説明

過電流検出遮断回路の検査装置

【課題】
複数の電源を有する計算機において、検査対象の計算機を損傷することなく、各電源の給電経路上に設置されている電流検出遮断回路の動作確認を行う。
【解決手段】
出力電圧が異なる複数の電源と、各電源に対応する給電経路を流れる電流量を監視して、給電経路の電流を遮断する過電流検出遮断回路を有する計算機の過電流検出遮断回路を検査する検査装置である。この検査装置は、過電流検出遮断回路の動作試験に際して電源の負荷に代わって電流を供給する電子負荷装置と、電源に対応する各給電経路と電子負荷装置との間に介在するリレー回路と、試験対象の過電流検出遮断回路のある給電経路と電子負荷装置を、排他的にリレー回路を切り替えて接続するリレー制御回路とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過電流検出遮断回路の検査装置に係り、特に出力電圧が異なる複数の電源種を有する計算機において各電源種の給電経路上に設置されている過電流検出遮断回路の検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
計算機において、LSIやメモリなど電力を消費する負荷への給電経路は、負荷が必要とする最大電力を超えても負荷および給電経路が発熱し、焼損することがないように電力に余裕をもって設計されている。さらに、設計値異常の電流が流れた場合(以下、過電流という)に負荷および給電経路が焼損するのを防ぐために、電源内部もしくは給電経路上に過電流検出遮断回路を備えている。過電流検出遮断回路は通常、溶解型ヒューズ、ブレーカー、電子回路で構成されている。そのうち電子回路で構成されている過電流検出遮断回路は、給電系路上の負荷への電流量を監視し、電流量が過電流に達したときに電源供給を遮断することで負荷および給電経路の焼損を防いでいる。
【0003】
しかし、過電流検出遮断回路が故障していた場合、過電流が流れても給電経路を遮断することができず、過電流が流れ続けることにより負荷および給電経路の焼損が発生して重大事故に至るおそれがある。そこで、過電流検出遮断回路が過電流を検出し給電を遮断できることを確認する必要がある。
【0004】
過電流検出遮断回路を検査する方法として、実際のLSIやメモリなどの負荷を使用した通常の動作では、過電流検出遮断回路の検査に必要な過電流を引き起こすことは困難なため、実際の負荷の代わりとして抵抗や電子負荷装置を接続して検査に必要な電流を流し込む方法がある。
【0005】
抵抗を使用する方法では比較的簡単な回路構成で電流を流し込むことが可能であるが、検査対象の電源の出力電圧が低い場合や流し込む電流が大きい場合には、電流の制御が困難になる。一方、電子負荷を使用する方法では、一定の範囲で電圧と電流が使用でき、流し込む電流値も容易に制御することが可能である。
【0006】
例えば、特許文献1には、交流電源や負荷などはリレーを介することなく被検査用電源に加えることができるようにして、従来のような高圧・大電流のリレーや信号変換ボックスも不要とした、被検査用電源の機種ごとに設けられた複数のコネクタに、1個の交流電源を共通に直接接続すると共に複数の負荷を選択的に直接接続してなる電源検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−20413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
過電流検出遮断回路の検査を行う場合には、検査を実施する給電経路に実際の負荷の代わりとして電子負荷装置を接続し、過電流検出遮断回路が過電流を検出するより大きい電流を電子負荷装置が引き込んだときに給電経路が遮断したことを確認することによって過電流検出遮断回路が正しく動作していることを確認する。
【0009】
特許文献1に記載の単一出力電源用の電源検査装置では、被検査電源から検査装置へ電流を流し込むために電子負荷装置を使用している。しかし、従来の装置では1つの給電経路の過電流検出遮断回路を検査に対して1台の電子負荷装置が必要となる。
そのため、電源種が複数存在する計算機に対して、各過電流検出遮断回路の動作確認を行うことを想定した場合、給電経路の数だけ電子負荷装置が必要になるために検査装置の規模が大きくなりコストが上昇するという課題がある。
【0010】
本発明は、複数の電源を有する計算機において、検査対象の計算機を損傷することなく、各電源の給電経路上に設置されている電流検出遮断回路の動作確認を行うことができる、過電流検出遮断回路の検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、好ましくは、出力電圧が異なる複数の電源と、各電源に対応する給電経路を流れる電流量を監視して、該給電経路の電流を遮断する過電流検出遮断回路を有する計算機の過電流検出遮断回路の検査装置であって、
該過電流検出遮断回路の動作試験に際して、該電源の負荷に代わって電流を供給する電子負荷装置と、該電源に対応する各給電経路と該電子負荷装置との間に介在するリレー回路と、試験対象の該過電流検出遮断回路のある給電経路と該電子負荷装置を、排他的に該リレー回路を切り替えて接続するリレー制御回路とを有することを特徴とする過電流検出遮断回路の検査装置として構成される。
【0012】
好ましい例において、前記リレー制御回路は、排他回路と、該リレー回路の間にリセット機能を持ったタイミング遅延回路を接続することにより、選択されたリレー回路が動作する時間のみが遅延するように制御して、リレー接続切り替え時に複数の給電経路が同時に選択されることを防止する。
また、好ましい例では、1台の前記電子負荷装置により出力電圧の異なる各給電経路の各過電流検出遮断回路の動作試験を行う。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の電源を有する計算機において、電子負荷装置の台数を減らせるため検査装置を小規模に抑え、かつ計算機を損傷することなく、過電流検出遮断回路の動作試験を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態による計算機の過電流検出遮断回路の検査装置の構成を示す図。
【図2】一実施形態における過電流検出遮断回路の検査装置内のリレー制御回路の構成を示す図(実施例1)。
【図3】一実施形態における過電流検出遮断回路の検査装置内のリレー制御回路の構成を示す図(実施例2)。
【図4】一実施形態におけるリセットICの動作を示すタイミングチャート(実施例2)。
【図5】一実施形態におけるリレー制御回路内の制御線の振る舞いを示すタイミングチャート(実施例2)。
【図6】一実施形態におけるリレー回路切り替え時のリレー制御回路内の制御線及びリレー回路の振る舞いを示すタイミングチャート(実施例1)。
【図7】一実施形態におけるリレー回路切り替え時のリレー制御回路内の制御線及びリレー回路の振る舞いを示すタイミングチャート(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、過電流検出遮断回路の検査装置の構成を示す。
本発明に特徴的な検査装置2を用いて、被検査装置である計算機1が有する複数の過電流検出遮断回路が検査される。
計算機1は、複数の電源101〜105及び過電流検出遮断回路111〜115、給電経路121〜126、及び端子131〜136を有する。各電源101〜105はそれぞれ異なった電圧を出力する。端子131〜136には、計算機を作動させるためのLSIやメモリなどの負荷が実際には接続されている。
【0017】
電源101〜105と端子131〜135を結ぶ給電経路121〜126上に設置された、複数の過電流検出遮断回路111〜115は、それぞれの給電経路を流れる電流量を監視し、その電流量が使用し得る最大の電流量に達した場合に給電経路121〜126の電流を遮断することで、被検査装置である計算機の焼損を防止する機能を有する。
過電流検出遮断回路の動作試験の際には、LSIやメモリなどが接続している端子131〜136に検査装置2を接続して動作試験が行われる。
【0018】
検査装置2は、リレー回路151〜155、リレー制御回路5、電子負荷装置4、電圧監視回路6及び端子181〜186を備えて構成される。
電子負荷装置4は、過電流検出遮断回路の動作試験において電源の負荷の代わりとなって電流を供給するために使用される。電子負荷装置は広い範囲の電圧、電流に対応しており、流し込む電流値も容易に制御することができる。そのため、1台の電子負荷装置で出力電圧の異なる複数の給電経路の過電流検出遮断回路の動作試験に対応することができる。
リレー回路5は、パソコン3からの制御信号によって、試験対象の給電経路と電子負荷装置4を接続する。
【0019】
端子181〜186とリレー回路151〜155はケーブル191〜196よって接続され、同様にリレー回路151〜156から電子負荷装置4もケーブル147で接続されている。電圧監視回路6は、端子181〜186とケーブル161〜162を介して接続している。電子負荷装置4、リレー制御回路5及び電圧監視回路6は外部のパソコン3から制御できるようにそれぞれ制御線171〜173で接続されている。
計算機1上にある端子131〜136と検査装置2上にある端子181〜186をケーブル191〜196によって接続することで、計算機1と検査装置2は接続している。
【0020】
検査装置2が計算機1上の過電流検出遮断回路111〜115の動作試験を実施する場合、まず、パソコン3より制御線172を介してリレー制御回路5を操作し、試験対象の給電経路と電子負荷装置4が接続するようにリレー回路151〜155を制御した後に試験対象の電源を作動させ、電子負荷装置4を操作し電流を流し込む。
【0021】
例えば、リレー回路151を選択した場合、電流は電源101から過電流検出遮断回路111と給電経路121を流れる。ケーブル191を介して検査装置2に入った電流は、ケーブル141を通過してリレー回路151に流れ、リレー回路151とケーブル147を通過して電子負荷装置4に流れる。戻りの電流は、電子負荷装置4からケーブル146及びケーブル196を通過して計算機1に戻る。そして、計算機1上の給電経路126とグランド7を通過して電源101へ流れる。
【0022】
過電流検出遮断回路が過電流を検出する電流値より小さい電流を電子負荷装置4が流し込む。その際に過電流検出遮断回路が給電経路を遮断しないことを電圧監視回路6の電圧値がある一定値以上になっていることで確認する。次に過電流検出遮断回路が過電流を検出する電流値よりも大きい電流を電子負荷装置が引き込む。その際に過電流検出遮断回路が給電経路を遮断することを電圧監視回路6の電圧値がある一定値以下になっていることで確認する。
【0023】
1つ目の過電流検出遮断回路(例えば111)の動作試験が終了したら、リレー回路5を切り替えて次の検査対象の過電流検出遮断回路(例えば112)と電子負荷装置4を接続する。これを繰り返すことにより、検査装置2は計算機1内の全ての過電流検出遮断回路111〜115の動作試験を実施することができる。
【0024】
次に、図2を参照して、実施例1におけるリレー制御回路5の構成について説明する。
リレー制御回路5は、I/Oレジスタ201が各リレー回路151〜155に制御線211〜215を介して接続して構成される。I/Oレジスタ201は外部のパソコン3から制御線172によって制御され、制御線211〜215をオンする。I/Oレジスタ201は同時に2つ以上のリレー回路をオンすることも可能である。
【0025】
リレー回路151〜155は機械式のリレーのため応答速度が遅く、オン/オフの切り替えに時間を要する。そのため、例えばリレー回路151がオンしている状態からリレー回路152がオンするよう切り替えた際にリレー回路151をオンからオフにする操作とリレー回路152をオフからオンにする操作を同時に実行しまうと、2つのリレー回路151,152が同時にオンしてしまう可能性がある。
【0026】
例えば、図6に示す、リレー回路153からリレー回路154へ選択を切り替えた際の制御線とリレー回路の振る舞いを示したタイミングチャートを参照するに、SEL3(213)のオンからオフへの切り替えとSEL4(214)のオフからオンからオフへの切り替えが同時に行われている。リレー回路5は応答速度が遅く、応答時間も各リレー回路によってばらつきがあるため、リレー回路153と154が同時にオンされている時間601が存在する。
【0027】
リレー回路が同時にオンになると2つの給電経路がリレー回路を介して接続されることになる。各電源は出力電圧が異なっているため、2つの給電経路が接続することによる他電源からの電流の流れ込みによって、給電経路に想定外の電圧が印加されることや電流の逆流が起こってしまい、計算機1を損傷する恐れがある。そのためリレー回路5は、パソコン3に備えられるソフトウェアによって、リレー回路が排他的且つリレー回路の応答速度を考慮した制御を行い、リレー回路が同時に2つ以上オンしないように制御される。
【実施例2】
【0028】
図3は、実施例2によるリレー制御回路5の構成を示す。
図3において、図2と同様なものには同一の符号を付してある。リレー制御回路5はI/Oレジスタ201、排他選択回路301及びリセットIC311〜315により構成される。外部のパソコン3に接続される制御線172はI/Oレジスタ201に接続している。I/Oレジスタから出ている制御線SEL1〜SEL5(211〜215)及びENABLE(341)は排他選択回路301に接続している。排他選択回路301とリセットIC311〜315は制御線MR_N1〜MR_N5(321〜325)で接続され、リレー回路151〜155とリセットIC311〜315は制御線ON1〜ON5(331〜335)で接続されている。
【0029】
図5は、制御線SEL1〜SEL5(211〜215)及びENABLE(341)を操作したときの制御線MR_N1〜MR_N5(321〜325)及びON1〜ON5(331〜335)の振る舞いを示すタイミングチャートである。
排他選択回路301の制御は、まず制御線172によってI/Oレジスタ201を操作し、制御線SEL1〜SEL5の中から1つをオンする。次に制御線ENABLE341をオンすることによって選択した制御線SEL1〜SEL5に対応する制御線MR_N1〜MR_N5が選択されるようになっている。排他選択回路301は、制御線SEL1〜SEL5が誤って複数同時にオンされている状態で制御線ENABLEをオンするような制御を行った場合でも制御線MR_N1〜MR_N5は同時に複数オンすることはない。
例えば、図5に示す、SEL2とSEL5が同時にオンした場合の制御線の振る舞いを参照するに、SEL2とSEL5を同時にオンしている間(502)は、それに対応するMR_N1とMR_N2はどちらもオンされていない(504)。
【0030】
次にリセットICついて説明する。図4はMR_NピンとRESET_Nピンの信号の振る舞い示すタイミングチャートである。リセットIC311〜315には、入出力ピンとしてMR_NピンとRESET_Nピンが備わっている。リセットICは、MR_Nピンの電圧がある閾値以下になったときには瞬時にRESET_Nピンの電圧を下げるが、反対にMR_Nピンの電圧がある閾値以上になったときには一定時間遅らせてRESET_Nピンの電圧を上げるように動作する。
【0031】
例えば、図5に示す、リレー回路153が選択されている状態からリレー回路154を選択する操作が行われたときの制御線の振る舞いを参照するに、SEL3のオンからオフへの切り替えとSEL4のオフからオンからオフへの切り替えが同時に行われている(501)ため、MR_N3とMR_N4の操作も同時に行われている(503)。しかし、リセットICを通過することによってON4の立ち上がりの時間だけが一定時間遅れている(505)。
【0032】
図7は、リレー回路153からリレー回路154へ選択を切り替えたときの制御線とスリレー回路の振る舞いをより詳しく示すタイミングチャートである。SEL3のオンからオフへの切り替えとSEL4のオフからオンからオフへの切り替えが同時に行われてもON4の立ち上がり時間が遅れているため、リレー回路(153と154)の応答時間がばらついてもリレー回路(153と154)が同時にオンすることはない。
【0033】
上記した実施例2のリレー制御回路5によれば、実施例1のようなリレー回路が同時にオンするのを防止するためのソフトウェアによる制御を行わなくても、リレー回路が同時にオンすることを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0034】
1:計算機 2:検査装置 3:パソコン 4:電子負荷装置 5:リレー制御回路
6:電圧監視回路 7:グランド 101〜105:電源 111〜115:電流検出遮断回路
121〜126:供給経路 131〜136:端子 141〜147:ケーブル 151〜155:リレー回路
161〜162:ケーブル 171〜174:制御線 181〜186: 端子 191〜196: ケーブル
201:I/Oレジスタ 211〜215:制御線 301:排他選択回路 311〜315:リセットIC
321〜325,331〜335,341:制御線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力電圧が異なる複数の電源と、各電源に対応する給電経路を流れる電流量を監視して、該給電経路の電流を遮断する過電流検出遮断回路を有する計算機の過電流検出遮断回路の検査装置であって、
該過電流検出遮断回路の動作試験に際して、該電源の負荷に代わって電流を供給する電子負荷装置と、
該電源に対応する各給電経路と該電子負荷装置との間に介在するリレー回路と、
試験対象の該過電流検出遮断回路のある給電経路と該電子負荷装置を、排他的に該リレー回路を切り替えて接続するリレー制御回路と
を有することを特徴とする過電流検出遮断回路の検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の過電流検出遮断回路の検査装置において、
前記リレー制御回路は、排他回路と、該リレー回路の間にリセット機能を持ったタイミング遅延回路を接続することにより、選択されたリレー回路が動作する時間のみが遅延するように制御して、リレー接続切り替え時に複数の給電経路が同時に選択されることを防止することを特徴とする請求項1の過電流検出遮断回路の検査装置。
【請求項3】
1台の前記電子負荷装置により出力電圧の異なる各給電経路の各過電流検出遮断回路の動作試験を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の過電流検出遮断回路の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−88181(P2012−88181A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235201(P2010−235201)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】