通信装置及び通信方法
【課題】先発の低優先度メッセージの存在によって、後発の高優先度メッセージの送信が遅延することを防ぐ。
【解決手段】通信線としてのCANバス11に出力するデータの生成のための電圧源として、従来の4V(第1の電圧レベル)系の第一電圧源13の他に、これよりも高圧の12V(第2の電圧レベル)系の第二電圧源15をも使用することとし、高優先度のデータを送信する場合には、高圧の12V系の第二電圧源15で生成したデータをCANバス11に出力し、それ以外の通常(低優先度)のデータを送信する場合には、4V系の第一電圧源13で生成したデータをCANバス11に出力する。
【解決手段】通信線としてのCANバス11に出力するデータの生成のための電圧源として、従来の4V(第1の電圧レベル)系の第一電圧源13の他に、これよりも高圧の12V(第2の電圧レベル)系の第二電圧源15をも使用することとし、高優先度のデータを送信する場合には、高圧の12V系の第二電圧源15で生成したデータをCANバス11に出力し、それ以外の通常(低優先度)のデータを送信する場合には、4V系の第一電圧源13で生成したデータをCANバス11に出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の通信線上で複数の電子ユニットの間で通信を行う通信装置及び通信方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車では、車内通信の方式としてCAN(Controller Area Network)通信が採用されることが多くなってきている。このCAN通信はシリアルバス通信であるため、本来的にはリアルタイム性を保証することができないが、安全運転を行う必要があるなどの理由により、自動車の通信には高速性が要求されるものがあるため、CAN通信においては、データ毎に優先度を持たせることで、支障のない通信を行うようになっている。
【0003】
即ち、CAN通信では、バスアイドル中に最初に送信を開始したユニットが送信権を獲得し、また同時に2つ以上のユニットが送信を開始したときには、各メッセージのアービトレーションフィールドを1ビット単位で調停し、ドミナントレベルを長く出し続けたユニットが送信権を獲得する。この場合において、送信権を獲得しなかったユニットは、次のビットから送信動作を止め、受信動作に移る。
【0004】
ここで、CAN通信におけるバス(以下「CANバス」と称す)のレベルには、相対的に優先的なドミナントレベルと、相対的に受容的なレセシブレベルとがあり、ドミナントレベルの論理値は「0」となり、レセシブレベルは「1」となる。1つのユニットがドミナントを出力すると、CANバスはドミナントレベルになることから、すべてのユニットがレセシブを出力しない限り、CANバスのレベルはレセシブにならないようになっている。
【0005】
CAN通信に関する先行技術としては、例えば特許文献1がある。
【0006】
【特許文献1】特開2001−119416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CAN通信におけるCANバスのレベルの一例を図4に示す。この図4において、CANバスには、あるユニットから低優先度のデータ1が流れている様子が示されている。この場合のレセシブレベルは0Vであり、ドミナントレベルは4Vである。
【0008】
ここで、他のユニットから高優先度のデータ3がCANバスに出力された場合を考える。この場合の高優先度のデータ3の論理値「0」は0Vであり、論理値「1」は4Vである。
【0009】
この場合、上述のように、既に低優先度のデータ1がCANバスに流れていることから、高優先度のデータ3の調停を行うことができずに、高優先度のデータ3が後回しになってしまうことがある。その原因は次の通りである。即ち、CANバスが低優先度のデータ1によりドミナントレベルになっている状態では、高優先度のデータ3が論理値「1」の信号を出力しても、CANバスにおけるレベル(ドミナントレベル)の変化がなく、このため調停を行うことができない。
【0010】
通常のCAN通信において、高優先度のデータ3がCANバスにデータ出力を行って調停が支障無く行われるためには、CANバスでのデータ通信が行われていない状態になっている必要がある。しかしながら、図4において、CANバスに低優先度のデータ1が流れている途中では、高優先度のデータ3をCANバスに出力しようとしても、調停に必要なデータ3の長さをCANバスに反映させることができず、よって即座には調停ができない結果になってしまう。その結果、高優先度のデータ3は、CANバス上で低優先度のデータ1が終了するまで、送信が待機されることになる。
【0011】
そこで、本発明の課題は、先発の低優先度メッセージの存在によって、後発の高優先度メッセージの送信が遅延することのない通信装置及び通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、所定の通信線上で複数の電子ユニットの間で通信を行うために当該各電子ユニット毎に設けられる通信装置であって、前記通信線に送出するデータのパルスの電圧レベルとして少なくとも2つの異なる電圧レベルを切り替える電圧切替部と、送出する前記データの優先度に応じて高優先度のデータがそれよりも低優先度のデータに対して高い前記電圧レベルを選択するよう前記電圧切替部を制御する送信制御部とを備えるものである。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の通信装置であって、前記通信線の電圧状態が、前記高い電圧レベルであるか否かを判定する電圧判定手段を備え、前記送信制御部は、前記電圧判定手段が前記通信線の電圧状態として前記高い電圧レベルである旨を判定し、且つ前記通信線に流れるデータが当該通信装置から送出されたものでない場合に、その旨を判断して、前記通信線に対する前記データの送出を中止するものである。
【0014】
請求項3に記載の発明は、所定の通信線上で複数の電子ユニットの間で通信を行う通信方法であって、(a)前記通信線に送出するデータが高優先度以外のデータである場合に、第1の電圧レベルのデータを生成して前記通信線に送出する工程と、(b)前記通信線に送出するデータが高優先度のデータである場合に、前記第1の電圧レベルよりも高い第2の電圧レベルのデータを生成して前記通信線に送出する工程とを備えるものである。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の通信方法であって、前記(a)の工程及び(b)の工程のいずれかまたは両方において、前記通信線の電圧状態が前記第2の高い電圧レベルであるか否かを判定し、前記通信線の電圧状態として前記第2の電圧レベルである旨が判定され且つ前記通信線に流れるデータが他の電子ユニットからのデータである場合に、前記通信線に対する前記データの送出を中止するものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1及び請求項3に記載の発明の通信装置は、通信線に送出するデータが高優先度以外のデータである場合に、低い電圧レベルのデータを生成して通信線に送出する一方、通信線に送出するデータが高優先度のデータである場合に、高い電圧レベルのデータを生成して通信線に送出するので、通信線上で高優先度でないデータが流されている途中で、高優先度のデータを即座に割り込ませて調停を行うことができる。したがって、高優先度のデータに関してリアルタイム性を確保することができる。
【0017】
請求項2及び請求項4に記載の発明の通信装置は、高優先度で高い電圧レベルのデータが既に送信されている場合に、当該通信線に新たにデータを送出することを防止できる。したがって、既に通信線に流れている高優先度のデータをそのまま容易に継続させることが可能となり、先発の高優先度のデータのリアルタイム性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<通信装置の構成>
図1は本発明の一の実施形態に係る通信装置を示す機能ブロック図である。この通信装置(CANコントローラ)10a〜10cは、図1の如く、通信線としてのCANバス11に出力するデータの生成のための電圧源として、従来の4V(第1の電圧レベル)系の第一電圧源13の他に、これよりも高圧の12V(第2の電圧レベル)系の第二電圧源15をも使用することとし、高優先度のデータを送信する場合には、高圧の12V系の第二電圧源15で生成したデータをCANバス11に出力し、それ以外の通常(低優先度)のデータを送信する場合には、4V系の第一電圧源13で生成したデータをCANバス11に出力するようになっている。
【0019】
具体的に、この通信装置10a〜10cは、図1の如く、自動車に搭載される電子ユニット21a〜21c同士の間でCANバス11を通じて通信を行う際にCAN通信のプロトコル処理等の通信機能を司るものであって、各電子ユニット21a〜21cとCANバス11との間にそれぞれ介装される。そして、各通信装置10a〜10cは、送信部23と受信部25とをそれぞれ備える。
【0020】
尚、図1においては、複数の通信装置10a〜10cのうち、第1の通信装置10aの内部構成のみを示しており、第2の通信装置10b及び第3の通信装置10cの内部構成を省略して図示しているが、各通信装置10a〜10cの内部構成は同一に構成される。
【0021】
そして、各通信装置10a〜10cの送信部23は、図1の如く、4V系の第一電圧源13と、当該第一電圧源13よりも高圧の12V系の第二電圧源15と、この両電圧源13,15を切り替える電圧切替部31と、この電圧切替部31で切り替えられた電圧(4Vまたは12V)を用いてCANバス11に出力する信号のパルスを生成するためのパルス生成部33と、電子ユニット21a〜21cから出力された信号に基づいて電圧切替部31及びパルス生成部33を制御する送信制御部35とを備える。
【0022】
第一電圧源13及び第二電圧源15は、いずれも従来より自動車に搭載されている直流の電源回路であって、CAN通信だけでなく他の制御系等の種々の電装品に対して2系統の電源供給を行うために設けられたものがそのまま使用される。
【0023】
電圧切替部31は、例えばトランジスタ等が使用されて、4V系の第一電圧源13と12V系の第二電圧源15とを切り替えるよう構成された2接点切替型のスイッチ回路であって、送信制御部35から与えられる切替信号に基づいて動作する。
【0024】
パルス生成部33は、送信制御部35での制御に基づいて、CANバス11に出力するデータのパルスを生成するものであり、高速動作可能な例えばMOSFET等が適用される。
【0025】
送信制御部35は、内蔵されたROM内に予め格納された所定のソフトウェアプログラムによって動作する機能要素であって、電子ユニット21a〜21cから与えられたデータの信号を、CANバス11でのCAN通信に適したプロトコルの信号に変換するようにパルス生成部33を制御する機能と、電子ユニット21a〜21cから与えられたデータが高優先度のものである場合に電圧切替部31に対して12V系の第二電圧源15を選択するよう切替信号を出力する機能と、電子ユニット21a〜21cから与えられたデータが低優先度のものである場合に電圧切替部31に対して4V系の第一電圧源13を選択するよう切替信号を出力する機能と、受信部25からCANバス11上に既に12Vのデータが流れている旨の信号が与えられ且つそのデータが当該通信装置10a〜10cから自発的に送出されたデータでないと判断した場合にCANバス11へのデータの出力を停止する機能とを有する。この送信制御部35の動作については後述する。
【0026】
各通信装置10a〜10cの受信部25は、図1の如く、CANバス11の電圧を所定の基準電圧41と比較する比較部(電圧判定手段)43と、CANバス11に流れるデータを受信するとともに比較部43がCANバス11のドミナントレベルが12Vであると判断した場合にその旨を送信部23の送信制御部35に出力する受信回路45とを備える。
【0027】
基準電圧41としては、4Vと12Vとを峻別できる閾値レベルとして例えば7〜8Vの電圧が予め設定された定電圧源が適用される。
【0028】
比較部43は、CANバス11の電圧を基準電圧41と比較し、基準電圧41よりも高い電圧(即ち、12V)であるか、あるいは基準電圧41よりも低い電圧(即ち、0Vまたは4V)であるかを判定し、その判定結果を論理値として受信回路45に出力する。例えば、比較部43は、CANバス11の電圧が基準電圧41よりも高い電圧(即ち、12V)である場合には、論理値として「1」を受信回路45に出力し、CANバス11の電圧が基準電圧41よりも低い電圧(即ち、0Vまたは4V)である場合は、論理値として「0」を受信回路45に出力する。
【0029】
受信回路45は、CANバス11の電圧状態が入力され、この電圧状態に対して、所定のクロック信号によって規定されたクロックタイミングとして1ビット毎にドミナントレベルであるかレセシブレベルであるかを、所定の閾値レベルと比較するなどして判定し、CANバス11に流れるデータを認識して受信処理を行った後、電子ユニット21a〜21cに出力する。
【0030】
また、受信回路45は、CANバス11から受信したデータのうち、ドミナントのタイミングで、比較部43から与えられた論理値に基づいて、そのドミナントレベルが12Vであるか4Vであるかを判断し、そのドミナントレベルが12Vである場合に、その旨の信号を送信部23の送信制御部35に出力する。
【0031】
かかる構成の通信装置10a〜10cは、内在する各構成要素が単一の半導体集積回路としてまとめて構成されてもよく、あるいは、各構成要素が個々にあるいは一部のみが集積された電子回路部品を複数個組み合わせて所定の実装基板に搭載するようにして構成してもよい。
【0032】
CANバス11は、例えばISO11898またはISO11519で規格化されているツイストペアケーブルが使用されてもよく、あるいは例えばSAE−J2411で規定されているシングルワイヤが使用されてもよい。尚、このCANバス11には、上述のように4Vのパルスと12Vのパルスの各方が適宜流されることになるが、例えばSAE−J2411で規定されているシングルワイヤにおいては、ウェイクアップ用のデータ送信時に0V〜12Vの電圧のパルスで通信を行うことが許容されていることから、上述のように、CANバス11上で0V、4V及び12Vの3種類の電圧変遷があったとしても、通信プロトコルの物理層の規格において支障無くCAN通信を実行できるものである。
【0033】
<動作例1:低優先度のデータ通信>
上記構成の動作例として、CANバス11を通じて、第1の電子ユニット21aから第2の電子ユニット21bに低優先度のデータの送信を行う場合の動作を、図2のフローチャートに沿って説明する。
【0034】
まず第1の電子ユニット21aは、図2中のステップS01において、送信したい低優先度のデータを第1の通信装置10aに出力する。この時点で、第1の通信装置10aの送信制御部35は当該低優先度のデータのヘッダー等を参照しながら、ステップS02において、当該データが低優先度のデータである旨を判断する。そして、送信制御部35は4V系の第一電圧源13を選択する旨の切替信号を電圧切替部31に出力する。そうすると、ステップS03において、電圧切替部31が4V系の第一電圧源13を選択し、この4Vの電圧がパルス生成部33に与えられる。
【0035】
そして、ステップS04において、送信制御部35は、第1の電子ユニット21aから与えられたデータを、CAN通信に適したプロトコルのデータに変換するようにパルス生成部33に信号を与え、パルス生成部33で送信データを生成した後、CANバス11に対してデータが送出される。このとき、CANバス11においては、レセシブレベルが0Vであり、ドミナントレベルが4Vである。
【0036】
ここで、データの送信元である第1の通信装置10aでは、受信部25によりCANバス11の状態が入力される。そして、ステップS05において、比較部43により、CANバス11の電圧を所定の基準電圧41(例えば7〜8V)と比較して、CANバス11に12Vの電圧のパルスが流れているか否かを判断する。その結果、比較部43はCANバス11のドミナントレベルが基準電圧41未満(即ち、4V)であると判断した場合は、ステップS06に進む。
【0037】
ステップS06では、比較部43から、CANバス11のドミナントレベルが基準電圧41未満(即ち、4V)である旨の信号(論理値)が受信回路45に出力される。そして、受信回路45では、比較部43での判断結果として、CANバス11のドミナントレベルが基準電圧41未満である旨の信号を得るため、送信部23に対しては特別の信号を出力しない。このため、送信部23は、そのまま低優先度のデータの送出が継続される。
【0038】
続くステップS07においては、第1の通信装置10a及び第2の通信装置10bとの通信において、送信データにエラーが生じたか否かが判断される。
【0039】
具体的には、第1の通信装置10aから低優先度のデータが送出される時点で、CANバス11上でデータ通信が行われていない場合には、第2の通信装置10bにおいては、受信部25の受信回路45(図1では図示省略)によりCANバス11に流れるデータを支障無く受信される。このため、ステップS07においては送信エラーが発生せず、続くステップS08に移行し、第1の通信装置10aからのデータ送出が継続される。このようにして、第1の電子ユニット21aから第2の電子ユニット21bに対する低優先度のデータの送信が行われる。
【0040】
一方、ステップS07において、例えば第1の通信装置10aからのデータ送出時にCANバス11上に既にドミナントレベル=4Vの低優先度のデータが流れている場合には、既に流れているデータと、新たに第1の通信装置10aから送出されたデータとが重畳されて、送信データにエラーが発生する。このため、ステップS09に進み、第1の通信装置10aからのデータの送出が中止される。
【0041】
<動作例2:高優先度のデータ通信>
次に、例えば第3の電子ユニット21cが、さらに図示しない他の電子ユニットとの間で低優先度のデータの通信を行っている場合に、第1の電子ユニット21aから第2の電子ユニット21bに対して高優先度のデータの送信を行う場合について、図2のフローチャートに沿って説明する。ここで、図3中の符号51はCANバス11に流れている低優先度のデータのパルス、同じく符号53は第1の通信装置10aからCANバス11に送出される高優先度のデータのパルスをそれぞれ示している。
【0042】
CANバス11を通じて、第3の電子ユニット21cからさらに他の電子ユニットに低優先度のデータの送信が行われている場合、図3中の符号51のように、CANバス11上ではドミナントレベルとレセシブレベルとがデータの内容に応じて様々な順序で出現する。この場合のレセシブレベルは0Vであり、ドミナントレベルは4Vである。そして、ドミナントレベルである4Vは、第3の通信装置10cにおける4V系の第一電圧源(図1中の通信装置10aの第一電圧源13を参照のこと)を使用して生成されたデータのレベルである。
【0043】
かかる状況において、第1の電子ユニット21aから第1の通信装置10aを介して高優先度のデータをCANバス11に送出する際、図2中のステップS01において、まず第1の電子ユニット21aが高優先度のデータを第1の通信装置10aに出力する。そして、ステップS02で、第1の通信装置10aの送信制御部35は当該高優先度のデータのヘッダー等を参照しながら、当該データが高優先度のデータである旨を判断し、ステップS10に進む。
【0044】
ステップS10では、送信制御部35が12V系の第二電圧源15を選択する旨の切替信号を電圧切替部31に出力する。そうすると、電圧切替部31が12V系の第二電圧源15を選択し、この12Vの電圧がパルス生成部33に与えられる。
【0045】
そして、次のステップS04で、送信制御部35は、第1の電子ユニット21aから与えられたデータを、CAN通信に適したプロトコルのデータに変換するようにパルス生成部33に信号を与え、パルス生成部33からCANバス11に対して、図3中の符号53のような高優先度のデータが出力される。このときの高優先度のデータは、その論理値として「1」を出力する場合は12Vの電圧レベルで出力し、その論理値として「0」を出力する場合は0Vの電圧レベルで出力を行う。
【0046】
そうすると、それまでCANバス11上に流れているドミナントレベルが4Vのデータに重畳して、ドミナントレベルが12Vのデータが流れることになる。
【0047】
この際、データの送信元である第1の通信装置10aは、受信部25にCANバス11に流れるデータが入力され、ステップS05で、比較部43により、CANバス11の電圧が所定の基準電圧41(例えば7〜8V)と比較される。その結果、比較部43はCANバス11のドミナントレベルが基準電圧41より高い(即ち、12V)であると判断し、その旨の信号(論理値)を受信回路45に出力する。受信回路45では、比較部43での判断結果として、CANバス11のドミナントレベルが基準電圧41より高い旨の信号を得る。この場合は、送信部23に対してその旨の信号を出力して、次のステップS11に進む。
【0048】
ステップS11においては、送信部23において、このときのCANバス11上のデータが、当該第1の通信装置10a自身が送信したデータである旨を判断し、ステップS06に進んで、送信部23によりそのまま高優先度のデータが送信し続けられる。この場合は、送信エラーが発生しないため、ステップS07からステップS08に進み、データの送出が継続される。
【0049】
この場合、第2の通信装置10bにおいては、受信部25の受信回路45(図1では図示省略)によりCANバス11に流れるデータを受信し、第2の電子ユニット21bに対してデータの入力処理を行う。このようにして、第1の電子ユニット21aから第2の電子ユニット21bに対する高優先度のデータの送信が行われる。
【0050】
また、それまでCANバス11にデータを送出していた第3の通信装置10cは、受信部の受信回路45(図1では図示省略)で12Vの電圧レベルを検出するため、送信部23は、それまで送信していた低優先度のデータの送信を直ちに中止する。
【0051】
さらに、他の通信装置においても、新たなデータ(ドミナントレベル=4Vまたは12V)の送信を行おうとするタイミングであっても、CANバス11上にドミナントレベル=12Vのデータが流れている旨を検出することで、その新たなデータの送信を中止する。
【0052】
このようにして、第1の通信装置10aの12V系の第二電圧源15で生成したデータをCANバス11に出力することで、CANバス11における通常のドミナントレベルの4Vを超えて12Vとなったデータが送信されることになり、この12Vのデータを用いて効率よく調停を行うことができる。
【0053】
尚、それまでにドミナントレベル=4Vのデータが流れていたCANバス11に、ドミナントレベル=12Vのデータが流れ始めると、それまでの4Vのデータに12Vのデータが重畳して消された状態になってしまうことから、それまで第3の通信装置10cから送出されていたドミナントレベル=4Vのデータがエラーとなる。この場合、第3の通信装置10cとそのデータ送信先である他の通信装置との間では、CAN通信で実行される一般的なエラー処理が行われ、送信完了割り込み信号が流されずにエラー割り込みが流される。したがって、この4Vのデータを送信していた第3の通信装置10cは、エラー処理割り込み信号が与えられた時点で、CANバス11上に12Vの高優先度のデータが流されていることを判断し、この高優先度のデータが完了するのを待った後に、4Vのデータを再送信する。
【0054】
尚、上記の動作例2では、CANバス11上にドミナントレベル=4Vのデータが流れている場合に第1の通信装置10aからドミナントレベル=12Vの高優先度のデータを送出する例について説明したが、CANバス11上に既にドミナントレベル=12Vの高優先度のデータが流れている場合は、CANバス11上に流れるデータが、自分自身から送出されたデータと異なるため、送信部23においてその旨を判断し、データの送出を中止する。
【0055】
この場合は、図2中の上記ステップS05において、第1の通信装置10aの受信部25の比較部43により、CANバス11の電圧を所定の基準電圧41(例えば7〜8V)と比較して、CANバス11のドミナントレベルが基準電圧41より高い(即ち、12V)と判断し、その旨の信号(論理値)を受信回路45に出力してステップS11に進む。
【0056】
そして、図2中のステップS11において、第1の通信装置10aの受信回路45では、比較部43での判断結果として、CANバス11のドミナントレベルが基準電圧41より高い旨の信号を得て、送信部23に対してその旨の信号を出力する。
【0057】
このときのドミナントレベルが12Vのデータが、自分自身(例えば第1の通信装置10a自身)が送信したデータでないことから、ステップS09に進み、送信部23は新たなデータの送信を中止する。
【0058】
また、CANバス11上に既にドミナントレベル=12Vの高優先度のデータが流れている場合に、第1の通信装置10aからドミナントレベル=4Vの低優先度のデータを送出しようとする場合にも、上述したドミナントレベル=12Vの高優先度のデータを送信しようとした場合と同様に、データの送出が停止される。
【0059】
以上のように、CANバス11に出力するデータの生成のための電圧源として、従来の4V系の第一電圧源13の他に、これよりも高圧の12V系の第二電圧源15をも使用することとし、高優先度のデータを送信する場合に、高圧の12V系の第二電圧源15で生成したデータをCANバス11に出力し、それ以外の通常(低優先度)のデータを送信する場合には、4V系の第一電圧源13で生成したデータをCANバス11に出力するので、図3中の符号51のようにCANバス11上で低優先度のデータが流されている途中であっても、高優先度のデータを即座に割り込ませて調停を行うことができる。したがって、先発の低優先度のデータがCANバス11上に流れていても、後発の高優先度のデータを即座に送信することが可能となり、高優先度のデータに関してリアルタイム性を確保することができる。
【0060】
また、高優先度の電圧レベルのデータが既にCANバス11上で流されている場合に、他の通信装置10a〜10cから当該CANバス11に新たにデータを送出することを容易に防止できるので、既にCANバス11に流れている高優先度のデータをそのまま容易に継続させることが可能となり、先発の高優先度のデータのリアルタイム性を維持することができる。
【0061】
尚、上記実施形態では、4V系の第一電圧源13と12V系の第二電圧源15の2個の電圧源を備える構成としていたが、高優先度のデータ同士の調停が頻繁に行われるような場合では、上記実施形態では調停を行うことができない。このため、データの電圧レベルを細分化し、第一電圧源13及び第二電圧源15とは電圧レベルの異なる例えば8Vの他の電圧源を利用して、データの優先度の高低を示す電圧レベルを3段階にしてもよい。この場合、ドミナントレベル=4Vのデータが低優先度のデータ、ドミナントレベル=8Vのデータが中優先度のデータ、ドミナントレベル=12Vのデータが高優先度のデータとして処理される。この場合は、各通信装置10a〜10cの送信部23に3個の電圧源を設け、また受信部25に複数の基準電圧と複数の比較部を用いてドミナントレベルの比較判定を行えばよい。あるいは、4個以上の電圧源を使用して4段階以上の電圧レベルでデータの優先度の高低を示すようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、CANバス11を通じて行われるCAN通信を例に挙げて説明したが、その他、CSMA/CD方式またはCSMA/CA方式の通信に適用しても差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一の実施形態に係る通信装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の一の実施形態に係る通信装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一の実施形態に係る通信装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【図4】従来の通信装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0064】
10a〜10c 通信装置
11 バス
13 第一電圧源
15 第二電圧源
21a〜21c 電子ユニット
23 送信部
25 受信部
31 電圧切替部
33 パルス生成部
35 送信制御部
41 基準電圧
43 比較部
45 受信回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の通信線上で複数の電子ユニットの間で通信を行う通信装置及び通信方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車では、車内通信の方式としてCAN(Controller Area Network)通信が採用されることが多くなってきている。このCAN通信はシリアルバス通信であるため、本来的にはリアルタイム性を保証することができないが、安全運転を行う必要があるなどの理由により、自動車の通信には高速性が要求されるものがあるため、CAN通信においては、データ毎に優先度を持たせることで、支障のない通信を行うようになっている。
【0003】
即ち、CAN通信では、バスアイドル中に最初に送信を開始したユニットが送信権を獲得し、また同時に2つ以上のユニットが送信を開始したときには、各メッセージのアービトレーションフィールドを1ビット単位で調停し、ドミナントレベルを長く出し続けたユニットが送信権を獲得する。この場合において、送信権を獲得しなかったユニットは、次のビットから送信動作を止め、受信動作に移る。
【0004】
ここで、CAN通信におけるバス(以下「CANバス」と称す)のレベルには、相対的に優先的なドミナントレベルと、相対的に受容的なレセシブレベルとがあり、ドミナントレベルの論理値は「0」となり、レセシブレベルは「1」となる。1つのユニットがドミナントを出力すると、CANバスはドミナントレベルになることから、すべてのユニットがレセシブを出力しない限り、CANバスのレベルはレセシブにならないようになっている。
【0005】
CAN通信に関する先行技術としては、例えば特許文献1がある。
【0006】
【特許文献1】特開2001−119416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CAN通信におけるCANバスのレベルの一例を図4に示す。この図4において、CANバスには、あるユニットから低優先度のデータ1が流れている様子が示されている。この場合のレセシブレベルは0Vであり、ドミナントレベルは4Vである。
【0008】
ここで、他のユニットから高優先度のデータ3がCANバスに出力された場合を考える。この場合の高優先度のデータ3の論理値「0」は0Vであり、論理値「1」は4Vである。
【0009】
この場合、上述のように、既に低優先度のデータ1がCANバスに流れていることから、高優先度のデータ3の調停を行うことができずに、高優先度のデータ3が後回しになってしまうことがある。その原因は次の通りである。即ち、CANバスが低優先度のデータ1によりドミナントレベルになっている状態では、高優先度のデータ3が論理値「1」の信号を出力しても、CANバスにおけるレベル(ドミナントレベル)の変化がなく、このため調停を行うことができない。
【0010】
通常のCAN通信において、高優先度のデータ3がCANバスにデータ出力を行って調停が支障無く行われるためには、CANバスでのデータ通信が行われていない状態になっている必要がある。しかしながら、図4において、CANバスに低優先度のデータ1が流れている途中では、高優先度のデータ3をCANバスに出力しようとしても、調停に必要なデータ3の長さをCANバスに反映させることができず、よって即座には調停ができない結果になってしまう。その結果、高優先度のデータ3は、CANバス上で低優先度のデータ1が終了するまで、送信が待機されることになる。
【0011】
そこで、本発明の課題は、先発の低優先度メッセージの存在によって、後発の高優先度メッセージの送信が遅延することのない通信装置及び通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、所定の通信線上で複数の電子ユニットの間で通信を行うために当該各電子ユニット毎に設けられる通信装置であって、前記通信線に送出するデータのパルスの電圧レベルとして少なくとも2つの異なる電圧レベルを切り替える電圧切替部と、送出する前記データの優先度に応じて高優先度のデータがそれよりも低優先度のデータに対して高い前記電圧レベルを選択するよう前記電圧切替部を制御する送信制御部とを備えるものである。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の通信装置であって、前記通信線の電圧状態が、前記高い電圧レベルであるか否かを判定する電圧判定手段を備え、前記送信制御部は、前記電圧判定手段が前記通信線の電圧状態として前記高い電圧レベルである旨を判定し、且つ前記通信線に流れるデータが当該通信装置から送出されたものでない場合に、その旨を判断して、前記通信線に対する前記データの送出を中止するものである。
【0014】
請求項3に記載の発明は、所定の通信線上で複数の電子ユニットの間で通信を行う通信方法であって、(a)前記通信線に送出するデータが高優先度以外のデータである場合に、第1の電圧レベルのデータを生成して前記通信線に送出する工程と、(b)前記通信線に送出するデータが高優先度のデータである場合に、前記第1の電圧レベルよりも高い第2の電圧レベルのデータを生成して前記通信線に送出する工程とを備えるものである。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の通信方法であって、前記(a)の工程及び(b)の工程のいずれかまたは両方において、前記通信線の電圧状態が前記第2の高い電圧レベルであるか否かを判定し、前記通信線の電圧状態として前記第2の電圧レベルである旨が判定され且つ前記通信線に流れるデータが他の電子ユニットからのデータである場合に、前記通信線に対する前記データの送出を中止するものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1及び請求項3に記載の発明の通信装置は、通信線に送出するデータが高優先度以外のデータである場合に、低い電圧レベルのデータを生成して通信線に送出する一方、通信線に送出するデータが高優先度のデータである場合に、高い電圧レベルのデータを生成して通信線に送出するので、通信線上で高優先度でないデータが流されている途中で、高優先度のデータを即座に割り込ませて調停を行うことができる。したがって、高優先度のデータに関してリアルタイム性を確保することができる。
【0017】
請求項2及び請求項4に記載の発明の通信装置は、高優先度で高い電圧レベルのデータが既に送信されている場合に、当該通信線に新たにデータを送出することを防止できる。したがって、既に通信線に流れている高優先度のデータをそのまま容易に継続させることが可能となり、先発の高優先度のデータのリアルタイム性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<通信装置の構成>
図1は本発明の一の実施形態に係る通信装置を示す機能ブロック図である。この通信装置(CANコントローラ)10a〜10cは、図1の如く、通信線としてのCANバス11に出力するデータの生成のための電圧源として、従来の4V(第1の電圧レベル)系の第一電圧源13の他に、これよりも高圧の12V(第2の電圧レベル)系の第二電圧源15をも使用することとし、高優先度のデータを送信する場合には、高圧の12V系の第二電圧源15で生成したデータをCANバス11に出力し、それ以外の通常(低優先度)のデータを送信する場合には、4V系の第一電圧源13で生成したデータをCANバス11に出力するようになっている。
【0019】
具体的に、この通信装置10a〜10cは、図1の如く、自動車に搭載される電子ユニット21a〜21c同士の間でCANバス11を通じて通信を行う際にCAN通信のプロトコル処理等の通信機能を司るものであって、各電子ユニット21a〜21cとCANバス11との間にそれぞれ介装される。そして、各通信装置10a〜10cは、送信部23と受信部25とをそれぞれ備える。
【0020】
尚、図1においては、複数の通信装置10a〜10cのうち、第1の通信装置10aの内部構成のみを示しており、第2の通信装置10b及び第3の通信装置10cの内部構成を省略して図示しているが、各通信装置10a〜10cの内部構成は同一に構成される。
【0021】
そして、各通信装置10a〜10cの送信部23は、図1の如く、4V系の第一電圧源13と、当該第一電圧源13よりも高圧の12V系の第二電圧源15と、この両電圧源13,15を切り替える電圧切替部31と、この電圧切替部31で切り替えられた電圧(4Vまたは12V)を用いてCANバス11に出力する信号のパルスを生成するためのパルス生成部33と、電子ユニット21a〜21cから出力された信号に基づいて電圧切替部31及びパルス生成部33を制御する送信制御部35とを備える。
【0022】
第一電圧源13及び第二電圧源15は、いずれも従来より自動車に搭載されている直流の電源回路であって、CAN通信だけでなく他の制御系等の種々の電装品に対して2系統の電源供給を行うために設けられたものがそのまま使用される。
【0023】
電圧切替部31は、例えばトランジスタ等が使用されて、4V系の第一電圧源13と12V系の第二電圧源15とを切り替えるよう構成された2接点切替型のスイッチ回路であって、送信制御部35から与えられる切替信号に基づいて動作する。
【0024】
パルス生成部33は、送信制御部35での制御に基づいて、CANバス11に出力するデータのパルスを生成するものであり、高速動作可能な例えばMOSFET等が適用される。
【0025】
送信制御部35は、内蔵されたROM内に予め格納された所定のソフトウェアプログラムによって動作する機能要素であって、電子ユニット21a〜21cから与えられたデータの信号を、CANバス11でのCAN通信に適したプロトコルの信号に変換するようにパルス生成部33を制御する機能と、電子ユニット21a〜21cから与えられたデータが高優先度のものである場合に電圧切替部31に対して12V系の第二電圧源15を選択するよう切替信号を出力する機能と、電子ユニット21a〜21cから与えられたデータが低優先度のものである場合に電圧切替部31に対して4V系の第一電圧源13を選択するよう切替信号を出力する機能と、受信部25からCANバス11上に既に12Vのデータが流れている旨の信号が与えられ且つそのデータが当該通信装置10a〜10cから自発的に送出されたデータでないと判断した場合にCANバス11へのデータの出力を停止する機能とを有する。この送信制御部35の動作については後述する。
【0026】
各通信装置10a〜10cの受信部25は、図1の如く、CANバス11の電圧を所定の基準電圧41と比較する比較部(電圧判定手段)43と、CANバス11に流れるデータを受信するとともに比較部43がCANバス11のドミナントレベルが12Vであると判断した場合にその旨を送信部23の送信制御部35に出力する受信回路45とを備える。
【0027】
基準電圧41としては、4Vと12Vとを峻別できる閾値レベルとして例えば7〜8Vの電圧が予め設定された定電圧源が適用される。
【0028】
比較部43は、CANバス11の電圧を基準電圧41と比較し、基準電圧41よりも高い電圧(即ち、12V)であるか、あるいは基準電圧41よりも低い電圧(即ち、0Vまたは4V)であるかを判定し、その判定結果を論理値として受信回路45に出力する。例えば、比較部43は、CANバス11の電圧が基準電圧41よりも高い電圧(即ち、12V)である場合には、論理値として「1」を受信回路45に出力し、CANバス11の電圧が基準電圧41よりも低い電圧(即ち、0Vまたは4V)である場合は、論理値として「0」を受信回路45に出力する。
【0029】
受信回路45は、CANバス11の電圧状態が入力され、この電圧状態に対して、所定のクロック信号によって規定されたクロックタイミングとして1ビット毎にドミナントレベルであるかレセシブレベルであるかを、所定の閾値レベルと比較するなどして判定し、CANバス11に流れるデータを認識して受信処理を行った後、電子ユニット21a〜21cに出力する。
【0030】
また、受信回路45は、CANバス11から受信したデータのうち、ドミナントのタイミングで、比較部43から与えられた論理値に基づいて、そのドミナントレベルが12Vであるか4Vであるかを判断し、そのドミナントレベルが12Vである場合に、その旨の信号を送信部23の送信制御部35に出力する。
【0031】
かかる構成の通信装置10a〜10cは、内在する各構成要素が単一の半導体集積回路としてまとめて構成されてもよく、あるいは、各構成要素が個々にあるいは一部のみが集積された電子回路部品を複数個組み合わせて所定の実装基板に搭載するようにして構成してもよい。
【0032】
CANバス11は、例えばISO11898またはISO11519で規格化されているツイストペアケーブルが使用されてもよく、あるいは例えばSAE−J2411で規定されているシングルワイヤが使用されてもよい。尚、このCANバス11には、上述のように4Vのパルスと12Vのパルスの各方が適宜流されることになるが、例えばSAE−J2411で規定されているシングルワイヤにおいては、ウェイクアップ用のデータ送信時に0V〜12Vの電圧のパルスで通信を行うことが許容されていることから、上述のように、CANバス11上で0V、4V及び12Vの3種類の電圧変遷があったとしても、通信プロトコルの物理層の規格において支障無くCAN通信を実行できるものである。
【0033】
<動作例1:低優先度のデータ通信>
上記構成の動作例として、CANバス11を通じて、第1の電子ユニット21aから第2の電子ユニット21bに低優先度のデータの送信を行う場合の動作を、図2のフローチャートに沿って説明する。
【0034】
まず第1の電子ユニット21aは、図2中のステップS01において、送信したい低優先度のデータを第1の通信装置10aに出力する。この時点で、第1の通信装置10aの送信制御部35は当該低優先度のデータのヘッダー等を参照しながら、ステップS02において、当該データが低優先度のデータである旨を判断する。そして、送信制御部35は4V系の第一電圧源13を選択する旨の切替信号を電圧切替部31に出力する。そうすると、ステップS03において、電圧切替部31が4V系の第一電圧源13を選択し、この4Vの電圧がパルス生成部33に与えられる。
【0035】
そして、ステップS04において、送信制御部35は、第1の電子ユニット21aから与えられたデータを、CAN通信に適したプロトコルのデータに変換するようにパルス生成部33に信号を与え、パルス生成部33で送信データを生成した後、CANバス11に対してデータが送出される。このとき、CANバス11においては、レセシブレベルが0Vであり、ドミナントレベルが4Vである。
【0036】
ここで、データの送信元である第1の通信装置10aでは、受信部25によりCANバス11の状態が入力される。そして、ステップS05において、比較部43により、CANバス11の電圧を所定の基準電圧41(例えば7〜8V)と比較して、CANバス11に12Vの電圧のパルスが流れているか否かを判断する。その結果、比較部43はCANバス11のドミナントレベルが基準電圧41未満(即ち、4V)であると判断した場合は、ステップS06に進む。
【0037】
ステップS06では、比較部43から、CANバス11のドミナントレベルが基準電圧41未満(即ち、4V)である旨の信号(論理値)が受信回路45に出力される。そして、受信回路45では、比較部43での判断結果として、CANバス11のドミナントレベルが基準電圧41未満である旨の信号を得るため、送信部23に対しては特別の信号を出力しない。このため、送信部23は、そのまま低優先度のデータの送出が継続される。
【0038】
続くステップS07においては、第1の通信装置10a及び第2の通信装置10bとの通信において、送信データにエラーが生じたか否かが判断される。
【0039】
具体的には、第1の通信装置10aから低優先度のデータが送出される時点で、CANバス11上でデータ通信が行われていない場合には、第2の通信装置10bにおいては、受信部25の受信回路45(図1では図示省略)によりCANバス11に流れるデータを支障無く受信される。このため、ステップS07においては送信エラーが発生せず、続くステップS08に移行し、第1の通信装置10aからのデータ送出が継続される。このようにして、第1の電子ユニット21aから第2の電子ユニット21bに対する低優先度のデータの送信が行われる。
【0040】
一方、ステップS07において、例えば第1の通信装置10aからのデータ送出時にCANバス11上に既にドミナントレベル=4Vの低優先度のデータが流れている場合には、既に流れているデータと、新たに第1の通信装置10aから送出されたデータとが重畳されて、送信データにエラーが発生する。このため、ステップS09に進み、第1の通信装置10aからのデータの送出が中止される。
【0041】
<動作例2:高優先度のデータ通信>
次に、例えば第3の電子ユニット21cが、さらに図示しない他の電子ユニットとの間で低優先度のデータの通信を行っている場合に、第1の電子ユニット21aから第2の電子ユニット21bに対して高優先度のデータの送信を行う場合について、図2のフローチャートに沿って説明する。ここで、図3中の符号51はCANバス11に流れている低優先度のデータのパルス、同じく符号53は第1の通信装置10aからCANバス11に送出される高優先度のデータのパルスをそれぞれ示している。
【0042】
CANバス11を通じて、第3の電子ユニット21cからさらに他の電子ユニットに低優先度のデータの送信が行われている場合、図3中の符号51のように、CANバス11上ではドミナントレベルとレセシブレベルとがデータの内容に応じて様々な順序で出現する。この場合のレセシブレベルは0Vであり、ドミナントレベルは4Vである。そして、ドミナントレベルである4Vは、第3の通信装置10cにおける4V系の第一電圧源(図1中の通信装置10aの第一電圧源13を参照のこと)を使用して生成されたデータのレベルである。
【0043】
かかる状況において、第1の電子ユニット21aから第1の通信装置10aを介して高優先度のデータをCANバス11に送出する際、図2中のステップS01において、まず第1の電子ユニット21aが高優先度のデータを第1の通信装置10aに出力する。そして、ステップS02で、第1の通信装置10aの送信制御部35は当該高優先度のデータのヘッダー等を参照しながら、当該データが高優先度のデータである旨を判断し、ステップS10に進む。
【0044】
ステップS10では、送信制御部35が12V系の第二電圧源15を選択する旨の切替信号を電圧切替部31に出力する。そうすると、電圧切替部31が12V系の第二電圧源15を選択し、この12Vの電圧がパルス生成部33に与えられる。
【0045】
そして、次のステップS04で、送信制御部35は、第1の電子ユニット21aから与えられたデータを、CAN通信に適したプロトコルのデータに変換するようにパルス生成部33に信号を与え、パルス生成部33からCANバス11に対して、図3中の符号53のような高優先度のデータが出力される。このときの高優先度のデータは、その論理値として「1」を出力する場合は12Vの電圧レベルで出力し、その論理値として「0」を出力する場合は0Vの電圧レベルで出力を行う。
【0046】
そうすると、それまでCANバス11上に流れているドミナントレベルが4Vのデータに重畳して、ドミナントレベルが12Vのデータが流れることになる。
【0047】
この際、データの送信元である第1の通信装置10aは、受信部25にCANバス11に流れるデータが入力され、ステップS05で、比較部43により、CANバス11の電圧が所定の基準電圧41(例えば7〜8V)と比較される。その結果、比較部43はCANバス11のドミナントレベルが基準電圧41より高い(即ち、12V)であると判断し、その旨の信号(論理値)を受信回路45に出力する。受信回路45では、比較部43での判断結果として、CANバス11のドミナントレベルが基準電圧41より高い旨の信号を得る。この場合は、送信部23に対してその旨の信号を出力して、次のステップS11に進む。
【0048】
ステップS11においては、送信部23において、このときのCANバス11上のデータが、当該第1の通信装置10a自身が送信したデータである旨を判断し、ステップS06に進んで、送信部23によりそのまま高優先度のデータが送信し続けられる。この場合は、送信エラーが発生しないため、ステップS07からステップS08に進み、データの送出が継続される。
【0049】
この場合、第2の通信装置10bにおいては、受信部25の受信回路45(図1では図示省略)によりCANバス11に流れるデータを受信し、第2の電子ユニット21bに対してデータの入力処理を行う。このようにして、第1の電子ユニット21aから第2の電子ユニット21bに対する高優先度のデータの送信が行われる。
【0050】
また、それまでCANバス11にデータを送出していた第3の通信装置10cは、受信部の受信回路45(図1では図示省略)で12Vの電圧レベルを検出するため、送信部23は、それまで送信していた低優先度のデータの送信を直ちに中止する。
【0051】
さらに、他の通信装置においても、新たなデータ(ドミナントレベル=4Vまたは12V)の送信を行おうとするタイミングであっても、CANバス11上にドミナントレベル=12Vのデータが流れている旨を検出することで、その新たなデータの送信を中止する。
【0052】
このようにして、第1の通信装置10aの12V系の第二電圧源15で生成したデータをCANバス11に出力することで、CANバス11における通常のドミナントレベルの4Vを超えて12Vとなったデータが送信されることになり、この12Vのデータを用いて効率よく調停を行うことができる。
【0053】
尚、それまでにドミナントレベル=4Vのデータが流れていたCANバス11に、ドミナントレベル=12Vのデータが流れ始めると、それまでの4Vのデータに12Vのデータが重畳して消された状態になってしまうことから、それまで第3の通信装置10cから送出されていたドミナントレベル=4Vのデータがエラーとなる。この場合、第3の通信装置10cとそのデータ送信先である他の通信装置との間では、CAN通信で実行される一般的なエラー処理が行われ、送信完了割り込み信号が流されずにエラー割り込みが流される。したがって、この4Vのデータを送信していた第3の通信装置10cは、エラー処理割り込み信号が与えられた時点で、CANバス11上に12Vの高優先度のデータが流されていることを判断し、この高優先度のデータが完了するのを待った後に、4Vのデータを再送信する。
【0054】
尚、上記の動作例2では、CANバス11上にドミナントレベル=4Vのデータが流れている場合に第1の通信装置10aからドミナントレベル=12Vの高優先度のデータを送出する例について説明したが、CANバス11上に既にドミナントレベル=12Vの高優先度のデータが流れている場合は、CANバス11上に流れるデータが、自分自身から送出されたデータと異なるため、送信部23においてその旨を判断し、データの送出を中止する。
【0055】
この場合は、図2中の上記ステップS05において、第1の通信装置10aの受信部25の比較部43により、CANバス11の電圧を所定の基準電圧41(例えば7〜8V)と比較して、CANバス11のドミナントレベルが基準電圧41より高い(即ち、12V)と判断し、その旨の信号(論理値)を受信回路45に出力してステップS11に進む。
【0056】
そして、図2中のステップS11において、第1の通信装置10aの受信回路45では、比較部43での判断結果として、CANバス11のドミナントレベルが基準電圧41より高い旨の信号を得て、送信部23に対してその旨の信号を出力する。
【0057】
このときのドミナントレベルが12Vのデータが、自分自身(例えば第1の通信装置10a自身)が送信したデータでないことから、ステップS09に進み、送信部23は新たなデータの送信を中止する。
【0058】
また、CANバス11上に既にドミナントレベル=12Vの高優先度のデータが流れている場合に、第1の通信装置10aからドミナントレベル=4Vの低優先度のデータを送出しようとする場合にも、上述したドミナントレベル=12Vの高優先度のデータを送信しようとした場合と同様に、データの送出が停止される。
【0059】
以上のように、CANバス11に出力するデータの生成のための電圧源として、従来の4V系の第一電圧源13の他に、これよりも高圧の12V系の第二電圧源15をも使用することとし、高優先度のデータを送信する場合に、高圧の12V系の第二電圧源15で生成したデータをCANバス11に出力し、それ以外の通常(低優先度)のデータを送信する場合には、4V系の第一電圧源13で生成したデータをCANバス11に出力するので、図3中の符号51のようにCANバス11上で低優先度のデータが流されている途中であっても、高優先度のデータを即座に割り込ませて調停を行うことができる。したがって、先発の低優先度のデータがCANバス11上に流れていても、後発の高優先度のデータを即座に送信することが可能となり、高優先度のデータに関してリアルタイム性を確保することができる。
【0060】
また、高優先度の電圧レベルのデータが既にCANバス11上で流されている場合に、他の通信装置10a〜10cから当該CANバス11に新たにデータを送出することを容易に防止できるので、既にCANバス11に流れている高優先度のデータをそのまま容易に継続させることが可能となり、先発の高優先度のデータのリアルタイム性を維持することができる。
【0061】
尚、上記実施形態では、4V系の第一電圧源13と12V系の第二電圧源15の2個の電圧源を備える構成としていたが、高優先度のデータ同士の調停が頻繁に行われるような場合では、上記実施形態では調停を行うことができない。このため、データの電圧レベルを細分化し、第一電圧源13及び第二電圧源15とは電圧レベルの異なる例えば8Vの他の電圧源を利用して、データの優先度の高低を示す電圧レベルを3段階にしてもよい。この場合、ドミナントレベル=4Vのデータが低優先度のデータ、ドミナントレベル=8Vのデータが中優先度のデータ、ドミナントレベル=12Vのデータが高優先度のデータとして処理される。この場合は、各通信装置10a〜10cの送信部23に3個の電圧源を設け、また受信部25に複数の基準電圧と複数の比較部を用いてドミナントレベルの比較判定を行えばよい。あるいは、4個以上の電圧源を使用して4段階以上の電圧レベルでデータの優先度の高低を示すようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、CANバス11を通じて行われるCAN通信を例に挙げて説明したが、その他、CSMA/CD方式またはCSMA/CA方式の通信に適用しても差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一の実施形態に係る通信装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の一の実施形態に係る通信装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一の実施形態に係る通信装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【図4】従来の通信装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0064】
10a〜10c 通信装置
11 バス
13 第一電圧源
15 第二電圧源
21a〜21c 電子ユニット
23 送信部
25 受信部
31 電圧切替部
33 パルス生成部
35 送信制御部
41 基準電圧
43 比較部
45 受信回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の通信線上で複数の電子ユニットの間で通信を行うために当該各電子ユニット毎に設けられる通信装置であって、
前記通信線に送出するデータのパルスの電圧レベルとして少なくとも2つの異なる電圧レベルを切り替える電圧切替部と、
送出する前記データの優先度に応じて高優先度のデータがそれよりも低優先度のデータに対して高い前記電圧レベルを選択するよう前記電圧切替部を制御する送信制御部と
を備える通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通信装置であって、
前記通信線の電圧状態が、前記高い電圧レベルであるか否かを判定する電圧判定手段を備え、
前記送信制御部は、前記電圧判定手段が前記通信線の電圧状態として前記高い電圧レベルである旨を判定し、且つ前記通信線に流れるデータが当該通信装置から送出されたものでない場合に、その旨を判断して、前記通信線に対する前記データの送出を中止することを特徴とする通信装置。
【請求項3】
所定の通信線上で複数の電子ユニットの間で通信を行う通信方法であって、
(a)前記通信線に送出するデータが高優先度以外のデータである場合に、第1の電圧レベルのデータを生成して前記通信線に送出する工程と、
(b)前記通信線に送出するデータが高優先度のデータである場合に、前記第1の電圧レベルよりも高い第2の電圧レベルのデータを生成して前記通信線に送出する工程と
を備える通信方法。
【請求項4】
請求項3に記載の通信方法であって、
前記(a)の工程及び(b)の工程のいずれかまたは両方において、
前記通信線の電圧状態が前記第2の高い電圧レベルであるか否かを判定し、前記通信線の電圧状態として前記第2の電圧レベルである旨が判定され且つ前記通信線に流れるデータが他の電子ユニットからのデータである場合に、前記通信線に対する前記データの送出を中止することを特徴とする通信方法。
【請求項1】
所定の通信線上で複数の電子ユニットの間で通信を行うために当該各電子ユニット毎に設けられる通信装置であって、
前記通信線に送出するデータのパルスの電圧レベルとして少なくとも2つの異なる電圧レベルを切り替える電圧切替部と、
送出する前記データの優先度に応じて高優先度のデータがそれよりも低優先度のデータに対して高い前記電圧レベルを選択するよう前記電圧切替部を制御する送信制御部と
を備える通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通信装置であって、
前記通信線の電圧状態が、前記高い電圧レベルであるか否かを判定する電圧判定手段を備え、
前記送信制御部は、前記電圧判定手段が前記通信線の電圧状態として前記高い電圧レベルである旨を判定し、且つ前記通信線に流れるデータが当該通信装置から送出されたものでない場合に、その旨を判断して、前記通信線に対する前記データの送出を中止することを特徴とする通信装置。
【請求項3】
所定の通信線上で複数の電子ユニットの間で通信を行う通信方法であって、
(a)前記通信線に送出するデータが高優先度以外のデータである場合に、第1の電圧レベルのデータを生成して前記通信線に送出する工程と、
(b)前記通信線に送出するデータが高優先度のデータである場合に、前記第1の電圧レベルよりも高い第2の電圧レベルのデータを生成して前記通信線に送出する工程と
を備える通信方法。
【請求項4】
請求項3に記載の通信方法であって、
前記(a)の工程及び(b)の工程のいずれかまたは両方において、
前記通信線の電圧状態が前記第2の高い電圧レベルであるか否かを判定し、前記通信線の電圧状態として前記第2の電圧レベルである旨が判定され且つ前記通信線に流れるデータが他の電子ユニットからのデータである場合に、前記通信線に対する前記データの送出を中止することを特徴とする通信方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2006−33391(P2006−33391A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208948(P2004−208948)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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