説明

連続式インクジェットプリンタ

【課題】印刷ピッチ間の余剰インク粒子を利用して印字品位を向上させた連続式インクジェットプリンタを提供すること。
【解決手段】連続式インクジェットプリンタ1は、インク粒子を連続的に噴射するインク粒子発生手段50と、噴射されたインク粒子を帯電させる帯電手段54と、帯電されたインク粒子を偏向させる偏向手段55とを備え、相対移動する印刷対象物の印刷対象面に所定のドットマトリックスパターンGを形成するプリンタであって、インク粒子の噴射周期と、列毎の印刷ピッチと、各列の列ドット数と、印刷対象物の相対移動速度とに基づいて、利用可能な間引きインク粒子の数を算出する間引き数算出手段10と、間引き数算出手段10により算出された数の間引きインク粒子を、着弾用インク粒子の前方位置または後方位置に割り当てる間引き粒子割当手段11とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期的に噴射したインク粒子への帯電量を制御して印刷対象面に印刷する連続式インクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
連続式インクジェットプリンタは、たとえば、図7に示すように、ガン51とノズル52とを備えるインク粒子発生手段50と、帯電手段としての帯電電極54,54と、偏向手段としての偏向電極55,55と、ガター56とを備え、印刷対象物70の印刷対象面に所定のドットマトリクスパターンG(この例では英文字の“H”を表している)を形成するようになっている。インク粒子発生手段50は、ノズル52の先端から噴射されるインク流にピエゾ素子等を用いて一定周波数の脈動を与えることによって噴射後に所定の粒径のインク粒子60,60,60,・・・を発生させ、このインク粒子60をガター56に向けて飛行させる。例えば、ピエゾ素子の作動周波数が73.5kHzの場合、73500粒/secのインク粒が13.6μsec毎に噴射される。
【0003】
このようにして飛行するインク粒子60の中には、帯電させることによって印刷対象面の所定のドット着弾位置に着弾する着弾用インク粒子60Aが少なくとも含まれている。また、必要に応じて、ドットマトリックスパターン中の空白ドットDB(図10参照)を形成する空白用インク粒子60Bと、着弾用インク粒子60Aの前方位置または後方位置を飛行する間引きインク粒子60Cが含まれている。これらの空白用インク粒子60Bと間引きインク粒子60Cは帯電電極54により帯電されないことからガター56で収受されてインク回収路57に回収される。帯電電極54,54は、発生したインク粒子60のうち帯電対象インク粒子60Pが、2つの帯電電極54,54の間を通過する間に、予め記憶手段に記憶された印刷情報の各着弾用インク粒子60A毎の帯電情報に従った帯電量に帯電させた着弾用インク粒子60Aを形成する。
【0004】
偏向電極55,55は、帯電電極54,54間で帯電した着弾用インク粒子60Aを対面して設けられた偏向電極55,55間を通る間に偏向電極55,55間に形成された静電場によって帯電量に対応した偏向度合いで偏向させる。すなわち、偏向度合いを変えることによって、着弾用インク粒子60Aを印刷対象面の対応する着弾位置に着弾させて印刷対象面に所定のドットマトリクスパターンGを形成するようになっている。また、検知電極58は、帯電電極54,54間で帯電された着弾用インク粒子60Aの電荷を検知して帯電が正常に行われているか、インク粒子60の生成が正常に行われているかを検査する。
【0005】
ガター56は、印刷に必要がないため、帯電電極54,54間で帯電されることがない空白用インク粒子60Bおよび間引きインク粒子60Cが受けられるようになっている。また、ガター56によって受けられたインクは、インク回収路57の回収ポンプ(図示省略)によって回収され、インク供給路53からインク粒子発生手段50に送られて、再び印刷に用いられる。
【0006】
尚、間引きインク粒子60Cとは、図8に示すように、着弾用インク粒子60A,60A間で相互に働くクーロン力や、印刷対象面に向って前を飛ぶ着弾用インク粒子60Aの疎密による空気抵抗の差を減少させて印刷の品位を向上させるため、着弾用インク粒子60Aと着弾用インク粒子60Aとの間に設けられるインク粒子である。着弾用インク粒子60A,60A間の間引きインク粒子60Cの数(間引き数)を増やすと、印刷品位が高くなる。
【0007】
【特許文献1】特開2000−233503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した着弾用インク粒子60A,60A間の間引きインク粒子60Cの数(整数:通常間引き数M)は、図9に示すように、印刷速度(相対移動速度)に応じてM=0、1、2、・・・と階段状に設定されている。これにより、印刷速度により設定可能な通常間引き数Mが整数に限られるため、印刷品位も階段状にならざるを得なかった。
一方で、特許文献1に記載されたインクジェット記録装置のように、連続する複数のドットの先頭部分の間引き数を増やす手法が知られているが、これだけでは十分な印刷品位の向上は見込めない。
また、例えば通常間引き数M=0と1の境界付近(図9中のQで示す位置)では、縦1列全ドットに対応する全てのインク粒子に間引きインク粒子を1つ割り当てるには足りないが、ドットマトリクスパターンの列毎の印刷にかかる印刷ピッチ内の全体のインク粒子に関してはいくつかの余剰インク粒子が存在していることが多い。
【0009】
例えば、図10に示したドットマトリクスGは、通常間引き数Mが0の条件下で、着弾用インク粒子60A,60A,60A,・・・により5行の列ドット数で3列形成された着弾ドットDT,DT,DT,・・・と、空白用インク粒子60B,60B,60B,・・により4列目に形成された空白ドットDB,DB,DB,・・とから構成されている。
斯かるドットマトリクスGを形成するにあたり、印刷ヘッド機構40からのインク粒子の噴射周期Lに対し、印刷速度Vが相対的に遅い場合は、図11に示すように、1列分の印刷ピッチP中において、着弾用インク粒子60A(1−1)〜60A(1−5)の後方位置、着弾用インク粒子60A(2−1)〜60A(2−5)の後方位置、着弾用インク粒子60A(3−1)〜60A(3−5)の後方位置、空白用インク粒子60B(4−1)〜60B(4−5)の後方位置に、余剰インク粒子60F(ここでは、3個)がそれぞれ生じることがある。このように生じた3個の余剰インク粒子60F,60F,60Fは、これまでは何ら利用されていなかったのである。
【0010】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、印刷速度との関係で印刷ピッチ間において生じる余剰インク粒子を有効に利用することにより、印字品位を向上させることのできる連続式インクジェットプリンタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る連続式インクジェットプリンタは、インク粒子を連続的に噴射するインク粒子発生手段と、インク粒子発生手段から噴射された着弾用インク粒子を、予め記憶手段に記憶された印刷情報に基づいて帯電させる帯電手段と、帯電されたインク粒子を偏向させる偏向手段とを備える印刷ヘッド機構を有し、印刷ヘッド機構に対して相対移動する印刷対象物の印刷対象面に所定のドットマトリックスパターンを形成するインクジェットプリンタにおいて、前記インク粒子を、ドットマトリックスパターン中の着弾ドットを形成するように帯電される着弾用インク粒子と、ドットマトリックスパターン中の空白ドットを形成するようにインク回収路に回収される空白用インク粒子と、着弾用インク粒子または空白用インク粒子の前方位置または後方位置を飛行してインク回収路に回収される間引きインク粒子とから構成するとともに、インク粒子発生手段によるインク粒子の噴射周期と、ドットマトリックスパターンの列毎の印刷にかかる印刷ピッチと、ドットマトリックスパターンの各列を構成する列ドット数と、印刷ヘッド機構に対する印刷対象物の相対移動速度とに基づいて、利用可能な間引きインク粒子の数を算出する間引き数算出手段と、間引き数算出手段により算出された数の間引きインク粒子を、着弾用インク粒子の前方位置または後方位置に割り当てる間引き粒子割当手段とを具備してなる構成にしてある。
【0012】
また、前記構成において、間引き粒子割当手段が、ドットマトリックスパターン中の同じ列内で複数連なる着弾ドットの元になる着弾用インク粒子の前方位置または後方位置に間引きインク粒子を割り当てるように構成されているものである。
【0013】
そして、前記した各構成において、間引き粒子割当手段が、ドットマトリックスパターン中の同じ列内の複数の着弾ドットの元になる着弾用インク粒子のうち、帯電量の高い着弾用インク粒子から優先して間引きインク粒子を割り当てるように構成されているものである。
【0014】
更に、前記した各構成において、間引き粒子割当手段が、ドットマトリクスパターン中の空白ドットの元になる空白用インク粒子の前方位置または後方位置に間引きインク粒子を割り当てるように構成されているものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る連続式インクジェットプリンタによれば、インク粒子の噴射周期と、ドットマトリクスパターンの列毎の印刷ピッチと、列ドット数と、印刷ヘッド機構に対する印刷対象物の相対移動速度とに基づいて利用可能な間引きインク粒子の数を算出し、算出した数の間引きインク粒子を着弾用インク粒子の前方位置または後方位置に割り当てるようになっているので、印刷ピッチ間で生じた余剰インク粒子を有効に利用できる。これにより、印字品位の向上化を図ることができる。
【0016】
また、ドットマトリックスパターン中の同じ列内で複数連なる着弾ドットの元になる着弾用インク粒子に間引きインク粒子を割り当てるようにしたものでは、連なる着弾ドットの元となる着弾用インク粒子間の影響が小さくなることから、印刷品位を向上させることができる。
【0017】
そして、ドットマトリックス中の同じ列内の複数の着弾ドットの元になる着弾用インク粒子のうち、帯電量の高い着弾用インク粒子から優先して間引きインク粒子を割り当てるようにしたものでは、近隣の着弾用インク粒子の影響を受けにくくなることから、印刷品位を向上させることができる。
【0018】
更に、ドットマトリックスパターン中の空白ドットの元になる空白用インク粒子にも間引きインク粒子を割り当てるようにしたものでも、その空白用インク粒子の両側にある着弾用インク粒子同士の影響が小さくなるので、印刷品位の向上化につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。ここに、図1は本発明の一実施形態に係る連続式インクジェットプリンタを模式的にあらわす構成図である。
図において、この実施形態に係る連続式インクジェットプリンタ(以下、「プリンタ」とのみ記す)1は、従来のプリンタと同様に、ガン51およびノズル52からなるインク粒子発生手段50と、帯電手段としての帯電電極54,54と、検知電極58,58と、偏向電極55,55とからなる印刷ヘッド機構40とを有し、更に制御部2と、印刷ヘッド機構40に対する印刷対象物70(図7参照)の搬送速度(相対移動速度)Vを計測して制御部2に送信する速度計8とを備えている。
【0020】
制御部2は、メインメモリ3と、メインCPU(中央演算処理装置)4と、印刷制御CPU5と、デジタル−アナログ変換部6と、増幅部7とを備えている。制御部2のメインCPU4は、メインメモリ3に記憶された印字データ、この印字データの列ドット数K、通常間引き数M、インク粒子発生手段50により連続して噴射されるインク粒子60の噴射周期L、および文字高さ設定データなどの印刷情報を読み出し、読み出した印刷情報から印刷指令信号を作成して印刷制御CPU5に出力する。このメインCPU4は、後で詳述する間引き数算出手段10の機能も備えている。印刷制御CPU5は、メインCPU4からの印刷指令信号に基づいてデジタル−アナログ変換部6および増幅部7を作動させ、帯電電極54,54からインク粒子60にかけられる帯電量を制御するようになっている。この印刷制御CPU5は間引き粒子割当手段11の機能も備えている。
【0021】
上記した構成の連続式インクジェットプリンタ1によれば、印刷に際して、メインCPU4の間引き数算出手段10の機能が、インク粒子60の噴射周期Lと、ドットマトリックスパターンGの1列を構成する列ドット数Kと、速度計8により計測された印刷対象物Fの搬送速度(すなわち、印刷ヘッド機構40(固定)に対する相対移動速度)Vと、ドットマトリックスパターンの列毎の印刷にかかる印刷ピッチPとに基づいて、下式(1)により、間引きに利用可能な余剰インク粒子60Fの数Nを算出する。
N=(S/L)−K ・・・ (1)
ここで、S=P/V
S:印刷ピッチPの周期である。
続いて、印刷制御CPU5の間引き粒子割当手段11の機能が、間引き数算出手段10により算出された数Nの余剰インク粒子60F(図11参照)を、間引き利用可能インク粒子60Eとして着弾用インク粒子60Aの後方位置に割り当てる。そして、印刷制御CPU5は、メインCPU4で割り当てられた間引きインク粒子60Eの元になるインク粒子60への帯電を停止させて間引きインク粒子60Eをガター56からインク回収路57に回収する。尚、着弾用インク粒子60Aの前方位置に間引き利用可能インク粒子60Eを割り当てても構わない。
【0022】
そこで、この連続式インクジェットプリンタ1により、既述した図10のドットマトリックスパターンGを印刷する場合は、図11のように生じた3つの余剰インク粒子60Fが間引き利用インク粒子60Eとして利用される。すなわち、図2に示すように、1列分の印刷ピッチP間において、着弾用インク粒子60A(1−2)〜60A(1−4),60A(2−2)〜60A(2−4),60A(2−2)〜60A(2−4)の後方位置にそれぞれ間引き利用インク粒子60Eが割り当てられて噴射され、ガター56から回収される。空白用インク粒子60B(4−2)〜60A(4−4)の後方位置にもそれぞれ間引き利用インク粒子60Eが割り当てられて回収される。
【0023】
以上のように、この連続式インクジェットプリンタ1は、噴射周期L、搬送速度V、列ドット数K、および印刷ピッチPから、印刷ピッチP内における余剰インク粒子60Fの数Nを算出し、実際の帯電を行なう際に余剰インク粒子60Fを間引き利用インク粒子60Eとして利用する。これにより、間引き数と相対移動速度との関係が、従来のような階段状(図3の1点鎖線で示す)とはならず、図3の曲線Rのように滑らかに設定することができ、実使用上の印刷品位を従来と比べて全体的に通常間引き数Mの1つ分近くまで引き上げることができる。特に、今まで通常間引き数M=0でしか使えなかった移動速度領域でも通常間引き数M=1による印刷品位とほぼ同等の高い品位で印刷することができる。
【0024】
この連続式インクジェットプリンタ1を用いたドットマトリクスパターン(英文字ABCDEと数字01234の二段書きイメージ)の印刷出力例を図4の実施例1〜4に示す。実施例1〜3は通常間引き数Mを0とし、搬送速度Vを通常間引き数M=0での最高速である181.8m/分、140.0m/分、88.2m/分と変化させたものである。実施例4は通常間引き数Mを1に設定し、搬送速度Vを通常間引き数M=1での最高速である88.2m/分にしたものである。尚、上記の図3に示した曲線R上において、実施例1はQ1の位置に、実施例2はQ2の位置に、実施例3はQ3の位置に、実施例4はQ4の位置にそれぞれ対応している。
【0025】
実施例1は余剰インク粒子の数Nが0であって後述する比較例1と同条件であり、印刷出力例欄においてDで示すいくつかの着弾ドットが目標着弾位置から離れた位置に印刷されており、印刷品位がかなり低くなっている。
実施例1から搬送速度を140.0m/分まで下げると、実施例2のように1列の印刷ピッチP内における余剰インク粒子の数Nの全インク粒子数に対する割合が0.5となり、これらの余剰インク粒子が間引き利用インク粒子に利用されるため、実施例1と比べてドットマトリクスパターンの印刷品位は向上している。
更に実施例2から搬送速度を下げると、実施例3のように1列の印刷ピッチP内における余剰インク粒子60Fの数Nの割合が0.9と、通常間引き数M=1.0にかなり近くなる。これにより、実施例3は、搬送速度が同じであるにも拘わらず実施例3と同じで通常間引き数M=1の実施例4の印刷出力例と比べてほとんど差のない印刷品位が得られている。
【0026】
因みに、一般的な連続式インクジェットプリンタを用い、実施例1〜4と同じ印刷条件で、且つ、本実施形態特有の余剰インク粒子利用の制御を行なうことなく印刷した結果を図5の比較例1〜4にそれぞれ示す。比較例1,4は実施例1,4と同等の印刷品位であったが、比較例2は実施例2と比べて、また比較例3は実施例3と比べていずれも、明らかに印刷品位が劣っていることがわかる。
【0027】
ここで、ドットマトリックスパターンの各列の余剰インク粒子60Fの数Nを算出する具体例を説明する。
「計算例1」
例えば、噴射周期L=13.6μSec、列ドット数K=12、印刷ピッチP=0.5mm、通常間引き数M=0、および搬送速度V=110m/分の条件で印刷するものとする。
この場合、印刷ピッチPの周期S(印刷ピッチP÷搬送速度V=0.5mm÷(110m/分×1000mm÷60秒)は272μSecとなる。そして、周期S中に存在し得るインク粒子数(周期S÷噴射周期L=272μSec÷13.6μSec)は20である。よって,余剰インク粒子60Fの数N(すなわち、間引き利用インク粒子60Eの数=20−12)は8となる。
【0028】
「計算例2」
搬送速度を110m/分から105m/分に変更したこと以外は、計算例1と同じ条件で印刷した。この場合、印刷ピッチPの周期S(印刷ピッチP÷搬送速度V=0.5mm÷(105m/分×1000mm÷60秒)は286μSecとなる。周期S中に存在し得るインク粒子数(周期S÷噴射周期L=272μSec÷13.6μSec)は20である。よって,余剰インク粒子60Fの数N(すなわち、間引き利用インク粒子60Eの数=21−12)は9となる。
【0029】
続いて、連続式インクジェットプリンタ1によって、図6に示すように、2つの“0”の文字を上下2段に配したドットマトリクスパターンG1を印刷する例を示す。ドットマトリクスパターンG1は列ドット数Kを12とし行ドット数を5として形成されている。図中に示したドットD1〜D12の順に対応するインク粒子60が印刷ヘッド機構40のガン51から連続して噴射される。これらのインク粒子60のうち、空白ドットDBであるドットD1,D5,D6,D7,D11,D12に対応するインク粒子60はガター56に回収され、着弾ドットDTであるドットD2,D3,D4,D8,D9,D10に対応するインク粒子60はそれぞれの着弾位置に応じた帯電量がかけられて印刷対象面に着弾する。この場合、通常間引き数Mは0に設定されているものとする。
【0030】
このようなドットマトリクスパターンG1を形成するにあたり、間引き利用インク粒子60Eは原則として着弾ドットDTの元になる着弾用インク粒子60Aの前方位置か後方位置に割り当てられるが、そのうえで更に印刷品位を高める手法を引続き説明する。
まず、間引き利用インク粒子60Eの割り当て態様1として、印刷制御CPU5の間引き粒子割当手段10の機能は、ドットマトリックスパターンG1中の同じ列内で複数連なる着弾ドットDT(D2〜D4、またはD8〜D10)の元になる着弾用インク粒子60Aの後方位置(例えば、S4,S3,S6,S2,S1,S5で示す位置に対応する)に間引き利用インク粒子60Eを優先的に割り当てる。ここで、連なる着弾ドットDTとは、隣り合う着弾ドットDT,DTの間に空白ドットDBが存在しないものをいう。前記のように処理することにより、着弾ドットDT,DTの元となる着弾用インク粒子60A,60A間の影響が小さくなり、印刷品位を向上させることができる。
【0031】
次に、割り当て態様2として、印刷制御CPU5の間引き粒子割当手段10の機能は、ドットマトリックスG1中の同じ列内の複数の着弾ドットDTの元になる着弾用インク粒子60Aのうち、帯電量の高い(すなわち、偏向量の大きい)着弾用インク粒子60A(ドットD10,D9,D8,D4,D3,D2の順に対応)から優先して間引きインク粒子60Eを割り当てる。例えば、S5,S1,S2,S6,S3,S4で示す位置の順に対応する。図6中で紙面上側の位置(以下、上位位置と称する)する着弾ドットDTほど、元になる着弾用インク粒子60Aの帯電量が高く、近隣の着弾用インク粒子60Aの影響を受けやすいことから、前記のように処理することにより印刷品位を向上させることができる。
【0032】
更に、割り当て態様3として、印刷制御CPU5の間引き粒子割当手段10の機能は、ドットマトリクスパターンG1における空白ドットDB(ドットD1,D5,D6,D7,D11,D12)の元になる空白用インク粒子60Bの後方位置(例えば、S9,S8,S7で示す位置に対応する)にも間引き利用インク粒子60Eを割り当てる。これは、例え空白用インク粒子60Bであっても、その前後に間引き利用インク粒子60Eが入れば、その空白用インク粒子60Bの両側に位置する着弾用インク粒子60A,60A同士の影響が小さくなるので、印刷品位を向上させることができる。斯かる処理は、各列に対応する余剰インク粒子60Fの数Nがその列内にある着弾ドットDTの数を超えたとき、超えた分の余剰インク粒子60Fを利用して実行される。この場合、上位位置にある着弾ドットDTほど相互の影響力が及ぶことから、上位位置の空白ドットDBから優先して間引き利用インク粒子60Eを割り当てると、より有効である。すなわち、ドットマトリクスパターンG1では、ドットD12の後方位置S7、ドットD11の後方位置S8、ドットD7の後方位置S9の順に割り当てが実行される。
【0033】
原則的に間引き利用インク粒子60Eは着弾ドットDTの元になる着弾用インク粒子60Aに割り当てられるが、それを前提としたうえで、割り当て態様1、割り当て態様2、割り当て態様3の順に優先的に割り当てるとよい。斯かる優先順位に従って全ての態様1,2,3を順次実行すると、上記したドットマトリクスパターンG1に関する間引き利用インク粒子60Eの割り当て位置の優先順はS1〜S8(N=8のとき)の順、またはS1〜S9(N=9のとき)の順となり、格段に印刷品位が向上する。
【0034】
尚、上記の各実施形態では通常間引き数Mが0の場合を例示したが、本発明はそれに限定されない。例えば、インク粒子60の全て、または着弾用インク粒子60Aの全てに通常間引き数M(1以上の整数)を割り当てたのち、更に間引き利用インク粒子60Eに係る間引き数を前記の通常間引き数Mに加えても構わない。
【0035】
また、上記の実施形態では、印刷ヘッド機構を固定配置して印刷対象物を搬送させるようにしたが、本発明の連続式インクジェットプリンタはそれに限定されるものでなく、例えば印刷対象物を固定配置して印刷ヘッド機構を搬送させるか、あるいは印刷対象物および印刷ヘッド機構の双方を移動させるようにしても構わない。また、これらの相対移動速度データは、実計測値に限るものでない。ほぼ一定速が保障されるならば、記憶手段に予め記憶させておいた相対移動速度データを用いて本発明の処理を行なうことも可能である。
また、上記では、各種機能を分担したメインCPU4と印刷制御CPU5を用いた例を示したが、これらに替えて、メインCPU4と印刷制御CPU5の機能および性能を併せ持つ統合型CPUを用いても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係る連続式インクジェットプリンタを模式的にあらわす構成図である。
【図2】前記連続式インクジェットプリンタの印刷態様を示す模式図である。
【図3】前記連続式インクジェットプリンタでの間引き数と相対移動速度との関係を示すグラフである。
【図4】前記連続式インクジェットプリンタによる実施例を示す説明図である。
【図5】前記連続式インクジェットプリンタの実施例に対応する比較例を示す説明図である。
【図6】前記連続式インクジェットプリンタにより形成されたドットマトリクスパターンの一例を示す模式図である。
【図7】一般的な連続式インクジェットプリンタを模式的にあらわす構成図である。
【図8】一般的な連続式インクジェットプリンタによるインク粒子の噴射態様を示す模式図である。
【図9】一般的な連続式インクジェットプリンタでの通常間引き数と相対移動速度との関係を示すグラフである。
【図10】一般的なドットマトリクスパターンの一例を示す模式図である。
【図11】前記一般的なドットマトリクスパターンの印刷態様を示す模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1 連続式インクジェットプリンタ
3 メインメモリ(記憶手段)
4 メインCPU
8 速度計
10 間引き数算出手段
11 間引き粒子割当手段
40 印刷ヘッド機構
50 インク粒子発生手段
54 帯電電極(帯電手段)
55 偏向電極(偏向手段)
56 ガター
57 インク回収路
60 インク粒子
60A 着弾用インク粒子
60B 空白用インク粒子
60C 間引きインク粒子
60E 間引き利用インク粒子
60F 余剰インク粒子
70 印刷対象物
DB 空白ドット
DT 着弾ドット
G,G1 ドットマトリックスパターン
L 噴射周期
K 列ドット数
N 数
P 印刷ピッチ
V 搬送速度(相対移動速度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク粒子を連続的に噴射するインク粒子発生手段と、インク粒子発生手段から噴射された着弾用インク粒子を、予め記憶手段に記憶された印刷情報に基づいて帯電させる帯電手段と、帯電されたインク粒子を偏向させる偏向手段とを備える印刷ヘッド機構を有し、印刷ヘッド機構に対して相対移動する印刷対象物の印刷対象面に所定のドットマトリックスパターンを形成する連続式インクジェットプリンタにおいて、
前記インク粒子を、ドットマトリックスパターン中の着弾ドットを形成するように帯電される着弾用インク粒子と、ドットマトリックスパターン中の空白ドットを形成するようにインク回収路に回収される空白用インク粒子と、着弾用インク粒子または空白用インク粒子の前方位置または後方位置を飛行してインク回収路に回収される間引きインク粒子とから構成するとともに、
インク粒子発生手段によるインク粒子の噴射周期と、ドットマトリックスパターンの列毎の印刷にかかる印刷ピッチと、ドットマトリックスパターンの各列を構成する列ドット数と、印刷ヘッド機構に対する印刷対象物の相対移動速度とに基づいて、利用可能な間引きインク粒子の数を算出する間引き数算出手段と、間引き数算出手段により算出された数の間引きインク粒子を、着弾用インク粒子の前方位置または後方位置に割り当てる間引き粒子割当手段とを具備してなることを特徴とする連続式インクジェットプリンタ。
【請求項2】
間引き粒子割当手段が、ドットマトリックスパターン中の同じ列内で複数連なる着弾ドットの元になる着弾用インク粒子の前方位置または後方位置に間引きインク粒子を割り当てるように構成されている請求項1に記載の連続式インクジェットプリンタ。
【請求項3】
間引き粒子割当手段が、ドットマトリックスパターン中の同じ列内の複数の着弾ドットの元になる着弾用インク粒子のうち、帯電量の高い着弾用インク粒子から優先して間引きインク粒子を割り当てるように構成されている請求項1または請求項2に記載の連続式インクジェットプリンタ。
【請求項4】
間引き粒子割当手段が、ドットマトリクスパターン中の空白ドットの元になる空白用インク粒子の前方位置または後方位置に間引きインク粒子を割り当てるように構成されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の連続式インクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−137197(P2008−137197A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323766(P2006−323766)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(391040870)紀州技研工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】