説明

連続発酵生産物の製造方法

【課題】生産物を分離する膜を用いた、微生物の連続発酵において、分離膜の目詰まりの原因となるファウリングの洗浄、またはバイオフィルムを抑制する方法を提供する。
【解決手段】炭素数4のポリオール、エリスリトールを、0.1重量%以上50重量%以下で含有する溶液を、分離膜に供給する連続発酵生産物の製造方法。ポリオール含有溶液は、分離膜の一次側、あるいは二次側から供給して良く、また培地に混入させて導入しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物または培養細胞による発酵を行いながら、発酵槽から生産物を分離膜で回収し、未ろ過物を発酵槽に戻すことで発酵に関与する微生物または培養細胞濃度を向上させて高い生産性を得る連続発酵において、炭素数4のポリオールを含有する溶液を分離膜に供給して分離膜のファウリングを洗浄または抑制することを特徴とした連続発酵生産物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大量消費、大量廃棄の20世紀は終わり、環境調和型社会の構築が求められる21世紀にあっては、循環型資源であるバイオマス資源の活用促進が期待されている。
【0003】
そこで、微生物や培養細胞の培養を伴う物質生産方法である発酵法に注目が集まっている。発酵法は、大きく(1)バッチ発酵法(Batch発酵法)および流加発酵法(Fed−Batch発酵法)と(2)連続発酵法に分類することができる。(1)のバッチおよび流加発酵法は、設備的には簡素であり、短時間で培養が終了し、雑菌汚染による被害が少ないというメリットがある。しかし、時間経過とともに培養液中の生産物濃度が高くなり、浸透圧あるいは生産物阻害等の影響により生産性および収率が低下してくる。このため、長時間にわたり安定して高収率かつ高生産性を維持するのが困難である。一方、(2)の連続発酵法は、発酵槽内で目的物質が高濃度に蓄積するのを回避することによって、長時間にわたって高収率かつ高生産性を維持できるという特徴がある。アミノ酸発酵においても、L−グルタミン酸(特許文献1)やL−リジン(非特許文献1)の発酵について連続培養法が開示されている。しかし、これらの例では、培養液へ原料の連続的な供給を行うとともに、微生物や細胞を含んだ培養液を抜き出すために、培養液中の微生物や細胞が希釈されることから、生産効率の向上は限定されたものであった。
【0004】
このことから、連続発酵法において、微生物や培養細胞を分離膜でろ過し、ろ液から生産物を回収すると同時にろ過された微生物や培養細胞を培養液に保持または還流させることで、培養液中の微生物や細胞濃度を高く維持する方法が提案されている。例えば、乳酸菌(ビフィズス菌)を培養するに際し、培地の糖濃度を1〜1.5重量%に調整し、培養により培地中に生成した菌の阻害物質を培養槽に連通して配設したろ過膜を介して除去し、該阻害物質を除去した培養液を培養槽へ循環させると共に、上記ろ過膜を介して除去された部分に相当する液量の新鮮な培地を培養槽へ補給する方法が提案されており、菌体の増殖に応じて培地供給速度を高める必要があることが記載されている(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、菌体が増殖すればするほど、ろ過膜の目詰まりが生じ易くなり、その結果としてろ過量が少なくなって培地供給も滞る。つまり、この方法にあるように、菌体の増殖に応じて培地供給速度を高めるという手法を実現するには、膜面積を極度に広くしておく必要があり、膜の導入コストを考慮すると必ずしも実用的な方法とはいえない。また、特許文献3においては、ろ過膜の目詰まりを回避する方法として、ヨーグルトスターター乳酸菌を連続培養する方法において、培地中の酵母エキス濃度を0.5〜2.0%とし、培養液量に対する1時間当たりの濾過液量の比(希釈率)を1.0以上の一定値を維持するように培養することを特徴とする乳酸菌の高濃度培養方法を開示しているが、培地組成の厳密な管理が必要であり、また、適用可能な微生物が限定されることから、ろ過膜の目詰まりを本質的に解決できる技術とはいえない。
【0006】
これらの方法において、分離膜には、一般に多孔性分離膜が用いられるが、該膜の目詰りによるろ過流量やろ過効率の低下が大きな問題となっており、このことが本方法の普及の大きな障害となっている。微生物や培養細胞の目詰まりの抑制方法については、分離膜の洗浄やろ過条件の設定などに関する技術が、いくつか提案されているがいずれも十分なものとは言えない。例えば、目詰り防止機能を備えた多孔質膜細管、すなわち、切換弁によって相互に切換えられるろ液取出管と送気管とが連結された多孔質膜細管が内部に配設された培養器又はバイオリアクターを用い、多孔質分離膜の培養液と接触している側と反対の側(多孔質膜細管の内部)から間欠的に通気し、細孔中に沈積する目詰り原因物質を除去することにより、培養を行いながら、微生物又は細胞の培養液より、多孔質分離膜が目詰りを起こすことなく該膜を通して生成物を含む液を効率よく回収する方法(特許文献4)や、微生物を培養するための培養槽中に内蔵させた逆洗可能なフィルターで基質交換させて、培養により生成した代謝物の濃度を低減する方法(特許文献5)、培養液を筒状のフィルター内に通過させて代謝物と菌を分離し、菌体を含む培養液を培養槽へ循環させて連続的に培養を行うための装置(特許文献6)等が知られている。しかし、これらの方法による分離膜の洗浄でも、ろ過時間が長くなると徐々に目詰まりによるファウリングが進行し、遂には通常の洗浄では剥離できないバイオフィルムと呼ばれる不溶性フィルムを形成するに至る。
【0007】
このバイオフィルムの形成過程は、コンディションフィルムの形成、コンディションフィルムへの細菌細胞付着、付着した細胞の増殖とそれに伴う細胞外ポリマーの生産、他の細菌、微生物も含めた共同体としてのバイオフィルムの成長を経ることが明らかにされている(非特許文献3)。このようにして形成したバイオフィルムは、「細胞外多糖類マトリックス内に閉じこめられた細菌のミクロコロニーが点在し、その間を水が比較的自由に動けるウオーターチャンネルを含む密度の低いポリマーマトリックスが埋めている」という不均一な構造をしている。しかし、このようなバイオフィルムの形成過程や形成されたバイオフィルムの構造に基づくファウリングの洗浄または抑制方法は開発されておらず、依然として分離膜のファウリングの問題を解決するための技術革新が望まれていた。
【特許文献1】特開平10−150996号公報
【特許文献2】特公平6−69367号公報
【特許文献3】特開2001−211878号公報
【特許文献4】特開平6−98758号公報
【特許文献5】特開昭58−47485号公報
【特許文献6】特開昭62−138184号公報
【非特許文献1】Toshihiko Hirao et. al.(ヒラオ・トシヒコ ら)、 Appl. Microbiol. Biotechnol.(アプライド マイクロバイアル アンド マイクロバイオロジー),32,269−273(1989)
【非特許文献2】小林猛ら、ケミカル・エンジニア,12,49(1988)
【非特許文献3】森崎久雄、大島広行、磯部賢治、バイオフィルム−その生成メカニズムと防止のサイエンス−、サイエンスフォーラム(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の技術の上述した問題点に鑑み、分離膜を用いた連続発酵において、分離膜のファウリングを洗浄または抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、下記(1)〜(5)の構成によって達成される。
(1)連続発酵によって得られる生産物を分離膜でろ過する連続発酵生産物の製造方法において、炭素数4のポリオールを0.1重量%以上50重量%以下で含有する溶液を分離膜に供給する工程を有することを特徴とする連続発酵生産物の製造方法。
(2)0.1重量%以上10重量%以下で炭素数4のポリオールを含有する溶液を分離膜の1次側から供給する(1)に記載の連続発酵生産物の製造方法。
(3)炭素数4のポリオールを培地に混入させて導入する(2)に記載の連続発酵生産物の製造方法。
(4)1重量%以上50重量%以下で炭素数4のポリオールを含有する溶液を分離膜の2次側から供給する(1)に記載の連続発酵生産物の製造方法。
(5)炭素数4のポリオールがエリスリトールである(1)〜(4)のいずれかに記載の連続発酵生産物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、分離膜を用いた連続発酵において、炭素数4のポリオールを含有する溶液を分離膜に供給することにより分離膜のファウリングが洗浄または抑制され、高い生産性を示す連続発酵生産物の製造方法が提供される。炭素数4のポリオールは、分離膜表面やファウリング物質に吸着してファウリング物質と分離膜との相互作用、特に凝集を防止することによりファウリングの進行を抑制し、さらに分離膜に吸着または/および凝集したファウリング物質の内部にまで浸透してファウリング物質を剥離させやすくする。
【0011】
また、炭素数4のポリオールは、バイオフィルム外部の浸透圧を高めることで、バイオフィルム中のウオーターチャンネルを遮断して内部構造を崩壊させ、バイオフィルムを除去させやすくする。さらに、炭素数4のポリオールは、それ自身が微生物や培養細胞によって代謝されにくいため、培養槽の環境を大きく変化させることなくファウリングの洗浄または抑制を行うことができる。従って、炭素数4のポリオールを含有する溶液を分離膜に供給することにより、長期間安定して連続発酵生産物の製造を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、長期間の連続発酵によって生産物の製造を行う際に生じる分離膜のファウリングの洗浄や抑制のために、炭素数4のポリオールを含有する溶液を使用する。
【0013】
本発明における連続発酵とは、発酵原料を発酵槽に添加しながら、発酵槽中の微生物や培養細胞などで発酵を行い、生じる発酵生産物を分離膜によって回収する一連の操作を並行して実施する方法である。各操作条件は、生産効率が最大になるように予め最適値に設定されるが、装置や設備の保全、生産効率の改善などを目的に運転中に変更されることもあり得る。なお、各操作はそれぞれ独立に制御することが可能であり、例えばろ過操作のみを一定期間停止する一方で発酵原料の添加や発酵を行うこともできる。また、発酵原料の添加や分離膜によるろ過を連続的あるいは断続的に実施しても良い。本発明の連続発酵では、原料培養液に後述する菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。従って、各操作条件の変更、不連続性は、発酵原料、微生物や培養細胞、発酵装置、設備および発酵生産物などに応じて自由に選択されるものであり、連続発酵の態様を損なうものではない。
【0014】
本発明における炭素数4のポリオールとは、分子を構成する炭素原子が4つであり、分子中に複数個の水酸基を有するものであれば特に限定されない。ただし、発酵を司る微生物や培養細胞、得られる発酵生産物などと強く相互作用して、連続発酵を継続できなくしてしまうものは不都合であり、予備実験等で予め使用する炭素数4のポリオールを決定しておくと良い。
【0015】
炭素数4のポリオールの中で、エリスリトールは広範囲のpHにおいて安定で、水に対する溶解性が高く、溶解した後も溶液の粘度が低いため特に好ましく用いられる。ここで、水に対する溶解性が高いと、バイオフィルム外部の浸透圧を高めやすく、バイオフィルム中のウオーターチャンネルの遮断効果が高い。そして、溶液の粘度が低いと、分離膜におけるろ過抵抗を低く抑えることができるため、ろ過効率が高くなる。エリスリトールには、L体、D体およびメソ体の3種類の異性体が存在するが、本発明ではいずれのものも好ましく用いられ、それらは単独で使用されても混合物で使用されても良い。
【0016】
炭素数4のポリオールは、水などの媒体に溶解させて溶液とすることが取り扱いの簡便さの観点から好ましい。このような炭素数4のポリオールを含有する溶液を分離膜に供給することによりファウリングの洗浄や抑制を簡便に行える。
【0017】
炭素数4のポリオールを含有する溶液は、分離膜の1次側(原水側)から供給されても、2次側(透過側)から供給されてもファウリングの洗浄または抑制効果を発現する。溶液中の炭素数4のポリオール濃度が高くなるほど、ファウリングの洗浄または抑制効果が高くなるが、発酵槽中の発酵原料が凝集沈殿するなどして濃度が低下し、発酵速度が低下する傾向にある。このため、発酵速度を低下させることなく、ファウリングの洗浄または抑制効果を発現させるために、炭素数4のポリオールを0.1重量%以上50重量%以下で含有する溶液を用いる。
【0018】
ここで、炭素数4のポリオールを含有する溶液を分離膜の1次側から供給する場合には、連続的、断続的または一定間隔毎に実施することができる。連続的に供給するなど、長期間にわたって供給する場合には、炭素数4のポリオールが分離膜近傍に滞留し、分離膜やファウリング物質と吸脱着を繰り返し、ファウリング物質と分離膜との相互作用を低減するため分離膜のファウリングの進行を抑制することができる。この場合、ファウリングの進行によって生成するバイオフィルムを予防する効果があるため、バイオフィルムの洗浄を目的とした場合に比べて炭素数4のポリオールの濃度を低くすることができる。また、1次側から供給する場合は発酵槽中の発酵液と混和するため、系投入時に比べて分離膜に到達する溶液中の炭素数4のポリオールの濃度は低下する。系投入時に高濃度の炭素数4のポリオールを含有する溶液を使用すると、発酵槽中に沈殿を生じる、発酵原料と吸着して発酵を阻害するなどの懸念があるので、ファウリングの抑制効果が現れる範囲でできるだけ炭素数4のポリオールを低濃度とすることが好ましい。この観点から、炭素数4のポリオールを含有する溶液を分離膜の1次側から供給する場合には、炭素数4のポリオールを0.1重量%以上10重量%以下とすることが好ましく、さらには0.1重量%以上5重量%以下とすることが好ましい。ファウリング抑制効果を高めるためには、1重量%以上5重量%以下とすることが好ましい。
【0019】
炭素数4のポリオールを含有する溶液の分離膜の1次側への供給方法としては、炭素数4のポリオールを培地に混入させて発酵槽中に導入する方法が簡便なため好ましい。培地に混入させた炭素数4のポリオールは、発酵槽中で他の発酵液により希釈されることを予め勘案して濃度を調製すれば良い。上述した懸念を考慮すると、最終的に分離膜に供給される時の炭素数4のポリオール濃度が、0.1重量%以上10重量%以下となるように培地を調製することが好ましい。
【0020】
また、炭素数4のポリオールを含有する溶液を分離膜の2次側から供給する場合には、連続的に実施することは難しいが、断続的または一定間隔毎には実施することができる。2次側から供給する場合は、炭素数4のポリオールを含有する溶液を圧送して供給することによる物理力でもバイオフィルムの除去あるいは除去促進が期待できる。ここで、炭素数4のポリオールの濃度を高くすれば、該溶液の供給時間や頻度を低減することができるため、ろ過工程への負荷が小さく、回収率を高くすることができる。このため、炭素数4のポリオールを含有する溶液を分離膜の2次側から供給する場合には、炭素数4のポリオールを1重量%以上50重量%以下とすることが好ましく、5重量%以上50重量%以下とすることがさらに好ましい。ろ過工程への負荷を下げるには40重量%以下とすることがより好ましく、30重量%以下とすることがさらに好ましい。
【0021】
本発明で使用する発酵原料としては、微生物や培養細胞の生育を促進し、目的の連続発酵生産物を生産するものであれば良いが、炭素源、窒素源、無機塩類および必要に応じてアミノ酸、ビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地が良い。炭素源としては、グルコース、スクロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトースなどの炭素数6または12の糖類、これら糖類を主成分とする澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、さらには酢酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、グリセリンなども使用される。窒素源としては、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ヘプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等を適宜添加することができる。なお、本発明で使用する微生物や発酵細胞が生育のために特定の栄養素を必要とする場合にはその栄養素を標品もしくはそれを含有する天然物として添加する。また、消泡剤も必要に応じて使用する。本発明において、培養液とは、発酵原料に微生物または培養細胞が増殖した結果得られる液のことを言い、追加する発酵原料の組成は、目的とする連続発酵生産物の生産性が高くなるように、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更しても良い。
【0022】
本発明では、培養液中の糖類濃度は5g/L以下に保持される様にするのが好ましい。その理由は、培養液の引き抜きによる糖類の流失を最小限にするためである。微生物の培養は通常pH4−8、温度20−40℃の範囲で行われる。培養液のpHは無機あるいは有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、炭酸カルシウム、アンモニアガスなどによって上記範囲内の予め定められた値に調節する。酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を21%以上に保つ、あるいは培養を加圧する、攪拌速度を上げる、通気量を上げるなどの手段を用いることができる。
【0023】
本発明の発酵初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って微生物濃度を高くした後に連続発酵を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続発酵を行っても良い。適当な時期から原料培養液の供給及び発酵生産物の引き抜きを行うことが可能である。培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、培養液の環境が微生物または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが効率よい生産性を得るのに好ましく、一例として、乾燥重量として5g/L以上に維持することで良好な生産効率が得られる。
【0024】
本発明で使用される微生物や培養細胞については特に限定されないが、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、大腸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌、動物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。使用する微生物や細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0025】
本発明では、炭素数4のポリオールを分離膜のファウリングの洗浄または抑制に使用する。このため、微生物や培養細胞は、炭素数4のポリオールを炭素源として利用しにくいことが望ましく、全く利用しないことが最良である。さらに、微生物や培養細胞が、炭素数4のポリオールと相互作用して連続発酵が阻害される場合は不都合であるため、予め使用する微生物や培養細胞を実験的に決定しておくと良い。
【0026】
本発明における連続発酵生産物としては、上記微生物や細胞が培養液中に生産する物質であれば特に限定されないが、アルコール、有機酸、アミノ酸、核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。また、本発明は、酵素、抗生物質、組換えタンパク質のような物質の生産に適用することも可能である。例えば、アルコールとしては、エタノール、1,4−ブタンジオールなど、有機酸としては、酢酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸などを挙げることができる。
【0027】
本発明で用いられる分離膜は、発酵に使用する微生物および培養細胞による目詰まりが起こりにくく、かつ濾過性能が長期間安定に継続することが望ましい。このため、本発明で使用される分離膜は、培養液や発酵生産物の性状などを考慮して選択すれば良いが、表面細孔径が0.01μm以上1μm以下のものが好ましく用いられる。多孔質樹脂層が多孔性膜の両面に存在する場合、少なくとも一方の多孔質樹脂層が、この条件を満たしていれば良い。表面細孔径がこの範囲内にあると、菌体がリークすることのない高い排除率と、高い透水性を両立でき、さらに目詰まりしにくく、透水性を長時間保持することができる。また、平均細孔径がこの範囲内にあれば、動物細胞、酵母、糸状菌などを用いた場合、目詰まりが少なく、また、細胞のろ液への漏れもなく安定に連続発酵が実施可能である。
【0028】
ここで、動物細胞、酵母、糸状菌より小さな細菌類を用いた場合は、0.4μm以下の表面細孔径であることが好ましく、0.2μm以下の表面細孔径であればさらに好ましい。表面細孔径は、小さすぎると透水性が低下する傾向にあるため、通常は0.02μm以上が好ましく、より好ましくは0.04μm以上である。ここで、表面細孔径は、走査型電子顕微鏡を用いて倍率30,000倍で写真撮影し、10個以上、好ましくは20個以上の任意の細孔の直径を測定し、数平均して求める。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求められる。
【0029】
本発明で用いられる分離膜の材質は、被処理水の水質や用途に応じた分離性と透水性が得られれば特に限定されないが、阻止性、透水性や耐汚れ性といった分離性能の点からは多孔質樹脂層を含む多孔性膜であることが好ましい。また、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布や不織布や、無機材料からなる多孔質基材と多孔質樹脂層とから形成されたものでも良い。また、有機高分子膜を使用することもできるが、有機高分子膜は、基本的に有機ポリマー材料から構成される分離膜のことであり、例えば、有機繊維の不織布やマクロポア構造多孔質有機基材と当該多孔質有機基材の孔径より小さな孔径を有する多孔質樹脂層が複合化された構造を持つ場合も多い。ただし、本発明は、この膜の構造に限定されるものではない。
【0030】
ここで、多孔質樹脂層の材質としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂、セルローストリアセテート系樹脂などが例示できるが、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物であっても良い。中でも、溶液による製膜が容易で、物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂が好ましい。特に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とするものが最も好ましい。ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられるが、フッ化ビニリデンの単独重合体の他、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。かかるビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、三塩化フッ化エチレンなどが挙げられる。
【0031】
本発明の分離膜は、平膜であっても中空糸膜であっても良い。平膜の場合、その厚みは用途に応じて適宜選択されるが、例えば、20μm以上5000μm以下、好ましくは50μm以上2000μm以下の範囲で選択される。上述したように、多孔質基材と多孔質樹脂層とから形成されていても良い。その際、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していても、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していなくてもどちらでも良く、用途に応じて選択される。多孔質基材の厚みは、50μm以上3000μm以下の範囲で選択される。中空糸膜の場合、内径は200μm以上5000μm以下の範囲で選択され、膜厚は20μm以上2000μm以下の範囲で選択される。また、有機繊維または無機繊維を筒状にした織物や編み物を含んでいても良い。
【実施例】
【0032】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために、連続的なピルビン酸の発酵生産工程に本発明を適用した実施例を挙げて説明する。図1に示す装置を用い、ピルビン酸を生産させる微生物として酵母トルロプシス・グラブラータ(Torulopsis glabrata)のうち、トルロプシス・グラブラータP120−5a株(FERM P−16745)を用いた。
【0033】
まず、上記P120−5a株を試験管内で5mlのピルビン酸発酵培地(グルコース100g/L、硫酸アンモニウム5g/L、リン酸二水素カリウム1g/L、硫酸マグネシウム7水和物0.5g/Lを主成分とする)で一晩振とう培養した。得られた培養液を新鮮なピルビン酸発酵培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した。
【0034】
得られた培養液を、1.5Lのピルビン酸発酵培地に植菌し、発酵反応槽2に加え、付属の攪拌手段6によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽2の通気量の調整、温度調整を行い、48時間回分培養を行った。培地の滅菌については、培養立ち上げ時についてのみ、発酵反応槽2ごと高圧蒸気滅菌(121℃、15分)で滅菌した。膜分離装置10の分離膜としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする多孔性平膜を用いた。培養液のpH調整はpHセンサー3を用い、4N NaOH水溶液を発酵反応槽2に直接添加することでpH5.5に調整した。この後、培地貯留槽1内に、ビタミンなどの微量成分や硫酸アンモニウムを除いたピルビン酸発酵培地を調製した。これに水酸化ナトリウムを添加し、水酸化ナトリウム濃度5g/Lのピルビン酸発酵培地を準備した。これを培地供給ポンプ7を用いて、4.5L/日の流量で発酵反応槽2に連続供給するとともに、別途滅菌したビタミンなどの微量成分や硫酸アンモニウムも連続供給した。発酵反応槽2での発酵液量が1.5Lとなるように、膜分離装置10での膜透過液量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるピルビン酸の製造を行った。膜分離装置10の膜面積は120cmであり、膜ろ過流束は0.375m/m・日であった。発酵開始から、徐々に膜間差圧が上昇し、発酵開始2日後には膜間差圧が5kPaを超えたため、膜ろ過運転が継続できなくなった。
【0035】
そこで、炭素数4のポリオール12として30重量%エリスリトール水溶液10Lを、膜分離装置10の2次側から添加手段4を用いて5kPaで圧送することにより逆流洗浄を実施した。その後、膜ろ過運転を再開した結果、膜間差圧0.3kPaでろ過を開始することができた。すなわち、エリスリトールを含む溶液で逆流洗浄することにより、分離膜のファウリングを洗浄して除去することができることが分かった。
【0036】
次に、上述した培地に炭素数4のポリオール12としてエリスリトールを第2添加手段5を用いて添加し、連続発酵を行っている間の発酵槽中のエリスリトールが5重量%となるように調製した。このエリスリトールを添加した培地を用いた以外は上述した方法と同様にして連続発酵を行った。5日間の連続発酵を膜ろ過流束は0.375m/m・日の条件下で行ったが、膜間差圧は0.3〜0.5kPaと安定に推移した。すなわち、エリスリトールを含む培地を発酵槽、ひいては分離膜に供給することにより、分離膜のファウリングを抑制することができることが分かった。
【0037】
最後に、エリスリトールを添加しない培地を用いて、再度同様の連続発酵を試みたが、発酵開始2日後には膜間差圧が5kPaを超え、膜ろ過運転が継続できなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による連続培養装置の一実施態様を示す装置概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1:培地貯留槽
2:発酵反応槽
3:pHセンサー
4:添加手段
5:第2添加手段
6:攪拌手段
7:培地供給ポンプ
8:培地供給配管
9:濾液排出ポンプ
10:膜分離装置
11:環流ポンプ
12:炭素数4のポリオール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続発酵によって得られる生産物を分離膜でろ過する連続発酵生産物の製造方法において、炭素数4のポリオールを0.1重量%以上50重量%以下で含有する溶液を分離膜に供給する工程を有することを特徴とする連続発酵生産物の製造方法。
【請求項2】
0.1重量%以上10重量%以下で炭素数4のポリオールを含有する溶液を分離膜の1次側から供給する請求項1に記載の連続発酵生産物の製造方法。
【請求項3】
炭素数4のポリオールを培地に混入させて導入する請求項2に記載の連続発酵生産物の製造方法。
【請求項4】
1重量%以上50重量%以下で炭素数4のポリオールを含有する溶液を分離膜の2次側から供給する請求項1に記載の連続発酵生産物の製造方法。
【請求項5】
炭素数4のポリオールがエリスリトールである請求項1〜4のいずれかに記載の連続発酵生産物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−199948(P2008−199948A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38970(P2007−38970)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】