連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置並びに制御方法
【課題】 圧延スタンド間の張力の変動とルーパ角度の変動との相互干渉を抑制し、且つ被圧延材の機械的特性等の変動により発生する、被圧延材の部位における張力変動に対して、被圧延材の張力及びルーパ角度の変動を抑制する。
【解決手段】 張力検出器12で検出した"前段スタンド1と後段スタンド2との間の被圧延材3の張力F"の検出値Tmと張力指令値Trefとの偏差Teと、ルーパ角度検出器11で検出したルーパ角度θの検出値θmとルーパ角度指令値θrefとの偏差θeとを用いて、前段スタンド1と後段スタンド2との間の被圧延材3の張力Fとルーパ角度θとを制御する際に、前段ミルモータ4の回転速度Vr1と後段ミルモータ5の回転速度Vr2との偏差Veを用いて、推定器16が被圧延材3の硬度(被圧延材3の伸び量K10)を推定し、その推定値ds1を用いて、ルーパ制御器14のゲインKf011を変更する。
【解決手段】 張力検出器12で検出した"前段スタンド1と後段スタンド2との間の被圧延材3の張力F"の検出値Tmと張力指令値Trefとの偏差Teと、ルーパ角度検出器11で検出したルーパ角度θの検出値θmとルーパ角度指令値θrefとの偏差θeとを用いて、前段スタンド1と後段スタンド2との間の被圧延材3の張力Fとルーパ角度θとを制御する際に、前段ミルモータ4の回転速度Vr1と後段ミルモータ5の回転速度Vr2との偏差Veを用いて、推定器16が被圧延材3の硬度(被圧延材3の伸び量K10)を推定し、その推定値ds1を用いて、ルーパ制御器14のゲインKf011を変更する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の製造プラントにおける、圧延スタンド間にルーパが設置された連続圧延機による圧延に際しての、被圧延材の張力及びルーパ角度を、金属板の機械的物性の変動にも対処して安定して制御する装置並びに方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば金属材料等の板材の一つである鋼板の熱間での連続圧延プロセスにおいて、被圧延材である鋼板を仕上げ圧延する連続圧延機は、複数の圧延スタンドを備えて構成される。また、圧延スタンド間の被圧延材のループ量Lを維持すると共に、被圧延材の張力Fを安定に保つために、ルーパと呼ばれる装置が、圧延スタンド間に配置されていることが多い。
【0003】
図9は、連続圧延機の構成の一例を示す図である。
図9中、1は前段スタンド、2は後段スタンド、3は被圧延材、4は前段ミルモータ、5は後段ミルモータ、6はルーパ、7はルーパモータをそれぞれ表す。なお、被圧延材3の張力Fは、被圧延材3の面内に働く力であるが、本願の以下の説明では、ルーパ6に被圧延材3から及ぼされる力Fを被圧延材3の張力Fとする。
【0004】
図9において、被圧延材3の先端は左から右に向かって移動し、前段スタンド1の上ロール1aと下ロール1bとの間に挟まれ、その後、後段スタンド2の上ロール2aと下ロール2bとの間に挟まれる。そして、前段スタンド1及び後段スタンド2に被圧延材3が挟まれるとルーパ6がルーパモータ7によって回転して上昇し、被圧延材3を押圧する。このルーパ6の制御においては、被圧延材3の仕上圧延後の板幅や板厚に直接影響する"前段スタンド1及び後段スタンド2間の張力F"を安定に制御すると共に、ある基準方向に対するルーパ6の回転角度であるルーパ角度θの変動を抑制することが、連続圧延操業の安定の観点から重要である。
【0005】
この前段スタンド1及び後段スタンド2間の張力Fとルーパ角度θとを安定に制御できない現象として、例えば、次のような現象がある。すなわち、通板中の被圧延材3の硬度や変形抵抗等の機械的特性が圧延中に部位によって変動し、後段スタンド2にかかっている荷重が急変して、被圧延材3の硬度が小さくなると、後段スタンド2の上ロール2aと下ロール2bとの幅が狭まり、被圧延材3が後段スタンド2を通過できなくなる。このために張力Fが変動し、またルーパ角度θも変動する。
【0006】
このような被圧延材3の硬度が急変すること等により生じる張力Fの変動により、被圧延材3の板厚や板幅が目標の設定値から外れてしまうことや、最悪の場合には通板中に被圧延材3が切れてしまう板破断が生じ、その結果、鋼板の生産性が悪化することがあった。
【0007】
図10は、連続圧延機のルーパ制御に用いられる従来の張力・ルーパ角度制御装置の第1の例を示すブロック図である。
図10において、張力・ルーパ角度制御装置は、ルーパ角度θを制御する際に、ルーパ角度検出器38により検出したルーパ角度の測定値θmと、ルーパ角度指令値θrefとの偏差(θref−θm)を減算器42で求めてPI制御器39に出力する。このPI制御器39の出力は、前段ミルモータ4の速度指令値Vref1の速度補正値となり、前段ミルモータ4の速度指令値Vref1と加算器43で加算される。これらPI制御器39の出力と前段ミルモータ4の速度指令値Vref1との加算値は、PI制御器である前段ミルモータ速度制御器37に出力される。張力・ルーパ角度制御装置は、このようにすることでルーパ角度θを制御する。
【0008】
また、張力Fを制御する際には、張力指令値Trefを電流換算ロジック41に入力して電流指令値Irefに変換し、その電流指令値Irefとルーパモータ電流値Idとの偏差(Iref−Id)を減算器44で求めてルーパモータ電流制御器40に出力することで、前段スタンド1及び後段スタンド2間の張力Fを制御する張力制御系を用いる。
【0009】
しかしながら、この従来の張力・ルーパ角度制御装置では、前述した張力制御系が張力指令値Trefを設定値とするオープンループ制御となっているため、張力制御性能が悪いという問題があった。また、張力Fとルーパ角度θとは物理的に相互に干渉する。すなわち、張力の変動はルーパ角度の変動を誘発し、ルーパ角度の変動は張力の変動を誘発する。そして、この従来のルーパ角度制御装置では、張力Fとルーパ角度θとの干渉の抑制が考慮されていないため、張力Fとルーパ角度θとを高精度に安定して制御することが難しいという問題があった。
【0010】
このような問題に対して、別の従来技術として図11に示すような張力・ルーパ角度制御装置がある。図11は、連続圧延機のルーパ制御に用いられる従来の張力・ルーパ角度制御装置の第2の例を示すブロック図である。
図11に示す張力・ルーパ角度制御装置では、ルーパ6に張力検出器90を設置し、張力検出器90で検出した張力値Tmと張力指令値Trefとの偏差を張力制御器55に入力し、張力制御器55で前段ミルモータ4の速度を設定して張力Fを制御すると共に、ルーパ角度検出器11により検出したルーパ角度測定値θmを用いてルーパ角度制御器56でルーパ角度θを制御する、2つのフィードバックループを用いる。
【0011】
図11に示す張力・ルーパ角度制御装置では、張力Fとルーパ角度θとの干渉を抑制するために、非干渉化コントローラ(以下ではクロスコントローラとも記す)を併用している。片方のクロスコントローラ57は、ルーパ角度θに影響を与える張力変動との干渉を抑制し、もう片方のクロスコントローラ58は、張力Fに影響を与えるルーパ角度変動との干渉を抑制する。しかしながら、図11に示す張力・ルーパ制御装置でも、張力Fとルーパ角度θとの干渉を十分に抑制することができないときがあった。
【0012】
又、特許文献1には、連続圧延機におけるスタンド間の張力及びルーパの制御方法に係る別の発明が開示されている。特許文献1に記載された制御方法では、張力測定値と張力指令値との偏差を張力制御器に入力する第1のフィードバックループを具備する張力制御系と、ルーパ角度測定値とルーパ角度指令値との偏差をルーパ角度制御器に入力する第2のフィードバックループを具備するルーパ角度制御系とを用いて、張力Fとルーパ角度θとを制御する。更に、第1のフィードバックループ及び第2のフィードバックループのそれぞれに加わる外乱を、それぞれ所定のモデルを用いた外乱補償器により推定し、張力制御系及びルーパ角度制御系のそれぞれにおいて、当該推定した値を用いて外乱を相殺するようにしている。
【0013】
この特許文献1に記載された制御方法では、第1及び第2のフィードバックループに加わる外乱をそれぞれ所定のモデルにより推定し、それぞれ第1及び第2のフィードバックループの信号を補償するが、その間に位相遅れが生じるため、張力Fの変動とルーパ角度θの変動とを十分に抑制することができないという問題があった。又、前述した被圧延材の硬度の変動による張力Fの変動に対応することができないという問題もあった。このため、被圧延材の板厚や板幅が目標の設定値から外れてしまうことや、板破断などにより生産性が悪くなることがあった。
【0014】
【特許文献1】特開平7−136707号公報
【非特許文献1】ILQ最適サーボ系設計法の一般化:藤井隆雄、下村卓、システム制御情報学会論文誌、1988年 Vol.1、No.6、pp.194〜203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のような、圧延スタンド間にルーパが設置された連続圧延機のスタンド間の張力及びルーパ角度を制御する従来の技術の問題点に鑑みて本発明は、圧延スタンド間の張力の変動とルーパ角度の変動との相互干渉を低いレベルに抑制し、且つ被圧延材の機械的特性等の変動により発生する、被圧延材の部位における張力変動に対して、被圧延材の張力とルーパ角度とが変動することを可及的に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の要旨とするところは以下の如くである。
本発明の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置は、ミルモータを備えた前段スタンド及び後段スタンドと、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間に配設された、ルーパモータを備えたルーパとを有する、金属板を被圧延材とする連続圧延機であり、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間での前記被圧延材の張力Fと前記ルーパのルーパ角度θとを、それぞれ目標値Tref、θrefに追従させる連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置であって、前記張力Fの測定値と目標値Trefとの偏差、及び前記ルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差を入力値として、前記前段ミルモータの回転速度の制御量及び前記ルーパの角速度の制御量を、調整可能なゲインKを用いて演算して出力するルーパ制御器と、前記前段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr1と、前記後段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr2との回転速度偏差(Vr2−Vr1)を算出して出力する減算器と、前記回転速度偏差(Vr2−Vr1)を入力値として、前記被圧延材の機械的特性に基づき前記被圧延材の伸び量K10を、前記連続圧延機の外乱オブザーバにより推定する推定器と、前記調整可能なゲインKを、前記推定器で推定された被圧延材の伸び量K10に基づいて設定するゲイン調整器とを具備し、前記ルーパ制御器は、前記被圧延材の機械的物性の変動に追従して調整される前記ゲインKに基づいて前記制御量を演算することを特徴とする。
また、本発明の他の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置は、ミルモータを備えた前段スタンド及び後段スタンドと、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間に配設された、ルーパモータを備えたルーパと、金属板を被圧延材とする連続圧延機とを備える連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置であって、前記前段スタンドが備えるミルモータの回転速度と、前記後段スタンドが備えるミルモータの回転速度との回転速度偏差を導出する第1の導出手段と、前記第1の導出手段により算出された回転速度偏差と、前記被圧延材の機械的特性に基づいて、前記被圧延材の伸び量を推定する推定手段と、前記前段ミルモータの回転速度の制御量及び前記ルーパの角速度の制御量を導出する第2の導出手段とを有し、前記第2の導出算出手段は、前記推定手段により推定された被圧延材の伸び量に応じて、前記制御量を調整することを特徴とする。
また、本発明の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御方法は、ミルモータを備えた前段スタンド及び後段スタンドと、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間に配設された、ルーパモータを備えたルーパとを有する、金属板を被圧延材とする連続圧延機の制御方法であり、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間での前記被圧延材の張力Fと前記ルーパのルーパ角度θとを、それぞれ目標値Tref、θrefに追従させる連続圧延機の張力及びルーパ角度制御方法であって、前記張力Fの測定値と目標値Trefとの偏差、及び前記ルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差を入力値として、前記前段ミルモータの回転速度の制御量及び前記ルーパの角速度の制御量を、調整可能なゲインKを用いて演算して出力するルーパ制御工程と、前記前段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr1と、前記後段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr2との回転速度偏差(Vr2−Vr1)を算出して出力する減算工程と、前記回転速度偏差(Vr2−Vr1)を入力値として、前記被圧延材の機械的特性に基づき前記被圧延材の伸び量K10を、前記連続圧延機の外乱オブザーバにより推定する推定工程と、前記調整可能なゲインKを、前記推定工程で推定された被圧延材の伸び量K10に基づいて設定するゲイン調整工程とを具備し、前記ルーパ制御工程は、前記被圧延材の機械的物性の変動に追従して調整される前記ゲインKに基づいて前記制御量を演算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被圧延材の機械的物性の場所による変動による伸び量を逐次推定し、当該伸び量に基づきルーパ制御器の調整可能なゲインを設定するようにした。したがって、被圧延材の高速・高精度な圧延に際して、スタンド間の張力の変動とルーパ角度の変動との相互干渉を従来よりも低いレベルに抑制し、且つ被圧延材の機械的特性等の変動により、被圧延材の張力及びルーパ角度が変動することを可及的に抑制することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
金属板の被圧延材として鋼板を例に取り上げて、本発明を実施するための形態として、鋼板の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置及び制御方法の一例を、図面及び数式を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施の形態の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
連続圧延機本体は、背景技術で説明した図9と同様に、前段スタンド1、後段スタンド2、前段ミルモータ4、後段ミルモータ5、ルーパ6、及びルーパモータ7を備えて構成されている。
【0019】
各図において、同一の機能を有する部分及び装置には同じ符号を付記して、図面間での各部の対応関係を明瞭にした。又、図1等において、前段ミルモータ速度制御器18は、比例・積分制御法によるPI制御器(伝達関数を(Kp1・s+Ki1)/sとする。ここでKp1、Ki1:定数)で構成され、ルーパ速度制御器9もPI制御器(伝達関数を(Kp2・s+Ki2)/sとする。ここでKp2、Ki2:定数)で構成される場合を例に挙げて説明する。なお、これらのミルモータ速度制御器18とルーパ速度制御器9は、PI制御器以外にPID制御器など、圧延機で通常よく用いられるタイプの公知の制御器であっても良い。
【0020】
図1において、被圧延材3に印加される張力Fに関して、操業者が予め設定した張力指令値Trefと、張力検出器12により検出した張力測定値Tmとの張力偏差(Te=Tref−Tm)を減算器(B)20で算出する。また、予め設定したルーパ角度指令値θrefと、ルーパ角度検出器11により検出したルーパ角度θmとのルーパ角度偏差(θe=θref−θm)を減算器(C)21で算出する。当該張力偏差Teとルーパ角度偏差θeは、ルーパ制御器14に入力される。ルーパ制御器14は、これらの張力偏差Teとルーパ角度偏差θeとを零にするように、以下で詳細に説明するような演算を行い、前段ミルモータ速度指令値Vrefと、ルーパ角速度指令値ωref1とを算出する。
【0021】
ルーパ制御器14により算出した前段ミルモータ速度指令値Vrefと、前段ミルモータ速度検出器8で検出した前段ミルモータ4の回転速度Vr1との前段ミルモータ速度偏差(Vref1−Vr1)を減算器(E)23で演算し、前段ミルモータ速度制御器18に出力する。前述したように前段ミルモータ速度制御器18は、PI制御の演算を行い、その演算の結果に基づく制御出力に従って前段ミルモータ4を駆動させる。以上の制御ループによって前段スタンド1と後段スタンド2との間(スタンド間)の張力Fを一定に保つように制御する。
【0022】
また、ルーパ制御器14により算出したルーパ角速度指令値ωref1と、ルーパ速度検出器10により検出したルーパ角速度ωmとの角速度偏差(ωref1−ωm)を減算器(A)19で算出してルーパ速度制御器9に出力する。前述したようにルーパ速度制御器9は、PI制御の演算を行い、その演算の結果に基づく制御出力に従ってルーパモータ7を駆動させて、設定した角度(ルーパ角度指令値θref)にルーパ角度θを保つように制御する。なお、以下で詳細に説明するように、推定器16は、前段ミルモータ4の回転速度Vr1と、後段ミルモータ速度検出器13で検出した後段ミルモータ5の回転速度Vr2との前後速度偏差(Ve=Vr2−Vr1)を用いて、外乱オブザーバにより被圧延材3の硬度の変動を推定し、該推定した値を用いて、圧延中のルーパ制御器14のゲインの変更をゲイン調整器17に指示する。
【0023】
<ルーパ制御器14>
次に、張力Fとルーパ角度θとを一定に制御するルーパ制御器14の制御ブロックの構成と、ルーパ制御器14内の信号処理の流れを説明する。図2は、ルーパ制御器14の構成の一例を示すブロック線図である。
図2に示すようにして加算器71〜74、減算器75、76、増幅器60、65〜70、積分器61〜64を組み合わせることにより、ルーパ制御器14を実現することができる。
ルーパ制御器14に入力される信号は、前述した張力偏差Te、ルーパ角度偏差θe、張力測定値Tm、及びルーパ角度測定値θmであり、ルーパ制御器14から出力される信号は、前段ミルモータ速度指令値Vref1とルーパ角速度指令値ωref1である。ルーパ制御器14の各ブロックの機能・構成を以下に記す。
【0024】
(クロスコントローラ)
図11に示した非干渉化コントローラ(クロスコントローラ57、58)と、本実施の形態における、図2に示す非干渉化コントローラ(積分器62(Ki021/s:ゲインKi021)及び積分器63(Ki012/s:ゲインKi012))は、張力Fとルーパ角度θとの干渉を打ち消すという同一の役割を持つ。しかしながら、一般的に従来のクロスコントローラ57、58は、張力モデルやルーパモデルの逆伝達関数で表現されるのに対して、図2に示す本実施の形態の非干渉化コントローラ(積分器62及び積分器63)は、制御対象の変数と指定応答の変数とを含んだ数式で表現される。このため、本実施の形態の非干渉化コントローラは、指定応答の変数を変更(調整)するだけで、張力Fとルーパ角度θとの干渉を低減することができるという特長を持つ。一方、従来の非干渉化クロスコントローラ(クロスコントローラ57、58)は、張力モデルやルーパモデルの逆伝達関数で表現されるため、張力Fとルーパ角度θとの干渉を低減させようとする際には、再度、クロスコントローラ57、58を設計し直さなければならない問題を有する。
【0025】
(前段ミルモータ速度指令値Vref1、ルーパ角速度指令値ωref1を導出する演算処理)
図2において、ルーパ制御器14からの出力信号である、前段ミルモータ速度指令値Vref1、ルーパ角速度指令値ωref1は、それぞれ次の(1)式、(2)式で表される。
【0026】
【数1】
【0027】
ここで、Teは張力偏差、θeはルーパ角度偏差、Tmは張力測定値、θmはルーパ角度の測定値である。なお、(1)式及び(2)式の導出、及び各係数K(ゲイン)については以下で説明する。
【0028】
(ILQ最適サーボ設計法によるゲインKの導出指針・方法)
ルーパ制御器14の最適サーボ系の設計は、公知である最適レギュレータの逆問題を利用したILQ(Inverse Linear Quadratic)設計法を用いて行うことができる。ILQ設計法については例えば非特許文献1に詳細に記載されている。
【0029】
まず、ILQ設計法について簡単に記す。本発明の対象となるプラントのモデル(ルーパモデルと張力モデル)のように、可制御且つ可観測な線形時不変システムでは、その線形化した数学的モデルは、以下の(3)式の形式で表される。
【0030】
【数2】
【0031】
ここで、xは状態量(n次元)、uは操作量(m次元)、yは出力(制御量:m次元)であり、A、B、Cは数学モデルに固有の適当な大きさの行列であり、rankB=rankC=mとする(n、mは自然数である)。また、(3)式において、xの上に付している「・」は時間微分であることを示している。
【0032】
(3)式で記述される数学的モデルに対して、最適サーボの設計問題を検討することにより、所定の評価関数を最小化する最適レギュレータの解を得る。一方、ILQ設計法では、当該最適サーボの逆問題を解くことによりことに最適制御ゲインKを求める。図3は、ILQ最適サーボ系の構成の一例を示すブロック線図である。
具体的に、最適制御ゲインKを用いると、最適制御則は(4)式で表される。
【0033】
【数3】
【0034】
最適制御ゲインKはフィードバックゲインKfと積分ゲインKiとに分離でき、その導出式は、次の(5)式、(6)式となる。
【0035】
【数4】
【0036】
ここで、Iは単位行列である。また、(6)式内のFは以下の(a)〜(d)のようにして求められる。
【0037】
(a) 極の位置、すなわち制御系の応答を指定する(以下の(7)式を参照)。
【0038】
【数5】
【0039】
(b) G=[g1 g2 ・・・ gn]を次の(8)式で計算する。
【0040】
【数6】
【0041】
ただし、W(S)は伝達関数行列である。
(c) T=[t1 t2 ・・・ tn]を次の(9)式で計算する。
【0042】
【数7】
【0043】
(d) (9)式のT-1(Tの転置行列)を求め、次の(10)式によりFを計算する。
【0044】
【数8】
以上の(a)〜(d)の手順により、(6)式内のFが求められる。
又、本実施の形態において各状態量x、制御量y、操作量uは、ぞれぞれ以下の(11)式、(12)式、(13)式で与えられる。
【0045】
【数9】
ここで、Δtfは張力、ΔωLはルーパモータ7の角速度、Δθはルーパ6の角度、ΔVRは前段ミルモータ4の回転速度、ΔxHはルーパ速度制御器9の積分器の出力、ΔVRREFは前段ミルモータ4の速度指令値、ΔωLREFはルーパモータ7の角速度の指令値である。
また、プラントモデル(ルーパモデルと前段ミルモデル)の状態方程式を求めると、(3)式のA、B、Cは、それぞれ以下の(14)式、(15)式、(16)式のように表わされる。
【数10】
【0046】
ここで、Eは被圧延材3のヤング率、K10は被圧延材3の伸び量、Lはスタンド間の距離、JLはルーパモータ7の慣性、φはルーパモータ7のトルク定数、gLはルーパモータ7のギヤ比、α2はミルモータの回転速度からループ量への変換係数、Tvは前段ミルモータ4の速度制御系の時定数、K21はルーパモータ7の速度制御を行うPI制御系(ルーパ速度制御器9)の比例ゲイン、T21はルーパモータ7の速度制御を行うPI制御系の積分ゲイン、F1は負荷トルク発生関数、F2はルーパ6の角度θからループ量への変換関数、F3は張力Fから負荷トルクへの変換係数、Zはルーパダンピング係数である。
(3)〜(16)式により、ILQ制御の最適制御ゲインK(以下ではゲインKと略記する)を導出する。
【0047】
(各ゲインの設定)
前述したILQ設計法によって、図2に記載した各ゲインKを以下のように導くことができる。
ゲインKf011、Kf012、Kf021、Kf022の表式を、それぞれ以下の(17)式、(18)式、(19)式、(20)式に示す。
【0048】
【数11】
【0049】
ここで、ωTCは張力制御応答であり、ωHCはルーパ角度制御応答である。
張力制御系とルーパ角度制御系の指定応答の変数であるωHC、ωTCは自由に設定できるパラメータであり、これらを変更することで、任意の張力制御応答、ルーパ角度制御応答を得ることができるため、ゲインKを現場で調整をし易いという特徴を持つ。
尚、ゲインKi011、Ki012、Ki021、Ki022についても、(5)式〜(16)式を演算することにより設定することができる。
【0050】
<推定器16>
(17)式に示すように、ルーパ制御器14のゲインKf011の算出式内には、被圧延材3のヤング率Eや被圧延材の伸び量K10といった被圧延材3のパラメータを含んでいる。しかしながら、被圧延材3である鋼板は、通板時に、温度や硬度等が部位により変動することが一般的である。この変動が連続圧延機の制御に際して外乱として悪影響を及ぼす。本実施の形態においては、当該変動の制御系への影響を低減するために、推定器16及びゲイン調整器17を用いてルーパ制御器14のゲインKf011を変更することにより、通板時の被圧延材3に適したゲインKf011を調整して設定する。
【0051】
本実施の形態では、前段スタンド1と後段スタンド2との間の硬度の変動がどの程度圧延に影響するのかを評価するために、以下に記すような外乱オブザーバを推定器16に構築し、張力検出器12により検出した張力測定値Tmと張力推定値とを用いて、以下のようにして被圧延材3の伸び量K10を推定する。
【0052】
まず、前段ミルモータ速度検出器8で測定した前段ミルモータ4の単位時間当たりの回転数である回転速度Vr1と、後段ミルモータ速度検出器13で測定した後段ミルモータ5の単位時間当たりの回転数である回転速度Vr2との回転速度偏差Ve(=Vr2−Vr1)を用いて、前段スタンド1と後段スタンド2との間における被圧延材3の伸び量K10を、外乱オブザーバを用いて推定器16において推定する。ここで、回転速度偏差Veは、減算器22で算出されるものである。
【0053】
外乱オブザーバは、回転速度偏差(Ve=Vr2−Vr1)を入力値として、被圧延材3の硬度変動が影響を及ぼす被圧延材3の伸びを表すパラメータを推定する。この外乱オブザーバの状態方程式を(21)式に示す。
【数12】
【0054】
ここで、xs1は、張力推定値、ds1は、前段スタンド1及び後段スタンド2間の(すなわち前段スタンド1による)被圧延材3の伸び量K10の推定値、Veは回転速度差、Tmは実機の張力測定値、K1とK2はオブザーバゲインを表す。
【0055】
以上のように、(21)式で記述される外乱オブザーバの状態方程式(モデル)は、実機の張力実績を再現するモデルであり、モデルの張力実績値と実機の張力測定値との差分を用いて、モデルと実機との誤差(板の伸び量)を推定する。
図4は、(21)式の状態方程式で表される外乱オブザーバの構成の一例を示すブロック線図である。図4に示すように、外乱オブザーバは、加算器85と、減算器84、86と、増幅器(オブザーバゲイン)81、82と、積分器80(張力発生モデル)、83とを組み合わせることにより実現できる。
【0056】
実機の張力測定値Tmと張力推定値xs1とにより外乱オブザーバで推定される、被圧延材3の伸び量の推定値ds1を、前述した被圧延材3の伸び量K10として採用する。推定器16は、当該伸び量K10を用いて、例えば(17)式において用いられている被圧延材3の伸び量K10を予め設定した周期でリアルタイムに逐次変更する。ゲイン調整器17は、このようにして被圧延材3の伸び量K10が変更される度にゲインKf011を算出して、ルーパ制御器14に出力する。
【0057】
ところで、以上のようにしてゲイン調整器17でルーパ制御器14のゲインKf011を変更し、被圧延材3の硬度の変動による"張力Fの変動とルーパ角度θの変動"の抑制を実現するが、このようにしてゲインKを変更すると、ルーパ制御器14のゲインKが急峻に変更することとなる。このため、ゲインKの変更時に張力Fが不安定化する可能性がある。そこで、本実施の形態では、ルーパ制御器14のゲインKを移動平均することで、急峻なゲインKの変更を防ぐようにしている。そのための方法として、以下の(23)式に示すように、ゲイン調整器17で算出したルーパ制御器14のゲインKの50個分のデータ(予め設定した期間のデータ)を平均し、ルーパ制御器14のゲインKを緩やかに変更する。尚、(23)式には、(17)式に示したルーパ制御器14のゲインKf011に含まれる被圧延材3の伸び量であるK10を、外乱オブザーバにより推定した被圧延材3の伸び量K10を用いて変更し、ルーパ制御器14のゲインKf011の移動平均を実行した例を示す。
【0058】
【数13】
【0059】
なお、(23)式において、Kf011[k−1]はルーパ制御器14のゲインKf011の1時刻前のデータを表す。
これら(21)式〜(23)式の方法を用いることにより、ルーパ制御器14のゲインKf011を被圧延材3の硬度の変動に追従するように変更することができ、被圧延材3の硬度の変動による張力Fの変動とルーパ角度θの変動とを抑制することが可能となる。
【0060】
図5は、ルーパ制御器14のゲインKf011を算出するためのゲイン調整器17における構成の一例を示すブロック線図である。すなわち、ゲイン調整器17が、前述した(17)、(23)式で演算する処理を表すブロック線図である。
図5に示すように、乗算器100〜102、除算器103、104、増幅器105〜107、一次遅れ要素106、減算器108、加算器109を組み合わせることにより、ゲインKf011を算出するための構成がゲイン調整器17内に得られる。
【0061】
ゲイン調整器17は、推定器16で(21)式により算出された被圧延材3の伸び量ds1(K10)を入力して、ゲインKf011を算出する。算出したゲインKf011の50時刻前までのデータを用いて、ゲインKf011を平均化し、その出力値を、図2に示した増幅器66のゲインKf011として設定する。図5に示した移動平均を演算するブロックもゲイン調整器17に組み込むとよい。
以上のように本実施形態では、減算器22により第1の導出手段が実現され、推定器16により推定手段が実現され、ルーパ制御器14及びゲイン調整器17により第2の導出手段が実現される。
なお、ゲイン調整器17は、以上の態様のほか、推定器16又はルーパ制御器14に組み込むことが可能であることは明らかである。
【0062】
又、ゲインKf011の移動平均値をルーパ制御器14に設定すれば、急峻なゲインKの変更を防ぐことができるので好ましいが、移動平均値ではなくゲインKf011そのものをルーパ制御器14に設定してもよい。
又、ルーパ制御器14に、例えばゲインKf011を変更するか否かを判定するための閾値を予め設定しておき、ゲイン調整器17で得られた"ゲインKf011そのもの又はゲインKf011の移動平均値"が、該閾値を超えるか否かをルーパ制御器14が判定し、該閾値を超える場合には、ゲインKf011をゲイン調整器17で得られた"ゲインKf011そのもの又はゲインKf011の移動平均値に変更し、そうでない場合にはゲインKf011を変更しないようにしてもよい。
【0063】
又、図1に概略を示した本実施の形態の連続圧延機の張力及びルーパ制御装置を、パーソナルコンピュータ又はPLC(Programmable Logic Controller)等で構成することができる。当該制御装置を主幹制御装置に組み込む際には、前段ミルモータ4の回転速度Vr1と後段ミルモータ5の回転速度Vr2との前後速度偏差(Ve=Vr2−Vr1)を用いて、被圧延材3の伸び量K10を推定する推定器と、(23)式に示したようなルーパ制御器14のゲインKを移動平均する数式を所定のクロック時間で動作するように、離散化して構成する。当該主幹制御装置をパーソナルコンピュータ又はPLCで構成する場合には、半導体メモリやハードディスクドライブ、入力手段としてのキーボード及びマウス、出力手段としてのコンピュータディスプレー、及びディジタル又はアナログ入出力ボードを用いるとよい。又、工場内のネットワークに接続するためのLANボードを当該主幹制御装置が具備してもよい。そして、前述した制御用の各計算等の信号処理・データ処理を実行するためのコンピュータプログラムを作成して、当該主幹制御装置の内蔵メモリ等にインストールするとよい。又、以上では本実施の形態の連続圧延機の張力及びルーパ制御装置について詳細に説明したが、図1、図2、図4、及び図7に示した各ブロックで実行する一連の演算・制御の処理手順で構成された連続圧延機の張力及びルーパ制御方法も本発明に含まれる。
【0064】
<シミュレーションの結果>
前段スタンド1と後段スタンド2との間での被圧延材3の硬度の変動による張力Fの変動を確認するために、連続圧延機のシミュレーションを実施した。具体的に説明すると、実機の張力測定値Tmを用いて、(21)式により、被圧延材3の伸び量K10を推定する(被圧延材3の伸び量の推定値ds1を算出する)シミュレーションを行った。
図6は、連続圧延機のシミュレーションを行って被圧延材3の伸び量K10を推定した結果の一例を示す図である。
図6は、ヤング率E=1500[kgf/mm2]、スタンド間距離L=5846[mm]、ωHC=10[rad/s]、ωTC=20[rad/s]、外乱オブザーバゲインK1=20、K2=365とし、圧延条件として、板厚2mmの鋼材を作り込むことを想定してシミュレーションを行った結果である。
【0065】
図6に示すように、被圧延材3の硬度の変動により張力Fの変動が発生すると、被圧延材3の伸び量K10の推定値ds1は大きく変動している。ここで、図6は、実機の張力測定値Tmや前後速度偏差Ve(ミルモータの回転速度)等のデータを用いて推定を行った結果である。このとき、(17)式に示した"被圧延材3の伸び量K10"を一定としており、実際の被圧延材3の伸び量と被圧延材3の伸び量の設定値との間に大きく乖離が生じ、張力Fの変動が発生する可能性がある。
【0066】
そこで、このことを確認するために、シミュレーションで被圧延材3の硬度の変動を模擬した。具体的に、被圧延材3の伸び量K10を示すパラメータを、シミュレーションを開始してから10秒後にステップ状に変化させることとした。図7は、被圧延材3の板伸びパラメータをステップ状に変化させた場合に被圧延材3に生じる張力FBKをシミュレーションした結果の一例を示す図である。
【0067】
図7に示すように、被圧延材3の伸び量K10を表すパラメータをステップ状に変化させることで、張力FBKの変動が発生する。このことから、被圧延材3の硬度の変動が発生することで張力FBKの変動が生じることが分かる。
このように被圧延材3の硬度の変動が生じることで発生する張力FBKの変動を抑制するために、(21)式に示した外乱オブザーバにより推定した被圧延材3の伸び量K10の推定値ds1を用いて、ルーパ制御器14のゲインKを変更した。図8は、被圧延材3の伸び量の推定値ds1を用いて、ルーパ制御器14のゲインKf011を変更した場合に被圧延材3に生じる張力FBKをシミュレーションした結果の一例を示す図である。このシミュレーションでは、被圧延材3の伸び量K10を示すパラメータを、シミュレーションを開始してから10秒後にステップ状に変化させている。
【0068】
図8に示すように、被圧延材3の硬度の変動に対して、(21)式〜(23)式に示した被圧延材3の伸び量K10を外乱オブザーバで推定し、推定した被圧延材3の伸び量K10に追従させてルーパ制御器14のゲインKの変更を行うことで、前段スタンド1と後段スタンド2との間での被圧延材3の硬度の変動による張力Fの変動を抑制することができる。その結果、被圧延材3の板厚や板幅の劣化、板破断等のトラブルを防止でき、生産量の大きな増加に繋がる。
【0069】
以上のように本実施の形態では、張力検出器12で検出した"前段スタンド1と後段スタンド2との間の被圧延材3の張力F"の検出値Tmと張力指令値Trefとの偏差Teと、ルーパ角度検出器11で検出したルーパ角度θの検出値θmとルーパ角度指令値θrefとの偏差θeとを用いて、前段スタンド1と後段スタンド2との間の被圧延材3の張力Fとルーパ角度θとを制御する際に、前段ミルモータ4の回転速度Vr1と後段ミルモータ5の回転速度Vr2との偏差Veを用いて、推定器16が被圧延材3の硬度(被圧延材3の伸び量K10)を推定し、その推定値ds1を用いて、ルーパ制御器14のゲインKf011を変更する。すなわち、本実施の形態では、被圧延材3の機械的物性の場所による変動による伸び量K10を逐次推定し、当該伸び量K10の推定値ds1に基づきルーパ制御器14の調整可能なゲインKf011を設定するようにした。したがって、被圧延材3の高速・高精度な圧延に際して、スタンド1、2間の張力Fの変動とルーパ角度θの変動との相互干渉を従来よりも低いレベルに抑制し、且つ被圧延材3の機械的特性等の変動により発生する、被圧延材3の張力の変動に対して、被圧延材3の張力F及びルーパ角度θの変動を可及的に抑制することが可能になった。
【0070】
また、本実施の形態では、被圧延材3の張力Fの測定値と目標値Trefとの張力偏差(Te=Tref−Tm)、及びルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差(θref−θm)のそれぞれを入力値として、被圧延材3の張力Fとルーパ角度θとの干渉を、制御対象の変数と指定応答の変数とを含んだ数式で表現される非干渉化コントローラ(クロスコントローラ62、63)で打ち消すようにした。したがって、圧延スタンド1、2間の張力Fの変動とルーパ角度θの変動との相互干渉を従来よりも容易に低いレベルに抑制することが可能になった。
【0071】
尚、以上説明した本発明の実施の形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施の形態として適用することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。前記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、以上説明した本発明の実施の形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施形態を示し、連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態を示し、ルーパ制御器の構成の一例を示すブロック線図である。
【図3】本発明の実施形態を示し、ILQ最適サーボ系の構成の一例を示すブロック線図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、外乱オブザーバの構成の一例を示すブロック線図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、ルーパ制御器のゲインを算出するためのゲイン調整器における構成の一例を示すブロック線図である。
【図6】本発明の実施形態を示し、連続圧延機のシミュレーションを行って被圧延材の伸び量を推定した結果の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態を示し、被圧延材の板伸びパラメータをステップ状に変化させた場合に被圧延材に生じる張力をシミュレーションした結果の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態を示し、被圧延材の伸び量の推定値を用いて、ルーパ制御器のゲインを変更した場合に被圧延材3に生じる張力をシミュレーションした結果の一例を示す図である。
【図9】連続圧延機の構成の一例を示す図である。
【図10】連続圧延機のルーパ制御に用いられる従来の張力・ルーパ角度制御装置の第1の例を示すブロック図である。
【図11】連続圧延機のルーパ制御に用いられる従来の張力・ルーパ角度制御装置の第2の例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0073】
1 前段スタンド
2 後段スタンド
3 被圧延材
4 前段ミルモータ
5 後段ミルモータ
6 ルーパ
7 ルーパモータ
8 前段ミルモータ速度検出器
9 ルーパ速度制御器
10 ルーパ速度検出器
11 ルーパ角度検出器
12 張力検出器
13 後段ミルモータ速度検出器
14 ルーパ制御器
16 推定器(外乱オブザーバ)
17 ゲイン調整器
18 前段ミルモータ速度制御器
19〜23 減算器
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の製造プラントにおける、圧延スタンド間にルーパが設置された連続圧延機による圧延に際しての、被圧延材の張力及びルーパ角度を、金属板の機械的物性の変動にも対処して安定して制御する装置並びに方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば金属材料等の板材の一つである鋼板の熱間での連続圧延プロセスにおいて、被圧延材である鋼板を仕上げ圧延する連続圧延機は、複数の圧延スタンドを備えて構成される。また、圧延スタンド間の被圧延材のループ量Lを維持すると共に、被圧延材の張力Fを安定に保つために、ルーパと呼ばれる装置が、圧延スタンド間に配置されていることが多い。
【0003】
図9は、連続圧延機の構成の一例を示す図である。
図9中、1は前段スタンド、2は後段スタンド、3は被圧延材、4は前段ミルモータ、5は後段ミルモータ、6はルーパ、7はルーパモータをそれぞれ表す。なお、被圧延材3の張力Fは、被圧延材3の面内に働く力であるが、本願の以下の説明では、ルーパ6に被圧延材3から及ぼされる力Fを被圧延材3の張力Fとする。
【0004】
図9において、被圧延材3の先端は左から右に向かって移動し、前段スタンド1の上ロール1aと下ロール1bとの間に挟まれ、その後、後段スタンド2の上ロール2aと下ロール2bとの間に挟まれる。そして、前段スタンド1及び後段スタンド2に被圧延材3が挟まれるとルーパ6がルーパモータ7によって回転して上昇し、被圧延材3を押圧する。このルーパ6の制御においては、被圧延材3の仕上圧延後の板幅や板厚に直接影響する"前段スタンド1及び後段スタンド2間の張力F"を安定に制御すると共に、ある基準方向に対するルーパ6の回転角度であるルーパ角度θの変動を抑制することが、連続圧延操業の安定の観点から重要である。
【0005】
この前段スタンド1及び後段スタンド2間の張力Fとルーパ角度θとを安定に制御できない現象として、例えば、次のような現象がある。すなわち、通板中の被圧延材3の硬度や変形抵抗等の機械的特性が圧延中に部位によって変動し、後段スタンド2にかかっている荷重が急変して、被圧延材3の硬度が小さくなると、後段スタンド2の上ロール2aと下ロール2bとの幅が狭まり、被圧延材3が後段スタンド2を通過できなくなる。このために張力Fが変動し、またルーパ角度θも変動する。
【0006】
このような被圧延材3の硬度が急変すること等により生じる張力Fの変動により、被圧延材3の板厚や板幅が目標の設定値から外れてしまうことや、最悪の場合には通板中に被圧延材3が切れてしまう板破断が生じ、その結果、鋼板の生産性が悪化することがあった。
【0007】
図10は、連続圧延機のルーパ制御に用いられる従来の張力・ルーパ角度制御装置の第1の例を示すブロック図である。
図10において、張力・ルーパ角度制御装置は、ルーパ角度θを制御する際に、ルーパ角度検出器38により検出したルーパ角度の測定値θmと、ルーパ角度指令値θrefとの偏差(θref−θm)を減算器42で求めてPI制御器39に出力する。このPI制御器39の出力は、前段ミルモータ4の速度指令値Vref1の速度補正値となり、前段ミルモータ4の速度指令値Vref1と加算器43で加算される。これらPI制御器39の出力と前段ミルモータ4の速度指令値Vref1との加算値は、PI制御器である前段ミルモータ速度制御器37に出力される。張力・ルーパ角度制御装置は、このようにすることでルーパ角度θを制御する。
【0008】
また、張力Fを制御する際には、張力指令値Trefを電流換算ロジック41に入力して電流指令値Irefに変換し、その電流指令値Irefとルーパモータ電流値Idとの偏差(Iref−Id)を減算器44で求めてルーパモータ電流制御器40に出力することで、前段スタンド1及び後段スタンド2間の張力Fを制御する張力制御系を用いる。
【0009】
しかしながら、この従来の張力・ルーパ角度制御装置では、前述した張力制御系が張力指令値Trefを設定値とするオープンループ制御となっているため、張力制御性能が悪いという問題があった。また、張力Fとルーパ角度θとは物理的に相互に干渉する。すなわち、張力の変動はルーパ角度の変動を誘発し、ルーパ角度の変動は張力の変動を誘発する。そして、この従来のルーパ角度制御装置では、張力Fとルーパ角度θとの干渉の抑制が考慮されていないため、張力Fとルーパ角度θとを高精度に安定して制御することが難しいという問題があった。
【0010】
このような問題に対して、別の従来技術として図11に示すような張力・ルーパ角度制御装置がある。図11は、連続圧延機のルーパ制御に用いられる従来の張力・ルーパ角度制御装置の第2の例を示すブロック図である。
図11に示す張力・ルーパ角度制御装置では、ルーパ6に張力検出器90を設置し、張力検出器90で検出した張力値Tmと張力指令値Trefとの偏差を張力制御器55に入力し、張力制御器55で前段ミルモータ4の速度を設定して張力Fを制御すると共に、ルーパ角度検出器11により検出したルーパ角度測定値θmを用いてルーパ角度制御器56でルーパ角度θを制御する、2つのフィードバックループを用いる。
【0011】
図11に示す張力・ルーパ角度制御装置では、張力Fとルーパ角度θとの干渉を抑制するために、非干渉化コントローラ(以下ではクロスコントローラとも記す)を併用している。片方のクロスコントローラ57は、ルーパ角度θに影響を与える張力変動との干渉を抑制し、もう片方のクロスコントローラ58は、張力Fに影響を与えるルーパ角度変動との干渉を抑制する。しかしながら、図11に示す張力・ルーパ制御装置でも、張力Fとルーパ角度θとの干渉を十分に抑制することができないときがあった。
【0012】
又、特許文献1には、連続圧延機におけるスタンド間の張力及びルーパの制御方法に係る別の発明が開示されている。特許文献1に記載された制御方法では、張力測定値と張力指令値との偏差を張力制御器に入力する第1のフィードバックループを具備する張力制御系と、ルーパ角度測定値とルーパ角度指令値との偏差をルーパ角度制御器に入力する第2のフィードバックループを具備するルーパ角度制御系とを用いて、張力Fとルーパ角度θとを制御する。更に、第1のフィードバックループ及び第2のフィードバックループのそれぞれに加わる外乱を、それぞれ所定のモデルを用いた外乱補償器により推定し、張力制御系及びルーパ角度制御系のそれぞれにおいて、当該推定した値を用いて外乱を相殺するようにしている。
【0013】
この特許文献1に記載された制御方法では、第1及び第2のフィードバックループに加わる外乱をそれぞれ所定のモデルにより推定し、それぞれ第1及び第2のフィードバックループの信号を補償するが、その間に位相遅れが生じるため、張力Fの変動とルーパ角度θの変動とを十分に抑制することができないという問題があった。又、前述した被圧延材の硬度の変動による張力Fの変動に対応することができないという問題もあった。このため、被圧延材の板厚や板幅が目標の設定値から外れてしまうことや、板破断などにより生産性が悪くなることがあった。
【0014】
【特許文献1】特開平7−136707号公報
【非特許文献1】ILQ最適サーボ系設計法の一般化:藤井隆雄、下村卓、システム制御情報学会論文誌、1988年 Vol.1、No.6、pp.194〜203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のような、圧延スタンド間にルーパが設置された連続圧延機のスタンド間の張力及びルーパ角度を制御する従来の技術の問題点に鑑みて本発明は、圧延スタンド間の張力の変動とルーパ角度の変動との相互干渉を低いレベルに抑制し、且つ被圧延材の機械的特性等の変動により発生する、被圧延材の部位における張力変動に対して、被圧延材の張力とルーパ角度とが変動することを可及的に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の要旨とするところは以下の如くである。
本発明の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置は、ミルモータを備えた前段スタンド及び後段スタンドと、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間に配設された、ルーパモータを備えたルーパとを有する、金属板を被圧延材とする連続圧延機であり、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間での前記被圧延材の張力Fと前記ルーパのルーパ角度θとを、それぞれ目標値Tref、θrefに追従させる連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置であって、前記張力Fの測定値と目標値Trefとの偏差、及び前記ルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差を入力値として、前記前段ミルモータの回転速度の制御量及び前記ルーパの角速度の制御量を、調整可能なゲインKを用いて演算して出力するルーパ制御器と、前記前段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr1と、前記後段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr2との回転速度偏差(Vr2−Vr1)を算出して出力する減算器と、前記回転速度偏差(Vr2−Vr1)を入力値として、前記被圧延材の機械的特性に基づき前記被圧延材の伸び量K10を、前記連続圧延機の外乱オブザーバにより推定する推定器と、前記調整可能なゲインKを、前記推定器で推定された被圧延材の伸び量K10に基づいて設定するゲイン調整器とを具備し、前記ルーパ制御器は、前記被圧延材の機械的物性の変動に追従して調整される前記ゲインKに基づいて前記制御量を演算することを特徴とする。
また、本発明の他の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置は、ミルモータを備えた前段スタンド及び後段スタンドと、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間に配設された、ルーパモータを備えたルーパと、金属板を被圧延材とする連続圧延機とを備える連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置であって、前記前段スタンドが備えるミルモータの回転速度と、前記後段スタンドが備えるミルモータの回転速度との回転速度偏差を導出する第1の導出手段と、前記第1の導出手段により算出された回転速度偏差と、前記被圧延材の機械的特性に基づいて、前記被圧延材の伸び量を推定する推定手段と、前記前段ミルモータの回転速度の制御量及び前記ルーパの角速度の制御量を導出する第2の導出手段とを有し、前記第2の導出算出手段は、前記推定手段により推定された被圧延材の伸び量に応じて、前記制御量を調整することを特徴とする。
また、本発明の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御方法は、ミルモータを備えた前段スタンド及び後段スタンドと、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間に配設された、ルーパモータを備えたルーパとを有する、金属板を被圧延材とする連続圧延機の制御方法であり、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間での前記被圧延材の張力Fと前記ルーパのルーパ角度θとを、それぞれ目標値Tref、θrefに追従させる連続圧延機の張力及びルーパ角度制御方法であって、前記張力Fの測定値と目標値Trefとの偏差、及び前記ルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差を入力値として、前記前段ミルモータの回転速度の制御量及び前記ルーパの角速度の制御量を、調整可能なゲインKを用いて演算して出力するルーパ制御工程と、前記前段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr1と、前記後段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr2との回転速度偏差(Vr2−Vr1)を算出して出力する減算工程と、前記回転速度偏差(Vr2−Vr1)を入力値として、前記被圧延材の機械的特性に基づき前記被圧延材の伸び量K10を、前記連続圧延機の外乱オブザーバにより推定する推定工程と、前記調整可能なゲインKを、前記推定工程で推定された被圧延材の伸び量K10に基づいて設定するゲイン調整工程とを具備し、前記ルーパ制御工程は、前記被圧延材の機械的物性の変動に追従して調整される前記ゲインKに基づいて前記制御量を演算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被圧延材の機械的物性の場所による変動による伸び量を逐次推定し、当該伸び量に基づきルーパ制御器の調整可能なゲインを設定するようにした。したがって、被圧延材の高速・高精度な圧延に際して、スタンド間の張力の変動とルーパ角度の変動との相互干渉を従来よりも低いレベルに抑制し、且つ被圧延材の機械的特性等の変動により、被圧延材の張力及びルーパ角度が変動することを可及的に抑制することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
金属板の被圧延材として鋼板を例に取り上げて、本発明を実施するための形態として、鋼板の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置及び制御方法の一例を、図面及び数式を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施の形態の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
連続圧延機本体は、背景技術で説明した図9と同様に、前段スタンド1、後段スタンド2、前段ミルモータ4、後段ミルモータ5、ルーパ6、及びルーパモータ7を備えて構成されている。
【0019】
各図において、同一の機能を有する部分及び装置には同じ符号を付記して、図面間での各部の対応関係を明瞭にした。又、図1等において、前段ミルモータ速度制御器18は、比例・積分制御法によるPI制御器(伝達関数を(Kp1・s+Ki1)/sとする。ここでKp1、Ki1:定数)で構成され、ルーパ速度制御器9もPI制御器(伝達関数を(Kp2・s+Ki2)/sとする。ここでKp2、Ki2:定数)で構成される場合を例に挙げて説明する。なお、これらのミルモータ速度制御器18とルーパ速度制御器9は、PI制御器以外にPID制御器など、圧延機で通常よく用いられるタイプの公知の制御器であっても良い。
【0020】
図1において、被圧延材3に印加される張力Fに関して、操業者が予め設定した張力指令値Trefと、張力検出器12により検出した張力測定値Tmとの張力偏差(Te=Tref−Tm)を減算器(B)20で算出する。また、予め設定したルーパ角度指令値θrefと、ルーパ角度検出器11により検出したルーパ角度θmとのルーパ角度偏差(θe=θref−θm)を減算器(C)21で算出する。当該張力偏差Teとルーパ角度偏差θeは、ルーパ制御器14に入力される。ルーパ制御器14は、これらの張力偏差Teとルーパ角度偏差θeとを零にするように、以下で詳細に説明するような演算を行い、前段ミルモータ速度指令値Vrefと、ルーパ角速度指令値ωref1とを算出する。
【0021】
ルーパ制御器14により算出した前段ミルモータ速度指令値Vrefと、前段ミルモータ速度検出器8で検出した前段ミルモータ4の回転速度Vr1との前段ミルモータ速度偏差(Vref1−Vr1)を減算器(E)23で演算し、前段ミルモータ速度制御器18に出力する。前述したように前段ミルモータ速度制御器18は、PI制御の演算を行い、その演算の結果に基づく制御出力に従って前段ミルモータ4を駆動させる。以上の制御ループによって前段スタンド1と後段スタンド2との間(スタンド間)の張力Fを一定に保つように制御する。
【0022】
また、ルーパ制御器14により算出したルーパ角速度指令値ωref1と、ルーパ速度検出器10により検出したルーパ角速度ωmとの角速度偏差(ωref1−ωm)を減算器(A)19で算出してルーパ速度制御器9に出力する。前述したようにルーパ速度制御器9は、PI制御の演算を行い、その演算の結果に基づく制御出力に従ってルーパモータ7を駆動させて、設定した角度(ルーパ角度指令値θref)にルーパ角度θを保つように制御する。なお、以下で詳細に説明するように、推定器16は、前段ミルモータ4の回転速度Vr1と、後段ミルモータ速度検出器13で検出した後段ミルモータ5の回転速度Vr2との前後速度偏差(Ve=Vr2−Vr1)を用いて、外乱オブザーバにより被圧延材3の硬度の変動を推定し、該推定した値を用いて、圧延中のルーパ制御器14のゲインの変更をゲイン調整器17に指示する。
【0023】
<ルーパ制御器14>
次に、張力Fとルーパ角度θとを一定に制御するルーパ制御器14の制御ブロックの構成と、ルーパ制御器14内の信号処理の流れを説明する。図2は、ルーパ制御器14の構成の一例を示すブロック線図である。
図2に示すようにして加算器71〜74、減算器75、76、増幅器60、65〜70、積分器61〜64を組み合わせることにより、ルーパ制御器14を実現することができる。
ルーパ制御器14に入力される信号は、前述した張力偏差Te、ルーパ角度偏差θe、張力測定値Tm、及びルーパ角度測定値θmであり、ルーパ制御器14から出力される信号は、前段ミルモータ速度指令値Vref1とルーパ角速度指令値ωref1である。ルーパ制御器14の各ブロックの機能・構成を以下に記す。
【0024】
(クロスコントローラ)
図11に示した非干渉化コントローラ(クロスコントローラ57、58)と、本実施の形態における、図2に示す非干渉化コントローラ(積分器62(Ki021/s:ゲインKi021)及び積分器63(Ki012/s:ゲインKi012))は、張力Fとルーパ角度θとの干渉を打ち消すという同一の役割を持つ。しかしながら、一般的に従来のクロスコントローラ57、58は、張力モデルやルーパモデルの逆伝達関数で表現されるのに対して、図2に示す本実施の形態の非干渉化コントローラ(積分器62及び積分器63)は、制御対象の変数と指定応答の変数とを含んだ数式で表現される。このため、本実施の形態の非干渉化コントローラは、指定応答の変数を変更(調整)するだけで、張力Fとルーパ角度θとの干渉を低減することができるという特長を持つ。一方、従来の非干渉化クロスコントローラ(クロスコントローラ57、58)は、張力モデルやルーパモデルの逆伝達関数で表現されるため、張力Fとルーパ角度θとの干渉を低減させようとする際には、再度、クロスコントローラ57、58を設計し直さなければならない問題を有する。
【0025】
(前段ミルモータ速度指令値Vref1、ルーパ角速度指令値ωref1を導出する演算処理)
図2において、ルーパ制御器14からの出力信号である、前段ミルモータ速度指令値Vref1、ルーパ角速度指令値ωref1は、それぞれ次の(1)式、(2)式で表される。
【0026】
【数1】
【0027】
ここで、Teは張力偏差、θeはルーパ角度偏差、Tmは張力測定値、θmはルーパ角度の測定値である。なお、(1)式及び(2)式の導出、及び各係数K(ゲイン)については以下で説明する。
【0028】
(ILQ最適サーボ設計法によるゲインKの導出指針・方法)
ルーパ制御器14の最適サーボ系の設計は、公知である最適レギュレータの逆問題を利用したILQ(Inverse Linear Quadratic)設計法を用いて行うことができる。ILQ設計法については例えば非特許文献1に詳細に記載されている。
【0029】
まず、ILQ設計法について簡単に記す。本発明の対象となるプラントのモデル(ルーパモデルと張力モデル)のように、可制御且つ可観測な線形時不変システムでは、その線形化した数学的モデルは、以下の(3)式の形式で表される。
【0030】
【数2】
【0031】
ここで、xは状態量(n次元)、uは操作量(m次元)、yは出力(制御量:m次元)であり、A、B、Cは数学モデルに固有の適当な大きさの行列であり、rankB=rankC=mとする(n、mは自然数である)。また、(3)式において、xの上に付している「・」は時間微分であることを示している。
【0032】
(3)式で記述される数学的モデルに対して、最適サーボの設計問題を検討することにより、所定の評価関数を最小化する最適レギュレータの解を得る。一方、ILQ設計法では、当該最適サーボの逆問題を解くことによりことに最適制御ゲインKを求める。図3は、ILQ最適サーボ系の構成の一例を示すブロック線図である。
具体的に、最適制御ゲインKを用いると、最適制御則は(4)式で表される。
【0033】
【数3】
【0034】
最適制御ゲインKはフィードバックゲインKfと積分ゲインKiとに分離でき、その導出式は、次の(5)式、(6)式となる。
【0035】
【数4】
【0036】
ここで、Iは単位行列である。また、(6)式内のFは以下の(a)〜(d)のようにして求められる。
【0037】
(a) 極の位置、すなわち制御系の応答を指定する(以下の(7)式を参照)。
【0038】
【数5】
【0039】
(b) G=[g1 g2 ・・・ gn]を次の(8)式で計算する。
【0040】
【数6】
【0041】
ただし、W(S)は伝達関数行列である。
(c) T=[t1 t2 ・・・ tn]を次の(9)式で計算する。
【0042】
【数7】
【0043】
(d) (9)式のT-1(Tの転置行列)を求め、次の(10)式によりFを計算する。
【0044】
【数8】
以上の(a)〜(d)の手順により、(6)式内のFが求められる。
又、本実施の形態において各状態量x、制御量y、操作量uは、ぞれぞれ以下の(11)式、(12)式、(13)式で与えられる。
【0045】
【数9】
ここで、Δtfは張力、ΔωLはルーパモータ7の角速度、Δθはルーパ6の角度、ΔVRは前段ミルモータ4の回転速度、ΔxHはルーパ速度制御器9の積分器の出力、ΔVRREFは前段ミルモータ4の速度指令値、ΔωLREFはルーパモータ7の角速度の指令値である。
また、プラントモデル(ルーパモデルと前段ミルモデル)の状態方程式を求めると、(3)式のA、B、Cは、それぞれ以下の(14)式、(15)式、(16)式のように表わされる。
【数10】
【0046】
ここで、Eは被圧延材3のヤング率、K10は被圧延材3の伸び量、Lはスタンド間の距離、JLはルーパモータ7の慣性、φはルーパモータ7のトルク定数、gLはルーパモータ7のギヤ比、α2はミルモータの回転速度からループ量への変換係数、Tvは前段ミルモータ4の速度制御系の時定数、K21はルーパモータ7の速度制御を行うPI制御系(ルーパ速度制御器9)の比例ゲイン、T21はルーパモータ7の速度制御を行うPI制御系の積分ゲイン、F1は負荷トルク発生関数、F2はルーパ6の角度θからループ量への変換関数、F3は張力Fから負荷トルクへの変換係数、Zはルーパダンピング係数である。
(3)〜(16)式により、ILQ制御の最適制御ゲインK(以下ではゲインKと略記する)を導出する。
【0047】
(各ゲインの設定)
前述したILQ設計法によって、図2に記載した各ゲインKを以下のように導くことができる。
ゲインKf011、Kf012、Kf021、Kf022の表式を、それぞれ以下の(17)式、(18)式、(19)式、(20)式に示す。
【0048】
【数11】
【0049】
ここで、ωTCは張力制御応答であり、ωHCはルーパ角度制御応答である。
張力制御系とルーパ角度制御系の指定応答の変数であるωHC、ωTCは自由に設定できるパラメータであり、これらを変更することで、任意の張力制御応答、ルーパ角度制御応答を得ることができるため、ゲインKを現場で調整をし易いという特徴を持つ。
尚、ゲインKi011、Ki012、Ki021、Ki022についても、(5)式〜(16)式を演算することにより設定することができる。
【0050】
<推定器16>
(17)式に示すように、ルーパ制御器14のゲインKf011の算出式内には、被圧延材3のヤング率Eや被圧延材の伸び量K10といった被圧延材3のパラメータを含んでいる。しかしながら、被圧延材3である鋼板は、通板時に、温度や硬度等が部位により変動することが一般的である。この変動が連続圧延機の制御に際して外乱として悪影響を及ぼす。本実施の形態においては、当該変動の制御系への影響を低減するために、推定器16及びゲイン調整器17を用いてルーパ制御器14のゲインKf011を変更することにより、通板時の被圧延材3に適したゲインKf011を調整して設定する。
【0051】
本実施の形態では、前段スタンド1と後段スタンド2との間の硬度の変動がどの程度圧延に影響するのかを評価するために、以下に記すような外乱オブザーバを推定器16に構築し、張力検出器12により検出した張力測定値Tmと張力推定値とを用いて、以下のようにして被圧延材3の伸び量K10を推定する。
【0052】
まず、前段ミルモータ速度検出器8で測定した前段ミルモータ4の単位時間当たりの回転数である回転速度Vr1と、後段ミルモータ速度検出器13で測定した後段ミルモータ5の単位時間当たりの回転数である回転速度Vr2との回転速度偏差Ve(=Vr2−Vr1)を用いて、前段スタンド1と後段スタンド2との間における被圧延材3の伸び量K10を、外乱オブザーバを用いて推定器16において推定する。ここで、回転速度偏差Veは、減算器22で算出されるものである。
【0053】
外乱オブザーバは、回転速度偏差(Ve=Vr2−Vr1)を入力値として、被圧延材3の硬度変動が影響を及ぼす被圧延材3の伸びを表すパラメータを推定する。この外乱オブザーバの状態方程式を(21)式に示す。
【数12】
【0054】
ここで、xs1は、張力推定値、ds1は、前段スタンド1及び後段スタンド2間の(すなわち前段スタンド1による)被圧延材3の伸び量K10の推定値、Veは回転速度差、Tmは実機の張力測定値、K1とK2はオブザーバゲインを表す。
【0055】
以上のように、(21)式で記述される外乱オブザーバの状態方程式(モデル)は、実機の張力実績を再現するモデルであり、モデルの張力実績値と実機の張力測定値との差分を用いて、モデルと実機との誤差(板の伸び量)を推定する。
図4は、(21)式の状態方程式で表される外乱オブザーバの構成の一例を示すブロック線図である。図4に示すように、外乱オブザーバは、加算器85と、減算器84、86と、増幅器(オブザーバゲイン)81、82と、積分器80(張力発生モデル)、83とを組み合わせることにより実現できる。
【0056】
実機の張力測定値Tmと張力推定値xs1とにより外乱オブザーバで推定される、被圧延材3の伸び量の推定値ds1を、前述した被圧延材3の伸び量K10として採用する。推定器16は、当該伸び量K10を用いて、例えば(17)式において用いられている被圧延材3の伸び量K10を予め設定した周期でリアルタイムに逐次変更する。ゲイン調整器17は、このようにして被圧延材3の伸び量K10が変更される度にゲインKf011を算出して、ルーパ制御器14に出力する。
【0057】
ところで、以上のようにしてゲイン調整器17でルーパ制御器14のゲインKf011を変更し、被圧延材3の硬度の変動による"張力Fの変動とルーパ角度θの変動"の抑制を実現するが、このようにしてゲインKを変更すると、ルーパ制御器14のゲインKが急峻に変更することとなる。このため、ゲインKの変更時に張力Fが不安定化する可能性がある。そこで、本実施の形態では、ルーパ制御器14のゲインKを移動平均することで、急峻なゲインKの変更を防ぐようにしている。そのための方法として、以下の(23)式に示すように、ゲイン調整器17で算出したルーパ制御器14のゲインKの50個分のデータ(予め設定した期間のデータ)を平均し、ルーパ制御器14のゲインKを緩やかに変更する。尚、(23)式には、(17)式に示したルーパ制御器14のゲインKf011に含まれる被圧延材3の伸び量であるK10を、外乱オブザーバにより推定した被圧延材3の伸び量K10を用いて変更し、ルーパ制御器14のゲインKf011の移動平均を実行した例を示す。
【0058】
【数13】
【0059】
なお、(23)式において、Kf011[k−1]はルーパ制御器14のゲインKf011の1時刻前のデータを表す。
これら(21)式〜(23)式の方法を用いることにより、ルーパ制御器14のゲインKf011を被圧延材3の硬度の変動に追従するように変更することができ、被圧延材3の硬度の変動による張力Fの変動とルーパ角度θの変動とを抑制することが可能となる。
【0060】
図5は、ルーパ制御器14のゲインKf011を算出するためのゲイン調整器17における構成の一例を示すブロック線図である。すなわち、ゲイン調整器17が、前述した(17)、(23)式で演算する処理を表すブロック線図である。
図5に示すように、乗算器100〜102、除算器103、104、増幅器105〜107、一次遅れ要素106、減算器108、加算器109を組み合わせることにより、ゲインKf011を算出するための構成がゲイン調整器17内に得られる。
【0061】
ゲイン調整器17は、推定器16で(21)式により算出された被圧延材3の伸び量ds1(K10)を入力して、ゲインKf011を算出する。算出したゲインKf011の50時刻前までのデータを用いて、ゲインKf011を平均化し、その出力値を、図2に示した増幅器66のゲインKf011として設定する。図5に示した移動平均を演算するブロックもゲイン調整器17に組み込むとよい。
以上のように本実施形態では、減算器22により第1の導出手段が実現され、推定器16により推定手段が実現され、ルーパ制御器14及びゲイン調整器17により第2の導出手段が実現される。
なお、ゲイン調整器17は、以上の態様のほか、推定器16又はルーパ制御器14に組み込むことが可能であることは明らかである。
【0062】
又、ゲインKf011の移動平均値をルーパ制御器14に設定すれば、急峻なゲインKの変更を防ぐことができるので好ましいが、移動平均値ではなくゲインKf011そのものをルーパ制御器14に設定してもよい。
又、ルーパ制御器14に、例えばゲインKf011を変更するか否かを判定するための閾値を予め設定しておき、ゲイン調整器17で得られた"ゲインKf011そのもの又はゲインKf011の移動平均値"が、該閾値を超えるか否かをルーパ制御器14が判定し、該閾値を超える場合には、ゲインKf011をゲイン調整器17で得られた"ゲインKf011そのもの又はゲインKf011の移動平均値に変更し、そうでない場合にはゲインKf011を変更しないようにしてもよい。
【0063】
又、図1に概略を示した本実施の形態の連続圧延機の張力及びルーパ制御装置を、パーソナルコンピュータ又はPLC(Programmable Logic Controller)等で構成することができる。当該制御装置を主幹制御装置に組み込む際には、前段ミルモータ4の回転速度Vr1と後段ミルモータ5の回転速度Vr2との前後速度偏差(Ve=Vr2−Vr1)を用いて、被圧延材3の伸び量K10を推定する推定器と、(23)式に示したようなルーパ制御器14のゲインKを移動平均する数式を所定のクロック時間で動作するように、離散化して構成する。当該主幹制御装置をパーソナルコンピュータ又はPLCで構成する場合には、半導体メモリやハードディスクドライブ、入力手段としてのキーボード及びマウス、出力手段としてのコンピュータディスプレー、及びディジタル又はアナログ入出力ボードを用いるとよい。又、工場内のネットワークに接続するためのLANボードを当該主幹制御装置が具備してもよい。そして、前述した制御用の各計算等の信号処理・データ処理を実行するためのコンピュータプログラムを作成して、当該主幹制御装置の内蔵メモリ等にインストールするとよい。又、以上では本実施の形態の連続圧延機の張力及びルーパ制御装置について詳細に説明したが、図1、図2、図4、及び図7に示した各ブロックで実行する一連の演算・制御の処理手順で構成された連続圧延機の張力及びルーパ制御方法も本発明に含まれる。
【0064】
<シミュレーションの結果>
前段スタンド1と後段スタンド2との間での被圧延材3の硬度の変動による張力Fの変動を確認するために、連続圧延機のシミュレーションを実施した。具体的に説明すると、実機の張力測定値Tmを用いて、(21)式により、被圧延材3の伸び量K10を推定する(被圧延材3の伸び量の推定値ds1を算出する)シミュレーションを行った。
図6は、連続圧延機のシミュレーションを行って被圧延材3の伸び量K10を推定した結果の一例を示す図である。
図6は、ヤング率E=1500[kgf/mm2]、スタンド間距離L=5846[mm]、ωHC=10[rad/s]、ωTC=20[rad/s]、外乱オブザーバゲインK1=20、K2=365とし、圧延条件として、板厚2mmの鋼材を作り込むことを想定してシミュレーションを行った結果である。
【0065】
図6に示すように、被圧延材3の硬度の変動により張力Fの変動が発生すると、被圧延材3の伸び量K10の推定値ds1は大きく変動している。ここで、図6は、実機の張力測定値Tmや前後速度偏差Ve(ミルモータの回転速度)等のデータを用いて推定を行った結果である。このとき、(17)式に示した"被圧延材3の伸び量K10"を一定としており、実際の被圧延材3の伸び量と被圧延材3の伸び量の設定値との間に大きく乖離が生じ、張力Fの変動が発生する可能性がある。
【0066】
そこで、このことを確認するために、シミュレーションで被圧延材3の硬度の変動を模擬した。具体的に、被圧延材3の伸び量K10を示すパラメータを、シミュレーションを開始してから10秒後にステップ状に変化させることとした。図7は、被圧延材3の板伸びパラメータをステップ状に変化させた場合に被圧延材3に生じる張力FBKをシミュレーションした結果の一例を示す図である。
【0067】
図7に示すように、被圧延材3の伸び量K10を表すパラメータをステップ状に変化させることで、張力FBKの変動が発生する。このことから、被圧延材3の硬度の変動が発生することで張力FBKの変動が生じることが分かる。
このように被圧延材3の硬度の変動が生じることで発生する張力FBKの変動を抑制するために、(21)式に示した外乱オブザーバにより推定した被圧延材3の伸び量K10の推定値ds1を用いて、ルーパ制御器14のゲインKを変更した。図8は、被圧延材3の伸び量の推定値ds1を用いて、ルーパ制御器14のゲインKf011を変更した場合に被圧延材3に生じる張力FBKをシミュレーションした結果の一例を示す図である。このシミュレーションでは、被圧延材3の伸び量K10を示すパラメータを、シミュレーションを開始してから10秒後にステップ状に変化させている。
【0068】
図8に示すように、被圧延材3の硬度の変動に対して、(21)式〜(23)式に示した被圧延材3の伸び量K10を外乱オブザーバで推定し、推定した被圧延材3の伸び量K10に追従させてルーパ制御器14のゲインKの変更を行うことで、前段スタンド1と後段スタンド2との間での被圧延材3の硬度の変動による張力Fの変動を抑制することができる。その結果、被圧延材3の板厚や板幅の劣化、板破断等のトラブルを防止でき、生産量の大きな増加に繋がる。
【0069】
以上のように本実施の形態では、張力検出器12で検出した"前段スタンド1と後段スタンド2との間の被圧延材3の張力F"の検出値Tmと張力指令値Trefとの偏差Teと、ルーパ角度検出器11で検出したルーパ角度θの検出値θmとルーパ角度指令値θrefとの偏差θeとを用いて、前段スタンド1と後段スタンド2との間の被圧延材3の張力Fとルーパ角度θとを制御する際に、前段ミルモータ4の回転速度Vr1と後段ミルモータ5の回転速度Vr2との偏差Veを用いて、推定器16が被圧延材3の硬度(被圧延材3の伸び量K10)を推定し、その推定値ds1を用いて、ルーパ制御器14のゲインKf011を変更する。すなわち、本実施の形態では、被圧延材3の機械的物性の場所による変動による伸び量K10を逐次推定し、当該伸び量K10の推定値ds1に基づきルーパ制御器14の調整可能なゲインKf011を設定するようにした。したがって、被圧延材3の高速・高精度な圧延に際して、スタンド1、2間の張力Fの変動とルーパ角度θの変動との相互干渉を従来よりも低いレベルに抑制し、且つ被圧延材3の機械的特性等の変動により発生する、被圧延材3の張力の変動に対して、被圧延材3の張力F及びルーパ角度θの変動を可及的に抑制することが可能になった。
【0070】
また、本実施の形態では、被圧延材3の張力Fの測定値と目標値Trefとの張力偏差(Te=Tref−Tm)、及びルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差(θref−θm)のそれぞれを入力値として、被圧延材3の張力Fとルーパ角度θとの干渉を、制御対象の変数と指定応答の変数とを含んだ数式で表現される非干渉化コントローラ(クロスコントローラ62、63)で打ち消すようにした。したがって、圧延スタンド1、2間の張力Fの変動とルーパ角度θの変動との相互干渉を従来よりも容易に低いレベルに抑制することが可能になった。
【0071】
尚、以上説明した本発明の実施の形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施の形態として適用することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。前記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、以上説明した本発明の実施の形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施形態を示し、連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態を示し、ルーパ制御器の構成の一例を示すブロック線図である。
【図3】本発明の実施形態を示し、ILQ最適サーボ系の構成の一例を示すブロック線図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、外乱オブザーバの構成の一例を示すブロック線図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、ルーパ制御器のゲインを算出するためのゲイン調整器における構成の一例を示すブロック線図である。
【図6】本発明の実施形態を示し、連続圧延機のシミュレーションを行って被圧延材の伸び量を推定した結果の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態を示し、被圧延材の板伸びパラメータをステップ状に変化させた場合に被圧延材に生じる張力をシミュレーションした結果の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態を示し、被圧延材の伸び量の推定値を用いて、ルーパ制御器のゲインを変更した場合に被圧延材3に生じる張力をシミュレーションした結果の一例を示す図である。
【図9】連続圧延機の構成の一例を示す図である。
【図10】連続圧延機のルーパ制御に用いられる従来の張力・ルーパ角度制御装置の第1の例を示すブロック図である。
【図11】連続圧延機のルーパ制御に用いられる従来の張力・ルーパ角度制御装置の第2の例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0073】
1 前段スタンド
2 後段スタンド
3 被圧延材
4 前段ミルモータ
5 後段ミルモータ
6 ルーパ
7 ルーパモータ
8 前段ミルモータ速度検出器
9 ルーパ速度制御器
10 ルーパ速度検出器
11 ルーパ角度検出器
12 張力検出器
13 後段ミルモータ速度検出器
14 ルーパ制御器
16 推定器(外乱オブザーバ)
17 ゲイン調整器
18 前段ミルモータ速度制御器
19〜23 減算器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミルモータを備えた前段スタンド及び後段スタンドと、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間に配設された、ルーパモータを備えたルーパとを有する、金属板を被圧延材とする連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置であり、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間での前記被圧延材の張力Fと前記ルーパのルーパ角度θとを、それぞれ目標値Tref、θrefに追従させる連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置であって、
前記張力Fの測定値と目標値Trefとの偏差、及び前記ルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差を入力値として、前記前段ミルモータの回転速度の制御量及び前記ルーパの角速度の制御量を、調整可能なゲインKを用いて演算して出力するルーパ制御器と、
前記前段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr1と、前記後段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr2との回転速度偏差(Vr2−Vr1)を算出して出力する減算器と、
前記回転速度偏差(Vr2−Vr1)を入力値として、前記被圧延材の機械的特性に基づき前記被圧延材の伸び量K10を、前記連続圧延機の外乱オブザーバにより推定する推定器と、
前記調整可能なゲインKを、前記推定器で推定された被圧延材の伸び量K10に基づいて設定するゲイン調整器とを具備し、
前記ルーパ制御器は、前記被圧延材の機械的物性の変動に追従して調整される前記ゲインKに基づいて前記制御量を演算することを特徴とする連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置。
【請求項2】
前記ゲイン調整器は、前記推定器から出力された被圧延材の伸び量K10について、予め設定した期間の移動平均値を演算し、該演算した被圧延材の伸び量K10の移動平均値を用いて前記調整可能なゲインKを設定することを特徴とする請求項1に記載の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置。
【請求項3】
前記ゲイン調整器は、前記調整可能なゲインKを設定する際に、前記推定器から出力された被圧延材の伸び量K10、又は、被圧延材の伸び量K10の移動平均値が、閾値を超えているか否かを判定し、該閾値を超えている場合に、前記調整可能なゲインKを変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置。
【請求項4】
前記ルーパ制御器は、前記被圧延材の張力Fの測定値と目標値Trefとの偏差、及びルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差のそれぞれを入力値として、前記被圧延材の張力Fとルーパ角度θとの干渉を打ち消す非干渉化コントローラであるクロスコントローラを具備することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置。
【請求項5】
ミルモータを備えた前段スタンド及び後段スタンドと、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間に配設された、ルーパモータを備えたルーパとを有する、金属板を被圧延材とする連続圧延機の制御方法であり、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間での前記被圧延材の張力Fと前記ルーパのルーパ角度θとを、それぞれ目標値Tref、θrefに追従させる連続圧延機の張力及びルーパ角度制御方法であって、
前記張力Fの測定値と目標値Trefとの偏差、及び前記ルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差を入力値として、前記前段ミルモータの回転速度の制御量及び前記ルーパの角速度の制御量を、調整可能なゲインKを用いて演算して出力するルーパ制御工程と、
前記前段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr1と、前記後段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr2との回転速度偏差(Vr2−Vr1)を算出して出力する減算工程と、
前記回転速度偏差(Vr2−Vr1)を入力値として、前記被圧延材の機械的特性に基づき前記被圧延材の伸び量K10を、前記連続圧延機の外乱オブザーバにより推定する推定工程と、
前記調整可能なゲインKを、前記推定工程で推定された被圧延材の伸び量K10に基づいて設定するゲイン調整工程とを具備し、
前記ルーパ制御工程は、前記被圧延材の機械的物性の変動に追従して調整される前記ゲインKに基づいて前記制御量を演算することを特徴とする連続圧延機の張力及びルーパ角度制御方法。
【請求項6】
前記ゲイン調整工程は、前記推定工程で得られた被圧延材の伸び量K10について、予め設定した期間の移動平均値を演算し、該演算した被圧延材の伸び量K10の移動平均値を用いて前記調整可能なゲインKを設定することを特徴とする請求項5に記載の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御方法。
【請求項7】
前記ルーパ制御工程は、前記被圧延材の張力Fの測定値と目標値Trefとの偏差、及びルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差のそれぞれを入力値として、前記被圧延材の張力Fとルーパ角度θとの干渉を、非干渉化コントローラであるクロスコントローラにより打ち消すことを特徴とする請求項5又は6に記載の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御方法。
【請求項8】
ミルモータを備えた前段スタンド及び後段スタンドと、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間に配設された、ルーパモータを備えたルーパと、金属板を被圧延材とする連続圧延機とを備える連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置であって、
前記前段スタンドが備えるミルモータの回転速度と、前記後段スタンドが備えるミルモータの回転速度との回転速度偏差を導出する第1の導出手段と、
前記第1の導出手段により算出された回転速度偏差と、前記被圧延材の機械的特性に基づいて、前記被圧延材の伸び量を推定する推定手段と、
前記前段ミルモータの回転速度の制御量及び前記ルーパの角速度の制御量を導出する第2の導出手段とを有し、
前記第2の導出手段は、前記推定手段により推定された被圧延材の伸び量に応じて、前記制御量を調整することを特徴とする連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置。
【請求項1】
ミルモータを備えた前段スタンド及び後段スタンドと、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間に配設された、ルーパモータを備えたルーパとを有する、金属板を被圧延材とする連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置であり、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間での前記被圧延材の張力Fと前記ルーパのルーパ角度θとを、それぞれ目標値Tref、θrefに追従させる連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置であって、
前記張力Fの測定値と目標値Trefとの偏差、及び前記ルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差を入力値として、前記前段ミルモータの回転速度の制御量及び前記ルーパの角速度の制御量を、調整可能なゲインKを用いて演算して出力するルーパ制御器と、
前記前段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr1と、前記後段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr2との回転速度偏差(Vr2−Vr1)を算出して出力する減算器と、
前記回転速度偏差(Vr2−Vr1)を入力値として、前記被圧延材の機械的特性に基づき前記被圧延材の伸び量K10を、前記連続圧延機の外乱オブザーバにより推定する推定器と、
前記調整可能なゲインKを、前記推定器で推定された被圧延材の伸び量K10に基づいて設定するゲイン調整器とを具備し、
前記ルーパ制御器は、前記被圧延材の機械的物性の変動に追従して調整される前記ゲインKに基づいて前記制御量を演算することを特徴とする連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置。
【請求項2】
前記ゲイン調整器は、前記推定器から出力された被圧延材の伸び量K10について、予め設定した期間の移動平均値を演算し、該演算した被圧延材の伸び量K10の移動平均値を用いて前記調整可能なゲインKを設定することを特徴とする請求項1に記載の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置。
【請求項3】
前記ゲイン調整器は、前記調整可能なゲインKを設定する際に、前記推定器から出力された被圧延材の伸び量K10、又は、被圧延材の伸び量K10の移動平均値が、閾値を超えているか否かを判定し、該閾値を超えている場合に、前記調整可能なゲインKを変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置。
【請求項4】
前記ルーパ制御器は、前記被圧延材の張力Fの測定値と目標値Trefとの偏差、及びルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差のそれぞれを入力値として、前記被圧延材の張力Fとルーパ角度θとの干渉を打ち消す非干渉化コントローラであるクロスコントローラを具備することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置。
【請求項5】
ミルモータを備えた前段スタンド及び後段スタンドと、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間に配設された、ルーパモータを備えたルーパとを有する、金属板を被圧延材とする連続圧延機の制御方法であり、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間での前記被圧延材の張力Fと前記ルーパのルーパ角度θとを、それぞれ目標値Tref、θrefに追従させる連続圧延機の張力及びルーパ角度制御方法であって、
前記張力Fの測定値と目標値Trefとの偏差、及び前記ルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差を入力値として、前記前段ミルモータの回転速度の制御量及び前記ルーパの角速度の制御量を、調整可能なゲインKを用いて演算して出力するルーパ制御工程と、
前記前段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr1と、前記後段スタンドが備えるミルモータの回転速度Vr2との回転速度偏差(Vr2−Vr1)を算出して出力する減算工程と、
前記回転速度偏差(Vr2−Vr1)を入力値として、前記被圧延材の機械的特性に基づき前記被圧延材の伸び量K10を、前記連続圧延機の外乱オブザーバにより推定する推定工程と、
前記調整可能なゲインKを、前記推定工程で推定された被圧延材の伸び量K10に基づいて設定するゲイン調整工程とを具備し、
前記ルーパ制御工程は、前記被圧延材の機械的物性の変動に追従して調整される前記ゲインKに基づいて前記制御量を演算することを特徴とする連続圧延機の張力及びルーパ角度制御方法。
【請求項6】
前記ゲイン調整工程は、前記推定工程で得られた被圧延材の伸び量K10について、予め設定した期間の移動平均値を演算し、該演算した被圧延材の伸び量K10の移動平均値を用いて前記調整可能なゲインKを設定することを特徴とする請求項5に記載の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御方法。
【請求項7】
前記ルーパ制御工程は、前記被圧延材の張力Fの測定値と目標値Trefとの偏差、及びルーパ角度θの測定値と目標値θrefとの偏差のそれぞれを入力値として、前記被圧延材の張力Fとルーパ角度θとの干渉を、非干渉化コントローラであるクロスコントローラにより打ち消すことを特徴とする請求項5又は6に記載の連続圧延機の張力及びルーパ角度制御方法。
【請求項8】
ミルモータを備えた前段スタンド及び後段スタンドと、前記前段スタンド及び前記後段スタンドの間に配設された、ルーパモータを備えたルーパと、金属板を被圧延材とする連続圧延機とを備える連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置であって、
前記前段スタンドが備えるミルモータの回転速度と、前記後段スタンドが備えるミルモータの回転速度との回転速度偏差を導出する第1の導出手段と、
前記第1の導出手段により算出された回転速度偏差と、前記被圧延材の機械的特性に基づいて、前記被圧延材の伸び量を推定する推定手段と、
前記前段ミルモータの回転速度の制御量及び前記ルーパの角速度の制御量を導出する第2の導出手段とを有し、
前記第2の導出手段は、前記推定手段により推定された被圧延材の伸び量に応じて、前記制御量を調整することを特徴とする連続圧延機の張力及びルーパ角度制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−29889(P2010−29889A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192830(P2008−192830)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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