連結車両の制御装置
【課題】連結車両の走行状態の変化に伴う走行安定性や操縦性の低下を抑えることができる連結車両の制御装置を提供する。
【解決手段】本発明の制御装置は、乗用車2の後端に設けられたヒッチ4を介してトレーラ3が連結され、かつトレーラ3の車輪7に駆動力を与える電動機9と制動力を与えるブレーキ10とがそれぞれ設けられている連結車両1に適用されるとともに、ヒッチ4に作用する上下方向荷重が連結車両1の走行状態に応じて変化するように電動機9又はブレーキ10を操作する。
【解決手段】本発明の制御装置は、乗用車2の後端に設けられたヒッチ4を介してトレーラ3が連結され、かつトレーラ3の車輪7に駆動力を与える電動機9と制動力を与えるブレーキ10とがそれぞれ設けられている連結車両1に適用されるとともに、ヒッチ4に作用する上下方向荷重が連結車両1の走行状態に応じて変化するように電動機9又はブレーキ10を操作する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牽引車両の後端に設けられた連結部を介して被牽引車両が連結された連結車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連結車両の制御装置として、被牽引車両を牽引する牽引車両の舵角に基づいて被牽引車両の左右の駆動力を個々に制御することにより被牽引車両の軌跡を制御するものがある(特許文献1)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2及び3が存在する。
【0003】
【特許文献1】特開平10−157652号公報
【特許文献2】特開2006−256455号公報
【特許文献3】特開平11−124051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に車両の加速や減速等の速度変化に伴って前後車輪に作用する荷重、即ち前輪及び後輪が路面から受ける荷重の前後バランスが変化する。連結車両の場合には、牽引車両が単独で自走する場合と比べて、牽引車両の後端に位置する連結部を介して被牽引車両が連結されているため、牽引時における前後の荷重バランスが自走時により後ろ寄りになっている。そのため、連結車両は牽引車両の自走時と比べて走行安定性や操縦性が低下する。
【0005】
特許文献1の制御装置は、連結車両の旋回時における被牽引車両の挙動を安定させることができるが、連結車両の速度変化に伴う荷重の前後バランスの変化が考慮されていない。このため、連結車両の走行状態によっては、牽引車両や被牽引車両の挙動が乱れて走行安定性や操縦性が損なわれるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、連結車両の走行状態の変化に伴う走行安定性や操縦性の低下を抑えることができる連結車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の制御装置は、自走可能な牽引車両の後端に設けられた連結部を介して被牽引車両が連結され、前記連結部に作用する上下方向荷重に影響を与え得る制御対象が前記被牽引車両に設けられた連結車両に適用され、前記上下方向荷重が前記連結車両の走行状態に応じて変化するように、前記制御対象を操作する荷重制御手段を備えることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0008】
この制御装置によれば、被牽引車両に設けられた制御対象を連結車両の走行状態に応じて操作することで、連結部に作用する上下方向荷重が変化し、これにより自走可能な牽引車両の前輪及び後輪の荷重配分を適正化することができる。その結果、牽引車両や被牽引車両の挙動の乱れを防止でき、連結車両の走行状態の変化に伴う走行安定性や操縦性の低下を抑えることができる。
【0009】
なお、本発明の牽引車両は自走可能なものであればその構成に制限はなく、例えば、被牽引車両を連結できる連結部が後端部に設けられた乗用車や連結車両である連結トラックのトラクタであってもよい。また、被牽引車両としては、乗用車に連結されることが多いキャンピング用キャビンや、モーターボートキャリア、また連結トラックのトレーラであってもよい。
【0010】
被牽引車両に設けられた制御対象には特段の制限はない。つまり、連結部に作用する上下方向荷重に影響を与えることができるものであれば制御対象になり得る。例えば、本発明の一態様において、前記被牽引車両は、前記連結部よりも後方に位置する車輪と、前記制御対象として設けられて、前記車輪に駆動力及び制動力の少なくとも一方を与えることが可能な車輪駆動手段と、を有しており、前記荷重制御手段は、前記上下方向荷重が前記連結車両の走行状態に応じて変化するように、前記車輪駆動手段を操作して前記車輪に駆動力及び制動力の少なくとも一方を与えてもよい(請求項2)。この態様によれば、連結部よりも後方に位置する被牽引車両の車輪に駆動力を与えることにより連結部に上向きの力を、逆にその車輪に制動力を与えることにより連結部に下向きの力をそれぞれ与えることができる。上向き又は下向きの力の大きさは駆動力又は制動力の大きさを調整することにより調整可能である。従って、連結車両の走行状態に応じて、被牽引車両の車輪に駆動力又は制動力を適宜与えることにより牽引車両の後輪及び前輪の荷重バランスを変化させて連結車両の走行安定性等を確保することができる。
【0011】
また、他の一態様において、前記被牽引車両は、前記連結部よりも後方に位置する車輪と、前記制御対象として設けられて、前記車輪の位置を前後方向に移動可能な状態で前記車輪を支持する可動支持手段と、を有しており、前記荷重制御手段は、前記上下方向荷重が前記連結車両の走行状態に応じて変化するように、前記可動支持手段を操作して前記車輪の位置を変化させてもよい(請求項3)。この態様によれば、連結部よりも後方に位置する被牽引車両の車輪の前後位置を変化させることにより、連結部に作用する上下方向荷重の大きさを変えることができる。例えば、連結部に作用する荷重が0になる車輪の位置を基準位置とした場合、その基準位置よりも車輪を前方に位置させることにより連結部に上向きの力を、逆にその基準位置よりも車輪を後方に位置させることにより連結部に下向きの力を与えることができる。上向き又は下向きの力の大きさは基準位置から車輪までの距離を調整することにより調整可能である。従って、連結車両の走行状態に応じて、被牽引車両の車輪の前後位置を適宜変化させることにより牽引車両の後輪及び前輪の荷重配分を変化させて連結車両の走行安定性等を確保することができる。また、牽引車両の荷重配分を変化させるために被牽引車両の車輪の駆動又は制動を伴わないので、牽引車両の加速や減速と被牽引車両の加速や減速とが不一致になるおそれがない。そのため、連結車両の走行安定性や操縦性を一層向上できる。
【0012】
この態様においては、前記荷重制御手段は、前記連結車両が定常状態の際に前記上下方向荷重が所定値となる前記車輪の位置を基準位置として設定してもよい(請求項4)。被牽引車両の種類、積荷の種類又は積荷の位置が変わる場合には被牽引車両全体の重心位置が変わる。このため、被牽引車両の車輪の位置が固定されていると連結部に作用する上下方向荷重を一定に保持することができない。この態様によれば、車輪の基準位置として、連結車両が定常状態の際に上下方向荷重が所定値となる位置に設定されるため、被牽引車両に積載する積荷の種類や位置が変わった場合でも上下方向荷重を所定値に保持させておくことができる。これにより、被牽引車両の種類、積荷の種類や積荷の位置に左右されない制御が可能になる。なお、定常状態には連結車両が静止している状態及び一定速度で走行している状態のいずれの状態も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、被牽引車両に設けられた制御対象を連結車両の走行状態に応じて操作することで、連結部に作用する上下方向荷重が変化し、これにより自走可能な牽引車両の前輪及び後輪の荷重配分を適正化できる。その結果、牽引車両や被牽引車両の挙動の乱れを防止でき、連結車両の走行状態の変化に伴う走行安定性や操縦性の低下を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の形態)
図1は本発明の一形態に係る制御装置が適用された連結車両を模式的に示している。連結車両1は、自走可能な牽引車両としての乗用車2と、この乗用車2に牽引される被牽引車両としてのトレーラ3とを備える。乗用車2とトレーラ3とは乗用車2の後端に設けられた連結部としてのヒッチ4を介して連結されている。乗用車2は操舵される前輪5と、駆動輪である後輪6とを有している。乗用車2には、走行用駆動源として不図示の内燃機関が搭載され、その内燃機関の動力が後輪6に伝達されることにより自走可能に構成されている。即ち、乗用車2はトレーラ3を牽引せずに単独で走行可能である。
【0015】
トレーラ3は、ヒッチ4よりも後方に位置する車輪7と、積荷Lを載置するための荷台8とを有するとともに、ヒッチ4と車輪7とにより積荷Lの重量を支えるセミトレーラ型のトレーラとして構成されている。また、トレーラ3には車輪7に対して駆動力を与えることができる電動機9と、車輪7に対して駆動力と逆向きの制動力を与えるブレーキ10とを備えている。
【0016】
図2〜図4はヒッチ4に作用する上下方向荷重の変化に伴う乗用車2の前輪5及び後輪6のそれぞれに作用する荷重の変化を説明する説明図である。図2はヒッチ4に作用する上下方向荷重の標準状態を、図3は図2の標準状態に比べて同方向かつ大きさが小さい上下方向荷重が作用した状態を、図4は図2の標準状態に比べて同方向かつ大きさが大きい上下方向荷重が作用した状態をそれぞれ示している。これらの図における矢印記号はその長さが荷重の大きさを、方向が荷重の方向をそれぞれ表現している。
【0017】
これらの図に示すように、荷台8に載せられた積荷Lの重量Wはヒッチ4と車輪7とで負担される。乗用車2の後輪6はヒッチ4に作用する上下方向荷重Fcの大半を負担するため、荷重Fcの増減に伴って後輪6に作用する荷重Frが増減する。その結果、後輪6の荷重Frの変化により、乗用車2が負担する荷重の配分を変更できる。即ち、図2の標準状態では乗用車2の後輪6に作用する荷重Frが前輪5に作用する荷重Ffよりも大きく、乗用車2が負担する荷重の配分が後輪6に偏っている。この標準状態から図3に示すように、上下方向荷重Fcの大きさを減少させると、後輪6に作用する荷重Frが減少するため、後輪6への荷重の偏りを減らすことができる。図3の場合は、乗用車2が負担する荷重の前後配分が標準状態に対して逆転し、荷重配分が乗用車2の自走時(トレーラ3を牽引していない状態)に近い状態になっている。図3とは反対に、標準状態から図4に示すように上下方向荷重Fcの大きさを増加させると、後輪6に作用する荷重Frが増加して、後輪6への荷重の偏りを増加させることができる。
【0018】
このように、ヒッチ4に作用する荷重Fcを適宜変化させることにより、乗用車2の前輪5及び後輪6に対する荷重配分を適正化できる。連結車両1はトレーラ3に設けられた電動機9及びブレーキ10により車輪7に対して駆動力又は制動力を与えることにより、上下方向荷重Fcを図2〜図4に示したように変化させることができる。図5及び図6はトレーラ3の車輪7に対する駆動力又は制動力を与えた場合のヒッチ4の荷重状態の変化を説明する説明図であり、図5は車輪7に駆動力を与えた場合を、図6は車輪7に制動力を与えた場合をそれぞれ示している。
【0019】
図5に示すように、トレーラ3が前進方向Dに向かって走行している場合に電動機9の動力を利用して車輪7に前転方向(図5の反時計方向)の駆動力T1を与えると、トレーラ3にはその駆動力T1とは逆方向の反力M1が作用する。その結果、ヒッチ4には上向きの荷重fuが作用する。そのため、連結車両1の走行中に電動機9を作動させて駆動力T1を与えることにより、ヒッチ4に作用する上下方向荷重は荷重fuに相当する分だけ減少する。換言すれば、駆動力T1を大きくするほど、ヒッチ4に作用する上下方向荷重を小さくすることができる。一方、図6に示すように、トレーラ3が前進方向Dに向かって走行している場合にブレーキ10を作動して車輪7に後転方向(図6の時計方向)の制動力T2を与えると、トレーラ3にはその制動力T2とは逆方向の反力M2が作用する。その結果、ヒッチ4には下向きの荷重fdが作用する。そのため、連結車両1の走行中にブレーキ10を作動させて制動力T2を与えることにより、ヒッチ4に作用する上下方向荷重は荷重fdに相当する分だけ増加する。換言すれば、制動力T2を大きくするほど、ヒッチ4に作用する上下方向荷重を大きくすることができる。このように、本形態では駆動力又は制動力を車輪7に与えることによりヒッチ4に作用する上下方向荷重に対して影響を与えることができる。即ち、駆動力及び制動力を与えることができる電動機9及びブレーキ10の組み合わせは本発明に係る車輪駆動手段に相当し、本発明に係る制御対象として機能する。
【0020】
図1に示すように、電動機9及びブレーキ10の操作は連結車両1に対して種々の制御を実行する制御装置20にて行われる。制御装置20は不図示のマイクロプロセッサ及びその動作に必要なROM、RAM等の周辺装置を備えたコンピュータとして構成されている。制御装置20はトレーラ3の電動機9及びブレーキ10の制御の他、乗用車2の各部に対する制御、例えば内燃機関の運転制御、ビークルスタビリティコントロール(VSC)等のブレーキ制御、ビークルダイナミクスインテグレーテッドマネージメント(VDIM)に代表される制・駆動力制御を実行することができる。ここでは、本発明に関連性の高い制御を説明し、他の制御については説明を省略する。
【0021】
制御装置20には、ヒッチ4に作用する上下方向荷重に応じた信号を出力する荷重センサ21と、連結車両1の走行速度(車速)に応じた信号を出力する車速センサ22と、不図示のアクセルペダルの操作量に応じた信号を出力するアクセル開度センサ23と、不図示のステアリングホイールの操作量に応じた信号を出力する舵角センサ24とがそれぞれ電気的に接続されており、各センサ22〜24からの信号が入力される。
【0022】
図7は車両走行制御の制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンのプログラムは制御装置20のROMに保持されており、適時に読み出されて所定周期で繰り返し実行される。図7に示すように、まず、制御装置20はステップS1においてトレーラ3を牽引中であるか否かを判定する。この判定は荷重センサ21の出力信号を参照してヒッチ4に生じる上下方向荷重の有無に基づいて行われる。なお、この判定のためにトレーラ3の連結を検知する検出手段を設けてもよい。
【0023】
トレーラ3の牽引中の場合はステップS2に進み、そうでない場合は以後の処理をスキップして今回のルーチンを終了する。ステップS2では、ヒッチ4に作用する上下方向荷重を荷重センサ21の出力信号に基づいて取得する。次に、ステップS3では、連結車両1の走行状態を取得する。この走行状態としては、電動機9及びブレーキ10の操作に反映させるパラメータ、例えば連結車両1の車速、アクセルペダルの操作量、乗用車2の舵角等が各センサ22〜24からの信号に基づいて取得される。
【0024】
次に、ステップS4では、今回のルーチンで目標とすべきヒッチ4に作用する上下方向荷重(目標荷重)を演算する。この演算は、ステップS3で取得した走行状態に基づいて行われる。例えば、連結車両1が定常状態から加速状態へ移行する走行状態の場合は、乗用車2の駆動輪、即ち後輪6への荷重配分が増加するように定常状態の上下方向荷重よりも大きな値の目標荷重が算出される。また、連結車両1が定常状態から減速状態へ移行する走行状態の場合は、前輪5への荷重配分が増加するように定常状態の上下方向荷重よりも小さな値の目標荷重が算出される。更に、連結車両1が直進状態から旋回状態へ移行する走行状態の場合は、前輪5への荷重配分が増加するように定常状態の上下方向荷重よりも小さな値の目標荷重が算出される。更にまた、連結車両1がオーバーステア状態、スピン状態に陥るような走行状態の場合は、これらを防止するために後輪6への荷重配分が増加するように定常状態の上下方向荷重よりも大きな値の目標荷重が算出される。
【0025】
次に、ステップS5では、ステップS4で演算した目標荷重が実現できるように電動機9又はブレーキ10の少なくとも一方を操作してヒッチ4に作用する上下方向荷重を変化させる。その後、今回のルーチンを終了する。目標荷重と電動機9及びブレーキ10の操作量との対応付けは、例えば実験やシミュレーション等による調査結果に基づいて予め作成されて制御装置20のROMに記憶されたマップにて行うことができる。このようにした場合、制御装置20は、演算した目標荷重が実現できる電動機9及びブレーキ10の操作量をROMに記憶したマップを検索することにより特定し、その操作量が得られるように電動機9及びブレーキ10を操作する。なお、このような方法の代りに、目標荷重をROMに記憶した所定の数式に代入して制御ルーチンの実行の度に電動機9及びブレーキ10の操作量を演算することもできる。
【0026】
以上の形態によれば、トレーラ3に設けられた電動機9及びブレーキ10が連結車両1の走行状態に応じて操作されることにより乗用車2の前輪5及び後輪6の荷重配分が適正化される。その結果、乗用車2やトレーラ3の挙動の乱れを防止でき、連結車両1の走行状態の変化に伴う走行安定性や操縦性の低下を抑えることができる。
【0027】
(第2の形態)
次に、本発明の第2の形態を図8〜図13を参照しながら説明する。なお、第1の形態と共通する構成については、これらの図に同一符号を付して説明を省略する。図8は第2の形態に係る制御装置が適用された連結車両を模式的に示している。この図に示すように、第2の形態に係るトレーラ3には、その車輪7を前後方向に移動できる状態で支持する可動支持手段としての支持機構26が設けられている。支持機構26は車輪7を回転自在に支持する台車部27と、前後方向に延びるように荷台8に設けられ、かつ台車部27を前後方向に案内する案内部28とを有している。台車部27には、案内部28に案内されながら台車部27を前後移動させるためのアクチュエータ27aが設けられている。このアクチュエータ27aは、例えば油圧を利用した油圧アクチュエータとして構成される。アクチュエータ27aには制御装置20が電気的に接続されている。制御装置20は、支持機構26に対する操作として台車部27が前後移動するようにアクチュエータ27aに指令を送ることにより、トレーラ3の車輪7の前後位置を変化させることができる。
【0028】
図9及び図10はトレーラ3の車輪7の位置とヒッチ4に作用する上下方向荷重との関係を説明する説明図であり、図9は上下方向荷重が大きい場合、図10は上下方向荷重が小さい場合をそれぞれ示している。これらの図からも明らかなように、車輪7の位置が積荷Lの重心Gの位置よりも後方に離れるほどヒッチ4に作用する上下方向荷重Fcは大きくなる。即ち、図10に示すように、トレーラ3の車輪7の位置が破線で示した図9の位置から重心Gの位置へ近づくに従って荷重Fcは徐々に減少する。なお、積荷Lを含めたトレーラ3の全体の重心G′の位置に車輪7を移動させることにより、ヒッチ4に作用する上下方向荷重Fcを0にすることも可能である。この形態によれば、積荷Lの位置が変化しても、その変化に合わせて車輪7の位置を変更することにより、連結車両1の定常状態における上下方向荷重Fcを所定値に保持することが可能である。また、上下方向荷重Fcが所定値に保持される車輪7の位置を基準位置P(図9参照)とした場合、その基準位置Pよりも車輪7を後方に位置させることにより、上下方向荷重Fcを所定値よりも増加させることができ、かつ基準位置Pよりも車輪7を前方に位置させることにより、上下方向荷重Fcを所定値よりも減少させることができる。
【0029】
図11及び図12は、車輪7の位置とヒッチ4に作用する上下方向荷重Fcの向きとの対応関係を説明する説明図であり、図11は上下方向荷重Fcが下向きになる車輪7の位置を示し、図12は上下方向荷重Fcが上向きになる車輪7の位置を示している。これらの図から明らかなように、ヒッチ4に下向きの荷重Fcを作用させたいときには、トレーラ3の全体の重心G′の位置よりも車輪7を後方に位置させればよく、逆にヒッチ4に上向きの荷重Fcを作用させたいときには、重心G′の位置よりも車輪7を前方に位置させればよい。
【0030】
このように、本形態では車輪7の前後方向の位置を支持機構26にて変更することにより、ヒッチ4に作用する上下方向荷重に対して影響を与えることができる。即ち、車輪7の位置を変更できる支持機構26は本発明に係る制御対象として機能する。
【0031】
図13は第2の形態に係る車両走行制御の制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンのプログラムは制御装置20のROMに保持されており、適時に読み出されて所定周期で繰り返し実行される。なお、図7の制御ルーチンと共通の処理には同一の符号を付して説明を省略する。制御装置20はステップS21において、トレーラ3の車輪7の基準位置が設定済か否かを判定する。上述したように基準位置はヒッチ4に作用する上下方向荷重が所定値となる車輪7の位置のことである。所定値は連結車両1の走行に支障を来たさない範囲内で適宜設定される。車輪7の基準位置が設定済の場合はステップS3に進み、そうでない場合はステップS22に進んで基準位置を設定する。ここでは、ステップS2で取得した上下方向荷重の測定値と所定値との差が減少する方向に制御装置20が支持機構26を操作して車輪7を移動させ、その移動により測定値と所定値との差が無くなる位置又は許容範囲内に収まる位置を基準位置として設定している。
【0032】
以降の処理は第1の形態と同様である。即ち、ステップS3では、連結車両1の走行状態を取得し、続くステップS4では目標荷重を演算し、次のステップS23では、目標荷重が実現できる車輪7の移動量を演算し、その移動量が得られるように支持機構26を操作する。そして、今回のルーチンを終了する。
【0033】
この形態によれば、第1の形態と同等の効果を発揮できることに加え、車輪7の基準位置を設定するので、積荷L1の種類や位置が変わった場合、又はトレーラ3の種類が変わった場合でもヒッチ4に作用する上下方向荷重を所定値に保持させておくことができる。また、第2の形態は乗用車2の荷重配分を変化させるためにトレーラ3の車輪7の駆動や制動を伴わないため、乗用車2の加減速とトレーラ3の加減速とが不一致になるおそれがない。これにより、連結車両1の走行安定性や操縦性が一層向上する。
【0034】
以上の各形態において、制御装置20は、図7の制御ルーチン又は図13の制御ルーチンを実行することにより、本発明に係る荷重制御手段として機能する。但し、本発明は以上の形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の形態にて実施できる。例えば、第1の形態と第2の形態とを組み合わせて実施することもできる。即ち、トレーラ3の車輪7への駆動力又は制動力の付与を行うとともに、車輪7の前後方向の位置を変更することもできる。この場合には、制御対象として機能する電動機9、ブレーキ10及び支持機構26のそれぞれを状況に応じて使い分けることが可能になるので制御の対応幅を拡大できる利点がある。
【0035】
以上の各形態の制御対象は例示にすぎない。従って、連結部に作用する上下方向荷重に影響を与えるものが被牽引車両に設けられている限りにおいて、本発明に係る制御対象が特定の形態に限定されることはない。例えば、前後方向に移動可能な錘を備えたバランス機構を被牽引車両に設け、その錘の前後方向の位置を変更して上下方向荷重を変化させることもできる。この場合、バランス機構が本発明に係る制御対象として機能する。
【0036】
以上の各形態における走行制御を、乗用車2に対して制御装置20が実行するVSC等のブレーキ制御、VDIMに代表される制・駆動力制御に協調させることもできる。これにより一層高い走行安定性と操縦性が期待できる。
【0037】
本発明の牽引車両は自走可能なものであればその構成に制限はなく、例えば、被牽引車両を連結できる連結部が後端部に設けられた乗用車や連結車両である連結トラックのトラクタであってもよい。また、被牽引車両としては、乗用車に連結されることが多いキャンピング用キャビンや、モーターボートキャリア、また連結トラックのトレーラであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一形態に係る制御装置が適用された連結車両を模式的に示した図。
【図2】ヒッチに作用する上下方向荷重の変化に伴う乗用車の前輪及び後輪のそれぞれに作用する荷重の変化を説明する説明図であって、上下方向荷重の標準状態を示した図。
【図3】ヒッチに作用する上下方向荷重の変化に伴う乗用車の前輪及び後輪のそれぞれに作用する荷重の変化を説明する説明図であって、標準状態に比べて同方向かつ大きさが小さい上下方向荷重が作用した状態を示した図。
【図4】ヒッチに作用する上下方向荷重の変化に伴う乗用車の前輪及び後輪のそれぞれに作用する荷重の変化を説明する説明図であって、標準状態に比べて同方向かつ大きさが大きい上下方向荷重が作用した状態を示した図。
【図5】トレーラの車輪に対する駆動力又は制動力を与えた場合のヒッチの荷重状態の変化を説明する説明図であって、車輪に駆動力を与えた場合を示した図。
【図6】トレーラの車輪に対する駆動力又は制動力を与えた場合のヒッチの荷重状態の変化を説明する説明図であって、車輪に制動力を与えた場合を示した図。
【図7】車両走行制御の制御ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図8】第2の形態に係る制御装置が適用された連結車両を模式的に示した図
【図9】トレーラの車輪の位置とヒッチに作用する上下方向荷重との関係を説明する説明図であって、上下方向荷重が大きい場合を示した図。
【図10】トレーラの車輪の位置とヒッチに作用する上下方向荷重との関係を説明する説明図であって、上下方向荷重が小さい場合を示した図。
【図11】車輪の位置とヒッチに作用する上下方向荷重の向きとの関係を説明する説明図であって、上下方向荷重が下向きになる車輪の位置を示した図。
【図12】車輪の位置とヒッチに作用する上下方向荷重の向きとの関係を説明する説明図であって、上下方向荷重が上向きになる車輪の位置を示した図。
【図13】第2の形態に係る車両走行制御の制御ルーチンの一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0039】
1 連結車両
2 乗用車(牽引車両)
3 トレーラ(被牽引車両)
4 ヒッチ(連結部)
7 車輪
9 電動機(車輪駆動手段、制御対象)
10 ブレーキ(車輪駆動手段、制御対象)
20 制御装置(荷重制御手段)
26 支持機構(可動支持手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、牽引車両の後端に設けられた連結部を介して被牽引車両が連結された連結車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連結車両の制御装置として、被牽引車両を牽引する牽引車両の舵角に基づいて被牽引車両の左右の駆動力を個々に制御することにより被牽引車両の軌跡を制御するものがある(特許文献1)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2及び3が存在する。
【0003】
【特許文献1】特開平10−157652号公報
【特許文献2】特開2006−256455号公報
【特許文献3】特開平11−124051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に車両の加速や減速等の速度変化に伴って前後車輪に作用する荷重、即ち前輪及び後輪が路面から受ける荷重の前後バランスが変化する。連結車両の場合には、牽引車両が単独で自走する場合と比べて、牽引車両の後端に位置する連結部を介して被牽引車両が連結されているため、牽引時における前後の荷重バランスが自走時により後ろ寄りになっている。そのため、連結車両は牽引車両の自走時と比べて走行安定性や操縦性が低下する。
【0005】
特許文献1の制御装置は、連結車両の旋回時における被牽引車両の挙動を安定させることができるが、連結車両の速度変化に伴う荷重の前後バランスの変化が考慮されていない。このため、連結車両の走行状態によっては、牽引車両や被牽引車両の挙動が乱れて走行安定性や操縦性が損なわれるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、連結車両の走行状態の変化に伴う走行安定性や操縦性の低下を抑えることができる連結車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の制御装置は、自走可能な牽引車両の後端に設けられた連結部を介して被牽引車両が連結され、前記連結部に作用する上下方向荷重に影響を与え得る制御対象が前記被牽引車両に設けられた連結車両に適用され、前記上下方向荷重が前記連結車両の走行状態に応じて変化するように、前記制御対象を操作する荷重制御手段を備えることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0008】
この制御装置によれば、被牽引車両に設けられた制御対象を連結車両の走行状態に応じて操作することで、連結部に作用する上下方向荷重が変化し、これにより自走可能な牽引車両の前輪及び後輪の荷重配分を適正化することができる。その結果、牽引車両や被牽引車両の挙動の乱れを防止でき、連結車両の走行状態の変化に伴う走行安定性や操縦性の低下を抑えることができる。
【0009】
なお、本発明の牽引車両は自走可能なものであればその構成に制限はなく、例えば、被牽引車両を連結できる連結部が後端部に設けられた乗用車や連結車両である連結トラックのトラクタであってもよい。また、被牽引車両としては、乗用車に連結されることが多いキャンピング用キャビンや、モーターボートキャリア、また連結トラックのトレーラであってもよい。
【0010】
被牽引車両に設けられた制御対象には特段の制限はない。つまり、連結部に作用する上下方向荷重に影響を与えることができるものであれば制御対象になり得る。例えば、本発明の一態様において、前記被牽引車両は、前記連結部よりも後方に位置する車輪と、前記制御対象として設けられて、前記車輪に駆動力及び制動力の少なくとも一方を与えることが可能な車輪駆動手段と、を有しており、前記荷重制御手段は、前記上下方向荷重が前記連結車両の走行状態に応じて変化するように、前記車輪駆動手段を操作して前記車輪に駆動力及び制動力の少なくとも一方を与えてもよい(請求項2)。この態様によれば、連結部よりも後方に位置する被牽引車両の車輪に駆動力を与えることにより連結部に上向きの力を、逆にその車輪に制動力を与えることにより連結部に下向きの力をそれぞれ与えることができる。上向き又は下向きの力の大きさは駆動力又は制動力の大きさを調整することにより調整可能である。従って、連結車両の走行状態に応じて、被牽引車両の車輪に駆動力又は制動力を適宜与えることにより牽引車両の後輪及び前輪の荷重バランスを変化させて連結車両の走行安定性等を確保することができる。
【0011】
また、他の一態様において、前記被牽引車両は、前記連結部よりも後方に位置する車輪と、前記制御対象として設けられて、前記車輪の位置を前後方向に移動可能な状態で前記車輪を支持する可動支持手段と、を有しており、前記荷重制御手段は、前記上下方向荷重が前記連結車両の走行状態に応じて変化するように、前記可動支持手段を操作して前記車輪の位置を変化させてもよい(請求項3)。この態様によれば、連結部よりも後方に位置する被牽引車両の車輪の前後位置を変化させることにより、連結部に作用する上下方向荷重の大きさを変えることができる。例えば、連結部に作用する荷重が0になる車輪の位置を基準位置とした場合、その基準位置よりも車輪を前方に位置させることにより連結部に上向きの力を、逆にその基準位置よりも車輪を後方に位置させることにより連結部に下向きの力を与えることができる。上向き又は下向きの力の大きさは基準位置から車輪までの距離を調整することにより調整可能である。従って、連結車両の走行状態に応じて、被牽引車両の車輪の前後位置を適宜変化させることにより牽引車両の後輪及び前輪の荷重配分を変化させて連結車両の走行安定性等を確保することができる。また、牽引車両の荷重配分を変化させるために被牽引車両の車輪の駆動又は制動を伴わないので、牽引車両の加速や減速と被牽引車両の加速や減速とが不一致になるおそれがない。そのため、連結車両の走行安定性や操縦性を一層向上できる。
【0012】
この態様においては、前記荷重制御手段は、前記連結車両が定常状態の際に前記上下方向荷重が所定値となる前記車輪の位置を基準位置として設定してもよい(請求項4)。被牽引車両の種類、積荷の種類又は積荷の位置が変わる場合には被牽引車両全体の重心位置が変わる。このため、被牽引車両の車輪の位置が固定されていると連結部に作用する上下方向荷重を一定に保持することができない。この態様によれば、車輪の基準位置として、連結車両が定常状態の際に上下方向荷重が所定値となる位置に設定されるため、被牽引車両に積載する積荷の種類や位置が変わった場合でも上下方向荷重を所定値に保持させておくことができる。これにより、被牽引車両の種類、積荷の種類や積荷の位置に左右されない制御が可能になる。なお、定常状態には連結車両が静止している状態及び一定速度で走行している状態のいずれの状態も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、被牽引車両に設けられた制御対象を連結車両の走行状態に応じて操作することで、連結部に作用する上下方向荷重が変化し、これにより自走可能な牽引車両の前輪及び後輪の荷重配分を適正化できる。その結果、牽引車両や被牽引車両の挙動の乱れを防止でき、連結車両の走行状態の変化に伴う走行安定性や操縦性の低下を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の形態)
図1は本発明の一形態に係る制御装置が適用された連結車両を模式的に示している。連結車両1は、自走可能な牽引車両としての乗用車2と、この乗用車2に牽引される被牽引車両としてのトレーラ3とを備える。乗用車2とトレーラ3とは乗用車2の後端に設けられた連結部としてのヒッチ4を介して連結されている。乗用車2は操舵される前輪5と、駆動輪である後輪6とを有している。乗用車2には、走行用駆動源として不図示の内燃機関が搭載され、その内燃機関の動力が後輪6に伝達されることにより自走可能に構成されている。即ち、乗用車2はトレーラ3を牽引せずに単独で走行可能である。
【0015】
トレーラ3は、ヒッチ4よりも後方に位置する車輪7と、積荷Lを載置するための荷台8とを有するとともに、ヒッチ4と車輪7とにより積荷Lの重量を支えるセミトレーラ型のトレーラとして構成されている。また、トレーラ3には車輪7に対して駆動力を与えることができる電動機9と、車輪7に対して駆動力と逆向きの制動力を与えるブレーキ10とを備えている。
【0016】
図2〜図4はヒッチ4に作用する上下方向荷重の変化に伴う乗用車2の前輪5及び後輪6のそれぞれに作用する荷重の変化を説明する説明図である。図2はヒッチ4に作用する上下方向荷重の標準状態を、図3は図2の標準状態に比べて同方向かつ大きさが小さい上下方向荷重が作用した状態を、図4は図2の標準状態に比べて同方向かつ大きさが大きい上下方向荷重が作用した状態をそれぞれ示している。これらの図における矢印記号はその長さが荷重の大きさを、方向が荷重の方向をそれぞれ表現している。
【0017】
これらの図に示すように、荷台8に載せられた積荷Lの重量Wはヒッチ4と車輪7とで負担される。乗用車2の後輪6はヒッチ4に作用する上下方向荷重Fcの大半を負担するため、荷重Fcの増減に伴って後輪6に作用する荷重Frが増減する。その結果、後輪6の荷重Frの変化により、乗用車2が負担する荷重の配分を変更できる。即ち、図2の標準状態では乗用車2の後輪6に作用する荷重Frが前輪5に作用する荷重Ffよりも大きく、乗用車2が負担する荷重の配分が後輪6に偏っている。この標準状態から図3に示すように、上下方向荷重Fcの大きさを減少させると、後輪6に作用する荷重Frが減少するため、後輪6への荷重の偏りを減らすことができる。図3の場合は、乗用車2が負担する荷重の前後配分が標準状態に対して逆転し、荷重配分が乗用車2の自走時(トレーラ3を牽引していない状態)に近い状態になっている。図3とは反対に、標準状態から図4に示すように上下方向荷重Fcの大きさを増加させると、後輪6に作用する荷重Frが増加して、後輪6への荷重の偏りを増加させることができる。
【0018】
このように、ヒッチ4に作用する荷重Fcを適宜変化させることにより、乗用車2の前輪5及び後輪6に対する荷重配分を適正化できる。連結車両1はトレーラ3に設けられた電動機9及びブレーキ10により車輪7に対して駆動力又は制動力を与えることにより、上下方向荷重Fcを図2〜図4に示したように変化させることができる。図5及び図6はトレーラ3の車輪7に対する駆動力又は制動力を与えた場合のヒッチ4の荷重状態の変化を説明する説明図であり、図5は車輪7に駆動力を与えた場合を、図6は車輪7に制動力を与えた場合をそれぞれ示している。
【0019】
図5に示すように、トレーラ3が前進方向Dに向かって走行している場合に電動機9の動力を利用して車輪7に前転方向(図5の反時計方向)の駆動力T1を与えると、トレーラ3にはその駆動力T1とは逆方向の反力M1が作用する。その結果、ヒッチ4には上向きの荷重fuが作用する。そのため、連結車両1の走行中に電動機9を作動させて駆動力T1を与えることにより、ヒッチ4に作用する上下方向荷重は荷重fuに相当する分だけ減少する。換言すれば、駆動力T1を大きくするほど、ヒッチ4に作用する上下方向荷重を小さくすることができる。一方、図6に示すように、トレーラ3が前進方向Dに向かって走行している場合にブレーキ10を作動して車輪7に後転方向(図6の時計方向)の制動力T2を与えると、トレーラ3にはその制動力T2とは逆方向の反力M2が作用する。その結果、ヒッチ4には下向きの荷重fdが作用する。そのため、連結車両1の走行中にブレーキ10を作動させて制動力T2を与えることにより、ヒッチ4に作用する上下方向荷重は荷重fdに相当する分だけ増加する。換言すれば、制動力T2を大きくするほど、ヒッチ4に作用する上下方向荷重を大きくすることができる。このように、本形態では駆動力又は制動力を車輪7に与えることによりヒッチ4に作用する上下方向荷重に対して影響を与えることができる。即ち、駆動力及び制動力を与えることができる電動機9及びブレーキ10の組み合わせは本発明に係る車輪駆動手段に相当し、本発明に係る制御対象として機能する。
【0020】
図1に示すように、電動機9及びブレーキ10の操作は連結車両1に対して種々の制御を実行する制御装置20にて行われる。制御装置20は不図示のマイクロプロセッサ及びその動作に必要なROM、RAM等の周辺装置を備えたコンピュータとして構成されている。制御装置20はトレーラ3の電動機9及びブレーキ10の制御の他、乗用車2の各部に対する制御、例えば内燃機関の運転制御、ビークルスタビリティコントロール(VSC)等のブレーキ制御、ビークルダイナミクスインテグレーテッドマネージメント(VDIM)に代表される制・駆動力制御を実行することができる。ここでは、本発明に関連性の高い制御を説明し、他の制御については説明を省略する。
【0021】
制御装置20には、ヒッチ4に作用する上下方向荷重に応じた信号を出力する荷重センサ21と、連結車両1の走行速度(車速)に応じた信号を出力する車速センサ22と、不図示のアクセルペダルの操作量に応じた信号を出力するアクセル開度センサ23と、不図示のステアリングホイールの操作量に応じた信号を出力する舵角センサ24とがそれぞれ電気的に接続されており、各センサ22〜24からの信号が入力される。
【0022】
図7は車両走行制御の制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンのプログラムは制御装置20のROMに保持されており、適時に読み出されて所定周期で繰り返し実行される。図7に示すように、まず、制御装置20はステップS1においてトレーラ3を牽引中であるか否かを判定する。この判定は荷重センサ21の出力信号を参照してヒッチ4に生じる上下方向荷重の有無に基づいて行われる。なお、この判定のためにトレーラ3の連結を検知する検出手段を設けてもよい。
【0023】
トレーラ3の牽引中の場合はステップS2に進み、そうでない場合は以後の処理をスキップして今回のルーチンを終了する。ステップS2では、ヒッチ4に作用する上下方向荷重を荷重センサ21の出力信号に基づいて取得する。次に、ステップS3では、連結車両1の走行状態を取得する。この走行状態としては、電動機9及びブレーキ10の操作に反映させるパラメータ、例えば連結車両1の車速、アクセルペダルの操作量、乗用車2の舵角等が各センサ22〜24からの信号に基づいて取得される。
【0024】
次に、ステップS4では、今回のルーチンで目標とすべきヒッチ4に作用する上下方向荷重(目標荷重)を演算する。この演算は、ステップS3で取得した走行状態に基づいて行われる。例えば、連結車両1が定常状態から加速状態へ移行する走行状態の場合は、乗用車2の駆動輪、即ち後輪6への荷重配分が増加するように定常状態の上下方向荷重よりも大きな値の目標荷重が算出される。また、連結車両1が定常状態から減速状態へ移行する走行状態の場合は、前輪5への荷重配分が増加するように定常状態の上下方向荷重よりも小さな値の目標荷重が算出される。更に、連結車両1が直進状態から旋回状態へ移行する走行状態の場合は、前輪5への荷重配分が増加するように定常状態の上下方向荷重よりも小さな値の目標荷重が算出される。更にまた、連結車両1がオーバーステア状態、スピン状態に陥るような走行状態の場合は、これらを防止するために後輪6への荷重配分が増加するように定常状態の上下方向荷重よりも大きな値の目標荷重が算出される。
【0025】
次に、ステップS5では、ステップS4で演算した目標荷重が実現できるように電動機9又はブレーキ10の少なくとも一方を操作してヒッチ4に作用する上下方向荷重を変化させる。その後、今回のルーチンを終了する。目標荷重と電動機9及びブレーキ10の操作量との対応付けは、例えば実験やシミュレーション等による調査結果に基づいて予め作成されて制御装置20のROMに記憶されたマップにて行うことができる。このようにした場合、制御装置20は、演算した目標荷重が実現できる電動機9及びブレーキ10の操作量をROMに記憶したマップを検索することにより特定し、その操作量が得られるように電動機9及びブレーキ10を操作する。なお、このような方法の代りに、目標荷重をROMに記憶した所定の数式に代入して制御ルーチンの実行の度に電動機9及びブレーキ10の操作量を演算することもできる。
【0026】
以上の形態によれば、トレーラ3に設けられた電動機9及びブレーキ10が連結車両1の走行状態に応じて操作されることにより乗用車2の前輪5及び後輪6の荷重配分が適正化される。その結果、乗用車2やトレーラ3の挙動の乱れを防止でき、連結車両1の走行状態の変化に伴う走行安定性や操縦性の低下を抑えることができる。
【0027】
(第2の形態)
次に、本発明の第2の形態を図8〜図13を参照しながら説明する。なお、第1の形態と共通する構成については、これらの図に同一符号を付して説明を省略する。図8は第2の形態に係る制御装置が適用された連結車両を模式的に示している。この図に示すように、第2の形態に係るトレーラ3には、その車輪7を前後方向に移動できる状態で支持する可動支持手段としての支持機構26が設けられている。支持機構26は車輪7を回転自在に支持する台車部27と、前後方向に延びるように荷台8に設けられ、かつ台車部27を前後方向に案内する案内部28とを有している。台車部27には、案内部28に案内されながら台車部27を前後移動させるためのアクチュエータ27aが設けられている。このアクチュエータ27aは、例えば油圧を利用した油圧アクチュエータとして構成される。アクチュエータ27aには制御装置20が電気的に接続されている。制御装置20は、支持機構26に対する操作として台車部27が前後移動するようにアクチュエータ27aに指令を送ることにより、トレーラ3の車輪7の前後位置を変化させることができる。
【0028】
図9及び図10はトレーラ3の車輪7の位置とヒッチ4に作用する上下方向荷重との関係を説明する説明図であり、図9は上下方向荷重が大きい場合、図10は上下方向荷重が小さい場合をそれぞれ示している。これらの図からも明らかなように、車輪7の位置が積荷Lの重心Gの位置よりも後方に離れるほどヒッチ4に作用する上下方向荷重Fcは大きくなる。即ち、図10に示すように、トレーラ3の車輪7の位置が破線で示した図9の位置から重心Gの位置へ近づくに従って荷重Fcは徐々に減少する。なお、積荷Lを含めたトレーラ3の全体の重心G′の位置に車輪7を移動させることにより、ヒッチ4に作用する上下方向荷重Fcを0にすることも可能である。この形態によれば、積荷Lの位置が変化しても、その変化に合わせて車輪7の位置を変更することにより、連結車両1の定常状態における上下方向荷重Fcを所定値に保持することが可能である。また、上下方向荷重Fcが所定値に保持される車輪7の位置を基準位置P(図9参照)とした場合、その基準位置Pよりも車輪7を後方に位置させることにより、上下方向荷重Fcを所定値よりも増加させることができ、かつ基準位置Pよりも車輪7を前方に位置させることにより、上下方向荷重Fcを所定値よりも減少させることができる。
【0029】
図11及び図12は、車輪7の位置とヒッチ4に作用する上下方向荷重Fcの向きとの対応関係を説明する説明図であり、図11は上下方向荷重Fcが下向きになる車輪7の位置を示し、図12は上下方向荷重Fcが上向きになる車輪7の位置を示している。これらの図から明らかなように、ヒッチ4に下向きの荷重Fcを作用させたいときには、トレーラ3の全体の重心G′の位置よりも車輪7を後方に位置させればよく、逆にヒッチ4に上向きの荷重Fcを作用させたいときには、重心G′の位置よりも車輪7を前方に位置させればよい。
【0030】
このように、本形態では車輪7の前後方向の位置を支持機構26にて変更することにより、ヒッチ4に作用する上下方向荷重に対して影響を与えることができる。即ち、車輪7の位置を変更できる支持機構26は本発明に係る制御対象として機能する。
【0031】
図13は第2の形態に係る車両走行制御の制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンのプログラムは制御装置20のROMに保持されており、適時に読み出されて所定周期で繰り返し実行される。なお、図7の制御ルーチンと共通の処理には同一の符号を付して説明を省略する。制御装置20はステップS21において、トレーラ3の車輪7の基準位置が設定済か否かを判定する。上述したように基準位置はヒッチ4に作用する上下方向荷重が所定値となる車輪7の位置のことである。所定値は連結車両1の走行に支障を来たさない範囲内で適宜設定される。車輪7の基準位置が設定済の場合はステップS3に進み、そうでない場合はステップS22に進んで基準位置を設定する。ここでは、ステップS2で取得した上下方向荷重の測定値と所定値との差が減少する方向に制御装置20が支持機構26を操作して車輪7を移動させ、その移動により測定値と所定値との差が無くなる位置又は許容範囲内に収まる位置を基準位置として設定している。
【0032】
以降の処理は第1の形態と同様である。即ち、ステップS3では、連結車両1の走行状態を取得し、続くステップS4では目標荷重を演算し、次のステップS23では、目標荷重が実現できる車輪7の移動量を演算し、その移動量が得られるように支持機構26を操作する。そして、今回のルーチンを終了する。
【0033】
この形態によれば、第1の形態と同等の効果を発揮できることに加え、車輪7の基準位置を設定するので、積荷L1の種類や位置が変わった場合、又はトレーラ3の種類が変わった場合でもヒッチ4に作用する上下方向荷重を所定値に保持させておくことができる。また、第2の形態は乗用車2の荷重配分を変化させるためにトレーラ3の車輪7の駆動や制動を伴わないため、乗用車2の加減速とトレーラ3の加減速とが不一致になるおそれがない。これにより、連結車両1の走行安定性や操縦性が一層向上する。
【0034】
以上の各形態において、制御装置20は、図7の制御ルーチン又は図13の制御ルーチンを実行することにより、本発明に係る荷重制御手段として機能する。但し、本発明は以上の形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の形態にて実施できる。例えば、第1の形態と第2の形態とを組み合わせて実施することもできる。即ち、トレーラ3の車輪7への駆動力又は制動力の付与を行うとともに、車輪7の前後方向の位置を変更することもできる。この場合には、制御対象として機能する電動機9、ブレーキ10及び支持機構26のそれぞれを状況に応じて使い分けることが可能になるので制御の対応幅を拡大できる利点がある。
【0035】
以上の各形態の制御対象は例示にすぎない。従って、連結部に作用する上下方向荷重に影響を与えるものが被牽引車両に設けられている限りにおいて、本発明に係る制御対象が特定の形態に限定されることはない。例えば、前後方向に移動可能な錘を備えたバランス機構を被牽引車両に設け、その錘の前後方向の位置を変更して上下方向荷重を変化させることもできる。この場合、バランス機構が本発明に係る制御対象として機能する。
【0036】
以上の各形態における走行制御を、乗用車2に対して制御装置20が実行するVSC等のブレーキ制御、VDIMに代表される制・駆動力制御に協調させることもできる。これにより一層高い走行安定性と操縦性が期待できる。
【0037】
本発明の牽引車両は自走可能なものであればその構成に制限はなく、例えば、被牽引車両を連結できる連結部が後端部に設けられた乗用車や連結車両である連結トラックのトラクタであってもよい。また、被牽引車両としては、乗用車に連結されることが多いキャンピング用キャビンや、モーターボートキャリア、また連結トラックのトレーラであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一形態に係る制御装置が適用された連結車両を模式的に示した図。
【図2】ヒッチに作用する上下方向荷重の変化に伴う乗用車の前輪及び後輪のそれぞれに作用する荷重の変化を説明する説明図であって、上下方向荷重の標準状態を示した図。
【図3】ヒッチに作用する上下方向荷重の変化に伴う乗用車の前輪及び後輪のそれぞれに作用する荷重の変化を説明する説明図であって、標準状態に比べて同方向かつ大きさが小さい上下方向荷重が作用した状態を示した図。
【図4】ヒッチに作用する上下方向荷重の変化に伴う乗用車の前輪及び後輪のそれぞれに作用する荷重の変化を説明する説明図であって、標準状態に比べて同方向かつ大きさが大きい上下方向荷重が作用した状態を示した図。
【図5】トレーラの車輪に対する駆動力又は制動力を与えた場合のヒッチの荷重状態の変化を説明する説明図であって、車輪に駆動力を与えた場合を示した図。
【図6】トレーラの車輪に対する駆動力又は制動力を与えた場合のヒッチの荷重状態の変化を説明する説明図であって、車輪に制動力を与えた場合を示した図。
【図7】車両走行制御の制御ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図8】第2の形態に係る制御装置が適用された連結車両を模式的に示した図
【図9】トレーラの車輪の位置とヒッチに作用する上下方向荷重との関係を説明する説明図であって、上下方向荷重が大きい場合を示した図。
【図10】トレーラの車輪の位置とヒッチに作用する上下方向荷重との関係を説明する説明図であって、上下方向荷重が小さい場合を示した図。
【図11】車輪の位置とヒッチに作用する上下方向荷重の向きとの関係を説明する説明図であって、上下方向荷重が下向きになる車輪の位置を示した図。
【図12】車輪の位置とヒッチに作用する上下方向荷重の向きとの関係を説明する説明図であって、上下方向荷重が上向きになる車輪の位置を示した図。
【図13】第2の形態に係る車両走行制御の制御ルーチンの一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0039】
1 連結車両
2 乗用車(牽引車両)
3 トレーラ(被牽引車両)
4 ヒッチ(連結部)
7 車輪
9 電動機(車輪駆動手段、制御対象)
10 ブレーキ(車輪駆動手段、制御対象)
20 制御装置(荷重制御手段)
26 支持機構(可動支持手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走可能な牽引車両の後端に設けられた連結部を介して被牽引車両が連結され、前記連結部に作用する上下方向荷重に影響を与え得る制御対象が前記被牽引車両に設けられた連結車両に適用され、
前記上下方向荷重が前記連結車両の走行状態に応じて変化するように、前記制御対象を操作する荷重制御手段を備えることを特徴とする連結車両の制御装置。
【請求項2】
前記被牽引車両は、前記連結部よりも後方に位置する車輪と、前記制御対象として設けられて、前記車輪に駆動力及び制動力の少なくとも一方を与えることが可能な車輪駆動手段と、を有しており、
前記荷重制御手段は、前記上下方向荷重が前記連結車両の走行状態に応じて変化するように、前記車輪駆動手段を操作して前記車輪に駆動力及び制動力の少なくとも一方を与える請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記被牽引車両は、前記連結部よりも後方に位置する車輪と、前記制御対象として設けられて、前記車輪の位置を前後方向に移動可能な状態で前記車輪を支持する可動支持手段と、を有しており、
前記荷重制御手段は、前記上下方向荷重が前記連結車両の走行状態に応じて変化するように、前記可動支持手段を操作して前記車輪の位置を変化させる請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記荷重制御手段は、前記連結車両が定常状態の際に前記上下方向荷重が所定値となる前記車輪の位置を基準位置として設定する請求項3に記載の制御装置。
【請求項1】
自走可能な牽引車両の後端に設けられた連結部を介して被牽引車両が連結され、前記連結部に作用する上下方向荷重に影響を与え得る制御対象が前記被牽引車両に設けられた連結車両に適用され、
前記上下方向荷重が前記連結車両の走行状態に応じて変化するように、前記制御対象を操作する荷重制御手段を備えることを特徴とする連結車両の制御装置。
【請求項2】
前記被牽引車両は、前記連結部よりも後方に位置する車輪と、前記制御対象として設けられて、前記車輪に駆動力及び制動力の少なくとも一方を与えることが可能な車輪駆動手段と、を有しており、
前記荷重制御手段は、前記上下方向荷重が前記連結車両の走行状態に応じて変化するように、前記車輪駆動手段を操作して前記車輪に駆動力及び制動力の少なくとも一方を与える請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記被牽引車両は、前記連結部よりも後方に位置する車輪と、前記制御対象として設けられて、前記車輪の位置を前後方向に移動可能な状態で前記車輪を支持する可動支持手段と、を有しており、
前記荷重制御手段は、前記上下方向荷重が前記連結車両の走行状態に応じて変化するように、前記可動支持手段を操作して前記車輪の位置を変化させる請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記荷重制御手段は、前記連結車両が定常状態の際に前記上下方向荷重が所定値となる前記車輪の位置を基準位置として設定する請求項3に記載の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−113672(P2009−113672A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289778(P2007−289778)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
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