説明

連続I桁橋およびその中間支点近傍のI桁の構造

【課題】I桁の座屈の発生を防止するとともに、I桁における鋼とコンクリートの合成効果を高めて、連続I桁橋の中間支点近傍のI桁の耐荷力を向上させる。
【解決手段】連続I桁橋10の中間支点12近傍において、下フランジ34の上面にずれ止め40を複数個配設し、ずれ止め40を含み、下フランジ34の上面、ウェブ36の下部、鉛直補剛材38Aの下部で囲まれる空間に、フレッシュコンクリートを、該フレッシュコンクリートが硬化してなるコンクリート46が塑性中立軸より下の領域である圧縮域内に全て含まれるように打設して、ずれ止め40全体、下フランジ34の上面、ウェブ36の下部、鉛直補剛材38の下部を、コンクリート46と一体化させ、さらに、中間支点12の直上にある鉛直補剛材38A同士の間隔を、中間支点12の直上にない鉛直補剛材38B同士の間隔よりも狭くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁等の土木構造物、特に、連続I桁橋およびその中間支点近傍のI桁の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図17に示すように、連続I桁橋10の中間支点12近傍には大きな負の曲げモーメントが生じる。この負の曲げモーメントにより、図18〜図20に示すI桁130のウェブ136下部から下フランジ134にかけての桁断面には大きな圧縮力が作用するため、図18に示すように下フランジ134が局部座屈したり、図19に示すようにウェブ136下部が局部座屈したり、図20に示すようにI桁130全体が横倒れ座屈、横ねじれ座屈等の横座屈を起こす可能性がある。特に、連続I桁橋10のスパンが比較的長い場合において、I桁130に高強度鋼などを適用する場合には、このような問題が顕著となる。図18〜図20において、132は上フランジ、180はI桁130の上に設置する床版である。
【0003】
これに対する従来技術1として、中間支点12近傍において、
(1)下フランジ134の板厚を大きくする。
(2)ウェブ136の板厚を大きくする。
(3)横桁や横溝等の間隔を小さくして密に配置する。
等の対策がある。
【0004】
また、従来技術2として、特許文献1に記載された橋梁用連続桁が挙げられる。この橋梁用連続桁は、上下のフランジとウェブとを有して橋軸方向に延び、1又は複数の中間支点で支持される鋼製の桁本体を備え、この桁本体の上記中間支点の周辺には、垂直、水平鉄筋の全て若しくは一部を埋設してなる鉄筋コンクリートが、上記ウェブに添うようにして打設されており、上記垂直鉄筋が、垂直に延びると共に上下端が上下のフランジにそれぞれ連結され、上記水平鉄筋が、上記橋軸方向に延び上記垂直鉄筋と直交されていることを特徴とし、上記中間支点周辺の被支持領域が、鉄筋コンクリートで補強されている。
【0005】
また、従来技術3として、特許文献2や特許文献3を挙げることができ、特許文献2や特許文献3には、少なくとも一対のI桁が橋軸方向に配設された連続桁橋において、支承による被支持部近傍の前記一対のI桁の下フランジ間に、補強板(特許文献2)やコンクリート版(特許文献3)を架設固定し、箱形断面として補強することが記載されている。
【0006】
さらに、従来技術4として、特許文献4を挙げることができ、特許文献4には、箱桁橋梁において、中間支点周辺の領域の鋼箱桁の内部空間全体をコンクリートで埋め尽くして補強することが記載されている。
【0007】
また、従来技術5として、特許文献5を挙げることができ、特許文献5には、I桁の下フランジ上面にプレキャスト板を配設して、下フランジの局部座屈を防止した、中間支点近傍のI桁の構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−266317号公報
【特許文献2】特開平11−81240号公報
【特許文献3】特開平11−148110号公報
【特許文献4】特開2004−176344号公報
【特許文献5】特開2006−299554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術1には、次のような問題点がある。
(A)下フランジ及びウェブの板厚を大きくする場合には、鋼重が大幅に増え、また、断面ごとの溶接接合やボルト接合による作業が大変になるため、工数が増え、工費が増大することになる。
(B)横桁や横溝等の間隔を小さくして密に配置する場合には、横桁や横溝等の個数が増えるため、鋼重および工数が増え、工費が増大することになる。
【0010】
また、特許文献1に記載の従来技術2には、次のような問題点がある。
【0011】
従来技術2は、垂直鉄筋の上下端を上下のフランジにそれぞれ直接、あるいは、短鉄筋とカプラーを介して溶接等により連結する必要がある。一般に、桁橋の上下フランジ間は2〜3m程度となるため、垂直鉄筋も2〜3m程度の長さとなる。2〜3mの長さの長い鉄筋を上下のフランジへ直接溶接する作業は、煩雑かつ困難であり、精度確保も難しい。また、短鉄筋とカプラーを介して連結する場合も、まず短鉄筋を溶接し、さらに長い鉄筋をカプラーを介して連結する必要があるため、工数が増えるばかりか、短鉄筋の取付位置や角度等に高い精度が要求される。また、特許文献1の図6には、垂直鉄筋の下側部だけをコンクリートに埋設し、桁本体が非支持領域において圧縮応力で座屈しないようにした実施形態が記載されているが、垂直鉄筋の上側部は大気中に露出しており、腐食が懸念される。
【0012】
また、特許文献2及び3に記載された技術(従来技術3)は、隣接するI桁の下フランジ間に補強板やコンクリート版を架設固定して、箱形断面を形成してI桁を補強する技術であるが、箱型断面であるため、I桁のウェブの局部座屈を防ぐ効果を向上させるために、架設固定する補強板やコンクリート版の厚さを増すと、上部工の重量が大幅に増えてしまう。
【0013】
また、特許文献4に記載された技術(従来技術4)は、中間支点周辺の領域の鋼箱桁の内部空間全体をコンクリートで埋め尽くして補強する技術であるが、箱桁のウェブを外側から拘束しておらず、箱桁のウェブの局部座屈を防ぐ効果が十分とはいえない。
【0014】
また、特許文献5に記載された技術(従来技術5)は、I桁の下フランジの上にプレキャスト板を配設して、I桁のウェブを両側から挟み込んでいるが、特許文献3に記載された技術とは異なり箱形断面を形成しておらず、I桁のウェブを挟み込む範囲を広くするためにプレキャスト板の厚さを厚くしても、特許文献3に記載された技術ほどは、上部工の重量は増加しない。しかし、プレキャスト板を用いていることから、I桁のウェブを両側から遊びなく挟み込むことは難しく、I桁のウェブを十分に拘束することは難しい。また、プレキャスト板を用いていることから、I桁の長手方向と直交する各断面において鋼とコンクリートの合成効果を高めることには限界がある。
【0015】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、鋼重、上部工の重量の増加、工数、工費を低減しつつ、施工の容易さや設置する鋼部材の腐食防止にも配慮した上で、1又は複数の中間支点によって支持される連続I桁橋の、負の曲げモーメントが作用する中間支点近傍において、I桁の下フランジ及びウェブ下部の局部座屈、I桁全体の横座屈の発生を防止するとともに、I桁の長手方向と直交する各断面における鋼とコンクリートの合成効果を高めて、連続I桁橋の中間支点近傍のI桁の耐荷力を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る、連続I桁橋における中間支点近傍のI桁の構造は、上フランジ、下フランジ、ウェブ、鉛直補剛材を備えたI桁と床版によって構成され、両端の端支点と1又は複数の中間支点とによって支持される連続I桁橋の、負の曲げモーメントが作用する中間支点近傍において、下フランジの上面にずれ止めを複数個配設し、該ずれ止めを含み、下フランジの上面、ウェブの下部、鉛直補剛材の下部で囲まれる空間に、フレッシュコンクリートを、該フレッシュコンクリートが硬化してなるコンクリートが塑性中立軸より下の領域である圧縮域内に全て含まれるように打設して、前記ずれ止め全体、下フランジの上面、ウェブの下部、鉛直補剛材の下部を、前記フレッシュコンクリートが硬化してなるコンクリートと一体化させてなり、前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にある鉛直補剛材同士の間隔は、前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にない鉛直補剛材同士の間隔よりも狭くなっており、以上の構成により、下フランジおよびウェブ下部の局部座屈ならびにI桁全体の横座屈を防止して、I桁の耐荷力を向上させることを特徴とする。
【0017】
ここで、塑性中立軸とは、曲げモーメントによる塑性応力状態における断面の中立軸である。
【0018】
なお、連続I桁橋は、正確には上部工と下部工からなるが、本明細書においては、「連続I桁橋の上部工」を「連続I桁橋」と記載している。
【0019】
前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にある鉛直補剛材を、前記ウェブの表面から前記上フランジおよび前記下フランジの縁部に達する幅を有するようにし、一方、前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にない鉛直補剛材を、前記ウェブの表面から前記上フランジおよび前記下フランジの縁部に達する幅を有さないようにし、鉄筋を前記下フランジの上方に前記I桁の長手方向に配置する妨げとならないようにしてもよい。
【0020】
また、前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にある鉛直補剛材同士の間隙にはコンクリートを打設しないで済む場合もある。
【0021】
一方、前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にある鉛直補剛材同士の間隙にコンクリートを打設してもよい。
【0022】
また、前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にある鉛直補剛材の下部を鋼部材により補剛してもよい。
【0023】
また、連続I桁橋において、前記I桁の構造を、負の曲げモーメントが作用する領域のみに配置することにより、連続I桁橋全体の重量増加を抑えつつ、下フランジおよびウェブ下部の局部座屈ならびにI桁全体の横座屈を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、ずれ止め全体、下フランジの上面、ウェブの下部、鉛直補剛材の下部が、コンクリートと一体化されて合成構造となっている。特に、ウェブの下部は両側からコンクリートで拘束されており、ウェブ下部の局部座屈が防止されている。さらに、下フランジの上面にずれ止めが複数個配設されているため、下フランジもコンクリートと合成された一体構造となっており、下フランジの局部座屈も防止されている。さらにまた、前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にある鉛直補剛材同士の間隔は、前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にない鉛直補剛材同士の間隔よりも狭くなっている。
【0025】
このため、本発明では、下フランジ及びウェブ下部の局部座屈やI桁全体の横座屈に対する耐荷力は格段に高められている。
【0026】
したがって、連続I桁橋の中間支点近傍において大きな負の曲げモーメントが生じ、下フランジに大きな圧縮力が作用する場合でも、本発明に係る中間支点近傍のI桁の構造においては、下フランジ及びウェブ下部の局部座屈やI桁全体の横座屈が効果的に防止されており、鋼材の塑性域の性能まで活用することができる。
【0027】
さらに、前述のように、本発明に係る中間支点近傍のI桁の構造においては、鋼とコンクリートの合成構造となっており、I桁の長手方向と直交する断面は合成断面として曲げモーメントに抵抗することができる。
【0028】
したがって、本発明に係る中間支点近傍のI桁の構造においては、耐荷力が大幅に向上しており、従来技術1のように、下フランジやウェブの板厚を大きくしたり、横桁や横溝等の間隔を小さくして密に配置したりする必要がないため、従来技術1より鋼重、工数、工費を低減することができる。
【0029】
また、本発明に係る中間支点近傍のI桁の構造においては、ずれ止めを用いており、鉄筋はコンクリート内に配設しなくてもよく、特許文献1に記載の従来技術2のように、上下のフランジへ垂直鉄筋を連結する必要がないため、施工が容易である。特許文献1に記載の従来技術2では、上下のフランジへ垂直鉄筋を連結する必要があるため、鉄筋を溶接するような煩雑かつ施工管理が困難な作業が必要であり、また、鉄筋の取り付け位置や角度などに、高い精度が要求される。また、本発明に係る中間支点近傍のI桁の構造においては、鉄筋を配設する場合であっても、概ね平らで安定した下フランジの上面で組み立ておよび配設作業を行なえるため、作業および施工管理は容易である。
【0030】
このため、本発明に係る中間支点近傍のI桁の構造においては、施工作業が軽減され、工費と工期を低減することができる。
【0031】
また、前記コンクリートを、塑性中立軸より下の領域である圧縮域内となるように配設しているので、塑性応力状態においても、コンクリートにひび割れが発生せず、全塑性曲げモーメントに達するまで、コンクリートの性能をフルに活用することができるとともに、重量増加を抑えることができる。これに対し、特許文献1では、ウェブの高さ方向にフレッシュコンクリートを部分的に打設してもよいことが記述されているが、配設するコンクリートの高さについての具体的な記述がない。このため、特許文献1に記載の技術では、配設するコンクリートの高さが高い場合には、コンクリート部のひび割れや破壊などを生じるおそれがある。逆に、配設するコンクリートの高さが低い場合には、ウェブが局部座屈するおそれがある。
【0032】
さらに、本発明に係る中間支点近傍のI桁の構造においては、特許文献1の図6に記載の技術とは異なり、鋼部材は全体がコンクリート内に含まれており、大気中に露出しないので、設置する鋼部材の腐食も抑制される。また、特許文献1の図6に記載の技術では、垂直鉄筋と上フランジ下面との連結部における疲労破壊も懸念されるが、本発明に係る中間支点近傍のI桁の構造においては、そのような懸念はない。
【0033】
また、本発明では、特許文献2及び3に記載された技術とは異なり、箱型断面を形成しないので、I桁のウェブの局部座屈を防ぐ効果を向上させるために、配設するコンクリートの高さを高くしても、箱型断面を形成する場合より重量の増加を抑えることができる。
【0034】
また、本発明では、特許文献4に記載された技術とは異なり、ウェブ下部を両側からコンクリートで拘束するので、ウェブの局部座屈を防ぐ効果を十分に発現させることができる。
【0035】
また、本発明では、特許文献5に記載された技術とは異なり、プレキャスト板を用いないので、I桁のウェブを両側から遊びなく挟み込むことができ、I桁のウェブを十分に拘束することができる。また、フレッシュコンクリートを打設して、コンクリートとI桁を一体化させているので、I桁の長手方向と直交する各断面において鋼とコンクリートの合成効果を高めることもできる。
【0036】
また、連続I桁橋において、前記I桁の構造を、負の曲げモーメントが作用する領域のみに配置する場合、連続I桁橋全体の重量増加を抑えつつ、下フランジおよびウェブ下部の局部座屈ならびにI桁全体の横座屈を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施形態に係る中間支点近傍のI桁の構造を示す斜視図
【図2】同じく側面図
【図3】中間支点近傍のI桁の下フランジの上面に、ずれ止めである板部材を配設した施工段階を示す斜視図
【図4】同じく側面図
【図5】板部材の一例を示す斜視図
【図6】板部材の切り欠きの例を示す側面図
【図7】橋軸方向鉄筋および帯筋について、所定の配筋を行なって下フランジの上面に設置した例を示す側面図
【図8】橋軸方向鉄筋を板部材の切り欠きに落とし込んで、所定の位置に配置させる状況を示す斜視図
【図9】型枠を設置した状況を示す側面図
【図10】負の曲げモーメントを受ける中間支点近傍のI桁の構造における塑性応力状態での断面の応力分布の概念図
【図11】中間支点部鉛直補剛材を鋼部材で補剛した状況を示す側面図
【図12】中間支点の直上の空間にフレッシュコンクリートを充填し、コンクリートをhcの高さまで配設した状況を示す側面図
【図13】本発明の第2実施形態に係る中間支点近傍のI桁の構造を示す側面図
【図14】下フランジの上面に配設されるコンクリートの橋軸方向の配置位置の例を模式的に示す側面図
【図15】同じく他の例を模式的に示す側面図
【図16】本発明の実施形態を連続I桁橋(2主I桁橋)に適用した場合で、中間支点近傍を橋軸直角方向の面で切断した断面を斜め上方から見た斜視図
【図17】連続I桁橋における曲げモーメント分布の一例を模式的に示す側面図
【図18】連続I桁橋の中間支点近傍における下フランジの局部座屈を示す正面図
【図19】連続I桁橋の中間支点近傍におけるウェブ下部の局部座屈を示す正面図
【図20】連続I桁橋の中間支点近傍における横座屈を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0039】
図1(斜視図)及び図2(側面図)は、本発明の第1実施形態を示す図である。本実施形態は、連続I桁橋10(図17参照)におけるI桁30のうち、中間支点12近傍のI桁30に適用されている。I桁30は、上フランジ32、下フランジ34、ウェブ36、鉛直補剛材38から構成されている。鉛直補剛材38は、中間支点部鉛直補剛材38Aおよび一般部鉛直補剛材38Bからなる。下フランジ34の上面には、ずれ止めである板部材40および所定の配筋(橋軸方向鉄筋42および帯筋44)を含み、かつ、下フランジ34の上面、ウェブ36の下部および鉛直補剛材38の下部と一体化したコンクリート46が配設されている。コンクリート46が配設されている領域は、塑性中立軸より下の領域である圧縮域内である。
【0040】
フレッシュコンクリートを打設し、該フレッシュコンクリートが硬化してコンクリート46となった後の状態を示す図1及び図2では、本実施形態の特徴である板部材40および板部材40を活用して行なう鉄筋42、44の配筋の状況がわかりにくいので、以下では、施工途中の図を参照しつつ、本実施形態の構造および施工方法を説明する。
【0041】
図3は、中間支点12近傍のI桁30の下フランジ34の上面に、ずれ止めである板部材40を配設した施工段階を示す斜視図であり、図4は同じく側面図である。
【0042】
I桁30は、工場等で所定の長さごと(最大12m程度)に製作され、現場で順次つなぎ合わされて架設される。ずれ止め部材である板部材40は、工場等で溶接などにより配設することを原則とするが、現場で配設してもかまわない。
【0043】
板部材40は、図5に示すように、例えば厚さ19mm程度の鋼板に、鉄筋を所定の位置に配置できるような形状の切り欠き40Aを設けたものである。切り欠き40Aの形状は、鉄筋を所定の位置に配置できるような形状であれば特に限定されず、例えば図6(A)〜(E)に示す鍵穴形状とすることができる。
【0044】
図6(A)は、2列の鉄筋を1段に配置し、鉄筋の出入り口を2つとした形状の例であり、図6(B)は、2列の鉄筋を2段に配置し、鉄筋の出入り口を2つとした形状の例であり、図6(C)は、2列の鉄筋を2段に配置し、鉄筋の出入り口を1つとした形状の例である。図6(D)、(E)は、鉄筋が配置される切り欠き40Aに、配置された鉄筋の位置がずれないようにかぎを付けた形状である。図6(D)は、3列の鉄筋を1段に配置し、鉄筋の出入り口を3つとした形状の例であり、図6(E)は、3列の鉄筋を2段に配置し、鉄筋の出入り口を3つとした形状の例である。
【0045】
また、板部材40は、図3及び図4に示すように、鉛直補剛材間の下フランジ34の上面に配設することにより、I桁30の架設時における下フランジの局部座屈防止のための補剛材としても寄与することができる。
【0046】
次に、鉄筋42、44の組み立ておよび設置作業ならびにフレッシュコンクリートの打設作業について説明する。
【0047】
図7は、橋軸方向鉄筋42および帯筋44について、所定の配筋を行なって下フランジ34の上面に配設した例を示す側面図である。この例では、2列の橋軸方向鉄筋42が2段に合計で4本配置されており、この4本の橋軸方向鉄筋42を所定間隔で外側から取り囲むように帯筋44が配置されている。
【0048】
本実施形態では、板部材40に切り欠き40Aが設けられているので、図8に示すように、橋軸方向鉄筋42を板部材40の切り欠き40Aに落とし込んで、所定の位置に配置させることができる。なお、図8における板部材40の切り欠き40Aは、図示の都合上、2本の鉄筋を配置できるような形状(図6(A)の形状)に描いているが、本実施形態における切り欠き40Aの実際の形状は図6(B)の形状であり、2列の橋軸方向鉄筋42を2段に合計で4本配置できるようになっている。
【0049】
現場での具体的な配筋作業は、まず4本の橋軸方向鉄筋42を板部材40の切り欠き40Aに落とし込んで、所定の位置に配置させる。その後、この4本の橋軸方向鉄筋42を外側から取り囲むように、帯筋44を所定間隔で配置して、図7に示すような配筋を行う。このように、本実施形態においては、事前に鉄筋を組み立てておかず、現場で鉄筋を組み立てる場合であっても、現場での作業および施工管理が極めて容易である。なお、本実施形態においても、事前に組み立てた鉄筋を用いて、橋軸方向鉄筋42を板部材40の切り欠き40Aに落とし込んで、所定の位置に配置させてもよい。どちらの場合でも、概ね平らで安定した下フランジ34上に鉄筋を設置すればよく、かつ、切り欠き40Aを備えた板部材40が配設されているため、現場での作業および施工管理は極めて容易となる。
【0050】
また、事前に組み立てた鉄筋を用いる場合、例えば、図5における切り欠き40Aを、設置する橋軸方向鉄筋42の径に合わせた幅を有する上下に長い長穴とし、該長穴に組み立てた鉄筋を設置してもよい。
【0051】
なお、フレッシュコンクリートを打設して配設するコンクリートの領域は、塑性中立軸よりも下の領域であるので、かぶり厚さも考慮して、鉄筋42、44および板部材40を配設する領域を決める必要がある。
【0052】
配筋作業終了後、図9に示すように、所定の高さまで型枠48を設置し、下フランジ34の上面、ウェブ36の下部、中間支点部鉛直補剛材38Aの下部で囲まれる空間にフレッシュコンクリートを打設する。フレッシュコンクリートは、該フレッシュコンクリートが硬化してなるコンクリート46が塑性中立軸より下の領域である圧縮域内に全て含まれるように打設する。
【0053】
型枠48は、例えば図9に示されるように、中間支点部鉛直補剛材38A、下フランジ34などと仮固定点48Aで仮固定することにより設置することができる。なお、配設するコンクリート46の高さは、下フランジ34およびウェブ36の板厚や期待する曲げ耐力などにより異なるが、桁高3mのI桁橋の場合、例えば300〜700mm程度とすることができる。
【0054】
フレッシュコンクリートの硬化後、型枠48を撤去すると、図1および図2に示すように、下フランジ34の上面、ウェブ36の下部、中間支点部鉛直補剛材38Aの下部、板部材40の全体、鉄筋42、44の全体、およびコンクリート46が一体化された合成構造となる。これにより、連続I桁橋10の中間支点12近傍において大きな負の曲げモーメントが生じることによって、ウェブ36下部から下フランジ34にかけての桁断面に大きな圧縮力が作用する場合でも、下フランジ34およびウェブ36の下部が局部座屈したり、I桁30全体が横座屈するおそれが極めて小さくなる。
【0055】
このため、本実施形態においては、中間支点12近傍のI桁30を構成する鋼材の塑性域の性能を有効に活用できるようになるとともに、鋼とコンクリートの合成断面として曲げモーメントに抵抗できるようになり、中間支点12近傍のI桁30の耐荷力を飛躍的に向上させることができる。
【0056】
また、本実施形態では、鋼部材である板部材40、鉄筋42、44は全てコンクリート46内に埋設されており、特許文献1の図6の場合とは異なり、鋼部材である板部材40、鉄筋42、44は大気中に露出していないので、設置する鋼部材の腐食は抑制される。
【0057】
ここで、負の曲げモーメントを受ける中間支点12近傍のI桁30の構造における塑性応力状態での断面の応力分布の概念図を図10に示す。ここでは、床版60内の橋軸方向鉄筋60A、I桁30、コンクリート46を考慮して塑性応力状態における力の釣り合いを考え、塑性中立軸を算出している。なお、床版60のコンクリートは引張域となり、ひび割れを生じるため、ここでは考慮していない。塑性中立軸より上の領域は引張応力が生じている引張域、塑性中立軸より下の領域は圧縮応力が生じている圧縮域となる。図10において、hcはコンクリート46の高さを示し、Dcpはコンクリート46の下面から塑
性中立軸までの距離を示す。
【0058】
本実施形態のように、塑性応力状態での断面の応力分布を考慮して、配設するコンクリート46の高さを塑性中立軸以下の圧縮域内に制限(hc≦Dcp)することにより、コン
クリート46に作用する応力を常に圧縮応力とすることができる。このため、コンクリート46にはひび割れが発生せず、全塑性曲げモーメントに達するまで、コンクリート46の性能をフルに活用することができる。また、配設するコンクリート46の高さを塑性中立軸以下の圧縮域内に制限(hc≦Dcp)することにより、打設するフレッシュコンクリ
ートの量も少なくなり、重量増加が抑制される。
【0059】
なお、全塑性曲げモーメントまでコンクリート46の性能をフルに活用する場合には、図11に示すように、中間支点部鉛直補剛材38Aを鋼部材50で補剛して、中間支点12近傍の曲げ耐力を向上させることが好ましい。また、図12に示すように、中間支点部鉛直補剛材38Aの下部、下フランジ34の上面、ウェブ36の下部から形成される中間支点12の直上の空間に、フレッシュコンクリートを充填し、コンクリート52をコンクリート46の高さhcと同程度の高さまで設け、中間支点12近傍の曲げ耐力を向上させてもよい。
【0060】
以上説明した第1実施形態では、ずれ止め部材として板部材40を用いているが、ずれ止め部材は板部材40に限定されず、例えば頭付きスタッド54(図13参照)を板部材40に替えて用いてもよい。この場合も、事前に鉄筋を組み立てておき、下フランジ34上に設置してもよいし、現場で直接下フランジ34上に組み立ててもよい。どちらの場合でも、概ね平らで安定した下フランジ34上に鉄筋を設置すればよいため、現場での作業および施工管理は容易となる。ただし、頭付きスタッド54を用いた場合、下フランジ34上で直接鉄筋を組み立てるのは、板部材40を用いた場合よりは鉄筋の位置決めにおいて手間がかかる。また、頭付きスタッド54では、I桁の架設時における下フランジの局部座屈防止のための補剛材として寄与することはできない。
【0061】
本発明の第2実施形態を、図13(側面図)に示す。第2実施形態は、ずれ止めとして、板部材40に加え、頭付きスタッド54を溶接等により下フランジ34上に設置した実施形態である。板部材40に加え、頭付きスタッド54を下フランジ34上に設置することにより、鋼とコンクリートの合成効果をさらに高めることができ、中間支点12近傍のI桁30の耐荷力をさらに向上させることができる。なお、図13においては、図示の都合上、コンクリート46の内部に含まれる板部材40および頭付きスタッド54を実線で描いている。
【0062】
以上説明した実施形態では、ずれ止めとして、板部材40、頭付きスタッド54を用いたが、本発明に適用できるずれ止めはこれらに限定されず、例えば、形鋼をずれ止めに用いてもよいし、形鋼や鉄筋で形成されたトラス形状のずれ止めを用いてもよい。ただし、せん断耐力、じん性、断面の合成効果などを考慮した上で、適切なタイプのものを選定する必要がある。
【0063】
また、以上説明した実施形態では、橋軸方向鉄筋42および帯筋44を用いたが、十分なずれ止めを配設しておけば、橋軸方向鉄筋42および帯筋44は必須ではなく、省略してもよい。ただし、橋軸方向鉄筋42および帯筋44を省略すると、橋軸方向鉄筋42および帯筋44を配設した場合と比べて耐荷力が低下する。
【0064】
次に、第1実施形態または第2実施形態を連続I桁橋に適用した場合について説明する。図14および図15は、第1実施形態または第2実施形態を連続I桁橋10に適用した場合で、下フランジ34の上面に配設されるコンクリート46の橋軸方向の配置位置を模式的に示す側面図である。図14および図15において、符号14は、端支点を示す。
【0065】
本発明の実施形態においては、コンクリート46は、負の曲げモーメントが作用する領域(以下、負曲げ域と記す)に配置する。図14に示すように、コンクリート46を負曲げ域の全域にわたり配置してもよいし、図15に示すように、負の曲げモーメントが特に大きい領域のみに配置してもよい。コンクリート46の橋軸方向の配置位置は、断面に作用する負の曲げモーメントの大きさや、I桁に座屈が生じるときの曲げモーメントの大きさ等を勘案して決定すればよい。このように、コンクリート46を配置する位置を、所定の負曲げ域に限定することにより、重量増加を抑えつつ、下フランジ34およびウェブ36下部の局部座屈ならびにI桁30全体の横座屈を効果的に防止することができる。
【0066】
図16は、第1実施形態または第2実施形態を連続I桁橋(2主I桁橋)20に適用した場合で、中間支点12近傍を橋軸直角方向の面で切断した断面を斜め上方から見た斜視図である。I桁30のウェブ36下部の両側において、下フランジ34の上面に、コンクリート46が配設されており、I桁30のウェブ36下部は両側からコンクリート46で拘束されている。平行に並んだ2つのI桁30の上には、床版80が配設されている。
【0067】
なお、以上説明してきた実施形態では、I桁30の上に設置する床版80の施工については記述していないが、架設ステップや施工順序などを勘案して適切に施工を行う必要がある。床版80の施工順序についての工夫としては、ブロック施工の順序についての工夫(中間支点ブロックの後打ちなど)をしたり、I桁30の下フランジ34上にフレッシュコンクリートを打設して配設するコンクリート46との施工順序についての工夫をしたりすることなどが考えられる。
【符号の説明】
【0068】
10…連続I桁橋
12…中間支点
14…端支点
20…連続I桁橋(2主I桁橋)
30…I桁
32…上フランジ
34…下フランジ
36…ウェブ
38…鉛直補剛材
38A…中間支点部鉛直補剛材
38B…一般部鉛直補剛材
40…板部材
40A…切り欠き
42…橋軸方向鉄筋
44…帯筋
46、52…コンクリート
48…型枠
50…鋼部材
54…頭付きスタッド
60、80…床版
60A…床版60内の橋軸方向鉄筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上フランジ、下フランジ、ウェブ、鉛直補剛材を備えたI桁と床版によって構成され、両端の端支点と1又は複数の中間支点とによって支持される連続I桁橋の、負の曲げモーメントが作用する中間支点近傍において、下フランジの上面にずれ止めを複数個配設し、該ずれ止めを含み、下フランジの上面、ウェブの下部、鉛直補剛材の下部で囲まれる空間に、フレッシュコンクリートを、該フレッシュコンクリートが硬化してなるコンクリートが塑性中立軸より下の領域である圧縮域内に全て含まれるように打設して、前記ずれ止め全体、下フランジの上面、ウェブの下部、鉛直補剛材の下部を、前記フレッシュコンクリートが硬化してなるコンクリートと一体化させてなり、
前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にある鉛直補剛材同士の間隔は、前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にない鉛直補剛材同士の間隔よりも狭くなっており、
以上の構成により、下フランジおよびウェブ下部の局部座屈ならびにI桁全体の横座屈を防止して、I桁の耐荷力を向上させることを特徴とする連続I桁橋における中間支点近傍のI桁の構造。
【請求項2】
前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にある鉛直補剛材は、前記ウェブの表面から前記上フランジおよび前記下フランジの縁部に達する幅を有しており、一方、前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にない鉛直補剛材は、前記ウェブの表面から前記上フランジおよび前記下フランジの縁部に達する幅を有しておらず、鉄筋を前記下フランジの上方に前記I桁の長手方向に配置する妨げとならないことを特徴とする請求項1に記載の連続I桁橋における中間支点近傍のI桁の構造。
【請求項3】
前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にある鉛直補剛材同士の間隙にはコンクリートが打設されていないことを特徴とする請求項1又は2に記載の連続I桁橋における中間支点近傍のI桁の構造。
【請求項4】
前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にある鉛直補剛材同士の間隙にコンクリートが打設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の連続I桁橋における中間支点近傍のI桁の構造。
【請求項5】
前記鉛直補剛材のうち前記中間支点の直上にある鉛直補剛材の下部が鋼部材により補剛されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の連続I桁橋における中間支点近傍のI桁の構造。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれかに記載のI桁の構造を、負の曲げモーメントが作用する領域のみに配置させてなることを特徴とする連続I桁橋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−136937(P2012−136937A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−97199(P2012−97199)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【分割の表示】特願2007−261239(P2007−261239)の分割
【原出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】