説明

遊星歯車機構

【課題】部品点数、組み付けコストを抑制し、かつ、場所的制約を受けることなく、荷重の均等分配が可能な遊星歯車機構を提供する。
【解決手段】リングギヤおよびサンギヤの双方に噛合する複数のピニオンギヤ4が、キャリア8に設けられた複数のピニオン軸6にそれぞれ回転自在に軸支された遊星歯車機構であって、ピニオンギヤ4の本体4aには、ピニオン軸6が挿通する軸孔4bを中心として、当該軸孔の周方向に延在するスリット10が複数設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンギヤ、リングギヤ、ピニオンギヤを備える遊星歯車機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスタービン発電機や自動車等、減速や増速あるいは動力分配が要求されるさまざまな分野で利用されている遊星歯車機構においては、複数のピニオンギヤが、キャリアに設けられたピニオン軸に回転自在に軸支されている。こうした遊星歯車機構においては、各ピニオンギヤに荷重が均等に分配されることが望ましいが、各ギヤの寸法誤差や取り付け誤差等により、各ピニオンギヤに作用する荷重が不均一になってしまうという実態がある。
【0003】
そこで、従来、各ピニオンギヤに荷重を均等に分配すべく、ピニオンギヤをその半径方向に移動可能とする遊星歯車機構が種々開発されている。特許文献1に示される遊星歯車機構においては、ピニオン軸とピニオンギヤとの間に設けられる軸受けに弾性部材を介在させ、ピニオンギヤに対してその径方向に弾性力を作用させるようにしている。このようにすれば、弾性部材によって寸法誤差や取り付け誤差が吸収され、各ピニオンギヤに対して荷重を均等に分配することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−180636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に示される遊星歯車機構においては、弾性部材を別途設けなければならず、部品点数が増加するばかりか組み付けコストが増大してしまう。また、ピニオンギヤの軸受け構造によっては、場所的制約から弾性部材を設けられない場合がある。
【0006】
本発明の目的は、部品点数、組み付けコストを抑制し、かつ、場所的制約を受けることなく、荷重の均等分配が可能な遊星歯車機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の遊星歯車機構は、リングギヤおよびサンギヤの双方に噛合する複数のピニオンギヤが、キャリアに設けられた複数のピニオン軸にそれぞれ回転自在に軸支された遊星歯車機構であって、ピニオンギヤの本体には、ピニオン軸が挿通する軸孔を中心として、当該軸孔の周方向に延在するスリットが設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の遊星歯車機構は、ピニオンギヤの歯底からスリットまでの距離を、ピニオンギヤの歯たけ以上とするとよい。
【0009】
また、本発明の遊星歯車機構は、リングギヤおよびサンギヤの双方に噛合する複数のピニオンギヤが、キャリアに設けられた複数のピニオン軸にそれぞれ回転自在に軸支された遊星歯車機構であって、キャリアの本体には、ピニオン軸が挿通する挿通孔を中心として、当該挿通孔の周方向に延在するスリットが設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の遊星歯車機構は、スリットが、ピニオン軸から一定の距離を維持して延在する内側スリット部と、内側スリット部よりもピニオン軸の径方向外方に位置する外側スリット部と、ピニオン軸の径方向に延在し、内側スリット部および外側スリット部を連続させる連続部と、を備えるとよい。
【0011】
また、本発明の遊星歯車機構は、スリットが、ピニオン軸から同一距離を維持し、かつ、ピニオン軸の周方向に位相をずらして複数設けられるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、部品点数、組み付けコストを抑制し、かつ、場所的制約を受けることなく、荷重の均等分配が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態の遊星歯車機構の内部構造を示す図である。
【図2】図1におけるII−II線概略断面図である。
【図3】第1実施形態のピニオンギヤの平面図である。
【図4】第2実施形態の遊星歯車機構の内部構造を示す図である。
【図5】図4におけるV−V線概略断面図である。
【図6】第2実施形態のキャリアの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の遊星歯車機構の内部構造を示す図である。この図に示すように、本実施形態の遊星歯車機構1は、外歯を有するサンギヤ2、内歯を有するリングギヤ3、これら両ギヤ2、3に噛合する3つのピニオンギヤ4を備えている。サンギヤ2は、入力軸5に固定されており、入力軸5と一体となって回転する。また、リングギヤ3は、サンギヤ2と軸心を一致させて配設されており、これらサンギヤ2とリングギヤ3との間に3つのピニオンギヤ4が等間隔に設けられている。
【0016】
図2は、図1におけるII−II線概略断面図である。この図に示すように、ピニオンギヤ4は、本体4aを歯幅W方向に貫通する軸孔4bを備えており、この軸孔4bを貫通するピニオン軸6に軸受7を介して回転自在に軸支されている。なお、図2においては、軸受7を構成するころのみを示しており、ころが保持される保持器等の構成は省略している。
【0017】
また、ピニオンギヤ4の歯幅W方向の両側には、当該ピニオンギヤ4と平行、かつ、非接触状態を維持して、薄板円盤状のキャリア8が一対設けられており、これら一対のキャリア8によってピニオン軸6の両端が固定(軸支)されている。なお、ここでは1つのピニオンギヤ4のみを示して説明しているが、他の2つのピニオンギヤ4も同様にピニオン軸6に軸支されている。
【0018】
また、図示は省略するが、キャリア8の中心には、入力軸5が貫通する貫通孔が形成されており、この貫通孔を中心として120度位相をずらした位置に、3つのピニオン軸6が等間隔に固定されている(図1参照)。上記の構成により、入力軸5を回転させてサンギヤ2を回転させるとともに、ピニオンギヤ4を自転もしくは公転させ、このピニオンギヤ4の回転をリングギヤ3もしくはキャリア8に伝達することにより、入力軸5の回転動力を減速、増速して出力することが可能となっている。
【0019】
そして、上記のピニオンギヤ4の本体4aには、軸孔4bを中心として、当該本体4aの周方向に延在するスリット10が歯幅Wにわたって設けられている。このスリット10について図3を用いて説明する。
【0020】
図3は、ピニオンギヤ4の平面図である。この図に示すように、スリット10は、本体4aにおける軸孔4bの近傍において、周方向に延在形成されている。本実施形態では、4つのスリット10が、軸孔4b(ピニオン軸6)を中心として周方向に90度ずつ位相をずらして設けられている。より詳細には、スリット10は、軸孔4b(ピニオン軸6)から一定の距離を維持して当該軸孔4bの周方向に延在する内側スリット部10aと、この内側スリット部10aよりもピニオンギヤ4の径方向外方に位置する外側スリット部10bとを有している。
【0021】
これら内側スリット部10aおよび外側スリット部10bは、軸孔4bからの距離がそれぞれ一定に維持されており、軸孔4b(ピニオン軸6)の径方向に延在する連続部10cを介して連続形成されている。そして、上記の各スリット10が、軸孔4b(ピニオン軸6)から同一距離を維持し、かつ、軸孔4b(ピニオン軸6)の周方向に位相をずらして設けられることにより、軸孔4bを中心としてほぼ2周にわたる環状スリットが形成されることとなる。
【0022】
上記の構成からなる遊星歯車機構1によれば、仮に、サンギヤ2、リングギヤ3、ピニオンギヤ4等に寸法誤差や組み付け誤差が生じたとしても、スリット10が弾性体として機能してピニオンギヤ4が径方向に変位するので、上記の誤差が吸収され、各ピニオンギヤ4に荷重を均等に配分することができる。
【0023】
しかも、上記のように、ピニオンギヤ4にスリット10を形成するだけなので、別部材を設ける必要がなく、部品点数や組み付けコストが低減され、また、場所的制約を受けることもなく、あらゆる分野で広く適用することが可能である。
【0024】
なお、本実施形態のピニオンギヤ4においては、歯底から歯先までの長さである歯たけ(全歯たけ)をL1とし、ピニオンギヤ4の歯底からスリット10までの距離をL2とした場合に、L2≧L1となるようにスリット10が設けられている。スリット10を設ける位置は特に限定されないが、上記のように、L2≧L1となるようにスリット10を設ければ、スリット10によるピニオンギヤ4の強度低下を最小限に抑えることができ、また、各ギヤの噛み合いに影響が及ぼされることもない。
【0025】
さらには、上記のスリット10に潤滑油等を供給すれば、減衰機能が発揮され、高速回転時の安定性を向上させることができる。このとき、軸受7等、ピニオンギヤ4とピニオン軸6との摺動部に潤滑油を噴き付けて供給する場合があるが、このような場合には、潤滑油がスリット10にも同時に供給されるので、供給手段を特段設ける必要もない。
【0026】
なお、上記実施形態においては、複数(4つ)のスリット10を周方向に位相をずらして設けることとしたが、例えば、内側スリット部10aおよび外側スリット部10bをほぼ360度にわたって延在させ、1つのスリット10のみを設けることとしてもよい。このとき、スリット10が1つのみの場合には、支持剛性が非等方になるおそれがある。したがって、支持剛性の等方性を向上する場合には、上記実施形態のように、複数のスリット10を設けることがより望ましい。
【0027】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の遊星歯車機構について図4〜図6を用いて説明する。なお、以下に説明する第2実施形態の遊星歯車機構は、ピニオンギヤおよびキャリアの構成のみが上記第1実施形態と異なり、その他の構成については、特に断りがない限り、上記第1実施形態と同じである。したがって、上記第1実施形態と同様の構成については上記と同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0028】
図4は、第2実施形態の遊星歯車機構の内部構造を示す図である。この図に示すように、第2実施形態の遊星歯車機構20は、サンギヤ2およびリングギヤ3の双方に噛合する3つのピニオンギヤ21を備えている。なお、このピニオンギヤ21は、周知のピニオンギヤであり、スリット10が形成されていない点のみが上記のピニオンギヤ4と異なっている。
【0029】
図5は、図4におけるV−V線概略断面図である。この図に示すように、ピニオンギヤ21は、本体21aを歯幅W方向に貫通する軸孔21bを備えており、この軸孔21bを貫通するピニオン軸6に軸受7を介して回転自在に軸支されている。
【0030】
また、ピニオンギヤ21の歯幅W方向の両側には、当該ピニオンギヤ21と平行、かつ、非接触状態を維持して薄板円盤状のキャリア22が一対設けられており、これら一対のキャリア22によってピニオン軸6の両端が軸支されている。なお、ここでは1つのピニオンギヤ21のみを示して説明しているが、他の2つのピニオンギヤ21も同様にピニオン軸6に軸支されている。
【0031】
図6は、キャリア22の平面図である。この図に示すように、キャリア22は、薄板円盤状の本体22aを備えて構成され、当該本体22aの軸心に、入力軸5を貫通させる貫通孔22bが設けられている。また、本体22aには、貫通孔22bを中心として120度位相をずらした位置に、3つの挿通孔22cが等間隔に形成されている。この挿通孔22cは、ピニオン軸6が挿通可能に設けられており、これによってピニオン軸6の両端が一対のキャリア22によって軸支されることとなる(図4、図5参照)。
【0032】
そして、ピニオン軸6を軸支するキャリア22の挿通孔22cの周囲には、スリット23が形成されている。スリット23は、本体22aにおける挿通孔22cの近傍において、周方向に延在形成されている。本実施形態では、4つのスリット23が、挿通孔22c(ピニオン軸6)を中心として周方向に90度ずつ位相をずらして設けられている。より詳細には、スリット23は、挿通孔22c(ピニオン軸6)から一定の距離を維持して当該挿通孔22cの周方向に延在する内側スリット部23aと、この内側スリット部23aよりも挿通孔22cの径方向外方に位置する外側スリット部23bとを有している。
【0033】
これら内側スリット部23aおよび外側スリット部23bは、挿通孔22cからの距離がそれぞれ一定に維持されており、挿通孔22c(ピニオン軸6)の径方向に延在する連続部23cを介して連続形成されている。そして、上記の各スリット23が、挿通孔22c(ピニオン軸6)から同一距離を維持し、かつ、挿通孔22c(ピニオン軸6)の周方向に位相をずらして設けられることにより、挿通孔22cを中心としてほぼ2周にわたる環状スリットが形成されることとなる。
【0034】
上記の構成からなる遊星歯車機構20によれば、仮に、サンギヤ2、リングギヤ3、ピニオンギヤ21等に寸法誤差や組み付け誤差が生じたとしても、スリット23が弾性体として機能し、キャリア22とピニオンギヤ21とが一体となって径方向に変位するので、上記の誤差が吸収され、各ピニオンギヤ21に荷重を均等に配分することができる。
【0035】
しかも、上記第1実施形態と同様に、キャリア22にスリット23を形成するだけなので、別部材を設ける必要がなく、部品点数や組み付けコストが低減され、また、場所的制約を受けることもなく、あらゆる分野で広く適用することが可能である。さらに、この第2実施形態によれば、スリット23がキャリア22に設けられるので、ピニオンギヤ21の強度が低下することがなく、遊星歯車機構20の設計を一層容易化することができる。
【0036】
なお、上記各実施形態においては、ピニオンギヤおよびキャリアのいずれか一方にのみスリットを設けることとしたが、ピニオンギヤおよびキャリアの双方にスリットを設けてもよい。また、上記各実施形態においては、ピニオン軸の両端にキャリアを設けて、ピニオン軸を両持ちで支持することとしたが、キャリアを1つのみ設けてピニオン軸を片持ちで支持することとしてもよい。また、上記各実施形態においては、ピニオンギヤを3つ設けることとしたが、ピニオンギヤの数や歯数、さらにはスリットの形状や位置等は上記実施形態に限定されるものではない。さらに、上記各実施形態の遊星歯車機構は、ガスタービン発電機や自動車をはじめとするあらゆる分野に適用可能である。
【0037】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、サンギヤ、リングギヤ、ピニオンギヤを備える遊星歯車機構に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 …遊星歯車機構
2 …サンギヤ
3 …リングギヤ
4 …ピニオンギヤ
4a …本体
4b …軸孔
6 …ピニオン軸
8 …キャリア
10 …スリット
20 …遊星歯車機構
21 …ピニオンギヤ
21a …本体
21b …軸孔
22 …キャリア
22a …本体
22c …挿通孔
23 …スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングギヤおよびサンギヤの双方に噛合する複数のピニオンギヤが、キャリアに設けられた複数のピニオン軸にそれぞれ回転自在に軸支された遊星歯車機構であって、
前記ピニオンギヤの本体には、
前記ピニオン軸が挿通する軸孔を中心として、当該軸孔の周方向に延在するスリットが設けられていることを特徴とする遊星歯車機構。
【請求項2】
前記ピニオンギヤの歯底から前記スリットまでの距離は、前記ピニオンギヤの歯たけ以上であることを特徴とする請求項1記載の遊星歯車機構。
【請求項3】
リングギヤおよびサンギヤの双方に噛合する複数のピニオンギヤが、キャリアに設けられた複数のピニオン軸にそれぞれ回転自在に軸支された遊星歯車機構であって、
前記キャリアの本体には、
前記ピニオン軸が挿通する挿通孔を中心として、当該挿通孔の周方向に延在するスリットが設けられていることを特徴とする遊星歯車機構。
【請求項4】
前記スリットは、
前記ピニオン軸から一定の距離を維持して延在する内側スリット部と、
前記内側スリット部よりも前記ピニオン軸の径方向外方に位置する外側スリット部と、
前記ピニオン軸の径方向に延在し、前記内側スリット部および外側スリット部を連続させる連続部と、を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の遊星歯車機構。
【請求項5】
前記スリットは、
前記ピニオン軸から同一距離を維持し、かつ、前記ピニオン軸の周方向に位相をずらして複数設けられていることを特徴とする請求項4記載の遊星歯車機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−19481(P2013−19481A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153584(P2011−153584)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】