説明

通線具

【課題】吊り線に既設ケーブルを支持し、簡単且つ効率よく新規のケーブルを架設できる。
【解決手段】通線具10は、吊り線3にケーブルリング5によって支持された既設ケーブル4に摺動可能に取り付ける。通線具10は、既設ケーブル4を抱き込んで摺動可能な断面円弧状のラップ部11と、3本の外側に湾曲するロッド15を断面三角形をなすよう配して両端を接続した本体12とを有し、本体12後端のコネクタ16にリード17を設けた。ラップ部11は下端のスリットで開いて弾性変形可能な合成樹脂製とした。本体12は既設ケーブル4に当接する2本のロッド15を三角形の底部に位置させた。本体12には吊り線3を挟んでその両側に揺動可能で長さと剛性の異なる第一ガイド部材20と第二ガイド部材21を設けた。第一及び第二ガイド部材20,21で吊り線3を挟んで走行をガイドし、ケーブルリング5を乗り越えて走行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電柱間に架設された吊り線に支持された既設ケーブルをガイドとしてケーブル吊り具内に新たなケーブルを通して架設するための通線具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電柱間に架設された既設のケーブルに対してこの既設ケーブルをガイドとして新たなケーブルを架設するための通線具として、例えば特許文献1に記載されたケーブル用引き紐の先導具が提案されている。
特許文献1に記載された先導具では、電柱間に架設された自己支持型ケーブルが吊り線部とケーブル部とで瓢箪形に一体連結されており、自己支持型ケーブルの外周に螺旋状にスパイラルハンガーが巻回されている。そして、スパイラルハンガーの内部に設けられた先導具は略凹部形状の主体片に開閉可能な一対の円弧状部分を有する掛止片が設けられている。これらの掛止片は一対の円弧状部分でケーブル部に係合可能とされ、その基部がV字状の板バネで連結されている。ボルトを進退させることでこの板バネを開閉させる調整手段を設け、一対の掛止片の円弧状部分からなる開口を開閉調整させて径の異なるケーブル部に係合可能で摺動可能とした。この先導具の後部には押圧線体及びよび線工具を介してケーブル用引き紐が連結されている。
【0003】
そして、ケーブル部に一対の掛止片が係合された先導具について、よび線工具を一方の電柱側から他方の電柱側に押圧することで、主体片がスパイラルハンガーに内接しながら掛止片がケーブル部に案内されて他方の電柱側に移動する。そして、引き紐の末尾に追加するケーブルを組み付けて引き紐の先端を引っ張ることで電柱間に追加のケーブルが架設されることになる。
【0004】
また、電柱間に架設された吊り線と既設ケーブルに対してスパイラルハンガーに代えてケーブルリングが所定間隔で配設されたケーブル架設構造として、例えば図8に示すものがある。図8に示すケーブル架設構造において、二本の電柱1,2の間に吊り線3と既設のケーブル4が分離されて架設されている。そして、吊り線3から既設ケーブル4を吊り下げる手段としてケーブルリング5が所定間隔で設けられている。
【0005】
ケーブルリング5は基部6に対してその両端から上方にワイヤ状の吊り具6a、6bが延びており、各吊り具6a、6bの上端部が吊り線3に係止されている。しかも、各吊り具6a、6bはその一方が吊り線3の前方側に延び、他方が吊り線3の後方側に延びてそれぞれ吊り線3に折り曲げられて係止されている。ケーブルリング5を所定間隔で吊り線3に取り付けて、吊り線3から既設ケーブル4を略リング状に囲うことで既設ケーブル4が垂れ下がらないように支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3404339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したケーブル架設構造においては、追加の新設ケーブル8をケーブルリング5内に新設する場合、既設ケーブル4はケーブルリング5の基部6に当接して吊り下げ支持されているために上述した特許文献1記載の先導具を用いることができなかった。そのため、新設ケーブルを架設する際、工事車のゴンドラ9に乗った作業者が各ケーブルリング5の吊り具6aまたは6bを吊り線3から一旦外して新設ケーブル8をケーブルリング5の内側に通して再度吊り具6aまたは6bをかけ直すことで新設ケーブル8を敷設していたため、架設工事に手間がかかって煩雑であり、架設効率が悪いという欠点があった。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑み、吊り線に対して既設ケーブルがケーブル吊り具によって支持されていても簡単且つ効率よく新規のケーブルを架設できるようにした通線具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による通線具は、電柱間に架設された吊り線にケーブル吊り具によって支持された既設ケーブルに摺動可能に取り付け、新規ケーブル用リールを接続して既設ケーブルに沿って走行させるようにした通線具であって、後端側で新規ケーブル用リールを接続した本体と、該本体に設けられていて分離されたスリットの部分で既設ケーブルを抱き込む弾性変形可能なラップ部と、本体またはラップ部に設けられていて吊り線を挟んでその両側に支持された揺動可能なガイド部材と、を備えたことを特徴とする。
本発明による通線具によれば、ケーブル吊り具によって既設ケーブルが吊り線に吊り下げ支持された状態で、通線具のラップ部をスリットの部分で開いて弾性変形させて既設ケーブルに包み込んで取り付けることができ、吊り線に対して既設ケーブルがケーブル吊り具によって支持されていても通線具を装着できる。
そして、通線具は、その本体に新規ケーブル用リールを取り付けた状態で既設ケーブルに沿って押し出すことで、既設ケーブルに沿って移動させることができ、その際、通線具に設けたガイド部材が吊り線の両側に支持されているため、通線具を既設ケーブルに沿って走行させる際、通線具がラップ部によって既設ケーブル周りに回転しようとしてもガイド部材が吊り線の両側に配設されているために、通線具の回転はいずれかのガイド部材が吊り線に当接することで阻止できる。そして、通線具の本体に取り付けたリールを走行させて、例えば吊り線と既設ケーブルを架設させた一方の電柱から他方の電柱まで移動した後にリールとこのリールに続く新規ケーブルを引っ張る等して敷設することができる。
【0010】
また、ガイド部材は、摺動時にケーブル吊り具に当接すると変位して弾性復帰可能な弾性部材を有していてもよい。
通線具を既設ケーブルに沿って走行させる際、ガイド部材が吊り線の両側に配設されているために、通線具の回転はいずれかのガイド部材が吊り線に当接することで阻止され、また、ガイド部材はケーブル吊り具に当接しても既設ケーブル側に変位することでケーブル吊り具を乗り越えた後で弾性部材の弾性力によって元の姿勢に復帰して吊り線の両側に突出して保持され、通線具の走行をガイドする。
【0011】
また、ガイド部材は吊り線の両側に2本設けられていて、第一のガイド部材は第二のガイド部材より長く且つ剛性が大きく形成され、走行時に第一のガイド部材は第二のガイド部材より先にケーブル吊り具に当接し、第二のガイド部材は第一のガイド部材より先にケーブル吊り具から外れることが好ましい。
通線具を既設ケーブルに沿って走行させる際、第一のガイド部材が第二のガイド部材より先にケーブル吊り具に当接して変位し且つガイドされて通線具は一方向に回動され、その後、通線具は第二のガイド部材がケーブル吊り具に当接してガイドされて通線具は逆方向に回動されるが、長さの短い第二のガイド部材が先にケーブル吊り具を越えて離れ、弾性部材の弾性力によって元の角度に復帰して第二のガイド部材による拘束を解かれ、その後、第一のガイド部材はケーブル吊り具を乗り越えて拘束を解かれる。
そのため、通線具は、走行時に既設ケーブルを支持するケーブル吊り具に第一及び第二のガイド部材が当接しても、既設ケーブルに対して揺動しながら回転姿勢が元の位置に戻され、第一及び第二のガイド部材がケーブル吊り具を乗り越えて吊り線の両側に配置させた状態でガイドされて、走行する。
【0012】
また、本体は既設ケーブルに当接する少なくとも2本のロッドを有していてもよい。
本発明によれば、既設ケーブルはケーブル吊り具によって吊り線に支持されており、通線具はラップ部で既設ケーブルを包み込んで摺動可能であるため、既設ケーブルに対してラップ部は回転可能となってしまうが、既設ケーブルに当接して挟持する少なくとも2本のロッドを本体に設けたために、これらロッドが既設ケーブルの周面に当接することでラップ部による通線具の回転を防止して走行可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明による通線具は、後端側で新規ケーブル用リールを接続した本体と、本体に設けられていて分離されたスリットの部分で既設ケーブルを抱き込む弾性変形可能なラップ部とを備えたため、通線具のラップ部を弾性変形させて押し広げて既設ケーブルに巻き付けることができ、吊り線に対して既設ケーブルがケーブル吊り具によって支持されていても簡単且つ効率よく通線具を取り付けできる。そして、吊り線を挟んでその両側に揺動可能なガイド部材を設けたため、通線具が回動することを抑制し、ガイド部材がケーブル吊り具に当接しても揺動することで乗り越えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態による通線具を既設ケーブルに取り付けた状態を示す要部斜視図である。
【図2】通線具の側面図である。
【図3】吊り線に既設ケーブルをケーブルリングで吊り下げた状態において、通線具を既設ケーブルに装着した状態を示す既設ケーブルの長手方向に直交する方向の縦断面図である。
【図4】通線具の本体に設けたガイド部を示す要部斜視図である。
【図5】吊り線とケーブルリングによって既設ケーブルを吊り下げた状態における通線具の本体を示す要部拡大斜視図である。
【図6】電柱間に吊り線と既設ケーブルを架設した状態において新規ケーブルを敷設する工程を示す図である。
【図7】通線具の第一及び第二ガイド部材がケーブルリングに当接する状態を示す要部斜視図である。
【図8】従来の技術によるケーブル架設構造において、吊り線に取り付けたケーブルリングによって既設ケーブルを吊り下げた状態で、新規ケーブルを架設する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態による通線具について添付図面に基づいて説明するが、上述した従来技術と同一または同様な部分、部材には同一の符号を用いて説明する。
本発明の実施形態による通線具とこれを用いた新規ケーブル架設方法について図1乃至図7により説明する。
図1及び図2において、本実施形態による通線具10は、例えば略円柱線状の既設ケーブル4を摺動可能に抱き込むためのラップ部11と既設ケーブル4に当接して摺動可能な本体12とを基本的に備えている。
【0016】
ラップ部11は略円筒状に形成されており、その下端部にはスリット13が形成されている。ラップ部11の進行方向に見て前端部と後端部は上端からスリット13を形成した下端に向けてそれぞれ互いに斜めに切除されたテーパ部11a、11bが形成されている。このラップ部11は例えば弾性変形可能な合成樹脂(例えばポリプロピレン)で形成されており、図3に示すようにスリット13を境にして両側に押し広げることで開口を広げて種々な外径寸法の既設ケーブル4を包み込んで摺動可能に保持できる。
そして、ラップ部11は既設ケーブル4に装着した状態で、既設ケーブル4の外径寸法が比較的小さい場合にはスリット13が互いに重なった状態に保持され、既設ケーブル4の外径寸法が比較的大きい場合にはスリット13が離間した状態に保持される。
【0017】
また、ラップ部11に連結された本体12は1または複数、例えば三本のロッド15を有しており、その前端部と後端部は結束されている。各ロッド15はその長手方向中央部分が外側に膨らむ円弧形状とされ、長手方向の中央部分で例えば略三角形、好ましくは略正三角形の角部に各ロッド15が位置するように配設されている。そのため、通線具10をラップ部11で既設ケーブル4に装着した状態で略三角形の底部をなす2本のロッド15が既設ケーブル4の周面に着座する構成とされている(図4参照)。
更に、本体12の後端部には3本のロッド15を結束した部分に連結されたコネクタ16を介して新規ケーブル用リール17が着脱可能に連結されている。
【0018】
また、図4において、本体12において各ロッド15の先端側に形成された先端面部18には複数本、例えば2本の角状(棒状)のガイド部材20、21が、本体12に対して斜め後方に向けて傾斜した状態を基準位置として取り付けられている。ここで、各ガイド部材20,21を第一ガイド部材20、第二ガイド部材21として、これらガイド部材20,21は先端面部18に取り付けられた基端部を中心に揺動可能であり、基端部近傍の位置で互いに第一ばね部材22によって接続されている。
そのため、これら第一及び第二ガイド部材20,21は第一ばね部材22によって接近離間可能とされている。更に第一ばね部材22の中間部は先端面部18との間で第二ばね部材23によって接続され、これによって第一及び第二ガイド部材20,21は横方向に回動可能で起立及び仰臥可能とされ、第一及び第二ばね部材22、23の弾性力によって基準位置に復帰可能とされている。
【0019】
また、第一ガイド部材20は第二ガイド部材21と比較して剛性が高く、その長さも吊り線3と既設ケーブル4に当接する三角形底部に相当する2本のガイドロッド15との間におけるケーブルリング6の後側の吊り具6aと前側の吊り具6bとの間の距離以上の長さだけより長く形成されている。そして、通線具10が既設ケーブル4に装着された状態で、2本のガイド部材20,21は吊り線3の両側に位置して通線具10の走行をガイドするように保持される。通線具10の走行時に第一及び第二ガイド部材20,21はケーブルリング5の二本の吊り具6a、6bにそれぞれ当接して回動をガイドされ、そして規制されることになる。
【0020】
本実施形態による通線具10は上述の構成を備えており、次にその作用を説明する。
まず、図6によって電柱1,2間のケーブル架設構造について説明する。
図6に示すケーブル架設構造では、電柱1,2間に吊り線3とその下側に既設ケーブル4が架設されており、吊り線3から既設ケーブル4を支持するケーブル吊り具としてケーブルリング5が所定間隔で複数配列されている。
図3及び図6に示すように、ケーブルリング5は底部に既設ケーブル4を支持する基部6が配設され、その両側にはワイヤ状の吊り具6a,6bが連結されている。各吊り具6a,6bは基部6に対して吊り線3の延在方向の前方側と後方側とに互いにずれた位置に延びてそれぞれ吊り線3に折り曲げて係止されている。そのため、通線具10を既設ケーブル4上で前進させると、第一及び第二ガイド部材20,21は通線具10の進行方向のほぼ同じ位置に設置されているが、先に第一ガイド部材20が後方側に延びて係止された吊り具6bに当接し、これに続いて第二外部材21が前方側の吊り具6aに当接し、それぞれ時間差をおいて吊り具6a,6bを乗り越えることになる。
【0021】
次に通線具10による新規ケーブルの敷設方法について説明する。
まず、図5に示す電柱1,2間の既設ケーブル4において、一方の電柱1側からケーブルリング5内を通る既設ケーブル4に、通線具10のラップ部11をスリット13で開口を広げて弾性変形させて既設ケーブル4に抱き付かせて係止させる。通線具10の本体12の後端部のコネクタ16に新規ケーブル用のリール17を接続する。
そして、電柱1側において所定高さの工事車のゴンドラ9にいる作業者が通線具10を押し出すと、図1及び図5に示すように、本体12の三本のロッド15のうち断面略三角形の底部に位置する2本のロッド15が略円筒形状の既設ケーブル4周面に設置されるため、通線具10は既設ケーブル4上を回動することなく、安定した状態で摺動して走行可能である。
【0022】
ここで、図5に示すように、吊り線3から既設ケーブル4を支持するケーブルリング5の両側の吊り具6a,6bは2本のロッド15を底部として断面視略三角形の頂点に位置することになり、通線具10の3本のロッド15は既設ケーブル4に載置された2本のロッド15と吊り線3近傍に位置する残りの1本のロッド15とで断面視略三角形の各角部に位置することになる。そのため、通線具10は安定した状態で既設ケーブル4上を走行することになる。
【0023】
既設ケーブル4上を摺動する通線具10はケーブルリング5内を走行し、既設ケーブル4がケーブルリング5の基部6に当接して支持されていたとしても、通線具10のラップ部11はスリット13が拡幅された状態で既設ケーブル4を抱き込んで係止され、ケーブルリング5の基部6に当接しないが、当接してもよい。しかも、通線具10は第一及び第二ガイド部材20,21が吊り線3を挟むように配設されているから、ラップ部11が既設ケーブル4周りに回動することなくスムーズに走行する。
【0024】
そして、図6に示すように、通線具10が前進することで第一及び第二ガイド部材20,21がケーブルリング5に到達すると、まず比較的長い第一ガイド部材20が後方側に延びて係止された吊り具6bに当接する。そして、更に通線具10が進むと、吊り具6bの傾斜姿勢に沿って第一ガイド部材20が吊り線3から離間する方向(上側から下側へ向けて)にガイドされ、通線具10は既設ケーブル4を中心に進行方向前方から見て反時計回りに若干回動する。これと同時に、通線具10の第一ガイド部材20は吊り具6bにガイドされて既設ケーブル4に近づくよう変位して傾斜角度が小さくなる。
なお、通線具10は比較的短い第二ガイド部材21が吊り線3に当接するまで回転すると回動を規制される。
【0025】
そして、更に通線具10が前進すると、図7に示すように、比較的長い第一ガイド部材20が吊り具6bに当接した状態で第二ガイド部材21が前方側の吊り具6aに当接し、この第二ガイド部材21は吊り具6aにガイドされて吊り線3から離間する方向(上側から下側に向けて)に回動すると共に既設ケーブル4との傾斜角度が次第に小さくなる。これに従って、通線具10は既設ケーブル4に対してラップ部11を中心に通線具10の進行方向前方から見て時計回りに若干回動し、元の角度位置を越えて同一方向に回動する。
そして、更に通線具10が前進すると、先に比較的短く剛性の小さい第二ガイド部材21が吊り具6aを乗り越えて第一及び第二バネ部材22,23の付勢力で元の姿勢に復帰する。このとき、第一ガイド部材20はまだ吊り具6bに当接しており、第一ガイド部材20は第二ガイド部材21が吊り具6aに当接し且つ離間するまで吊り具6bに当接して通線具10を元の角度位置まで復帰させる。そして、通線具10が更に前進すると、第一ガイド部材20は吊り具6bを乗り越えて外れ、第一及び第二バネ部材22,23の付勢力で元の姿勢と角度に復帰する。
【0026】
ところで、第二ガイド部材21の剛性が第一ガイド部材20より弱いため、第一ガイド部材20と吊り具6bとの当接による力の方が比較的大きく、第二ガイド部材21と吊り具6aが当接した状態でさらに通線具10を前進させても、通線具10が進行方向前方から見て反時計周りに回動することはない。
ここで、通線具10がケーブルリング5を通過する途中に、仮に進行方向前方から見て時計周りに回動して第一ガイド部材20が吊り線3を乗り越え、第一及び第二ガイド部材20、21が共に吊り線3に対して吊り具6a側にあったとしても、比較的短く剛性の小さい第二ガイド部材21が吊り具6aを先に乗り越え、吊り具6aを挟むように、進行方向前方から第二ガイド部材21、吊り具6a、第二ガイド部材20の順に並ぶことになる。
そして、さらに通線具10を前進させることで、吊り具6aと第一ガイド部材20が当接し、長く剛性の大きい第一ガイド部材20が吊り具6aに添って上方(吊り線3に近づく方向)に移動し、通線具10は進行方向前方から見て反時計周りに回動し、さらに通線具10を前進させることで、第一ガイド部材20は、吊り線3より吊り具6b側(進行方向前方から見て吊り線3より左側)に乗り越えて、ケーブルリング5を通過した後、ガイド部材20、21は、吊り線3を挟むような本来の位置関係に戻る。
【0027】
なお、第一及び第二ガイド部材20,21の剛性が同等であった場合、或いは第二ガイド部材21の剛性が第一ガイド部材20より強い場合、第二ガイド部材21と吊り具6aが当接した状態でさらに通線具10を前進させると、第二ガイド部材21が吊り具6aに添って上方(吊り線3に近づく方向)に移動してしまうと同時に第一ガイド部材20は、 吊り具6bに添って下方に移動してしまうため、通線具10は、進行方向前方から見て反時計周りに回動し、ケーブルリング5を通過した後、第二ガイド部材21は吊り線3より吊り具6b側(進行方向前方から見て吊り線3より左側)に出てしまい、通線具10が位置ズレを起こすことになる。
この場合、その後に通線具10が進行して、剛性の小さい第一ガイド部材20が吊り具6bに当接しても吊り線3側に戻れず、通線具10が位置ズレを起こすことになる。
【0028】
こうして、通線具10は第一及び第二ガイド部材20,21とケーブルリング5の吊り具6a,6bに当接して揺動しつつも元の角度位置に戻り、吊り具6a,6bを乗り越える。
このような動作を繰り返しながら、通線具10は吊り線3にガイドされながら順次複数のケーブルリング5を乗り越えつつ前進して他方の電柱2に到達する。
そして、他方の電柱2で待つ作業者がリール17に新規ケーブルを取り付けて通線具10を一方の電柱1へ向けて戻すことによって電柱1,2間で新規なケーブルを架設することができ、新規なケーブルも既設ケーブル4と共にケーブルリング5内に支持される。
【0029】
上述のように本実施形態による通線具10によれば、分離されたスリット13の部分で既設ケーブル4を抱き込むことのできる弾性変形可能なラップ部11を本体12に備えたため、通線具10のラップ部11を弾性変形させて押し広げて既設ケーブル4に抱き込むことができ、吊り線3に対して所定間隔で配列されたケーブルリング5によって既設ケーブル4が支持されていても簡単且つ効率的に通線具10を既設ケーブル4に架設して走行できる。
そのため、従来の先導具のように外径寸法の異なる各種の既設ケーブル4に係合させるために一対の掛止片の開口を拡縮する調整手段を設ける必要がなく、構成が簡単で拡縮操作も容易である。
また、通線具10は、本体12の3本のロッド15の内の2本が断面略三角形の底部の角部に配設されて既設ケーブル4に周面に当接されているために、走行時に通線具10が既設ケーブル4周りに回動することを抑制できる。
【0030】
また、本実施形態による通線具10は、ケーブルリング5が底部側の基部6で既設ケーブル4を支持すると共に、上端側の吊り具6a,6bで吊り線3に前後に離れた位置で係止されている場合でも、第一及び第二ガイド部材20,21がケーブルリング5の吊り具6a,6bに当接して揺動しつつ乗り越えると共に、吊り線3にガイドされて通線具10を走行できるから、通線具10で支持するリール17が捩れることなくスムーズに複数のケーブルリング5を乗り越えて新規なケーブルを架設できる。
しかも、ケーブルリング5内に新規なケーブルを架設するために、ケーブルリング5を通線具10が通過する際、従来技術のように、ケーブルリング5を吊り線3から外したり掛けたりする必要がなく簡単且つ容易に通線具10を走行させることができる。
【0031】
また、通線具10の走行に際して、従来の技術のように吊り線3が既設ケーブル4に連結されている必要はなく、分離されていても既設ケーブル4に沿ってスムーズに走行させることができる。
【0032】
なお、本発明による通線具10は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限り適宜の変更を採用することができる。
例えば、本実施形態による通線具10において、本体12のロッド15は必ずしも3本設ける必要はない。例えば第一及び第二ガイド部材20,21を設けるのであれば、ロッド15は少なくとも1本あればよい。また、第一及び第二ガイド部材20,21の有無に関わらず、ロッド15を少なくとも2本設けて既設ケーブル4の上面両側に当接させて配設すれば、既設ケーブル4に沿った通線具10の走行をガイドできる。
【0033】
また、既設ケーブル4を吊り線3に支持するケーブル吊り具として、ケーブルリング5に代えて上述した従来技術に示すスパイラルハンガーを設けてもよい。そして、既設ケーブル4の下部とスパイラルハンガーとの間に空間が形成される場合や互いに接触している場合でも、既設ケーブル4をガイドとしてラップ部11で抱き込んで通線具10を走行させることができる。
なお、既設ケーブル4は1本のケーブルである必要はなく、複数のケーブルを束ねたものであってもよい。また、通線具10は本体12の先端面部18に第一及び第二ガイド部材20,21を設けたが、これに代えてラップ部11に第一及び第二ガイド部材20,21を設けてもよい。
【符号の説明】
【0034】
3 吊り線
4 既設ケーブル
5 ケーブルリング
6 基部
6a、6b 吊り具
10、10A、10B 通線具
11 ラップ部
12 本体
13 スリット
15 ロッド
17 リード
20 第一ガイド部材
21 第二ガイド部材
22 第一バネ部材
23 第二バネ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電柱間に架設された吊り線にケーブル吊り具によって支持された既設ケーブルに摺動可能に取り付け、新規ケーブル用リールを接続して前記既設ケーブルに沿って走行させるようにした通線具であって、
後端側で前記新規ケーブル用リールを接続した本体と、該本体に設けられていて分離されたスリットの部分で前記既設ケーブルを抱き込む弾性変形可能なラップ部と、前記本体またはラップ部に設けられていて前記吊り線を挟んでその両側に支持された揺動可能なガイド部材と、を備えたことを特徴とする通線具。
【請求項2】
前記ガイド部材は、摺動時に前記ケーブル吊り具に当接すると変位して弾性復帰可能な弾性部材を有している請求項1に記載された通線具。
【請求項3】
前記ガイド部材は前記吊り線の両側に2本設けられていて、第一のガイド部材は第二のガイド部材より長く且つ剛性が大きく形成され、走行時に前記第一のガイド部材は第二のガイド部材より先に前記ケーブル吊り具に当接し、前記第二のガイド部材は第一のガイド部材より先にケーブル吊り具から外れることを特徴とする請求項1または2に記載された通線具。
【請求項4】
前記本体は前記既設ケーブルに当接する少なくとも2本のロッドを有している請求項1乃至3のいずれか1項に記載された通線具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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