説明

過塩素酸塩の製造装置

【課題】過塩素酸の電解酸化に際して消費電力を低く抑えることができる過塩素酸塩の製造装置の提供。
【解決手段】陽極4が設けられる陽極側と陰極5が設けられる陰極側とが陽イオン交換膜6で仕切られ、陽極側において塩化ナトリウム水溶液あるいは次亜塩素酸ナトリウム水溶液あるいは塩素酸ナトリウム水溶液を電解酸化する電解槽を備える過塩素酸塩の製造装置であって、陽極4は、所定のメッシュ目のサイズを有する第1網状電極41aと該所定のメッシュ目のサイズよりも大きなメッシュ目のサイズを有する第2網状電極41bとを積層した多層電極からなり、第1網状電極41aが陽イオン交換膜6に接する向きで、陽イオン交換膜6が陽極4と陰極5との間において挟み込まれている電解槽を備えるという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過塩素酸塩の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過塩素酸塩は、固体燃料ロケットの推進薬の酸化剤(過塩素酸アンモニウム)を始め、リチウム電池の支持電解質(過塩素酸リチウム)やエアバックの着火剤(過塩素酸カリウム)など、様々な用途に利用されている。
ここで、過塩素酸塩の製造方法としては、非特許文献1や非特許文献2に詳しく記述されているように、工業的には塩化ナトリウム水溶液の電解酸化により合成した塩素酸ナトリウム水溶液を更に電解酸化して過塩素酸ナトリウムを合成した後、所定の処理を経て製造される。そこで、これまでの従来技術では、例えば特許文献1や特許文献2に記載に記載されているように、過塩素酸ナトリウム(NaClO)水溶液を効率的に電解酸化するための方法に焦点が当てられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−199387号公報
【特許文献2】特開2007−197740号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. C. Schumacher(ed.), Perchlorates, A.C.S.Monograph No.146, Reinhold, New York, 1960
【非特許文献2】火薬学会、プロペラント専門部会編、プロペラントハンドブック、pp.87−94、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、過塩素酸ナトリウム以外の過塩素酸塩を製造するにあたり、必ずしも過塩素酸ナトリウムを経由する必要は無い。本願発明者らは、過塩素酸ナトリウムの製造を経由しないで製造工程を簡略化した過塩素酸塩の製造方法を考案した。この製造方法では、陽イオン交換膜を陽極と陰極で挟み込んだ構造の電解槽を用い、塩化ナトリウム水溶液を陽極側で電解酸化して塩素酸を生成し、更に電解酸化して過塩素酸水溶液を生成し、この電解酸化で生成した過塩素酸水溶液に所定のアルカリ性水溶液を加えて、中和反応により過塩素酸塩を合成する。
しかし、この製造方法においては、上記過塩素酸の電解酸化に際して、消費電力が大きいという課題がった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、過塩素酸の電解酸化に際して消費電力を低く抑えることができる過塩素酸塩の製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、陽極が設けられる陽極側と陰極が設けられる陰極側とが陽イオン交換膜で仕切られ、上記陽極側において塩化ナトリウム水溶液あるいは次亜塩素酸ナトリウム水溶液あるいは塩素酸ナトリウム水溶液を電解酸化する電解槽を備える過塩素酸塩の製造装置であって、上記陽極は、第1層目に向かうに従ってメッシュ目のサイズが小さくなる順に、複数の網状電極を積層した多層電極からなり、上記第1層目側が上記陽イオン交換膜に接する向きで、上記陽イオン交換膜が、上記陽極と上記陰極との間において挟み込まれている上記電解槽を備えるという構成を採用する。
【0008】
また、本発明においては、上記陽極は、白金からなる触媒層、あるいは、酸化イリジウム及び白金からなる触媒層、あるいは、あるいは、酸化イリジウム及び酸化ルテニウム及び白金からなる触媒層、あるいは、酸化タンタル及び白金からなる触媒層を基体表面に被覆した上記多層電極からなるという構成を採用する。
また、塩化ナトリウム水溶液あるいは次亜塩素酸ナトリウム水溶液を前記電解酸化する場合には、上記陽極は、酸化イリジウム及び酸化ルテニウムからなる触媒層を基体表面に被覆した上記多層電極からなるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電解槽の陽極を複数の網状電極を積層した多層電極とし、陽極側における反応効率を高めることで、消費電力を低く抑えることができる。すなわち、陽極側における反応は、水溶液‐電極‐陽イオン交換膜で構成される三界面で生じるので、メッシュ目のサイズが最も小さくなる第1層目の網状電極を陽イオン交換膜に向けて配置することで、陽イオン交換膜との接触面積を増加させて反応効率を高めることができる。また、陽極側では、副生成物として酸素ガスが生成されるが、この酸素ガスが多層電極内に留まると上記三界面の形成を阻害するため、陽イオン交換膜側に対し離間する側に向かうに従ってメッシュ目のサイズが順に大きくなるように網状電極を積層配置することで、第1層目側で生じた酸素ガスの抜けを促進させることができる。
また、本発明においては、特に塩化ナトリウム水溶液を電解酸化する場合に酸素ガスの発生を抑える効果がある、酸化イリジウム及び白金からなる触媒層、あるいは、酸化イリジウム及び酸化ルテニウムからなる触媒層、あるいは、酸化イリジウム及び酸化ルテニウム及び白金からなる触媒層、あるいは、酸化タンタル及び白金からなる触媒層で、被覆した多層電極を用いて陽極を構成することで、陽極側における酸素ガスの発生を抑えて反応効率を高めることできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態における過塩素酸アンモニウム製造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態における一次電解槽の構成図である。
【図3】本発明の実施形態におけるゼロギャップ型電解セルの分解図である。
【図4】本発明の実施形態における二次電解槽の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の過塩素酸塩の製造装置について図面を参照して説明する。なお、以下では、本発明を塩化ナトリウム水溶液の電解酸化により、最終的に過塩素酸アンモニウムを製造する場合の製造装置に適用した場合の例について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態における過塩素酸アンモニウム製造装置(過塩素酸塩の製造装置)Aの概略構成図である。図中のg、l、sの符号は、それぞれ気体、液体、固体の状態であることを示す。実施形態の過塩素酸アンモニウム製造装置Aは、一次電解槽1と、二次電解槽2と、反応・蒸発槽3とを備えている。
【0013】
図2は、本発明の実施形態における一次電解槽1の構成図である。
一次電解槽1は、陽極4が設けられる陽極側4Aと、陰極5が設けられる陰極側5Aとを仕切るように設けられた陽イオン交換膜6を有する。一次電解槽1は、後述する電解酸化により、陽極側溶液(アノード液)が強酸性に、陰極側溶液(カソード液)が強アルカリ性となるため、一次電解槽1の本体には、耐化学薬品安定性に優れたもの、例えばテフロン(デュポン(株)、登録商標)や塩化ビニル、ガラスを使用することが望ましい。また、配管の継ぎ手についても、耐化学薬品安定性に優れたもの、例えばテフロン(デュポン(株)、登録商標)を用いることが望ましい。
【0014】
陽イオン交換膜6は一次電解槽1内で陽極4と陰極5との間にギャップ無しで挟みこまれたゼロギャップ型の電解セルを構成する。この陽イオン交換膜6は、陽イオンは通過でき、陰イオンは通過できないという特性を有する膜であり、本実施形態では、陽イオン交換膜6にナフィオン424(Nafion、デュポン(株)、登録商標)を用いる。なお、陽イオン交換膜としては、苛性ソーダ製造に広く用いられているAciplex(旭化成(株)、登録商標)やFlemion(旭硝子(株)、登録商標)を用いても良い。
【0015】
図3は、本発明の実施形態におけるゼロギャップ型電解セルの分解図である。
陽極4は、陽極側4Aにおける塩素酸イオンの電解酸化反応の促進を図るため触媒を被覆したエキスパンドメタルからなる複数の網状電極(本実施形態では第1網状電極41a及び第2網状電極41bの2つ)を積層した多層電極からなる。この多層電極は、第1網状電極41aと第2網状電極41bとをスポット溶接により固定してなる。陽極4は、第2網状電極41b側で電極支持体7とスポット溶接で固定されて支持される。本実施形態の電極支持体7は、複数の開口を備えるチタンパンチングメタルを用いており、この開口が、陽極4にアノード液を供給する供給路及び陽極4で発生したガスを排出する排出路として機能する。陽極4の第1網状電極41a側(1層目側)は、陽イオン交換膜6と接して配置される。
【0016】
第1網状電極41a及び第2網状電極41bは、互いにメッシュ目のサイズが異なっており、第1網状電極41aのメッシュ目のサイズが第2網状電極41bのメッシュ目のサイズよりも小さい構成となっている。言い換えると、第1網状電極41a及び第2網状電極41bは、互いに開孔率が異なっており、第1網状電極41aの開孔率が第2網状電極41bの開孔率よりも大きい構成となっている。なお、ここでいう開孔率とは、エキスパンドメタルのメッシュ度(単位面積当たりに占めるメッシュ目の数)と同義であり、例えばメッシュ度が大きいとメッシュ目のサイズが小さく、メッシュ度が小さいとメッシュ目のサイズが大きくなる。
この第1網状電極41aと第2網状電極41bで構成される陽極4は、基体であるチタンエキスパンドメタルの表面を、酸素ガスの発生を抑える効果のある、焼成法により酸化イリジウム及び白金からなる触媒層で被覆した多層電極、あるいは、焼成法により酸化イリジウム及び酸化ルテニウムからなる触媒層で被覆した多層電極、あるいは、焼成法により酸化イリジウム及び酸化ルテニウム及び白金からなる触媒層で被覆した多層電極、あるいは、焼成法により酸化タンタル及び白金からなる触媒層で被覆した多層電極から構成される。
【0017】
一方、この陽極4と対となる陰極5は、触媒を被覆したエキスパンドメタルからなる複数の網状電極(本実施形態では第1網状電極51a及び第2網状電極51bの2つ)を積層した多層電極からなる。この多層電極は、第1網状電極51aと第2網状電極51bとをスポット溶接により固定してなる。陰極5は、第2網状電極51b側で電極支持体8とスポット溶接で固定されて支持される。本実施形態の電極支持体8は、複数の開口を備えるチタンパンチングメタルを用いており、この開口が、陰極5にカソード液を供給する供給路及び陰極5で発生したガスを排出する排出路として機能する。陰極5の第1網状電極51a側は、陽イオン交換膜6と接して配置される。
【0018】
第1網状電極51aと第2網状電極51bは、互いにメッシュ目のサイズが異なっており、第1網状電極51aのメッシュ目のサイズが第2網状電極51bのメッシュ目のサイズよりも小さい構成となっている。
この第1網状電極51aと第2網状電極51bで構成される陰極5は、基体であるチタンエキスパンドメタルの表面を電解メッキにより白金の触媒層で被覆した多層電極、または、ニッケルエキスパンドメタルからなる多層電極から構成される。
【0019】
図2に戻り、陽極側4Aには、アノード液を貯溜するアノード液タンク4Bが設けられている(以下、電解槽1の陽極側4Aを陽極側電解槽2Aと称する)。アノード液タンク4Bと陽極側電解槽2Aとは、配管27a及び配管27bで接続されている。配管27aは、陽極側電解槽2Aの底部とアノード液タンク4Bの底部とを接続するものであり、配管27bは、陽極側電解槽2Aの天部とアノード液タンク4Bの側部とを接続するものである。なお、本実施形態のように、陽極4表面において生成する生成物の生成効率を高めるため、アノード液タンク4Bの底部には、アノード液を加熱するためのヒータ4B1を設けても良い。この場合、陽極側電解槽2Aの側部には、水温を計測する熱電対4B2を設ける。
【0020】
一方、陰極側5Aには、カソード液を貯溜するカソード液タンク5Bが設けられる(以下、電解槽1の陰極側5Aを陰極側電解槽2Bと称する)。カソード液タンク5Bと陰極側電解槽2Bとは、配管28a及び配管28bで接続されている。配管28aは、陰極側電解槽2Bの底部とカソード液タンク5Bの底部とを接続するものであり、配管28bは、陰極側電解槽2Bの天部とカソード液タンク5Bの側部とを接続するものである。なお、本実施形態のように、陽極5表面において生成する生成物の生成効率を高めるため、カソード液タンク5Bの底部には、カソード液を加熱するためのヒータ5B1を設けても良い。この場合、陰極側電解槽2Bの側部には、水温を計測する熱電対5B2を設ける。
【0021】
アノード液タンク4Bの天部にはアノード液導入配管21が接続されており、塩化ナトリウム水溶液がアノード液導入配管21を介して導入され、陽極側4A(陽極側電解槽2A、アノード液タンク4Bを含む)を満たす。一方、カソード液タンク5Bの天部にはカソード液導入配管22が接続されており、純水がカソード液導入配管22を介して導入され、陰極側5A(陰極側電解槽2B、カソード液タンク5Bを含む)を満たす。一次電解槽1の内部で各液にそれぞれ浸された陽極4及び陰極5の両極に電圧を印加すると、次のような反応が進行する。
【0022】
陽極側4Aにおいては、塩化ナトリウム水溶液が電解酸化され、下記の反応式(1)、反応式(2)に示す反応が生じる。
2Cl → Cl+2e …(1)
2HO → O+4H+4e …(2)
ここで発生した塩素ガスにより、下記の反応式(3)、反応式(4)に示す平衡反応が生じる。この平衡反応は、水溶液のpH及び温度によりその形態が変化する。
Cl+HO ⇔ H+Cl+HClO …(3)
HClO ⇔ H+ClO …(4)
【0023】
この反応で生じた次亜塩素酸を電解酸化すると、下記の反応式(5)、反応式(6)に示す反応により亜塩素酸が生成される。
ClO+HO → ClO+2H+2e …(5)
HClO+HO → HClO+2H+2e …(6)
生成された亜塩素酸を更に電解酸化すると、下記の反応式(7)、反応式(8)に示す反応により塩素酸が生成される。
ClO+HO → ClO+2H+2e …(7)
HClO+HO → HClO+2H+2e …(8)
【0024】
上記反応式(1)〜反応式(8)に示すように、一次電解工程では、塩素酸と副生成物として酸素ガスが生成される。
ここで、陽極側4Aの液中に含まれるナトリウムイオンは、両極間の電位差によって陽イオン交換膜6を通過して陽極側4Aから陰極側5Aに移動する。一方、次亜塩素酸イオン、亜塩素酸イオンは陽イオン交換膜6を通過できず、水溶液‐陽極4‐陽イオン交換膜6で構成される三界面での反応により塩素酸イオンとなる。
【0025】
陽極側4Aにおけるこの反応は、本実施形態のように陽極4を複数の網状電極を積層した多層電極とすることで、その反応効率を高めることができる。すなわち、陽極側4Aにおける反応は、水溶液‐陽極4‐陽イオン交換膜6で構成される三界面で生じるので、メッシュ目のサイズが最も小さくなる第1網状電極41a側を陽イオン交換膜6に向けて配置すると、陽イオン交換膜6との接触面積が増加して反応効率が高まる。また、陽極側4Aでは、反応式(2)に示す反応により副生成物として酸素ガスが生成されるが、この酸素ガスが多層電極内に留まると上記三界面の形成を阻害するため、陽イオン交換膜6側に対し離間する側にメッシュ目のサイズの大きい第2網状電極41bを配置して酸素ガスの抜け道を広くすることで、第1網状電極41a側で生じた酸素ガスの抜けを促進させることができる。
【0026】
また、陽極4を、酸素ガスの発生を抑える効果がある、酸化イリジウム及び白金からなる触媒層、あるいは、酸化イリジウム及び酸化ルテニウムからなる触媒層、あるいは、酸化イリジウム及び酸化ルテニウム及び白金からなる触媒層、あるいは、酸化タンタル及び白金からなる触媒層で、チタンエキスパンドメタルの表面を被覆した多層電極を用いて構成することで、陽極側4Aにおける酸素ガスの発生を抑えて反応効率を更に高めることができる。
このように陽極側4Aの反応効率が高まると、アノード液中に十分な量の塩素酸イオンを生成するための総電解時間が短縮されるため、消費電力を低く抑えることが可能となる。
【0027】
なお、陽極側電解槽2Aで生じた酸素ガス(気泡)は、配管27bを介してアノード液タンク4Bに導かれる。アノード液タンク4Bの天部には酸素ガス配管23が設けられており、酸素ガス配管23を介して酸素ガスが外部に順次排気される。
また、発生した酸素ガスは配管27bを介してアノード液タンク4Bへと順次排出されるために、陽極側電解槽2Aの底部から配管27aを介してアノード液タンク4Bからアノード液が順次導入される。従って、アノード液は、ポンプ等の駆動機構によらずに陽極側電解槽2Aとアノード液タンク4Bとの間で循環することとなる。
【0028】
陰極側5Aにおいては、下記の反応式(9)、反応式(10)に示す反応が生じ、水素ガスと水酸化ナトリウムとが生成される。
2H+2e → H…(9)
2Na+2HO+2e → 2NaOH+H…(10)
なお、陰極側電解槽2Bで生じた水素ガス(気泡)は、配管28bを介してカソード液タンク5Bに導かれる。カソード液タンク5Bの天部には水素ガス配管24が設けられており、水素ガス配管24を介して水素ガスが外部に順次排気される。また、陽極側4Aにおいてアノード液が循環することと同様に、陰極側5Aにおいても、カソード液の循環作用が得られる。
【0029】
十分な量の塩素酸イオンが生成されたアノード液は、弁25Aを閉状態から開状態にしたアノード液輸送配管25を介してアノード液タンク4Bから二次電解槽2に輸送される。一方、カソード液は、弁26Aを閉状態から開状態にしたカソード液輸送配管26を介してカソード液タンク5Bから外部に輸送される。
【0030】
図4は、本発明の実施形態における二次電解槽2の構成図である。
二次電解槽2は、一次電解槽1で塩素酸イオンを生成したアノード液を電解酸化して過塩素酸を生成する。
なお、以下説明する二次電解槽2の構成は、重複説明を避けるため、上述の一次電解槽1と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0031】
二次電解槽2において、陽イオン交換膜6は陽極4´と陰極5´との間にギャップ無しで挟みこまれたゼロギャップ型の電解セルを構成する。
陽極4´は、陽極側4Aにおける塩素酸イオンの電解酸化反応の促進を図るため触媒を被覆したエキスパンドメタルからなる複数の網状電極を積層した多層電極からなる。この多層電極は、上述したように、メッシュ目のサイズの異なる2枚の網状電極をスポット溶接により積層して、メッシュ目のサイズが小さい網状電極側が陽イオン交換膜6と接して配置される。
二次電解槽2の陽極4´は、基体であるチタンエキスパンドメタルの表面を、電解メッキにより白金の触媒層で被覆した多層電極から構成される。
【0032】
一方、この陽極4´と対となる陰極5´は、触媒を被覆したエキスパンドメタルからなる複数の網状電極を積層した多層電極からなる。この多層電極は、上述したように、メッシュ目のサイズの異なる2枚の網状電極をスポット溶接により積層して、メッシュ目のサイズが小さい網状電極側が陽イオン交換膜6と接して配置される。
二次電解槽2の陰極5´は、基体であるチタンエキスパンドメタルの表面を、電解メッキにより白金の触媒層で被覆した多層電極、または、SUS316エキスパンドメタルからなる多層電極、または、ニッケルエキスパンドメタルからなる多層電極から構成される。
【0033】
二次電解槽2のアノード液タンク4Bの天部にはアノード液導入配管として、一次電解槽1のアノード液輸送配管25が接続されており、一次電解工程を経たアノード液がアノード液輸送配管25を介して導入され、陽極側4A(陽極側電解槽2A、アノード液タンク4Bを含む)を満たす。一方、カソード液タンク5Bの天部にはカソード液導入配管22が接続されており、純水がカソード液導入配管22を介して導入され、陰極側5A(陰極側電解槽2B、カソード液タンク5Bを含む)を満たす。二次電解槽2の内部で各液にそれぞれ浸された陽極4´及び陰極5´の両極に電圧を印加すると、次のような反応が進行する。
【0034】
陽極側4Aにおいては、一次電解工程を経たアノード液が電解酸化され、下記の反応式(11)、反応式(12)に示すように、過塩素酸イオンと副生成物として酸素ガスが生成される。なお、微量ではあるが、下記の反応式(13)に示すように、オゾンガスも副生成物として生成される。
ClO+HO → ClO+2H+2e …(11)
2HO → O+4H+4e …(12)
3HO → O+6H+6e …(13)
ここで、一次電解においてアノード側へと移動しなかった陽極側4Aのアノード液中に含まれる残留ナトリウムイオンは、両極間の電位差によって陽イオン交換膜6を通過して陽極側4Aから陰極側5Aに移動する。一方、塩素酸イオンは陽イオン交換膜6を通過できず、水溶液‐陽極4´‐陽イオン交換膜6で構成される三界面で反応式(11)に示す反応により過塩素酸イオンとなる。
【0035】
陽極側4Aにおけるこの反応は、本実施形態のように陽極4´を複数の網状電極を積層した多層電極とすることで、その反応効率を高めることができる。すなわち、陽極側4Aにおける反応は、水溶液‐陽極4´‐陽イオン交換膜6で構成される三界面で生じるので、メッシュ目のサイズが最も小さくなる網状電極側を陽イオン交換膜6に向けて配置すると、陽イオン交換膜6との接触面積が増加して反応効率が高まる。また、陽極側4Aでは、反応式(12)に示す反応により副生成物として酸素ガスが生成されるが、この酸素ガスが多層電極内に留まると上記三界面の形成を阻害するため、陽イオン交換膜6側に対し離間する側にメッシュ目のサイズの大きい網状電極を配置して酸素ガスの抜け道を広くすることで、酸素ガスの抜けを促進させることができる。
このように陽極側4Aの反応効率が高まると、アノード液中に十分な量の過塩素酸イオンを生成するための総電解時間が短縮されるため、消費電力を低く抑えることが可能となる。
【0036】
陰極側5Aにおいては、下記の反応式(14)、反応式(15)に示す反応が生じ、水素ガスと水酸化ナトリウムとが生成される。
2H+2e → H…(14)
2Na+2HO+2e → 2NaOH+H…(15)
十分な量の過塩素酸イオンが生成されたアノード液は、弁25Aを閉状態から開状態にしたアノード液輸送配管25´を介してアノード液タンク4Bから反応・蒸発槽3に輸送される。一方、カソード液は、弁26Aを閉状態から開状態にしたカソード液輸送配管26を介してカソード液タンク5Bから外部に輸送される。
【0037】
反応・蒸発槽3では、電解酸化後のアノード液中にアンモニアガスを添加して過塩素酸アンモニウムを合成する工程と、合成後のアノード液を減圧環境下で蒸発させて過塩素酸アンモニウムを晶析させる工程とを行う。なお、ここでアンモニアガスの代わりにアンモニア水溶液を添加してもよい。
反応・蒸発槽3には、アンモニアガス供給配管31が接続されており、電解酸化後のアノード液中にアンモニアガスをバブリングする構成となっている。電解酸化後のアノード液中にアンモニアガスを添加すると、下記の反応式(16)に示す中和反応が生じ、過塩素酸アンモニウムが合成される。
HClO+NHOH → NHClO+H …(16)
【0038】
次に、反応・蒸発槽3において、合成後のアノード液を減圧環境下で蒸発させて過塩素酸アンモニウムを結晶として取り出す。反応式(16)に示すように、過塩素酸アンモニウムと共に得られる副生成物は水であるため、水を蒸発させるだけで高純度の過塩素酸アンモニウムの結晶が得られる。なお、上記蒸発法の代替法として、上記中和反応後の水溶液を蒸発させて濃縮した後、該濃縮液を冷却することにより過塩素酸アンモニウム結晶を取り出す冷却晶析法を用いても良い。
【0039】
以上のように、本実施形態によれば、陽極4が設けられる陽極側4Aと陰極5が設けられる陰極側5Aとが陽イオン交換膜6で仕切られ、陽極側4Aにおいて塩化ナトリウム水溶液を電解酸化する一次電解槽1を備える過塩素酸アンモニウム製造装置Aであって、陽極4は、所定のメッシュ目のサイズを有する第1網状電極41aと該所定のメッシュ目のサイズよりも大きなメッシュ目のサイズを有する第2網状電極41bとを積層した多層電極からなり、第1網状電極41aが陽イオン交換膜6に接する向きで、陽イオン交換膜6が陽極4と陰極5との間において挟み込まれている一次電解槽1を備えるという構成を採用することによって、陽極側4Aにおける反応効率を高めて、消費電力を低く抑えることができる。
また、本実施形態によれば、陽極4´が設けられる陽極側4Aと陰極5´が設けられる陰極側5Aとが陽イオン交換膜6で仕切られ、陽極側4Aにおいて一次電解したアノード液を電解酸化する二次電解槽2を備える過塩素酸アンモニウム製造装置Aであって、陽極4´は、所定のメッシュ目のサイズを有する第1網状電極と該所定のメッシュ目のサイズよりも大きなメッシュ目のサイズを有する第2網状電極とを積層した多層電極からなり、第1網状電極が陽イオン交換膜6に接する向きで、陽イオン交換膜6が陽極4´と陰極5´との間において挟み込まれている二次電解槽2を備えるという構成を採用することによって、陽極側4Aにおける反応効率を高めて、消費電力を低く抑えることができる。
【0040】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態では、2つの網状電極を積層した多層電極で、陽極及び陰極を構成する形態を例示して説明したが、2つ以上の網状電極を積層した多層電極(例えば3層、4層電極)で、陽極及び陰極を構成する形態であっても良い。この場合は、反応効率を高めるため、メッシュ目のサイズが最も小さくなる第1層目を、陽イオン交換膜に向けて配置する。
【0042】
また、例えば、上記実施形態では、電解槽の陽極側において電解酸化する原料として、塩化ナトリウム水溶液を用いて電解酸化する形態を例示して説明したが、次亜塩素酸ナトリウム水溶液あるいは塩素酸ナトリウム水溶液を用いて電解酸化する形態であっても良い。なお、塩素酸ナトリウム水溶液を上記電解酸化する場合には、陽極の触媒層が白金を含むことが反応効率の観点から必須なので、触媒層を酸化イリジウム及び酸化ルテニウムとした陽極は、塩化ナトリウム水溶液あるいは次亜塩素酸ナトリウム水溶液を上記電解酸化する場合に用いることが好ましい。
【0043】
また、本発明は、上述した過塩素酸アンモニウムの製造装置への適用に限定されるものではなく、過塩素酸リチウムや過塩素酸カリウム等のアルカリ金属過塩素酸塩の製造装置、過塩素酸カルシウム等のアルカリ土類金属過塩素酸塩の製造装置、また、過塩素酸銀の製造装置等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
A…過塩素酸アンモニウム製造装置(過塩素酸塩の製造装置)、1…一次電解槽、2…二次電解槽、3…反応・蒸発槽、4…陽極、4´…陽極、4A…陽極側、5…陰極、5´…陰極、5A…陰極側、6…陽イオン交換膜、7…電極支持体、8…電極支持体、41a…第1網状電極(第1層目)、41b…第2網状電極、51a…第1網状電極、51b…第2網状電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極が設けられる陽極側と陰極が設けられる陰極側とが陽イオン交換膜で仕切られ、前記陽極側において塩化ナトリウム水溶液あるいは次亜塩素酸ナトリウム水溶液あるいは塩素酸ナトリウム水溶液を電解酸化する電解槽を備える過塩素酸塩の製造装置であって、
前記陽極は、第1層目に向かうに従ってメッシュ目のサイズが小さくなる順に、複数の網状電極を積層した多層電極からなり、
前記第1層目側が前記陽イオン交換膜に接する向きで、前記陽イオン交換膜が、前記陽極と前記陰極との間において挟み込まれている前記電解槽を備えることを特徴とする過塩素酸塩の製造装置。
【請求項2】
前記陽極は、白金からなる触媒層を基体表面に被覆した前記多層電極からなることを特徴とする請求項1に記載の過塩素酸塩の製造装置。
【請求項3】
前記陽極は、酸化イリジウム及び白金からなる触媒層を基体表面に被覆した前記多層電極からなることを特徴とする請求項1に記載の過塩素酸塩の製造装置。
【請求項4】
前記陽極は、酸化イリジウム及び酸化ルテニウム及び白金からなる触媒層を基体表面に被覆した前記多層電極からなることを特徴とする請求項1に記載の過塩素酸塩の製造装置。
【請求項5】
前記陽極は、酸化タンタル及び白金からなる触媒層を基体表面に被覆した前記多層電極からなることを特徴とする請求項1に記載の過塩素酸塩の製造装置。
【請求項6】
塩化ナトリウム水溶液あるいは次亜塩素酸ナトリウム水溶液を前記電解酸化する場合、
前記陽極は、酸化イリジウム及び酸化ルテニウムからなる触媒層を基体表面に被覆した前記多層電極からなることを特徴とする請求項1に記載の過塩素酸塩の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−256431(P2011−256431A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131915(P2010−131915)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】