説明

連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法及び装置並びに連続鋳造鋳片の製造方法

【課題】連々鋳時の鍋交換時のように鋳造速度の減速、再加速を行うような非定常時にも正確に凝固完了位置を制御できる連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法及び装置並びに連続鋳造鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】連続鋳造鋳片の凝固完了位置を、鋳造速度および/または冷却水量を操作して、凝固完了位置制御する連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法において、鋳造速度および/または冷却水量の変更に対する鋳片凝固完了位置の移動応答の関係を表す応答モデルを、鋳造条件に応じた複数の応答モデルとして作成してデータベースに保存し、必要に応じた応答モデルを前記データベースから読み出し、読み出した応答モデルを用いて、所望の鋳片凝固完了位置の応答に一致させるための、鋳片移動速度変更指令信号のフィルタ処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造機で鋳造されている連続鋳造鋳片の凝固完了位置をオンラインで制御する連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法及び装置並びに連続鋳造鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、連続鋳造鋳片の凝固完了位置(「クレータエンド位置」ともいう)が鋳片のどの位置にあるかを判定し、適正な位置に保つことが、極めて重要であり、鋳片の生産性や品質の向上に大きく影響をあたえる。
【0003】
例えば、生産性を向上させるために鋳造速度を上昇させると、凝固完了位置は鋳片の鋳造方向下流側に移動する。凝固完了位置が鋳片支持ロールの範囲を超えてしまうと、鋳片が静鉄圧の作用によって膨らみ(以下、この現象を「バルジング」と記す)、内質の悪化や巨大バルジングの場合には鋳造停止といった問題が発生する。従って、凝固完了位置を適正な範囲に保つことが極めて重要となる。
【0004】
また、鋳片の中心偏析を低減して高品質化を図るための軽圧下操業では、凝固完了位置を軽圧下帯に位置させるように鋳造速度や二次冷却水強度を制御する必要がある。更に、スラブ鋳片においては、その断面が扁平形状であるため、凝固完了位置は鋳片の幅方向で均一ではなく、且つ、時間によってその形状が変動することが知られている。この幅方向で異なる凝固完了位置の形状も、鋳片の品質や生産性を決める大きな要因となっている。
【0005】
これらの要求に応えるために、まず鋳片の凝固状態を把握する必要があり、鋳片の凝固状態の推定と凝固点位置の制御方法がいままでに提案されている。
【0006】
たとえば、特許文献1では、電磁超音波計を用いて凝固厚みを計測し、計測した凝固厚とメニスカスより電磁超音波計までの経過時間を用いて、鋳片の凝固速度を算出し、メニスカスからの経過時間を用いて、該鋳片部位が電磁超音波計の位置に到達した時点で凝固が終了するように鋳造速度を制御する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2では、横波超音波センサと縦波超音波センサの両方を用い、縦波超音波の伝播時間から凝固位置を求める計算式を横波超音波センサの値で校正し、縦波超音波の伝播時間から凝固位置を推定する方法と、その推定位置に基づく鋳造速度、スプレーの制御することが開示されている。
【特許文献1】特開平2−55652号公報
【特許文献2】特開2005−177860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した開示技術では、以下に示すような問題がある。
【0009】
先ず、特許文献1に開示された技術では凝固速度の計算値を利用するが、連々鋳時の鍋交換時のように鋳造速度の減速、再加速を行うような非定常時には正確な凝固速度推定ができず、凝固位置が機端から外に出るような現象の発生するおそれがある。実際、鋳造速度を急激に変える場合、速度に応じた2次冷却の変更も同時になされるため、モールド直下の鋳片と機端に近い鋳片の冷却履歴は大きく異なることになる。このため、速度変更後の凝固位置がどのように変化するかは、応答モデルなどのモデルを用いないと正確な操作を決定することはできないという課題がある。
【0010】
また、特許文献2に開示された技術では2種類の超音波センサによって正確に推定された凝固位置を使って鋳造速度または2次冷却スプレーを制御すると説明されているが、具体的な制御方法には言及されていない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、連々鋳時の鍋交換時のように鋳造速度の減速、再加速を行うような非定常時にも正確に凝固完了位置を制御できる連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法及び装置並びに連続鋳造鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に係る発明は、連続鋳造鋳片の凝固完了位置を、鋳造速度および/または冷却水量を操作して、凝固完了位置制御する連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法において、鋳造速度および/または冷却水量の変更に対する鋳片凝固完了位置の移動応答の関係を表す応答モデルを、鋳造条件に応じた複数の応答モデルとして作成してデータベースに保存し、必要に応じた応答モデルを前記データベースから読み出し、読み出した応答モデルを用いて、所望の鋳片凝固完了位置の応答に一致させるための、鋳片移動速度変更指令信号のフィルタ処理を行うことを特徴とする連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法である。
【0013】
また本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法において、前記鋳片凝固完了位置の移動応答の関係を表す応答モデルを、無駄時間と線形動特性モデルで表すことを特徴とする連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法である。
【0014】
また本発明の請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法において、連続鋳造鋳片の凝固完了位置を推定または検知することによって、鋳造速度および/または冷却水量を操作して得られる、凝固完了位置変化を求め、求めた凝固完了位置変化に基づいて、前記データベースに保存した応答モデルを補正することを特徴とする連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法である。
【0015】
また本発明の請求項4に係る発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法を用いて連続鋳造鋳片を製造することを特徴とする連続鋳造鋳片の製造方法である。
【0016】
さらに本発明の請求項5に係る発明は、鋳造速度および/または冷却水量の変更に対する鋳片凝固完了位置の移動応答の関係を表す応答モデルを、鋳造条件に応じた複数の応答モデルとして保存するデータベースと、必要に応じた応答モデルを前記データベースから読み出し、読み出した応答モデルを用いて、所望の鋳片凝固完了位置の応答に一致させるための、鋳片移動速度変更指令信号のフィルタ処理を行う補償器とを備えることを特徴とする連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、鋳造速度などの鋳造条件が変化した場合の凝固点位置変化の応答モデルをデータベースでパラメータ管理したうえで、非定常モデルの考慮をきめ細かく実現するようにしたので、連々鋳時の鍋交換時のように鋳造速度の減速、再加速を行うような非定常時においても、凝固位置が機端から外に出るような現象を発生させることなく、例えば最短時間で凝固点位置を所定の位置に戻すことなどが可能となり、高い生産性を維持した操業を継続することが可能となる。また、鋳片の品質を最良とする凝固点位置管理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明を実施するための最良の形態について、図面および数式を参照して以下に説明を行う。図1は、本発明に係る基本の制御系全体を示す図である。図中、1は溶鋼、2はタンディッシュ、3は浸漬ノズル、4はモールド、5はシェル、6はスライディングノズル、7はピンチロール、8は凝固位置検出装置、9は鋳造条件データベース、10はフィルタ処理装置、および11はピンチロール速度制御装置をそれぞれ表す。
【0019】
モールド4の上部にタンディッシュ2が配置され、そして、そのタンディッシュ底部にはスライディングノズル6が配置され、更に、スライディングノズル6の下面側には浸漬ノズル3が配置されている。タンディッシュ2内に満たされた溶鋼1は、スライディングノズル6、浸漬ノズル3を経てモールド4内へ注入される。
【0020】
モールド4内へ注入された溶鋼1は、モールド側面より冷却されて、表面から凝固してシェル5を形成しつつ、ピンチロール7によって下方に引き抜かれ鋳片となる。この時、引抜速度すなわち鋳造速度は、ピンチロール(P/R)速度制御装置11により制御される。また、モールド4内に注入される溶鋼量は、スライディングノズル6の開度により決まる。
【0021】
本発明では、2次冷却の制御方法を与える。このとき、スプレー水量は鋳造速度レベルに応じて自動的に変更される制御系(図示せず)が別途あるものとする。
【0022】
鋳造速度を鍋交換時のように変更する場合には、P/R速度制御装置11に速度変更指令を与えれば、鋳造速度変更が実現される。このとき、鋳造速度変更にあわせ、増速時にはスプレー水量が自動的に適切な量に増量され、減速時には同様に適切な水量に減量される。これにより、凝固完了位置は動的に変化する。
【0023】
本発明では、この凝固完了位置の動的変化を動特性モデルとして記述し、鋳造条件データベース9に格納する。次に、動特性モデルが理想的な応答になるような補償器10を設計して設置する。この補償器10は、操業条件にあった動特性モデルを用いたP/R速度変更指令のフィルタ処理を行うが、凝固完了位置の凝固位置検出装置8が無くても実現できるように、P/R速度変更指令をフィルタ処理した上で新しいP/R速度指令としてP/R速度制御装置11に与えることで、理想の応答がえられるようにもしている。
【0024】
補償器10でのフィルタ処理について、以下に説明を行う。まず、図2は、鋳造速度増速変更時の凝固完了位置の変化の様子を表す図である。
【0025】
一般に、鋳造速度を図2の上図のように変更させた場合、凝固完了点の位置は、図2の下図のようにスプレー水量の条件変更にともなう無駄時間を経過した後に変化しはじめる。その変化はときとして、図2に示すような凝固完了位置が一旦オーバーシュートするかのような振る舞いをする。このため、オーバーシュートしない速度変更が求められる。
【0026】
これを実現する為には、図2に示す鋳造速度変化を操作量、凝固完了位置変化を出力とみた動特性モデルを作成する。そして、この動特性モデルによる応答に何がしかの補償を行った結果の応答が、例えば、図3に示すようなオーバーシュートのない応答になるようにすればよいことになる。制御的には、モデルリファレンス制御と呼ばれる。
【0027】
図4は、モデルリファレンス制御系の構成例を示す図である。この例では、2次冷却プロセスに与える速度変更指令を、「P/R速度変更パターンフィルタ」に入れて補正し、補正された新しい速度変更指令を与える構成になっている。なお、この「P/R速度変更パターンフィルタ」のかわりに、凝固位置を観測して動特性を変更する動的補償器を入れても構わない。これらの処理で図3で示したように凝固完了位置の応答特性を改善することができる。
【0028】
凝固完了位置の応答特性は、一般に非線形の伝熱動特性をベースに作られるが、非常に複雑である。このため、鋼種による凝固特性による分類、鋳造速度領域による分類をおこない、条件に応じてモデルの特徴を保存することで、より簡単で汎用的なモデルとすることができる。従って図4には、これらを鋳造条件D/B(データベース)から抽出して、フィルタに与える形としている。また、その特性は、経年変化や鋳造条件変化などがあることが想定されるため、鋳造速度変更実績、スプレー水量変更実績と凝固完了位置情報をみて、鋳造条件D/Bのモデルパラメータ更新をする機構を追加して対応している。
【実施例】
【0029】
具体的な実施例を以下に示す。まず、鋳造速度変更に対する凝固完了位置の応答を、下記の(1)式に示す伝達関数表示した「無駄時間+2次の線形応答モデル」G(s)で近似する。
【0030】
【数1】

【0031】
このとき、凝固完了位置がオーバーシュートしない理想モデルの応答をGm(s)として
下記(2)式のように与える。
【0032】
【数2】

【0033】
そして、図4に示した「P/R速度変更パターンフィルタ」F(s)を、以下の(3)式のように与える。
【0034】
【数3】

【0035】
このように構成すると、F(s)を通してG(s)に与えられた速度変更による凝固完了位置の応答は見かけ上Gm(s)の応答のように実現できる。これは、以下の(4)式のようにF(s)を設計したためである。
【0036】
【数4】

【0037】
以上説明したモデル補償の考え方をまとめたのが、図5である。
【0038】
図6は、フィルタ前後での鋳造速度変更指令の変化の一例を示す図である。P/R速度変更パターンフィルタをとおすことで、上段のフィルタをとおす前の鋳造速度指令は、下段に示すような新鋳造速度指令に、変化する。このように、フィルタをとおして鋳造速度を変化させることで、図3で示したオーバーシュートの無い凝固完了位置の応答を得ることができる。
【0039】
ここでは、オーバーシュートの無い凝固完了位置の応答を得ることを例として説明したが、上述の手法を用いれば、鋳造速度変更に対する凝固完了位置の応答を任意の応答に変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る基本の制御系全体を示す図である。
【図2】鋳造速度増速変更時の凝固完了位置の変化の様子を表す図である。
【図3】鋳造速度変更と凝固完了点位置の理想的応答波形の一例を示す図である。
【図4】モデルリファレンス制御系の構成例を示す図である。
【図5】モデル補償の考え方を示す図である。
【図6】フィルタ前後での鋳造速度変更指令の変化の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 溶鋼
2 タンディッシュ
3 浸漬ノズル
4 モールド
5 シェル
6 スライディングノズル
7 ピンチロール
8 凝固位置検出装置
9 鋳造条件データベース
10 補償器
11 ピンチロール速度制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造鋳片の凝固完了位置を、鋳造速度および/または冷却水量を操作して、凝固完了位置制御する連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法において、
鋳造速度および/または冷却水量の変更に対する鋳片凝固完了位置の移動応答の関係を表す応答モデルを、鋳造条件に応じた複数の応答モデルとして作成してデータベースに保存し、必要に応じた応答モデルを前記データベースから読み出し、読み出した応答モデルを用いて、所望の鋳片凝固完了位置の応答に一致させるための、鋳片移動速度変更指令信号のフィルタ処理を行うことを特徴とする連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法において、
前記鋳片凝固完了位置の移動応答の関係を表す応答モデルを、無駄時間と線形動特性モデルで表すことを特徴とする連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法において、
連続鋳造鋳片の凝固完了位置を推定または検知することによって、鋳造速度および/または冷却水量を操作して得られる、凝固完了位置変化を求め、求めた凝固完了位置変化に基づいて、前記データベースに保存した応答モデルを補正することを特徴とする連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法を用いて連続鋳造鋳片を製造することを特徴とする連続鋳造鋳片の製造方法。
【請求項5】
鋳造速度および/または冷却水量の変更に対する鋳片凝固完了位置の移動応答の関係を表す応答モデルを、鋳造条件に応じた複数の応答モデルとして保存するデータベースと、
必要に応じた応答モデルを前記データベースから読み出し、読み出した応答モデルを用いて、所望の鋳片凝固完了位置の応答に一致させるための、鋳片移動速度変更指令信号のフィルタ処理を行う補償器とを備えることを特徴とする連続鋳造鋳片の凝固完了位置制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−268559(P2007−268559A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96681(P2006−96681)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】