)
本実施形態は、以下に説明する実施形態の基本構成であり、送信側の出力電力(以下、「送信電力」という)と伝送路上で許容される最大の減衰量(以下、「許容減衰量」という)とが定められていると仮定している。すなわち、受信限界は、送信電力から許容減衰量を減算することにより求められる。許容減衰量は、過去の施工事例において計測された結果に基づいて定められ、建物の態様(床面積、階数、用途など)が決まれば、許容減衰量が推定される。言い換えると、受信限界は、伝送路についてあらかじめ定められた受信電力の最小値に相当する。
【0022】
図1に示すように、通信性能チェッカ10は、マイコンを主なハードウェア要素として備えた判定処理部11と、伝送路20からノイズ成分の電力を判定処理部11に取り込むためのフロントエンド回路12およびバンドパスフィルタからなるフィルタ回路13とを備える。フロントエンド回路12は、通信装置に設けられるフロントエンド回路と同機能を備え、伝送路20から取り込んだ電力を増幅する。フィルタ回路13は、伝送信号の周波数帯を選択的に通過させるように通過帯域が設定されている。
【0023】
ところで、伝送路20を伝送信号が伝送されていない状態において伝送路20に存在する電力は伝送信号の送受に寄与しないノイズ成分である。変調方式にもよるが、一般的には、ノイズ成分の電力(以下、「ノイズ電力」という)が伝送信号の電力よりも大きい場合、伝送信号を伝送することができない。この知見を踏まえ、通信性能チェッカ10は、フィルタ回路13で伝送信号の周波数帯におけるノイズ成分を抽出し、判定処理部11でノイズ成分のノイズ電力を評価することにより、伝送信号の受信可否を判定するように構成される。
【0024】
したがって、判定処理部11は、フィルタ回路13を通過したノイズ成分からノイズ電力を求めデジタル値に変換する取得部111を備える。また、判定処理部11は、取得部111で求めたノイズ電力を規定の受信限界と比較して信号対雑音比(以下、「SNR」という)を推算する演算部112と、演算部112で推算されたSNRを基準値と比較する判断部113とを備える。
【0025】
演算部112で用いる受信限界の値は、上述したように、送信電力から許容減衰量を減算することにより求められ、送信電力は既知であり、許容減衰量は建物の態様により推定される。すなわち、受信限界は推定値として演算部112に与えられる。受信限界を設定するために、判定処理部11には、キースイッチのような入力装置14を付設することが好ましい。
【0026】
判断部113で用いる基準値は、伝送信号の変調方式などに依存するが、伝送信号を受信可能か否かを判定することを目的として定められる値であるから、通常は受信限界に対して余裕を見込んで比較的小さい値に設定することが好ましい。ただし、基準値が小さいほど伝送信号の受信が不可と判断される可能性が高くなるから、基準値は受信限界に対して必要なSNR(以下、「所要SNR」という)に基づいて適正に設定しなければならない。
【0027】
なお、図2に、送信電力Ptと、受信限界Prと、許容減衰量Laと、ノイズ電力Pnとの関係を例示する。上述したように、一般的には、図2のように、ノイズ電力Pnが受信限界Prより小さい場合に伝送信号が受信可能になる。
【0028】
上述した通信性能チェッカ10を使用するにあたっては、伝送路20において通信装置を接続する地点に通信性能チェッカ10を接続し、通信を行っていない状態でフィルタ回路13から出力される電力をノイズ電力とみなして判断部113で判断する。すなわち、判断部113は、演算部112が求めたSNRを、所要SNRから求めた基準値と比較することにより受信可否を判断する。判断部113による判断結果は、判定処理部11から出力される。判断結果は、伝送信号の受信可否を表すだけではなく、演算部112が求めたSNRの大きさを複数段階で表すようにしてもよい。
【0029】
判定処理部11から出力される判断結果は、適宜の報知装置15に与えられ、利用者に対する結果の報知がなされる。報知装置15は、発光ダイオードのような表示灯、液晶表示器のような表示器、スピーカのような音声出力装置などから適宜に選択される。報知装置15として文字および図形の表示が可能なドットマトリクス方式の表示器を用いると、伝送信号の受信可否、SNRなどのほか、他の実施形態において説明する各種情報の表示が可能になる。
【0030】
通信性能チェッカ10は独立した装置として1つの筐体を備える構成とするほか、通信装置の一部の機能として設けてもよい。この場合、判定処理部11から出力される判断結果を用いて、通信装置の動作を変更してもよい。この構成については、他の実施形態において説明する。
【0031】
本実施形態は、上述のように、判定処理部11に設定される受信限界と、実測したノイズ電力とを比較することによって、伝送路20の所望地点のSNRを評価するので、他の装置を用いることなく、伝送信号の受信可否を判定することが可能になる。すなわち、伝送路20の所望の地点に通信性能チェッカ10を接続するだけで、当該地点での伝送信号の受信可否を簡便に判定することが可能になる。
【0032】
(実施形態2)
実施形態1は、伝送信号を用いることなく伝送信号の受信可否を判定しているが、本実施形態は受信限界に相当する送信電力の仮想信号を発生させ、この仮想信号を受信する構成を採用している。したがって、伝送路20に接続した状態で仮想信号を受信することにより、伝送信号の受信可否が実証されることになる。仮想信号は、伝送信号と同じフォーマットを持つように生成され、たとえば、ヘッダとデータと誤り訂正符号とからなる仮想的なフレームないしパケットを構成する。また、仮想信号は、伝送信号と同じ周波数帯域が用いられるとともに、伝送信号と同じ変調方式で変調される。したがって、仮想信号を受信することは、伝送信号を受信することと等価になる。
【0033】
図3に示すように、本実施形態の判定処理部11は、仮想信号を出力する信号生成部114を備える。信号生成部114から出力される仮想信号は、増幅器16を介してフィルタ回路13に入力される。図示例では、増幅器16が判定処理部11と別に設けられているが、増幅器16は判定処理部11に内蔵されていてもよい。
【0034】
本実施形態では、演算部112は、フィルタ回路13を通して受信した仮想信号を復調する機能を有し、判断部113は、演算部112が抽出した仮想信号の誤り訂正符号を用いて伝送エラーの発生の有無を判定する機能を有する。ここに、判定処理部11は、信号生成部114が仮想信号を出力して伝送エラーの発生の有無を判定する期間と、ノイズ電力から求めたSNRを基準値と比較する期間とが、互いに重複しないように動作する。なお、各期間は、図示しない入力装置から利用者が指示して選択するか、あるいは、判定処理部11が適宜のタイミングで自動的に選択する。
【0035】
信号生成部114が仮想信号を出力する期間には、演算部112は仮想信号を復調し、判断部113は誤り訂正符号により伝送エラーの発生の有無を判定する。したがって、信号生成部114に仮想信号を繰り返して複数回(たとえば、10回)出力させ、判断部113に伝送エラーが発生した回数を計数させることにより、伝送エラーの発生率(エラーレート)が求められる。すなわち、実環境下でのエラーレートを見積もることが可能になる。
【0036】
なお、本実施形態では、仮想信号を出力しているから、演算部112において仮想信号の受信電力を受信限界として用いてもよい。この場合、エラーレートを求める期間を先に設け、この期間に受信限界の値を求めて記憶しておき、その後、SNRを基準値と比較する期間を設けることが好ましい。また、信号生成部114から出力される仮想信号の信号電力を、建物の態様に応じた受信限界に合わせるために、図示しない入力装置を用いて仮想信号の信号電力を調節可能にしておくことが好ましい。なお、エラーレートを求めることは、パケット損失率(PER)を求めることと等価である。
【0037】
他の構成および動作は実施形態1と同様であって、本実施形態では、受信限界の伝送信号と等価な仮想信号を受信させることによって、伝送路20の状態に応じたエラーレートを測定することが可能になる。その結果、実環境における伝送路20について、SNRだけではなくエラーレートの評価も可能になり、伝送信号の受信可否に関して判定結果の信頼性が高まることになる。また、伝送路20にパケットを送出しないから伝送路20のトラフィックが増加することがなく、通信性能チェッカ10を単独で使用するだけで、伝送信号の受信可否を判断することが可能になる。
【0038】
ここに、エラーレートに許容値を規定しておき、判断部113に、エラーレートが許容値以上の場合にのみ伝送信号を受信可能と判断する機能を付加しておくことが好ましい。すなわち、SNRによって受信可否を判断するだけではなく、エラーレートによっても受信可否を判断することが可能になり、伝送信号の受信可否を判定する精度が高められる。なお、変調方式の異なる仮想信号を複数回ずつ発生させれば、変調方式ごとにエラーレートを求めることが可能になる。
【0039】
(実施形態3)
本実施形態は、実施形態2と同様に、仮想信号を発生させることによりエラーレートを評価する構成を採用している。ただし、本実施形態3は、図4に示すように、実施形態2における増幅器16に代えてボルテージフォロワからなるバッファ17を用い、伝送路20から入力されるノイズ成分とバッファ17から出力される仮想信号とを加算する加算器18を設けている。バッファ17が設けられていることにより、信号生成部114から出力される仮想信号の信号電力は、伝送路20などのインピーダンスの影響を受けることなく加算器18に入力される。また、加算器18を設けていることにより、仮想信号がフロントエンド回路12に漏洩することがなく、設定された通りの信号電力の仮想信号を判定処理部11に与えることが可能になる。
【0040】
図4に示す構成例では、判定処理部11を1個のマイコンにまとめているが、判定処理部11の一構成である信号生成部114を他の構成とは別に設けてもよい。すなわち、判定処理部11を複数個のマイコンに分割して構成してもよい。また、バッファ17と加算器18との少なくとも一方は判定処理部11に内蔵されていてもよく、さらに、加算器18は、フィルタ回路13の後段ではなくフィルタ回路13の前段に設けてもよい。この場合、フロントエンド回路12の出力とともに仮想信号もフィルタ回路13に入力されることになる。他の構成および機能は実施形態2と同様である。
【0041】
(実施形態4)
本実施形態は、実施形態2あるいは実施形態3と同様に仮想信号を発生させる構成であり、図5に示すように、仮想信号の信号電力を調節するためにレベル制御部19が付加されている。図5に示す例は、図4に示した実施形態3の構成にレベル制御部19を付加しているが、図3に示した実施形態2の構成にレベル制御部19を付加した構成を採用してもよい。
【0042】
レベル制御部19は、判定処理部11が生成する指示信号を受けて減衰率を調節する機能を備える。レベル制御部19は、たとえば、抵抗ネットワークを用いて構成されたアッテネータであって、指示信号によって抵抗値が切り替えられることにより、減衰率が段階的に選択される。図5に示す構成では、判定処理部11とは別にレベル制御部19が設けられているが、レベル制御部19は判定処理部11に内蔵されていてもよい。判定処理部11がDAC(Digital to Analog Converter)を内蔵している場合、仮想信号をDACから出力させるように構成し、DACに与えるビット値を変化させることにより、仮想信号の信号電力を調節することが可能である。
【0043】
上述した構成では、信号生成部114は、伝送路20に接続される通信装置の送信電力に相当する信号電力を有した基準信号を出力し、基準信号をレベル制御部19に通すことによりバッファ17から出力される仮想信号の信号電力を調節する。したがって、レベル制御部19による信号電力の減衰量は、伝送路20における信号電力の減衰量に相当する。ただし、信号生成部114から出力される基準信号の信号電力は、実際の通信装置から出力される伝送信号の信号電力との関係が既知であれば、伝送信号の信号電力とは異なっていてもよい。基準信号の信号電力を伝送信号の信号電力に対して既知の関係に設定したことによって、レベル制御部19による信号電力の減衰量は、通信装置から伝送路20を通して伝送される伝送信号の信号電力の減衰量に対応することになる。
【0044】
伝送信号の受信可否を判定する際、判定処理部11は、図6に示すように、最初は、レベル制御部19に対して出力する信号電力Lvを最小にするように指示し、その後、時間経過に伴って徐々にかつ段階的に信号電力Lvを上昇させるように指示する。レベル制御部19から出力される信号電力Lvを徐々に上昇させることにより、バッファ17を通して出力される仮想信号の信号電力も徐々に上昇するから、信号電力に応じたエラーレートを評価することが可能になる。
【0045】
すなわち、基準信号を伝送信号と等価とみなせば、伝送信号の許容減衰量をレベル制御部19の減衰量に対応付けて評価することが可能になる。また、許容減衰量は受信限界に対応しているから、レベル制御部19によって仮想信号の信号電力を調節することによって、許容減衰量(受信限界)に対する余裕度の評価も可能になる。余裕度の評価を行った場合は、報知装置15である表示器に余裕度を表示すれば、現場において通信装置を施工する際の判断が容易になる。
【0046】
ところで、伝送路20に存在するノイズの種類は環境によって異なっている。伝送信号の変調方式にもよるが、伝送信号の伝送を阻害するノイズには、AWGN(Additive White Gaussian Noise)、狭帯域ノイズ、インパルスノイズなどがあり、ノイズの種類に応じて受信限界は異なっている。本実施形態は、伝送路20に通信性能チェッカ10を実際に接続し、仮想信号を受信する構成を採用しているので、環境に応じたSNRを求めることができる。
【0047】
なお、本実施形態では、仮想信号の信号電力を段階的に上昇させているが、段階的に下降させることも可能である。
【0048】
(実施形態5)
ところで、伝送信号は、変調方式によって所要SNRが異なり、また、同じ信号電力であっても変調方式によってエラーレートが異なることが知られている。ここでは、通信装置が用いる変調方式を、QAM、QPSK、BPSKの3種類から選択する場合を想定する。表1に示すように、変調方式によって、通信可能なノイズレベルと所要SNRとが異なる。変調方式としてQPSKを選択したときに、伝送信号の受信が可能である場合のノイズレベルと比較すると、QAMはノイズレベルをより小さくしなければならず、BPSKはノイズレベルがより大きくても通信可能であることが知られている。
【0049】
本実施形態の判定処理部11は、図7に示すように、ノイズレベルと所要SNRと変調方式との関係をあらかじめ対応付けて記憶させたルックアップテーブル115を備える。また、判断部113は、求めたSNRをルックアップテーブル115に照合して変調方式を選択する機能を有する。ルックアップテーブル115は、たとえば、表1に示す内容になる。
【0050】
【表1】

【0051】
判断部113による判断結果は、適宜の報知装置により利用者に報知すればよい。この場合、利用者は、報知装置を通して報知された変調方式を手操作で選択することになる。また、通信性能チェッカ10が、独立した装置として構成されるのではなく、通信装置などに組み込まれる場合には、判断部113による判断結果に基づいて変調方式を自動的に選択する構成を採用してもよい。
【0052】
ところで、変調方式が異なれば、伝送可能な単位時間当たりの情報量(通信速度)も異なる。本実施形態の構成を採用すれば、通信装置を伝送路20に接続しなくとも、適切な変調方式を選択することが可能になり、変調方式が決まれば、伝送路20の通信速度(通信帯域)を見積もることが可能になる。他の構成および動作は上述した他の実施形態と同様である。
【0053】
ところで、伝送路20におけるノイズ電力は、通常は、時間経過に伴って変動しているから、ノイズ電力を1回だけ計測して伝送路20の状態を評価するのではなく、ノイズ電力を適宜に定めた取得期間Pgにおいて、所定の時間間隔で複数回計測することが好ましい。たとえば、図8(a)のように、取得期間Pgにおいて、一定の時間間隔でSNRを求めると、伝送路20における計測点でのSNRの時間変化が求められる。取得期間PgごとのSNRは、判定処理部11の演算部112が算出する。
【0054】
このようなデータが求められると、図8(b)のように、SNRの分布が求められる。また、SNRの分布がわかれば、計測点における通信の信頼性を考慮して、当該計測点においてSNRを決定することができる。すなわち、通信信号の受信可否を高い信頼度で判断するには、図8(b)に示す分布における下限値付近を判定閾値Tdとして採用することが好ましいから、判定閾値TdをSNRの分布の下限値付近とする。判断部113は、演算部112が求めたSNRの分布から判定閾値Tdを決定し、この判定閾値Tdを、ルックアップテーブル115と照合するSNRに用いて変調方式を定める。ここに、SNRの判定閾値Tdを下限側で設定しているから、当該環境においてノイズ電力が伝送信号の信号電力にもっとも近い状態に対する判定閾値Tdを設定していることになる。この判定閾値Tdを、表1に示した所要SNRに当てはめることによって、環境に適した変調方式を選択することが可能になる。
【0055】
なお、本実施形態は、図5に示す実施形態4の構成を有した通信性能チェッカ10にルックアップテーブル115を付加した構成を例示しているが、上述した他の実施形態の構成にルックアップテーブル115を付加してもよい。
【0056】
(実施形態6)
実施形態5で示した図8(a)の動作は、伝送路20に伝送信号が伝送されていない期間に設定した比較的短い取得期間PgにおけるSNRの変動を示しているが、SNRは、1日、1週間、1ヶ月、1年間などの比較的長い期間においても当然ながら変動する。このような比較的長い期間におけるSNRの変動を計測するには時間を要し、伝送路20の受信地点において通信信号の受信可否を簡易に計測するという目的に反している。
【0057】
上述した各実施形態は、通信装置を伝送路20に接続する前に通信性能チェッカ10を用いることを想定しているが、本実施形態は、SNRの比較的長い期間の変動に対応するために、通信装置の運用中に用いる通信性能チェッカ10の機能について説明する。本実施形態の通信性能チェッカ10の基本的な構成は実施形態4と同様である。
【0058】
この通信性能チェッカ10は、図9(a)に示すように、比較的長い期間において、適宜の時間間隔で取得期間Pgを設定し、図9(b)のように、取得期間PgごとにSNRの分布を求めている。この場合、取得期間Pgごとに判定閾値Tdが求められる。図9(b)において、各曲線は取得期間Pgごとに求められたSNRの分布を示している。各曲線の横方向が度数であって、円形のマークで表されるSNRが、曲線ごとの判定閾値Tdに対応する。
【0059】
ここで、1日、1週間、1ヶ月、1年間などの期間において、SNRの変動には周期性があると推定される。すなわち、判定閾値Tdの変化も周期性を有していると考えられる。一方、上述したように、取得期間Pgにおいて求めた判定閾値Tdによって環境に適した変調方式が求められる。したがって、判断部113は、取得期間Pgの周期性を利用して、取得期間Pgの時間帯ごとに判定閾値Tdを設定してもよい。この場合、時間帯によって変調方式を定めることが可能になる。したがって、変調方式を時間帯に対応付けたタイムスケジュールを記憶する機能と、タイムスケジュールに従って変調方式を選択する機能とを判断部113に付加しておいてもよい。なお、判定閾値Tdの周期性を抽出するには、適宜の期間において蓄積した判定閾値Tdからパターンを抽出すればよい。
【0060】
また、周期性を抽出することが困難な場合、隣接する取得期間Pgの時間間隔を比較的短くするとともに、前回の取得期間Pgで得られた判定閾値Tdを仮の判定閾値Tdとして用いることによって、この判定閾値Tdに対応した変調方式を選択してもよい。すなわち、前回の取得期間Pgで得られた判定閾値Tdと今回の取得期間Pgで得られる判定閾値Tdとの差は比較的小さいと仮定し、前回の判定閾値Tdに基づいて変調方式を仮に選択するのである。その後、今回の取得期間Pgで判定閾値Tdを求め、適正な変調方式に修正すればよい。また、この動作を実現するために、判定処理部11には、取得期間Pgにおいて求めた判定閾値Tdを次の取得期間Pgまで保持する一時記憶部(図示せず)が必要である。
【0061】
取得期間Pgごとに求められるSNRに応じて適正な変調方式を選択する場合に、同じ変調方式から初めて適正な変調方式を選択する場合に比較すると、上述の手順では、初めから適正な変調方式が選択される確率が高くなる。その結果、伝送路20の環境に応じた最適な変調方式が選択されるまでの平均処理時間が短縮される。
【符号の説明】
【0062】
10 通信性能チェッカ
11 判定処理部
15 報知装置
17 バッファ
18 加算器
19 レベル制御部
20 伝送路
111 取得部
112 演算部
113 判断部
114 信号生成部
115 ルックアップテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信に用いられる伝送路から伝送信号に影響するノイズ成分を取得する取得部と、
前記伝送路についてあらかじめ定められた受信電力の最小値と前記取得部が取得したノイズ成分の電力との比率を信号対雑音比として算出する演算部と、
前記演算部が算出した前記信号対雑音比をあらかじめ定められた基準値と比較することにより前記伝送路においてノイズ成分を取得した位置における伝送信号の受信可否を判定する判断部とを備える
ことを特徴とする通信性能チェッカ。
【請求項2】
前記伝送信号と等価な仮想信号を生成する信号生成部と、
通信に用いられる伝送路から伝送信号に影響するノイズ成分を取得する機能と、前記仮想信号を取得する機能とを有した取得部と、
前記取得部が取得した前記仮想信号の信号電力が前記伝送路についてあらかじめ定められた受信電力の最小値であるときに、前記仮想信号の信号電力と前記取得部が取得したノイズ成分との比率を信号対雑音比として算出する演算部と、
前記演算部が算出した前記信号対雑音比をあらかじめ定められた基準値と比較することにより前記伝送路においてノイズ成分を取得した位置における伝送信号の受信可否を判定する判断部とを備える
ことを特徴とする通信性能チェッカ。
【請求項3】
前記信号生成部から出力される前記仮想信号が通過するボルテージフォロワからなるバッファと、
前記伝送路から取得するノイズ成分と前記バッファから出力される前記仮想信号とを加算する加算器とをさらに備える
ことを特徴とする請求項2記載の通信性能チェッカ。
【請求項4】
前記仮想信号の信号電力を調節するレベル制御部をさらに備える
ことを特徴とする請求項2又は3記載の通信性能チェッカ。
【請求項5】
前記伝送信号の変調方式が複数種類から選択され、かつ変調方式に応じて信号対雑音比に対する基準値が異なる場合に用いられ、
変調方式に基準値を対応付けて記憶させたルックアップテーブルをさらに備え、
前記判断部は、前記演算部が算出した信号対雑音比を前記ルックアップテーブルに記憶された前記基準値と比較することにより適正な変調方式を選択する機能を有する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の通信性能チェッカ。
【請求項6】
前記取得部は、取得期間において前記伝送路からノイズ電力を所定の時間間隔で複数回計測し、
前記演算部は、信号対雑音比の分布を求め、
前記判断部は、前記演算部が求めた信号対雑音比の分布から求めた判定閾値を前記ルックアップテーブルに照合する信号対雑音比として用いる
ことを特徴とする請求項5記載の通信性能チェッカ。
【請求項7】
前記判断部は、変調方式を時間帯に対応付けたタイムスケジュールを記憶する機能と、タイムスケジュールに従って変調方式を選択する機能とをさらに有する
ことを特徴とする請求項5又は6記載の通信性能チェッカ。
【請求項8】
前記判断部の判断結果を提示する報知装置をさらに備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の通信性能チェッカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−115735(P2013−115735A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262446(P2011−262446)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】