説明

過分極不活性ガス製造用コーティング

【課題】ポリマーコーティングされた表面により、過分極不活性ガス、特に好ましくは129Xeの表面誘導核スピン緩和及び表面による捕捉を阻害する方法を提供する。
【解決手段】不活性ガスと接触する装置の表面上のポリマーコーティングと不活性ガスとの相互作用の量を阻害することを含む。好ましくは、この方法は、非ゼロ核スピン及び/又は減少したポリマー透過性を有する置換基でポリマー中のプロトンの少なくとも幾つかを置換することにより不活性ガス核スピン緩和を阻害することを含む。不活性ガス捕捉及び核スピン緩和を阻害するポリマーでコーティングされた表面を有する容器をも提供する。更に、本発明は、不活性ガス含有装置のポリマーコーティングにおける不活性ガスの核スピン緩和を減少させかつ捕捉を制限することによる、過分極不活性ガスの製造及び貯蔵を強化する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイエンティフィックリサーチ(Scientific Research)のエアフォースオフィス(Air force Office)により与えられた助成番号F 49620−92−J −0211及びアーミーリサーチオフィス(Army Research Office)により与えられた助成番号DAAH04−94−G−0204の下、政府の援助によりなされた。政府は本発明の一定の権利を有する。
本発明は、過分極不活性ガスの核スピン緩和を阻害する方法に関する。より詳細には、本発明は、過分極129Xeと表面上のポリマーコーティングとの脱分極相互作用を阻害する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピン交換光ポンピング(spin-exchange optical pumping)(参考文献1及び2)により分極した不活性ガス、特に3He及び129Xeの応用の数及び種類は、過去数年間急激に成長してきている。ごく最近、シグナルが熱的に分極した129Xeよりも約5のオーダー大きい、レーザーにより分極した129Xeの増加したNMRシグナルが、ガスによる第一の高速生物学的磁気共鳴映像法(MRI)を可能にし(参考文献3)、研究の新しい道を開いた。歴史的に、分極129Xeは、基本対称性(fundamental symmetry)の研究(参考文献4)、固体の核スピン緩和(参考文献5)、高分解能核磁気共鳴分析法(NMR)(参考文献6)及びその他の核との交差分極(参考文献5、7及び8)に使用されてきている。分極3Heは重要な核の標的であり(参考文献9〜12)、気相MRIに対する優秀な核であることも示されている(参考文献13)。
【0003】
これら全ての応用は、不活性ガスの核の高い非平衡分極が長期持続(long-live)すること、すなわち分極の熱平衡レベルへの減衰が遅いものでなければならないことを要求する。しかしながら、分極不活性ガス核と表面との相互作用は急速な緩和を引き起こし、しばしば望ましくない程短い緩和時間T1を生ずる。これらの機構を理解すること及び緩和を阻害する方法を考案することは、分極不活性ガスを使用した多種の実験における累積的進歩にとって極めて重要である。
【0004】
Bouchiat及びBrossel は、ガラス製共鳴セル(glass resonance cell)の壁のパラフィンコーティング上の過分極ルビジウムの緩和を同定した(参考文献14)。この緩和は、コーティング中におけるルビジウム原子の電子スピンとプロトンの核スピンとの間の双極子−双極子相互作用等の脱分極相互作用を導く、コーティングへのルビジウムの吸着に起因する。この論文は、(CH2nパラフィンを(CD2nパラフィンで置き換えること、すなわちパラフィンを重水素化したとき、そのような相互作用が減少することを報告している。しかしながら、Bouchiat及びBrossel は、この効果及びその他の要素とパラフィンとの潜在的な相互作用に関する推論をしていない。この論文は、その他の重合材料がルビジウムを脱分極するかどうかについても示していない。
Zengらは、シリコーンコーティング剤の使用を導入することによる、129Xeの表面緩和の減少における実質的な進歩を成し遂げた(参考文献15)。T1〜20分間のオーダーの緩和時間は、前記のコーティングの使用により現在ごく普通に達成される。それにもかかわらず、これらの緩和時間は、標準的な温度及び圧力下におけるガス状129Xeについて究極的に可能な緩和時間と比較して約2のオーダー短い。核スピンの持続時間を改善することが連続的にできないのは、コーティング組成物中の常磁性不純物に起因すると考えられてきた。しかしながら、そのような不純物を除去することによる緩和を減少させるための努力はわずかな成功を収めているにすぎない。したがって、129Xe表面の相互作用のさらなる理解が必要であることは明らかである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
結果として、過分極系における不活性ガスと表面との脱分極相互作用を減少させることによる、不活性ガスの過分極方法の収量改善に対する必要性が存在する。
又、不活性ガスとその物理学的環境との間の相殺的な脱分極相互作用の減少させることによる、不活性ガス中の全過分極量の増加に対する必要性が存在する。
更に、不活性ガスとガスを収容する貯蔵容器との間の脱分極相互作用を減少させることによる、過分極不活性ガスの貯蔵期間の改善に対する必要性が存在する。
更に、不活性ガスと映像化のための過分極ガスの送達のために使用する物理学的系との物理学的相互作用量を減少させることによる、過分極不活性ガス核の使用を要求する磁気共鳴映像法の効率を改善する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、過分極不活性ガス核と前記核を吸着し捕捉する表面との間の脱分極相互作用を減少させる方法を提供することによる、先行技術の欠点に向けられる。
本発明は、不活性ガスと接触する表面による、不活性ガス核、好ましくは129Xeの吸着及び捕捉による脱分極作用を低下させる方法を提供する。好ましい態様においては、本発明は、表面を、核スピン緩和を阻害する修飾ポリマーでコーティングすることを含む。好ましくは、修飾ポリマーは、重水素化により少なくとも幾つかのプロトンがジューテロン(deuteron)で置換されるように修飾されたポリマーである。代わりに又は重水素化と組合わせて、ポリマーを、その透過性を減少させるために修飾してもよい。ポリマーの架橋及びポリマーのハロゲン化、好ましくはフッ化を含む方法は、ポリマーの透過性を低下させることが知られている。
したがって、1つの態様においては、本発明は、過分極不活性ガスの核スピン緩和を阻害する方法であって、過分極不活性ガスと表面との脱分極相互作用を阻害することを含む方法を提供する。この態様において、この方法は、不活性ガスとの脱分極相互作用について減少した能力を有するポリマーを用いて表面をコーティングすることを含む。好ましくは、コーティングは、不活性ガスの捕捉及び吸着の減少を示すか、又はポリマー核と不活性ガスとの間の双極子−双極子相互作用を制限する。
【0007】
本発明に従う有用なポリマーコーティングは、好ましくは、修飾シリコン含有ポリマー又は修飾炭化水素ポリマーを含む。修飾ポリマーは、好ましくは、重水素化されるか、不活性ガスに対する透過性を減少させるように修飾されるか、又は両方の手段が組み合せにより修飾される。
好ましい修飾シリコン含有ポリマーは、重水素化ポリシロキサン、重水素化シランポリマー及びこれらの組み合わせを含む。特に好ましい修飾ポリマーは、重水素化ジクロロ(ジメチルシロキサン)である。その他の好ましいシロキサンは、減少した透過性を有する架橋シロキサンを含む。そのようなポリマーも重水素化し、脱分極能の更なる減少を提供してもよい。
本発明に従う有用な修飾炭化水素ポリマーは、重水素化炭化水素ポリマー及び不活性ガスに対する修飾された透過性を有する炭化水素ポリマーを含む。修飾炭化水素ポリマーは、表面のコーティングとして使用されるならば、修飾パラフィン、ポリオレフィンの修飾ホモポリマー又はコポリマー及びこれらの組み合わせから選ばれる。本発明に従う有用な炭化水素ポリマーは架橋されていてもよい。
【0008】
別の態様においては、本発明は、不活性ガスを過分極する方法を提供する。前記方法は、不活性ガスの過分極に適した容器中で不活性ガスを過分極することを含み、前記容器は不活性ガスとの減少した脱分極相互作用を示すよう修飾されている表面を有する。好ましくは、表面は、例えば前記した及び本明細書のその他の場所に記載した修飾ポリマーによりコーティングされている。
更に別の態様においては、本発明は、容器表面の不活性ガスを脱分極する能力を減少させる方法を提供する。前記方法は、不活性ガスを受け入れるのに適した容器の表面を、不活性ガスを脱分極する能力が実質的に減少したポリマーでコーティングすることを含む。好ましくは、容器の表面は、例えば前記した及び本明細書のその他の場所に記載したポリマーによりコーティングされている。
【0009】
更に、本発明は、本発明の方法に従い修飾された表面を有する、不活性ガス用容器を提供する。好ましい容器は、過分極の間又はその後に、不活性ガスと接触する又は不活性ガスを受け入れるのに適したあらゆる容器を含む。そのような容器は、過分極セル、貯蔵器、導管(conduit)等を含む。典型的には、そのような容器は、実質的に不透過性の材料、好ましくはガラスからなる。
又、本発明は、不活性ガスを過分極する方法を提供し、前記方法は、本発明の方法に従い修飾したセル中で不活性ガスを過分極することを含む。更に、本発明は、過分極不活性ガスを貯蔵する方法を提供し、前記方法は、本発明の方法に従い修飾された貯蔵器中で過分極不活性ガスを貯蔵することを含む。
【0010】
したがって、本発明の結果として、不活性ガスを過分極する能力及び過分極を維持する能力を制限してきた過去の物理学的因子が劇的に減少した。その結果、過分極不活性ガスを要求する核磁気共鳴分析法及び磁気共鳴分析法の応用は、著しく改善された効率をもって実行される。実際、過去において実施が制限されていたある応用が実質的に改善されている。
前記又はその他の本発明の利点は、本明細書に記載する詳細な説明及び実施例より正しく認識される。詳細な説明は、本発明の理解を増強するものであるが、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。
本発明の好ましい態様を、実証及び説明目的のために選択したが、どんなことがあっても、これらは本発明の範囲を制限することを意図するものではない。本発明のある観点における好ましい態様は、図面と共に示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
前記したように、Zeng等は、シリコーンコーティングの使用の導入による129Xe表面緩和の減少における実質的な進歩を達成した(参考文献15)。T1〜20分のオーダーの緩和時間は、現在ごく普通に達成することができるが、この値は、1アマガー(273K及び1気圧における理想気体の密度。1アマガー=2.689×1019原子/cm3)のガス状129Xeについて究極的に可能な値よりも約2のオーダー短い。詳細には、129Xe−Xe衝突の間の、129Xeの核スピンIと分子角運動量Nとの間のスピン−回転相互作用ΥN・Iが、気相緩和時間をT1=52/ρ時間アマガーに制限している(参考文献16及び17)。前記の限界に近い分極維持時間を達成するために、129Xeと表面との間の相互作用についての一層の理解が必要となる。
【0012】
本発明者等は、例えばシロキサン等のポリマーでコーティングしたセル中における129Xe緩和は、主に、慣習的に考えられてきたキセノンと常磁性不純物との相互作用の作用ではないことを決定した。例えば鉄及び酸素混入物等の常磁性因子は、129Xe核スピン緩和における一般的に高い効率を有することが周知である。そのような因子が、表面による129Xe緩和を支配すると考えられてきた。代わりに、驚くべきことに、キセノンとポリマー表面との間の相互作用が、従来のガス−表面相互作用よりも数オーダー長い維持時間を有することができることを見出した。実際、129Xeは、ピコ秒(10-12秒)よりもむしろマイクロ秒(10-6秒)のオーダーの平均期間、表面に捕捉されることが理解される。この珍しい現象の結果として、129Xeの緩和は、主に、129Xeがコーティング内に捕捉されている間の、コーティングのプロトンとの双極子相互作用によることが見出されている。
【0013】
129Xeは、コーティングのプロトンとの予期せぬ双極子接触を通じて緩和することが示されているので、そのような接触を制限する幾つかの方法は緩和を減少させることが推測された。接触を制限する1つの方法は、脱分極を導く接触の型の程度を制限することを含む。この方法は、脱分極を引き起こすコーティング中の成分、すなわちプロトンの除去を要求する。不活性ガス核の脱分極に関与するプロトンの主な特性は、その有意な磁気モーメントである。したがって、コーティングのプロトンの除去及び小さい磁気モーメントを有する成分での置換は、コーティングの脱分極作用を減少させるだろう。プロトンに対する好ましい置換物は、プロトンの磁気モーメントより6.5倍小さい磁気モーメントを有するジューテロンである。
【0014】
ルビジウムの電子スピン緩和を減少するための重水素化表面コーティングの使用は、パラフィンにおけるアルカリ金属緩和について、Bouchiatらにより立証されている(参考文献14)。Bouchiatにより観察された相互作用は、10-10のオーダーの定数であり、これは本発明者らがキセノンについて観察した捕捉現象の期間よりも著しく短い。すなわち、Bouchiatからの推定は、自明ではない。実際、表面上の不活性ガスの緩和に対するBouchiatの結論の適用は、100年のオーダーでの維持時間(T1)を暗示する。しかしながら、測定された維持時間は、6のオーダー小さい値までであり、この知見は、常磁性因子が緩和を支配するという推論を支持する。したがって、そのような系におけるジューテロンによるプロトンの置換は、実質的に無用な行動であることが推定される。
【0015】
シリコーン及びシランポリマーは、主にその使用の容易さから、不活性ガスの分極の分野における優れた用途を達成した。そのような化合物の典型例は、Pierce Scientific,Inc.より商標名SurfaSilTMで販売されているジクロロ(ジメチルシロキサン)である。重水素化シリコーン及びシランを、本発明の方法に従い使用して、不活性ガスの核スピン緩和を減少させてもよい。重水素化シロキサンは、好ましくは、[(−SiR12O−)n](C1)2(式中、nは2より大きく、好ましくは2〜1000である)で示される構造を有する。したがって、シロキサンは、置換基R1及びR2(それぞれ独立して重水素又は部分的若しくは完全に重水素化されたヒドロカルビル(hydrocarbyl)基、典型的には部分的又は完全に重水素化された炭素数1〜4のアルキル基である)を有するシロキサン単位のポリマーを含む。又、例えばポリシロキサン等の架橋シリコンポリマーも知られている。そのような修飾は、ポリマーの重水素化と離れて又は共に達成することができる。例えばガラス等の表面にコーティングしやすいように、好ましいシロキサン及びシランは末端に塩素基を含む。
【0016】
例えば重水素化シロキサン及び重水素化シラン等の重水素化シリコン化合物を、既知の方法に従い製造し、過分極不活性ガスとの改善された適合性を有するコーティングポリマーを提供してもよい。典型的には、重水素化シリコンポリマーの製造は、重合前の重水素化を要求する。例えば、SiOR12サブユニット中の低級アルキル基(R)等の炭化水素部分は、ポリシロキサンへの重合化の前に重水素化される。置換シリコン化合物の製造方法は、例えば米国特許第3,642,851号及び第3,646,090号明細書に記載されており、これらの開示は参照することにより本明細書に組み込まれる。そのようなポリマーを架橋する方法も既知である。
【0017】
又、例えばパラフィン((CH2n)及びポリオレフィン等の炭化水素ポリマーを使用しても、表面上の過分極不活性ガスの核スピン緩和が減少した。したがって、重水素化炭化水素ポリマーを、本発明に従い用いて、不活性ガス核の更に長い維持時間を達成してもよい。ポリマーを重水素化する方法は当該技術分野において既知である。炭化水素ポリマーの重水素化については、例えば、米国特許第3,657,363号、第3,966,781号、3,989,705号及び4,914,160号明細書に記載されており、これらの開示は参照することにより本明細書に組み込まれる。そのような方法は、典型的に、触媒によるプロトンのジューテロン置換を要求する。
【0018】
好ましい重水素化炭化水素ポリマー及びコポリマーには、重水素化パラフィン、重水素化ポリオレフィン等が含まれる。そのようなポリマーも、既知の方法により架橋してよい。
本発明に従う、スピン緩和を減少させる別のアプローチは、コーティングのキセノンに対する透過性を減少させることによる、コーティングの性能の改善を含む。透過性の減少は、キセノン捕捉時間の減少を導き、結果として、核スピンの維持時間の増加を導くだろう。減少したガス透過性を有するポリマーの製造方法は、当該技術分野において既知である。例えば、ポリマーのハロゲン化、好ましくはフッ化は、キセノン及びその他の不活性ガスに対するポリマーの透過性を減少させることができる。シリコンポリマーをフッ化する方法は、例えば、LeRouxらの論文に記載されており、ここではフッ化ポリ(ビニルトリメチルシラン)ポリマーのガス透過特性について記載している(参考文献18)。Mohrらは、フッ化ポリ(4−メチル−1−ペンテン)ポリマーのガス分離特性について研究している(参考文献19)。これらの文献の開示は、参照することにより本明細書に組み込まれる。その他のシリコンポリマー及び炭化水素ポリマーを、同様の方法により修飾してもよい。更に、その他の置換基でプロトンを置換し、例えばカルボキシル化及びスルホン化して、ポリマーの透過性を同様に減少させてもよい(参考文献19)。
【0019】
本発明の方法に従う不活性ガスの過分極は、最も好ましくは129Xeを使用して行われる。しかしながら、本発明の方法は、その他の不活性ガス、すなわち核スピンを有する同位元素について行ってもよい。3He、129Xe及びその他の不活性ガスは、その異なる物理学的特性及び磁気共鳴特性のため、異なる応用において好ましいだろう。本発明の方法に従い有用な不活性ガス核のリストを以下の表1に示す。このリストは説明を意図するものであり限定するものではない。
【表1】

【0020】
表1に列挙した不活性ガスの同位元素のそれぞれを、単独又は組合わせて過分極する間の、平衡(ボルツマン)状態におけるガスの過分極の程度は、典型的には低すぎるので、高速の映像取得を用いる核磁気共鳴分析法等には使用できないことが知られている。例えばT1及びT2緩和時間等の、シグナルの減衰及び核の局所環境を支配する種々のパラメーターも、高速の映像を効率的に得ることができるかどうかを決定するだろう。これらの制限は、インビトロ及びインビボにおける生物学系からの映像の取得において非常に重要になる。なぜなら、映像化するのに望まれる現象の時間経過が、1秒未満のデータ取得期間を要求するからである。それゆえ、NMRシグナルの増強は非常に望ましい。したがって、不活性ガスは、通常のボルツマン分極に比例して過分極化されていることが好ましい。
そのような過分極化は、好ましくは、NMR分光計によるデータ取得より前に誘導され、当該技術分野において既知の技術により誘導してもよい。
【0021】
不活性ガスの磁気共鳴シグナルの更なる増強を、不活性ガス中の検出しうる同位元素の割合を、前記不活性ガス中の映像化しうる同位元素の天然の存在量をこえるレベルに増加させることにより、過分極化と独立して又は共に得てもよい。
天然界における同位元素の存在量が約26%である129Xeの場合、たとえ100%129Xeに濃縮したガス中であっても、わずか4倍(a factor of four)の増強に達する。例えば不活性ガスの過分極能(hyperpolarizability)等のその他の考慮すべき事項は、シグナルの増強において通常大きな役割を果たすが、同位元素濃縮は、本発明の究極の効率に著しく貢献することができる。天然界における存在量が10-6のオーダーである3Heの場合、このことは特に真実である。3Heの過分極能及びその非常に大きな磁気共鳴シグナルは、この同位元素の天然界における存在量の低さによりかなり相殺される。しかしながら、その天然界における低い含量にもかかわらず、3Heは、専ら3Heに減衰するトリチウム(3H)の産業的使用の結果として、非常に純粋な形態で容易に入手することができる。3Heの人工的な供給源の容易な利用可能性は、その天然界における低い含量及び高価な濃縮工程に関する懸念を除去する。
【0022】
前記の増強が与えられたにもかかわらず、本発明は、不活性ガス核の過分極に依存するNMR技術の更なる増強を提供する。本発明によって可能になる緩和時間の拡張は、これまで全く不可能であった。
当該技術分野において既知の種々の方法により、本発明に従い、不活性ガスを過分極化してもよい。本発明の効果は、過分極を達成する方法とは独立していると信じられているので、あらゆる不活性ガス過分極化法を使用してもよい。そのような方法には、例えば、適宜ポンピングしたアルカリ金属蒸気を用いたスピン−交換(spin-exchange)相互作用が含まれる(参考文献1、20〜22)。工学的ポンピング及びスピン−交換は、約1G又はそれより大きい適度な適用された磁場(modest applied magnetic field)を使用することにより行うことができる。数テスラの場(field)のNMR磁石ボア(magnet bore)におけるポンピングも可能である。129Xe核分極について達成しうる最大の定常状態は、アルカリ金属とのスピン交換を特徴とする時間の定数及び、例えばポンピングセル(pumping cell)の表面との接触による緩和(T1)を特徴とする時間の定数に依存する。例えば、T1ほぼ20分について、20〜40%の分極はかなり実用的であり(参考文献23)、90%以上の分極も達成されるだろう。たとえXeアイス(ice)として貯蔵されていたとしても(参考文献23)、ガスの長いT1により、操作し、深刻な磁化の喪失なく、時間から日の時間スケールで移動することができる。たとえそうな状況であっても、本発明は、これらの分極の更なる改善を可能にする。
【0023】
適宜ポンピングしたアルカリ金属蒸気を用いたスピン交換を通じた不活性ガスの過分極化技術は、アルカリ金属の第一主要(first principal)(D1)共鳴の波長(例えばRbでは795nm)における円偏光を用いたアルカリ金属蒸気の照射と共に開始する。したがって、21/2基底状態の原子を21/2状態に励起し、引き続いて基底状態に減衰させる。もし、入射D1光の光軸に沿った適当な磁場(10ガウス)内で行われるならば、基底状態と第一励起状態との間のこの原子サイクルは、数マイクロ秒において原子のほぼ100%の分極を導く。
この分極化は、全てのアルカリ金属の孤立した原子価の電子特性(lonevalence electron characteristic)により大部分が行われ、このことは、これらの全ての電子は、ポンピング光のヘリシティ(右巻き又は左巻きの円偏(circularpolarization)状態)に依存した磁場に対してアライン(align)又はアンチアライン(anti-align)したスピンを有することを本質的に意味している。非ゼロの核スピン(non-zero nuclear spin)を有する不活性ガスも存在する場合には、アルカリ金属原子は、不活性ガス原子との衝突を受け、相互のスピンフリップ(mutual spin flip)を通じて価電子分極が不活性ガス核へ転移する。このスピン交換は、電子と不活性ガス核との間のフェルミ-接触超微細(Fermi-contact hyperfine)相互作用により生ずる。ポンピング光を用いたほぼ100%のアルカリ金属分極の維持により、この交換プロセスを通じた大きな非平衡分極(5%〜80%)を容易に達成することができる。例えば、現在入手可能なチタン:サファイアレーザーは理論上、高度に分極した129Xeの1g/時間(200cc−atm/時間)を提供することができる。
【0024】
適宜ポンピングした系においてスピン交換のパートナーとして作用することができるアルカリ金属には、あらゆるアルカリ金属が含まれる。この過分極化技術に対して好ましいアルカリ金属には、ナトリウム−23、カリウム−39、ルビジウム−85、ルビジウム−87及びセシウム−133が含まれる。本発明に有用なアルカリ金属の同位元素並びにその相対的な存在量及び核スピンを、以下の表2に列挙する。このリストは、説明を意図するものであって限定するものではない。
【表2】

【0025】
代わりに、準安定性(metastability)交換を使用して不活性ガスを過分極してもよい(参考文献24〜25)。準安定性交換技術には、アルカリ金属の仲介の必要がない、例えば3Heの直接の光学的ポンピングを含む。準安定性交換技術は一般的に、弱高周波放電による基底状態の3He原子(110)の準安定状態(231)への励起を含む。3Heの場合、次いで、1.08μmの波長を有する円偏光を用いて231原子を光学的にポンピングする。光は、23P状態までの移行を推進(drive)し、23Pの原子が減衰する準安定状態中における高い分極を生成する。231状態の分極は、準安定性と基底状態の原子との間の準安定性交換衝突を通じて基底状態に急速に移行する。準安定性交換光学的ポンピングは、スピン交換ポンピングが作用する低い磁場と同一の磁場において作用するだろう。一般的に低圧、例えば約0〜10トルで、同様の分極が達成できる。
【0026】
本発明の方法により可能になる緩和時間の増加の大きさは、不活性ガスの過分極方法の効率の実質的な増加並びに過分極不活性ガスの使用に依存する方法の効率及び実用性の増加を可能にする。過分極不活性ガス技術における改善についての実用的な関連性に加えて、本発明は、129Xe緩和の研究が、ポリマー表面又は生物学的系の膜のプローブを提供することができることを証明した。種々の環境における129Xe緩和の研究は、レーザー−過分極不活性ガスを用いたNMRを基本とした手順の更なる発展に対して特に興味深いものになるだろう。本発明により可能になる延長された分極維持時間を利用することができる特に重要な手順は、インビトロ及びインビボの生物学的系における医用核磁気共鳴分析法であり、これは米国特許出願第08/225,243号(出願日:1994年4月8日)に記載されており、この全開示内容は参照することにより本明細書に組み込まれる。
以下に示す実施例は、本発明の更なる理解を援助することを意図している。使用された特定の材料及び条件は、本発明を更に説明することを意図しており、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0027】
実験では、Zengらの文献(参考文献15)に記載された方法に従い、SurfaSilTMブランドのコーティングで処理した1cm3球状のパイレックス(登録商標)セル(Pierce Scientific Inc.、Rockland、IL)数個を使用した。セルをガラス製マニフォールドに取り付け、真空系(基本の系の圧力P=1×10-8トル)に接続した。マニフォールドは真空下、150℃で1〜2日間焼いた。各セルに数mgのRbを含ませ、同位元素に富むキセノン(72.9%の129Xe)約0.5アマガー及びN20.1アマガー(共に、Ultrapure,Inc.製のジルコニウムゲッターに流すことにより精製)を液体窒素下で満たした。
129Xe緩和時間を測定するために、始めに、光学的ポンピング及びスピン交換を通して、核を〜25%まで分極化した。セルを30Gの磁場内に置き、85℃まで加熱し、Rb密度を[Rb]ほぼ2×1012cm-3まで増加させた。Rb原子を、Ti:サファイアレーザーからの円偏光した795nmのRbD1光2〜4Wを用いて光学的にポンピングし、一方、129Xe核の分極化をRb−Xeスピン交換衝突を通じて続けた(参考文献2、20)。〜20分後、セルをポンピングオーブン(pumping oven)から取り出し、室温まで冷却した。次いで、セルを、場を0〜2000Gまで変化させることができるヘルムホルツペアー(Helmholtz pair)内の低温槽(77〜300K)中に置いた。二重共鳴実験のために、光学的にポンピングした85Rbマグネトメーター(magnetometer)を使用して、磁場を97G付近に固定し、安定化した(参考文献26)。
【0028】
129Xeの分極の減衰を、高速断熱通過NMR(AFP)(参考文献27)によりモニターし、磁化をわずかな分極の喪失と共に検出した。始めに、場H1、ある周波数における回転数(rotating at a frequency)ω0を、スタティックフィールド(static field)H0に垂直に適用した。次いでスタティックフィールドを、NMR共鳴条件ω0=7402s-1-10を通じてゆっくりと掃引し、本発明者等が同調ピックアップコイル(tuned pick-up coil)及びロックイン増幅器を用いて横断成分(transverse component)を検出しながら、全体の磁化を調査した。時間に対するAFPシグナルの高さの減衰を、指数関数に当てはめ、縦緩和時間T1又はスピンロック緩和時間T1ρを決定した(参考文献28)。129Xeのスピンロックを、磁化がω0のフレーム回転数(frame rotating)においてH1を用いてアラインしたとき、共鳴についての正確な場の掃引(field sweep)を停止することにより達成した。129Xeスピンロックの間、第二のrf場をプロトン共鳴周波数で適用し、129Xe緩和速度を低下させた。
【実施例2】
【0029】
図1は、種々の温度下における、129Xe緩和速度の静磁場への依存性を示している。これらのデータの解釈には、以下に示すモデルの展開が要求される。コーティングのドゥエル時間τdの間、129Xeの核スピンIは、隣接する電子又は核スピンSと、双極子相互作用を通じてカップリングすることができる。モデルの複雑さを減少させるために、双極子カップリングのテンソル特性を無視し、
相互作用スカラーカップリング:
【数1】

とした。解析は、スカラー又はテンソルカップリングとも同様に定性的に行った。一次について計算した(参考文献27)、場依存性129Xe緩和時間は、式1:
【数2】

(式中、比τd/(τd+τg)は、気相における時間τgと比較した、与えられた129Xeが表面に吸着するのに費やす時間τdを反映し、ω0I及びω0Sはそれぞれ、129Xeスピンの共鳴周波数及び表面スピンである)
で示される。式1及び測定した緩和曲線の半分の幅(half width)ΔHほぼ8Gを使用して、129Xeのドウェル時間の推定を、表面の磁気モーメントの大きさについての種々の仮定の下に行った。詳細に述べると、常磁性部位による129Xe表面緩和については、τd=7ナノ秒(ns)であり、一方、129Xe−プロトン緩和については、τd=4マイクロ秒(μs)であることが見出された。ドウェル時間における指数で3の(three order of magnitude)の差異は、プロトンと比較して非常に大きい電子の磁気モーメント(μB/μN〜1800)を原因としている。7nsの表面吸着時間が考えられる一方、プロトン相互作用について推定された4μsは、129Xeがコーティング表面上に吸着するというよりもむしろコーティング内に捕捉されることを要求しているらしい。これらの2つの非常に異なる様式、すなわち常磁性表面緩和対プロトン双極子緩和を区別するために、緩和パラメーターの温度依存性について研究した。
【実施例3】
【0030】
本発明者等が得た温度依存性のデータは、単に表面に吸着した129Xeとは一致していない。129Xeの表面吸着時間は、式2:
【数3】

(式中、τ0=ほぼ10-12s)で表わされる、吸着エネルギーEα及び温度に依存する。温度が低下し、τdが長くなるとき、式1は、増加したゼロ場(zero-field)緩和速度及び場依存性(field-dependence)が狭くなることを示唆する。
ゼロ場緩和速度の測定された温度依存性を図2に示すが、実際に指数関数的であった。式1及び式2を使用して、τg>>τdと仮定することにより、式:
1/T1(B0=O)∝τ02exp(2Eα/kT)
を見出し、吸着エネルギーEα=0.05±0.03eVを得た。しかしながら、この吸着エネルギーを使用し、T=297Kで計算した7psのドウェル時間は短すぎるので、観察された場依存性の幅とは一致しなかった。更に、緩和曲線の幅は温度から独立しており、低温下における増加した129Xe表面のドウェル時間から予期される狭さとは更に矛盾した。それゆえ、観察された作用を引き起こすプロトン双極子相互作用に必要であろうマイクロ秒の時間スケールでのキセノン捕捉の可能性を考慮する必要がある。
【0031】
マイクロ秒の長さの捕捉時間が予期されない間、キセノンは、あるポリマー系に可溶であることが知られており(参考文献29)、Wuらのシリコーンでコーティングしたセル内における131Xe緩和の研究は、Xeがポリマーのバルクに入ることについて示唆している(参考文献30)。ゼロ場の緩和速度の指数関数的な温度依存性(図2)は、溶液の熱量ΔHsol=−0.10±0.005eVにより特徴付けられる、コーティング中における温度依存性の溶解性(参考文献31)によるものかもしれない。図1の磁気デカップリング(magnetic decoupling)が核の双極子−双極子相互作用によるものである場合に要求される、マイクロ秒の129Xeの相関時間は、ある溶媒和部位から別の部位へのキセノン原子の運動を邪魔するエネルギー障壁Eb>kTln(1μs/1ps)ほぼ0.5eVが存在することを示唆する。129Xeがポリマー内に捕捉されたままでいる間、核スピン緩和は、129Xe共鳴周波数又はその近辺における局所的プロトン双極子場Hpの変動による引き起こされる。そのような変動は、ポリマー鎖の運動、コーティング内の129Xe拡散又はプロトンのスピン−スピン相互作用を含む種々のソースを有するだろう(参考文献32)。本発明者らは、相互作用は以下に示
す式:
【数4】

(式中、τCは変動に特有な時間スケールである)で示される相関関数により特徴付けられることを推論した。双極子−双極子相互作用のテンソル特性(tensor nature)を考慮して、129Xeの双極子緩和時間は、式1に類似する、式3:
【数5】

(式中、ω0I及びω0Sはそれぞれ129Xe及びプロトンの共鳴周波数であり、1/T0は式4:
【数6】

(式中、ΥI及びΥS129Xe及びプロトンの磁気回転比であり、riは隣接するプロトンまでの距離を表わす)で示されるゼロ場緩和時間を表わす)
であることを見出した。式3の形態の少なくとも2つの表現の合計を必要とする磁場依存性データに一致させるために、それぞれが大きさ(magnitude)及び相関時間を有した。3つの異なるセルの測定から推測した室温における相関時間は、τa=8.1±1.0μsであり、τb=0.5±0.1μsであり、これはゼロ場緩和時間の約3分の2を与える8μsの成分であった。
【実施例4】
【0032】
コーティングのプロトンの磁気モーメントの双極子カップリングを初めて測定したところ、129Xe核は緩和の主な原因であった。これは、プロトン−129Xe二重共鳴特性の観察により達成された。二重共鳴に典型なものとしての、本発明者等の実験は、異なる場H1Sをプロトンに適用する間の、共鳴回転場(resonant rotating field)H1Iに対する129Xe磁化のスピンロックを含んでいた(参考文献28)。次いで、129Xe及びプロトンのゼーマンエネルギーを、それぞれの共鳴場(resonant field)にそって独立して量子化し、プロトンスピンのみを操作することにより129Xe緩和時間に作用させた。莫大な量の二重共鳴NMRに関する文献にもかかわらず、この実験に適切な緩和の分析は今まで見出されていなかった。それゆえ、二重共鳴下のスピンロックした129Xe緩和速度を表わすために誘導する新しい式5:
【数7】

が要求された。
式5において、μ、ν及びλの合計は、−1〜1であり、d11μ及びd1νλはウィグナー dの関数であり、C(121;ν,μ−ν)はクレブシュ−ゴーダン係数であり(参考文献33)、1/T0は式4のゼロ場緩和速度である。角度βは、129Xe又はプロトンのrfの共鳴からの相対的デチューニング(relative detuning)の単位であり、式:tanβI=ω1I/(ω0I−ωI)(式中、ω0Iはラーモア周波数であり、ωIはrfの周波数である)で与えられる。129Xeの回転座標系におけるラーモア周波数は式:Ω2I=(ω0I−ωI)2+ω21I(式中、ω1I=ΥI1Iである)で与えられ、プロトンについても同様である。
【0033】
本実験の本質は、式5からの2つの支配的な条件を考慮し、プロトン及び129Xeの正確な共鳴を推定することにより見ることができる。次いで式5を式6:
【数8】

(式中、[…]は、静場に依存する22の残りの条件であるが、場H1I及びH1Sにのみ弱く依存している)で表わされる式に縮小した。式6の検査により、129Xeスピンロック緩和速度は、プロトンのrf場H1Sの強度の増加により低下することが明らかになった。適用したrf場H1Sの強度が、プロトン双極子変動の固有周波数よりも早いプロトンRabi歳差運動を引き起こすとき(τS1S>1/τC)、129Xe緩和速度は減少した。
【0034】
長い129Xe緩和時間並びに与えられた129Xeとコーティングのプロトンとの間の比較的まれなカップリングが原因のため、提案された二重共鳴効果を観察するためには、100S以上のオーダーの非常に長いスピンロック時間が要求される。そのような長いスピンロック時間の間、rf及び静場の不均質性から緩和のメカニズムが競合することは、緩和速度に有為に追加することができることが、Cates らにより詳細に研究されている(参考文献34及び35)。Cates らの結果は、本発明の実験条件に対して大幅に単純化することができ、スピンロック129Xe緩和速度に対する不均質性の貢献は式:
【数9】

(式中、Dはキセノンの拡散係数であり、|▽H0Z|は静場の不均質性のZ^成分であり、|▽H1|はrf場の不均質性である)で示される。式7の第二の条件である、▽H1∝H1はH1から独立しており、それゆえ、十分に大きいH1について、緩和速度を支配する。97Gのスピンロック場において、本発明者等の装置の静場の不均質性は、この条件がいつでもH1>500mGに適合するよう、|▽H0|=19.0mG/cmであった。|▽H1|による残りの緩和時間はT1ρ’=600Sであった。
【0035】
図3は、297Kにおける、共鳴性プロトン場強度H1Sの関数としての、スピンロック129Xe緩和速度の低下を示している。図4は、低下が、H1Sにより支配される幅を有するプロトン共鳴に由来するデチューン(detune)に依存していることを示している。共鳴曲線は、一定のプロトン場強度H1S=4Gで、周波数は変化させて得られた。プロトンのrfが厳密に共鳴になったとき、最大の低下が起こった。この特性は、コーティングのバルク中の双極子緩和は、129Xe表面緩和の原因であることを明確に示しており、コーティング中における驚く程長いキセノンの捕捉時間を確認している。
【0036】
1S依存性が式6に一致することは、静場依存性から予期されるτα=8.1μSの2倍の長さの相関時間τa' =17μSを与えることに注目した。スピンロック129Xe緩和速度の大きさも、パラメーター及び式6と一致する静場から予期される速度よりも約2.5倍大きい。これらの矛盾は、本発明者らの基本的な結論にほとんど影響与えない、一方、本発明者らのモデルは、緩和を引き起こすポリマーの動力学の厳密な評価を与えるのに十分な精度ではないと信じられている。
【実施例5】
【0037】
低磁場において、ポリマーコーティング中に溶解した129Xeの緩和速度は、式8:
【数10】

(式中、Sはポリマー核のスピンであり、ΥXe129Xeの磁気回転比であり、ΥSはポリマー核の磁気回転比であり、τcは相互作用の相関時間であり、ri129Xeと周辺のポリマー核との間の距離である)で与えられる(参考文献27)。
ほとんどのポリマーは、炭素、酸素及び水素から構成され、シリコーン及びシランの場合は、シリコン、炭素、酸素及び水素から構成される。これらの要素の中で、129Xeの緩和を支配するものは水素であると現在理解されている。水素は問題になるだけではなく、ほとんどのポリマーのなかでもっとも豊富な要素であり、存在量が100%の同位元素に対する非ゼロ核スピンを有する唯一の要素でもある。129Xeを緩和することができる核磁気モーメントを引き起こすのは非ゼロ核磁気スピンである。技術的に詳細に述べると、29Si(わずか5%の含有量)、13C(わずか1%の含有量)及び17O(0.1%未満の含有量)を含むその他の同位元素は非ゼロスピンを有すると理解されるべきである。小さい磁気モーメントを有する部分による水素の置換は、不活性ガスの緩和を有為に減少させることができると推定されている。
【0038】
本発明者等の推定に従い、重水素は129Xeの緩和速度を減少させることかできる。なぜなら、重水素の磁気回転比(ΥD=4106s-1-1)は水素の磁気回転比(ΥH=26750s-1-1)よりも非常に小さいからである。式8より得たこれらの値の応用は、重水素化ポリマー中の129Xe緩和速度のその他の同一のプロトン化ポリマーに対する割合が、式9:
【数11】

であることを示唆している。
換言すれば、重水素化ポリマーにおける129Xeの分極化維持時間は、プロトン化ポリマーにおける値よりも約16倍長い。
【0039】
式9の実験的な検証は、重水素化シロキサンポリマーでコーティングするか、又はプロトン化ポリマーでコーティングするかということのみが異なる同一の容器における129Xe緩和速度の測定を要求する。手順は以下の通りである。
体積約1cm3のPyrexRガラス球を、通常の方法に従い、興味の対象となるポリマーでコーティングする。3つのセルは重水素化コーティングし、別の3つはプロトン化コーティングした。コーティングを適用した後、セルをガラス製マニフォールドに取り付け、真空下、100〜150℃で2日間焼いた。焼いた後、天然のルビジウム金属数mgを各セル中に蒸留した。次いでセルを約1気圧の129Xe及び70トルの窒素ガスで満たした。最終的には、ハンドトーチ(hand torch)を使用してセルを密封した。
【0040】
標準的な光学的ポンピング(参考文献36)及びスピン交換(参考文献20)
技術により129Xeを分極した。分極化129Xeを含むセルを、光学的ポンピング装置から取り出し、核磁気共鳴分析(NMR)装置に移し、緩和速度1/T1を測定した。
NMRシグナルの大きさは、129Xeの分極に比例していた。サンプルにおける分極の減衰速度を、適当な間隔を置いてNMRシグナルを取ることにより測定した。時間の関数としてのNMRシグナルは、以下に示す式10:
【数12】

で示される指数関数的な減衰に従う。
129Xe分極の1/T1の減衰速度は、時間の関数としてのNMRシグナルの高さを式10に一致させることにより決定することができる。
【0041】
3つの重水素化サンプルについて測定した緩和速度は、プロトン化サンプルよりも16倍まで長かった。前記に詳細に述べたように、緩和速度1/T1における16倍の改善は、明確な理論的限界である。例えばコーティングの変動性等の実用上の制限により、そのような正確な関係は見出されることはない。従来の分極化方法は、典型的にはT1=20〜T1=40分の維持時間を与える。そのような変動は、異なるセルのコーティングにおけるわずかな構造上の差異により生じることが疑われる。しかしながら、そのような原因により生じた2つの変化する因子があったとしても、予期される緩和速度における16の異なる変数は容易に識別することができる。
【実施例6】
【0042】
既知の方法に従い調製したフッ化ポリマーを用いたプロトン化ポリマーと比較したことを除いて、実施例5と実質的に同様の実験を行った。16倍までの過分極129Xeの維持時間の増加が観察された。
したがって、本発明の好ましい態様であると現在信じられているものが記載されているけれども、当業者は、本発明の精神を離れることなくその他の態様及び更なる態様を実現することができ、全てのそのような更なる修飾及び改変は、本明細書に記載した請求の範囲の真の範囲内にあるものとして含まれることが意図される。

















【0043】






【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】種々の温度下における、シリコーンコーティングに対する分極129Xeの核スピン緩和の代表的な磁場依存性を示している。
【図2】コーティング中のキセノンの溶解性の増加により生じた129Xe緩和速度の指数関数的な温度依存性を示している。
【図3】H1I=1.1Gを用いたスピンロック(spin locked)された129Xe緩和速度1/T1ρの共鳴性デカップリングを示している。
【図4】129Xe緩和速度のプロトンのデチューニング(detuning)への依存を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過分極不活性ガスの核スピン緩和を阻害する方法であって、
不活性ガスを受け入れるのに適した容器の表面を、
ハロゲン化、スルホン化又はカルボキシル化の1種以上により修飾されたポリマーでコーティングし、これにより、該過分極不活性化ガスと該表面との脱分極相互作用を阻害することを特徴とする方法。
【請求項2】
不活性ガスを過分極する方法であって、
不活性ガスとの減少した脱分極相互作用を示すように修飾された表面を有する容器中で該不活性ガスを過分極する工程を含み、
該表面が、ハロゲン化、スルホン化又はカルボキシル化の1種以上により修飾されたポリマーでコーティングされていることを特徴とする方法。
【請求項3】
容器の表面の不活性ガスの脱分極能力を減少させる方法であって、
不活性ガスを受け入れるのに適した容器の表面を、ハロゲン化、スルホン化又はカルボキシル化の1種以上により修飾されたポリマーでコーティングし、これにより、該表面へ、該不活性ガスを脱分極することについての減少した能力を提供する
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
不活性ガスを過分極する方法であって、
不活性ガスの過分極に適したセル中で、不活性ガスを過分極する工程を含み、
該セルの内側表面が、ハロゲン化、スルホン化又はカルボキシル化の1種以上により修飾されたポリマーでコーティングされ、これにより、該表面に、該不活性ガスを脱分極することについての減少した能力が提供されている
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
過分極不活性ガスを貯蔵する方法であって、
不活性ガスの貯蔵に適した貯蔵器中で、過分極不活性ガスを貯蔵する工程を含み、
該貯蔵器の内側表面が、ハロゲン化、スルホン化又はカルボキシル化の1種以上により修飾されたポリマーでコーティングされ、これにより、該表面に、該不活性ガスを脱分極することについての減少した能力が提供されている
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
修飾ポリマーが架橋ポリマーからなる、請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
修飾ポリマーが架橋ポリシロキサンからなる、請求の範囲第6項に記載の方法。
【請求項8】
前記コーティングが、フッ化により修飾されたポリマーからなる、請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
修飾ポリマーがフッ化炭化水素又はシリコン含有ポリマーからなる、請求の範囲第8項に記載の方法。
【請求項10】
過分極129Xeと表面との脱分極相互作用を阻害することを含む、請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項11】
修飾ポリマーが架橋ポリマーからなる、請求の範囲第10項に記載の方法。
【請求項12】
修飾ポリマーが架橋ポリシロキサンからなる、請求の範囲第11項に記載の方法。
【請求項13】
前記コーティングが、フッ化により修飾されたポリマーからなる、請求の範囲第10項に記載の方法。
【請求項14】
修飾ポリマーがフッ化炭化水素又はシリコン含有ポリマーからなる、請求の範囲第13項に記載の方法。
【請求項15】
不活性ガスの脱分極に対する減少した能力を有する容器であって、
不活性ガスを受け入れるのに適した容器の表面を、ハロゲン化、スルホン化又はカルボキシル化の1種以上により修飾されたポリマーでコーティングし、これにより、該表面に、該不活性ガスを脱分極することについての減少した能力を提供する方法により修飾されていることを特徴とする容器。
【請求項16】
容器が、不活性ガスの過分極に適したセルからなる、請求の範囲第15項に記載の容器。
【請求項17】
容器が、不活性ガスの貯蔵に適した貯蔵器からなる、請求の範囲第15項に記載の容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−292739(P2007−292739A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79422(P2007−79422)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【分割の表示】特願平9−501727の分割
【原出願日】平成8年6月7日(1996.6.7)
【出願人】(507096445)ザ トラスティーズ オヴ プリンストン ユニヴァーシティー (1)
【Fターム(参考)】