説明

造膜助剤および塗料用組成物

【課題】造膜効果が大きく、毒性が小さくかつ低沸点で合成が容易な造膜助剤および、この造膜助剤を含有する塗料用組成物を提供する。
【解決手段】式1で表される化合物からなる造膜助剤、およびこの化合物を含有する塗料用組成物。


式1式1において、Rは炭素数1から4の直鎖または分岐アルキルであり、RおよびRは独立して、水素または炭素数1から2のアルキルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子内にカルボニル基と水酸基を有し、カルボニル基と水酸基の間に炭素を有する化合物からなる造膜助剤、およびこの造膜助剤を含有した塗料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トルエンやキシレンに代表される揮発性有機化合物(Volatile Organic Compoud VOC)は、作業環境や生活環境の悪化が懸念されるため、忌避される傾向にあり、有機溶剤系塗料に変わり水系塗料の台頭が著しい。水系エマルション塗料は水系塗料の代表であり塗料の多くの部分を占める媒体に水を用いる塗料である。水系エマルション塗料は塗料が乾燥する際にエマルション内の油滴粒子同士が融着し強固な樹脂塗膜を形成する必要がある。この際、特にTg(ガラス転位点)の高い樹脂を用いた場合、低温での粒子同士の融着が不十分であるため一般に造膜助剤と呼ばれる添加剤を用いる。この造膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(CS−12、チッソ株式会社の商品名)や、4−ブトキシ−1−エタノール(ブチルセロソルブ)と言った化合物が市販されているが、エマルションに用いる樹脂の種類によっては造膜効果が十分でないか、造膜助剤の構造が複雑で合成に手間がかかるものであるか(特許文献1)、或いはブチルセロソルブ、エチルセロソルブと言った安全性に問題のあるものであった。ブチルセロソルブ或いはエチルセロソルブといったエチレングリコール誘導体は体内での代謝過程でシュウ酸が形成されるために毒性を発現するとされているため、代謝過程でシュウ酸を生じないプロピレングリコール誘導体への代替が進んでいる(特許文献2)。
【0003】
更にこれまでは、有機溶剤系塗料が主であったライン塗装においても水系エマルション塗料が台頭してきており、乾燥時における造膜性および乾燥性についても高機能化が求められている。これまでの造膜助剤は塗料の乾燥時、特に水や有機溶剤が蒸発する際には蒸発せず、理想的な塗膜を形成した後に大気中に揮散するというものであったが、迅速な乾燥が求められるライン塗装においては。溶剤が乾燥し理想的な塗膜を形成した後、即座に造膜助剤も蒸発することが求められる。従って、これまで特に建築物の外壁等に利用されてきた高沸点の造膜助剤では乾燥に時間がかかりすぎるという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−200611公報
【特許文献2】特開平8−157757公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来の技術課題を解決することであり、造膜効果が大きく、毒性が小さくかつ低沸点で合成が容易な造膜助剤および、この造膜助剤を含有する塗料用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の構造である化合物が上記要求を満たす造膜助剤として有効である事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下の項(1)〜(7)などを含んでいる。
(1) 式1で表される化合物からなる造膜助剤。

式1

式1において、Rは炭素数1から4の直鎖または分岐アルキルであり、RおよびRは独立して、水素または炭素数1から2のアルキルである。
【0008】
(2) 式1において、Rがイソプロピルであり、RおよびRが共にメチルである項(1)に記載の造膜助剤。
【0009】
(3) 項(1)または(2)に記載の造膜助剤をポリウレタン系エマルションに用いること。
【0010】
(4) 項(1)または(2)に記載の造膜助剤を含有する塗料用組成物。
【0011】
(5) さらにポリウレタンを含有する項(4)に記載の塗料用組成物。
【0012】
(6) 塗料用組成物の重量に基づいて、造膜助剤の含有量が0.1重量%から30.0重量%の範囲である項(4)または(5)に記載の塗料用組成物。
【0013】
(7) 塗料用組成物の重量に基づいて、造膜助剤の含有量が、0.5重量%から20.0重量%の範囲である項(4)または(5)に記載の塗料用組成物。
【0014】
造膜助剤となる式(1)で表される化合物は、具体的には、1−ヒドロキシ−3−ブタノン、2−エチル−1−ヒドロキシ−3−ヘキサノン、2,2,4−トリメチル−1−ヒドロキシ−3−ペンタノンなどが挙げられ、2,2,4−トリメチル−1−ヒドロキシ−3−ペンタノンが特に好ましい。
【0015】
式(1)で表される化合物の製造方法としては、1,3−ジオールの脱水素による、または、ケトンへのフォルムアルデヒドのアルドール付加によるなどがある。
一例としては、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールにラネーニッケル触媒上、90から150℃の温度範囲で加熱し、常圧下または減圧下で3から20時間反応させる。得られた反応粗液を精留等の公知の方法にて精製を行うことにより、2,2,4−トリメチル−1−ヒドロキシ−3−ペンタノンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の造膜助剤が使用される水系エマルションに用いられる樹脂の種類は、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、ポリ乳酸ビニル樹脂等の酢酸ビニル等の酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、あるいはこれらのモノマーを共重合させたコポリマーが好適に使用され、一般的には水系エマルション中の樹脂の含有割合は、10重量%から60重量%の範囲である。
【0017】
水系エマルションとして使用されるエマルションの種類は、上記の樹脂を水および有機溶剤などの媒体に分散させたエマルションが挙げられ、具体的には、アクリル酸エステルエマルション、メタクリル酸エステルエマルション、ポリウレタンエマルション、酢酸ビニルホモポリマーエマルション、酢酸ビニル−アクリル酸エステルコポリマーエマルション、酢酸ビニル−エチレンコポリマーエマルション、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステルコポリマーエマルション、アクリル酸エステル−スチレンコポリマーエマルション等が好適に使用され、アクリル酸エマルション、ポリウレタンエマルションがより好ましく使用される。更に好ましく使用されるエマルションはポリウレタンエマルションである。
【0018】
本発明における造膜助剤は、水系エマルション以外のいわゆるラテックスにも使用可能である。使用されるラテックスは、塩化ビニリデンコポリマーラテックス、塩化ビニル−コポリマーラテックス、ブタジエン−スチレンラテックス、ブタジエン−アクリロニトリルラテックスなどが挙げられる。
【0019】
式1において、Rは炭素数1から4の直鎖または分岐のアルキルであり、RおよびRは独立して水素または炭素数1から2のアルキルである。Rは炭素数2または3のアルキルが好ましく、RおよびRは独立して、炭素数1から2のアルキルが好ましい。さらに好ましくは、Rは炭素数3のアルキルであり、RおよびRは独立して炭素数1のアルキル、すなわちメチルが好ましい。Rが炭素数3のイソプロピルであり、RおよびRが共にメチルである2,2,4−トリメチル−1−ヒドロキシ−3−ペンタノンが極めて好ましい。
【0020】
水系エマルションや塗料用組成物中の造膜助剤の測定法は公知の方法、例えばガスクロマト分析等にて分析可能である。また、水系エマルションや樹脂組成物における樹脂などの不揮発分の測定方法も公知の方法例えば、蒸発残分の測定等にて分析可能である。
【0021】
本発明における造膜助剤の塗料用組成物に対する添加量は、当該塗料用組成物の総重量に対する添加割合で定義できる。例えば、当該塗料用組成物の総重量に対し、造膜助剤の添加割合が0.1重量%から30.0重量%の範囲で使用可能であり、好ましくは0.5重量%から20.0重量%の範囲である。添加量が0.1重量%以上で造膜効果が十分となり、30.0重量%以下で造膜速度が充分速くなる。
【0022】
本発明における造膜助剤の含有量は、当該水系エマルションや塗料用組成物中の含有樹脂重量に対する添加割合でも定義できる。例えば、当該水系エマルションや塗料用組成物中に含有される樹脂重量に対し、造膜助剤の添加割合が0.1重量%から100.0重量%の範囲での使用が好ましく、より好ましくは1.0重量%から50.0重量%の範囲であり、さらに好ましくは2.0重量%から30.0重量%の範囲である。0.1重量%以上で造膜効果が十分となり、100.0重量%以下で造膜速度が充分速くなる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
(塗料組成物の調製)
実施例、比較例には、水系エマルションはDIC株式会社のポリウレタン系エマルション ハイドランAP30F(登録商標)及びアクリル系エマルション ボンコートED85E、ボンコートAN155E(登録商標)を用いた。実施例には、造膜助剤は本発明の造膜助剤である2,2,4−トリメチル−1−ヒドロキシ−3−ペンタノン(表1から表4ではCS−8OXと略する)を用い、比較例には、2−ブトキシエタノール(ブチルセロソルブ、和光純薬製、表1から表4ではBCと略する)、およびチッソ株式会社の2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(表1から表4ではCS−12と略する)を用いた。なお、2,2,4−トリメチル−1−ヒドロキシ−3−ペンタノンは、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオール(チッソ株式会社製)をラネーニッケルを触媒として、液相で脱水素を行い得られた反応粗液から公知の精留にて精製を行って得た。用いた造膜助剤は各々のエマルションに対し1重量%から5重量%の割合で添加し、ホモジナイザーを用いて混合した後、消泡するのを待って測定に供した。
(最低造膜温度および白化温度の測定)
【実施例1】
【0025】
調製したハイドランAP30Fを水系エマルションとして用い、各々の造膜助剤を含んだ塗料組成物の最低造膜温度及び白化温度を測定した。
最低造膜温度の測定は、井元製作所製 簡易型最低造膜温度測定装置に循環型冷却液送液装置を接続し測定を行った。最低造膜温度及び白化温度の測定はJIS K−6828−2に則って行った。結果を表1および表2に示した。
ポリウレタン系エマルションであるAP30Fを用いた場合では、2,2,4−トリメチル−1−ヒドロキシ−3−ペンタノン(実施例1−1から1−5)は、ブチルセロソルブ(比較例2−1から2−5)および2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(比較例3−1から3−3)と比較して、どの添加割合においても最低造膜温度、白化温度共に低く、無添加(比較例1)との最低造膜温度の差(ΔMFT)は、5重量%の添加では50℃を超えた。
【0026】

【0027】

【実施例2】
【0028】
ボンコートED85Eを水系エマルションとして用いた以外は全て実施例1と同様に最低造膜温度及び白化温度の測定を行った。結果を表3に示した。無添加を比較例4とした。
2,2,4−トリメチル−1−ヒドロキシ−3−ペンタノン(実施例2−1から2−3)は、最低造膜温度、白化温度共に、ブチルセロソルブ(比較例5−1から5−3)および2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(比較例6−1から6−3)と比較してほぼ同様の値を示した。
【0029】

【実施例3】
【0030】
ボンコートAN155Eを水系エマルションとして用いた以外は全て実施例1と同様に最低造膜温度及び白化温度の測定を行った。結果を表4に示した。無添加を比較例7とした。
2,2,4−トリメチル−1−ヒドロキシ−3−ペンタノン(実施例3−1から3−3)は、最低造膜温度、白化温度共に、ブチルセロソルブ(比較例8−1から8−3)および2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(比較例9−1から9−3)と比較してほぼ同様の値を示した。
【0031】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明における造膜助剤は、水系エマルションに加える造膜助剤として、特にポリウレタン系エマルションへの造膜助剤として非常に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表される化合物からなる造膜助剤。

式1

式1において、Rは炭素数1から4の直鎖または分岐アルキルであり、RおよびRは独立して、水素または炭素数1から2のアルキルである。
【請求項2】
式1において、Rがイソプロピルであり、RおよびRが共にメチルである請求項1に記載の造膜助剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の造膜助剤をポリウレタン系エマルションに用いること。
【請求項4】
請求項1または2に記載の造膜助剤を含有する塗料用組成物。
【請求項5】
さらにポリウレタンを含有する請求項4に記載の塗料用組成物。
【請求項6】
塗料用組成物の重量に基づいて、造膜助剤の含有量が0.1重量%から30.0重量%の範囲である請求項4または5に記載の塗料用組成物。
【請求項7】
塗料用組成物の重量に基づいて、造膜助剤の含有量が、0.5重量%から20.0重量%の範囲である請求項4または5に記載の塗料用組成物。

【公開番号】特開2011−21129(P2011−21129A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168339(P2009−168339)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】