説明

速乾性消毒剤およびその製造方法

【課題】
医療現場、介護現場、食品業界、外食産業などの衛生管理に使用される主として手指の殺菌消毒に使用される消毒剤であって、十分な殺菌力を有し、十分な殺菌力の持続性を有し、抗菌性が付与でき、手荒れ、肌荒れその他の健康被害等の副作用の問題がなく、耐性菌の発生の問題もなく、衣服の特に袖口の殺菌消毒も同時に行うことができ、通常のアニオン性界面活性剤を含有する石けんによる手洗い時の残留石けんにより殺菌消毒効果の低下がない速乾性消毒剤を提供することである。
【解決手段】
アルコール性速乾性消毒剤に特定の複合金属酸化物粒子を含有させることで上記の課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
医療現場、食品業界などの衛生管理に使用される主として手指の殺菌消毒に使用されるアルコール性の速乾性消毒剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医師や看護師等の病院勤務者、さらに入院または通院患者が病院内で種々の感染症に罹る、いわゆる病院内感染(院内感染)が問題となっている。また食品工場の衛生管理もしばしば大きな問題を引き起こしている。病院には種々のルートで病原体が持ち込まれ、健常者には問題がない病原菌でも老人患者、乳幼児が重い病気にかかることがある。このような病院内感染では、ほとんどの場合、病院勤務者が病原菌の担体となり、その病院勤務者の手指が交叉感染の主たる原因となっていると言われている。そのような病院内感染は、病院勤務者および患者が手洗いを励行することによってある程度防ぐことができるが、確実に病原菌を除去するためには消毒剤を用いる必要がある。
従来の殺菌消毒の方法にベースンと呼ばれる洗面器状の容器に消毒剤を希釈して入れ、その中に手指を浸し手洗いしタオルによって拭き取る方法がある。この方法には消毒剤を取り替えるまでの間に何人もの人がこの中で手を洗う為、殺菌効果を維持できない、耐性菌の増殖の温床になると言った欠陥があった。
【0003】
一方、速乾性アルコール性消毒剤は、使用時に消毒剤を手指に塗布または噴霧するのみで、タオルで拭き取る必要が無いと言った利点を有するため広く普及している。アルコール性の速乾性消毒剤はアルコールが殺菌能を有することと、かつ揮発し易いため乾燥が速いことによる優位点が認められ、食品業界や医療現場等で使用されている。しかし、十分な手指の消毒には手洗いに時間がかかるため、この手法の実施は現場の人々の大きな負担になっている。また手洗いが不十分な場合手指の一部に病原菌が残存するなどの不都合も生じている。さらに、殺菌消毒薬、あるいはアルコールにより手荒れ、アレルギー症状が起こることも大きな問題である。アルコールの濃度、あるいは殺菌消毒薬の濃度を薄くすれば手荒れ、アレルギー症状はかなり軽減されるが、同時に殺菌力も低下する欠点がある。
また殺菌消毒してからある程度時間が経過すると、殺菌消毒効果が失われるため、殺菌消毒後に手指に病原菌が付着すると、病原菌が容易に増殖することも大きな問題である。実務上大変な負荷になっている手洗いの回数を減らすために、殺菌消毒効果の持続性が求められている。
さらに、アルコール、殺菌消毒薬には次の問題がある。エチルアルコールやイソプロピルアルコール等のアルコール類は、中枢神経抑制作用を有するので取り扱いに注意が必要である。ヨードホルム、ポビドンヨードやヨードチンキ等のヨード製剤は、多頻度使用で血中ヨウ素濃度を上昇させ、甲状腺機能異常、代謝性アシドーシス、腎不全等を惹起させる危険がある。クレゾール石鹸等は腐食性が強く、また損傷皮膚から吸収されやすく、腎不全、肝障害、溶血に基づく高ビリルビン血症等の危険がある。クロルヘキシジンは高濃度使用によりショック症状を起こす危険があり、また目に入ると重篤な角膜障害を生じる。さらに、オキシドール、ビオクタニン、アクリノール等も低毒性消毒剤として知られているが、オキシドールでは菌交代症(カンジダ症)や浮腫発生が、他のものでも重篤な副作用がそれぞれ報告されている。
また最近、消毒すべき菌の消毒剤に対する抵抗性が増すこと、即ち耐性化が問題となってきており、消毒剤の種類を定期的に取り替えるなどの対策が推奨されている。この点からも消毒剤の種類、使用濃度、適用菌の種類等を考慮した選択が重要な課題となっており、特に耐性菌の発生の少ない消毒剤が求められている。これらの副作用を軽減するため殺菌消毒薬の濃度を下げることが求められていた。
【0004】
病院内感染で問題になっている病原菌の伝搬方法に、医療従事者あるいは患者の衣服を介するものがある。病原菌で汚染された手指から衣服に病原菌が転写し、それが再び手指に転写し、その汚染された手指により病原菌が伝搬する場合である。手洗いを十分に行っても衣服の袖口、あるいは手が触れる衣服の部位に病原菌が残っている場合にはこのような伝搬経路が大きな問題になりうる。手洗い消毒後の手袋の装着法で手が手袋の内部にしか触れないようにし、手が汚染されないように工夫された装着方法が推奨されている。手洗い消毒後に衣服から手指に病原菌が転移する場合が多いためこのような方法が必要になっている。病院内の様々な業務の最中に衣服に手指が触れないようにすることは困難である。衣服を介した病原菌の伝搬を防ぐために、抗菌性の繊維製品が提唱されている。ただし、抗菌性の繊維製品は洗濯により抗菌効果が低下する問題があり、また血液等が付着した衣服の洗濯に欠かせない漂白処理により抗菌性が大きく低下する問題がある。このため、使用時に簡易に抗菌性を衣服に付与できる抗菌剤が待ち望まれていた。すなわち、手指を消毒殺菌する時に、同時に衣服の袖口、腰周り等も殺菌消毒ができ、かつその後の病原菌の増殖を防ぐ抗菌性を付与できることにより上記のような衣服を介した病原菌の伝搬の問題を軽減できる。
最近の病院、食品工場等で用いられる衣服には綿等の天然繊維あるいはレーヨン等の再生繊維を単独あるいは混紡した繊維製品を用いたものが多い。これらの天然繊維、再生繊維に適した抗菌剤が必要である。
殺菌消毒の前に石鹸で手を洗うことが多いが、通常の石けんはアニオン性界面活性剤を含有するためクロルヘキシジン塩のようなカチオン系の殺菌消毒薬の殺菌消毒効果を低下させる。手についた石けんは十分な量の水で洗えばほぼ完全に落とせるが、袖口についた石けんは取り除くことができない。このため、カチオン系の殺菌消毒薬のみを含有したアルコール性速乾性消毒剤を用いた場合は、その消毒剤を袖口に噴霧しても十分な殺菌抗菌効果を得られない。
【0005】
このように従来の速乾性アルコール性消毒剤には殺菌力が不十分、殺菌力の持続性(抗菌性)が不十分、手荒れ、肌荒れその他の健康被害等の副作用の問題があり、耐性菌の発生の問題があり、衣服の特に袖口の殺菌消毒を行えないと言った問題があり、通常の石けんによる殺菌消毒効果が低下するという問題があった。これらの問題を解決する速乾性消毒剤が待ち望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
医療現場、介護現場、食品業界、外食産業などの衛生管理に使用される主として手指の殺菌消毒に使用される消毒剤であって、十分な殺菌力を有し、十分な殺菌力の持続性を有し、抗菌性を付与でき、手荒れ、肌荒れその他の健康被害等の副作用の問題がなく、殺菌消毒薬の含量が少なく、耐性菌の発生の問題もなく、衣服の特に袖口の殺菌消毒も同時に行うことができ、通常のアニオン性界面活性剤を含有する石けんによる殺菌消毒効果の低下がない速乾性消毒剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、アルコール性速乾性消毒剤に特定の複合金属酸化物粒子を含有させた速乾性消毒剤により、上記の課題を解決できることを見いだした。
【0008】
(1)エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコールからなるアルコールを1種あるいは2種以上含有し、かつ亜鉛イオンあるいは銅イオンの少なくとも1種を含有した酸化物(第1成分)、およびアルカリ土類金属酸化物あるいはアルミナの内少なくとも1種の酸化物(第2成分)である第1成分および第2成分を含有した複合金属酸化物粒子を含有する速乾性消毒剤による。
(2)該複合金属酸化物粒子が下記一般式(1)あるいは(2)で表される複合金属酸化物固溶体である(1)項記載の速乾性消毒剤による。
(MO)x(Al231-x (1)
(式中、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。xは0.5<x<0.98である)
x 1-x O (2)
(式中、Nはマグネシウムイオンあるいはカルシウムイオンを、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。xは0.02<x<0.8である)
(3)該複合金属酸化物粒子が下記一般式(1)で表される複合金属酸化物固溶体である(2)項記載の速乾性消毒剤による。
(MO)x(Al231-x (1)
(式中、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。xは0.5<x<0.98である)
(4)該複合金属酸化物粒子の第1成分が酸化亜鉛であることを特徴とする(1)項〜(3)項のいずれかに記載の速乾性消毒剤による。
(5)炭素数が5〜22のカルボン酸型アニオン界面活性剤を1種あるいは2種以上含有する(1)項〜(4)項のいずれかに記載の速乾性消毒剤による。
(6)殺菌消毒薬として第4級アンモニウム塩、ビグアナイド系化合物、フェノール系化合物、ヨウ素化合物、色素化合物からなる化合物群に含まれる化合物を1種あるいは2種以上含有する(1)項〜(5)項のいずれかに記載の速乾性消毒剤による。
(7)該殺菌消毒薬として塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン塩、クレゾール、ヘキサクロロフェン、ポビドンヨード、アクリノールからなる化合物を1種あるいは2種以上含有する(6)項に記載の速乾性消毒剤。
(8)該殺菌消毒薬としてクロルヘキシジン塩あるいはポビドンヨードを少なくとも1種含有する(7)項に記載の速乾性消毒剤による。
(9)該殺菌消毒薬としてクロルヘキシジン塩を少なくとも1種含有する(8)項に記載の速乾性消毒剤による。
(10)該複合金属酸化物粒子を炭素数が5〜22のカルボン酸型アニオン界面活性剤を1種あるいは2種以上用いて水に分散し、その水分散物とアルコール溶液と混合する(1)項〜(9)項のいずれかに記載の速乾性消毒剤の製造方法による。
【発明の効果】
【0009】
本発明で提供される速乾性消毒剤により、十分な殺菌力を有し、十分な殺菌力の持続性を有し、抗菌性の付与ができ、手荒れ、肌荒れその他の健康被害等の副作用の問題がなく、殺菌消毒薬の含有量を下げられ、耐性菌の発生の問題もなく、衣服の特に袖口の殺菌消毒も手指の殺菌消毒と同時に行うことができ、通常のアニオン性界面活性剤を含有する石けんによる殺菌消毒効果の低下がない速乾性消毒剤を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、消毒とは感染予防上問題となる微生物の殆ど全てを除去、死滅、又は不活性化することを意味する。本明細書において用いられる「消毒剤」という用語は微生物に対して殺菌又は抗菌作用を有する薬剤を意味しているが、消毒又は滅菌の目的で用いられる薬剤のほか、洗浄などの目的で用いられる薬剤を包含している。
【0011】
本発明の速乾性消毒剤で用いる複合金属酸化物粒子としては、亜鉛イオンあるいは銅イオンの内の少なくとも1種を含有した酸化物(第1成分)、およびアルカリ土類金属酸化物あるいはアルミナの内の少なくとも1種の酸化物(第2成分)である第1成分および第2成分を含有した複合金属酸化物粒子が好ましい。第1成分は酸化亜鉛が最も好ましい。第2成分は酸化マグネシウム、酸化カルシウム、アルミナがより好ましく、酸化マグネシウム、アルミナがさらに好ましく、アルミナが最も好ましい。
【0012】
本発明の複合金属酸化物粒子は下記式(1)〜(2)で表される複合金属酸化物粒子固溶体がより好ましく、下記式(1)が最も好ましい。
(MO)x(Al231-x (1)
(式中、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。xは0.5<x<0.98である)
x 1−xO (2)
(式中、Nはマグネシウムイオンあるいはカルシウムイオンを、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。xは0.02<x<0.8である)
【0013】
本発明の好ましい複合金属酸化物粒子の例を以下に挙げるが、これらに限定されるものではない。 ( )内の数字は順に、BET表面積(m/g)、粒度D50%(μm)を表す)
(A−1)Zn0.14Mg0.86O(28、0.6)
(A−2)Zn0.05Ca0.95O(30、0.5)
(A−3)Cu0.05Ca0.95O(29、0.5)
(A−4)Cu0.14Mg0.86O(30、0.5)
(A−5)(ZnO)0.96(Al230.04 (30、0.5)
(A−6)A−1の表面をラウリン酸ナトリウムで修飾した複合金属酸化物粒子
(A−7)A−5の表面をラウリン酸ナトリウムで修飾した複合金属酸化物粒子
これらはいずれも固溶体であることが、X線回折スペクトルにより確認されている。
【0014】
本発明の複合金属酸化物粒子の平均粒子サイズが0.01〜20μmが好ましく、0.02〜5μmがより好ましく、0.02〜1μmがさらに好ましい。平均粒子サイズは、5分間以上超音波で分散させた後に、レーザー散乱法で測定した値である。複合金属酸化物粒子のBET比表面積は重要な指標である。一般に殺菌抗菌効果を迅速に働かすためには、極めて大きいBET比表面積が好ましい。しかし、一方では抗菌効果を持続させるためにはある程度以下の値にする必要がある。そのため、BET比表面積は1〜300m/gが好ましく、3〜150m/gがより好ましく、3〜100m/gがさらに好ましい。
【0015】
本発明の複合金属酸化物粒子は表面処理されることが好ましい。表面処理剤として好ましく用いられるものを例示すれば次の通りである。ステアリン酸、エルカ酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ベヘニン酸等の炭素数10以上の高級脂肪酸類;前記高級脂肪酸のアルカリ金属塩;ステアリルアルコール、オレイルコール等の高級アルコールの硫酸エステル塩;ポリエチレングリコールエーテルの硫酸エステル塩、アミド結合硫酸エステル塩、エステル結合硫酸エステル塩、エステル結合スルホネート、アミド結合スルホン酸塩、エーテル結合スルホン酸塩、エーテル結合アルキルアリルスルホン酸塩、エステル結合アルキルアリルスルホン酸塩、アミド結合アルキルアリルスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤類;オルトリン酸とオレイルアルコール、ステアリルアルコール等のモノまたはジエステルまたは両者の混合物であって、それらの酸型またはアルカリ金属塩またはアミン塩等のリン酸エステル類;ビニルエトキシシラン、ビニルートリス(2ーメトキシーエトキシ)シラン、ガンマ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ベーター(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ガンマ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤類;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート等のチタネート系カップリング剤類;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤類;グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート等の多価アルコールと脂肪酸のエステル類。
【0016】
この中でも、高級脂肪酸、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル、カップリング剤(シラン系、チタネート系、アルミニウム系)および多価アルコールと脂肪酸のエステル類からなる群から選ばれた表面処理剤の内の少なくとも一種による表面処理が好ましく、さらにステアリン酸、エルカ酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ベヘニン酸等の炭素数10以上の高級脂肪酸類および前記高級脂肪酸のアルカリ金属塩が特に好ましい。
【0017】
本発明の複合金属酸化物粒子の分散液の調製には、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤のいずれをも用いることができる。また低分子型界面活性剤、高分子型界面活性剤のいずれも用いることができる。これらの界面活性剤を1種用いることも、2種以上を混合して用いることもできる。アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤の中では分散の安定性の観点でアニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤が好ましく、アニオン界面活性剤がより好ましい。アニオン界面活性剤の中では本発明の速乾性消毒剤の殺菌消毒効果を阻害しない観点でカルボン酸型のアニオン界面活性剤が特に好ましい。特に後述する塩化ベンザルコニウム等の4級アンモニウム化合物、グルコン酸クロルヘキシジン等のビグアナイド化合物を殺菌消毒薬として用いる場合は、カルボン酸型のアニオン界面活性剤が最も好ましい。カルボン酸型以外の硫酸エステル型、スルホン酸型、リン酸エステル型等のアニオン界面活性剤は複合金属酸化物粒子の分散性の観点で好ましい。ただし、殺菌消毒薬の殺菌消毒作用を阻害する作用があり、殺菌消毒作用の観点からはカルボン酸型アニオン界面活性剤の方がより好ましい。
【0018】
本発明の速乾性消毒剤で用いるアニオン性界面活性剤として用いることができるものは、カルボン酸型、スルホン酸型、スルホン酸エステル型、リン酸エステル型↓二音界面活性剤がある。具体的には例えば、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等の脂肪酸石鹸、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、 ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、ラウロイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシン酸、N−ミリストイル−N−メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸メチルタウリッドナトリウム、ラウリルメチルタウリッドナトリウム等の高級脂肪酸アミドスルホン酸塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、モノラウロイルモノエタノールアミドポリオキシエチレンスルホコハク酸ナトリウム、ラウリルポリプロピレングリコールスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩、リニアドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リニアドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N−ステアロイルグルタミン酸ジナトリウム等のN−アシルグルタミン酸、硬化ヤシ油脂肪酸グリセリン硫酸ナトリウム等の高級脂肪酸エステル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、二級アルコール硫酸エステル塩、高級脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、ラウロイルモノエタノールアミドコハク酸ナトリウム、N−パルミトイルアスパラギン酸、ジトリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解アルカリ塩等が挙げられる。
【0019】
本発明の速乾性消毒剤で用いるカルボン酸型アニオン界面活性剤としては炭素数が5〜22のものが好ましい。具体的にはカプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトイル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレステアリン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ベヘン酸、エルカ酸、ヤシ脂肪酸等およびその塩が好ましい。塩としてはこれらのナトリウム塩、あるいはカリウム塩が好ましい。
【0020】
本発明の速乾性消毒剤で用いるノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリエチレンオキシド含有化合物、ポリエチレンオキシドポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アミドジエタノ−ル、アシルグルコシド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられるが、特に好ましくは、ポリエチレンオキシド含有化合物、ポリエチレンオキシドポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー類またはショ糖脂肪酸エステルである。
【0021】
本発明の速乾性消毒剤で用いる両性界面活性剤としては、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、イミダゾリン型、グリシン型などが挙げられる。好ましくは、2ーアルキルーNーカルボキシメチルーNー ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインまたはヤシ 油脂肪酸アミドプロピルベタインである。
これらのアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤は単独で、またはこれらを組み合わせて2種以上用いることができ、その配合量は界面活性剤の総量として、消毒剤全量の0.005〜5重量%、好ましくは、0.05〜3重量%である。
【0022】
本発明の速乾性消毒剤で用いる殺菌消毒薬として好ましいものは、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化アルキルイソキノリニウム、アルキルトリメチルアンモニウムクロリド、N-ココイル-L- アルギニンエチルエステル・DLピロリドンカルボン酸塩等の4級アンモニウム化合物、クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン等のビグアナイド系化合物、クレゾール、ヘキサクロロフェン等のフェノール系化合物、ヨウ素イオン、ヨードチンキ、ヨウドホルム、ヨードホア、ヨード・グリセリン液、ポビドンヨード等のヨウ素化合物およびアクリノール等の色素系化合物等が挙げられる。これらの化合物を1種または2種以上を用いることができる。
これらの中でより好ましいものは塩化ベンザルコニウムや塩化ベンゼトニウム等の4級アンモニウム化合物、クロルヘキシジンの塩類等のビグアナイド系化合物、ポビドンヨード等のヨウ素系化合物であり、さらに好ましいものは塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン塩類等のビグアナイド系化合物、ポビドンヨード等のヨウ素系化合物であり、さらにより好ましいものは塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン塩、ポビドンヨードで、特に好ましいものはクロルヘキシジン塩、ポビドンヨードであり、最も好ましいものはクロルヘキシジン塩である。
クロルヘキシジン塩としてはグルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、硫酸クロルヘキシジン、硝酸クロルヘキシジン、リン酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジンジ等が挙げられる。これらのなかでは、取り扱いが容易であるという点から、グルコン酸クロルヘキシジンが最も好ましい。
これらの殺菌消毒薬は、本発明の速乾性消毒剤の全重量あたり、0.005〜10重量%の濃度で用いられるが、0.05〜2重量%が好ましく、0.05〜0.7重量%がより好ましく、0.1〜0.4重量%が最も好ましい。これらの殺菌消毒薬は副作用があるので、含有量は殺菌消毒効果を損なわない範囲で低い方が好ましい。
【0023】
本発明の速乾性消毒剤で用いる好ましいアルコール類は、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコールである。特にエチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。これらのアルコールは単独で用いても良く、また2種以上を組み合わせて用いても良い。アルコール類は、本発明の速乾性消毒剤の全重量あたり、40〜99重量%の濃度で用いられるが、50〜95重量%が好ましく、60〜90重量%がより好ましい。
【0024】
本発明の速乾性消毒剤には擦式手指消毒法を可能にするため、粘度を上昇させる目的で高分子化合物を用いることができる。高分子化合物としてはセルロース系水溶性高分子化合物あるいはセルロース系疎水性高分子化合物、ポリアクリル酸塩、アルギン酸塩、カルボキシビニルポリマー等を用いることができ、セルロース系水溶性高分子化合物あるいはセルロース系疎水性高分子化合物が好ましい。セルロース系水溶性高分子化合物としてはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。またセルロース系疎水性高分子化合物としては、長鎖アルキル基を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースの誘導体が好ましい。これらの高分子化合物は、本発明の速乾性消毒剤の全重量あたり、0.1〜20重量%の濃度で用いられるが、0.5〜10重量%が好ましく、0.5〜5重量%がより好ましい。
【0025】
本発明の速乾性消毒剤には、脱脂等による手荒れを防止するため、あるいは湿潤剤として、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、エリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、尿素、ピロリドンカルボン酸ナトリウム等を用いることができる。これらの中ではグリセリンが最も好ましい。速乾性消毒剤の全量の0.1〜5.0重量%使用することが好ましい。
【0026】
本発明の速乾性消毒剤には、上記した成分の他に、必要に応じて、通常よく用いられる保湿剤、発泡剤、界面活性剤、抗酸化剤、発泡剤、増粘剤、pH調節剤、緩衝剤、香料、色素などを配合することもできる。本発明の速乾性消毒剤は、通常の方法によって製造することができる。例えば、複合金属酸化物粒子を界面活性剤の存在下で水に分散し、この分散物をアルコールに攪拌しながら添加する。各種の殺菌消毒剤、添加剤、高分子化合物は複合金属酸化物粒子の水分散物に溶解させても良いし、アルコール溶液に溶解させてもよいし、また複合金属酸化物粒子の水分散物とアルコール混合後に添加溶解、分散させることによって容易に製造することができる。
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
複合金属酸化物粒子の水分散物の調製(本発明)
(複合金属酸化物粒子A−5の水分散物を調製;分散物Y−1)
容器(500mL)に300mLの精製水を入れ、それにカルボン酸型アニオン界面活性剤であるラウリン酸ナトリウムを2.5gを添加し、さらに複合金属酸化物粒子A−5を90g、1mm径のアルミナ製のボール200gを投入し、この容器を回転ローラーに載せ、ボールミル機の常法に従い48時間回転分散処理をし、複合金属酸化物粒子A−5の水分散物(分散物Y−1)を調製した。
(複合金属酸化物粒子A−5の水分散物を調製;分散物Y−2)
ラウリン酸ナトリウムの代わりに、スルホン酸型アニオン界面活性剤であるアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(商品名ライポンLS−250;ライオン(株)製)を2.5g用いた以外はY−1と同様にして分散物Y−2を得た。
[比較例1]
【0029】
無機化合物粒子の水分散物の調製(比較例)
(平均粒径0.7μmの酸化亜鉛粒子の水分散物を調製;分散物Z−1)
複合金属酸化物粒子A−5の90gの代わりに、平均粒径0.7μmの酸化亜鉛粒子を90g用いた以外はY−1と同様にしてZ−1を得た。
(銀担時ゼオライト粒子の水分散物を調製;分散物Z−2)
複合金属酸化物粒子A−5の90gの代わりに銀系抗菌剤である銀担時ゼオライト粒子を90g用いた以外はY−1と同様にしてZ−2を得た。
【実施例2】
【0030】
本発明の速乾性消毒剤の調製
(本発明の速乾性消毒剤B1−1)
上記の様にして調製した分散物Y−1を2.5g攪拌しながら日局エチルアルコール75gに加え、これにヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解し、精製水21.5gを攪拌しながら添加して速乾性消毒剤B1−1を得た。
(本発明の速乾性消毒剤B1−2)
分散物Y−1の代わりにY−2を用いた以外は、B1−1と同様にして速乾性消毒剤B1−2を得た。
[比較例2]
【0031】
(比較例の速乾性消毒剤C1−1)
日局エチルアルコール75gと精製水24gの混合物にヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解し速乾性消毒剤C1−1を得た。
(比較例の速乾性消毒剤C1−2)
上記の様にして調製した分散物Z−1を2.5g攪拌しながら日局エチルアルコール75gに加え、これにヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解し、精製水21.5gを攪拌しながら添加して速乾性消毒剤C1−2を得た。
(比較例の速乾性消毒剤C1−3)
分散物Z−1の代わりにZ−2を用いた以外は、C1−2と同様にして速乾性消毒剤C1−3を得た。
【実施例3】
【0032】
本発明の速乾性消毒剤の調製
(本発明の速乾性消毒剤B2−1)
上記の様にして調製した分散物Y−1を2.5g攪拌しながら日局エチルアルコール75gに加え、その後20%グルコン酸クロルヘキシジン液を0.5g加え攪拌し、これにヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解し、精製水22gを攪拌しながら添加して速乾性消毒剤B2−1を得た。
(本発明の速乾性消毒剤B2−2)
20%グルコン酸クロルヘキシジン液の量を0.25gに変更した以外はB2−1を繰り返し、速乾性消毒剤B2−2を得た(グルコン酸クロルヘキシジンの含有率がB2−1の半分である)。
(本発明の速乾性消毒剤B2−3)
分散物Y−1をY−2に変更した以外はB2−1を繰り返し、速乾性消毒剤B2−3を得た(分散時の界面活性剤がスルホン酸型アニオン界面活性剤)。
[比較例3]
【0033】
比較例の速乾性消毒剤の調製
(比較例の速乾性消毒剤C2−1)
日局エチルアルコール75gと精製水23.5gの混合物にヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解し、これに20%グルコン酸クロルヘキシジン液を0.5g加え攪拌し速乾性消毒剤C2−1を得た。
(比較例の速乾性消毒剤C2−2)
上記の様にして調製した分散物Z−1を2.5g攪拌しながら日局エチルアルコール75gに加え、これにヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解しさらに20%グルコン酸クロルヘキシジン液0.5gを加え攪拌し、精製水22gを攪拌しながら添加して速乾性消毒剤C2−2を得た。
(比較例の速乾性消毒剤C2−3)
分散物Z−1の代わりに分散物Z−2を用いた以外はC2−2と同様にして速乾性消毒剤C2−3を得た。
(比較例の速乾性消毒剤C2−4)
20%グルコン酸クロルヘキシジン液の量を0.25gに変更した以外はC2−1を繰り返し、速乾性消毒剤C2−4を得た(グルコン酸クロルヘキシジンの含有率がC2−1の半分である)。
(比較例の速乾性消毒剤C2−5)
20%グルコン酸クロルヘキシジン液の量を0.25gに変更した以外はC2−2を繰り返し、速乾性消毒剤C2−5を得た(グルコン酸クロルヘキシジンの含有率がC2−2の半分である)。
(比較例の速乾性消毒剤C2−6)
20%グルコン酸クロルヘキシジン液の量を0.25gに変更した以外はC2−3を繰り返し、速乾性消毒剤C2−6を得た(グルコン酸クロルヘキシジンの含有率がC2−3の半分である)。
【実施例4】
【0034】
本発明の速乾性消毒剤の調製
(本発明の速乾性消毒剤B3−1)
上記の様にして調製した分散物Y−1を2.5g攪拌しながら日局エチルアルコール75gに加えこれにヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解し、その後ポビドンヨード液(7.5%)を6.7g加え攪拌し、精製水14.8gを攪拌しながら添加して速乾性消毒剤B3−1を得た。
(本発明の速乾性消毒剤B3−2)
ポビドンヨード液の添加量を3.4g、精製水を18.1gに変更した以外はB3−1と同様にして速乾性消毒剤B3−2を得た(ポビドンヨードの含有率がB3−1の半分である)。
[比較例4]
【0035】
比較例の速乾性消毒剤の調製
(比較例の速乾性消毒剤C3−1)
日局エチルアルコール75gと精製水17.3gの混合物にヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解し、これにポビドンヨード液(7.5%)を6.7g加え攪拌し速乾性消毒剤C3−1を得た。
(比較例の速乾性消毒剤C3−2)
上記の様にして調製した分散物Z−1を2.5g攪拌しながら日局エチルアルコール75gに加え、これにヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解し、さらにポビドンヨード液(7.5%)を6.7g加え攪拌し、精製水14.8gを攪拌しながら添加して速乾性消毒剤C3−2を得た。
(比較例の速乾性消毒剤C3−3)
分散物Z−1の代わりに分散物Z−2を用いた以外はC3−2と同様にして速乾性消毒剤C3−3を得た。
【実施例5】
【0036】
本発明の速乾性消毒剤の調製
(本発明の速乾性消毒剤B4−1)
上記の様にして調製した分散物Y−1を2.5g攪拌しながら日局エチルアルコール75gに加え、これにヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解し、その後20%塩化ベンザルコニウム液を1g加え攪拌し、精製水20.5gを攪拌しながら添加して速乾性消毒剤B4−1を得た。
(本発明の速乾性消毒剤B4−2)
20%塩化ベンザルコニウム液の量を0.5gに変更した以外はB4−1を繰り返し、速乾性消毒剤B4−2を得た(塩化ベンザルコニウムの含有率がB4−1の半分である)。
[比較例5]
【0037】
比較例の速乾性消毒剤の調製
(比較例の速乾性消毒剤C4−1)
日局エチルアルコール75gと精製水17.3gの混合物にヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解し、これに20%塩化ベンザルコニウム液を1g加え攪拌し速乾性消毒剤C4−1を得た。
(比較例の速乾性消毒剤C4−2)
上記の様にして調製した分散物Z−1を2.5g攪拌しながら日局エチルアルコール75gに加えこれにヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解し、さらに20%塩化ベンザルコニウム液を1g加え攪拌し、精製水20.5gを攪拌しながら添加して速乾性消毒剤C4−2を得た。
(比較例の速乾性消毒剤C4−3)
分散物Z−1の代わりに分散物Z−2を用いた以外はC4−2と同様にして速乾性消毒剤C4−3を得た。
[比較例6]
【0038】
比較例の速乾性消毒剤の調製(手荒れ防止剤としてグリセリン含有)
(比較例の速乾性消毒剤C5−1)
日局エチルアルコール75gと精製水22.5gの混合物にヒドロキシプロピルメチルセルロース1gを分散溶解し、これに手荒れ防止剤としてグリセリンを1g加え、さらに20%グルコン酸クロルヘキシジン液0.5gを加え攪拌し速乾性消毒剤C5−1を得た。
(比較例の速乾性消毒剤C5−2)
グリセリン量を2g、精製水量を21.5gに変更した以外はC5−1と同様にして速乾性消毒剤C5−2を得た。
【実施例6】
【0039】
(殺菌力の評価)
殺菌力の効果判定は各本発明及び比較例の速乾性消毒剤を原液、精製水による5倍希釈液、25倍希釈液、125倍希釈液の4種類の濃度の液を各々ディスク上に塗り、8時間常温常湿下に放置しディスクよりアルコールを完全に蒸発させた後、緑膿菌溶液を塗布した寒天培地上に置き24時間培養した後、阻止円の有無で判定した。結果は下記のようになった。
殺菌力大:125倍希釈液でも阻止円有
B1−1、B1−2,B2−1、B2−2、B3−1、B3−2、B4−1、B4−2
殺菌力かなり大:25倍希釈液ならば阻止円有
B2−3、
殺菌力中:5倍希釈液ならば阻止円有
C2−1、C2−2、C2−3、C3−1、C3−2、C3−3、C4−1,C4−2,C4−3
殺菌力小:原液ならば阻止円有
C2−4、C2−5、C2−6
殺菌力なし:原液でも阻止円無
C1−1、C1−2、C1−3
【0040】
この試験方法は手指を消毒後、時間を置いた後の殺菌力の程度を調べる評価方法である。本発明の速乾性消毒剤B1−1、B1−2、B2−1、B2−2、B3−1、B3−2、B4−1、B4−2はいずれも125倍希釈液でも阻止円を示し高い殺菌力を示し好ましかった。本発明の速乾性消毒剤B2−3は複合金属酸化物粒子の分散にスルホン酸型アニオン界面活性剤を使用したが、カルボン酸型アニオン界面活性剤を使用したB2−1より殺菌力がやや劣った。本発明の速乾性消毒剤に用いる複合金属酸化物粒子の水分散物をスルホン酸型アニオン界面活性剤で調製するよりも、カルボン酸型アニオン界面活性剤で調製する方が殺菌力が高くなり好ましかった。なお、亜鉛華に相当する酸化亜鉛粒子を含有した比較例C1−2、C2−2、C2−5,C3−2,C4−2、および銀担持ゼオライト粒子を含有した比較例C1−3、C2−3、C2−6,C3−3,C4−3はいずれも、各々対応する酸化亜鉛粒子も銀担持ゼオライト粒子も共に含有しない比較例C1−1、C2−1、C2−4,C3−1,C4−1に比べて殺菌力は同等であった。これにより、本発明の複合金属酸化物粒子は殺菌力を増加させる作用があり好ましいが、酸化亜鉛粒子および銀担持ゼオライト粒子には共に殺菌力を増加させる作用はなく好ましくなかった。また、各殺菌消毒薬の含有率が半分と低い、本発明の殺菌消毒剤B2−1、B3−2、B4−2でも比較例の含有率が高いC2−1、C2−2、C2−3、C3−1、C3−2、C3−3、C4−1、C4−2、C4−3を上回る殺菌力を示した。本発明の複合金属酸化物粒子は殺菌力を増加させる作用があるため、グルコン酸クロルヘキシジン、ポビドンヨード液、あるいは塩化ベンザルコニウム等の殺菌消毒薬を減量することができ、これらの殺菌消毒薬による副作用を軽減でき好ましいことが明確になった。耐性菌の生成を抑えるためには、殺菌消毒薬の使用量を減らすことが重要である。このように、本発明の複合金属酸化物粒子を含有する消毒剤は殺菌消毒薬の使用量を減らせるため、耐性菌の生成を減らすことができ、かつ殺菌消毒薬の副作用を軽減でき好ましい。また、本発明のB1−1、B1−2は殺菌消毒薬を含有しないにもかかわらず高い殺菌能力を示し好ましかった。
【実施例7】
【0041】
(保湿感、手荒れ感等の評価)
本発明および比較例の速乾性消毒剤を乾燥するまで両手に擦り込み、その使用後、以下の各項目について5段階の評価を6人の被験者に実施させた。評価項目は使用後保湿感(5.非常に良い感じ〜3.普通〜1がさつく)、手荒れ感(5.全くない〜3.普通〜1.ある)、かゆみ・発疹の発生(5.全くない〜3.普通〜1.ある)、ベタツキ感(5.全くない〜3.普通〜1.ある)であり、各々の項目について( )の中に記載したように各5段階の評価を行い、4項目の合計の一人当たりの平均点で評価した。
19点:B1−1、B1−2
17点:B2−2、B2−3、B3−1、B3−2、B4−1、B4−2
15点:B2−1
12点:C5−2
9〜10点:C1−2、C3−2、C4−2、C5−1
7〜8点:C1−1、C1−3、C2−4、C2−5、C2−6、C3−1、C3−3、 C4−1、C4−3
6点以下:C2−1、C2−2、C2−3
【0042】
本発明の速乾性消毒剤B1−1、B1−2、B2−1、B2−2、B2−3、B3−1、B3−2、B4−1、B4−2はいずれも16点以上で好ましかった。グリセリンを多量に添加した比較例C5−2はかなり点数が高いが、ベタツキ感が大きく不評であった。従来の亜鉛華と同じ酸化亜鉛粒子を含有したC1−2、C3−2、C4−2は酸化亜鉛粒子を添加していない比較例の速乾性消毒剤よりは点数が高く、手荒れ感等の軽減が認められるが、いずれも本発明の複合金属酸化物粒子を用いた速乾性消毒剤に比べると点数が低く好ましくなかった。一方で、グルコン酸クロルヘキシジンを含有した場合は、酸化亜鉛粒子を含有したC2−2、C2−5は共に対応する酸化亜鉛粒子を含有しないC2−1、C2−4と点数が同じであった。これよりグルコン酸クロルヘキシジンを含有した場合は酸化亜鉛粒子による手荒れ感等の改善作用がなく好ましくなかった。
グルコン酸クロルヘキシジンの添加量を半分にしたC2−4,C2−5、C2−6はいずれも対応する1倍量の、C2−1、C2−2、C2−3よりは点数が高くなったが、いずれも本発明の消毒剤に比べ大きく劣り好ましくなかった。グルコン酸クロルヘキシジン含有した比較例C2−1、C2−2、C2−3は、ポビドンヨード液、あるいは塩化ベンザルコニウムを含有したC3−1,C3−2,C3−3、C4−1,C4−2,C4−3にくらべ特に点数が低く評価が低かった。しかし、本発明の複合金属酸化物粒子を含有した場合は、グルコン酸クロルヘキシジン、ポビドンヨード液、あるいは塩化ベンザルコニウム含有したいずれの場合でも点数が高く好ましかった。これより、本発明の複合金属酸化物粒子による、使用後保湿感、手荒れ感、かゆみ・発疹の発生、ベタツキ感の改善に関しては、グルコン酸クロルヘキシジンを殺菌消毒薬として用いた場合特に顕著に効果があることが明らかになった。また、殺菌消毒薬を含有しない本発明のB1−1、B1−2は高い点数を得て好ましかった。
【実施例8】
【0043】
(繊維の消毒の評価)
本発明および比較例の速乾性消毒剤を綿/ポリエステル=35/65の混紡繊維よりなる病院の看護師のユニホーム用の布に塗布し、下記のような洗濯をした後に殺菌消毒効果を調べた。洗濯方法は家庭用電気洗濯機に中性洗剤(ザブ;花王(株)製)を0.2%含有する洗濯液を投入し、温度40℃で、試料布と洗濯液の浴比が1:50になるようにして、5分間の反転モードで洗濯した。これを2回繰り返した後に、殺菌消毒の効果の測定をした。殺菌消毒の効果の測定は菌数測定法を採用した。洗濯後の試料布上に黄色ブドウ状球菌のブイヨン懸濁液を注加し、密閉容器中で37℃18時間培養後の生菌数を測定した。殺菌消毒を行っていない試料布の菌数を基準にし、菌数の増減の相対値をもって評価した。
(菌数増減値差)=log(S1/K1)
式中 S0:未消毒布に接種直後分散回収した菌数
S1:未消毒布の37℃で18時間培養後の分散回収した菌数
K1:消毒布の37℃で18時間培養後の分散回収した菌数
なお、S0は1.5×10個であり、またlog(S1/S0)が2.3であった。
【0044】
結果を下記に示す。数字が正で大きい程、殺菌消毒効果が大きいことを示す。
速乾性消毒剤名 菌数増減値差 速乾性消毒剤名 菌数増減値差
B1−1 5.90 C1−1 0.02
B1−2 5.60 C2−1 0.20
B2−1 5.90 C2−2 0.25
B2−2 5.60 C2−3 0.18
B2−3 5.80
本発明の速乾性消毒剤B1−1、B1−2、B2−1、B2−2、B2−3はいずれも、菌数増減値差が5.1以上と大きく、比較例の速乾性消毒剤C1−1、C1−2、C2−2、C2−3より殺菌消毒効果が大きく好ましかった。本発明の速乾性消毒剤は繊維の殺菌消毒において比較例の速乾性消毒剤に優り、手洗い消毒時に同時に衣服の袖口等も殺菌消毒ができ好ましい。また、本発明のB1−1、B1−2は殺菌消毒薬を含有しないにもかかわらず高い殺菌能力を示し好ましかった。
【実施例9】
【0045】
(石けん手洗いの影響評価)
本発明の速乾性消毒剤B1−1、B2−1,B2−2、および比較例の速乾性消毒剤C1−1,C1−2,C2−1、C2−2、C2−3、C2−4各々で手指を消毒後にスルホン酸型アニオン界面活性剤を含む石けん水で水洗いをし、殺菌消毒効果を調べた。殺菌消毒効果の試験は石けんで手洗い後、水で軽く石鹸を落とした後、掌の5カ所を綿棒で拭き、その綿防を寒天培地に付着させ24時間常温で放置した後、寒天培地上のコロニーの個数を測定した。コロニー数を下記に示す。
B1−1:3個 B2−1:0個 B2−2:0個
C1−1:350個、 C1−2:330個、 C2−1:210個
C2−2:205個、 C2−3:195個、 C2−4:270個
本発明の速乾性消毒剤B1−1、B2−1,B2−2はいずれも、比較例の速乾性消毒剤C1−1,C1−2,C2−1、C2−2、C2−3、C2−4より殺菌消毒効果が大きく好ましかった。特にB1−1、B2−2はC2−1、C2−2、C2−3に比べ、グルコン酸クロルヘキシジンを含まない、あるいは含有量が半分であるにも拘わらず殺菌消毒効果が優り好ましかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように本発明にかかる速乾性消毒剤は、十分な殺菌力を有し、十分な殺菌力の持続性を有し、抗菌性が付与でき、殺菌消毒剤が不要あるいは減量でき、手荒れ、肌荒れその他の健康被害等の副作用の問題がなく、耐性菌の発生の問題もなく、衣服の特に袖口の殺菌消毒も同時に行うことができ、通常のアニオン性界面活性剤を含有する石けんによる手洗い時の残留石けんにより殺菌消毒効果の低下がないため、病院等の医療分野、介護分野、食品製造、販売分野、レストラン等の外食産業分野、ホテル等の観光分野などの殺菌消毒、衛生管理に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコールからなるアルコールを1種あるいは2種以上含有し、かつ亜鉛イオンあるいは銅イオンの少なくとも1種を含有した酸化物(第1成分)、およびアルカリ土類金属酸化物あるいはアルミナの内少なくとも1種の酸化物(第2成分)である第1成分および第2成分を含有した複合金属酸化物粒子を含有することを特徴とする速乾性消毒剤。
【請求項2】
該複合金属酸化物粒子が下記一般式(1)あるいは(2)で表される複合金属酸化物固溶体であることを特徴とする請求項1記載の速乾性消毒剤。
(MO)x(Al231-x (1)
(式中、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。xは0.5<x<0.98である)
x 1-x O (2)
(式中、Nはマグネシウムイオンあるいはカルシウムイオンを、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。xは0.02<x<0.8である)
【請求項3】
該複合金属酸化物粒子が下記一般式(1)で表される複合金属酸化物固溶体であることを特徴とする請求項2記載の速乾性消毒剤。
(MO)x(Al231-x (1)
(式中、Mは亜鉛イオンあるいは銅イオンを表す。xは0.5<x<0.98である)
【請求項4】
該複合金属酸化物粒子の第1成分が酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の速乾性消毒剤。
【請求項5】
炭素数が5〜22のカルボン酸型アニオン界面活性剤を1種あるいは2種以上含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の速乾性消毒剤。
【請求項6】
殺菌消毒薬として第4級アンモニウム塩、ビグアナイド系化合物、フェノール系化合物、ヨウ素化合物、色素化合物からなる化合物群に含まれる化合物を1種あるいは2種以上含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の速乾性消毒剤。
【請求項7】
該殺菌消毒薬として塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン塩、クレゾール、ヘキサクロロフェン、ポビドンヨード、アクリノールからなる化合物を1種あるいは2種以上含有することを特徴とする請求項6に記載の速乾性消毒剤。
【請求項8】
該殺菌消毒薬としてクロルヘキシジン塩あるいはポビドンヨードを少なくとも1種含有することを特徴とする請求項7に記載の速乾性消毒剤。
【請求項9】
該殺菌消毒薬としてクロルヘキシジン塩を少なくとも1種含有することを特徴とする請求項8に記載の速乾性消毒剤。
【請求項10】
該複合金属酸化物粒子を炭素数が5〜22のカルボン酸型アニオン界面活性剤を1種あるいは2種以上用いて水に分散し、その水分散物とアルコール溶液と混合することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の速乾性消毒剤の製造方法。

【公開番号】特開2008−297270(P2008−297270A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146562(P2007−146562)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(303049027)株式会社井上事務所 (2)
【Fターム(参考)】