説明

遠心分離容器

【課題】簡易な構成で分離された細胞層に塵埃等の異物を混入させることなく無菌的に外部に取り出すことを可能とする。
【解決手段】細胞懸濁液を貯留し、遠心力を作用させることで該細胞懸濁液を細胞層と上清とに分離する遠心分離容器1であって、軸方向の一端が閉塞され他端に開口2aを有する筒状の容器本体2と、該容器本体2の開口2aを閉塞する蓋体3と、該蓋体3から容器本体2の閉塞端2eに向けて延び、閉塞端2e近傍に吸引口4aを配置する吸引管4bとを備え、該吸引管4bの先端に、閉塞端2eの内面に密着させられる弾性材料からなる接触部7が設けられている遠心分離容器1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞懸濁液に含まれる細胞を洗浄するための容器として、略円筒形状の側壁と、円錐形状の底壁とを有し、その円錐形底壁の頂角が50°〜90°の細長遠心管が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この細長遠心管によれば、細胞懸濁液を貯留して遠心させることにより、遠心力の作用によって比重の大きな細胞が底壁に向かって移動し、円錐形状の底壁に沿ってその中央近傍に集められる。これにより、細胞懸濁液を円錐形状の底壁中央に溜まる細胞層とその上方の上清とに分離することができる。
【0003】
【特許文献1】特許第3615226号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されるような従来の遠心分離容器では、遠心分離により分離された細胞層は、細長遠心管の蓋を開放してシリンジや匙を差し込むことにより細長遠心管の外部に取り出す必要があり、塵埃等の異物の混入が懸念される。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、簡易な構成で分離された細胞層に塵埃等の異物を混入させることなく無菌的に外部に取り出すことができる遠心分離容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、細胞懸濁液を貯留し、遠心力を作用させることで該細胞懸濁液を細胞層と上清とに分離する遠心分離容器であって、軸方向の一端が閉塞され他端に開口を有する筒状の容器本体と、該容器本体の開口を閉塞する蓋体と、該蓋体から前記容器本体の閉塞端に向けて延び、閉塞端近傍に吸引口を配置する吸引管とを備え、該吸引管の先端に、前記閉塞端の内面に密着させられる弾性材料からなる接触部が設けられている遠心分離容器を提供する。
【0007】
本発明によれば、開口を閉塞されることにより密封された容器本体内に細胞懸濁液を貯留した状態で、遠心力を作用させることにより、細胞懸濁液が細胞層と上清とに分離される。この状態で、蓋体から閉塞端に向けて延びる吸引管の先端の吸引口から、閉塞端に残った細胞層を吸引することにより、外部から容器本体内にシリンジや匙等の部材を挿入することなく、細胞層を残さず外部に取り出すことができる。すなわち、細胞層に塵埃等の異物を混入させることなく無菌的に外部に取り出すことができる。
【0008】
この場合において、吸引管の先端に設けられた弾性材料からなる接触部を閉塞端の内面に密着させることにより、蓋体から延びる吸引管を閉塞端に支持させることができる。すなわち、吸引管の両端が支持された状態となるので、輸送時や遠心分離作業時の吸引管の振動が防止され、容器本体内面や吸引管自体の損傷を防止することができる。
【0009】
また、接触部が弾性材料により構成されることで、容器本体に蓋体を取り付ける際に、接触部を弾性変形させて閉塞端の内面に密着させることができる。したがって、容器本体や吸引管の寸法の個体差を吸収して、吸引管を確実に支持することができる。
【0010】
上記発明においては、前記接触部が吸引管に連通する管状に形成され、前記接触部の前記閉塞端の内面に密着する接触面に1以上の切欠が形成され、該切欠により前記吸引口が構成されていてもよい。
このようにすることで、簡易な構成により吸引管を確実に支持させるとともに、吸引口を閉塞端の内面に接して配置することができ、細胞層を残さず吸引することが可能となる。
【0011】
また、上記発明においては、前記吸引管の半径方向外方に、前記細胞層と前記上清との境界面の上方に配置されたその先端開口から洗浄液を容器本体内に供給する一方、前記先端開口から上清を吸引する給排管を備えていてもよい。
【0012】
このようにすることで、遠心力を作用させることにより、細胞懸濁液が細胞層と上清とに分離された状態で、蓋体から閉塞端に向けて延びる給排管の先端開口から上清を吸引し、閉塞端に残った細胞層に対して洗浄液を供給して攪拌し、遠心分離を行う作業を繰り返すことで、細胞を洗浄することができる。そして、洗浄後に、所定量の生理食塩水等を給排管から供給して細胞層を攪拌し、細胞懸濁液の状態で吸引管の吸引口から外部に取り出すことができる。これにより、例えば消化酵素等を洗い流して細胞の健全性を維持し、細胞懸濁液の状態として容器本体内から残らず取り出すことができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記吸引管と前記給排管とが同心の2重管状に形成されていてもよい。
また、上記発明においては、前記接触部が、前記吸引管と前記給排管との間の管状の空間の先端部を閉塞する筒状部材からなり、前記給排管の前記先端開口が、前記給排管の管壁を半径方向に貫通して形成されていてもよい。
このようにすることで、吸引管と給排管とを環状部材からなる接触部によって一体的な2重管構造に構成することができ、剛性を向上してさらに振動し難くすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡易な構成で分離された細胞層に塵埃等の異物を混入させることなく無菌的に外部に取り出すことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る遠心分離容器1について、図1〜図9を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1は、図1に示されるように、容器本体2と、該容器本体2の上部開口2aを閉塞する蓋体3と、該蓋体3に設けられた給排手段4と、前記蓋体3に設けられたフィルタ5とを備えている。
【0016】
容器本体2は、図2に示されるように、上部開口2aから延びる略円筒形状の円筒内面2bと、該円筒内面2bに滑らかに接続し、先端に向かって所定のテーパ角度で漸次先細になり先端が閉塞されたテーパ内面2cとを備えている。円筒内面2bは、先端に向かって若干先細に形成されている。上部開口2aの半径方向外側には鍔部2dが設けられている。
【0017】
蓋体3は、容器本体2の上部開口2aに嵌合し、Oリング6によって上部開口2aを密閉するようになっている。また、蓋体3には、容器本体2の鍔部2dに係合して、蓋体3を容器本体2の上部開口2aに嵌合状態に維持するための係合突起3aが周方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0018】
給排手段4は、蓋体3の中央を厚さ方向に貫通する2重管状に形成され、蓋体3が容器本体2の上部開口2aを閉塞する位置に嵌合された状態で、その先端の開口部(細胞吸引口)4aがテーパ内面2c先端の閉塞端2e近傍に配置される第1の管路(吸引管)4bと、その半径方向外方に同心に配置される第2の管路(給排管)4cとを備えている。
【0019】
第1の管路4bには、蓋体3の外側に配置される端部に、例えば、シリンジのような吸引手段を接続可能なポート4dが設けられている。図中、ポート4dはキャップ4eによって閉塞されている。このポート4dにシリンジを接続して吸引することにより、容器本体2の閉塞端2e近傍から内容物全てを吸引することができるようになっている。
【0020】
第1の管路4bの先端には、ゴムあるいは樹脂等の弾性材料からなる円筒状の接触部材(接触部、筒状部材)7が取り付けられている。接触部材7は、容器本体2の閉塞端2eの内面に密着させられて、第1の管路4bが容器本体2に対して相対的に移動しないように固定している。
【0021】
また、接触部材7には、図3に示されるように、閉塞端2eの内面と密着する面に切欠7aが設けられている。この切欠7aは、接触部材7が閉塞端2eの内面と密着させられた状態で、接触部材7の内外を半径方向に連絡し、容器本体2の内部の空間と第1の管路4b内とを連通させるようになっている。
【0022】
第2の管路4cは、その先端において、第1の管路4bとの隙間が閉塞部材4gによって閉塞されているとともに、半径方向に貫通する貫通穴4fを備えている。第2の管路4cと第1の管路4bとの間の円筒状の隙間には、蓋体3の外部において外部配管(図示略)が接続されるようになっている。
また、貫通穴4fは、図4に示されるように、周方向に間隔をあけて複数箇所、例えば、4箇所、放射状に設けられている。
【0023】
これにより、第1の配管4bと第2の配管4cとの間の円筒状の空間を介して、細胞懸濁液Aが容器本体2内に貫通穴4fから導入され、または、容器本体2の上清Cが貫通穴4fから吸引され、または、生理食塩水のような洗浄液が貫通穴4fから供給、排出されるようになっている。2重管状に形成された給排手段4は、蓋体3から軸方向に延びる筒状部3bによって支持されている。これにより、遠心分離容器1に遠心力が作用しても、給排手段4の位置が変動しないように保持され、第1の配管4bおよび第2の配管4cの先端の開口部4aおよび貫通穴4fが位置決め状態に維持されるようになっている。
【0024】
フィルタ5は、外部からの外気Gを容器本体2に導入する際に、外気Gに含まれている塵埃や細菌等が容器本体2内に入らないように遮断する役割を有している。フィルタ5を介して外気Gを導入することにより、上清Cや細胞等の吸引時に容器本体2内部の空間が負圧になることを防止し、吸引動作をスムーズに行うことができるようになっている。
【0025】
このように構成された本実施形態に係る遠心分離容器1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1を用いて細胞懸濁液Aから細胞を分離回収するには、容器本体2の上部開口2aを蓋体3によって密封した状態で、外部配管を介して第1の配管4bと第2の配管4cとの間の円筒状の空間から容器本体2内に細胞懸濁液Aを導入する。
【0026】
細胞懸濁液Aは、例えば、脂肪組織等の生体組織を消化液によって分解し、単離された細胞を消化液中に浮遊させたものである。
このようにして、図5に示されるように、容器本体2内に所定量の細胞懸濁液Aが貯留された状態で、図示しない遠心分離機により容器本体2の閉塞端2eが半径方向外側に配されるように回転させることにより、容器本体2内の細胞懸濁液Aに遠心力が作用し、比重の大きな細胞が閉塞端2eに向かって移動する。
【0027】
この場合において、本実施形態においては、第1の管路4bがその先端に設けられた接触部材7によって容器本体2の閉塞端2eの内面に密着しているので、遠心分離機によって回転させられても第1の管路4bが容器本体2に対して相対的に移動しない。したがって、遠心分離動作によって第1の管路4bの先端が容器本体2の内面に接触していずれかが破損するような不都合の発生を未然に防止することができる。
また、第1の管路4bを容器本体2に対して固定することにより、第1の管路4bに固定されている第2の管路4cも容器本体2に対して振動しないように固定される。
【0028】
細胞は、移動の途中においては、テーパ内面2cを転がることにより集められ、閉塞端2eに堆積していく。そして、十分に遠心分離が進行すると、図6に示されるように、細胞層Bと上清Cとが明確に分離して、両者の間に境界面Dが形成される。
本実施形態においては、細胞層Bと上清Cとの境界面Dの上方の上清C内に、第2の配管4cに設けた貫通穴4fが開口するようになる。
【0029】
この状態で、第1の配管4bと第2の配管4cとの間の円筒状の空間を負圧に吸引すると、図7に示されるように貫通穴4fを介して容器本体2内の上清Cが吸引され、図8に示されるように、細胞層Bの上方に若干の上清Cが残るまで吸引される。
【0030】
次いで、第1の配管4bと第2の配管4cとの間の円筒状の空間に洗浄液を供給し、容器本体2内に残った細胞層Bおよび若干の上清Cに混合することにより再懸濁する。
遠心分離、上清Cの吸引、洗浄液の供給・再懸濁を1回以上繰り返すことにより、細胞に付着している消化液が洗浄され、細胞懸濁液A内の消化酵素の濃度を低減することができる。
【0031】
そして、十分に消化酵素の濃度が低減された状態で、図9に示されるように、分離された細胞層Bと若干の上清Cに対して少量の生理食塩水を供給して再懸濁することにより再懸濁液A′を調製する。
この状態で、第1の配管4bの容器本体2外の端部に取り付けたシリンジ(図示略)によって吸引する。これにより、第1の配管4bを介して、得られた再懸濁液A′を容器本体2内に残すことなくシリンジ内に吸引することができる。
【0032】
このように、本実施形態に係る遠心分離容器1によれば、遠心分離により分離された細胞層Bは、第1の配管4bを介して外部に取り出すことができる。したがって、蓋体3を開放してシリンジや匙を差し込むことにより外部に取り出す従来の遠心分離容器の場合のような塵埃等の異物の混入をより確実に防止することができる。
【0033】
また、第1の配管4bおよび第2の配管4cの遠心分離動作中の振動や、搬送中の振動を防止して、容器本体2や配管4b,4cの健全性を維持することができる。
また、第1の配管4bの先端に取り付けた接触部材7を弾性材料により構成しているので、容器本体2の寸法や第1の配管4bの長さ寸法に誤差があっても、接触部材7を弾性変形させて閉塞端2eの内面に確実に押し付けることができる。したがって、精密に製造する必要がなく、低コストで製造できるという利点もある。
【0034】
また、本実施形態に係る遠心分離容器1によれば、容器本体2の円筒内面2bが、先端に向かって若干先細となるような傾斜を有しているので、これを抜き勾配として使用し、樹脂射出成形のような方法によって、容易に製造することができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、第2の管路4cの先端に周方向に間隔をあけて4つの貫通穴4fを設けることとしたが、これに代えて、1つの貫通穴4fでもよいし、2以上の任意の数の貫通穴4fを設けることにしてもよい。
【0036】
また、本実施形態においては、第1の管路4bのみに接触部材7を固定することとしたが、これに代えて、図10に示されるように、第2の管路4cの先端を閉塞している閉塞部材と一体化させた接触部材7を採用してもよい。これにより、さらに部品点数を削減して、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心分離容器を示す縦断面図である。
【図2】図1の遠心分離容器の容器本体を示す縦断面図である。
【図3】図1の給排手段の先端部の構造を示す部分的な拡大縦断面図である。
【図4】図1の遠心分離容器の給排手段における貫通穴を示す横断面図である。
【図5】図1の遠心分離容器に細胞懸濁液を貯留した状態を示す縦断面図である。
【図6】図5の遠心分離容器に遠心力を作用させて細胞層と上清とに分離した状態を示す縦断面図である。
【図7】図6の遠心分離容器において、分離された上清を吸引・排出する工程を示す縦断面図である。
【図8】図7の遠心分離容器において、上清を吸引・排出した状態を示す縦断面図である。
【図9】図8の遠心分離容器において、再懸濁された細胞懸濁液を吸引回収する工程を示す縦断面図である。
【図10】図1の遠心分離容器の先端部の構造の変形例を示す部分的な拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0038】
A 細胞懸濁液
B 細胞層
C 上清
D 境界面
1 遠心分離容器
2 容器本体
2a 開口
2b 円筒内面
2c テーパ内面
2e 閉塞端
3 蓋体
4a 開口部(吸引口)
4b 第1の配管(吸引管)
4c 第2の配管(給排管)
4f 貫通穴(先端開口)
7 接触部材(接触部)
7a 切欠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液を貯留し、遠心力を作用させることで該細胞懸濁液を細胞層と上清とに分離する遠心分離容器であって、
軸方向の一端が閉塞され他端に開口を有する筒状の容器本体と、
該容器本体の開口を閉塞する蓋体と、
該蓋体から前記容器本体の閉塞端に向けて延び、閉塞端近傍に吸引口を配置する吸引管とを備え、
該吸引管の先端に、前記閉塞端の内面に密着させられる弾性材料からなる接触部が設けられている遠心分離容器。
【請求項2】
前記接触部が吸引管に連通する管状に形成され、
前記接触部の前記閉塞端の内面に密着する接触面に1以上の切欠が形成され、
該切欠により前記吸引口が構成されている請求項1に記載の遠心分離容器。
【請求項3】
前記吸引管の半径方向外方に、前記細胞層と前記上清との境界面の上方に配置されたその先端開口から洗浄液を容器本体内に供給する一方、前記先端開口から上清を吸引する給排管を備える請求項1または請求項2に記載の遠心分離容器。
【請求項4】
前記吸引管と前記給排管とが同心の2重管状に形成されている請求項3に記載の遠心分離容器。
【請求項5】
前記接触部が、前記吸引管と前記給排管との間の管状の空間の先端部を閉塞する筒状部材からなり、
前記給排管の前記先端開口が、前記給排管の管壁を半径方向に貫通して形成されている請求項4に記載の遠心分離容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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