説明

運動決定装置

本発明は、移動する物体の運動を決定するための運動決定装置に関する。この運動決定装置1は、移動する物体に位置決められる多軸加速度計2を有し、この多軸加速度計2は、別々の空間軸に沿う加速度を示す加速度計信号を発生させるように構成される。前記運動決定装置はさらに、別々の空間軸の加速度計信号を結合することにより、前記物体4の運動を示す運動信号を発生させるための運動信号発生ユニットを有する。別々の軸の加速度計信号の前記結合は、ある軸が前記運動の回転軸の近くに置かれる場合でさえも、大きな信号対ノイズ比を持つ運動信号を生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動する物体の運動を決定するための運動決定装置及び方法に関する。本発明はさらに、対応するコンピュータプログラムにも関する。
【背景技術】
【0002】
国際特許出願公開番号WO2004/043263 A2は、呼吸運動を制御するため、及び特に乳幼児の無呼吸期間を制御するために、人間に及びさらに動物にも用いられるモニター呼吸運動装置を開示している。この装置は、加速度計及びマイクロコントローラを有し、ここで加速度計は運動検出器及び複数の出力プラグを含み、マイクロコントローラは複数の入力ソケットを含んでいる。前記複数の出力プラグは前記複数の入力ソケットに接続され、マイクロコントローラは、警報手段に接続される信号出力部を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
WO2004/043263 A2に開示されるモニター呼吸運動装置は、単一の空間軸に沿う加速度信号に依存している。この加速度信号における呼吸に関連する変化は、重力に対する方位の変化により生じるので、呼吸が原因により重力に対する前記単一の空間軸の方位が変化しないとき、この場合では前記単一軸を用いて呼吸は監視されないので、問題が発生する。例えば、呼吸により生じる運動は、重力に対するその軸の方位に関係なく、この空間単一軸自身の周りを回ることである場合、これは起こり得る。その上、この呼吸により生じる運動は、加速度計の空間単一軸の近くにある回転軸の周りを回ることである場合、低い信号対ノイズ比を持つ小さな加速度計信号のみが測定される。これは呼吸により生じる加速度計信号の品質を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の目的は、移動する物体の運動を決定するための運動決定装置及び方法を提供することであり、その運動を示す運動信号は、加速度計を使用することにより発生し、その運動信号の品質は改善される。
【0005】
本発明の第1の態様において、移動する物体の運動を決定するための運動決定装置が示され、ここで、運動決定装置は、
−移動する物体に位置決められる多軸加速度計であり、別々の空間軸に沿う加速度を示す加速度計信号を発生させるように構成される多軸加速度計、
−これら別々の空間軸の加速度計信号を結合することにより、前記物体の運動を示す運動信号を発生させるための運動信号発生ユニット
を有する。
【0006】
前記加速度計は多軸加速度計であるため、この多軸加速度計の軸の1つの周りを回転する運動は、この多軸加速度計の他の軸の加速度計信号に変化を生じさせる。それ故に、別々の空間軸の加速度計信号の結合は、多軸加速度計により検知されるべき運動の回転軸の近くに軸が置かれる場合でさえも、大きいと共に、大きな信号対ノイズ比を持つ運動信号を生じる。これは、信号すなわち運動信号の品質を改善する、及びそれ故に信号をさらに処理することを容易にする。例えば、決定がそれに基づいている運動信号の品質が改善される場合、特に運動信号の信号対ノイズ比が増大する場合、この運動信号から呼吸数又は心拍数を自動的に決定するためのアルゴリズムは、改善した結果をもたらす。
【0007】
多軸加速度計は好ましくは、3つの直交する空間軸に沿う加速度を示す3つの加速度計信号を発生させるのに適する3軸加速度計であり、ここで運動信号発生ユニットは、物体の運動を示す運動信号を発生させるためにこれら3つの加速度計信号を結合するように構成される。
【0008】
多軸加速度計は、人間の身体部分に位置決められるように構成されるのが好ましく、ここで運動信号発生ユニットは、その人間の呼吸及び心臓の活動の少なくとも1つを示す運動信号を発生させるように構成される。呼吸を示す運動信号を発生させるために、多軸加速度計は、下位肋骨、大まかには中央の位置と横の位置との中間に好ましくは位置決められる。しかしながら、この多軸加速度計は、特に術後の外傷のような体格が原因による制限がある場合、他の位置、例えば腹部に置かれることもできる。
【0009】
心拍数を示す運動信号を発生させるために、多軸加速度計は、腹部/胸郭の左側に好ましくは位置決められる。その加速度計は下位肋骨、特に左下位肋骨に位置決められるのがさらに好ましい。振幅数を示す運動信号を発生させる多軸加速度計のさらに好ましい位置は、胸郭の上方位置又は腹部の下方位置である。特に、呼吸を示す運動信号を決定するための好ましい位置は、心拍数を示す運動信号を測定するのにも好ましい。特に、呼吸及び心拍数を示す運動信号を発生させるために、多軸加速度計は、下位肋骨、左側の中央−横の中間に好ましくは位置決められる。
【0010】
運動決定装置はさらに、発生した運動信号に応じて呼吸数を決定するための呼吸数決定ユニット及び心拍数を決定するための心拍数決定ユニットの少なくとも1つを有することが好ましい。
【0011】
これは、呼吸数及び/又は心拍数の無理のない、低コストの、連続する及び移動式の監視を可能にする。
【0012】
ある実施例において、息を止めた状態で加速度計信号が発生した場合、発生する運動信号の基本周波数は心拍数である。人間が呼吸している間に加速度計信号が発生する場合、運動信号の基本周波数は呼吸数に対応していると考えられる。
【0013】
前記運動決定装置はさらに、決定される運動の起こり得る周波数に対応する周波数がフィルタユニットを通過するように、これら加速度計信号をフィルタリングするためのフィルタユニットを有することが好ましい。
【0014】
これは、加速度計信号のノイズ及び起こり得る他の望まない環境の影響を減少させる。運動信号が呼吸を示すべきである場合、フィルタユニットは好ましくは、呼吸運動の起こり得る周波数に対応する周波数が前記フィルタユニットを通過するように、加速度計信号をフィルタリングするように構成される。この場合、0.1から2Hzの周波数範囲内にある周波数が好ましくは、前記フィルタユニットを通過する。運動信号発生ユニットが人間の心臓の活動を示す運動信号を発生させるのに適する場合、前記フィルタユニットは好ましくは、心臓の活動の運動の起こり得る周波数に対応する周波数がフィルタユニットを通過するように、加速度計信号をフィルタリングするように構成される、例えばこのフィルタユニットは0.5から3Hzの周波数範囲内にある周波数がフィルタユニットを通過するように、加速度計信号をフィルタリングするように構成されることができる。
【0015】
運動信号発生ユニットは、時間的に先行する時間フレームにおいて発生した加速度計信号に基づいて運動信号を繰り返し発生させるように構成されることがさらに好ましい。
【0016】
これは、加速度計信号の結合を実際の条件に、例えば多軸加速度計の実際の軸の方位に適合させることを可能にする。これは例えば、人間が自分の姿勢を変化させる場合であっても、この人間の呼吸及び心臓の活動の少なくとも1つを示す運動信号を決定することを可能にする。この時間フレームは例えば20秒以下の時間フレームである。
【0017】
運動信号発生ユニットは、最大の加速度の変化を持つ加速度計信号が大部分は運動信号に寄与しているように、これら加速度計信号を結合するように構成されることがさらに好ましい。
【0018】
最大の加速度の変化を持つ加速度計信号は、この最大の加速度の変化を持つ加速度計信号が大部分は運動信号に寄与しているように、これら加速度計信号を結合することにより最大の信号対ノイズ比を持つと考えられるので、この運動信号の信号対ノイズ比は増大することができる。好ましくは、運動信号発生ユニットは、決定される運動に対応する周波数範囲において最大の加速度の変化を持つ加速度計信号が大部分は運動信号に寄与しているように、これら加速度計信号を結合するように構成される。
【0019】
運動信号発生ユニットは、別々の空間軸の加速度計信号を線形結合するように構成されることがさらに好ましく、これら加速度計信号は、最大の加速度の変化を持つ加速度計信号が最大の重みを持つように重み付けられる。
【0020】
運動信号発生ユニットは好ましくは、夫々の加速度計信号と最大の加速度の変化を持つ加速度計信号との相関性に応じて、加速度計信号の重みを決定するように構成され、夫々の加速度計信号の重みは、夫々の相関性が大きい場合、大きくなる。
【0021】
これは、最大の加速度の変化を持つ加速度計信号が大部分は運動信号に寄与しているように、この運動信号を発生させることを可能にする。
【0022】
好ましくは、いわゆる"標本相関係数"又は"ピアソンの積率相関係数"が前記相関性を決定するのに用いられる。
【0023】
運動信号発生ユニットは、夫々の加速度計信号と最大の加速度の変化を持つ加速度計信号との相関性に応じて、加速度計信号の重みを決定するように構成されることがさらに好ましく、ここで夫々の加速度計信号の重みは相関性の符号(sign)である。
【0024】
これは、最大の加速度の変化を持つ加速度計信号が大部分は発生した運動信号に寄与しているように、これらの位相関係に応じて別々の空間軸の加速度計信号を結合することを可能にする。
【0025】
運動信号発生ユニットは、別々の空間軸の加速度計信号に主成分分析を適用し、この主成分分析の適用により結果生じる主成分から、決定される運動を示す運動成分を運動信号と決定するように構成されることがさらに好ましい。それ故に、前記主成分の1つの成分は、運動成分、すなわち運動信号として選択される。好ましくは、運動信号発生ユニットは、第1の主成分を発生した運動信号と決定するように構成される。
【0026】
主成分分析の適用、並びに結果生じる成分、特に結果生じる第1の主成分を発生した運動信号として使用することは、最大の加速度の変化を持つ加速度計信号が大部分は発生した運動信号に寄与しているように、これら加速度計信号を結合することを可能にする。
【0027】
この主成分分析は好ましくは、データの何れかの射影による最大の変動が第1の主成分にある、第2の最大の変動が第2の主成分にある、及び第3の最大の変動が第3の主成分にあるように、前記加速度信号を新しい座標系に変換する標準的な直交線形変換である。
【0028】
運動信号発生ユニットは、加速度計の各々の空間軸に対し加速度の変化の最大化した射影信号を決定し、これら最大化した射影信号を結合することにより運動信号を発生させるように構成されることがさらに好ましく、運動信号発生ユニットは、加速度計の空間軸に対する重力ベクトルの運動を、この重力ベクトルと加速度計の夫々の空間軸とにより規定されるサブ空間上に射影することにより、並びに前記サブ空間に射影した重力ベクトルの射影した運動の変換した夫々の軸への射影が最大化されるように、前記サブ空間内にある夫々の軸を変換することにより、加速度計の空間軸の最大化した射影信号を決定するように構成される。このサブ空間は好ましくは平面である。公称重力ベクトルは、加速度計の別々の空間軸に対する重力ベクトルの運動の平均を示すように配向されるベクトルである、すなわち重力ベクトルの運動は前記公称重力ベクトルに対する変動であると説明される。
【0029】
運動信号発生ユニットは、前記最大化した射影信号のベクトルの大きさを決定することにより、及び前記決定したベクトルの大きさをこれら最大化した射影信号の少なくとも1つの信号の符号と結合することにより、運動信号を発生させるように構成される。好ましくは、前記決定したベクトルの大きさは、最大化した射影信号の少なくとも1つの信号の符号で乗算される。前記決定したベクトルの大きさは、最大の振幅を持つ前記最大化した射影信号の符号で乗算される。
【0030】
これは、増大する信号対ノイズ比を持つ運動信号を発生させることを可能にする。
【0031】
運動信号発生ユニットは、最大化した射影信号に主成分分析を適用するように構成されることがさらに好ましく、結果生じる第1の主成分は、発生した運動信号である。
【0032】
これは、最大の加速度の変化を持つ加速度計信号が大部分は運動信号に寄与しているように別々の空間軸の加速度計信号を結合することも可能にする。
【0033】
運動信号発生ユニットは、別々の空間軸の加速度計信号に独立成分分析を適用し、この独立成分分析の適用により結果生じる独立成分から、決定される運動を示す運動成分を運動信号と決定するように構成されることがさらに好ましい。それ故に、これら独立成分の1つの成分が運動成分として、すなわち運動信号として選択される。
【0034】
さらに、これは、最大の加速度の変化を持つ加速度計信号が大部分は運動信号に寄与しているように運動信号を発生させることが可能である。
【0035】
好ましくは、信号おける時間の相関性を適用するアルゴリズム、例えばいわゆるSOBIアルゴリズムは、加速度計信号に独立成分分析を適用するために使用される。このSOBIアルゴリズムは、Belouchrani A.他著、文献"A blind source separation technique using second order statistics,"IEEE Trans Signal Process, 45(2): 4.4-444, Feb 1997に開示され、この文献は参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0036】
独立成分分析の適用により結果生じる独立成分からの運動成分は、決定される運動を示し、既定の周波数で最大の振幅を持つ独立成分を決定することにより決められることができる。例えば、呼吸数又は心拍数が運動信号に基づいて決められるべきである場合、起こり得る呼吸数又は心拍数に対応する、周波数の間隔内における最大の振幅を持つ独立成分が運動成分と決められる。
【0037】
運動決定装置は好ましくは、補完的な位置において物体に位置決められるための幾つかの多軸加速度計を有し、運動信号発生ユニットは、幾つかの多軸加速度計の別々の空間軸の加速度計信号を結合することにより、物体の運動を示す運動信号を発生させるように構成される。
【0038】
これは、信号対ノイズ比をさらに増大させること、及び物体の運動を決定しない可能性をさらに減少させることを可能にする。物体上の2つの位置は、これら2つの位置での運動が異なる場合、特に2つの位置での重力に対する運動による変化が異なっている場合、好ましくは補完的であると考えられる。特に、物体上の2つの位置は、呼吸により又は心臓の活動による運動がこれらの位置で異なっている場合、特に重力に対する呼吸による変化又は心臓の活動による変化がこれらの位置で異なっている場合、補完的であると考えられる。
【0039】
運動決定装置が幾つかの多軸加速度計を有する場合、運動信号発生ユニットは、主成分分析又は独立成分分析を使用することにより、これら幾つかの多軸加速度計の別々の空間軸の加速度計信号を結合することにより、運動信号を発生させるように好ましくは構成される。
【0040】
好ましくは、2つの多軸加速度計が物体に位置決められる、特に2つの3軸加速度計が好ましくは物体に位置決められる。第1の加速度計は好ましくは、上述したように、例えば下位肋骨に位置決められ、第2の加速度計は好ましくは、上部胸郭、例えば胸骨において中央に位置決められる。
【0041】
本発明の他の態様において、移動する物体の運動を決定するための運動決定方法が示され、ここで前記運動決定方法は、以下のステップ、
−移動する物体に位置決められる多軸加速度計により、別々の空間軸に沿う加速度を示す加速度計信号を発生させるステップ、及び
−別々の空間軸の加速度計信号を結合することにより、前記物体の運動を示す運動信号を運動信号発生ユニットにより発生させるステップ、
を有する。
【0042】
本発明の他の態様において、移動する物体の運動を決定するためのコンピュータプログラムが示され、このコンピュータプログラムは、請求項1に記載の運動決定装置に、前記コンピュータプログラムがこの運動決定装置を制御するコンピュータ上で実行されるとき、請求項14に記載の運動決定方法のステップを実行させるためのプログラムコード手段を有する。
【0043】
請求項1に記載の運動決定装置、請求項14に記載の運動決定方法及び請求項15に記載のコンピュータプログラムは、特に従属請求項に記載されるように、類似及び/又は同一の好ましい実施例を持っていると理解されるべきである。
【0044】
本発明の好ましい実施例は、独立請求項と夫々の従属請求項との如何なる組み合わせも可能であると理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】運動決定装置の実施例を概略的且つ例示的に示す。
【図2】物体の姿勢が変化する前の3つの加速度計信号及びこれら加速度計信号を結合することにより発生する運動信号を示す。
【図3】物体の姿勢が変化した後の3つの加速度計信号及びこれら加速度計信号を結合することにより発生する運動信号を示す。
【図4】重力ベクトルと加速度計の別々の空間軸との間の空間関係を説明する。
【図5】前記加速度計の別々の空間軸に対する、重力ベクトルの運動を説明する。
【図6】前記加速度計の別々の空間軸の1つの軸のサブ空間を示す。
【図7】運動決定装置の他の実施例を示す。
【図8】運動決定装置の実施例を例示的に説明するフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明のこれら及び他の態様は、以下に説明される実施例から明らかであると共に、これら実施例を参照して説明される。
【0047】
図1は、移動する物体の運動を決定するための運動決定装置を概略的且つ例示的に示す。この運動決定装置1は、移動する物体4に位置決められる多軸加速度計2を有する。この多軸加速度計2は、別々の空間軸に沿う加速度を示す加速度計信号を発生させるように構成される。本実施例において、前記多軸加速度計は、3つの直交空間軸に沿う加速度を示す3つの加速度計信号を発生させるように構成される3軸加速度計である。例えば、ST Microelectronics社のLIS344ALH又はKionix社のKXM52と名付けられる3軸加速度計が使用されることができる。しかしながら、他の種類の多軸加速度計が別々の空間軸に沿う加速度を示す加速度計信号を発生させるのに使用されることもできる。
【0048】
運動決定装置1はさらに、別々の空間軸の加速度計信号を結合することにより、物体4の運動を示す運動信号を発生させるための運動信号発生ユニット3を有する。本実施例において、運動信号発生ユニット3は、物体4の運動を示す運動信号を発生させるための3軸加速度計2の3つの加速度計信号を結合するように構成される。
【0049】
この物体4は本実施例では人間の身体4であり、多軸加速度計2はこの人間の身体に位置決められ、及び運動信号発生ユニット3は、その人間の呼吸及び心臓の活動の少なくとも1つを示す運動信号を発生させるように構成される。
【0050】
多軸加速度計2は、左下位肋骨、大まかには中央の位置と横の位置との中間に位置決められる。しかしながら、この多軸加速度計2は、特に術後の外傷のような体格が原因による制限がある場合、腹部上の他の位置に置かれることもできる。
【0051】
運動決定装置1はさらに、決定される運動の起こり得る周波数に対応する周波数がフィルタユニット7を通過するように、加速度計信号をフィルタリングするためのフィルタユニット7を有する。これは、加速度計信号のノイズ及び起こり得る他の望まない環境の影響を減少させる。本実施例において、運動信号は呼吸又は心拍数を示すべきである。フィルタユニット7はそれ故に、呼吸運動又は心臓の活動により生じる運動の起こり得る周波数に対応する周波数が前記フィルタユニットを通過するように、前記加速度計信号をフィルタリングするように構成される。特に、このフィルタユニット7は、0.1から3Hzの周波数範囲内にある周波数をフィルタリングするよう構成されることができる。呼吸を決定するために、0.1から2Hzの周波数範囲内にある周波数がフィルタリングされる、及び心拍数を決定するために、0.5から3Hzの周波数範囲内にある周波数がフィルタリングされる、すなわちフィルタユニット7を通過することも可能である。
【0052】
前記運動決定装置はさらに、発生した運動信号に応じて呼吸数を決定する呼吸数決定ユニット5、及び発生した運動信号に応じて心拍数を決定する心拍数決定ユニット6を有する。フィルタユニット7は、呼吸を決定するために加速度計信号をフィルタリングする第1のフィルタを用いてこれら加速度計信号をフィルタリングするように構成される場合、及びフィルタユニット7は、心拍数を決定するために加速度計信号をフィルタリングする第2のフィルタを用いてこれら加速度計信号をフィルタリングするように構成される場合、第1のフィルタを用いてフィルタリングされた加速度計信号は好ましくは、第2のフィルタを用いてフィルタリングされた加速度計信号とは別に結合され、第1のフィルタによりフィルタリングされた加速度計信号を結合することにより発生する運動信号は、呼吸数決定ユニット5に供給され、第2のフィルタによりフィルタリングされた加速度計信号を結合することにより発生する運動信号は、心拍数決定ユニット6に供給される。
【0053】
呼吸数は好ましくは、呼吸数決定ユニット5により、呼吸数決定ユニット5に供給される運動信号の基本周波数と決められる。心拍数は好ましくは、心拍数決定ユニット6に供給される運動信号の基本周波数を決めることにより決定される。
【0054】
他の好ましい実施例において、呼吸数は、呼吸数決定ユニット5により、運動信号における連続するピーク間の時間間隔の逆数と決められる。これら運動信号におけるピークは、この運動信号の一次導関数の零交差を特定することにより決められることができる。誤ったピークの検出を防ぐために、これらピークに追加の制約が課されることができる。例えば、しきい値を超えた運動信号のピークだけが呼吸数の決定に使用される。このしきい値は例えば校正(calibration)により決められることができる。
【0055】
運動信号発生ユニット3は、時間的に先行する時間フレームにおいて発生した加速度計信号に基づいて運動信号を繰り返し発生させるように構成される。これは、これら加速度計信号の結合を実際の条件に、例えば多軸加速度計の実際の方位に適合させることを可能にする。これは例えば、人間が自分の姿勢を変化させる場合であっても、この人間の呼吸及び心臓の活動の少なくとも1つを示す運動信号を決定することを可能にする。前記時間フレームは好ましくは20秒以下、さらに好ましくは10秒以下、及びさらにもっと好ましくは5秒以下である。
【0056】
前記運動信号発生ユニット3は、最大の加速度の変化を持つ加速度計信号が大部分は運動信号に寄与しているように、これら加速度計信号を結合するように構成される。本実施例において、運動信号発生ユニット3は、別々の空間軸の加速度計信号に主成分分析を適用するように構成され、結果生じる第1の主成分は、発生する運動信号である。
【0057】
運動信号を発生させるために、特に主成分分析を行うことにより3つの加速度計信号を結合する効果が図2及び図3を参照して以下に説明される。
【0058】
図2は、時間t秒に応じる任意単位の加速度計信号S、S、Sを概略的且つ例示的に示す。決定される運動に対する3軸加速度計の方位が原因により、加速度計信号Sは、3軸加速度計2が置かれる位置において、人間の運動により生じる最大の変動を示す一方、加速度計信号Sは、小さな変動だけしか示さない。これら加速度計信号S、S、Sの結合はかなり大きな変動を示す、及びそれ故にかなり大きな信号対ノイズ比を持つ運動信号Mを生じる。
【0059】
図3は、人間4の姿勢が変化した後の同じ加速度計信号を示す。この姿勢の変化後、加速度計信号Sは最大の変動を示す一方、加速度計信号Sは最小の変動を示す。しかしながら、運動信号発生ユニット3により行われる3つの加速度計信号の結合が原因により、依然としてかなり高い変動を示すと共に、それ故に依然としてかなり高い信号対ノイズ比を持つ運動信号Mが発生する。それ故に、人間の姿勢が変化した後であっても、発生する運動信号は依然として大きな変動を示し、大きな信号対ノイズ比を持つ。図2及び図3において、約4秒周期の信号の変動又は増減は呼吸により生じる。従って、1分当たり15呼吸の呼吸数は、図2及び図3に示される運動信号から決定されることができる。
【0060】
さらに他の好ましい実施例において、運動信号発生ユニットは、別々の空間軸の加速度計信号を線形結合するように構成され、これら加速度計信号は、最大の加速度の変化を持つ加速度計信号が最大の重みを持つように重み付けられる。例えば、運動信号発生ユニットは、夫々の加速度計信号と最大の加速度の変化を持つ加速度計信号との相関性に応じて加速度計信号の重みを決定するように構成されることができ、ここで夫々の相関性が大きい場合、夫々の加速度計信号の重みは大きい。
【0061】
前記相関性は好ましくは、"標本相関係数"又は"ピアソンの積率相関係数"を決定することにより決められる。
【0062】
加速度計信号S、S、Sを線形結合することによる運動信号Mの発生は、以下の数式
M=w+w+w (1)
により説明されることができ、ここでw、w、wは夫々の重みを示す。
【0063】
重み係数w、w、wは好ましくは、前記運動信号が最大の信号対ノイズ比を持つように決められる。これら重み係数は、加速度計の方位、特に多軸加速度計が取り付けられる人間の姿勢に依存し、それ故にこれら重み係数w、w、wは好ましくは定期的に更新される。これら重み係数は、好ましくは20秒以下である特定の先行する時間フレームの加速度計信号に基づく規則的な時間インスタンス(time instance)で、例えば毎秒で計算される。好ましくは、運動信号発生ユニットは、滑らかな運動信号の波形を保証するために、第1の時間インスタンスで決定した重み係数及び第2の時間インスタンスで決定した重み係数がこれら2つの時間インスタンス間で変化した場合、この第1の時間インスタンスで決定した重み係数と第2の時間インスタンスで決定した重み係数との間を線形補間されるように構成される。
【0064】
好ましい実施例において、前記重み係数は、加速度計信号間の位相関係に従って+1又は−1である。符号は好ましくは、基準軸と2つの他の軸との間の相関係数に基づいて決められ、例えばx軸が基準軸である場合、重み係数は好ましくは以下の数式、
=1 (2)
=sign(C(S,S)) (3)
=sign(C(S,S)) (4)
により規定される。ここでsign(・・・)は正弦関数であり、C(・・・)は夫々の加速度計信号間の相関係数を示す。好ましくは、決定される運動の起こり得る周波数に対応する周波数範囲内において最大振幅を持つ加速度計信号を有する加速度計の軸が基準軸と考えられる。
【0065】
さらに、主成分分析を3つの加速度計信号に適用することにより決められる第1の主成分は、この主成分分析が無相関成分、いわゆる主成分の線形混合において3つの加速度計信号を分解する直交線形変換、特に回転であるので、これら3つの加速度計信号の線形結合と考えられることができる。前記主成分は、3つの加速度計信号の共分散(co-variance)行列の固有値分解(eigenvalue decomposition)により得られる。前記第1の主成分は、加速度計信号における最大の変動の原因となる3つの加速度計信号の線形結合である。例えば、前記加速度計信号における最大の変動源が呼吸である場合、3つの加速度計信号に前記主成分分析を適用することは、呼吸により生じる運動信号を最大にする前記3つの加速度計信号の結合である第1の主成分を発生させる。加速度計信号における最大の変動源が呼吸であることを保証するために、これら加速度計信号は、これら加速度計信号が生理的に起こり得る呼吸数に対応する周波数帯域、例えば1分当たり6回から120回の呼吸に対応する0.1から2Hzの周波数帯域に制限されるように、フィルタユニット7によりフィルタリングされることができる。
【0066】
他の実施例において、運動信号発生ユニット3は、別々の空間軸の加速度計信号に独立成分分析を適用し、独立成分分析の適用により結果生じる独立成分から、決定される運動を示す運動成分を運動信号と決定するように構成される。
【0067】
独立成分分析は、無相関だけでなく統計的に独立している加速度計信号の線形結合を見つける主成分分析の発展版と考えられることができる。この目的のために、独立成分分析アルゴリズムは、共分散行列には含まれない追加の情報、通常は高次統計量(high order statistics)を利用する。決定される運動信号、特に呼吸及び/又は心臓の活動により生じる運動信号は一時的に相関されるので、SOBIアルゴリズムは好ましくは、このSOBIアルゴリズムが加速度計信号の時間構造を使用するために、独立成分分析を行うのに使用される。このSOBIアルゴリズムは、異なる時間差の共分散行列の組の同時対角化(simultaneous diagonalization)に基づいている。主成分分析とは反対に、独立成分分析を用いて得られる独立成分は、変動に従ってランク付けをされない。それ故に、呼吸及び/又は心臓の活動が加速度計信号における最大の変動の原因である場合でさえも、呼吸及び/又は心拍数に関連する独立成分は必ずしも第1の成分ではない。運動信号発生ユニットはそれ故に、決定される運動を示す前記独立成分を運動信号と決定するように構成される。
【0068】
運動信号発生ユニットは、既定の周波数で最大の振幅を持つ、決定される運動を示す独立成分を決めることにより、独立成分分析の適用により結果生じる独立成分から、決定される運動を示す運動成分を決定するように構成されることができる。例えば、呼吸数又は心拍数が前記運動信号に基づいて決められるべきである場合、そのパワースペクトルが周波数間隔内に最大ピークを持ち、夫々起こり得る呼吸数又は可能な心拍数に対応する独立成分が運動成分と決定される。
【0069】
他の実施例において、運動を示す独立成分は、追加の特徴を考慮に入れたスコア(score)に基づいて決められる。最小のスコアを持つ独立成分は次いで、運動を示す成分と選択される。例えば、前記スコアは、独立成分の多数の特徴の合計として計算されることができる。
【数1】

ここで、Score(IC)はx番目の独立成分のスコアを示し、Nは使用される特徴の数を示し、Fi(IC)はx番目の独立成分に対するi番目の特徴の値を示し、wはi番目の特徴に対応する重みを示す。好ましい特徴は、例えば、独立成分の基本周波数、独立成分の混合重み付け、独立成分のスペクトル形状等に基づく。呼吸、心拍数及び姿勢の変化は通常、時間の経過と共に徐々に起こるので、先行する時間期間における呼吸、心拍数及び/又は姿勢に関する知識を考慮に入れる特徴が使用されることもできる。例えば、先行する時間期間における、独立成分の基本周波数と運動信号の基本周波数との絶対差は、1つの特徴として使用されることができる。分析される第1の時間期間中、運動を示す独立成分の選択は、(1)先行する時間期間からの知識に頼らない特徴のみに、又は(2)先行するデータの特徴の初期値を推定することに基づくことができる。
【0070】
ある実施例において、決定される運動を示す独立成分を運動信号と決定する上述した方法は、主成分分析により結果生じる、決定される運動を示す主成分を運動信号と決定するのにも適用されることができる。
【0071】
他の実施例において、運動信号発生ユニット3は、加速度計の各々の空間軸に対し加速度の変化の最大化した射影信号を決定し、これら最大化した射影信号を結合することにより運動信号を発生させるように構成され、ここで運動信号発生ユニットは、前記加速度計の空間軸に対する重力ベクトルの運動を、公称重力ベクトルと加速度計の夫々の空間軸とにより規定されるサブ空間上に射影することにより、並びに前記サブ空間に射影した重力ベクトルの射影した運動の変換した夫々の軸への射影が最大化されるように、前記サブ空間内にある夫々の軸を変換することにより、加速度計の空間軸の最大化した射影信号を決定するように構成される。
【0072】
運動による、例えば呼吸又は心臓の活動による慣性加速度は、重力加速度よりもかなり小さいので、これら軸、特に加速度計の3つの直交軸は、各軸x、y、zへの重力ベクトルの射影を示す。これは図4において例示的に示される。
【0073】
加速度計の各軸x、y、zの値は、夫々の軸への重力ベクトルの射影である。この値は、重力ベクトルと夫々の軸との間の角度により、すなわち角度α、β、γ夫々と以下の数式
=G・cosα (6)
=G・cosβ (7)
=G・cosγ (8)
により決められる。ここでGは重力ベクトルの絶対値を示す。
【0074】
例えば呼吸又は心臓の活動による加速度計運動がある平面上で起こると仮定される場合、この運動は、任意の平面8において公称位置の周りを行ったり来たりする重力ベクトルGとして、センサ座標系に示される。これは図5において例示的に示される。図5においてΔφは重力ベクトルGの前記公称位置の両側の広がり角範囲を示す。
【0075】
各々の空間軸x、y、zに対し、サブ空間、すなわち2次元平面は、重力ベクトルGと夫々の空間軸x、y、zとにより規定される。このようなサブ空間9は、z軸に対し、図6において概略的且つ例示的に示される。図6においてγは、前記公称位置での重力ベクトルと加速度計の夫々の空間軸との間の角度を示し、
【数2】

は、重力ベクトルのx座標及びy座標のベクトル和、すなわちSとSのベクトル和である。
【0076】
各々の上記空間軸に対し、重力ベクトルの運動は最初に、夫々の空間軸と重力ベクトルの公称位置とにより規定される対応するサブ空間に射影される。次いで、このサブ空間において、重力ベクトルの運動による、新しいZ軸の振幅の変化が最大化されるようにz軸が回転する。
【0077】
その公称位置において、前記回転した軸への前記重力ベクトルの射影は、
【数3】

と書かれることができる。
【0078】
その最も極端な位置において、前記回転した軸への前記重力ベクトルの射影は、
max,z(Δγ)=−G・cos(γ+Δγ)・sinγ+G・sin(γ+Δγ)・cosγ (10)
と書かれることができ、ここでΔγは、夫々のサブ空間における重力ベクトルの公称位置の両側の前記広がり角範囲を示し、γはγの公称値を示す。
【0079】
三角和の公式を用いた数式(9)及び(10)の結合は、重力ベクトルの回転した射影の結果生じる振幅が前記広がり角範囲Δγに関連することを示し、
ΔPmax,z=G・sin(Δγ) (11)
である。
【0080】
項"sin(Δγ)"は、サブ空間における、呼吸又は心臓の活動により好ましくは生じる加速度の変化、すなわち運動の最大化した射影である。数式(9)を用いることによりこの最大化した射影信号を決定する、すなわちG・sin(Δγ)を決定するために、sigγ又はcosγが決定されなければならない。cosγの値、それ故にsinγの値は、以下の数式
【数4】

に従って決定されることができる。ここで、mean(S)は、例えば20秒以下の時間期間にわたるz軸の加速度計信号の平均であり、mean(max(S))は、z軸の加速度計信号Sのピーク振幅の平均であり、mean(min(S))は、z軸の加速度計信号Sの谷の振幅の平均である。数式(12)は、理想的な運動信号の射影のテイラー展開を用いて得られる。
【0081】
z軸に対する最大化した射影信号の上述した決定は、加速度計の各々の空間軸に対し、最大化した射影信号が決定されるように、他の軸すなわちx軸及びy軸にもそれに応じて行われる。
【0082】
本実施例において、運動信号発生ユニットは、運動信号を発生させるため3つの空間軸x、y、zの最大化した射影信号Pmax,x、Pmax,y、Pmax,zを結合するように構成される。この運動信号発生ユニットは、主成分分析を使用することによりこの結合を行うように構成されることができ、ここで第1の基本成分は発生した運動信号である。この運動信号発生ユニットは、運動信号を発生させるための3つの最大化した射影信号のベクトル振幅を決めるように構成されることもできる。このベクトル振幅の決定は、以下の数式
【数5】

に従って好ましくは行われる。ここで、sign(…)は正弦関数を示し、Pmax,i,maxは最大の運動信号の振幅を持つ最大化した射影を示す、すなわち添え字のimaxが前記最大の信号の振幅を持つ最大化した射影、すなわちx、y又はzを示す。
【0083】
図7は、補完的な位置にいる人間4に位置決められる幾つかの多軸加速度計2、10、特に2つの3軸加速度計を有する運動決定装置の他の実施例を示し、ここでフィルタユニット7は、これら多軸加速度計2、10の加速度計信号をフィルタリングするように構成され、前記運動信号発生ユニットは、これら幾つかの多軸加速度計2、10の別々の空間軸の加速度計信号を結合することにより、人間4の運動を示す、特に人間4の呼吸及び/又は心臓の活動により生じる運動を示す運動信号を発生させるように構成される。本実施例において、前記運動信号発生ユニットは好ましくは、上述した主成分分析又は上述した独立成分分析を用いることにより、前記幾つかの多軸加速度計2、10の別々の空間軸の加速度計信号を結合することにより、運動信号を発生させるように構成される。特に、各々の3軸加速度計2、10は、3つの直交する加速度計信号を発生させる、すなわち6つの加速度計信号が発生し、主成分分析又は独立成分分析がこれら6つの加速度計信号に適用される。
【0084】
第1の加速度計2は、左下位肋骨に位置決められ、第2の加速度計10は上部胸郭、例えば胸骨において中央に置かれる。
【0085】
以下において、移動する物体の運動を決定するための運動決定方法は、図8に示されるフローチャートを参照して例示的に説明される。
【0086】
ステップ201において、別々の空間軸に沿う加速度を示す加速度計信号は、人間4に位置決められる多軸加速度計により発生する。ステップ202において、フィルタユニット7は発生した加速度計信号をフィルタリングし、ステップ203において、運動信号発生ユニットは、別々の空間軸の加速度計信号を結合することにより、人間4の運動を示す運動信号を発生させ、特に呼吸及び/又は心臓の活動により生じる運動を示す運動信号が発生する。
【0087】
ステップ204において、発生した運動信号に応じて、呼吸数は呼吸数決定ユニット5により決定される及び/又は心拍数は心拍数決定ユニット6により決定される。
【0088】
運動決定装置は、特に移動状態の下で呼吸及び/又は心拍数を監視するために、人間の胸部及び/又は腹部に好ましくは位置決められる1つ以上の多軸加速度計を有する。単一の軸の加速度計のデータを頼りにする既知の加速度計ベースの呼吸監視システムとは対照的に、本発明による運動決定装置は、別々の空間軸の加速度計信号を同時に利用する。これは特に、移動状態において有用であり、加速度計の方向は、呼吸又は心臓の活動により変化するだけでなく、姿勢の変化及び患者の運動によっても変化する。
【0089】
多軸加速度計は、物体の運動を反映するため、特に呼吸及び/又は心臓の活動により生じる腹部又は胸部の運動を反映するための傾斜計として使用される。この運動は、多軸加速度計がその上に位置決められる物体の表面の傾斜の変化に反映される。好ましくは3つの直交軸である多軸加速度計の幾つかの空間軸は、これらの軸の各々への重力ベクトルの射影に等しい加速度計信号を記録する。重力ベクトルの成分S、S、Sは、重力ベクトルと各々の軸との間の角度により決められるので、物体の運動により生じる加速度計の傾斜の変化は、これら加速度計信号S、S、Sの変化に反映されることができ、ここで加速度計信号S、S、Sにも寄与している物体の他の外部加速度は、重力に比べて小さいと仮定される。この仮定は少なくとも、呼吸及び/又は心臓の活動により生じる運動を示す運動信号が移動環境において発生しなければならない状況において正当である。
【0090】
運動決定装置は、患者を監視するために、特に集中治療室の外で酷く病んでいる患者を見つけることを手伝うのに使用されることができる。
【0091】
前記運動決定装置は、呼吸数及び/又は心拍数を決めるのに好ましくは使用される運動信号の信号対ノイズ比が最適化した信号対ノイズ比を持つように、最適且つ自動化した方法で別々の空間軸の加速度計信号を結合する。特に、この運動決定装置は、物体の姿勢、例えば監視される人間の姿勢が変化した場合でさえも、これら別々の空間軸の加速度計信号の最適な結合を自動的に辿ること(track)ができる。特に、発生した運動信号の振幅は一般に、加速度計の別々の空間軸の加速度計信号の各々の振幅よりも大きい。前記運動決定装置は好ましくは、呼吸及び/又は心拍数が1つ以上の多軸加速度計を用いて移動環境において監視される設定で使用される。
【0092】
前記別々の空間軸におけるノイズは一般に無相関であり、運動信号は一般に相関性がある。運動信号を発生させるための別々の空間軸の加速度計信号を結合することにより、信号対ノイズ比はそれ故に増大する。特に、運動信号発生ユニットは好ましくは、運動に関連する変化とノイズに関連する変化との比は少なくとも、物体の方向及び運動に関係なく、運動に関連する変化とノイズに関連する変化との最大の比を持つ個々の空間軸と同じくらい大きい。
【0093】
上述した実施例において、多軸加速度計が好ましくは3つの直交軸を持っていたとしても、この多軸加速度計が2つ又は3つ以上の直交軸を持つこともできる。さらに、前記空間軸は、他の角度も含むことができる、すなわち他の実施例において軸は直交にしないこともできる。
【0094】
上述した実施例において、1つ又は2つの多軸加速度計が使用されたとしても、3つ以上の加速度計が物体の運動を決定するため、特に、物体の運動を示す運動信号を決定するため、並びにこの決定した運動信号に応じて呼吸数及び/又は心拍数を決定するために使用されることもできる。
【0095】
開示した実施例以外の変更例は、図面、明細書及び特許請求の範囲の研究から、本発明を実施する当業者により理解及び生み出されることができる。
【0096】
請求項において"有する"という言葉は、他の要素又はステップを排除するものではなく、複数あることを述べないことが、それが複数あることを排除するものではない。
【0097】
単一のユニット又は装置は、請求項に挙げられる幾つかのアイテムの機能を果たしてもよい。ある手段が互いに異なる従属請求項に挙げられるという単なる事実は、これら手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示しているのではない。
【0098】
運動信号、呼吸数又は心拍数の決定のような決定、並びに1つ若しくは幾つかのユニット又は装置により行われる加速度計信号のフィルタリングは、他の如何なる数のユニット又は装置により行われることができる。例えば、運動信号の決定並びにこの運動信号に応じる呼吸数及び/又は心拍数の決定は、単一のユニットにより又は他の如何なる数の別々のユニットにより行われることができる。前記決定及び/又はフィルタリング、及び/又は運動決定方法に従う運動決定信号装置の制御は、コンピュータプログラムのプログラムコード手段として及び/又は専用のハードウェアとして実現されることができる。
【0099】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一緒に又はその一部として供給される適切な媒体、例えば光学記憶媒体又はソリッドステート媒体上に記憶/分配されてもよいが、他の形式、例えばインターネットを介して又は他の有線又はワイヤレス通信システムを介して配布されてもよい。
【0100】
請求項における如何なる参照符号もこの範囲を制限するとは考えるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する物体の運動を決定するための運動決定装置において、
前記移動する物体に位置決められる多軸加速度計であり、別々の空間軸に沿う加速度を示す加速度計信号を発生させるように構成される多軸加速度計、及び
前記別々の空間軸の加速度計信号を結合することにより、前記物体の運動を示す運動信号を発生させるための運動信号発生ユニット、
を有する運動決定装置。
【請求項2】
前記多軸加速度計は、人間の身体に位置決められるように構成され、及び
前記運動信号発生ユニットは、前記人間の呼吸及び心臓の活動の少なくとも1つを示す運動信号を発生させるように構成される
請求項1に記載の運動決定装置。
【請求項3】
前記運動決定装置はさらに、前記発生した運動信号に応じて呼吸数を決定するための呼吸数決定ユニット及び心拍数を決定するための心拍数決定ユニットの少なくとも1つを有する請求項2に記載の運動決定装置。
【請求項4】
前記運動決定装置はさらに、決定される運動の起こり得る周波数に対応する周波数がフィルタユニットを通過するように、前記加速度計信号をフィルタリングするためのフィルタユニットを有する請求項1に記載の運動決定装置。
【請求項5】
前記運動信号発生ユニットは、時間的に先行する時間フレームにおいて発生した加速度計信号に基づいて前記運動信号を繰り返し発生させるように構成される請求項1に記載の運動決定装置。
【請求項6】
前記運動信号発生ユニットは、最大の加速度の変化を持つ加速度計信号が大部分は前記運動信号に寄与しているように、前記加速度計信号を結合するように構成される請求項1に記載の運動決定装置。
【請求項7】
前記運動発生ユニットは、別々の空間軸の加速度計信号を線形結合するように構成され、前記加速度計信号は、最大の加速度の変化を持つ加速度計が最大の重みを持つように重み付けられる請求項1に記載の運動決定装置。
【請求項8】
前記運動信号発生ユニットは、夫々の加速度計信号と最大の加速度の変化を持つ加速度計信号との相関性に応じて、加速度計信号の重みを決定するように構成され、前記夫々の加速度計信号の重みは前記相関性の符号である請求項7に記載の運動決定装置。
【請求項9】
前記運動信号発生ユニットは、前記別々の空間軸の加速度計信号に主成分分析を適用し、前記主成分分析の適用により結果生じる主成分から、決定される運動を示す運動成分を運動信号と決定するように構成される請求項1に記載の運動決定装置。
【請求項10】
前記運動信号発生ユニットは、前記加速度計の各々の空間軸に対し前記加速度の変化の最大化した射影信号を決定し、前記最大化した射影信号を結合することにより前記運動信号を発生させるように構成され、前記運動信号発生ユニットは、前記加速度計の空間軸に対する重力ベクトルの運動を、公称重力ベクトルと前記加速度計の夫々の空間軸とにより規定されるサブ空間に射影することにより、並びに前記サブ空間に射影した前記重力ベクトルの射影した運動の前記変換した夫々の軸への射影が最大化されるように、前記サブ空間内にある前記夫々の軸を変換することにより、前記加速度計の空間軸の前記最大化した射影信号を決定するように構成される、請求項1に記載の運動決定ユニット。
【請求項11】
前記運動信号発生ユニットは、前記最大化した射影信号のベクトルの大きさを決定することにより、及び前記決定したベクトルの大きさを前記最大化した射影信号の少なくとも1つの符号と結合することにより、前記運動信号を発生させるように構成される請求項10に記載の運動決定装置。
【請求項12】
前記運動発生ユニットは、前記最大化した射影信号に主成分分析を適用するように構成され、結果生じる第1の主成分は、発生した運動信号である請求項10に記載の運動決定装置。
【請求項13】
前記運動信号発生ユニットは、前記別々の空間軸の加速度計信号に独立成分分析を適用し、前記独立成分分析の適用により結果生じる独立成分から、決定される運動を示す運動成分を運動信号と決定するように構成される請求項1に記載の運動決定装置。
【請求項14】
移動する物体の運動を決定するため運動決定方法であり、
−前記移動する物体に位置決められる多軸加速度計により、別々の空間軸に沿う加速度を示す加速度計信号を発生させるステップ、及び
−前記別々の空間軸の加速度計信号を結合することにより、前記物体の運動を示す運動信号を運動信号発生ユニットにより発生させるステップ
を有する運動決定方法。
【請求項15】
移動する物体の運動を決定するためのコンピュータプログラムであり、請求項1の記載の運動決定装置に、前記コンピュータプログラムが前記運動決定装置を制御するコンピュータ上で実行されるとき、請求項14に記載の運動決定方法の前記ステップを実行させるためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−528657(P2012−528657A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513725(P2012−513725)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052466
【国際公開番号】WO2010/140130
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】