説明

遅延時間測定方法

【課題】 漏洩同軸ケーブル(LCX: Leakage CoaXial cable)および光ファイバを介して移動局と基地局1の通信を中継する中継局8を備えた通信システムにおいて、光ファイバ9を介した通信とLCX300―1を介した通信の間に遅延時間の相違が生じ、移動局と基地局の通信が瞬断する課題があった。
【解決手段】 基地局1より遅延調整用信号をLCX300―1及び光ファイバ9を介して送信し、中継局8においてLCX300―1及び光ファイバ9を介して到達した遅延調整用信号を受信するとともに、遅延調整用信号よりビート信号を生成する。ビート信号よりビート周波数f1が判明するので、さらに変調繰り返し周期T、変調幅βを用いて遅延時間差を算出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、漏洩同軸ケーブル(LCX: Leakage CoaXial cable 以下、LCXと称す)および光ファイバを介して移動局と基地局の通信を中継する、列車無線システムに適用される移動体通信用の光中継システムにおいて実施される遅延時間の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LCX及び光ファイバ伝送路を介して移動局と基地局の通信を中継する従来の無線通信システムとしては、例えば特許文献1に開示されるものがある。このシステムでは、前段の中継局と接続するLCXの終端と後段の中継局に接続するLCXの送信端との切れ目(以下、LCX渡り区間と称す)にて基地局からの伝送経路長が異なる。これにより、光ファイバを介した通信とLCXを介した通信の間における遅延時間の相違を生じ、移動局と基地局の通信が瞬断する可能性がある。そこで、特許文献1の無線中継システムでは、基地局の遅延補正装置内に実装された光ファイバ長を調整することで、各LCX渡り区間における信号の位相を合わせている。光ファイバ長の調整量は、基地局から光ファイバ伝送路及び中継局を介してLCXの終端まで伝搬した信号と、基地局から光ファイバ伝送路及び前記中継局の後段の中継局を介してLCXの送信端まで伝搬した信号の相対遅延時間差を測定し、前記相対遅延時間差を光ファイバ長に換算することで算出している。
【0003】
信号の相対遅延時間差を測定する方法の一例を説明する。まず基地局から「00 00 11 00 00 …」といった1シンボル中のデータが同値であるデータ系列のπ/4シフトQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)変調信号を送信し、光ファイバ伝送路及び中継局並びにLCXを介した前記中継局の後段の中継局の信号入力端と、光ファイバ伝送路を介した前記後段の中継局の送信端に接続された受信機によって前記信号を受信する。次に前記受信機にオシロスコープを接続し、前記信号のRSSI(Received Signal Strength Indicator)波形を観測する。前記RSSI波形は、前記信号の「11」のデータ系列を受信したときに落ち込みが見られることを利用し、両経路から受信した前記信号それぞれのRSSI波形が落ち込む点にカーソル位置を設定することで、その到達時間差を測定する。なお、中継局からLCXの間のアプローチケーブルによる伝搬遅延は別途測定を行い、前記到達時間差に反映することで、LCX渡り区間までの相対遅延時間差を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004―236165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように信号の相対遅延時間差を測定する場合、測定対象がRSSIであることからオシロスコープを使用して観測を行っている。しかし、上記測定方法では測定器に表示される受信波形の測定点が明確でないため、測定時のカーソル位置の設定は測定者の感覚によるものとなる。よって測定者によって測定結果にばらつきが出るほか、システムが10Mbps以上のような高いデータレートであった場合に要求される測定精度を満足できない可能性があるといった課題があった。また、RSSIでの測定は無線回り込みの影響により、LCX渡り区間においてLCXから漏洩する無線電波で観測することは難しいため、中継局からLCXの間のアプローチケーブルによる伝搬遅延は別途測定を要するほか、測定誤差を拡大する要因となってしまうといった課題があった。この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、相対遅延時間差の測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る遅延時間測定方法は、漏洩同軸ケーブル(LCX: Leakage CoaXial cable)および光ファイバを介して移動局と基地局の通信を中継する中継局を備えた通信システムにおいて、漏洩同軸ケーブルと光ファイバによるデータ伝送時に発生する遅延時間を測定する遅延時間測定方法において、三角波でFM変調を施した、変調繰り返し周期Tおよび変調幅βが既知である信号を作成するとともに、信号を遅延調整用信号として漏洩同軸ケーブル及び光ファイバを介して送信する遅延調整用信号送信処理と、漏洩同軸ケーブル及び光ファイバを介して送信された遅延調整用信号を受信する受信処理と、漏洩同軸ケーブルより受信した遅延調整用信号と、光ファイバより受信した遅延調整用信号よりビート信号を生成する処理と、変調繰り返し周期T、変調幅β及びビート信号のビート周波数を用いて遅延時間を算出する遅延時間測定処理とを含むものである。
【0007】
本発明に係る遅延時間測定方法は、漏洩同軸ケーブル(LCX: Leakage CoaXial cable)および光ファイバを介して移動局と基地局の通信を中継する中継局を備えた通信システムにおいて、漏洩同軸ケーブルと光ファイバによるデータ伝送時に発生する遅延時間を測定する遅延時間測定方法において、三角波でFM変調を施した、変調繰り返し周期Tおよび変調幅βが既知である信号を作成するとともに、基地局と中継局を接続する第一の漏洩同軸ケーブル及び光ファイバを介して信号を遅延調整用信号として送信する遅延調整用信号送信処理と、第一の漏洩同軸ケーブル及び光ファイバを介して送信された遅延調整用信号を受信する受信処理と、光ファイバを介して受信した遅延調整用信号を第二の漏洩同軸ケーブルに送信する送信処理と、第一の漏洩同軸ケーブルより受信した遅延調整用信号と、第二の漏洩同軸ケーブルより受信した遅延調整用信号よりビート信号を生成する処理と、変調繰り返し周期T、変調幅β及びビート信号のビート周波数を用いて遅延時間を算出する遅延時間測定処理とを含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る遅延時間測定方法は、漏洩同軸ケーブル(LCX: Leakage CoaXial cable)および光ファイバを介して移動局と基地局の通信を中継する中継局を備えた通信システムにおいて、漏洩同軸ケーブルと光ファイバによるデータ伝送時に発生する遅延時間を測定する遅延時間測定方法において、三角波でFM変調を施した、変調繰り返し周期Tおよび変調幅βが既知である信号を作成するとともに、信号を遅延調整用信号として漏洩同軸ケーブル及び光ファイバを介して送信する遅延調整用信号送信処理と、漏洩同軸ケーブル及び光ファイバを介して送信された遅延調整用信号を受信する受信処理と、漏洩同軸ケーブルより受信した遅延調整用信号と、光ファイバより受信した遅延調整用信号よりビート信号を生成する処理と、変調繰り返し周期T、変調幅β及びビート信号のビート周波数を用いて遅延時間を算出する遅延時間測定処理とを含むので、列車無線システムに適用される移動体通信用の光中継システムのLCX渡り区間における、光ファイバを介した通信とLCXを介した通信の間における相対遅延時間の測定精度を向上させるという効果がある。
【0009】
本発明に係る遅延時間測定方法は、漏洩同軸ケーブル(LCX: Leakage CoaXial cable)および光ファイバを介して移動局と基地局の通信を中継する中継局を備えた通信システムにおいて、漏洩同軸ケーブルと光ファイバによるデータ伝送時に発生する遅延時間を測定する遅延時間測定方法において、三角波でFM変調を施した、変調繰り返し周期Tおよび変調幅βが既知である信号を作成するとともに、基地局と中継局を接続する第一の漏洩同軸ケーブル及び光ファイバを介して信号を遅延調整用信号として送信する遅延調整用信号送信処理と、第一の漏洩同軸ケーブル及び光ファイバを介して送信された遅延調整用信号を受信する受信処理と、光ファイバを介して受信した遅延調整用信号を第二の漏洩同軸ケーブルに送信する送信処理と、第一の漏洩同軸ケーブルより受信した遅延調整用信号と、第二の漏洩同軸ケーブルより受信した遅延調整用信号よりビート信号を生成する処理と、変調繰り返し周期T、変調幅β及びビート信号のビート周波数を用いて遅延時間を算出する遅延時間測定処理とを含むので、列車無線システムに適用される移動体通信用の光中継システムのLCX渡り区間における、光ファイバを介した通信とLCXを介した通信の間における相対遅延時間の測定精度を向上させるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】LCX及び光ファイバ伝送路を介して移動局と基地局の通信を中継する従来の無線通信システムにおいて発生する伝送遅延時間を測定する試験系の一例を説明する説明図である。
【図2】LCX経路から到達した遅延調整用信号および光ファイバ経路から到達した遅延調整用信号それぞれの周波数の時間変化例と、ミキサ出力信号のビート周波数f1の時間変化例を示したものである。
【図3】本発明の実施の形態2に係る伝送遅延時間を測定する試験系の一例を説明する説明図である。
【図4】本発明の伝送遅延時間を測定する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、LCX及び光ファイバ伝送路を介して移動局と基地局の通信を中継する従来の無線通信システムにおいて発生する伝送遅延時間を測定する試験系の一例を説明する説明図である。図1に示す試験系は、光中継システムのLCX渡り区間での、LCXを介した通信と光ファイバを介した通信の間で発生する伝送遅延時間の相違を補正するための遅延補正作業における、相対遅延時間測定するために使用される。図1において、基地局1に対し、中継局2がアプローチケーブル4及び線路近傍エリア3のLCX300―1並びアプローチケーブル5を介して接続され、さらに光ファイバ伝送路9を介して基地局1と接続させている。また、図4は、本発明の伝送遅延時間を測定する処理を示すフローチャートである。
【0012】
LCX渡り区間301における前記相対遅延時間測定の具体的な方法を説明する。まず、基地局1に設置した遅延調整用シグナルジェネレータ(SG)102によって生成した「遅延調整用信号」を送信する。この遅延調整用信号は、三角波でFM変調を施した、変調繰り返し周期Tおよび変調幅βが既知である信号である。遅延調整用シグナルジェネレータ(SG)102から送信された遅延調整用信号は、アプローチケーブル4及びLCX300―1並びにアプローチケーブル5を介して、中継局2のLCX信号入力部6に到達する。以降、説明の便宜上、アプローチケーブル4及びLCX300―1並びにアプローチケーブル5を介して、中継局2に到達する経路を「LCX経路」と称する。
【0013】
また、遅延調整用シグナルジェネレータ(SG)102から出力された遅延調整用信号は、基地局1の内部において分配され、電気―光信号変換部(E/O)100で光信号に変換された後、遅延調整部101及び光ファイバ伝送路9を介して、中継局2の光―電気信号変換部(O/E)200に到達する。以降、説明の便宜上、光ファイバ伝送路9を介して中継局2に到達する経路を「光ファイバ経路」と称する。以上のLCX経路と光ファイバ経路で遅延調整用信号を送信する処理は図4のステップ1に相当する。
【0014】
LCX経路で中継局2が受信した遅延調整用信号は、中継局2に設けられたLCX信号入力部6から遅延測定系8のミキサ800へ入力される。また、光ファイバ経路で中継局2が受信した遅延調整用信号は、中継局2に設けられた光―電気信号変換部(O/E)200で光信号から電気信号に変換される。この電気信号は、信号増幅部201によって増幅され、カプラ202およびアプローチケーブル7を介して、LCX300−2に送信されるとともに、カプラ202により分配され、ミキサ800へと入力される。以上の中継局2による遅延調整用信号の受信処理は図4のステップ2に相当する。
【0015】
図4のステップ3において、中継局2のミキサ800は、LCX経路から到達した遅延調整用信号と、光ファイバ経路から到達した遅延調整用信号を混合し、ビート周波数f1のビート信号を出力する。図2は、LCX経路から到達した遅延調整用信号および光ファイバ経路から到達した遅延調整用信号それぞれの周波数の時間変化例と、ミキサ800の出力信号のビート周波数f1の時間変化例を示したものである。図2におけるf0は遅延調整用信号の中心周波数、Tは変調繰返周期、βはFM変調幅であり、LCX経路および光ファイバ経路それぞれからの信号が、相対遅延時間τの到達時間差を持っていることを表している。前記相対遅延時間τに応じて、図1のミキサ800は周波数f1のビート信号を出力する。図4のステップ4において、相対遅延時間τが算出される。すなわち、f1は下記の式で表されることから、相対遅延時間差τを求めることができる。
△τ=f1・T/2β
【0016】
なお、ミキサ800の出力信号はビート信号以外にも多数の高周波を含むことから、ローパスフィルタ(LPF)801によって高周波を取り除き、周波数カウンタ802にてビート周波数f1を測定する。また、アプローチケーブル5およびアプローチケーブル7による伝搬遅延時間は別途測定するか、ケーブル長から机上計算によって算出し、前記相対遅延時間に反映することで、LCX渡り区間301における相対遅延時間を求めることができる。
【0017】
列車無線システムに適用される移動体通信用の光中継システムのLCX渡り区間における、光ファイバを介した通信とLCXを介した通信の間における相対遅延時間の測定精度を向上させるという効果がある。
【0018】
実施の形態2.
前記実施の形態1では、中継局2内部において、LCX経路および光ファイバ経路から入力された遅延調整用信号を遅延測定系8に接続することによって、ビート信号の周波数測定を行った。これに対して、実施の形態2では、線路近傍エリア3のLCX渡り区間にて、LCXから漏洩する無線電波を利用してビート信号の周波数測定を行う。図3は、本発明の実施の形態2に係る伝送遅延時間を測定する試験系の一例を説明する説明図である。なお、図3において図1と同一の符号は同一又はこれに相当する部分を示すので説明は省略する。実施の形態2では、遅延測定系8の設置箇所が線路近傍エリア3であり、LCX信号受信アンテナ10を用いる。LCX経路および光ファイバ経路による遅延調整用信号の流れは実施の形態1と同様である。
【0019】
LCX信号受信アンテナ10は、線路近傍エリア3のLCX渡り区間にて、LCX300−1に流れる遅延調整用信号と、光ファイバ経路より入力されたLCX300−2に流れる遅延調整用信号を受信する。受信された信号は遅延測定系8のミキサ800に入力され、ミキサ800はビート信号を出力、以降の流れは実施の形態1と同様である。
【0020】
実施の形態2によれば、アプローチケーブル5およびアプローチケーブル7による伝搬遅延は測定結果に反映されることから、別途測定する必要がなくなるほか、測定誤差を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0021】
1 基地局、100 電気―光信号変換部、101 遅延調整部、
102 遅延調整用シグナルジェネレータ(SG)、2 中継局、
200 光―電気信号変換部、201 信号増幅部、202 カプラ、
3 線路近傍エリア、300−1〜300−2 LCX、301 LCX渡り区間、
4〜5、7 アプローチケーブル、8 遅延測定系、800 ミキサ、
801 ローパスフィルタ(LPF)、802 周波数カウンタ、
9 光ファイバ、10 LCX信号受信アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漏洩同軸ケーブル(LCX: Leakage CoaXial cable)および光ファイバを介して移動局と基地局の通信を中継する中継局を備えた通信システムにおいて、前記漏洩同軸ケーブルと前記光ファイバによるデータ伝送時に発生する遅延時間を測定する遅延時間測定方法において、
三角波でFM変調を施した、変調繰り返し周期Tおよび変調幅βが既知である信号を作成するとともに、前記信号を遅延調整用信号として前記漏洩同軸ケーブル及び前記光ファイバを介して送信する遅延調整用信号送信処理と、
前記漏洩同軸ケーブル及び前記光ファイバを介して送信された前記遅延調整用信号を受信する受信処理と、
前記漏洩同軸ケーブルより受信した遅延調整用信号と、前記光ファイバより受信した遅延調整用信号よりビート信号を生成する処理と、
前記変調繰り返し周期T、前記変調幅β及び前記ビート信号のビート周波数を用いて遅延時間を算出する遅延時間測定処理とを含むことを特徴とする遅延時間測定方法。
【請求項2】
漏洩同軸ケーブル(LCX: Leakage CoaXial cable)および光ファイバを介して移動局と基地局の通信を中継する中継局を備えた通信システムにおいて、前記漏洩同軸ケーブルと前記光ファイバによるデータ伝送時に発生する遅延時間を測定する遅延時間測定方法において、
三角波でFM変調を施した、変調繰り返し周期Tおよび変調幅βが既知である信号を作成するとともに、前記基地局と前記中継局を接続する第一の漏洩同軸ケーブル及び前記光ファイバを介して前記信号を遅延調整用信号として送信する遅延調整用信号送信処理と、
前記第一の漏洩同軸ケーブル及び前記光ファイバを介して送信された前記遅延調整用信号を受信する受信処理と、
前記光ファイバを介して受信した遅延調整用信号を第二の漏洩同軸ケーブルに送信する送信処理と、
前記第一の漏洩同軸ケーブルより受信した遅延調整用信号と、前記第二の漏洩同軸ケーブルより受信した遅延調整用信号よりビート信号を生成する処理と、
前記変調繰り返し周期T、前記変調幅β及び前記ビート信号のビート周波数を用いて遅延時間を算出する遅延時間測定処理とを含むことを特徴とする遅延時間測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−223505(P2011−223505A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93086(P2010−93086)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】