説明

通電熱加工装置

【課題】被加工物である材料に対する温度制御ができ、固体電解質が被加工物に対してイオン伝導を制御できる通電熱加工装置を提供することである。
【解決手段】熱加工装置において、パルス電流又は直流電流の出力端子部と、一対の対向電極との間に、スイッチング素子と逆並列に接続したダイオードを有する4組のスイッチング素子ユニットを、縦横それぞれ2組ずつになるように配置した状態で、直列、並列、逆直列及び逆並列の中から選択し構成した極性反転スイッチング回路を介設し、前記極性反転スイッチング回路の出力側の端子の極性を正極性又は負極性に任意に設定された時間間隔パターンで交互に反転させる制御を可能とすることによって実現できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に対しパルス電流又は直流電流を与えて放電焼結、焼成、蒸着、溶解、溶接等の熱加工を行う装置に関し、特に被加工物に対し熱加工するときの温度又はイオン伝導性を制御する熱加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物に対する温度の均一化に関する技術としては、加圧下にある粉体材料を収納する筒状の型の側面に一対の電極を当接して該型に電流を供給することにより、該型内の前記粉体材料に熱を付与する焼結方法において、前記型の側面に対する前記一対の電極の通電当接点を、時間の経過に伴って異なせる焼結方法の技術が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−259405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の電流の流れ方向を変更する技術は、段落[0010]に「前記各組の一対の電極に対する通電が交互に切換えられて、その通電される1組の一対の電極のみから前記型に電流供給が行われるように設定されている」との記載があり、また図4乃至図6のいずれかに記載されているように、一対の電極のそれぞれの端子のプラス側又はマイナス側が一定になる構造となっており、選択する一対の対向電極による違いで電流の流れる方向を異ならせる技術であって、一対の対向する電極間に流れる電流の方向は一方向のみである。
【0005】
段落[0004]に「電極と型側面との当接部付近位置に比べて、電極と型側面との当接部よりも離れた位置において、温度上昇が遅く、それらの間において、ある程度の温度差が開き」との記載があり、温度差は、電極と当接する部位と電極から離れた部位とを比較したときに生じると記載されているが、プラス電極側の当接部付近の方がマイナス電極側の当接部付近より温度が高いという温度差が解消されないという問題があり、通電熱加工を実施したときに温度が均一にならないため被加工物の組織や特性が均一になりにくいという問題があった。
【0006】
さらに、融点よりもかなり低い温度で高いイオン伝導性を示すとともに、高い温度で種々の機能を発揮する固体である固体電解質はナトリウム硫黄電池や燃料電池に使用されているが、例えば固体電解質であるジルコニアZrOを通電熱加工した場合に、ジルコニア内における酸素濃度が偏ってしまい、酸素濃度を制御することが困難であり、狙いの結晶構造を有する物質を造り出すことが極めて困難であるという問題があった。
【0007】
型が大きくなり被加工物が大きくなると、対向電極間を結ぶ中心線から外方に向かうに従って温度が漸減するという温度傾斜が大きくなり、熱加工時に被加工物の温度分布が均一にならないという問題があった。
【0008】
また、型が大きくなり被加工物が大きくなると、被加工物を装填した型内を狙いの温度環境にしようとすれば、多大の電力を被加工物に与えなければならず、被加工物の製造コストが高騰するという問題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、被加工物である材料に対する均一な温度分布を実現させるように温度制御ができ、固体電解質が被加工物となる材料に対して狙いのイオン分布を実現させるようにイオン伝導を制御することもできる通電熱加工装置を提供することを第一の目的とし、さらに前記第一の目的に加えて大型化した型でも温度分布が均一で、少ない電力消費で熱加工できる通電熱加工装置を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
「発明が解決しようとする課題」に記載した課題を解決するために、請求項1に記載の通電熱加工装置1の発明は、被加工物8及び前記被加工物8を挟持する一対の対向電極12が配置される加工部2に対して電力供給を行う電源装置3と、前記電源装置3に接続された管理制御装置5とを含む手段を備え、前記電源装置3は、少なくとも、パルス電流を供給するパルス電源回路21及び/又は直流電流を供給する直流電源回路(図略)と、入力端子部22、23がパルス電源回路21及び/又は直流電源回路の出力端子部91、92と接続され、出力端子部24、25が対向電極12と接続され、スイッチング素子と逆並列に接続したダイオードを有する4組のスイッチング素子ユニット93、94、95、96を、縦横それぞれ2組ずつになるように配置した状態で、直列、並列、逆直列及び逆並列の中から選択し接続した極性反転スイッチング回路20と、前記管理制御装置5からの信号に応じて、パルス電源回路21及び/又は直流電源回路の制御、及び極性反転スイッチング回路20のスイッチング素子ユニット93、94、95、96のオン・オフの制御をする制御手段を有し、前記スイッチング素子ユニット93、94、95、96の制御は、前記極性反転スイッチング回路20を構成する4個のスイッチング素子ユニット93、94、95、96のうち、前記スイッチング素子ユニット93、94、95、96が直列又は逆直列接続されていない、プラス入力端子部22接続側のスイッチングユニット93、94及びマイナス入力端子部23接続側のスイッチング素子ユニット95、96のうちのプラス側又はマイナス側のスイッチングユニットの各1つを1組として一方の組をオンにするときには他方の組をオフとなる制御をするとともに、前記一組のスイッチング素子ユニットと他方の一組のスイッチング素子ユニットとのオン時間又はオフ時間を任意に設定された時間間隔パターンで交互に切換える制御をして、前記極性反転スイッチング回路20の出力端子部24、25と接続された前記対向電極12のそれぞれの電極の極性を正極性又は負極性に前記任意に設定された時間間隔パターンで交互に反転させることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の通電熱加工装置1の発明は、被加工物8及び前記被加工物8を挟持する一対の対向電極12が配置される加工部2に対して電力供給を行う電源装置3と、前記電源装置3に接続された管理制御装置5とを含む手段を備え、前記電源装置3は、少なくとも、パルス電流を供給するパルス電源回路21及び/又は直流電流を供給する直流電源回路と、入力端子部22、23がパルス電源回路21及び/又は直流電源回路の出力端子部91、92と接続され、出力端子部24、25が対向電極12と接続され、スイッチング素子と逆並列に接続したダイオードを有する4組のスイッチング素子ユニット93、94、95、96を、プラス入力端子部22又はマイナス入力端子部23にそれぞれ2つずつ並列接続させ、かつ前記並列接続させたスイッチング素子ユニットのプラス入力端子部22接続側又はマイナス入力端子部23接続側の各一つをそれぞれ直列接続させ、前記直列接続させたスイッチング素子ユニット間の中間点から電極への出力端子部24、25に接続させた極性反転スイッチング回路20と、前記管理制御装置5からの信号に応じて、パルス電源回路21及び/又は直流電源回路の制御、及び極性反転スイッチング回路20のスイッチング素子ユニット93、94、95、96のオン・オフの制御をする制御手段を有し、前記スイッチング素子ユニット93、94、95、96の制御は、前記極性反転スイッチング回路20を構成する4個のスイッチング素子ユニット93、94、95、96のうち、前記スイッチング素子ユニット93、94、95、96が直列接続されていない、プラス入力端子部22接続側のスイッチング素子ユニット93、94及びマイナス入力端子部23接続側のスイッチング素子ユニット95、96のうちのプラス側又はマイナス側のスイッチング素子ユニットの各1つを1組として一方の組をオンにするときには他方の組をオフとなる制御をするとともに、前記一組のスイッチング素子ユニットと他方の一組のスイッチング素子ユニットとのオン時間あるいはオフ時間を任意に設定された時間間隔パターンで交互に切換える制御をして、前記極性反転スイッチング回路20の出力端子部24、25と接続された前記対向電極12のそれぞれの電極の極性を正極性又は負極性に前記任意に設定された時間間隔パターンで交互に反転させることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の通電熱加工装置1の発明は、請求項1又は2において、4組のスイッチング素子ユニット93,94,95,96からなる極性反転スイッチング回路20を2セット設けた極性反転スイッチング回路とすることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の通電熱加工装置1の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記パルス電源回路21は、パルス波形が異なる複数種類のパルスパターンの中から1つのパルスパターン又は複数のパルスパターンの組み合わせを選択可能とするとともに、前記パルスパターンの各波形ごとにパルス電流、パルス周波数及びパルス幅を含むパルス特性調整要素を任意に変更可能とするように構成されたことを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る通電熱加工装置1の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、前記被加工物8が装填される型10を囲繞して配設される補助加熱手段9を備え、前記補助加熱手段9は、前記型10を包囲するように形成された断熱部材31と、この断熱部材31に設けられた通電発熱体32とを備えて構成され、前記断熱部材31には、周囲に着脱自在に装着される蓋体33を備えた筒状容器の内周面に内張り可能に複数分割し得るものであることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る通電熱加工装置1の発明は、請求項1乃至5のいずれかにおいて、対向電極12は、対向面から順番に対向面が被加工物8に当接する均熱板41a、42aと、各均熱板に積層されるパンチ板41b、42bとをそれぞれ有し、前記パンチ板は均熱板41a、42aに対する当接面の面積が均熱板41a、42aの面積より小さくなるように寸法設定された当接部を有し、前記当接部は、パンチ板41b、42bを横断するように設けられた複数条のパンチ突条44b、パンチ板41b、42bに突設された複数のパンチ突起52、又はパンチ板41b、42bの中心位置から周方向の外方に向かうように同心円状に形成された突条53によって構成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項7に係る通電熱加工装置1の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、前記電極部が、被加工物8に対する加圧方向と同一方向で前記被加工物8を押圧する上部電極13と下部電極14との一対の対向電極12の場合、又は被加工物8に対する加圧方向と直角方向で前記被加工物8の中心に対し対称的に配設し前記被加工物8の側面に当接させる一対の対向電極12の場合であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明は、被加工物8に当接し被加工物8を介して対向する電極それぞれの極性を連続的に反転させることができるので、固体電解質である被加工物8として例えば空格子なる欠陥構造を有する固体であるジルコニアZrOを被加工物8として通電熱加工したときに、ジルコニアの場合には酸素イオンが電荷の担い手であり、酸素イオンが格子欠陥部の空孔を利用して電流の流れとは逆にマイナス電極側からプラス電極側へ移動するので、一対の対向する電極の極性を交互に変換させることによって、被加工物8内の電荷の担い手である酸素イオンの移動方向を制御することができ、被加工物8内において酸素イオンを一方の電極側に偏らせないように制御することができ、被加工物8内における酸素濃度を制御することができるという効果を奏する。
【0018】
したがって、固体電解質が被加工物8となる材料に対して狙いのイオン分布を実現させるようにイオン伝導を制御できるようになることから、狙いの酸素濃度の結晶構造を有する物質を造ることができるという効果を奏する。
【0019】
また、被加工物8に当接し被加工物8を介して対向する電極それぞれの極性を連続的に反転させることができるので、被加工物8の電極のプラス端子側が温度が高く、被加工物8の電極のマイナス端子側が温度が低くなるという温度差を解消させ、被加工物8の対向した電極間における温度差を極小化させることができ、被加工物8である材料に対する均一な温度分布を実現させることができ、熱加工によって均一な特性の材料を製造することができるという効果を奏する。
【0020】
また、被加工物8における温度やイオン伝導を制御できるので、狙いの結晶構造を有する傾斜機能材料を得ることができるという効果を奏する。
【0021】
さらに、スイッチング素子は動作が極めて短いため、高速に極性を反転させることができ、またスイッチング素子は低抵抗のためスイッチング素子での電圧降下がほとんどなく損失が極めて少ないという効果を奏する。
【0022】
また、スイッチング回路がシリンダーなどのアクチュエーターを使用したメカ的構造でないため、スイッチングの構造が簡単であることから、故障が生じにくく、製造コストの低減化ができるという効果を奏する。
【0023】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明と同じ効果を奏する。
【0024】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明と同じ効果を奏する。さらに、被加工物8が大きい場合で熱加工のために必要とされる大電流を通電させることができるという効果を奏する。
【0025】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明と同じ効果を奏する。さらに、パルス特性に関係する各種要素の設定や変更が可能であり、種々の設定条件下での熱処理を実施することができることから、多種多様な材料からなる被加工物8に対して、それぞれの材質に応じて適正なパルス特性を設定でき、狙いの温度分布で熱加工でき、狙いのイオン伝導を行わせて狙いの酸素濃度の物質を製造することができるという効果を奏する。
【0026】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明と同じ効果を奏する。さらに、型10が大きくなり被加工物8が大きくなる場合においても、この型10を挟持した状態で電流を供給する対向電極12と、型10の周囲に配設される補助加熱手段9とを備えることから、被加工物8内の温度分布が均一になり、均質な製品を得ることができるという効果を奏する。
【0027】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明と同じ効果を奏する。さらに、当接部44の面積が均熱板41a、42aの面積より小さくなっている分、各当接位置での電流密度が大きくなり、これによるパンチ板41b、42bの当接部の通電における電気エネルギーの効率的な熱エネルギーへの変換が可能になり、型10内で一対の均熱板41a、42aにより挟持された被加工物8は均一かつ高温に加熱されるという効果を奏する。
【0028】
請求項7に記載の発明は、被加工物8に対する一対の対向する電極の配設位置が、被加工物8に対する加圧方向と同一方向、又は被加工物8に対する加圧方向と直角方向で、前記被加工物8の中心に対し対称的に配設した構造の場合(図略)にも、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明と同じ効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態による熱加工装置全体の概略図である。
【図2】加工部の構造説明図である。
【図3】制御系の概略を示すブロック図である。
【図4】管理制御装置及び電源装置の基本構成説明図である。
【図5】パルス電源回路を示す回路図である。
【図6】極性反転スイッチング回路を示す回路図である。
【図7】極性反転スイッチング回路を示す回路図である。
【図8】(a)〜(d)はパルス波形が異なる複数種類のパターンを示す説明図である。
【図9】図8の複数種類のパターンの組み合わせを示す説明図である。
【図10】補助加熱手段、及び均熱板やパンチ板等からなる対向電極を装着した熱加工装置全体の概略図である。
【図11】図10のA−A線断面図である。
【図12】補助加熱手段の一実施形態を示す斜視図であり、(a)は上部一部切欠き分解斜視図、(b)は組立斜視図である。
【図13】パンチ板の第一の実施形態を示す上部パンチ板の斜視図であり、(a)は上部パンチ板を、(b)は下部パンチ板を示している。
【図14】パンチ板の第二の実施形態を示す上部パンチ板の斜視図であり、(a)は上部パンチ板を、(b)は下部パンチ板を示している。
【図15】パンチ板の第三の実施形態を示す上部パンチ板の斜視図であり、(a)は上部パンチ板を、(b)は下部パンチ板を示している。
【図16】実験例及び比較例の試料と対向電極のセット状態の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は通電熱加工装置1の全体の概要構造を示し、図2は加工部2の構造を示し、図3は制御系の概要を示している。通電熱加工装置1は、被加工物8及び前記被加工物8を挟持する一対の対向電極12が配置される加工部2と、この加工部2に対して電力供給を行う電源装置3と、加工部2の加圧装置64等を制御する制御盤4と、電源装置3に接続された、パソコンからなる管理制御装置5とを含む手段を備えている。前記管理制御装置5にはキーボードなどからなる入力操作部6と、各種データを表示するディスプレイ7が具備されている。
【0031】
前記加工部2は、図2に示すように環境設定用のチャンバー61内に被加工物8が設置されるようになっており、例えば放電焼結を行う場合には一対の焼結成形型間に被加工物8としての焼結材料が保持されるようになっている。
【0032】
さらに、チャンバー61内には、加圧部材を兼ねる上下一対の対向電極12が配置されており、電源装置3から対向電極12に通電されるようになっている。また、加圧用サーボモータ68又は油圧シリンダ(図略)を備えた加圧装置64により、対向電極12を押圧し、対向電極12を介して被加工物8に加圧力を加えることができるようになっている。
【0033】
前記チャンバー61にはバルブ69等を介して真空ポンプ62に接続されるとともに、バルブ70等を介してガス供給手段63に接続され、前記真空ポンプ62によりチャンバー61内が減圧され、また、必要に応じてガス供給手段63から不活性ガス等がチャンバー61内に供給されるようになっている。さらに、前記チャンバー61内には、被加工物8の温度を検出する温度センサ(図略)、チャンバー61内の温度を検出する温度センサ(図略)、チャンバー61内の真空度を検出する圧力センサ(図略)等が設けられている。
【0034】
前記対向電極12は電源装置3に接続されている。また、被加工物8への加圧方向に対する対向電極12の配設方向は、被加工物8に対する加圧方向と同一方向で前記被加工物8を押圧する上部電極13と下部電極14とが一対の対向電極12の場合、又は被加工物8に対する加圧方向と直角方向で前記被加工物8の中心に対し対称的に配設し前記被加工物8の側面に当接させる一対の対向電極12の場合がある。
【0035】
加圧装置64のサーボモータ68及び各種センサが制御盤4に接続されており、この制御盤4には、図3に示すように、シーケンサ65、加圧装置64を駆動するプレス駆動部66、センサからの信号を受ける信号変換器67等が設けられている。
【0036】
図3に示すように、電源装置3及び制御盤4は管理制御盤5に接続されている。そして、図4に示すように、電源装置3と管理制御装置5との間でシリアル通信が行われるとともに、管理制御装置5から電圧・電流制御信号及びパルス電流の極性を反転させるスイッチング素子の導電(オン)又は非導電(オフ)の制御信号等が電源装置3に送られ、電源装置3から電圧・電流値等が管理制御装置5に送られる。
【0037】
また、図3に示すように、管理制御装置5と制御盤4のシーケンサ65との間で通信が行われるとともに、管理制御装置5からプレス圧力・速度制御信号が制御盤4のプレス駆動部66に送られ、制御盤4の信号変換器67からアナログデータが管理制御装置5へ送られるようになっている。
【0038】
図4は、前記管理制御装置5及び電源装置3の基本構成を示し、この図において、管理制御装置5と電源装置3との間のシリアル通信のためにシリアル通信手段110、111が両装置に設けられるとともに、各種信号(外部指令信号、検出信号等)の入出力のための管理制御装置5にD/A変換器101、I/Oポート102及びA/D変換器103が設けられている。また、電源装置3にA/D変換器104及びI/Oポート105が設けられている。
【0039】
さらに、電源装置3は、パルス電流を供給するパルス電源回路21及び/又は直流電流を供給する直流電源回路と、入力端子部22、23がパルス電源回路21又は直流電源回路と接続され、出力端子部24、25が対向電極12と接続され、スイッチング素子と逆並列に接続したダイオードを有する4組のスイッチング素子ユニット93、94、95、96を、縦横それぞれ2組ずつになるように配置した状態で、直列、並列、逆直列及び逆並列の中から選択し接続した極性反転スイッチング回路20と、これらを制御するCPU107(制御手段)と、メモリ106とを有している。
【0040】
前記CPU107は、管理制御装置5からの信号に応じて、パルス電源回路21のパルス特性調整要素の制御、直流電源回路の直流特性調整要素(電流値、通電時間等)の制御、極性反転スイッチング回路20のスイッチング素子のオン・オフ制御を行う。
【0041】
そして、必要に応じて各種の制御情報がシリアル通信で管理制御装置5から電源装置3に送られ、それが指令データならばメモリ106に格納されるようになっている。また、管理制御装置5のI/Oポート102から外部信号が送られてきたときにこれをシリアル通信による指示より優先させることもできるようにしている。
【0042】
また、メモリ106に格納されたデータはCPU107によって随時読み出され、このCPU107により、D/A変換器112を介してパルス電源回路21及び極性反転スイッチング回路20が制御されるようになっている。これらのパルス電源回路21の出力は極性反転スイッチング回路20を介して前記加工部21に供給され、かつ、その出力値が管理制御装置5に送られるようになっている。
【0043】
パルス電源回路21は、放電焼結加工等の熱加工のためのパルスを発生させるとともに、パルス波形が異なる複数種類のパルスパターンの中から1つのパルスパターン又は複数のパルスパターンの組み合わせを選択可能とするとともに、前記パルスパターンの各波形ごとに、そのパルス波形、パルス幅、パルス間隔、パルス電流、電圧を含むパルス特性調整要素を任意に変更可能となるように構成されている。
【0044】
例えば、図5に示すように、パルス電源回路21は、整流回路の出力側に接続されたインバータ108と、このインバータ108にトランスを介して接続されたパルス出力回路109とを備え、前記インバータ108は4個のトランジスタTr1〜Tr4及びダイオードD1〜D4等で構成され、パルス出力回路109は複数のサイリスタS1〜S4を有している。そして、前記CPU107でトランジスタTr1〜Tr4及びサイリスタS1〜S4が制御されることによりパルス特性が調整されるようになっている。
【0045】
特に、波形が異なる複数種類のパルスパターンが選択可能とされ、具体的には、図8(a)のDC波形WA、同図(b)のパルス波形WB、同図(c)の極性反転パルス波形WC、同図(d)のアップダウンスロープ波形WDの4種類のパターンが選択可能となっている。
【0046】
図8に示す4種類のパターンのうちの2種類以上を組み合わせて任意の順番で出力することにより、例えば図9に示すように各種波形のパターンが時間的に変化するような出力を得ることも可能である。例えば、パルス波形を各波形ごとに、周波数を0.1〜500Hz及びパルス幅を15〜85%の範囲からパルスパターンを設定でき、前記各波形ごとのパルスパターンの一連の組み合わせを設定パターンとして連続的に繰り返すことができる。
【0047】
管理制御装置5は、入力操作部6の入力に応じてパルス特性や極性反転パターンに関係する各種要素を設定する設定手段としての機能を有し、また、設定された要素、パルス特性及び極性反転パターン等に関するデータを記憶する記憶手段を有するとともに、前記電源装置3及び制御盤4の信号変換器67から得られるデータに基づいて現実の加工状態を監視する監視手段としての機能を有している。
【0048】
前記設定手段は、パルス特性に関係する要素として、前記パルスパターンとパルス電流、電圧、パルス幅、パルス周期等のパルス特性調整要素を、また極性反転パターンに関係する要素として反転周期パターン等の反転調整要素を、入力操作に応じて設定し、その設定に応じた信号を前記電源装置3に出力するようになっている。
【0049】
さらに、管理制御装置5は、パルス特性及び極性反転パターンに関係する要素の設定に際し、1つのパルスパターン及び1つの極性反転パターンの選択に基づいてパルス特性及び極性反転パターンの設定、並びにそれに従った電力供給の制御を行う手動制御モードと、複数のパルスパターン及び複数の極性反転パターンの組み合わせに基づいてその複数のパルスパターン及び複数の極性反転パターンの組み合わせからなるパルス特性及び極性反転パターン、並びにそれに従った電力供給の制御を行う半自動制御モードと、最終的なパルス特性及び極性反転パターンの設定に応じて電力供給の自動制御を行う自動制御モードとを選択可能としている。また、上記設定に応じて温度等の制御パラメータの時間的変化をシミュレートしてディスプレイ7に表示するようになっている。
【0050】
極性反転スイッチング回路20を図5及び図6で説明する。極性反転スイッチング回路20は、パルス電源回路21の極性の異なる出力端子部91、92にそれぞれ接続された2つの入力端子部22、23と、一対の対向電極12のそれぞれの電極に接続された2つの出力端子部24、25との間に介設されている。また、極性反転スイッチング回路20は既存のパルス電源回路21の出力側に追加設置することができ、既存の熱加工装置に追加工事で設けることができる。
【0051】
前記極性反転スイッチング回路20を1例として図6で説明する。入力端子部22、23がパルス電源回路21及び/又は直流電源回路の出力端子部91、92と接続され、出力端子部24、25が対向電極12と接続されるようになっており、スイッチング素子と逆並列に接続したダイオードを有する4組のスイッチング素子ユニット93、94、95、96を、プラス入力端子部22又はマイナス入力端子部23にそれぞれ2つずつ並列接続させ、かつ前記並列接続させたスイッチング素子ユニットのプラス入力端子部22接続側又はマイナス入力端子部23接続側の各一つをそれぞれ直列接続させ、前記直列接続させたスイッチング素子ユニット間の中間点から電極への出力端子部24、25に接続させている。
【0052】
CPU107によるスイッチング素子ユニット93、94、95、96に対する制御は、前記極性反転スイッチング回路20を構成する4個のスイッチング素子ユニット93、94,95、96のうち、前記スイッチング素子ユニットが直列接続されていない、プラス入力端子部22接続側又はマイナス入力端子部23接続側のスイッチング素子ユニットの各1つを1組として一方の組をオンにするときには他方の組をオフとなる制御をするとともに、前記一組のスイッチング素子ユニットと他方の一組のスイッチング素子ユニットとのオン時間あるいはオフ時間を任意に設定された時間間隔パターンで交互に切換える制御をして、前記極性反転スイッチング回路20の出力端子部24、25と接続された前記対向電極12の対向するそれぞれの電極の極性を正極性又は負極性に前記任意に設定された時間間隔パターンで交互に反転させることができる。
【0053】
図6において、スイッチング素子ユニット93、96を導通(オン)させ、スイッチング素子ユニット94、95を非導通(オフ)にすると、電流は、プラス入力端子部22、スイッチング素子ユニット93、出力端子部25、対向電極12、被加工物8、対向電極12、出力端子部24、スイッチング素子ユニット96、そしてマイナス入力端子部23と流れる。一方、スイッチング素子ユニット94、95を導通(オン)させ、スイッチング素子ユニット93、96を非導通(オフ)にすると、電流は、プラス入力端子部22、スイッチング素子ユニット94、出力端子部24、対向電極12、被加工物8、対向電極12、出力端子部25、スイッチング素子ユニット95そしてマイナス入力端子部23と流れる。前記動作を繰り返すことで、出力端子部24、25の極性を連続して反転させ続けることができる。
【0054】
また、前記極性反転スイッチング回路20は、他の例として図7に示すように、スイッチング素子と逆並列に接続したダイオードを有する4組のスイッチング素子ユニット93、94、95、96を、2つずつ逆直列接続させた組を2組構成し、前記それぞれ逆直列接続させたスイッチング素子ユニット93、94間の中間点からプラス入力端子部22に接続させ、スイッチング素子ユニット95、96間の中間点からマイナス入力端子部23に接続させ、かつプラス入力端子部22と接続させた1組のスイッチング素子ユニット93、94と、マイナス入力端子部23と接続させた1組のスイッチング素子ユニット95、96とを逆並列接続させて、前記逆並列接続させた回路の、それぞれの中間点から電極への出力端子部24、25に接続させる回路から構成されている。
【0055】
前記スイッチング素子ユニット93、94、95、96は、寄生ダイオードを内蔵したFET、ダイオードとFET又はIGBT等の半導体スイッチとの組み合わせ、あるいはサイリスタと機械接点のリレー又はマグネットコンタクタなどの組み合わせの等うちいずれでもよい。
【0056】
また、4組のスイッチング素子ユニット93、94、95、96からなる極性反転スイッチング回路20を2セット設けた極性反転スイッチング回路とすることができる。これにより、大容量の通電をさせることができる。
【0057】
電極の極性反転によって生じる固体電解質に係るイオン伝導性についての効果を記載する。固体電解質は、強電解質溶液と同程度の電気伝導率を高温で示すイオン結晶であり、電流の運び手である電荷担体(キャリヤーともいう。)がイオンである伝導体である。そして、固体電解質の伝導性イオンは陽イオン又は陰イオンの1種であり、電極の極性を一定とした場合には、固体電解質に直流電圧をかけ続けると、伝導性イオンは一方の極の方へ偏ってしまい、時間とともに電流が流れなくなってしまうが、電極の極性を反転させることによって、被加工物8中の伝導性イオンを傾斜化させたり、平準化させたりすることができる。これにより、被加工物8中の伝導性イオンを狙いの分布にすることができ、狙いの特性を有する被加工物8を製造することができるようになる。
【0058】
また、温度差について効果を記載する。温度は電流を流したときのジュール熱により生じ、ジュール熱は電圧と電流を流す時間を乗じて求めることができる。また、被加工物8に電流を流すと、プラス極側の電極からマイナス極側に向かって電流が流れ、被加工物8の抵抗によって生ずる電圧降下によって、前記マイナス極側の電極に当接した部位の電圧値が前記プラス極側の電極に当接した部位の電圧値より小になる。
【0059】
このため、電極の極性を一定とし電流を流した場合には、被加工物8のプラス極側の電極に当接した部位の方が、マイナス極側の電極に当接した部位より、ジュール熱が大きくなり発熱量が大きくなって、一対の電極間で温度差が生じるが、電極の極性を反転させることによって、被加工物8中の温度を傾斜化させたり、平準化させたりすることができる。これにより、被加工物8中の熱加工時の温度差を解消させることができ、温度差による特性の差を生じさせることがなくなり、被加工物8全体に亘って均一な特性を有する被加工物8を製造することができるようになる。
【0060】
次に、大容量の被加工物8に対し通電する場合の熱加工装置の構造について、図10乃至図15で説明する。
【0061】
まず、一対の対向した電極間を結ぶ中心線近傍の部位の温度と前記中心線から離れた部位の温度との差をなくすために、加工部2内で被加工物8が装填される型10を囲繞して配設される補助加熱手段9を備えた構成とする。
【0062】
前記補助加熱手段9は、前記型10を囲繞するように形成された断熱部材31と、この断熱部材31に設けられた通電発熱体32とを備えて構成され、前記断熱部材31には、周囲に着脱自在に装着される蓋体33を備えた筒状容器の内周面に内張り可能に複数分割し得るものである。
【0063】
補助加熱手段9について一例を説明する。図12は、補助加熱手段9の一実施形態を示す斜視図であり、(a)は、一部切り欠け分解斜視図、(b)は、組立て斜視図である。図12に示すように、補助加熱手段9は、煉瓦、モルタル又はカーボン繊維等の断熱材からなる円弧状に形成された断熱部材31と、この断熱部材31に設けられた棒状の通電発熱体32とからなる基本構成を有している。通電発熱体32としては、ニクロム線等の金属ヒータや黒鉛ヒータ等を挙げることができる。
【0064】
そして、補助加熱手段9は、被加工物8が装填される型10を囲繞して配設され、周囲に着脱自在に装着される蓋体33を備えた筒状容器の内周面に内張り可能に複数分割し得るものである。
【0065】
例えば、断熱部材31は、中心角が120°に設定されており、三体の断熱部材31の各両側縁部を互いに合わせることによって、図12(b)に示すように円筒状になり、図11に示すように型10を囲繞するように配設される。
【0066】
ここで、前記断熱部材31の形態は、中心角が90°に設定されて、四体の断熱部材31の各両側縁部を互いに合わせることによって直方体状(図略)を形成する形態であってもよく、分割された各両側縁部を互いに合わせることによって前記型10を囲繞するように配設することが可能な形態であればよい。
【0067】
通電発熱体32が被加工物8に対して極めて卑近な距離に設けられており、被加工物8は通電発熱体32の輻射熱で瞬時に加熱されるため、被加工物8の昇温が迅速に行われるという効果がある。
【0068】
次に、大容量の被加工物8に対し通電する場合には、多大の電力を必要とさせないように、対向電極12の電極構造が、対向面から順番に対向面が被加工物8に当接する均熱板41a、42aと、各均熱板41a、42aに積層されるパンチ板41b、42bとをそれぞれ有し、前記パンチ板41b、42bは均熱板41a、42aに対する当接面の面積が均熱板41a、42aの面積より小さくなるように寸法設定された当接部を有し、前記当接部が、パンチ板41b、42bを横断するように設けられた複数条のパンチ突条44b、パンチ板41b、42bに突設された複数のパンチ突起52、又はパンチ板41b、42bの中心位置から周方向の外方に向かうように同心円状に形成された突条53を備えた構成とする。
【0069】
前記電極構造を具備した一実施形態の熱加工装置全体の概要斜視図を図10に示し、図11に図10のA―A線断面図を示す。
【0070】
図11に示す電極構造について説明する。対向電極12は、上部電極13と下部電極14とから構成され、上部電極13は、型10のキャビティ内に上から摺接状態で嵌挿される黒鉛製の上部均熱板41aと、この上部均熱板41aの上面に積層される黒鉛製の上部パンチ板41bと、この上部パンチ板41bの上面に積層される上部均圧板41cと、この上部均圧板41cの上面に順次積層される第一上部スペーサー41d、第二上部スペーサー41e、第三上部スペーサー41f及び第四上部スペーサー41g等から構成される。
【0071】
前記下部電極14は、図11に示すように、型10のキャビティ内に下から摺接状態で嵌挿される黒鉛製の下部均熱板42aと、この下部均熱板42aの下面に積層される黒鉛製の下部パンチ板42bと、この下部パンチ板42bの下面に積層される下部均圧板42cと、この下部均圧板42cのした面に順次積層される第一下部スペーサー42d、第二下部スペーサー42e、第三下部スペーサー42f及び第四下部スペーサー42g等から構成される。
【0072】
そして、型10内に充填された被加工物8は、上部各均熱板41a、42aに押圧挟持された状態でパルス電源回路21からのパルス電流が印加されることにより、被加工物8の通電発熱及び被加工物8の粒子間で生起されるアーク放電による放電発熱によって加熱され熱加工される。
【0073】
図13は、パンチ板41b、42bの第一実施形態を示しており、図13(a)は上部パンチ板41bの斜視図で、図13(b)は下部パンチ板42bの斜視図である。
【0074】
前記パンチ板41b、42bは、図13に示すように、型10の内径寸法より僅かに小さい外形寸法を有するパンチ板本体43と、このパンチ板本体43の一方の面に形成された円形突出部44とからなっている。
【0075】
前記円形突出部44は、径寸法がパンチ板本体43の径寸法より若干小さく設定されてパンチ板本体43から同心で突設されている。かかる円形突出部44には、互いに平行な複数のパンチスリット44aが当該円形突出部44を横断するように等ピッチで凹設されているとともに、隣り合った各パンチスリット44a間にそれぞれパンチ突条44bが形成されている。かかる円形突出部44の外周縁部とパンチ板本体43の外周縁部との間には面一状態の環状扁平部43aが形成されている。
【0076】
前記パンチ板41b、42bを用いることにより、パンチ突条44bの表面のみが均熱板41a、42aに当接することになり、この当接面積はパンチ突条44bが設けられていない場合より大幅に小さくなるため、当接面積当りの電流密度の値が大きくなって、これによってパンチ突条44bと均熱板41a、42aとの当接位置での発熱量が全面当接の場合に比べて格段に多くなる。
【0077】
パンチ板41b、42bは、同一の電力を供給した場合にパンチ突条44bが存在しないよりも発熱量が多くなってより高温に加熱される。
【0078】
図14は、パンチ板41b、42bの第二実施形態を示しており、図14(a)は上部パンチ板41bの斜視図で、図14(b)は下部パンチ板42bの斜視図である。第二実施形態のパンチ突部は、複数個の円柱状パンチ突起52により構成される。
【0079】
図15は、パンチ板41b、42bの第三実施形態を示しており、図15(a)は上部パンチ板41bの斜視図で、図15(b)は下部パンチ板42bの斜視図である。第三実施形態のパンチ突部は、パンチ板の中心位置から周方向の外方に向かうように渦巻き状に形成された渦巻き突条53により構成される。
【0080】
均圧板41c、42cは、パンチ板41b、42bと第一スペーサー41d、42dとの間に介され、第一スペーサー41d、42dからの加圧力を均してパンチ板41b、42bに伝達するものである。
【0081】
第一〜第四上部スペーサーの内の第一〜第三上部スペーサーは環状体によって形成され、これらの内径寸法は、第一上部スペーサーのものが最大に設定され、第三上部スペーサーに向かうに従って順次小さくなるように寸法設定されている。
【0082】
これに対し第四上部スペーサー41g(これが実質的な電極の役割を担っている)は、環状体によって形成されていない代わりに内部に冷却水路(図略)が設けられ、この冷却水路に冷却水源からの冷却水が供給されることによって上部電極13が冷却されるようになっている。
【0083】
そして、第一上部スペーサー41dは、内径寸法が他のスペーサーに比べて最大になって断面積が最少になっていることにより通電抵抗が最大になって、第一〜第三スペーサーの中で最大の通電発熱量が得られる。
【0084】
前記第一〜第三下部スペーサーは、上記第一〜第三上部スペーサーと全く同一に寸法設定されている。
【0085】
次に、本発明の極性反転スイッチング回路20を備えた熱加工装置を用いた実験例を示す。
【0086】
パルス電流を一定の極性反転パターンで繰り返して通電させたときの温度差に関する効果を検証した。1つのパルスパターン及び1つの極性反転パターンの選択に基づいてパルス特性及び極性反転パターンの設定、並びにそれに従った電力供給の制御を行う手動制御モードで、被加工物8のプラス電極側とマイナス電極側との温度差が僅少値になる条件を求めた。
【0087】
図16により実験に求めた条件を説明する。試料体81として、黒鉛から成型10されたφ50mm×35mmの円筒形状の試料82を縦に6つ積重ねた。試料体81を挟持する対向する電極のうち、上部電極側は、試料体81側から上方に向かって、黒鉛製でφ100mm×15mmの第一上スペーサー83、SUS製でφ100mm×20mmの第二上スペーサー84、銅製でφ100mmの上電極85からなる。下部電極側は、前記試料体81側から下方に向かって、黒鉛製でφ100mm×15mmの第一下スペーサー86、SUS製でφ100mm×20mmの第二下スペーサー87、銅製でφ100mmの下電極88からなる。そして、試料体81を装着したチャンバー61内の環境を真空度3Pa、全体圧力2トンとした。試料体81の温度測定個所は、上下方向の中心に対して対称的な位置C点、D点とし、C点とD点間の間隔を上下方向で105mmとした。
【0088】
1,200A、3.5Vの直流電流を10秒ごとに極性を反転させて通電時間を12分としたケース(実験例1)、及び1,200A、3.5Vの直流電流を9秒経過後に極性反転させ、さらに11秒経過後に極性を反転させるパターンを繰り返して通電時間を13分としたケース(実験例2)で測定した。比較例として1,200A、3.5Vの直流電流を極性を一定のままで測定した。
【0089】
その結果は、実験例1はC点で850℃、D点で845℃で温度差は僅かに5℃であり、実験例2はC点で850℃、D点で850℃で温度差は0℃であった。これに対して比較例の場合は、C点で850℃、D点で780℃で温度差は70℃も生じた。この検証結果から、本発明の熱加工装置に極性反転スイッチング回路20を具備させることによって、被加工物8のプラス電極側とマイナス電極側との温度差をなくし均一な温度分布が初めて実現できるようになったことが示された。
【符号の説明】
【0090】
1 通電熱加工装置
2 加工部
3 電源装置
4 制御盤
5 管理制御装置
6 入力操作部
7 ディスプレイ
8 被加工物
9 補助加熱手段
10 型
12 対向電極
13 上部電極
14 下部電極
20 極性反転スイッチング回路
21 パルス電源回路
22 入力端子部
23 入力端子部
24 出力端子部
25 出力端子部
31 断熱部材
32 通電発熱体
33 蓋体
41a 上部均熱板
41b 上部パンチ板
41c 上部均圧板
41d 第一上部スペーサー
41e 第二上部スペーサー
41f 第三上部スペーサー
41g 第四上部スペーサー
42a 下部均熱板
42b 下部パンチ板
42c 下部均圧板
42d 第一下部スペーサー
42e 第二下部スペーサー
42f 第三下部スペーサー
42g 第四下部スペーサー
43 パンチ板本体
43a 環状扁平部
44 円形突出部(当接部)
44a パンチスリット
44b パンチ突条
52 パンチ突起
53 突条
61 チャンバー
62 真空ポンプ
63 ガス供給手段
64 加圧装置
65 シーケンサ
66 プレス駆動部
67 信号変換器
68 サーボモータ
69 バルブ
70 バルブ
71 油圧シリンダ
81 試料体
82 試料
83 第一上スペーサー
84 第二上スペーサー
85 上電極
86 第一下スペーサー
87 第二下スペーサー
88 下電極
91 出力端子部
92 出力端子部
93 スイッチング素子ユニット
94 スイッチング素子ユニット
95 スイッチング素子ユニット
96 スイッチング素子ユニット
101 D/A変換器
102 I/Oポート
103 A/D変換器
104 A/D変換器
105 I/Oポート
106 メモリ
107 CPU
108 インバータ
109 パルス出力回路
110 シリアル通信手段
111 シリアル通信手段
112 D/A変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物及び前記被加工物を挟持する一対の対向電極が配置される加工部に対して電力供給を行う電源装置と、前記電源装置に接続された管理制御装置とを含む手段を備え、前記電源装置は、少なくとも、パルス電流を供給するパルス電源回路及び/又は直流電流を供給する直流電源回路と、入力端子部がパルス電源回路及び/又は直流電源回路の出力端子部と接続され、出力端子部が対向電極と接続され、スイッチング素子と逆並列に接続したダイオードを有する4組のスイッチング素子ユニットを、縦横それぞれ2組ずつになるように配置した状態で、直列、並列、逆直列及び逆並列の中から選択し接続した極性反転スイッチング回路と、前記管理制御装置からの信号に応じて、パルス電源回路及び/又は直流電源回路の制御、及び極性反転スイッチング回路のスイッチング素子ユニットのオン・オフの制御をする制御手段を有し、前記スイッチング素子ユニットの制御は、前記極性反転スイッチング回路を構成する4個のスイッチング素子ユニットのうち、前記スイッチング素子ユニットが直列又は逆直列接続されていない、プラス入力端子部接続側のスイッチングユニット及びマイナス入力端子部接続側のスイッチング素子ユニットのうちのプラス側又はマイナス側のスイッチングユニットの各1つを1組として一方の組をオンにするときには他方の組をオフとなる制御をするとともに、前記一組のスイッチング素子ユニットと他方の一組のスイッチング素子ユニットとのオン時間又はオフ時間を任意に設定された時間間隔パターンで交互に切換える制御をして、前記極性反転スイッチング回路の出力端子部と接続された前記対向電極のそれぞれの電極の極性を正極性又は負極性に前記任意に設定された時間間隔パターンで交互に反転させることを特徴とする通電熱加工装置。
【請求項2】
被加工物及び前記被加工物を挟持する一対の対向電極が配置される加工部に対して電力供給を行う電源装置と、前記電源装置に接続された管理制御装置とを含む手段を備え、前記電源装置は、少なくとも、パルス電流を供給するパルス電源回路及び/又は直流電流を供給する直流電源回路と、入力端子部がパルス電源回路及び/又は直流電源回路の出力端子部と接続され、出力端子部が対向電極と接続され、スイッチング素子と逆並列に接続したダイオードを有する4組のスイッチング素子ユニットを、プラス入力端子部又はマイナス入力端子部にそれぞれ2つずつ並列接続させ、かつ前記並列接続させたスイッチング素子ユニットのプラス入力端子部接続側又はマイナス入力端子部接続側の各一つをそれぞれ直列接続させ、前記直列接続させたスイッチング素子ユニット間の中間点から電極への出力端子部に接続させた極性反転スイッチング回路と、前記管理制御装置からの信号に応じて、パルス電源回路及び/又は直流電源回路の制御、及び極性反転スイッチング回路のスイッチング素子ユニットのオン・オフの制御をする制御手段を有し、前記スイッチング素子ユニットの制御は、前記極性反転スイッチング回路を構成する4個のスイッチング素子ユニットのうち、前記スイッチング素子ユニットが直列接続されていない、プラス入力端子部接続側のスイッチング素子ユニット及びマイナス入力端子部接続側のスイッチング素子ユニットのうちのプラス側又はマイナス側のスイッチング素子ユニットの各1つを1組として一方の組をオンにするときには他方の組をオフとなる制御をするとともに、前記一組のスイッチング素子ユニットと他方の一組のスイッチング素子ユニットとのオン時間あるいはオフ時間を任意に設定された時間間隔パターンで交互に切換える制御をして、前記極性反転スイッチング回路の出力端子部と接続された前記対向電極のそれぞれの電極の極性を正極性又は負極性に前記任意に設定された時間間隔パターンで交互に反転させることを特徴とする通電熱加工装置。
【請求項3】
4組のスイッチング素子ユニットからなる極性反転スイッチング回路を2セット設けた極性反転スイッチング回路とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の通電熱加工装置。
【請求項4】
パルス電源回路は、パルス波形が異なる複数種類のパルスパターンの中から1つのパルスパターン又は複数のパルスパターンの組み合わせを選択可能とするとともに、前記パルスパターンの各波形ごとにパルス電流、パルス周波数及びパルス幅を含むパルス特性調整要素を任意に変更可能とするように構成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の通電熱加工装置。
【請求項5】
前記被加工物が装填される型を囲繞して配設される補助加熱手段を備え、前記補助加熱手段は、前記型を包囲するように形成された断熱部材と、この断熱部材に設けられた通電発熱体とを備えて構成され、前記断熱部材には、周囲に着脱自在に装着される蓋体を備えた筒状容器の内周面に内張り可能に複数分割し得るものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の通電熱加工装置。
【請求項6】
前記対向電極は、対向面から順番に対向面が被加工物に当接する均熱板と、各均熱板に積層されるパンチ板とをそれぞれ有し、前記パンチ板は均熱板に対する当接面の面積が均熱板の面積より小さくなるように寸法設定された当接部を有し、前記当接部は、パンチ板を横断するように設けられた複数条のパンチ突条、パンチ板に突設された複数のパンチ突起、又はパンチ板の中心位置から周方向の外方に向かうように同心円状に形成された突条、によって構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の通電熱加工装置。
【請求項7】
前記電極部が、被加工物に対する加圧方向と同一方向で前記被加工物を押圧する上部電極と下部電極との一対の対向電極の場合、又は被加工物に対する加圧方向と直角方向で前記被加工物の中心に対し対称的に配設し前記被加工物の側面に当接させる一対の対向電極の場合であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の通電熱加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−153912(P2012−153912A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11557(P2011−11557)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(398013532)エス.エス.アロイ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】