説明

連続気泡発泡体の製造方法

【課題】熔融処理または物理的処理によって発泡体の気泡膜を除去するに際し、製造される連続気泡発泡体に発生する前述の問題を防止し、商品価値の高い連続気泡発泡体を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】気泡膜16を有する発泡体12から、この気泡膜16を除去する連続気泡発泡体の製造方法において、前記発泡体12の少なくとも一方の表面に、例えば空気等の気体を吹き付けることで、前記気泡膜16を除去するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発泡体、好適にはシート状とされた発泡体に気体を吹き付けることで、その気泡膜を除去して連続気泡発泡体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続気泡発泡体をより高通気なものとする方法として、例えば下記する[特許文献1]に記載の如く、該発泡体を密閉容器の中に収納後、該容器内に可燃ガスを導入・着火して爆発を生じさせることで気泡膜を除去する、所謂熔解法が一般的に行なわれている。この他、発泡体にニードルパンチ加工を行ない、該発泡体表裏に貫通孔を設ける方法も知られている。
【特許文献1】特開2001−172422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、前述した熔解法においては、処理時に連続気泡発泡体が高温に晒されることから、部分的に焦げる等の「焼け」が生じる。またこの処理方法で得られた発泡体は、経年変化による黄色変色が目立ち易いことが知られている。このような問題点は、見た目が商品価値を大きく左右する紙おむつまたは脱脂綿等の衛生材や、衣料用用途を考えた場合、殊に不向きである。これに対して、ニードルパンチ加工によって発泡体の連通度を高める場合、得られる発泡体における伸び等の機械的強度に係る物性が低下する問題を回避できない。またその加工精度が低いため、加工後における発泡体物性値を一定範囲内に制御して、商品価値を一定化することも困難となっている。
【0004】
この発明は、従来技術に係る問題点に鑑み、これを好適に解決するべく提案されたものであって、所謂熔融処理または物理的処理によって発泡体の気泡膜を除去するに際し、製造される連続気泡発泡体に発生する前述の問題を防止し、商品価値の高い連続気泡発泡体を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願発明の連続気泡発泡体の製造方法は、気泡膜を有する発泡体から該気泡膜を除去する連続気泡発泡体の製造方法において、
前記発泡体の少なくとも一方の表面に、気体を吹き付けることで前記気泡膜を除去するようにしたことを要旨とする。
【0006】
従って、請求項1に係る発明によれば、気体を吹き付けるだけで通気性を確保するため、より簡便な設備で生産性および安全性を高めつつ気泡膜だけを除去して通気性と構造的強度との双方を備える好適な連続気泡発泡体を製造し得る。
【0007】
請求項2に記載の発明は請求項1記載の発明において、前記発泡体として、その厚さが15mm以下のシート状物が使用されることを要旨とする。従って、請求項2に係る発明によれば、より好適に高い通気性を有する連続気泡発泡体を製造し得る。
【0008】
請求項3に記載の発明は請求項1または2記載の発明において、前記気体の吹き付けは、同一直線上に整列した複数の吹出口を備えるノズルによってなされることを要旨とする。従って、請求項3に係る発明によれば、効率的な気泡膜の除去が可能となり、製造時間の短縮や製造時のノズル移動に係る制御が容易となる。
【0009】
請求項4に記載の発明は請求項1または2記載の発明において、前記気体の吹き付けは、同一円周上に配置された複数の吹出口を備えるノズルによってなされることを要旨とする。従って、請求項4に係る発明によれば、気体の吹付速度を大きく向上させ得るため、高い通気性を容易に達成し得る。
【0010】
請求項5に記載の発明は請求項1〜4の何れか一項に記載の発明において、前記気体の前記発泡体に対する吹き付けは、800m/sec以上の吹付速度と、前記表面に対して50m/m以上の吹付流量とでなされ、これにより前記気泡膜を除去したことを要旨とする。従って、請求項5に係る発明によれば、特定用途に選択的に採用される高付加価値な連続気泡発泡体を好適に製造し得る。
【発明の効果】
【0011】
以上に説明した如く、本発明に係る連続気泡発泡体の製造方法によれば、気体の速度エネルギーを利用して気泡膜を除去するため、所要の通気性と構造的強度との双方を確保しつつ、かつ黄変等がなく商品価値の高い連続気泡発泡体を製造し得る。また気体の吹き付けを任意に制御することで、通気性を容易に制御し得る効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明に係る連続気泡発泡体の製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。本願の発明者は、連続気泡発泡体を得るに際して、公知の各種方法で製造された発泡体等に対して、気体を一定条件下に吹き付けることで、該発泡体を構成する骨格間等に形成される気泡膜を好適または任意の割合で除去し得ることを見出したものである。
【0013】
本発明の好適な実施例に係る連続気泡発泡体10は、図1に示すように、発泡体準備工程S1、気泡膜除去工程S2および最終工程S3から基本的に構成される製造(加工)工程を経て好適に製造・加工される。ここで発泡体準備工程S1は、例えばスラブ発泡法等の公知の発泡体製造方法によって実施され、所要の骨格構造を有する発泡体12が製造される。この他、同様の発泡体を別途用意してもよい。ここで製造される発泡体12については、図2に示す如く、その骨格14間に気泡(セル)膜16が形成されており、通気性も任意の値に制御されたものではない。
【0014】
気泡膜除去工程S2および最終工程S3は、例えば図3に示すような加工装置50によって連続的になされる。ここで加工装置50は、例えば発泡体12が載置され、発泡体12を載置状態で一定方向に移送する移送載置台52と、この発泡体12の表面12aに対して所要の気体Fを吹き付けるノズル40と、このノズル40に気体Fを供給する図示しない気体供給源とから基本的に構成される。またノズル40は、その先端の吹出口42を制御下に、発泡体12の表面12aからの距離を一定に保持したまま二次元方向に移動可能となっている。本実施例においては、移送載置台52としてベルトコンべア形式の移送装置が使用され、またそのベルトにおける幅方向両側以外の領域はベルト上に載置された発泡体12に吹き付ける気体Fが発泡体12の厚さ方向に通り抜けるように、例えばメッシュ状とされている。
【0015】
気泡膜除去工程S2は、加工装置50による気体Fの吹き付けによって実施される。具体的には発泡体準備工程S1で製造または別途用意した発泡体12に対して、所要の気体Fを吹き付けることによって、その骨格14間に存在する気泡膜16を除去する工程である。気体Fとして一般には空気が使用されるが、例えば二酸化炭素等の空気より重い気体の使用も好適である。またコンプレッサー等を用いて空気を供給する際には、ドライヤー等の使用して吹き付けられる気体Fから水滴を除去することが望ましい。このような水滴の混合は、気泡膜16だけでなく骨格14も破壊する可能性があるためである。
【0016】
吹出口42は、発泡体12の表面12aに対して略垂直に気体Fを吹き出すように設定され、また吹出口42と表面12aとの間の離間距離は発泡体12の移送を阻害しない範囲で最も接近するように位置決めされる。この設定角度が傾いたりまたは離間距離が大きくなると、吹出口42から吹き出した気体Fが表面12aに到るまでに拡散等して、気体Fが有するエネルギーを効率的に気泡膜16の除去に使用し得なくなってしまう。
【0017】
同様の理由で骨格14だけとなった発泡体12に対する気体Fの吹き付けにおいても、拡散等によるエネルギー消耗が発生する。このため、同じ厚さの発泡体12を処理するにあたっては、一方の表面12aだけから気体Fを吹き出すのではなく、同時に両側から吹き出すことで、より高い通気性を達成し得る。殊にこのエネルギー消耗は、その厚さが5mmを超えると大きくなるとの知見が得られたので、厚さが5mmを超える発泡体12を処理する場合には、両表面側からの処理を実施することが好ましい。
【0018】
ここでは同時に発泡体12の上下の両側から気体Fを吹き付ける形態を説明しているが、移送載置台52に発泡体12を載せて片側だけに気体Fを吹き付けた後に、今度は発泡体12を裏返して同様の処理を実施して裏側から気体Fを吹き付けてもよい。このようにすることで、上方から吹き付けられる気体Fと、下方から吹き付けられる気体Fとが干渉し合ってそのエネルギーを消耗することがなくなり、より効果的に気泡膜16の除去が可能となる。また図4に示す如く、夫々が吹き出す気体F、F同士が干渉・相殺しないように、加工装置50において上下に設置される一対のノズル40、40を二次元方向にずらして設置してもよい。この場合、本気泡膜除去工程S2の実施に掛かる時間の短縮もなし得る。
【0019】
また処理に供される発泡体12は、好適にはその厚さ(表面12aから、気体Fが吹き付けられる方向に沿った裏面までの距離)が15mm以下とされる。この数値については、後述の気体Fの吹付条件によってその上限を高めることは可能であるが、吹付条件の向上に必要とされるコストと、この向上による処理可能厚さ等の、所謂処理効率とは比例しないことが明らかとなっている。このため製造コストだけが嵩み、更に後述する設備機械の問題もあるため、現実的に最適な結果を得るための厚さは15mm以下であるとの知見を得た。すなわち加工に供される発泡体12は、予め15mm以下のシート状物としておくことが好ましい。
【0020】
この他、発泡体12の移送載置台52への載置を、その厚さを減じるよう厚さ方向に直交する方向に張力を掛けつつなし得るようにしてもよい。このような張力を掛けることで、気泡膜16に応力負荷が掛かるため、気体Fの吹き付けによる気泡膜16の破壊が容易に達成され、その結果、その除去もより好適になされる。この場合、発泡体12に掛ける張力としては、その骨格14を破壊しない範囲で可能な限り大きな張力が好ましく、具体的には、発泡体12の引張強度の20%以下が好適である。
【0021】
気体Fの吹き付けによって発泡体12は、所要の通気性を備える連続気泡発泡体10とされる。また通気性を具備することにより、吸水性および乾燥容易性等を発現し、これにより各種衛生材、衣料用途や、クッション材料等に好適に利用され、商品価値の一層の向上が期待される。
【0022】
発泡体12に対する気体Fの吹き付けは、(1)その気体Fの吹付速度が800m/sec以上、(2)発泡体12の表面12aに対する気体Fの単位面積当たりの吹付流量(単に吹付流量と云う)が50m(5L)/m以上、の条件下で実施される。ここで(1)吹付速度は、ノズル40に対する気体Fの供給圧および吹出口42の開口総面積によって決定されるが、実際の製造環境下での好適な運用を考えて、汎用的な気体供給圧下において高い吹付速度を達成し得るように、吹出口42の開口面積による調整が望ましい。これは一般的な工場施設では、安全性やコスト性の観点から、配管その他の設備機器に上限圧が存在し、一定以上の高圧気体の使用は実際上不可能だからである。
【0023】
(2)吹付流量は単位面積当たりの供給流量であり、この時間が充分でなければ、(1)吹付速度が充分であっても、発泡体12の厚さ方向全てに亘って気泡膜16を除去することが困難となる。そしてその数値が50m/m未満であると、気泡膜16の破壊は可能でも、この残骸が骨格14に付着した状態となってしまうため、通気性を高める場合には一定以上の吹付総容量の確保が必要となる。またあまり大きな数値とすると気泡膜16の除去だけでなく、骨格14の破壊等も危惧される。またエアーを吹き付けるためのコンプレッサーに必要とされる加工コストの増大も問題となる。
【0024】
使用されるノズル40の形状としては、例えば図5または図7に示す形状が挙げられる。図5に示すノズル40は、気体Fが吹き出す複数の吹出口42が、同一直線上、すなわち横一列に整列した形態となっている。この場合、図6に示す如く、加工に供される発泡体12を、その移送方向に沿って一度に加工し得るため、製造に掛かる時間を短縮でき、また連続的な処理が可能となり、更に製造時のノズル移動に必要とされる制御が容易となる。
【0025】
また図7に示すように、気体Fが吹き出す複数の吹出口42が、同一円周上に配置された形態となったノズル40が挙げられる。これは図5に示すノズル40と比較して、気体Fの供給圧を同じとした場合に、気体Fの吹付速度を大きくし得るため、高い通気性の達成が容易となる。この場合、例えば図8に示す移動軌跡によって本気泡膜除去工程S2が実施される。
【0026】
最終的に施される最終工程S3は、得られた連続気泡発泡体10に対して製品素材としての後加工および検査等を実施する工程であり、場合によっては最終製品の形としてもよい。
【0027】
(実験例)
次に、本発明の好適な実施例に係る連続気泡発泡体の製造に係る実験例を示す。なお本発明は、この実験例に限定されるものではない。
【0028】
(実験1)
処理に供される発泡体として、一般的なスラブ発泡法から得られた素材を、その寸法が40mm×100mmの矩形であり、密度30kg/m(セル数52(個/25.4mm))であるものを各測定例1〜9に係る試料片として用い、以下の測定条件および表1に示す各条件において、前述の加工装置を使用して気泡膜の除去を実施した。そして処理が終了して連続気泡発泡体とされた各測定例に係る試料片について、JIS K 6400−7:2004、B法に準拠して通気量(ml/cm/sec(処理後))を測定した。また処理実施前の通気量(処理前)についても測定し、処理後数値から処理前数値を引いた増加分を算出した。なお気体の吹出を試料片の表裏の双方に実施する場合には、上下から同時に実施せず、1スパン目の移動で表側の処理を実施し、2スパン目で試験片を裏返した状態で処理を施すことで行なった。この点については、表1の「処理面」に記載し、「表だけ」の場合は一方側だけの処理、「裏表」の場合は両側の処理を表す。また表1における「引張」は、気体の吹付処理時に試料片に張力を与えたか否かを示しており、「○」は張力を与えたことを示している。
【0029】
(測定条件)
・使用気体:空気(汎用のコンプレッサー設備にて所定圧力としてノズルに供給)
・使用したノズル
ノズルA:計16ヶの吹出口が横一列に整列したノズル(吹出口:φ1.0mm、吹出口面積0.00001257m)
ノズルB:計6ヶのの吹出口が同一円周上に配列されたノズル(吹出口:φ1.4mm、吹出口面積0.00000927m)
・試料片に掛けた張力について:試料片の長辺に沿った方向に両側から平滑面となるように保持固定することで実施した。
【表1】

【0030】
(実験1の結果)
実験1の結果を上記の表1に併せて示す。この表1の結果から、同型のノズルであれば吹出流量に比例して通気量が変動することが確認された。また吹出流量を揃えた場合、AノズルよりBノズルの方が通気量が高くなることが確認された。
【0031】
(実験2)
実験1で採用された寸法が40mm×100mmの矩形である素材を用い、スラブ発泡に際しての諸条件を変更することで、その密度が26kg/m(セル数42(個/25.4mm))または45kg/m(セル数50(個/25.4mm))であるものを製造し、そこから測定例10〜17に係る試料片として用い、基本的に実験1の測定例6の諸条件下で、下記の表2に示す各条件において気泡膜の除去を実施した。なお通気量の測定は、実験1と同様に処理前および処理後に実施して、処理後数値−処理前数値によって増加分を算出している。
【表2】

【0032】
(実験2の結果)
実験2の結果を上記の表2に併せて示す。この表2の結果から、発泡体の密度およびセル数に関係なく、またその厚さが何れの発泡体においても、その通気量を向上させ得ることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の好適な実施例に係る連続気泡発泡体の製造方法を示す工程図である。
【図2】製造方法に供される発泡体を示す概略図である。
【図3】実施例の好適な実施に用いられる加工装置を示す概略図である。
【図4】上下に配置されるノズルの位置をずらした加工装置の一部を示す概略図である。
【図5】同一直線上に整列した複数の吹出口を備えるノズルを示す概略図である。
【図6】図5に示すノズルを使用した場合の加工に係るノズルの移動軌跡の一例を示す説明図である。
【図7】同一円周上に配置された複数の吹出口を備えるノズルを示す概略図である。
【図8】図7に示すノズルを使用した場合の加工に係るノズルの移動軌跡の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
12 発泡体、16 気泡膜、40 ノズル、42 吹出口、F 気体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡膜を有する発泡体から該気泡膜を除去する連続気泡発泡体の製造方法において、
前記発泡体の少なくとも一方の表面に、気体を吹き付けることで前記気泡膜を除去するようにした
ことを特徴とする連続気泡発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記発泡体として、その厚さが15mm以下のシート状物が使用される請求項1記載の連続気泡発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記気体の吹き付けは、同一直線上に整列した複数の吹出口を備えるノズルによってなされる請求項1または2記載の連続気泡発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記気体の吹き付けは、同一円周上に配置された複数の吹出口を備えるノズルによってなされる請求項1または2記載の連続気泡発泡体の製造方法。
【請求項5】
前記気体の前記発泡体に対する吹き付けは、800m/sec以上の吹付速度と、前記表面に対して50m/m以上の吹付流量とでなされ、これにより前記気泡膜を除去した請求項1〜4の何れか一項に記載の連続気泡発泡体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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