説明

速硬性セメント組成物の製造方法

【課題】ベースモルタル・ベースコンクリートの練置き時間に制限されずに、所望の可使時間を安定して確保することができる速硬性セメント組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】II型無水石膏を含有するセメント混練物を調製し、施工時間に合わせて、上記セメント混練物に遅延剤とアルミン酸カルシウムを同時に添加し、または遅延剤とアルミン酸カルシウムと減水剤を同時に添加して混合し、あるいは遅延剤とアルミン酸カルシウムを同時に添加して混合した後に減水剤を添加して混合することを特徴とする速硬性セメント組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル・コンクリート(両者を含めてセメント組成物と云う)の練置き時間に制限されず、所望の可使時間を安定して確保することができる速硬性セメント組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの一部をアルミン酸カルシウムに置換することによって、セメント組成物の凝結を促進させる手法は、緊急工事用等の用途で、従来から広く用いられている。また、セメント−アルミン酸カルシウム系速硬性組成物には、一般に、作業時間確保・作業性改善等を目的として遅延剤や減水剤が添加されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、セメント混練物にアルミン酸カルシウム等の速硬性組成物を添加したものは、遅延剤を加えても可使時間を長く保つのは困難であり、混練直後に施工を開始する必要があるため、通常は、施工現場にモルタル・コンクリート混練設備が建設されている。このように現場毎にモルタル・コンクリートの混練設備を建設するのには費用と時間がかかると云う欠点があり、限られた用途にしか利用されてこなかった。
【0004】
この改善方法として、あらかじめセメント組成物に遅延剤を添加しておき、アルミン酸カルシウムを施工直前に添加することによって、モルタル・コンクリートを固化させずに長時間運搬する手法が提案されている(特許文献2参照)。この方法によれば、運搬時間に制約されることなく、生コンプラント等の既存の混練設備を利用し、ミキサ車を用いて速硬性モルタル・コンクリートを出荷することが可能となった。
【0005】
しかし、セメント組成物に遅延剤を予め添加しておく方法では、その凝結抑制効果はベースモルタル・ベースコンクリートの運搬時間(練置き時間)に影響を受ける。例えば、交通渋滞等によりモルタル・コンクリート運搬時間(練置き時間)が長くなった場合、遅延剤による凝結抑制効果が次第に低下して、可使時間が大きく変動してしまうという欠点があった。遅延剤や減水剤等は、セメント等の水硬性材料の水和が進行するのに伴って消費されるので、時間経過に伴う水和進行によって消費されると、液層組成や吸脱着平衡状態が変化し、遅延剤による凝結抑制効果が低下するものと考えられる。
【特許文献1】特開平11−180745号公報
【特許文献2】特開平9−254136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、セメント混練物について従来の凝結調整方法における上記問題を解決したものであり、ベースモルタル・ベースコンクリートの練置き時間に制限されずに、所望の可使時間を安定して確保することができる速硬性セメント組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成によって上記問題を解決した速硬性セメント組成物の製造方法に関する。
(1)II型無水石膏を含有するセメント混練物を調製し、施工時間に合わせて、上記セメント混練物に遅延剤とアルミン酸カルシウムを同時に添加して混合することを特徴とする速硬性セメント組成物の製造方法。
(2)II型無水石膏を含有するセメント混練物を調製し、施工時間に合わせて、上記セメント混練物に遅延剤とアルミン酸カルシウムと減水剤を同時に添加して混合することを特徴とする速硬性セメント組成物の製造方法。
(3)II型無水石膏を含有するセメント混練物を調製し、施工時間に合わせて、上記セメント混練物に遅延剤とアルミン酸カルシウムを同時に添加して混合し、その後に減水剤を添加して混合することを特徴とする速硬性セメント組成物の製造方法。
(4)II型無水石膏を含有するセメント混練物に対して、遅延剤とアルミン酸カルシウムを同時に添加する手段として遅延剤とアルミン酸カルシウムの混合物を用い、または、遅延剤とアルミン酸カルシウムと減水剤を同時に添加する手段として遅延剤とアルミン酸カルシウムと減水剤の混合物を用いる上記(1)〜上記(3)の何れかに記載する速硬性セメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、ベースモルタルやベースコンクリートの練置き時間に制約されずに、速硬性モルタルおよび速硬性コンクリートの可使時間を安定して確保することができる。従って、ベースモルタルやベースコンクリートの練置き時間が変動しても、施工現場において、所望の可使時間を得ることができる。
【0009】
本発明の製造方法は、セメント混練物に、施工時間に合わせて遅延剤とアルミン酸カルシウムを添加するので施工条件の許容範囲が広く、多様な施工現場において容易に実施することができる。例えば、セメント混練物を製造した直後に施工する場合、あるいはセメント混練物を製造した後に施工現場に搬送して施工する場合などの各施工時間、具体的には、混練時の数分〜搬送時間90分程度の多様な施工時間に合わせて容易に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。なお、%は質量%である。
【0011】
本発明の第一態様は、II型無水石膏を含有するセメント混練物に、施工時間に合わせて、遅延剤とアルミン酸カルシウムを同時に添加して混合することを特徴とする速硬性セメント組成物の製造方法である。
【0012】
本発明のセメント混練物は、セメントと共に石膏を含有するセメント組成物に水を加えて混練し、この混練物中に石膏がII型無水石膏として含有されているものである。具体的には、例えば、セメントにII型無水石膏を添加し、水を加えて混練することによって製造される。
【0013】
セメント混練物に含まれる石膏は遅延剤の凝結抑制効果に影響を及ぼし、その種類によって効果が異なる。具体的には、半水石膏やII型無水石膏を含有するものは、遅延剤
の凝結抑制効果が次第に低下し、可使時間の確保が困難になる。また、II型無水石膏を
含むものは十分な速硬性の確保が困難となるので好ましくない。一方、二水石膏を含むものは遅延剤の凝結抑制効果が向上するので十分な可使時間を確保できるが、II型無水石膏を用いた場合と比較して、速硬性が低下するという欠点がある。
【0014】
本発明では、混練時にII型無水石膏が水と接触し、表面のみに二水石膏が生成した状態でII型無水石膏がセメント混練物に含有されることによって、これとアルミン酸カルシウムが反応し、速硬性を阻害せずに、添加した遅延剤の凝結抑制効果を高めことができる。
【0015】
本発明において、遅延剤はアルミン酸カルシウムと同時に添加される。遅延剤とアルミン酸カルシウムを同時に添加するには、遅延剤とアルミン酸カルシウムを混合し、この混合物を添加すれば良い。アルミン酸カルシウムを添加した後に遅延剤を遅れて添加した場合には、遅延剤が添加される間にアルミン酸カルシウムによる凝結が進み、遅延剤の凝結抑制効果が大幅に低下し、可使時間の確保が困難となるので好ましくない。一方、遅延剤をアルミン酸カルシウムより先に添加した場合には、遅延剤を添加した後にアルミン酸カルシウムを添加する間に、セメントの水和により遅延剤が消費され、遅延剤の凝結抑制効果が低下するので好ましくない。
【0016】
具体的には、ベースコンクリート・ベースモルタルに先に遅延剤を添加すると、ベースコンクリート・ベースモルタルの練置き時間が変動すると、セメントの水和により消費される遅延剤量が変化し、遅延剤の凝結抑制効果が変動して、安定した可使時間を確保できないと云う問題を生じる。なお、アルミン酸カルシウムおよび遅延剤の作用効果は本発明の第二態様および第三態様においても同様である。
【0017】
本発明の第二態様は、II型無水石膏を含有するセメント混練物に、施工時間に合わせて、遅延剤とアルミン酸カルシウムと減水剤を同時に添加して混合することを特徴とする速硬性セメント組成物の製造方法である。
【0018】
減水剤を使用する場合、アルミン酸カルシウムおよび遅延剤と同時に添加することが好ましい。減水剤はセメントやアルミン酸カルシウムの粒子表面に遅延剤と競争的に吸着する。従って、減水剤の多寡は遅延剤の吸着量に影響し、その結果、遅延剤の凝結抑制効果に影響を及ぼす。即ち、減水剤をアルミン酸カルシウムや遅延剤よりも前に添加すると、ベースコンクリート・ベースモルタル中で、セメントの水和により減水剤が消費されるので、ベースコンクリート・ベースモルタルの練置き時間が変動すると、セメントの水和により消費される減水剤量が変化し、減水剤の残存量が変動することにより、遅延剤の凝結抑制効果が変動する可能性があるので好ましくない。
【0019】
本発明において、セメント混練物に対して、遅延剤とアルミン酸カルシウムと減水剤とを同時に添加するには、遅延剤とアルミン酸カルシウムと減水剤とを混合し、この混合物を添加すれば良い。
【0020】
本発明の第三態様は、II型無水石膏を含有するセメント混練物に、施工時間に合わせて、遅延剤とアルミン酸カルシウムを同時に添加して混合し、その後に減水剤を添加して混合することを特徴とする速硬性セメント組成物の製造方法である。
【0021】
セメント混練物に遅延剤とアルミン酸カルシウムを同時に添加して混合し、その後に減水剤を添加する方法であれば、遅延剤の凝結抑制作用が進行している間に減水剤が添加されるので、遅延剤による凝結抑制作用を調整する効果が得られる。
【0022】
本発明において、使用されるアルミン酸カルシウムは、CaОとAl23を主要化学成分とし、化合物、固溶体、ガラス質、若しくはこれらのいずれかが混合したものであって、水和活性を有するものであり、例えば、〔3CaО・Al23〕、〔12CaО・7Al23〕、〔CaО・Al23〕、〔CaО・2Al23〕、〔11CaО・7Al23・CaF2〕、〔Na2O・8CaО・3Al23〕、〔4CaО・3Al23・SО3〕などであり、アルミナセメントも該当する。アルミン酸カルシウムの使用量は所望の凝結促進効果に応じて定められる。例えば、セメント量の5〜200%が通常使用される。
【0023】
また、使用されるセメントは何れの水硬性セメントでも良い。具体的には、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の各種混合セメント、白色セメントやエコセメント等の特殊セメントを例示することができる。さらに、2種以上の異なるセメントを併用しても良い。
【0024】
使用されるII型無水石膏は天然石膏、化学石膏の何れでもよい。セメントにII型無水石膏を添加し、水を加えてセメント混練物にする場合、II型無水石膏の添加量は、例えば、セメント量の5〜200%であれば良い。
【0025】
使用される遅延剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等に使用可能ないずれのものも用いることができる。例えば、オキシカルボン酸系、リン酸またはその塩、フッ酸またはその塩等の組成のいずれのものも用いることができる。遅延剤の使用量は所望の凝結遅延効果に応じて定められる。例えば、通常、セメント量の0.05〜5%の量が使用される。
【0026】
使用される減水剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等について使用されるものであれば良い。例えば、ポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸系、リグニンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、アミノスルホン酸系等の組成の高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、減水剤、AE減水剤、分散剤の何れも用いることができる。減水剤の使用量は所望の凝結遅延効果に応じて定められる。例えば、通常、固形分換算でセメント量の0.05〜3%の量が使用される。
【0027】
本発明において、その効果を損なわない限り、モルタルやコンクリートで使用される他の成分を配合しても良い。このような成分としては、消泡剤、収縮低減剤、膨張材、顔料、促進剤、増粘剤、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、珪石粉、石灰石微粉末、シリカフューム、骨材などが挙げられる。
【0028】
また本発明において、速硬性セメント組成物の混合・混練装置としては、モルタルやコンクリートの混練に用いられている通常のミキサ等を用いることができる。混合方法や混練時間は特に制限されない。また、上記各発明の製造方法は、速硬性セメントペースト、モルタル、コンクリート等の任意の配合における製造に適用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。なお、実施例および比較例において使用した材料を表1に示す。
【0030】
〔粉体混合物の作製〕
一次添加剤、二次添加剤の材料をおのおのミキサ(レーディゲ社製レーディゲミキサ)に入れ、50kg/バッチで3分間乾式混合し、一次添加剤混合粉体、二次添加剤混合粉体を調製した。
【0031】
〔可使時間の評価〕
規格(JIS R 5201)の手法に準じて、20℃恒温度試験室内にて、速硬性モルタルの凝結を測定し、混練終了後〜凝結始発までの時間を可使時間の指標とした。
【0032】
〔速硬性の評価〕
20℃恒温度試験室内にて、上記モルタルを円柱型枠内(φ5cm×H10cm)に入れて成型し、規格(JIS R 5201)の手法に準じて成型後6時間時点での圧縮強さを測定し、速硬性の指標とした。
【0033】
〔実施例および比較例〕
規格(JIS R 5201)の手法に準じて、20℃恒温度試験室内にて、表2に示す配合比に従って、初期混練材料をホバートミキサに同時に投入して4分間混練し、初期セメント混練物(ベースモルタル+初期添加材料)を調製した。次いで、この初期セメント混練物に混練直後(練置きなし)または60分静置後(練置き60分)、一次添加剤を加えて高速で1分間混合した。この一次添加剤混合後、混練直後に二次添加剤を加えて高速で1分間混合し、速硬性セメント組成物を調製した。この速硬性セメント組成物について、凝結始発までの可使時間、圧縮強度を測定した。この結果を表3に示した。
【0034】
表3の結果を示すように、本発明の実施例(試料A1〜A5)は何れも練置き時間の長短に制約されずに各々ほぼ同等の可使時間が確保されており、また圧縮強度も大差なく、速硬性に変動がないことが分かる。一方、比較例(試料B1〜B5)では練置き時間の長短によって可使時間および圧縮強度が大きく変動している。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
II型無水石膏を含有するセメント混練物を調製し、施工時間に合わせて、上記セメント混練物に遅延剤とアルミン酸カルシウムを同時に添加して混合することを特徴とする速硬性セメント組成物の製造方法。
【請求項2】
II型無水石膏を含有するセメント混練物を調製し、施工時間に合わせて、上記セメント混練物に遅延剤とアルミン酸カルシウムと減水剤を同時に添加して混合することを特徴とする速硬性セメント組成物の製造方法。
【請求項3】
II型無水石膏を含有するセメント混練物を調製し、施工時間に合わせて、上記セメント混練物に遅延剤とアルミン酸カルシウムを同時に添加して混合し、その後に減水剤を添加して混合することを特徴とする速硬性セメント組成物の製造方法。
【請求項4】
II型無水石膏を含有するセメント混練物に対して、遅延剤とアルミン酸カルシウムを同時に添加する手段として遅延剤とアルミン酸カルシウムの混合物を用い、または、遅延剤とアルミン酸カルシウムと減水剤を同時に添加する手段として遅延剤とアルミン酸カルシウムと減水剤の混合物を用いる請求項1〜請求項3の何れかに記載する速硬性セメント組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−208014(P2008−208014A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48857(P2007−48857)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】