説明

通気フィルター、電気装置及びその製造方法

【課題】パーティクルの除去機能を備え、かつ筐体内の気体置換を短時間で完了できる通気フィルター及びこれを用いた電気装置を提供することを目的とする。
【解決手段】基材膜1と通気膜6とを積層して構成される通気フィルターであって、基材膜1には、通気膜6側の気圧と基材膜1側の気圧との差を緩和するために気体の往来を可能とさせる第1の開口部2aと、基材膜6側から通気膜1側の一方向、又は通気膜1側から基材膜6側の一方向に気体を流すための第2の開口部3の少なくとも2つを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ等の電気装置の筐体に設置される通気フィルター、この通気フィルターを用いた電気装置、及びその電気装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ等の主記憶装置として用いられているハードディスクドライブ(HDD)は、ディスクの記録密度が年々増大している。HDDは最終製品となる前にディスク上にアドレス情報(サーボ・データ)が記録されるが、記録密度の増大に伴う記録位置の高精度化のため、空気によるディスクの粘性摩擦(風損)や熱による影響を極力少なく抑える必要がある。そのため、HDDの筐体内に水素ガスやヘリウム(He)ガス等、空気よりも軽い気体で置換することにより、ディスク上にサーボ・データを記録する際の風損等の外乱を軽減することが従来から知られている。
【0003】
特許文献1には、HDDの筐体内の空気をヘリウムガスと置換する方法として、パーティクル(粉塵)検査用のテスト口を利用する方法が記載されている(請求項5)。しかし、このテスト口は通気フィルター等によってカバー(防護)されていない貫通孔であるため(図6)、このテスト口を使用してHDD筐体内にヘリウムガス等を注入すると、ヘリウムガスを供給するボンベの内部や注入に用いる接続チューブの内部などに存在するパーティクル或いはチューブ接続時に発生したパーティクルがヘリウムガスとともに筐体内に進入し、筐体内がパーティクルにより汚染されてしまう恐れがある。
【0004】
一方、特許文献2の図5に記載されているように、通常、HDDの筐体には通気口が設けられている。この通気口にはHDDの内部機構に対する有害ガスや水分等を吸着する濾過材(ガス吸着部材)を備えた通気フィルターが装着されている。このため、HDD作動中の温度変化により空気が膨張・収縮しても、この通気口及び通気フィルターを経由して空気が筐体内外に出入りすることが可能な構造となっており、筐体内部を清浄に保ちつつ、HDD筐体の呼吸を実現している。
【0005】
また、同図5に記載されているように、通気フィルターに、外気とHDD内部との間の気体流通経路の途中に拡散流路と呼ばれる細長い通路を形成することが一般的となっている。拡散流路の存在により、HDD筐体が急激に高温或いは多湿の環境に持ち込まれたときでも水分がHDD内部に到達するまでの時間を十分に稼ぐことができ、HDD内部の結露や錆の発生を防止している。
【特許文献1】特開2006−40423号公報(請求項5,図6)
【特許文献2】特開2000−33212号公報(段落0004,図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1には、HDD筐体内に置換ガスを送り込む方法としてパーティクル検査用のテスト口を用いる方法が記載されているが、上述したように、ヘリウムボンベ中や接続作業時に発生したパーティクルも同時に筐体内に進入してしまうため好ましい方法とはいえない。そうすると、パーティクルの侵入を防止しつつHDD筐体内に置換ガスを送り込むことができる一つの方法として、上記特許文献2に記載されている通気口を経由してHDD筐体内に置換ガスを送り込む方法が想起し得る。しかし、通気口に設けられる通気フィルターには、水分や汚染ガス等を捕捉するための濾過材(ガス吸着部材)が設けられているため、気体の通過に対する抵抗が高い。すなわち通気フィルターの圧力損失が高い。さらに上記拡散流路が形成されている場合は通気フィルターでの圧力損失が一層高くなる。従って、仮に、上記のように特許文献2に記載されている通気口を経由してHDD筐体内に置換ガスを送り込む方法を採用したとしても、通気フィルターの圧力損失が高いためにHDD筐体内に置換ガスを送り込むのに長時間を要してしまい、HDD等の製造タクトが落ちてしまう懸念がある。
【0007】
以上のことからすると、気体置換工程でのパーティクルの侵入を防止し、かつ、筐体内の気体置換を短時間で完了させるという2つの効果を同時に得るためには、特許文献2の通気フィルターを特許文献1に適用することでは足りず、もう一段階進んだ検討が必要になる。
【0008】
上述の事情に鑑み、本発明は、パーティクルの除去機能を備え、かつ、筐体内の気体置換を短時間で完了できるために製造タクトを低減させることのない通気フィルター及びこれを用いた電気装置(例えばハードディスクドライブ)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成し得た本発明の通気フィルターは、基材膜と通気膜とを積層して構成される通気フィルターであって、前記基材膜には、前記通気膜側の気圧と前記基材膜側の気圧との差を緩和するために気体の往来を可能とさせる第1の開口部と、前記基材膜側から前記通気膜側の一方向、又は前記通気膜側から前記基材膜側の一方向に気体を流すための第2の開口部の少なくとも2つが形成されているものである。
【0010】
上記通気フィルターとしては、前記基材膜と前記通気膜との間にガス吸着材が挟持されており、該ガス吸着材は、前記第2の開口部を覆わないものとすることが推奨される。
【0011】
上記目的を達成し得た本発明の通気フィルターは、少なくとも第1及び第2の開口部を有する基材膜と、該基材膜の一部を覆うように形成されたガス吸着部材と、該ガス吸着部材を前記基材膜との間に挟持するように形成された通気膜とを有し、前記第2の開口部は前記ガス吸着部材に覆われていないものである。
【0012】
上記通気フィルターにおいて、前記基材膜に気体の流路が形成されており、該流路の一端部が前記第1の開口部に接続されているものとすることが推奨される。
【0013】
上記通気フィルターにおいて、前記通気膜がフッ素樹脂膜で構成されているものとすることが推奨される。
【0014】
上記通気フィルターにおいて、前記通気膜が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜で構成されているものとすることが推奨される。
【0015】
上記通気フィルターにおいて、前記通気膜がエレクトレット膜で構成されているものとすることが推奨される。
【0016】
上記通気フィルターにおいて、前記第1の開口部を覆う通気膜が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜であり、前記第2の開口部はエレクトレット膜で覆われていることが推奨される。
【0017】
上記通気フィルターにおいて、前記通気膜の表面に撥液剤を添加することが推奨される。
【0018】
上記通気フィルターにおいて、前記基材膜が両面粘着テープで構成することが推奨される。
【0019】
上記通気フィルターにおいて、前記ガス吸着部材と前記基材膜との間に更に通気膜を設けることが望ましい。
【0020】
上記目的を達成し得た本発明の電気装置は、開口部を有する筐体と、該開口部を覆うように形成された上記通気フィルターとを有するものである。
【0021】
上記電気装置は、前記筐体の開口部は少なくとも2つ形成されており、それぞれの開口部は上記通気フィルターの第1及び第2の開口部のいずれかに連通しているものであることが好ましい。
【0022】
上記電気装置の筐体には、上記通気フィルターに覆われた前記開口部のほか、前記筐体内の気体を外部に流出させるための他の開口部が形成されていることが好ましい。
【0023】
上記目的を達成し得た本発明の電気装置の製造方法は、少なくとも2つの開口部が形成された筐体を準備する工程と、それぞれの開口部が上記通気フィルターの第1及び第2の開口部のいずれかに連通するようにして該通気フィルターを前記筐体の内壁側に装着する工程と、前記通気フィルターの第2の開口部を用いて前記筐体内の気体を置換する工程と、前記第2の開口部に連通する前記筐体の開口部をシール部材で封止する工程とを有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の通気フィルターにおいては、基材膜に第1の開口部と第2の開口部が備えられているため、ガス吸着部材或いは拡散流路をバイパスして置換目的の気体を迅速に透過させることができる。したがって、パーティクルや有害ガス等の除去機能を備えつつも、短時間で筐体内の気体置換が行えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態における通気フィルター、電気装置及びその製造方法(以下、ハードディスクドライブ(HDD)を例に説明する)、及びハードディスクドライブの製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
(1)通気フィルターの積層構造
図1は、本発明の実施の形態に係る通気フィルターの構造解説図である。図2は、図1のA−A断面図を示すものである。図1及び図2に示されるように、通気フィルターは、基材膜1、流路カバーフィルム4、ガス吸着部材5、及び通気膜6を順次積層した構造を有している。基材膜1には、第1の開口部2a、拡散流路2b、及び終端部2cを含む切り欠き部2と、第2の開口部3が形成されている。図1及び図2に示されるように、この通気フィルターは、第3の開口部8と第4の開口部9が形成されているHDDの筐体7の内壁に設けられる。この際、第1の開口部2aと第3の開口部8とが連通し、第2の開口部3と第4の開口部9とがそれぞれ連通するように構成されている。
【0027】
なお、通気膜6とは別に、基材膜1とガス吸着部材5との間に更に通気膜(図示はしていない)を設けてもよい。このような構成により、ガス吸着部材5から発生するパーティクルが脱落することを防ぐことができる。また、基材膜1側から流れ込むガスに含まれるパーティクルがガス吸着部材5に侵入する前に捕集することもできる。この通気膜には、例えば多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜と不織布とを圧着したものを用いることができる。後述する図3〜図6の態様においても同様である。
【0028】
次に、第1の開口部2aと第3の開口部8を通過する気体の流れについて説明する。図1において、筐体7の外界側(図1下方側)から、筐体7の第3の開口部8を経由して侵入した気体は、基材膜1の第1の開口部2aから通気フィルターに流入し、拡散流路2bを通り、終端部2cへと流れていく。終端部2cからは、ガス吸着部材5、通気膜6をそれぞれ経由して筐体7の内部(図1上方側)へと抜けて行く。気体はその逆方向に流れることも可能であり、通気膜6からガス吸着部材5、切り欠き部2の終端部2c、拡散流路2b、第1の開口部2aを経由して、筐体7の第3の開口部8から外界へ抜けて行けるように構成されている。
【0029】
第1の開口部2aを経由しての気体の流出入は、通気フィルターの通気膜側(図1の上側)の気圧と基材膜1側(図1の下側)の気圧の差を緩和する方向に働くものであり、筐体7内外の気圧差に依存する。例えばHDD内部の装置が作動しているときにはHDDの筐体7内部の気体は熱せられて膨張するため、筐体7内部の気圧は高くなり、そうすると第1の開口部2aを経由して気体は筐体7の外部へ流出する。逆に、HDD内部の装置が停止すると筐体7内部の温度が下がるため、第1の開口部2aを経由して気体が筐体7の内部へ流入する。
【0030】
第2の開口部3を経由した気体の流れについては後に詳しく説明することとし、ここでは簡単に触れておく。第2の開口部3は、基材膜1側から通気膜6側の一方向又は通気膜6側から基材膜1側の一方向に水素ガスや窒素ガスやヘリウムガス(Heガス)等、空気よりも軽い気体を流すために設けられた開口である。
【0031】
(2)気体の置換手順
図3A〜3Cは、本発明の実施の形態に係る通気フィルターを装着した状態のHDDの断面図である。筐体7内部に格納されるHDD本体は、公知の方法により製造されるものである。図3Aは、ディスクにサーボ・データを記録する前に置換気体であるHeガスを気体供給ヘッド12から注入する状態を示す図であり、図3Bは、Heガスの置換後、第4の開口部9と第5の開口部10がシール部材14によって封止された状態を示す図である。
【0032】
図3Aに示すように、筐体7の内部にはハードディスク本体及びこのハードディスクに情報を記録し、或いは情報を読み出すための磁気ヘッドが配置されている(符号なし)。筐体7の内壁には、図1及び図2で説明したように通気フィルターが装着されている。また筐体7には、第3の開口部8、第4の開口部9の他、第4の開口部9から気体を注入された際に筐体7内に元々存在していた気体を筐体7の外部に排出するために設けられた第5の開口部10(排気口)が形成されている。
【0033】
図3Aに示すように、気体供給ヘッド12を第4の開口部9に押し当て、気体供給ヘッド12からHeガスを筐体7内に注入する。Heガスは通気フィルターの第2の開口部3、通気膜6を経由して筐体7内に送り込まれる。同時に、元々筐体7に存在していた空気は第5の開口部10、或いは筐体7の第3の開口部8から押し出されるようにして排出されることにより気体の置換が行われる。なお、気体置換時に排出ガスによるガス吸着部材5の汚染を最小限にとどめたい場合には筐体7の第3の開口部8をシール部材13によって封止しておけばよい。
【0034】
Heガスの置換が完了すれば、第4の開口部9及び第5の開口部10は不要の存在となるため、図3Bに示すようにシール部材14によって封止する。HDDが完成した後は、筐体7の第3の開口部8、通気フィルターの第1の開口部2aを経由しての気体の往来を可能とするため、シール部材13を取り外す。
【0035】
なお、上記図3Aに示したものは、気体供給ヘッド12からHeガスを筐体7内に注入した例であるが、後述するように本発明がHDD以外の電気装置にも広く用いられることも考慮すれば、図3Cに示すように、筐体7内の気体を気体供給ヘッド12から吸い上げる方法も実施し得る。その場合には、第5の開口部10を経由して筐体7の外部から内部に置換気体が吸引されるため、第5の開口部10を別の通気膜11で覆い、筐体7の外部から侵入しようとするパーティクルを捕集することが望ましい。
【0036】
図4A〜4Cは、本発明の他の実施の形態に係る通気フィルターを装着した状態のHDDの断面図であり、基本的には図3A〜3Cの形態と同様のものである。図3A〜3Cの形態と異なる点は、第4の開口部9と第5の開口部10を隣接して配置した点にあり、これにより、1枚のシール部材14により第4の開口部9と第5の開口部10の両方を封止することができる。シール部材14としては、開口部の封止を目的とした専用のシール部材を用意してもよいが、HDDの製品情報等を表すラベルにより封止することも可能である。
【0037】
(3)実施形態の変形例
以上、本発明の実施の形態における通気フィルターの構造について概容を説明したが、整理すると、本発明の通気フィルターは少なくとも次の(3−1)又は(3−2)の何れかの要件に該当するものである。
【0038】
(3−1)
基材膜1と通気膜6とを積層して構成される通気フィルターであって、基材膜1には、気体の往来を可能とさせる第1の開口部2aと、基材膜1側から通気膜6側の一方向、又は通気膜6側から基材膜1側の一方向に気体を流すための第2の開口部3の少なくとも2つの開口部が形成されている通気フィルター。
【0039】
(3−2)
少なくとも第1の開口部2a及び第2の開口部3を有する基材膜1と、基材膜1の一部を覆うように形成されたガス吸着部材5と、ガス吸着部材5を基材膜1との間に挟持するように形成された通気膜6とを有し、第2の開口部3はガス吸着部材5に覆われていない通気フィルター。
【0040】
上記要件(3−1)に記載した通り、気体の往来を可能とさせる第1の開口部2aとは別に第2の開口部3を形成することにより気体置換を効率的に(迅速に)行うことができる。第2の開口部3は、基材膜1側から通気膜6側、通気膜6側から基材膜1側のいずれか一方向のみに気体を流すための開口として使用する。何れの方向でも良いが、詳しくは後に図面を用いて説明する。なお、第1の開口部2aの圧力損失(コンダクタンス)よりも低い圧力損失を有する第2の開口部3を形成することにより気体置換の迅速化の効果は確実に奏されるが、置換する気体を第1の開口部2a及び第2の開口部3の双方から行う場合を想定すれば、第2の開口部3の圧力損失の大きさに関わらず、基材膜1に第2の開口部3を形成することのみによって気体置換の速度を上げることができる。
【0041】
また、基材膜1に形成される第1の開口部2aは少なくとも1つ、第2の開口部3も少なくとも1つであり、必要により第1の開口部2aおよび/または第2の開口部3を複数設けてもよい。例えば筐体7内に複数種類の置換ガスを導入する場合には第2の開口部3を複数設けておくことにより、より迅速な気体置換を行うことができる。また例えば、種類の異なるガス吸着部材5を併用したい場合にはそれに対応して第1の開口部2aを複数設けておくことができる。
【0042】
また、流路カバーフィルム4は、通気フィルム内に拡散流路を形成する場合の一実施形態である。流路カバーフィルム4を設けることにより通気フィルム内の流路を長くすることができるため、HDDが急激に高温或いは多湿の環境に持ち込まれたときでも水分がHDD内部に到達するまでの時間を十分に確保することができ、HDD内部の結露や錆の発生を防止することができる。
【0043】
また、ガス吸着部材5が設けられる場合、ガス吸着部材5が第2の開口部3を覆っていても覆っていなくてもよいが、覆っていなければ第2の開口部3の圧力損失が小さくなるため、実施形態として一層好ましい。
【0044】
基材膜1は、通気膜6を保持できるものであればどのようなものを用いても良いが、両面粘着テープで構成することにより筐体7に容易に装着することができる。詳細は後述する。
【0045】
本実施の形態では、1枚の通気膜6により第1の開口部2aと第2の開口部3の双方を覆った例について説明したが、図5に示すように、第1の開口部2aを多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜で覆い、第2の開口部3を異なる種類の通気膜、例えばエレクトレット膜(以下、「エレクトレットフィルター15」と記載する。)で覆うこともできる。エレクトレットとは、誘電体材料、例えば高分子材料(フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等)を加熱溶融し、これに直流の高電圧を加えながら電極の間で固化させたものであり、電極を取り去っても誘電体材料の表面に正又は負の静電気が帯電した部材をいう。フィルター自体が帯電しているため、静電力によって空気中に浮遊するパーティクルを捕捉する効果がある。この効果は、HDDの製造工程中だけではなく、HDDが完成し、出荷した後にも継続的に奏される。
【0046】
更にエレクトレットフィルター15は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に比べて圧力損失が格段に低いために、Heガス等の置換気体を迅速に流入させる目的で設けた第2の開口部3を覆うフィルターとしては多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜よりも一層適しているといえる。
【0047】
なお、エレクトレットフィルター15の捕集効率は多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に比較して低いが(例えば直径0.3μmのパーティクルの捕集効率は多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に比べ30〜40%低いが)、第1の開口部2aを覆うフィルターがHDDの出荷後一般ユーザの使用環境中に含まれるレベルのパーティクルを捕集する必要があるのに対して、第2の開口部3を覆うフィルターは、HDDの製造工程中に気体置換の目的で使用されるものである。従ってパーティクル濃度を低レベルにコントロールすることは十分に可能であることから、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜に比較して捕集効率が低いことは実使用上さほど大きなデメリットではなく、圧力損失が低いことによるメリットの方が大きい。
【0048】
本実施の形態では、通気膜6が第2の開口部3を直接覆う例について説明したが、ガス吸着部材5が第2の開口部3を覆ってもよいし、図6に示すように他のガス吸着部材16で覆うように構成してもよい。ガス吸着部材16としては、圧力損失(通気抵抗)がガス吸着部材5よりも低いものを用いることが好ましい。ガス吸着部材16の通気抵抗が低いことが望ましい理由は、上記と同様に、第2の開口部3は置換気体を迅速に流入させることが目的であるためである。
【0049】
圧力損失の低いガス吸着部材16としては、活性炭繊維により構成される不織布、織布、或いは活性炭を塗布することにより活性炭を含ませた不織布を用いることができる。また、ガス吸着部材16の表面に凹凸形状(例えば溝)を設ける等して、圧力損失の低減を図ったものが好ましく使用できる。
【0050】
なお、ガス吸着部材16の圧力損失が低いことは有害ガス等の吸着効率の面でいえば低くなる方向に働く。しかし、ガス吸着部材5がHDD出荷後の一般ユーザの使用環境大気に曝されるのに対して、HDDの製造後においては筐体7の第4の開口部9がシール部材14により封止されるためガス吸着部材16は使用環境大気に曝されるものではない。また、ガス吸着部材16に求められるガス吸着能力はガス吸着部材5に求められるガス吸着能力と比較して高いものではない。その理由は、ヘリウムガス等を置換する際にヘリウムガスに混入している有害ガス(例えばヘリウムガスボンベから供給されるガス流量をコントロールするためのレギュレーター内部で使用される潤滑剤から発生するガスコンタミネーション)、或いはシール部材14により筐体7が封止された後に筐体7内に存在する接着剤等からの発ガスを吸着除去できる程度であればよく、特に高い吸着容量は要求されない。従って、ガス吸着部材5に比較して捕集効率が低いことは実使用上さほど大きなデメリットではなく、圧力損失が低いことによるメリット(ガス置換の迅速化)の方が大きい。
【0051】
本実施の形態では、気体置換に用いる開口として筐体7に第3の開口部8、HDD筐体内外の通気性を確保するために第4の開口部9をそれぞれ個別に設けた例について説明したが、第3の開口部8、第4の開口部9を一つに纏め、気体置換と通気性の確保の双方の役割を担う大きめの開口部を形成してもよい。
【0052】
本実施の形態では通気フィルターをHDDに適用した例について説明してきたが、HDDに限らず、筐体を有し、筐体内部の気体を置換する必要を有するものであればどのような筐体に対しても使用可能である。例えば、半導体素子製造における露光工程で用いられる不活性ガスの置換を目的とした電気装置でも使用することができる。
【0053】
(4)各構成部材の詳細
基材膜1として両面粘着テープを使用する場合、その両面粘着テープには、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ナイロン不織布等を芯材とした不織布基材両面粘着テープ、PET基材両面粘着テープ、ポリイミド基材両面粘着テープ、ナイロン基材両面粘着テープ、発泡体(例えば、ウレタンフォーム、シリコーンフォーム、アクリルフォーム、ポリエチレンフォーム)基材両面粘着テープ、基材レス両面粘着テープなど様々なタイプのものを用いることができる。
【0054】
通気膜6の構成材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド等を使用することができるが、好ましくは防水性に優れたフッ素樹脂、更に好ましくは、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(多孔質PTFE)のフィルムを用いることが推奨される。通気膜6の微視的形状としては、ネット状、メッシュ状、多孔質のものを用いることができる。多孔質PTFEフィルムは、防水性に優れ、水滴、塵埃、有害ガス等の侵入を防止しつつHDDの内外の通気性を持たせる用途に適している。
【0055】
多孔質PTFEフィルムは、PTFEのファインパウダーを成形助剤と混合することにより得られるペーストの成形体から、成形助剤を除去した後、高温高速度で延伸、さらに必要に応じて焼成することにより得られるものである。一軸延伸の場合、ノード(折り畳み結晶)が延伸方向に直角に細い島状となっていて、このノード間を繋ぐようにすだれ状にフィブリル(折り畳み結晶が延伸により解けて引出された直鎖状の分子束)が延伸方向に配向している。そして、フィブリル間、又はフィブリルとノードとで画される空間が空孔となった繊維質構造となっている。また、二軸延伸の場合には、フィブリルが放射状に広がり、フィブリルを繋ぐノードが島状に点在して、フィブリルとノードとで画された空間が多数存在するクモの巣状の繊維質構造となっている。
【0056】
通気膜6は、1軸延伸多孔質PTFEフィルムであっても良いし、2軸延伸多孔質PTFEフィルムであってもよい。
【0057】
通気膜6は、その細孔内表面に撥液性ポリマーを被覆させて用いるのが好ましい。通気膜6の細孔内表面を撥水撥油性ポリマーで被覆しておくことによって、体脂や機械油、水滴などの様々な汚染物が、通気膜の細孔内に浸透若しくは保持されるのを抑制できる。これらの汚染物質は、通気膜の捕集特性や通気特性を低下させ、通気膜としての機能を損なわせる原因となる。
【0058】
なお、特許請求の範囲及び本明細書において「撥液剤」とは、液体をはじく性質乃至は機能を有する物質を指すものであるとし、「撥液剤」には、「撥水剤」、「撥油剤」、「撥水撥油剤」等を含むものとする。以下、撥水撥油性ポリマーを例に挙げて説明する。
【0059】
撥水撥油性ポリマーとしては、含フッ素側鎖を有するポリマーを用いることができる。撥水撥油性ポリマーおよびそれを多孔質PTFEフィルムに複合化する方法の詳細についてはWO94/22928号公報などに開示されており、その一例を下記に示す。
撥水撥油性ポリマーとしては、下記一般式(1)
【0060】
【化1】

【0061】
(式中、nは3〜13の整数、Rは水素またはメチル基である)
で表されるフルオロアルキルアクリレートおよび/またはフルオロアルキルメタクリレートを重合して得られる含フッ素側鎖を有するポリマー(フッ素化アルキル部分は4〜16の炭素原子を有することが好ましい)を好ましく用いることができる。このポリマーを用いて上記多孔質PTFEフィルムの細孔内を被覆するには、このポリマーの水性マイクロエマルジョン(平均粒径0.01〜0.5μm)を含フッ素界面活性剤(例、アンモニウムパーフルオロオクタネート)を用いて作製し、これを多孔質PTFEフィルムの細孔内に含浸させた後、加熱する。この加熱によって、水と含フッ素界面活性剤が除去されるとともに、含フッ素側鎖を有するポリマーが溶融して多孔質PTFEフィルムの細孔内表面を連続気孔が維持された状態で被覆し、撥水性・撥油性の優れた通気膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る通気フィルターの構造解説図である。
【図2】図2は、図1の通気フィルターの一部断面図である。
【図3A】図3Aは、本発明の実施の形態に係るハードディスクドライブの気体置換工程を示す図である。
【図3B】図3Bは、本発明の実施の形態に係るハードディスクドライブを示す図である。
【図3C】図3Cは、本発明の実施の形態に係るハードディスクドライブの他の気体置換工程を示す図である。
【図4A】図4Aは、本発明の他の実施の形態に係るハードディスクドライブの気体置換工程を示す図である。
【図4B】図4Bは、本発明の他の実施の形態に係るハードディスクドライブを示す図である。
【図4C】図4Cは、本発明の他の実施の形態に係るハードディスクドライブの他の気体置換工程を示す図である。
【図5】図5は、本発明の他の実施の形態に係る通気フィルターの断面図である。
【図6】図6は、本発明の他の実施の形態に係る通気フィルターの断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 基材膜
2 切り欠き部
2a 第1の開口部
2b 拡散流路
2c 終端部
3 第2の開口部
4 流路カバーフィルム
5、16 ガス吸着部材
6 通気膜
7 筐体
8 第3の開口部
9 第4の開口部
10 排気開口部
11 通気膜
12 気体供給ヘッド
13、14 シール部材
15 エレクトレットフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材膜と通気膜とを積層して構成される通気フィルターであって、前記基材膜には、前記通気膜側の気圧と前記基材膜側の気圧との差を緩和するために気体の往来を可能とさせる第1の開口部と、前記基材膜側から前記通気膜側の一方向、又は前記通気膜側から前記基材膜側の一方向に気体を流すための第2の開口部の少なくとも2つが形成されていることを特徴とする通気フィルター。
【請求項2】
前記基材膜と前記通気膜との間にガス吸着部材が挟持されており、該ガス吸着部材は、前記第2の開口部を覆わないことを特徴とする請求項1に記載の通気フィルター。
【請求項3】
少なくとも第1及び第2の開口部を有する基材膜と、該基材膜の一部を覆うように形成されたガス吸着部材と、該ガス吸着部材を前記基材膜との間に挟持するように形成された通気膜とを有し、前記第2の開口部は前記ガス吸着部材に覆われていないことを特徴とする通気フィルター。
【請求項4】
前記基材膜に気体の流路が形成されており、該流路の一端部が前記第1の開口部に接続されている請求項1〜3のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項5】
前記通気膜がフッ素樹脂膜で構成されている請求項1〜4のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項6】
前記通気膜が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜で構成されている請求項5に記載の通気フィルター。
【請求項7】
前記通気膜がエレクトレット膜で構成されている請求項1〜4のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項8】
前記第1の開口部を覆う通気膜が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜であり、前記第2の開口部はエレクトレット膜で覆われている請求項1〜4のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項9】
前記通気膜の表面に撥液剤を添加した請求項1〜8のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項10】
前記基材膜が両面粘着テープで構成されている請求項1〜9のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項11】
前記ガス吸着部材と前記基材膜との間に更に通気膜が設けられている請求項2〜10のいずれかに記載の通気フィルター。
【請求項12】
開口部を有する筐体と、該開口部を覆うように形成された請求項1〜11のいずれかに記載の通気フィルターとを有する電気装置。
【請求項13】
前記筐体の開口部は少なくとも2つ形成されており、それぞれの開口部は前記通気フィルターの第1及び第2の開口部のいずれかに連通している請求項12に記載の電気装置。
【請求項14】
前記筐体には、請求項1〜11のいずれかに記載の通気フィルターに覆われた前記開口部のほか、前記筐体内の気体を外部に流出させるための他の開口部が形成されている請求項12または13に記載の電気装置。
【請求項15】
少なくとも2つの開口部が形成された筐体を準備する工程と、それぞれの開口部が請求項1〜11のいずれかに記載された通気フィルターの第1及び第2の開口部のいずれかに連通するようにして該通気フィルターを前記筐体の内壁側に装着する工程と、前記通気フィルターの第2の開口部を用いて前記筐体内の気体を置換する工程と、前記第2の開口部に連通する前記筐体の開口部をシール部材で封止する工程とを有する電気装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−86629(P2010−86629A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256721(P2008−256721)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】