説明

遅延ライブラリ作成方法及びプログラム

【課題】統計的STA用のセル遅延ライブラリの作成に要する時間を削減すること。
【解決手段】遅延ライブラリ作成方法は、(A)ノミナル遅延値を算出するステップと、(B)セル遅延値に対するばらつき変数の寄与度を表す感度係数を算出するステップと、(C)ノミナル遅延値及び感度係数を提供するセル遅延ライブラリを作成するステップと、を含む。ばらつき変数は、少なくとも1つのグループにグループ分けされている。感度係数を算出するステップは、グループ毎に実施され、1つのグループに対して1つの共通の感度係数が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路の設計段階における統計的STA(Statistical Static Timing Analysis)に関する。特に、本発明は、統計的STAで用いられるセル遅延ライブラリの作成方法、及びそれを用いた遅延解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの微細化に伴い、製造ばらつき(プロセスばらつき)が増大している。素子の製造ばらつきは遅延値のばらつきを招き、それは歩留まり等に大きな影響を与える。従って、設計段階において製造ばらつきをあらかじめ考慮して、遅延値の見積もりや解析を行うことが重要である。そのような遅延解析技術として、一般に静的タイミング解析(STA:Static Timing Analysis)が知られている。その中でも、製造ばらつきを統計的に考慮することにより解析精度を高めたSTAが、「統計的STA」である(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
統計的STAでは、製造ばらつきに応じた遅延値の変動が見積もられる。例えば、セル(プリミティブセルやマクロセルに例示される部分回路)の遅延値であるセル遅延値Dは、当該セルを構成するトランジスタのモデルパラメータ(ゲート長、ゲート幅、移動度等)のばらつきに依存して変動する。モデルパラメータのノミナル値(設計値)からのばらつきは、ばらつき変数Xjで表されるとする。ここで、jは、モデルパラメータの種類を表す。このとき、セル遅延値Dは、近似的に、次の式(1)で表されるような各ばらつき変数Xjの一次線形関数で与えられる。
【0004】
【数1】

【0005】
式(1)において、Dnomは、セル遅延値Dのノミナル値であり、全てのモデルパラメータがノミナル値である場合(全てのばらつき変数Xjが0の場合)に相当する。αjは、セル遅延値Dに対するばらつき変数Xjの寄与度(影響)を表すパラメータであり、以下「感度係数」と参照される。典型的には、感度係数αjは、次の式(2)により決定される。
【0006】
【数2】

【0007】
式(2)において、f(Xj,V,T)は、SPICEシミュレーションによって算出されるセル遅延値を表す関数である。パラメータV、Tは、それぞれ、シミュレーション条件としての電圧、温度である。まず、全てのばらつき変数Xjが0に設定される条件でSPICEシミュレーションが実行され、それにより、ノミナル遅延値Dnomが算出される。また、ある1つのばらつき変数Xjだけが変動量ΔXjに設定され、その他のばらつき変数Xjは0に設定される条件でSPICEシミュレーションが実行され、それにより、セル遅延値Djが算出される。そして、セル遅延値Djとノミナル遅延値Dnomとの差(Dj−Dnom)を当該変動量ΔXjで割ることにより、ばらつき変数Xjに対する感度係数αjが算出される。対象となるばらつき変数Xjを1つずつ順番に変えていくことにより、それぞれのばらつき変数Xjに対する感度係数αjが1つずつ決定される。
【0008】
尚、上述のような遅延モデル(Dnom、αj等)を決定する処理は、「キャラクタライズ」と呼ばれている。セルのキャラクタライズの結果得られた遅延モデルは、統計的STAで利用するためにライブラリとして提供される。より詳細には、各セルに関してノミナル遅延値や感度係数がライブラリとして提供される。そのようなライブラリは、以下「セル遅延ライブラリ」と参照される。統計的STAでは、このセル遅延ライブラリを用いることによって、製造ばらつきを統計的に考慮した遅延解析が実施される(特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−252140号公報
【特許文献2】特開2008−112406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明者は、次の点に着目した。上記式(2)のように、ばらつき変数Xjを1つずつ順番に変動させ、それぞれのばらつき変数Xjに対する感度係数αjを1つずつ算出する場合、SPICEシミュレーションの実行回数が増大するという問題点がある。また、特許文献2では、SPICEを用いたモンテカルロ・シミュレーションを通して感度係数が算出されるが、この場合も、十分な精度を得るために、SPICEシミュレーションを数百〜数千回実行する必要がある。このようなSPICEシミュレーションの実行回数の増大は、セル遅延ライブラリの作成に要する時間の増大を招く。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの観点において、統計的STA用のセル遅延ライブラリを作成する遅延ライブラリ作成方法が提供される。その遅延ライブラリ作成方法は、(A)セル遅延値のノミナル値Dnomを算出するステップと、(B)セル遅延値に対するばらつき変数の寄与度を表す感度係数を算出するステップと、(C)ノミナル値Dnom及び感度係数を提供するセル遅延ライブラリを作成するステップと、を含む。ばらつき変数は、少なくとも1つのグループにグループ分けされている。そして、上記(B)感度係数を算出するステップは、グループ毎に実施される。
【0012】
あるグループGiに属するばらつき変数は、X(i,j)で表される。そのグループGiに関する感度係数を算出するステップは、(B1)当該グループGiに属するばらつき変数X(i,j)のそれぞれを所定の変動量に設定し、且つ、その他のばらつき変数を0に設定しながら回路シミュレーションを行うことにより、セル遅延値Diを算出するステップと、(B2)セル遅延値Di及びノミナル値Dnomに基いて、グループGiに関する感度係数を算出するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、統計的STA用のセル遅延ライブラリの作成に要する時間を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、ランダムばらつきとD2Dばらつきを示す概念図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態におけるばらつき変数のグループ化を説明するための図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態におけるグループGiに対する感度係数αiの算出方法を説明するための図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態における感度補正を説明するための図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態に係るキャラクタライズの処理フローを示す概念図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態に係る設計システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態に係る半導体集積回路の設計・製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
1.ばらつき変数のグループ化
素子の製造ばらつきは、大まかに、図1に示される「ランダムばらつき」と「D2D(Die−to−Die)ばらつき」の2つに分けられる。ランダムばらつきは、1つのチップの中で位置やパターンなどに関係なく発生するばらつきである。ランダムばらつきとして、例えば、不純物濃度のばらつきに起因する閾値電圧のばらつきが挙げられる。一方、D2Dばらつきはチップ間のばらつきであり、あるチップでの平均値と他のチップでの平均値の差として定義される。D2Dばらつきは、あるウエハの面内でプロセス特性の変化の傾向があることや、異なるウエハ間ではプロセス特性に若干差があることから生じる。
【0017】
セル(プリミティブセルやマクロセルに例示される部分回路)の遅延値であるセル遅延値Dは、当該セルを構成するトランジスタのモデルパラメータ(ゲート長、ゲート幅、移動度等)のばらつきに依存して変動する。モデルパラメータのノミナル値(設計値)からのばらつきは、「ばらつき変数」で表される。このばらつき変数は、D2Dばらつきを表すD2Dばらつき変数と、ランダムばらつきを表すランダムばらつき変数とを含む。
【0018】
本実施の形態によれば、ばらつき変数は“グループ化”される。より詳細には、図2に示されるように、ばらつき変数は、n個のグループG1〜Gnにグループ分けされる。nは1以上の整数である。第iグループGi(i=1〜n)は、mi個のばらつき変数X(i,1)〜X(i,mi)を含む。miは、第iグループGiの要素数であり、1以上の整数である。第iグループGiに属するばらつき変数は、X(i,j)(j=1〜mi)で表される。
【0019】
グループ数nは1であってもよい。グループ数nが2以上の場合、ばらつき変数は、少なくとも、D2Dばらつき変数とランダムばらつき変数とで分けられることが好適である。言い換えれば、少なくとも2つのグループは、D2Dばらつき変数からなる第1グループと、ランダムばらつき変数からなる第2グループとを含んでいることが好適である。尚、グループ分けの方針は任意であり、設計者によって適宜決められる。例えば、セル遅延値Dに対する影響度の大きいばらつき変数からグループ化されてもよい。
【0020】
本実施の形態によれば、感度係数の算出は、グループ毎に実施される。つまり、1つのグループGiに対して、1つの共通の感度係数が算出される。より詳細には、グループGiに関する感度係数αiは、図3に示されるように算出される。図3において、f(X,V,T)は、回路シミュレーションであるSPICEシミュレーションによって算出されるセル遅延値を表す関数である。パラメータV、Tは、それぞれ、シミュレーション条件としての電圧、温度である。
【0021】
まず、全てのばらつき変数X(i,j)が0に設定される条件で、SPICEシミュレーションが実行される。それにより、セル遅延値Dのノミナル値であるノミナル遅延値Dnomが算出される。
【0022】
また、グループGiに属するばらつき変数X(i,j)のそれぞれが所定の変動量に設定され、その他のばらつき変数は0に設定される条件で、SPICEシミュレーションが実行される。それにより、セル遅延値Diが算出される。例えば、所定の変動量は、k×σX(i,j)である。ここで、kは定数(例えば3)であり、σX(i,j)はばらつき変数X(i,j)の分布の標準偏差である。
【0023】
そして、算出されたセル遅延値Diとノミナル遅延値Dnomとの差(Di−Dnom)を定数kで割ることにより、グループGiに関する感度係数αiが算出される。対象となるグループGiを1つずつ順番に変えていくことにより、それぞれのグループGiに対する感度係数αiが決定される。
【0024】
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、感度係数はグループ毎に算出される。従って、SPICEシミュレーションの実行回数が大幅に削減される。その結果、統計的STA用のセル遅延ライブラリの作成に要する時間及びコストが大幅に削減される。
【0025】
一般に、感度係数は、様々なスルーレート(Slew)や出力負荷(Cload)に対して算出される。あるSlew、Cloadの組み合わせに関して、SPICEシミュレーションの実行回数は次の通りである。従来の式(2)の場合、その実行回数は、(D2Dばらつき変数の数)+(セルのトランジスタの数)×(ランダムばらつき変数の数)+1である。この場合、ばらつき変数の数やトランジスタ数に比例して、実行回数が増大する。特に大規模なセルの場合、実行回数は著しく増大し、その実行時間は現実的ではなくなる。一方、本実施の形態によれば、その実行回数は、(グループ数n)+1である。実行回数は大幅に削減され、現実的な時間でセル遅延ライブラリを作成することが可能となる。
【0026】
2.感度補正
ばらつき変数のグループ化の結果、感度係数の精度が悪くなることが考えられる。従って、感度係数の精度を向上させるために、図4に示されるような感度係数の“補正”が実施されてもよい。αiは、既出の図3で示された補正前の感度係数である。Ciは、補正後の感度係数である。γiは、αiとCiとの関係を規定する補正係数である。感度係数αiに補正係数γiを掛けることによって、感度係数αiが補正され、高精度な感度係数Ciが算出される。グループGiに関する感度係数としては、この補正後の感度係数Ciが用いられると好適である。
【0027】
図4には、補正係数γiの詳細な算出式も記載されている。ΣσX(i,j)は、グループGiに属するばらつき変数X(i,j)の分散の和を意味する。piは、1以下の係数であり、設計者によって任意に設定される。mは、セルに含まれるトランジスタの数である。補正係数γiは、D2Dばらつき変数からなるグループの場合と、ランダムばらつき変数からなるグループの場合とで異なる。尚、グループ数nが1の場合は、D2Dばらつき変数の方が用いられる。これら補正係数γiの算出式の導出は、次の通りである。
【0028】
2−1.D2Dばらつき変数のグループの場合
D2Dばらつき変数からなる2つのグループx、yを考える。グループxは、p個のD2Dばらつき変数xを有し、グループyは、q個のD2Dばらつき変数yを有する。xの分布の標準偏差はσxiであり、xに関する感度係数はαi,jで表される。yの分布の標準偏差はσyiであり、yに関する感度係数はβi,jで表される。mはセルに含まれる素子数である。セル遅延値D(線形感度モデル)は、次の式(3)で表される。
【0029】
【数3】

【0030】
グループx、yに関する補正前の感度係数αi(図3参照)は、それぞれΔDx、ΔDyで表される。それら感度係数ΔDx、ΔDyは、次の式(4)で表される。
【0031】
【数4】

【0032】
上記式(3)、(4)を用いることにより、セル遅延値Dの分散V(D)は、次の式(5)で表される。式(5)中の“(ΔDx)+(ΔDy)”は、分散V(D)の上限値を意味する。
【0033】
【数5】

【0034】
その一方で、グループxに関する共通の感度係数αとグループyに関する共通の感度係数βを用いると、セル遅延値D(マクロモデル)は、次の式(6)で表される。sxi、syiは、1または−1である。
【0035】
【数6】

【0036】
セル遅延値Dの分散V(D)は、次の式(7)で表される。
【0037】
【数7】

【0038】
式(5)で表される分散V(D)と式(7)で表される分散V(D)との比較から、感度係数α、βは、次の式(8)のように表され得る。
【0039】
【数8】

【0040】
式(8)で示される感度係数α、βは、上述の分散V(D)の上限値“(ΔDx)+(ΔDy)”を与える。従って、適当な係数pα、pβ(pα≦1、pβ≦1)を用いることにより、感度係数α、βは、次の式(9)のように表され得る。
【0041】
【数9】

【0042】
係数pα、pβが1の場合、最大遅延ばらつき値が保証される。式(9)を一般化すると、図4で示されたような算出式が得られる。
【0043】
2−2.ランダムばらつき変数のグループの場合
セルに含まれるトランジスタ数はmである。m個のトランジスタが含むランダムばらつき変数が、2つのグループx、yに分けられる。グループxは、p個のランダムばらつき変数xi,jを有し、グループyは、q個のランダムばらつき変数yi,jを有する。j(=1〜m)は、トランジスタを表す。xi,jの分布の標準偏差はσxiであり、xi,jに関する感度係数はαi,jで表される。yi,jの分布の標準偏差はσyiであり、yi,jに関する感度係数はβi,jで表される。セル遅延値D(線形感度モデル)は、次の式(10)で表される。
【0044】
【数10】

【0045】
ここで、次の式(11)で表されるような仮定が行われる。
【0046】
【数11】

【0047】
グループx、yに関する補正前の感度係数αi(図3参照)は、それぞれΔDx、ΔDyで表される。それら感度係数ΔDx、ΔDyは、次の式(12)で表される。
【0048】
【数12】

【0049】
上記式(10)、(12)を用いることにより、セル遅延値Dの分散V(D)は、次の式(13)で表される。式(13)中の“(ΔDx)+(ΔDy)”は、分散V(D)の上限値を意味する。
【0050】
【数13】

【0051】
その一方で、グループxに関する共通の感度係数αとグループyに関する共通の感度係数βを用いると、セル遅延値D(マクロモデル)は、次の式(14)で表される。
【0052】
【数14】

【0053】
セル遅延値Dの分散V(D)は、次の式(15)で表される。
【0054】
【数15】

【0055】
式(13)で表される分散V(D)と式(15)で表される分散V(D)との比較から、感度係数α、βは、次の式(16)のように表され得る。
【0056】
【数16】

【0057】
D2Dばらつきの場合と同様に、式(16)を一般化すると、図4で示されたような算出式が得られる。
【0058】
3.セルのキャラクタライズ
図5は、本実施の形態に係るキャラクタライズの処理フローを概念的に示している。キャラクタライズにおいては、各種情報を用いることにより、ノミナル遅延値Dnomや感度係数Ciが算出される。その結果、ノミナル遅延値Dnomや感度係数Ciを提供するセル遅延ライブラリDLIBが作成される。
【0059】
<ステップS10>
まず、キャラクタライズ処理に必要な各種情報が提供される。その情報とは、回路情報1、モデルパラメータ情報2、ばらつき変数情報3、シミュレーション条件情報4等である。
【0060】
回路情報1は、SPICEシミュレーションに必要な回路に関する情報である。例えば、回路情報1は、セルの回路構成を示すセルネットリスト(SPICEネットリスト)を含む。また、回路情報1は、負荷容量(Cload)やスルーレート(Slew)のテーブルを含んでいてもよい。これら回路情報1は、通常のキャラクタライズで用いられる一般的な情報である。
【0061】
モデルパラメータ情報2は、セルに含まれるトランジスタのモデルパラメータ(ゲート長、ゲート幅、移動度等)に関する情報である。モデルパラメータ情報2は、各モデルパラメータのノミナル値(設計値)を含む。
【0062】
ばらつき変数情報3は、ばらつき変数X(i,j)に関する情報である。典型的には、ばらつき変数X(i,j)の分布は、平均値0、標準偏差σX(i,j)の正規分布N(0,σX(i,j))で表される。ばらつき変数情報3は、それら平均値0及び標準偏差σX(i,j)を示す。また、ばらつき変数情報3は、図2で示されたばらつき変数X(i,j)のグループ分けも示す。
【0063】
シミュレーション条件情報4は、シミュレーション条件である温度T、電圧V等を示す。
【0064】
<ステップS20>
ステップS20では、SPICEシミュレーションを通して、モデルパラメータがノミナル値である場合のノミナル遅延値Dnomが算出される。そのため、SPICEには、回路情報1、モデルパラメータ情報2、及びシミュレーション条件情報4が入力される。モデルパラメータのノミナル値を用いてSPICEシミュレーションを実行することより、ノミナル遅延値Dnomが算出される。
【0065】
<ステップS30>
ステップS30では、グループGiに関する感度係数Ciが算出される。このステップS30は、グループGi毎に実行される。
【0066】
ステップS31:
まず、SPICEシミュレーションを通して、グループGiに関するセル遅延値Diが算出される。SPICEには、回路情報1、モデルパラメータ情報2、ばらつき変数情報3、及びシミュレーション条件情報4が入力される。このとき、グループGiに属するばらつき変数X(i,j)のそれぞれが所定の変動量に設定され、その他のばらつき変数は0に設定される。
【0067】
ステップS32:
図3で示されたように、セル遅延値Di及びノミナル遅延値Dnomに基いて、グループGiに関する感度係数αiが算出される。
【0068】
ステップS33:
その一方で、図4で示されたように、グループGiに関する補正係数γiが算出される。補正係数γiの算出には、ばらつき変数情報3(σX(i,j))が用いられる。
【0069】
ステップS34:
図4で示されたように、感度係数αiに補正係数γiを掛けることにより、補正後の感度係数Ciが算出される。
【0070】
<ステップS40>
以上の処理により得られたノミナル遅延値Dnom及び感度係数Ciを用いることにより、セル遅延ライブラリDLIBが作成される。
【0071】
4.LSIの設計、製造方法
LSIの設計は、コンピュータを用いることにより行われる。図6は、LSIを設計するための設計システム10(コンピュータシステム)の構成を概略的に示すブロック図である。設計システム10は、記憶装置20、処理装置30、入力装置40、及び出力装置50を備えている。記憶装置20としてはRAMやHDDが例示される。入力装置40としてはマウスやキーボードが例示される。出力装置50としては、ディスプレイが例示される。
【0072】
記憶装置20には、上述の回路情報1、モデルパラメータ情報2、ばらつき変数情報3、シミュレーション条件情報4、及びセル遅延ライブラリDLIBが格納される。更に、記憶装置20には、ネットリストNETやレイアウトデータLAYが格納される。ネットリストNETは、設計回路のセル間の接続等を示す設計データである。レイアウトデータLAYは、設計回路のレイアウトを示す設計データである。
【0073】
キャラクタライズプログラム100、シミュレーションプログラム110、設計プログラム200及び統計的STAプログラム300は、コンピュータによって実行されるソフトウェアプログラムである。これらプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。処理装置30は、これらプログラムを実行することによってLSIの設計処理を実現する。尚、これらプログラムのいくつかは、まとまった1つのプログラムとして構成されていてもよい。例えば、キャラクタライズプログラム100が統計的STAプログラム300に組み込まれていてもよい。
【0074】
図7は、本実施の形態に係るLSIの設計・製造方法を概略的に示すフローチャートである。図6及び図7を参照して、本実施の形態に係るLSIの設計・製造方法を説明する。
【0075】
<ステップS100>
キャラクタライズプログラム100は、上述のキャラクタライズ処理を実行し、セル遅延ライブラリDLIBを作成する。このとき、キャラクタライズプログラム100は、記憶装置20から必要な情報(回路情報1、モデルパラメータ情報2、ばらつき変数情報3、シミュレーション条件情報4)を読み出し、また、シミュレーションプログラム110を適宜用いる。シミュレーションプログラム110は、SPICEである。上述の通り、本実施の形態に係るキャラクタライズ手法により、SPICEの実行回数が大幅に削減される。
【0076】
<ステップS200>
設計プログラム200は、所望の回路の設計を行い、ネットリストNETやレイアウトデータLAYを作成する。この回路設計方法は、一般的な方法である。
【0077】
<ステップS300>
統計的STAプログラム300は、セル遅延ライブラリDLIB、ネットリストNET、レイアウトデータLAY等を用いることにより、統計的STAを実施する。統計的STAでは、製造ばらつきを統計的に考慮することにより、設計回路の遅延解析・遅延検証が行われる。
【0078】
<ステップS400>
統計的STAによる遅延検証の結果がフェイルであった場合(ステップS400;No)、処理はステップS200に戻る。そして、設計回路のレイアウト等が修正される。遅延検証の結果がパスになると(ステップS400;Yes)、設計回路のレイアウトが決定する。
【0079】
<ステップS500>
決定されたレイアウトに基づいて、設計回路が製造される。
【0080】
以上、本発明の実施の形態が添付の図面を参照することにより説明された。但し、本発明は、上述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で当業者により適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0081】
1 回路情報
2 モデルパラメータ情報
3 ばらつき変数情報
4 シミュレーション条件情報
10 設計システム
20 記憶装置
30 処理装置
40 入力装置
50 出力装置
100 キャラクタライズプログラム
110 シミュレーションプログラム
200 設計プログラム
300 統計的STAプログラム
DLIB セル遅延ライブラリ
NET ネットリスト
LAY レイアウトデータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
統計的STA用のセル遅延ライブラリを作成する遅延ライブラリ作成方法であって、
セル遅延値のノミナル値Dnomを算出するステップと、
前記セル遅延値に対するばらつき変数の寄与度を表す感度係数を算出するステップと、
前記ノミナル値Dnom及び前記感度係数を提供する前記セル遅延ライブラリを作成するステップと
を含み、
前記ばらつき変数は、少なくとも1つのグループにグループ分けされており、
前記感度係数を算出するステップは、グループ毎に実施され、
あるグループGiに属する前記ばらつき変数は、X(i,j)で表され、
前記グループGiに関する前記感度係数を算出するステップは、
前記グループGiに属する前記ばらつき変数X(i,j)のそれぞれを所定の変動量に設定し、且つ、その他のばらつき変数を0に設定しながら回路シミュレーションを行うことにより、セル遅延値Diを算出するステップと、
前記セル遅延値Di及び前記ノミナル値Dnomに基いて、前記グループGiに関する前記感度係数を算出するステップと
を含む
遅延ライブラリ作成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の遅延ライブラリ作成方法であって、
前記所定の変動量は、k×σX(i,j)で表され、
kは、定数であり、
σX(i,j)は、前記ばらつき変数X(i,j)の分布の標準偏差であり、
前記グループGiに関する前記感度係数を算出するステップは、
式:αi=(Di−Dnom)/kによって、感度係数αiを算出するステップ
を含む
遅延ライブラリ作成方法。
【請求項3】
請求項2に記載の遅延ライブラリ作成方法であって、
前記グループGiに関する前記感度係数を算出するステップは、
補正係数γiを前記算出された感度係数αiに掛けることによって、感度係数Ciを算出するステップ
を更に含み、
前記感度係数Ciが、前記グループGiに関する前記感度係数として用いられる
遅延ライブラリ作成方法。
【請求項4】
請求項3に記載の遅延ライブラリ作成方法であって、
前記ばらつき変数は、
D2Dばらつきを表すD2Dばらつき変数と、
ランダムばらつきを表すランダムばらつき変数と
を含み、
前記ばらつき変数は、少なくとも2つのグループにグループ分けされており、
前記少なくとも2つのグループは、
前記D2Dばらつき変数からなる第1グループと、
前記ランダムばらつき変数からなる第2グループと
を含み、
前記第1グループに関する前記補正係数γiは、次の式(1)で表され、
【数1】

前記第2グループに関する前記補正係数γiは、次の式(2)で表され、
【数2】

ここで、
miは、前記グループGiに属する前記ばらつき変数X(i,j)の数であり、
mは、前記セルに含まれるトランジスタの数であり、
piは、1以下の係数である
遅延ライブラリ作成方法。
【請求項5】
請求項3に記載の遅延ライブラリ作成方法であって、
前記ばらつき変数は、1つのグループにグループ分けされており、
前記1つのグループに関する前記補正係数γiは、次の式(3)で表され、
【数3】

ここで、
miは、前記1つのグループに属する前記ばらつき変数X(i,j)の数であり、
piは、1以下の係数である
遅延ライブラリ作成方法。
【請求項6】
請求項1に記載の遅延ライブラリ作成方法であって、
前記ばらつき変数は、
D2Dばらつきを表すD2Dばらつき変数と、
ランダムばらつきを表すランダムばらつき変数と
を含み、
前記ばらつき変数は、少なくとも2つのグループにグループ分けされており、
前記少なくとも2つのグループは、
前記D2Dばらつき変数からなる第1グループと、
前記ランダムばらつき変数からなる第2グループと
を含む
遅延ライブラリ作成方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の遅延ライブラリ作成方法をコンピュータに実行させる
遅延ライブラリ作成プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−232924(P2011−232924A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102009(P2010−102009)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】