説明

連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システム、連続式加熱炉、並びに金属材料の製造方法

【課題】燃料消費量を効果的に低減することが可能な連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システム、連続式加熱炉、並びに金属材料の製造方法を提供する。
【解決手段】所定の制御周期毎に少なくとも一の燃焼帯の設定温度を更新する連続式加熱炉の炉温設定方法であって、熱収支方程式により各燃焼帯の炉温変化が加熱炉全体の燃料使用量に与える影響を評価する影響係数を算出し、該影響係数を用いて各燃焼帯の炉温変化量を変数とする評価関数を構成し、炉温変化量に課す制約条件を決定し、該制約条件の下で評価関数を最適化する各燃焼帯の炉温変化量を求め、求めた炉温変化量に基き各燃焼帯の設定温度を更新する炉温設定方法とし、該炉温設定方法により炉温を設定する炉温制御システムとし、該炉温制御システムを備える連続式加熱炉とし、該連続式加熱炉により金属材料を加熱する工程を有する金属材料の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システム、連続式加熱炉、並びに金属材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材は、鉄鉱石から精錬及び鋳造により製造され、その後、薄く延ばしたり、中空管などの形状にしたりするために熱間圧延が行われる。鋼材は、この熱間圧延の前に加熱炉(以下「炉」ということがある。)での加熱により、設定された目標抽出温度にされる。目標抽出温度は、熱間圧延時の鋼材温度の違いにより鋼の性質が異なることから、その鋼材から製造される製品に必要な性質により決定される。また、目標抽出均熱度が設定されることもある。目標抽出均熱度は、同一鋼材内で温度差が生じると鋼材の部分により鋼の性質が異なったり、熱間圧延後に鋼材が変形したりすることから、これらを防止するために設定される。
【0003】
一般に、熱間圧延を行うために連続式加熱炉にてスラブの加熱を行う際には、スラブを炉から抽出する際に、スラブ毎に設定した目標抽出温度までスラブ温度が上昇しているように各燃焼帯の炉温を設定し、操業する。
【0004】
各燃焼帯の炉温を設定するにあたっては、上記目標抽出温度を満足することだけではなく、スラブ表面とスラブ内部との温度差の低減(均熱度の確保)、加熱時間の短縮、燃料使用量の低減などを考慮することが多い。燃料使用量を低減させるための炉温設定方法に関する技術として、例えば特許文献1には、評価関数を最適化する炉内温度変更量を決定する温度制御方法において、その評価関数を、スラブの目標抽出温度と予測抽出温度との差の項及び燃料消費量の項を有する、各燃焼帯の設定炉温及び設定炉温変更量の2次関数として、後段負荷操業となるように評価関数中の重み係数を選択することにより、燃料消費量低減を主眼においた操業を行うことが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、スラブの各グループの目標昇温曲線を定め、該曲線を満足するように設定炉温を決定する際に、均熱度確保のために熟熱を開始する時点における材料温度予測値が目標昇温曲線の値を上回る材が存在する場合、熟熱を開始する燃焼帯において昇温速度を補正することによって、むだ焼きを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2581832号公報
【特許文献2】特許第2635240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法においては、各燃焼帯のスラブ状況に応じて変化するはずの炉温と燃料流量との関係が定量的に評価されていない。そのため、燃料使用量について良好な最適化を行うことは困難であった。
【0008】
また、特許文献2に記載の方法においては、上記のように熟熱開始帯の温度を補正することが、燃料消費量を考慮したときに妥当であるとする根拠が薄弱である。すなわち、省エネルギーの達成はあくまで定性的なものに過ぎず、したがって燃料消費量を効果的に低減しているとは言い難かった。
【0009】
そこで本発明は、上記の事情に鑑み、燃料消費量を効果的に低減することが可能な、連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システム、連続式加熱炉、並びに金属材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、所定の制御周期毎に少なくとも一つの燃焼帯の設定温度を更新する連続式加熱炉の炉温設定方法であって、設定温度を更新する各燃焼帯における熱の入出を示す熱収支方程式を用いて、各燃焼帯の炉温変化が連続式加熱炉全体の燃料使用量に与える影響を評価する影響係数を算出する、影響係数算出工程と、該影響係数を係数とし、各燃焼帯の炉温変化量を変数とする評価関数を構成する、評価関数構成工程と、各燃焼帯の炉温変化量に課す制約条件を決定する、制約条件決定工程と、制約条件の下で評価関数を最適化する各燃焼帯の炉温変化量を算出して設定炉温変更量とする、設定炉温変更量決定工程と、該設定炉温変更量にしたがって各燃焼帯の設定温度を更新する、設定温度更新工程と、を有することを特徴とする、連続式加熱炉の炉温設定方法である。
【0011】
ここに、本発明において、「熱収支方程式」とは、伝熱工学に基いて、各燃焼帯へ流入する熱量と、各燃焼帯から流出する熱量との関係を記述する方程式を意味する。また、「熱」は、熱エネルギーとして各燃焼帯に出入りする態様だけでなく、各燃焼帯に流入するときは熱エネルギー以外のエネルギーとして流入し、各燃焼帯中において熱エネルギーに変換される態様をも包含する概念とする。例えば、各燃焼帯に流入するときは化学エネルギーであるが、各燃焼帯中において燃焼反応により熱エネルギーに変換される、燃料が有する化学エネルギーもここで言う「熱」に含まれる。
【0012】
本発明の第1の態様において、評価関数が、燃焼帯の炉温変化に伴う燃料消費量の予測量を表す関数であることが好ましい。
【0013】
ここに、本発明において、評価関数が、「燃焼帯の炉温変化に伴う燃料消費量の予測量を表す関数」であるとは、評価関数が、燃焼帯の炉温変化に伴う燃料消費量の予測値を表す項と、定数項とからなることを意味する。なお、評価関数に含まれる定数項は0であってもよい。
【0014】
本発明の第1の態様において、評価関数構成工程において構成される評価関数が線形であり、制約条件決定工程において決定される制約条件が全て線形であり、設定炉温変更量決定工程において、前記評価関数を最適化する前記各燃焼帯の炉温変化量の算出を線形計画法により行うことが好ましい。
【0015】
ここに、「制約条件が全て線形」であるとは、制約条件が、全て線形関数の等式及び/又は不等式で記述されていることを意味する。
【0016】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る連続式加熱炉の炉温設定方法により、燃焼帯の炉温を設定することを特徴とする、連続式加熱炉の炉温制御システムである。
【0017】
本発明の第3の態様は、本発明の第2の態様に係る連続式加熱炉の炉温制御システムを備えることを特徴とする、連続式加熱炉である。
【0018】
本発明の第4の態様は、本発明の第3の態様に係る連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程を有することを特徴とする、金属材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の態様に係る連続式加熱炉の炉温設定方法によれば、各燃焼帯における熱の入出を、熱収支方程式を用いて定量的に考慮しているため、燃料消費量を効果的に低減しつつ、連続式加熱炉における炉温設定を行うことができる。
【0020】
本発明の第1の態様において、評価関数構成工程において構成される評価関数が、燃焼帯の炉温変化に伴う燃料消費量の予測量を表す関数であることにより、燃料消費量を定量的に評価した上で最適化することができるので、燃料消費量をより効果的に低減しつつ、連続式加熱炉における炉温設定を行うことができる。
【0021】
本発明の第1の態様において、評価関数構成工程において構成される評価関数が線形であり、制約条件決定工程において決定される制約条件が線形であり、設定炉温変更量決定工程において、評価関数を最適化する各燃焼帯の炉温変化量の算出を線形計画法により行うことにより、計算機を用いて容易に評価関数を最適化できるので、計算機資源を節約でき、したがってコストの削減が可能となる。
【0022】
本発明の第2の態様に係る連続式加熱炉の炉温制御システムによれば、連続式加熱炉の炉温設定が、本発明の第1の態様にかかる連続式加熱炉の炉温設定方法によって行われる。上記したように、本発明の第1の態様にかかる連続式加熱炉の炉温設定方法は、燃料消費量を効果的に低減できる。したがって、本発明の第2の態様によれば、燃料消費量を効果的に低減可能な、連続式加熱炉の炉温制御システムを提供することができる。
【0023】
本発明の第3の態様に係る連続式加熱炉は、本発明の第2の態様に係る連続式加熱炉の炉温制御システムを備える。上記したように、本発明の第2の態様に係る連続式加熱炉の炉温制御システムによれば、燃料消費量を効果的に低減しつつ、炉温設定を行うことができる。したがって、本発明の第3の態様によれば、燃料消費量を効果的に低減可能な、連続式加熱炉を提供することができる。
【0024】
本発明の第4の態様に係る金属材料の製造方法によれば、本発明の第3の態様に係る連続式加熱炉を用いて、金属材料を加熱する。上記したように、本発明の第3の態様にかかる連続式加熱炉は、燃料消費量を効果的に低減できる。したがって、本発明の第4の態様によれば、燃料費を効果的に削減可能な、金属材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法を説明するフローチャートである。
【図2】連続式加熱炉の模式図である。
【図3】各燃焼帯の熱入出を説明する図である。
【図4】本発明の連続式加熱炉の炉温制御システムを説明する図である。
【図5】本発明の連続式加熱炉を説明する図である。
【図6】本発明の金属材料の製造方法を説明するフローチャートである。
【図7】発明例における予測炉温の推移を示す図である。
【図8】発明例における予測燃料消費量の推移を示す図である。
【図9】比較例(従来法)における予測炉温の推移を示す図である。
【図10】比較例(従来法)における予測燃料消費量の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の上記した作用および利得は、以下に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。
【0027】
<1.連続式加熱炉の炉温設定方法>
本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法について説明する。図1は、連続式加熱炉の炉温設定方法S10(以下、「炉温設定方法S10」又は単に「S10」ということがある。)を説明するフローチャートである。図2は、S10が適用される連続式加熱炉10を示す模式図である。図3は、連続式加熱炉10の一の燃焼帯について熱の出入りを説明する図である。
以下、図1〜3を参照しつつ、本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法について説明する。
【0028】
図2に示すように、連続式加熱炉10においては、炉壁1によって炉内と炉外とが隔てている。炉内の空間はさらに、炉壁1によって、予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4、及び均熱帯5に分画されており、これら4つの燃焼帯はこの順に紙面左側から右側へ並んでいる。上記4つの燃焼帯にはスキッド6が配されており、スラブ装入口7から装入されたスラブ9、9、…は、このスキッド6上を予熱帯2から順に各燃焼帯を移動し、所望の温度まで加熱された後、最終的にスラブ抽出口8から取り出される。
本発明の炉温設定方法は、図2のように複数の燃焼帯を有する連続式加熱炉において、各燃焼帯に複数存在するスラブを各スラブに設定された目標抽出温度まで加熱してから抽出するにあたり、特定の制御周期毎に炉温設定モデルを起動し、各燃焼帯の設定温度の更新を行う。
【0029】
図1に示すように、連続式加熱炉の炉温設定方法S10は、影響係数算出工程S11と、評価関数構成工程S12と、制約条件決定工程S13と、設定炉温変更量決定工程S14と、設定温度更新工程S15とを有する。
【0030】
影響係数算出工程S11(以下、単に「S11」ということがある。)は、各燃焼帯における熱の入出を示す熱収支方程式を用いて、各燃焼帯の炉温変化が連続式加熱炉全体の燃料使用量に与える影響を評価する影響係数を算出する工程である。以下にその詳細を説明する。なお、以下において、あるベクトルXについて「X=(x,…x)」と表記するときは、XがN次の横ベクトルであることを意味し、あるベクトルYについて「Y=(y,…y」と表記するときは、YがN次の縦ベクトルであることを意味するものとする。上記ベクトルYの右辺における上付き添え字Tは、転置を表す記号である。また、特に断らない限り、単に「ベクトル」と表記した場合には縦ベクトルを意味するものとする。
【0031】
炉温設定モデルにおいて、各燃焼帯の設定炉温ベクトル
【0032】
【数1】

【0033】
を決定する。式(1)はz次の縦ベクトルを表す。各成分は各燃焼帯の炉内ガス温度を表し、単位は[℃]である。各成分の上付き添字zは燃焼帯を表す。zは炉温設定しようとする燃焼帯の総数を表す。例えば第1加熱帯、第2加熱帯及び均熱帯の炉温を設定する場合はz=3である。上記上付き添え字zは、加熱炉の装入口に近い側の燃焼帯から順に割り当てる。
【0034】
各燃焼帯の熱収支方程式を立式する。各燃焼帯においては図3に示すような熱の入出が起こっていると考えられるので、各燃焼帯における熱収支と炉内ガス温度の時間微分を考慮すると、燃焼帯zの熱収支方程式は次のように表される。
【0035】
【数2】

【0036】
式(2)において、cgasは炉内ガス比熱[kcal/Nm・℃]である。Vは燃焼帯zの炉容積[m]である。Hlは燃料の燃焼発熱量[kcal/Nm]である。vfuel(T)は燃焼帯zの燃料流入量[Nm/hr]である。qair(T)は燃料単位あたりの燃焼用空気が有する熱量[kcal/Nm]である。qgas(T)は燃料単位あたり燃焼帯zから炉外に排出される、燃焼帯zの炉内ガスが有する熱量[kcal/Nm]である。Qnextは燃焼帯zから隣接する燃焼帯に流出する熱量(隣接帯輻射熱)[kcal/hr]である。なお、Qnextにおいて、上付き添え字zが1である場合には、燃焼帯z−1は考慮しないものとし、zがzである場合には、燃焼帯z+1は考慮しないものとする。Qslabは燃焼帯zに存在するスラブの加熱に使用される熱量(スラブ顕熱)[kcal/hr]である。スラブ温度ベクトル
【0037】
【数3】

【0038】
は燃焼帯zに存在する各スラブの温度[℃]を成分とする縦ベクトルであり、Nは燃焼帯zに存在するスラブの総数である。Qbodyは加熱炉体の燃焼帯z部分から環境に放散される熱量(炉体放散熱)[kcal/hr]である。Qskidは燃焼帯zに存在するスキッド内を流れる冷却水に吸収される熱量(スキッド損失熱)[kcal/hr]である。Qopenは燃焼帯zが有する加熱炉開口部から環境へ放射される熱量(開口部輻射熱)[kcal/hr]である。
【0039】
また、Hlvfuel(T)は燃料燃焼による発熱量(燃料燃焼熱)[kcal/hr]である。qair(T)vfuel(T)は余熱された燃焼用空気が燃焼帯zに持ち込む熱量(予備空気顕熱)[kcal/hr]である。qgas(T)vfuel(T)は燃焼帯zから排出される炉内ガスが燃焼帯zから持ち去る熱量(排ガス顕熱)[kcal/hr]である。
【0040】
また、式(3)中の各スラブの温度は加熱炉内で測定する手段がないため、加熱炉装入前に測定した温度を初期値とし、時刻毎のスラブ顕熱Qslabの累積により温度上昇したと考えた計算値を用いる。
【0041】
式(2)をvfuelについて解くと、炉温を入力とした時刻毎の燃料流量計算式(4)を得る。
【0042】
【数4】

【0043】
式(4)の燃料流量計算式を使用し、炉温設定モデル起動時刻tの炉温を初期値として、時間tの間その設定炉温ベクトルのまま操業を行った場合の加熱炉全体での予測燃料使用量Ufuelを次の式(5)で計算する。tは、3分以上60分以下とすることが好ましく、例えば30分とすることができる。tを3分以上とすることにより、一の加熱炉で炉温を変化させた場合の予測燃料使用量とUfuelとの差を確保することが容易になる。またtを60分以下とすることにより、計算量が低減されるので、計算機資源を節約してコストを削減することが容易になる。また、後述する式(7)による影響係数の算出において、左辺の偏微分係数のより良好な近似値を得ることが容易になる。
【0044】
【数5】

【0045】
さらに、ある燃焼帯zにおいて炉温をTziからδTziだけ変化させ、同様に時間tだけ操業を行った場合の予測燃料使用量は次の式で計算できる。
【0046】
【数6】

【0047】
式(6)の計算を、影響係数を算出すべき全ての燃焼帯、すなわち炉温設定を行うz個の燃焼帯に対して行う。なお、上記式(6)の計算にあたっては、δTziを5℃以上50℃以下とすることが好ましく、例えば20℃とすることができる。δTziを5℃以上とすることにより、UzifuelとUfuelとの差を確保することが容易になる。またδTziを50℃以下とすることにより、後述する式(7)の計算において左辺の偏微分係数のより良好な近似値を得ることが容易になる。
【0048】
燃焼帯zの炉温変化が加熱炉全体の燃料使用量Ufuelに与える影響を評価する影響係数は、偏微分係数∂Ufuel/∂Tziで表わされ、式(6)で炉温を変化させた場合の予測燃料使用量と、式(5)で炉温変化なしとした場合の予測燃料使用量との差を、炉温変更量δTziで除算した値で近似できる。よって次の式(7)で計算する。
【0049】
【数7】

【0050】
式(7)の計算を各燃焼帯について行うことにより、各燃焼帯についての影響係数を成分に持つ影響係数ベクトル
【0051】
【数8】

【0052】
を求める。以上で影響係数算出工程S11が完了する。
【0053】
評価関数構成工程S12(以下、単に「S12」ということがある。)は、S11で求めた影響係数を用いて、式(1)の設定炉温ベクトルからの各燃焼帯の炉温変化量を成分に持つ炉温変化量ベクトル
【0054】
【数9】

【0055】
を変数とする評価関数Jを構成する工程である。評価関数Jは、燃料消費量の予測量Ufuelであり、S11で求めた影響係数を重み係数として使用し、各燃焼帯の影響係数と炉温変化量との積和により構成する。すなわち、式(8)の影響係数ベクトル∂Ufuel/∂Tと、式(9)の炉温変化量ベクトルΔTとの内積を用いて、次式のように構成する。
【0056】
【数10】

【0057】
式(10)の評価関数Jは、炉温変化量ベクトルΔTの関数であって、燃焼消費量の予測量Ufuelを直接に評価している。よって、式(10)の評価関数Jを後述する設定炉温変更量決定工程S14で炉温変化量ベクトルΔTについて最適化することにより、燃料消費量を効果的に低減できる炉温設定方法S10とすることが可能となる。また、評価関数Jを式(10)のように線形な関数として構成することにより、後述するように設定炉温変更量の決定を線形計画法によって行うことが可能となる。
【0058】
制約条件決定工程S13(以下、単に「S13」ということがある。)は、各燃焼帯の炉温変化量に課す制約条件を決定する工程である。制約条件は、式(9)の炉温変化量ベクトルΔTについて実行可能領域をなすように決定する。S13においては、制約条件を一般式(11)で表わされる線形式として定める。
【0059】
【数11】

【0060】
は定数ベクトル、bは定数である。例えば、炉温の上限制約は式(12)で表わされ、下限制約は式(13)で表わされる。また、隣接帯との設定炉温差の上限制約は式(14)で表され、下限制約は式(15)で表わされる。
【0061】
【数12】

【0062】
【数13】

【0063】
【数14】

【0064】
【数15】

【0065】
f,MAXは燃焼帯zの設定炉温上限である。Tf,minは燃焼帯zの設定炉温下限である。Tfnext,MAXは隣接燃焼帯との設定炉温差上限である。Tfnext,minは隣接燃焼帯との設定炉温差下限である。式(12)〜(15)はいずれも線形である。
【0066】
制約条件には、各スラブの抽出時の温度が各スラブの目標抽出温度以上であるという条件(目標抽出温度条件)も組み込まれる。一般には、各燃焼帯の炉温変化量と、スラブの抽出時の温度とは非線形な関係にあるため、該条件は厳密には線形式では表せない。しかし、あるスラブslabにおいて、各燃焼帯の炉温を式(1)の設定炉温ベクトルTとしたまま抽出まで操業した際の予測抽出温度をTslabi,out、ある燃焼帯zにおいて炉温をTからδTだけ変化させ、同様に抽出まで操業を行った場合の予測抽出温度をTslabi,outとすると、燃焼帯zの炉温変化に対する抽出温度の変化割合、すなわち偏微分係数∂Tslabi,out/∂Tは次の式で近似できる。
【0067】
【数16】

【0068】
式(16)の計算を、炉温を設定するz個の燃焼帯について行うことにより、式(17)で表わされるスラブ抽出温度変化係数ベクトル∂Tslab,out/∂Tを得る。ここで、δTの値を式(6)におけるδTziと一致させる必要はない。δTは5℃以上50℃以下とすることが好ましく、例えば10℃とすることができる。δTを5℃以上とすることにより、Tslabi,outとTslabi,outとの差を確保することが容易になる。またδTを50℃以下とすることにより、式(16)において左辺の偏微分係数のより良好な近似値を得ることが容易になる。
【0069】
【数17】

【0070】
式(17)のスラブ抽出温度変化係数ベクトルを用いることにより、スラブの予測抽出温度を線形式で近似して、目標抽出温度条件の条件式を次の線形式(18)で表すことができる。
【0071】
【数18】

【0072】
式(12)〜(15)及び式(18)を炉温変化量ベクトルΔTの制約条件として決定して、S13が完了する。式(12)〜(15)及び式(18)は全て線形であり、またS12で構成した評価関数Jも線形である。よって、次の工程である設定炉温変更量決定工程S14において、S13で決定した制約条件の下での評価関数Jの最適化を、線形計画法によって行うことができる。
【0073】
設定炉温変更量決定工程S14(以下、単に「S14」ということがある。)は、S13で決定した制約条件の下で、S12で構成した評価関数Jを最適化する各燃焼帯の炉温変化量を算出して、設定炉温変更量とする工程である。具体的には、上記制約条件を満足しながら、評価関数Jを最小化するような、設定炉温ベクトルTからの炉温変化量ベクトルΔTを求め、このΔTを設定炉温変更量ベクトルΔTf,optとする。
【0074】
上述したように、制約条件をなす式(12)〜(15)及び式(18)は全て線形であり、またS12で構成した評価関数Jも線形であるので、S14における最適化は線形計画法によって行うことができる。よって、容易に設定炉温変更量ベクトルΔTを導出することが可能である。したがって、計算量を低減することが可能となるので、計算機資源を節約し、操業コストを低減することが可能となる。最適化にあたっては、シンプレックス法やカーマーカー法(内点法)等の、線形計画問題の公知の求解アルゴリズムを特に制限なく用いることができる。
【0075】
設定温度更新工程S15(以下、単に「S15」ということがある。)は、S14で導出した設定炉温変更量にしたがって各燃焼帯の設定温度を更新する工程である。すなわち、新たな設定炉温ベクトルTf,newを、設定炉温ベクトルTと設定炉温変更量ベクトルΔTf,optとから、次の式で算出する。
【0076】
【数19】

【0077】
式(19)で算出した新たな設定炉温ベクトルTf,newが成分に持つ設定炉温値を対応する各燃焼帯に適用することにより、S15は終了する。
【0078】
S11乃至S15の終了を以て連続式加熱炉の炉温設定方法S10の全工程が終了する。S15の終了後は、特定周期(制御周期)毎にS10を実行し、設定炉温を更新することを繰り返す。制御周期は、3分以上60分以下とすることが好ましく、例えば3分とすることができる。制御周期を3分以上とすることにより、計算量が低減されるので、計算機資源を節約してコストを削減することが容易になる。また制御周期を60分以下とすることにより、より細かな炉温制御が可能となるので、スラブの抽出温度が目標抽出温度を下回る事態を抑制することがより容易になる。また、時々刻々と変化する操業条件に柔軟に対応することが可能となるので、燃料消費量をより効果的に削減することが可能となる。
【0079】
本発明に関する上記説明では、影響係数算出工程S11と、評価関数構成工程S12と、制約条件決定工程S13と、設定炉温変更量決定工程S14と、設定温度更新工程S15とをこの順に行う形態の連続式加熱炉の炉温設定方法S10を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、影響係数算出工程11に先立って制約条件決定工程S13を行う形態とすることも可能である。
【0080】
本発明に関する上記説明では、評価関数Jの最適化が最小化である形態の連続式加熱炉の炉温設定方法S10を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば評価関数の符号を反転させることにより、評価関数を最大化する形態とすることも可能である。
【0081】
本発明に関する上記説明では、制約条件決定工程S13において、制約条件が各燃焼帯の設定炉温上限及び下限、各燃焼帯の隣接燃焼帯との設定炉温差上限及び下限、並びに目標抽出温度条件である形態の連続式加熱炉の炉温設定方法S10を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、設定炉温下限や、隣接燃焼帯との設定炉温差上限及び下限については、これらの少なくとも一部を制約条件としない形態であってもよい。また、上記以外の制約条件も決定する形態であってもよい。上記以外の制約条件としては、例えば目標抽出均熱度を満足するという条件を挙げることができる。
【0082】
本発明に関する上記説明では、制約条件を全て線形式とする形態の連続式加熱炉の炉温設定方法S10を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。制約条件の少なくとも一部を非線形式として決定する形態とすることも可能である。例えば、目標抽出温度条件において上記の線形近似式(18)を採用せず、目標抽出温度条件が非線形式で表わされる形態とすることも可能である。目標抽出温度条件において線形近似を採用しない形態によれば、スラブ抽出温度変化係数ベクトル∂Tslab,out/∂Tを得るために式(16)の計算をスラブの個数回行う必要がなくなる。しかし、その代わりに評価関数Jの最適化を線形計画法によって行うことができなくなる等、一般には計算量の増大を招く。したがって、厳密には非線形式で表わされる制約条件があっても、線形近似を採用して、全ての制約条件を線形式で決定する形態とすることが好ましい。
【0083】
本発明に関する上記説明では、式(2)で表わされる熱収支方程式を用いる形態の連続式加熱炉の炉温設定方法S10を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。式(2)が有する項以外の項を含む熱収支方程式を用いる形態とすることも可能である。式(2)が有する項以外の項としては、例えば隣接燃焼帯との間で炉内ガスが移動することによる熱の出入りを評価する項等を挙げることができる。このような項を熱収支方程式にさらに含ませることにより、より精度よく熱収支を評価できるので、燃料消費量をより精度よく予測することが可能となる。よって、燃料消費量をより効果的に低減可能な、連続式加熱炉の炉温設定方法とすることが容易になる。
【0084】
また、本発明に関する上記説明では、全ての制御周期において常にz個の燃焼帯について設定炉温の更新を行う形態の連続式加熱炉の炉温設定方法について説明したが、本発明は当該形態に限定されない。制御周期によって、設定炉温の更新を行う燃焼帯又は燃焼帯の組が異なる形態とすることも可能である。例えば、4つの燃焼帯を有する連続式加熱炉において、ある制御周期においては4つ全ての燃焼帯について設定炉温の更新を行い、次の制御周期においてはスラブ抽出口に近い側の2つの燃焼帯のみについて設定炉温の更新を行う形態とすることも可能である。このような形態によれば、計算量を低減することが可能となる。ただし、本発明の燃料消費量低減効果を良好に発揮させるためには、全ての制御周期において、常に全ての燃焼帯、又は予熱帯以外の全ての燃焼帯について設定炉温の更新を行う形態とすることが好ましい。
【0085】
<2.連続式加熱炉の炉温制御システム>
図4は、本発明の連続式加熱炉の炉温制御システム20(以下、単に「炉温制御システム20」ということがある。)を説明する図である。炉温制御システム20は、連続式加熱炉10(図2参照)が有する4つの燃焼帯の炉温を、炉温設定方法S10によって設定し、制御するシステムである。図4に示すように、炉温制御システム20は、制御手段11に、記憶手段12と、入力手段13と、出力手段14と、炉温測定手段15と、装入前スラブ温度測定手段16と、炉温調整手段17と、が接続されてなる。図4において、矢印は情報が流れる向きを表す。以下、各構成要素について順に説明する。
【0086】
制御手段11は、炉温制御システム20全体を制御する構成要素である。炉温制御システム20において、入力か出力かを問わず、存在する全ての情報は制御手段11によって管理され、処理を加えられ、他の構成要素へと伝達される。制御手段11には、電子計算機その他の公知の制御装置を特に制限なく用いることができる。
【0087】
記憶手段12は、炉温制御システム20における全ての情報を制御手段11から受け取って保管し、制御手段11から要求があったときに制御手段11に出力する構成要素である。記憶手段12には、上記した炉温設定方法S10を実行するためのアルゴリズムA1(以下、「アルゴリズムA1」という。)が格納される他、S10を実行するにあたって必要な情報が格納される。S10を実行するにあたって必要な情報には、上記した、設定炉温ベクトルT、スラブ温度ベクトルTslabその他の燃料流量計算式(4)の計算に必要な全てのパラメータ、影響係数ベクトル∂Ufuel/∂T、炉温変化量ベクトルΔT、評価関数J、スラブ抽出温度変化係数ベクトル∂Tslab,out/∂T、及び制約条件式が含まれる。記憶手段12には、磁気記憶装置や揮発性メモリ(RAM)等の公知の記憶装置を特に制限なく用いることができる。
【0088】
入力手段13は、炉温制御システム20において、現在の炉温及び装入前スラブ温度以外の必要な情報を操作者及び/又は上位コンピュータが入力するための構成要素である。入力手段13から入力された情報は制御装置11に伝達され、記憶手段12に格納される。入力手段13には、キーボード等の公知の入力装置や、シリアルポート等の公知の通信装置を特に制限なく用いることができる。
【0089】
出力手段14は、炉温制御システム20において、操作者及び/又は上位コンピュータが知るべき情報を制御手段11から受け取って操作者又は上位コンピュータに対して表示するための構成要素である。出力手段14には、設定炉温、現在の炉温、スラブ温度、スラブの加熱状況、燃料流量、空気流量その他の必要な情報が表示または出力される。出力手段14には、ディスプレイ等の公知の表示装置や、シリアルポート等の公知の通信装置を特に制限なく用いることができる。
【0090】
炉温測定手段15は、各燃焼帯の炉温を測定する構成要素である。図4に示すように、炉温測定手段15は炉温センサ15a、15b、15c、15d(以下において、「炉温センサ15a〜15d」ということがある。)を有し、これら4つの炉温センサは各燃焼帯に1個ずつ設置されている。炉温測定手段15により取得された炉温情報は制御手段11に伝達され、記憶手段12に格納される。炉温センサ15a〜15dには、熱電対、放射温度計等の高温域の測定に適した公知の温度センサを特に制限なく用いることができる。
【0091】
装入前スラブ温度測定手段16は、連続式加熱炉10に装入する前の各スラブの温度を測定する構成要素である。装入前スラブ温度測定手段16により取得された装入前のスラブの温度情報は、制御手段11に伝達され、記憶手段12に格納される。装入前スラブ温度測定手段16には、熱電対、放射温度計等の公知の温度センサを特に制限なく用いることができる。
【0092】
炉温調整手段17には、各燃焼帯のバーナーであるバーナー21a、21b、21c、21d(以下において、「バーナー21a〜21d」ということがある。)が接続されている。炉温調整手段17は、制御装置11によって決定される設定炉温に合わせて、バーナー21a〜21dの各燃焼量を調整する構成要素である。炉温調整手段17は制御装置11から各燃焼帯の設定炉温及び現在の実際の炉温を取得し、実際の炉温が設定炉温となるようにバーナー21a〜21dの各燃焼量を調整する。バーナー燃焼量の調整は、各バーナーに供給される燃料及び燃焼用空気の流量を調整することにより行う。炉温調整手段17としては、上記の働きをする公知の炉温調整手段を特に制限なく用いることができる。
【0093】
以下、炉温制御システム20の動作について説明する。
【0094】
(a.情報の入力)
操作者及び/又は上位コンピュータは、入力手段13により、スラブの目標抽出温度その他、炉温設定方法S10による炉温の設定に必要な情報を入力する。制御手段11は入力された情報を取得し、記憶手段12に格納する。
【0095】
(b.操業:スラブの加熱)
操作者及び/又は上位コンピュータは、入力手段13により設定炉温の更新開始を制御装置11に指示する。制御装置11は、装入前スラブ温度測定手段16により各スラブの装入前の温度情報を取得し、記憶手段12に格納する。制御装置11は、記憶手段12からアルゴリズムA1を読み込んで実行し、炉温設定方法S10による設定炉温の更新を制御周期3分毎に繰り返す。
【0096】
設定炉温が更新される毎に、制御装置11は炉温調整手段17に各燃焼帯の新たな設定炉温及び現在の炉温を伝達する。炉温調整手段17は、新たな設定炉温に基き、実際の炉温情報を制御装置11から常時受け取って監視しながら、各燃焼帯のバーナーの燃焼を調整することにより、炉温を更新された設定炉温まで変化させる。炉温が更新された設定炉温に到達したら、炉温調整手段17は当該設定炉温を、次回の更新された設定炉温が制御装置11から伝達されるまで維持する。
【0097】
本発明に関する上記説明では、4つの燃焼帯の炉温を制御する形態の炉温制御システム20を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。制御すべき連続式加熱炉の形態に合わせ、4つ未満、あるいは5つ以上の燃焼帯の炉温を制御する形態とすることも可能である。
【0098】
<3.連続式加熱炉>
図5は、本発明の連続式加熱炉30を説明する図である。連続式加熱炉30は、上記した炉温制御システム20を備える連続式加熱炉である。図5に示すように、連続式加熱炉30は、炉壁1によって炉外と隔てられかつ区分された予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4、及び均熱帯5を有し、さらにスキッド6、スラブ装入口7、及びスラブ抽出口8を有する。予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4、及び均熱帯5は、スラブ装入口7の側からスラブ抽出口8の側へ向けてこの順に並んでいる。スキッド6はスラブ装入口7からスラブ抽出口8まで、各燃焼帯に存在し、スキッド6の上をスラブ装入口7からスラブ抽出口8へ向けてスラブ9、9、…が移動する。スキッド6のうち、燃焼帯内部にある部分には不図示の冷却水路が設けられており、不図示のポンプによって冷却水が循環させられている。各燃焼帯はそれぞれバーナー21a、21b、21c、21dを一基ずつ備え、さらに炉温センサ15a〜15dが1つずつ配されている。また、スラブ装入口7の直前には装入前スラブ温度測定手段16が配されている。バーナー21a〜21dはそれぞれ、炉温制御システム20の炉温調整手段17(図4参照)に接続されており、各バーナーへの燃料及び燃焼用空気の供給流量は炉温調整手段17によって調整される。図5において、炉温センサ15a〜15d及び装入前スラブ温度測定手段16は炉温制御システム20の一部である。
【0099】
バーナー21a〜21dとしては、連続加熱バーナーや蓄熱式切り替えバーナー等の公知のバーナーを特に制限なく用いることができる。ただし、設定温度の変化に柔軟に対応できる等の観点からは、蓄熱式切り替えバーナーを用いることが好ましい。
【0100】
連続式加熱炉30においては、装入前スラブ温度測定手段16によって装入される直前のスラブ温度情報が測定される。また、炉温センサ15a〜15dにより各燃焼帯の炉温情報が取得される。これらの情報は炉温制御システム20によって処理され、炉温制御システム20によって炉温が設定される。設定された炉温は、炉温制御システム20によるバーナー21a〜21dの制御によって実際の炉温に反映される。炉温制御システム20は所定の制御周期毎に設定炉温の更新を繰り返しており、設定炉温が更新される毎に、更新された設定炉温を実際の炉温に反映している。炉温制御システム20による炉温の設定及び炉温の調整については既に述べたので説明を省略する。
【0101】
本発明に関する上記説明では、4つの燃焼帯を有する形態の連続式加熱炉30を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。4つ未満、あるいは5つ以上の燃焼帯を有する形態とすることも可能である。
【0102】
本発明に関する上記説明では、一の燃焼帯につき一基のバーナーが備えられる形態の連続式加熱炉30を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。一の燃焼帯に複数のバーナーを備える燃焼帯を有する形態とすることも可能である。このような形態によれば、単に火力が増すだけでなく、燃焼帯内の温度むらを低減することが容易になり好ましい。さらには、炉温制御システム20により全バーナーを個別に制御する形態とすることも可能である。このような形態によれば、各燃焼帯の炉温及び温度分布についてより詳細な制御が容易になり好ましい。
【0103】
本発明に関する上記説明では、一の燃焼帯につき一の炉温測定手段が備えられる形態の連続式加熱炉30を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。一の燃焼帯に複数の炉温測定手段を備える燃焼帯を有する形態とすることも可能である。このような形態によれば、燃焼帯の内部で一か所だけでなく複数箇所で温度を監視することができるので、各燃焼帯の炉温及び温度分布についてより詳細な制御が容易になり好ましい。
【0104】
また、本発明に関する上記説明では、全ての燃焼帯を炉温制御システム20により炉温制御する形態の連続式加熱炉30を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明の連続式加熱炉は、少なくとも一つの燃焼帯が本発明の炉温設定方法に基いて炉温制御されていればよく、炉温制御システム20により炉温制御されない燃焼帯を有する形態とすることも可能である。ただし、燃料消費量を低減する効果を最大限に発揮する観点からは、全ての燃焼帯が炉温制御システム20により炉温制御される形態、又は予熱帯を除く全ての燃焼帯が炉温制御システム20により炉温制御される形態とすることが好ましい。
【0105】
<4.金属材料の製造方法>
本発明の金属材料の製造方法について説明する。図6は、熱延鋼板の製造方法S20(以下、単に「S20」ということがある。)を説明するフローチャートである。S20では、上記した連続式加熱炉30(図5参照)を用いてスラブを加熱した後、熱間圧延を行って熱延鋼板を製造する。図6に示すように、S20は、スラブ準備工程S21と、スラブ加熱工程S22と、熱間圧延工程S23とをこの順に有する。以下、順に説明する。
【0106】
スラブ準備工程S21(以下、単に「S21」ということがある。)は、S20において熱間圧延すべきスラブを準備する工程である。S21は、スラブを鋳造する工程と、鋳造したスラブを連続式加熱炉10まで搬送する工程とを有する。
【0107】
スラブ加熱工程S22(以下、単に「S22」ということがある。)は、S21で準備したスラブを、連続式加熱炉30により目標抽出温度以上まで加熱する工程である。連続式加熱炉30は、図5に示すように、予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4及び均熱帯5の計4つの燃焼帯を有する。連続式加熱炉30は、炉温制御システム20によって、4つ全ての燃焼帯について制御周期3分で繰り返し設定炉温を更新され、炉温制御されている。S22においては、スラブをスラブ装入口7から連続式加熱炉30に装入し、予熱帯2、第1加熱帯3、第2加熱帯4及び均熱帯5をこの順に経つつ、目標抽出温度以上の温度まで加熱する。加熱したスラブはスラブ抽出口8から抽出する。
【0108】
熱間圧延工程S23(以下、単に「S23」ということがある。)は、S22で目標抽出温度まで加熱したスラブに熱間圧延を行うことにより、熱延鋼板とする工程である。S23での熱間圧延に際しては、熱延鋼板の製造に用いられる公知の圧延装置を特に制限なく用いることができる。
【0109】
本発明の金属材料の製造方法に関する上記説明では、熱延鋼板を製造する形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。熱間圧延の後、酸洗及び冷間圧延を行うことにより、冷延鋼板を製造する形態とすることも可能である。また、冷延鋼板にさらにめっき処理を施すことにより、めっき鋼板を製造する形態とすることも可能である。また、冷間圧延を経た後、調質圧延を行うことにより、靭性等の特性を所望の範囲に調整する形態とすることも可能である。また、上記熱延鋼板、冷延鋼板、又はめっき鋼板に化学処理等の表面処理を施す、表面処理工程を備える形態とすることも可能である。
【0110】
本発明の金属材料の製造方法に関する上記説明では、鋼板を製造する形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明の金属材料の製造方法は、本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法により炉温を設定している連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程を有していればよい。例えば鋼管を製造する形態とすることも可能である。
【0111】
また、本発明の金属材料の製造方法に関する上記説明では、鋼を加工する形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。金属材料は鋼に限定されず、非鉄金属や合金その他の、鋼以外の金属材料であってもよい。鋼以外の金属材料を製造する形態であっても、燃料消費量を効果的に低減しつつ金属材料を製造することができる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例に基き、本発明についてさらに詳述する。
【0113】
本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法についてシミュレーション実験を行った。シミュレーション実験は、本発明の炉温設定方法を適用する連続式加熱炉を、スラブ装入口側から、予熱帯、第1加熱帯、第2加熱帯、及び均熱帯をこの順に有する連続式加熱炉とし、該4つの燃焼帯のうち第1加熱帯、第2加熱帯、及び均熱帯の炉温を設定するものとした。
【0114】
(発明例)
制御周期中に加熱炉の炉温が不変と仮定した。予熱帯の炉温は加熱実績の値で固定とした。制御周期3分毎に、上述の式(2)で表される熱収支方程式により影響係数ベクトル(式(8))を算出し、該影響係数ベクトルを式(10)の係数として評価関数を構成した。制約条件式(12)〜(15)及び式(18)の下で、線形計画法により評価関数を最適化し、各燃焼帯(第1加熱帯、第2加熱帯、均熱帯)の設定すべき炉温を計算した。このときの予測燃料消費量についても合わせて計算した。なお、影響係数ベクトルを算出するにあたっては、式(5)及び(6)の計算においてtを30分とした。また、式(6)及び(7)の計算においてはδTziを10℃とし、式(16)の計算にあたってはδTを10℃とした。また、評価関数を最適化するにあたっては、内点法を採用した。なお、加熱するスラブの条件は、スラブ164個、スラブ厚み250mm〜300mm、スラブ幅1100mm〜2400mm、スラブ長900mm〜5000mm、抽出目標温度1060〜1150℃とした。
【0115】
本発明例における炉温の推移のシミュレーション結果を図7に示す。また、予測燃料消費量の推移を図8に示す。
【0116】
(比較例)
評価関数(式(10))の係数として、後段負荷とした固定値(1000,100,1)を採用した従来法である。すなわち評価関数Jを
【0117】
【数20】

【0118】
とした以外は上記発明例と同様に、炉温および予測燃料消費量の推移について計算した。なお、式(20)において、ΔTは第1加熱帯の炉温変化量を、ΔTは第2加熱帯の炉温変化量を、ΔTは均熱帯の炉温変化量を表している。
【0119】
本比較例における炉温の推移のシミュレーション結果を図9に示す。また、予測燃料消費量の推移を図10に示す。
【0120】
(評価結果)
上記発明例及び比較例の燃料消費量の推移(図8、図10)を比較すると、時間12まではほぼ同じ推移を示しているのに対し、時間12〜時間15まででは比較例の燃料消費量が発明例の燃料消費量に比べ、特に第1加熱帯で激減し、第2加熱帯で激増している。時間16以降では、時間12〜時間15の影響を受けて、全体的に比較例の第1加熱帯及び第2加熱帯の燃料消費量が、発明例の燃料消費量に比べて多くなっている。
【0121】
結果として、時間6〜時間24の燃料消費量は比較例43062Nm、発明例36132Nmとなり、発明例では比較例に比べ燃料消費量を約16.1%低減できた。
【0122】
以上の実験結果から、本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法によれば、連続式加熱炉における炉温設定を、燃料消費量を効果的に低減しつつ行うことができることが示された。
【0123】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システム、連続式加熱炉、並びに金属材料の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の連続式加熱炉の炉温設定方法及び炉温制御システムは、連続式加熱炉の炉温設定に好適に用いることができ、本発明の連続式加熱炉は、金属材料の加熱に好適に用いることができ、また、本発明の金属材料の製造方法は、加熱を要する金属材料の製造に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0125】
1 炉壁
2 予熱帯
3 第1加熱帯
4 第2加熱帯
5 均熱帯
6 スキッド
7 スラブ装入口
8 スラブ抽出口
9 スラブ
10 連続式加熱炉
11 制御手段
12 記憶手段
13 入力手段
14 出力手段
15 炉温測定手段
15a、15b、15c、15d 炉温センサ
16 装入前スラブ温度測定手段
17 炉温調整手段
20 連続式加熱炉の炉温制御システム
21a、21b、21c、21d バーナー
30 連続式加熱炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の制御周期毎に少なくとも一つの燃焼帯の設定温度を更新する連続式加熱炉の炉温設定方法であって、
設定温度を更新する各燃焼帯における熱の入出を示す熱収支方程式を用いて、前記各燃焼帯の炉温変化が前記連続式加熱炉全体の燃料使用量に与える影響を評価する影響係数を算出する、影響係数算出工程と、
前記影響係数を係数とし、前記各燃焼帯の炉温変化量を変数とする評価関数を構成する、評価関数構成工程と、
前記各燃焼帯の炉温変化量に課す制約条件を決定する、制約条件決定工程と、
前記制約条件の下で前記評価関数を最適化する前記各燃焼帯の炉温変化量を算出して設定炉温変更量とする、設定炉温変更量決定工程と、
前記設定炉温変更量にしたがって前記各燃焼帯の設定温度を更新する、設定温度更新工程と、
を有することを特徴とする、連続式加熱炉の炉温設定方法。
【請求項2】
前記評価関数が、前記燃焼帯の炉温変化に伴う燃料消費量の予測量を表す関数である、請求項1に記載の連続式加熱炉の炉温設定方法。
【請求項3】
前記評価関数構成工程において構成される前記評価関数が線形であり、
前記制約条件決定工程において決定される前記制約条件が全て線形であり、
前記設定炉温変更量決定工程において、前記評価関数を最適化する前記燃焼帯の炉温変化量の算出を線形計画法により行う、請求項1又は2に記載の連続式加熱炉の炉温設定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の連続式加熱炉の炉温設定方法により、燃焼帯の炉温を設定することを特徴とする、連続式加熱炉の炉温制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載の連続式加熱炉の炉温制御システムを備えることを特徴とする、連続式加熱炉。
【請求項6】
請求項5に記載の連続式加熱炉を用いて金属材料を加熱する工程を有することを特徴とする、金属材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−140662(P2012−140662A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292893(P2010−292893)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】