説明

運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置

【課題】 鉄道の運転士の異常時対応能力の向上の訓練が効率的に実施でき、運転操作と緊張状態に関する定量的評価が可能となる、運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置を提供する。
【解決手段】 運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置において、運転士のシミュレータ装置による運転情報及びその関連情報及び運転士の心理的緊張度を示す心拍数の変化を制御装置で把握し、表示装置で表示することにより、異常時対応能力向上用プレイバックを行うとともに、運転操作と緊張状態に関する定量的評価とその処方箋の提示を行う処方箋の提示装置とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の訓練用運転シミュレータとして、既に本特許出願人の提案にかかる下記特許文献1が開示されている。
この訓練用運転シミュレータでは、運転操作状況(ノッチ、ブレーキ等の列車の操作状態)情報と地上側の状況(ATS照査速度等の地上側設備の状態)情報と車上側の状況(ATS動作、運転速度等の車両の状況)情報を系統的に同時に記録して、模擬運転後のふりかえり時に提示して鉄道の運転士の異常時対応能力向上用シミュレータ訓練を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−237399号公報
【特許文献2】特開平7−124131号公報
【特許文献3】特開2009−277234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の訓練用運転シミュレータでは、運転操作記録と運転士の映像は別々に記録されており、運転記録に対応した運転士の映像は容易に探せなかった。また、訓練中の運転士の心理状態を定量的に表す指標は導入されていなかった。さらに、運転操作全般および異常時の対応状況についての評価コメントを出力する処方箋の提示機能はなかった。
【0005】
本発明は、上記状況に鑑みて、鉄道の運転士の異常時対応能力の向上の訓練が効率的に実施でき、運転操作と緊張状態に関する定量的評価が可能となる、運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置において、運転士のシミュレータ装置による運転情報及びその関連情報及び運転士の心理的緊張度を示す心拍数の変化を制御装置で把握し、表示装置で表示することにより、異常時対応能力向上用プレイバックを行うとともに、運転操作と緊張状態に関する定量的評価とその処方箋の提示を行う処方箋の提示装置とを具備することを特徴とする。
【0007】
〔2〕上記〔1〕記載の運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置において、運転シミュレータ装置の模擬視界映像、運転士の様子を示す上方からの映像、運転士の様子を示す正面からの正面映像を前記表示装置に表示し、前記運転シミュレータ装置のシナリオ状態、運転士の操作、運転士の心拍数からなる情報を時系列に記録し、後からそれらの情報を同期してプレイバックすることができることを特徴とする。
【0008】
〔3〕上記〔1〕記載の運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置において、運転士の安全態度診断を行う安全態度診断ユニットを備え、運転士の安全態度診断情報を前記制御装置に入力することを特徴とする。
〔4〕上記〔3〕記載の運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置において、前記安全態度診断ユニットによる安全態度診断の結果を出力し、前記処方箋の提示装置により、エラーシナリオに対する対応状況の結果を出力できるように構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、運転操作記録と運転士の映像に共通のインデックスを付け、2つの情報を同期させてプレイバックすることを可能にした。
また、従来に比較して鉄道の運転士の異常時対応能力の向上の訓練を効率的に実施でき、運転操作と緊張状態に関する定量的評価を可能にした。
さらに、運転操作全般および異常時の対応状況についての評価コメントを出力する処方箋の提示を可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例を示す運転シミュレータによる運転士の異常時対応能力向上用プレイバックシステムの全体構成模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す運転シミュレータによる運転士の異常時対応能力向上用プレイバックシステムの表示部の概略図である。
【図3】本発明の実施例を示す運転シミュレータによる運転士の異常時対応能力向上用プレイバックシステムの表示部の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施例を示す運転シミュレータによる運転士の異常時対応能力向上用プレイバックシステムにおける運転士の映像例を示す図である。
【図5】本発明の実施例を示す運転士の異常時対応能力向上用プレイバックシステムにおける安全態度診断例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置は、運転士のシミュレータ装置による運転情報及びその関連情報及び運転士の心理的緊張度を示す心拍数の変化を制御装置で把握し、表示装置で表示することにより、異常時対応能力向上用プレイバックを行うとともに、運転操作と緊張状態に関する定量的評価とその処方箋の提示を行う処方箋の提示装置とを具備する。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す運転シミュレータによる運転士の異常時対応能力向上用プレイバックシステムの全体構成模式図、図2はそのプレイバックシステムの表示部の概略図、図3はそのプレイバックシステムの表示部の一例を示す図である。
図1において、1は運転シミュレータ装置、2は訓練を受ける運転士、3は運転シミュレータ装置1から出力される運転情報またはその関連情報を出力する配線、4は心拍数計測センサ、5は心拍数計測センサ4のプローブ(耳たぶにて脈波を測定)、6は心拍数計測センサ4からの心拍数を出力する配線、7は後述する安全態度診断ユニットからの安全態度診断情報を出力する配線、21は制御装置、31は表示装置、41は安全態度診断ユニット、51は処方箋の提示装置である。
【0013】
図2において、11は運転シミュレータ装置1の入力部、12は運転士の心拍センサ、13は運転士による運転操作入力装置、14は車上側の状態情報入力装置、15は地上側の状態情報入力装置である。また、21は制御装置であり、この制御装置は入力インタフェース22,23、制御部24、記憶装置25、出力インタフェース26からなる。31は制御装置21に接続される表示装置、41は安全態度診断ユニット、51は処方箋の提示装置である。
【0014】
図3に示すように、表示装置31の上段には模擬視界映像32、運転士上方映像33、運転士正面映像34が表示される。その下方には順次、心拍数センサ6から出力される心拍35が、運転士回りの無線通話、インターホン通話、防護発報ボタン、ブザーからの信号36等が表示され、また、笛弁操作、ドア開状態、逆転ハンドル:前進・後退状態、ノッチ:0〜4状態、ブレーキハンドル:非常・0〜8状態の信号37、信号現示:停止・警戒・注意・減速・進行・消灯状態表示、ATS動作情報,非常・常用情報38、列車速度、ATS照査速度、制限速度情報39が表示される。また、これらの表示値はスライダー40によって見易くすることができるようになっている。
【0015】
図4は本発明の実施例を示す運転シミュレータによる運転士の異常時対応能力向上用プレイバックシステムにおける運転士の映像例を示す図である。
図4には模擬視界映像32、運転士上方映像33および運転士正面映像34がそれぞれ表示されており、模擬視界映像の変化とともに、運転士の運転状況が写し出される。
図5は本発明の実施例を示す運転士の異常時対応能力向上用プレイバックシステムにおける安全態度診断例の説明図である。
【0016】
ここでは、安全態度診断ユニットによる運転士の事故防止のための運転士の安全態度診断データが提供される。
ここで、安全態度診断ユニット(例えば、鉄道総合研究所方式)41とは、職種を「運転士」のみとした安全態度診断であり、運転シミュレータ装置とは独立したユニットとし、出力結果を後述する処方箋ユニット51で参照して使用する。つまり、独立したユニットであるが、出力結果は、処方箋ユニット51だけが参照可能とする。
【0017】
アンケート用紙に記載された各項目(例えば、1.なんとなくゆううつになることがある。2.健康には自信がある。…)について回答を行う。その結果を、 診断項目としては、例えば、図5に示すように、(1)気分の安定性:不安定から安定までの評価を、(2)健康への不安感:不安感があるから不安感がないまでの評価を、(3)柔軟性:柔軟性に欠けるから柔軟性があるまでの評価を、(4)自己制御:コントロールできないからコントロールできるまでの評価を、(5)活動性:非活動的から活動的までの評価を、(6)慎重さ:軽率から慎重までの評価を、(7)協調性:協調性に欠けるから協調的までの評価を、(8)外向性・内向性:内向的から外向的までの評価を、(9)自己認知:自己認知に欠けるから自己認知があるまでの評価を、(10)安全態度:安全態度に欠けるから安全態度があるまでの評価を、それぞれ行い表示する。
【0018】
表1,表2は本発明の実施例を示す処方箋の項目の一覧表である。
【0019】
【表1】

この表1に示すように、処方箋の項目としては、101:運転時間、102:運転時間誤差、103:力行時間、104:ブレーキ時間、105:ATS動作時間、106:惰行時間、107:駅進入速度、108:駅進入ブレーキ開始位置、201:平均心拍数、202:最大心拍数などが提示される。
【0020】
【表2】

異常時訓練シナリオ(閉そく消灯)の場合
301:閉そく消灯シナリオの説明、302:列車無線電話時の運転、303:消灯信号機手前停止、304:無閉そく運転開始、305:無閉そく運転速度、306:短急気笛合図、307:起立運転、308:先行列車手前停止、309:先行列車への気笛合図、310:先行列車との間隔、401:異常時対応中の緊張度、402:異常時対応後の緊張度についてそれぞれ処方箋を提示する。
【0021】
本発明によれば、上記した運転シミュレータによる運転士の異常時対応能力向上用プレイバックシステムにより、図4に示すように、運転シミュレータ装置の模擬視界映像32、運転士の様子を示す上方からの映像33、運転士の様子を示す正面からの正面映像34を表示装置31に表示することができる。
また、運転シミュレータ装置のシナリオ状態、運転士の操作、運転士の心拍数からなる情報を時系列に記録し、後からそれらの情報を同期して見ることができる。
【0022】
また、安全態度診断ユニット41による安全態度診断の結果を出力し、処方箋の提示装置51により、エラーシナリオに対する対応状況の結果を出力できるようにしている。
この出力結果に基づきプレイバックシステムでエラー発生状況を客観的に振り返ることや、自分では気付いていないようなエラー誘発要因に対する認識を深めてもらい、運転シミュレータ装置による訓練効果を高めることができる。
【0023】
上記システムによる出力は以下の情報を処方箋の提示装置により紙にプリントアウトすることができる。
(1)運転操作記録から得られる一般的情報
(2)訓練シナリオに関する説明と対応状況
(3)安全態度診断ユニット(例えば、鉄道総合研究所方式)によるコメント
システムは、パソコン、汎用スキャナから構成され、回答データは、汎用スキャナと汎用OMRソフトにより回答用紙から読み取る。
【0024】
安全態度診断ユニット41とインターフェイスは、例えばLAN経由テキストファイル渡しである。
次に、心拍数計測ユニットについて説明する。
耳たぶで脈波を計測するユニットであり、計測結果は、一分当たり心拍数に換算し、1拍毎にデジタルデータとして出力する。また、脈波のアナログ電圧も出力する。計測結果は、プレイバックシステム及び処方箋ユニットで使用する。
【0025】
ユニットは、脈波センサ、送信機、受信機/解析部から構成され、送信機受信機間は300MHz帯の微弱電波による無線通信を用いる。受信機/解析部は脈拍数を表示するLEDを装備する。外部とのインターフェイスは、脈波アナログ電圧と心拍数RS232Cを用いる。例えば、上記した特許文献2又は3に示されるような心拍数計測ユニットを用いることができる。
【0026】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置は、鉄道の運転士の異常時対応能力の向上の訓練が効率的に実施でき、運転操作と緊張状態に関する定量的評価が可能となる、装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 運転シミュレータ装置
2 訓練を受ける運転士
3,6,7 配線
4 心拍数センサ
5 心拍数センサのプローブ
11 運転シミュレータ装置の入力部
12 運転士の心拍数の入力部
13 運転士による運転操作入力装置
14 車上側の状態情報入力装置
15 地上側の状態情報入力装置
21 制御装置
22,23 入力インタフェース
24 制御部
25 記憶装置
26 出力インタフェース
31 表示装置
32 模擬視界映像
33 運転士上方映像
34 運転士正面映像
35 心拍数
36 運転士回りの無線通話、インターホン通話、防護発報ボタン、ブザーからの信号
37 笛弁操作、ドア開状態、逆転ハンドル:前進・後退状態、ノッチ:0〜4状態、ブレーキハンドル:非常・0〜8状態の信号
38 信号現示:停止・警戒・注意・減速・進行・消灯状態表示,ATS動作情報:非常・常用情報
39 列車速度、ATS照査速度、制限速度情報
40 スライダー
41 安全態度診断ユニット
51 処方箋の提示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転士のシミュレータ装置による運転情報及びその関連情報及び運転士の心理的緊張度を示す心拍数の変化を制御装置で把握し、表示装置で表示することにより、異常時対応能力向上用プレイバックを行うとともに、運転操作と緊張状態に関する定量的評価とその処方箋の提示を行う処方箋の提示装置とを具備することを特徴とする運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置。
【請求項2】
請求項1記載の運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置において、運転シミュレータ装置の模擬視界映像、運転士の様子を示す上方からの映像、運転士の様子を示す正面からの正面映像を前記表示装置に表示し、前記運転シミュレータ装置のシナリオ状態、運転士の操作、運転士の心拍数からなる情報を時系列に記録し、後からそれらの情報を同期してプレイバックすることができることを特徴とする運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置。
【請求項3】
請求項1記載の運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置において、運転士の安全態度診断を行う安全態度診断ユニットを備え、運転士の安全態度診断情報を前記制御装置に入力することを特徴とする運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置。
【請求項4】
請求項3記載の運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置において、前記安全態度診断ユニットによる安全態度診断の結果を出力し、前記処方箋の提示装置により、エラーシナリオに対する対応状況の結果を出力できるように構成することを特徴とする運転士の異常時対応能力向上用プレイバック及びその処方箋の提示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−212027(P2012−212027A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77658(P2011−77658)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000176730)三菱プレシジョン株式会社 (97)