説明

連続鋳造時における鋳片の表面手入れ判定方法及び装置

【課題】湯面変動に起因して発生する鋳片表層欠陥程度をより精度よく予測できる鋳片手入れ判定基準を提供する。
【解決手段】 連続鋳造鋳型内の溶鋼湯面位置情報から鋳片表面の手入れを判定する装置であって、湯面位置を計測する湯面位置検出器13と、湯面位置検出器13の情報を入力して湯面位置が凝固シェル先端位置よりも下方に位置している持続時間(te-ts)を演算する演算手段15と、演算手段15によって演算された持続時間と予め定めた持続時間の基準値とに基づいて手入れ要否を判定する判定手段17とを備えてなることを特徴とする連続鋳造時における鋳片の表面手入れ判定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶湯の連続鋳造に関し、特に縦型連続鋳造機を用いて製造される鋳片の表面手入れ判定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、湯面被覆剤、いわゆるモールドフラックスが、鋳型と鋳片との潤滑、溶湯面の保温、溶湯から浮上分離した非金属介在物の吸収等の目的で使用されている。
しかし、湯面変動が大きくなると、この湯面被覆剤が凝固シェルに捕捉され、そのまま鋳片内に留まり、圧延後の製品の表面欠陥や内部欠陥の原因となる場合がある。
【0003】
また、鋼の連続鋳造では、浸漬ノズルの詰まり防止のために、アルゴンガスを溶湯内に吹き込んでいる。吹き込まれた微細なアルゴンガス気泡は、浮上途中に湯面直下に、非金属介在物とともに集積・浮遊する場合がある。このような場合に、湯面変動が大きくなると、気泡、非金属介在物が凝固シェルに捕捉され、そのまま鋳片内に留まり、圧延後の製品の表面欠陥や内部欠陥の原因となる場合がある。
【0004】
上述のように湯面変動が圧延後の製品の表面欠陥や内部欠陥の発生と密接に関連している。そのため、湯面変動量が或る基準値以上となった場合には、その相当部位では鋳片の手入れを行う必要がある。
鋳片を手入れする基準となる湯面変動特性値の臨界値の設定に関しては、一般的な湯面変動量を特性値として経験的に臨界値を与えるのが一般的である。また、このような一般的な方法以外に、非特許文献1には、溶融フラックス層厚みと鋳型振動ストローク、および湯面メニスカス部曲率半径の和を臨界値とする考えが提案されている。また、非特許文献1には、鋳型内の湯面変化速度と湯面変動幅の積を特性値とし経験的に臨界値を与えることが記載されている。
また、特許文献1には、湯面の下降速度Vmが鋳片の下降速度Vcより大きくなっている時間から算出される凝固シェル厚みdmと鋳片が熱間圧延加熱工程でスケールオフされる厚みdoの差分(dm−do>0)以上を手入れ条件とする、経験に頼らないで臨界値設定方法が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小舞ら:鉄と鋼、70(1984)No.1、p.81〜88
【特許文献1】特開2007−185675
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した湯面変動量や非特許文献1に記載の特性値を基準に手入れ臨界値を設けて手入れを実施した場合、同一鋼種であっても連続鋳造機が違うと、臨界値が異なることがあった。また、湯面変動量が大きい条件であっても、製品欠陥が発生しないこともあった。
一方、経験に頼らない手入れ方法を提示する特許文献1の場合、鋳片の欠陥部を見落とすことは低減できるものの、欠陥部が流出する、あるいは手入れ負荷が増えることがしばしば発生するという問題があった。
【0007】
本発明は係る課題を解決するためになされたものであり、湯面変動に起因して発生する鋳片表層欠陥程度をより精度よく予測できる鋳片手入れ判定方法及び判定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、上記課題を解決するため、湯面変動による凝固シェル界面へのモールドパウダー、気泡、介在物等の異物捕捉挙動を鋭意研究し、湯面位置Hが凝固シェル先端よりも下方に位置している時間を指標にする方が、従来例で示された[湯面下降速度Vm>鋳造速度Vc]によって判定する方法よりも、より精度良く欠陥発生する臨界の湯面変動状況を評価でき、よって、的確に鋳片の表面手入れ判定基準を見出すことができることを発見し、本発明をするに至った。以下、詳細に説明する。
【0009】
図2は鋳型内の様子を模式的に示す図であり、気泡等が凝固シェルに捕捉されるメカニズムを説明する説明図である。湯面の上下方向の速度をVm(変動、下方向を正)、鋳造速度をVc(一定)としたときに、図2(a)は湯面が一定で変動がない状態を示しており、Vm=0よってVm<Vcとなっている。図2(b)は湯面が下降している状態を示しており、Vm>Vcとなっている状態を示している。図2(c)は湯面が上昇している状態を示しており、Vm<Vcとなっている状態を示している。
【0010】
図2(a)では、ノズル詰まり防止のために溶鋼内に吹き込まれたアルゴンガス気泡や非金属介在物が、浮上途中で溶融フラックス層内に取り込まれないで、湯面直下に集積・浮遊している状況を示している。これら湯面直下のアルゴンガス気泡や非金属介在物は、湯面の変動とほぼ同期して上や下に変動する。
しかし、湯面の下降速度Vmが大きくなり、鋳片の下降速度Vcより大きくなる、すなわちVm>Vcとなると、図2(b)に示すように、湯面およびその直下の気泡や非金属介在物が、凝固シェル先端より下降することになり、相対的に凝固シェル先端がモールドフラックス層内に浸入した状態となる。湯面の下降量が溶融フラックス厚みより小さい場合には、凝固シェル先端は、溶融フラックスと接触し、一方、湯面の下降量が溶融フラックス厚みより大きい場合には、凝固シェル先端は、溶融フラックスに加えて未溶融フラックスとも接触することになる。
【0011】
湯面が下降後、再び上昇する場合には、湯面直下の気泡や介在物の大部分は、湯面の上下動とともに移動するが、凝固シェルに近い気泡や介在物、さらには凝固シェルと接触した一部の溶融フラックスや未溶融フラックスは、図2(c)に示すように、凝固シェルに捕捉される。これら捕捉された気泡、介在物および溶融フラックス・未溶融フラックスは、湯面の位置が、凝固シェル先端より上方に移動したのちも、周辺の溶湯の凝固の進行により、離脱・浮上することなく捕捉されたまま凝固シェル内に留まり、最終的に鋳片表層下に残留することになる。
【0012】
図3は図2に示した気泡等の捕捉のメカニズムを時間の経過に沿ってより詳細に説明するためのグラフであり、図3(a)は湯面速度Vm、鋳造速度Vc、凝固シェル先端速度Vsの時間変化を示すグラフ、図3(b)は湯面軌跡、凝固シェル先端軌跡の時間変化を示すグラフである。
図3(a)において、実線は凝固シェル先端速度Vsを示し、細かい破線は湯面速度Vmを示し、粗い破線は鋳造速度Vc(一定)を示している。なお、複数の線が重なる部分は実線で示してある。
図3(b)において、実線は凝固シェル先端軌跡を示し、細かい破線は湯面軌跡を示している。また、図3(b)における基準位置(0)は、湯面最大下降位置よりもさらに下方位置であって、かつ湯面センサーで測れる位置とする。例えば、通常の湯面変動は±50mm未満であり、湯面最大下降位置は湯面目標位置(湯面変動がないときの目標とする湯面位置)より下方に50mm未満となる。したがって、基準位置(0)としては、湯面目標位置よりも100mm下方位置とすればよく、この位置であれば湯面センサーによる計測も可能である。
【0013】
湯面は、T点(湯面位置)をスタートに、速度Vmが負(下向き正)の状態にあるときに上昇して速度Vm=0のときに最上位置となり、その位置から下降に転じる。そして、A点(時間ts、湯面位置Hs)でその下降速度Vmが凝固シェル先端の下降速度(=鋳造速度)Vcよりも大きくなる。T点からA点までは湯面の位置と凝固シェル先端の位置は一致している(図3(b)参照)。A点以降、湯面は降下して点B(時間td、湯面位置Hd、dH/dt=Vc点)を経由し、点T-A-B-C-Dの軌跡をとる。
一方、凝固シェル先端は、点T-Aまでは湯面と同一位置であるが、A-C間は湯面と分離してdH/dt=Vcの軌跡を辿り、C点で上昇してきた湯面と一緒になり、D点に至る。
【0014】
Vm-Vc>0(下向き正)となる区間(図3(a)参照)はA〜B間であるが(図3(b)参照)、凝固シェル界面がモールドパウダーと接触している時間帯はA〜C間となる(図3(b)参照)。
気泡等が凝固シェルに捕捉されるのは図2(b)で示すように凝固シェル先端がモールドフラックス層内に浸入した状態になっている区間である。
つまり、凝固シェル界面がモールドパウダーに付着する可能性のある区間は、A〜B間よりも長いA〜C間となる。湯面変動が大きいとパウダーが捕捉されやすくなる現象は、Vm-Vc>0となる区間A〜B間で湯面とシェル先端の相対的な差が最大となるB点での両者の差hで定性的には説明できる。
しかし、hが大きくても凝固シェル界面とモールドパウダーの接触時間が極端に短い場合、モールドパウダーは凝固シェル界面に付着しないことを発見した。以下、この点を説明する。
【0015】
凝固界面に付着したパウダーは、図2(b)の状況においてパウダーが凝固しない場合には界面張力によって付着されるが、凝固界面にパウダーが凝固するとさらに付着量は増える。図2(c)に至っては、付着したパウダーは、浮力により浮上しないで、付着したパウダー上に溶鋼が凝固することによって凝固シェル内に確実に留まることになる。
溶融パウダーや溶鋼の凝固現象は被接触物に接触後或る時間遅れで起こるため、パウダーが凝固シェル界面に付着してシェル内に留まるまでにはある程度の接触時間が必要となる。したがって、接触時間が臨界値より小さい場合にはモールドパウダーが凝固シェル界面に付着しない。凝固シェル界面とモールドパウダーの接触時間が極端に短い場合、モールドパウダーが凝固シェル界面に付着しないのはこのような理由による。
よって、或る接触時間以上において、接触時間、あるいはそのルート値に比例してパウダーの捕捉量が決定されることになる。
以上の検討から分かるように、図3(b)におけるA〜C間の時間帯(以下「接触時間(te-ts)」という)を指標に、鋳片表層のパウダー欠陥を判定することが、鋳型内で生じている現象をより反映した指標となる。
【0016】
接触時間(te-ts)を求めるには、teを求める必要がある。
teは、図3(b)の湯面の軌跡を示した曲線(以下、「湯面曲線H(t)」という)と、シェル先端軌跡を示した曲線+直線(以下、「シェル軌跡線h(t)」という)との交点Cとして求めることができる。
シェル軌跡線は、ts≦t≦teの範囲においては、直線(直線AC)であり、その直線の式はtの関数h(t)として表現することができ、h(t)=Hs-Vc(t-ts)となる。
他方、湯面曲線については、これを表現する数式はないが、湯面計によって時間ごとの湯面位置を実測することで、時間ごとの湯面の位置として求めることができる。例えば、H(t1),H(t2),H(t3),H(t4),H(t5)
C点を求めるには、t>tsの条件のもとでt1,t2,・・・をh(t)=Hs-Vc(t-ts)に代入して得られる値、h(t1),h(t2)・・・と、H(t1),H(t2)・・・を比較して、H(t)≧h(t)を最初に満足するtを求める。そのtがteである。
【0017】
他方、tsは図3(a)から分かるように、Vm=Vcとなる時点であり、Vmは湯面計の情報によって知ることができるので、tsはVm≧Vcを最初に満たす時として求めることができる。
以上より、凝固シェル界面とモールドパウダーの接触時間(te-ts)を求めることができ、その情報をもとに鋳片手入れの有無と手入れ条件を決定できる。
本発明は以上の知見に基づくものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0018】
(1)本発明に係る連続鋳造時における鋳片の表面手入れ判定方法は、連続鋳造鋳型内の溶鋼湯面位置情報から鋳片表面の手入れを判定する方法であって、湯面位置が凝固シェル先端位置よりも下方に位置している持続時間を基準に鋳片手入れ要否を決定することを特徴とするものである。
【0019】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記持続時間を以下の方法で求めることを特徴とするものである。
湯面計によって所定時間ごとに湯面位置を計測し、求められた湯面位置H(t)とh(t)=Hs-Vc(t-ts)で示される凝固シェル先端位置h(t)の値を比較し、t>tsの条件のもとにH(t)≧h(t)を最初に満たすtをteとし、持続時間をte-tsとして求める。
但し、Vc:鋳造速度
Vm:湯面変動速度
ts:Vm=Vcとなる時間
Hs:tsにおける湯面位置
【0020】
(3)また、上記(2)に記載のものにおいて、予めT1を決めておいて、te-ts≧T1のときには、手入れ要とし、te-ts<T1のときには手入れ不要と判定することを特徴とするものである。
【0021】
(4)また、本発明に係る連続鋳造時における鋳片の表面手入れ判定装置は、連続鋳造鋳型内の溶鋼湯面位置情報から鋳片表面の手入れを判定する装置であって、湯面位置を計測する湯面位置検出器と、該湯面位置検出器の情報を入力して湯面位置が凝固シェル先端位置よりも下方に位置している持続時間(te-ts)を演算する演算手段と、該演算手段によって演算された持続時間と予め定めた持続時間の基準値とに基づいて手入れ要否を判定する判定手段とを備えてなることを特徴とするものである。
【0022】
(5)また、上記(4)に記載のものにおいて、演算手段は、持続時間(te-ts)を以下の方法で求めることを特徴とする請求項4記載の連続鋳造時における鋳片の表面手入れ判定装置。
湯面位置検出器によって所定時間ごとに入力される湯面位置H(t)とh(t)=Hs-Vc(t-ts)で示される凝固シェル先端位置h(t)の値を比較し、t>tsの条件のもとにH(t)≧h(t)を最初に満たすtをteとし、該teに基づいてte-tsを求める。
但し、Vc:鋳造速度
Vm:湯面変動速度
ts:Vm=Vcとなる時間
Hs:tsにおける湯面位置
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、湯面位置が凝固シェル先端位置よりも下方に位置している持続時間を基準に手入れの要否を決定するようにしたので、鋳型内での現象を適切に反映しており、手入れ要否の適切な指標となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鋳片表面の手入れを判定装置の説明図である。
【図2】鋳型内の様子を模式的に示す図であり、気泡等が凝固シェルに捕捉されるメカニズムを説明する説明図である。
【図3】図2に示した気泡等の捕捉のメカニズムを時間の経過に沿ってより詳細に説明するための説明するためのグラフである。
【図4】本発明の実施例の説明図であり、比較例の結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例の説明図であり、発明例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本実施の形態に係る鋳片表面の手入れを判定装置について、図1に基づいて説明する。
まず、本実施の形態で用いる連続鋳造装置について概説する。本実施の形態で用いる連続鋳造装置1は、水冷された鋳型3と、鋳型3の下方に配設され、鋳型3から引抜かれた鋳片を支える鋳片サポートロール7とを備えている。鋳片サポートロール7の中には、鋳型直下に、あるいは所定の位置に鋳込み長さを測定する計測ロール9を配設するのが好ましい。
【0026】
本実施の形態に係る鋳片表面の手入れ判定装置11は、連続して湯面レベル(湯面の位置)を測定する湯面位置検出器13の情報及び計測ロール9の情報が入力される演算手段15と、演算手段15の演算結果に基づいて鋳片手入れの要否を判定する判定手段17とを有している。
湯面位置の測定は、鋳型3の内壁近傍、好ましくは鋳型内壁から50mm以内で行うことが好ましい。湯面位置検出器13の例としえは、例えば渦流式電磁センサー、γ線センサー等が好ましい。
【0027】
演算手段15は、湯面位置検出器13から入力される湯面位置情報に基づいて湯面の下降速度Vmを所定の時間間隔ごとに演算する。
また、湯面の位置測定に同期して、計測ロール9により鋳片の下降量が計測され、該情報が演算手段15に入力される。そして、演算手段15は、鋳片の下降量情報をもとに、算出した湯面下降速度Vmに相当する時刻の鋳片の下降速度Vcを演算する。
さらに、演算手段15は、湯面計の情報を入力して湯面位置が凝固シェル先端位置よりも下方に位置している持続時間(te-ts)(図3参照)を演算する。
【0028】
持続時間(te-ts)は例えば以下のようにして求める。
前述したように、シェル先端位置の軌跡線は、ts≦t≦teの範囲においては、tの関数h(t)として下式で表現することができる。
h(t)=Hs-Vc(t-ts)となる。
但し、Vc:鋳造速度
ts:Vm=Vcとなる時間
Hs:tsにおける湯面位置
【0029】
他方、湯面の位置は、湯面計によって時間ごとの湯面位置を実測することで、時間ごとの湯面の位置として求めることができる。例えば、H(t1),H(t2),H(t3),H(t4),H(t5)
t>tsの条件のもとでt1,t2,・・・をh(t)=Hs-Vc(t-ts)に代入して得られる値、h(t1),h(t2)・・・と、H(t1),H(t2)・・・を比較して、H(t)≧h(t)を最初に満足するtを求め、それをteとする。
他方、tsはVm≧Vcとなる最初の時間とする。
以上のようにして、teとtsが求まるので、持続時間(te-ts)を求めることができる。
【0030】
判定手段17は、演算手段15によって演算された持続時間(te-ts)と予め定めた持続時間の基準値T1とに基づいて手入れ要否を判定する。すなはち、持続時間(te-ts)≧T1であれば鋳片手入れ要と判定し、持続時間(te-ts)<T1であれば鋳片手入れ不要と判定する。
【0031】
なお、上記の例では鋳造速度Vcとして計測ロール9の情報に基づく例を示したが、これに代えて複数のピンチロール19の回転数の情報に基づいて得られるものを用いてもよい。
【実施例】
【0032】
本発明の効果を確認するために以下の実施を行った。
中炭素鋼スラブ(C:0.08-0.13, Si:0.2-0.4, Mn:1.0-1.5, P:0.015-0.025, S:0.008-0.020, Al:0.02-0.50, Ti:0.08-0.020wt%、厚み220mm、幅1900〜2100mm)を、垂直曲げ型連続鋳造機によって鋳造し、無手入れのまま、製品まで圧延した。
操業条件は、鋳造速度Vc=1.0〜2.2m/min、鋳型振動波形:サイン波形、スラブ厚220mmに対して、鋳型振幅S=7mm、ネガティブストリップ速度率N[=(2Sf-Vc)/Vc]:0.22に設定し、Vc/f=(1+N)/(2S)なる関係から鋳型振動数fを決定して鋳造した。
鋳造中、モールドパウダーは、塩基度(CaO/ SiO2)1.9、結晶化温度1120℃、粘度0.5P(1300℃)の物性を示すものを使用し、タンディッシュ内溶鋼過熱度は20〜35℃とした。その他の条件も極力変更しないで実施した。
【0033】
鋳造中、鋳型厚み中央部、浸漬ノズルと鋳型短辺の中央部で渦流式センサーにより0.05秒毎に計測した鋳型内湯面位置データをもとに、シェル界面/パウダー接触時間(te-ts)の最大値を鋳造スラブ単位で計算し、製品熱延板(厚み26〜51mm)のパウダー起因の表面ヘゲ発生率(=ヘゲ発生コイル数/調査した総コイル数x100)との関係を調査した。
比較例として、湯面変動量(mm)(図3のh)と表面ヘゲ発生率との関係についても調査した。
【0034】
図4、図5は調査結果をグラフで示したものであり、図4が比較例、図5が本発明例である。図4においては、縦軸がヘゲ発生率(%)、横軸が湯面変動量(mm)を示している。また、図5においては、縦軸がヘゲ発生率(%)、横軸がシェル界面/パウダー接触時間(te-ts)のルート値を示している。 図4に示されるように、湯面変動量とヘゲ発生率との関係では、湯面変動量が小さい場合もヘゲ発生率がある程度認められ、湯面変動量はヘゲ発生率の正確な指標とは言いがたい。 これに対して、図5に示されるように、凝固シェル界面/パウダー接触時間(te-ts)のルート値とヘゲ発生率との関係では、凝固シェル界面/パウダー接触時間(te-ts)のルート値がある臨界値以下ではヘゲ発生率がゼロに漸近する傾向が明瞭に現れた。このように、凝固シェル界面/パウダー接触時間(te-ts)のルート値は、ヘゲ発生率の明瞭な指標とできることが確認された。 したがって、凝固シェル界面/パウダー接触時間(te-ts)のルート値によって鋳片手入れの有無を判定することで正確な判定が実現できることが確認された。 なお、本実施例に示した例では臨界値0.5以上で鋳片手入れとすることにより、欠陥の流出を効果的に防止できることが判る。
【符号の説明】
【0035】
1 連続鋳造装置
3 鋳型
5 鋳片
7 鋳片サポートロール
9 計測ロール
11 鋳片手入れ判定装置
13 湯面位置検出器
15 演算手段
17 判定手段
19 ピンチロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造鋳型内の溶鋼湯面位置情報から鋳片表面の手入れを判定する方法であって、湯面位置が凝固シェル先端位置よりも下方に位置している持続時間を基準に鋳片手入れ要否を決定することを特徴とする連続鋳造時における鋳片の表面手入れ判定方法。
【請求項2】
前記持続時間を以下の方法で求めることを特徴とする請求項1記載の連続鋳造時における鋳片の表面手入れ判定方法。
湯面計によって所定時間ごとに湯面位置を計測し、求められた湯面位置H(t)とh(t)=Hs-Vc(t-ts)で示される凝固シェル先端位置h(t)の値を比較し、t>tsの条件のもとにH(t)≧h(t)を最初に満たすtをteとし、持続時間をte-tsとして求める。
但し、Vc:鋳造速度
Vm:湯面変動速度
ts:Vm=Vcとなる時間
Hs:tsにおける湯面位置
【請求項3】
予めT1を決めておいて、te-ts≧T1のときには、手入れ要とし、te-ts<T1のときには手入れ不要と判定することを特徴とする請求項2記載の連続鋳造時における鋳片の表面手入れ判定方法。
【請求項4】
連続鋳造鋳型内の溶鋼湯面位置情報から鋳片表面の手入れを判定する装置であって、
湯面位置を計測する湯面位置検出器と、該湯面位置検出器の情報を入力して湯面位置が凝固シェル先端位置よりも下方に位置している持続時間(te-ts)を演算する演算手段と、該演算手段によって演算された持続時間と予め定めた持続時間の基準値とに基づいて手入れ要否を判定する判定手段とを備えてなることを特徴とする連続鋳造時における鋳片の表面手入れ判定装置。
【請求項5】
演算手段は、持続時間(te-ts)を以下の方法で求めることを特徴とする請求項4記載の連続鋳造時における鋳片の表面手入れ判定装置。
湯面位置検出器によって所定時間ごとに入力される湯面位置H(t)とh(t)=Hs-Vc(t-ts)で示される凝固シェル先端位置h(t)の値を比較し、t>tsの条件のもとにH(t)≧h(t)を最初に満たすtをteとし、該teに基づいてte-tsを求める。
但し、Vc:鋳造速度
Vm:湯面変動速度
ts:Vm=Vcとなる時間
Hs:tsにおける湯面位置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−36894(P2011−36894A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187817(P2009−187817)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】